5話 そうだ、花見に行こう
「早速だけど、東雲君?俺、実はオリンポスのメンバー、ゼウスの能力者ともう1人知ってる人がいるんだけど、教えてあげようか?」
ある日の昼休み、優先輩からそんなことを言われた。
「本当ですか!?教えて下さい!」
「いいよ。その代わり…」
突然、優先輩が女の姿になった。
「明日私とお花見、行ってくれたらね」
「は、はあ。別にいいですよ」
僕がそう返すと、優先輩は固まってしまった。
「あのー、優先輩?大丈夫ですか?」
「…いいの?」
「え?」
「四条さんがいるのに、いいのかって聞いてるのよ!」
「あ、ああ~、そうですね。どうしましょう?」
「もう…。いいわよ、一緒でも」
「本当ですか!?美愛も喜びますよ」
「ふぅ…、あなた達本当に付き合ってるの?」
「何ですか?今更…」
「いや、いいわ。何でもないの」
「そうですか。じゃあ明日」
「ええ、また明日ね」
よし、明日は優先輩と美愛と花見だ!
「…ということで明日花見行くことになったからよろしくな、美愛」
「うん!ボクも先輩と遊びたいと思ってたの!」
「そりゃ良かった。じゃあ明日な」
「うん!」
そして次の日…
「いやー、結構咲いてますねー。人もいっぱいいるし」
「しょうがないわよ。開花宣言が出た直後の土曜日だもの」
「それなのに、出店もいっぱい出てますしね」
「ねえねえシン?ボク、たこ焼き食べたいな?」
「東雲君?私も焼きそばをお願い」
2人共、僕に買いに行かせる気か。まあ、いいか…。
「了解。じゃあ買って来るから、場所取りお願いします」
「分かったわ。じゃあ、あの辺にいるから。行ってらっしゃい」
そう言われて僕は早速買い出しに出た。
「はあ…、去年はこんなに人多かったっけか?」
4月の下旬に入ってもまだ少し肌寒い日が続いているが、公園の中は人だらけで汗をかくほど暑かった。
「あー、疲れた。買うものも買えたし、さっさと戻るかな…」
そう言って僕は再び大勢の人でごった返す道を人に埋もれながら待っている2人のもとに戻った。
「はぁ、はぁ、はぁ…、疲れた…。はい、たこ焼きと焼きそば…」
「ありがとう。お疲れ様」
「あははっ、シンの髪の毛グシャグシャだー!」
美愛は僕の頭を笑っている。
「そういえば、東雲君は何を買ってきたの?」
「あー、お好み焼きですよ」
「私のもちょっとあげるから、少しくれない?」
「別にいいですけど」
「あ、優さんだけずる~い!ボクもボクも!」
「分かった、分かったから…」
「…あれ?慎兄、何やってるの?」
「ん?その声は…」
「あれ?佳奈ちゃん、何やってるの?」
「あ、美愛姉も!花見に来たんだよ。私、暇だから。…あれ?そこにいるのは…?」
「あ、ああ。紹介するよ。高等部の先輩の…」
その瞬間、僕の背後からすごい勢いで飛び出した人が1名…。
「佳奈ちゃ~ん!久しぶりね~!」
「うわっ、優さん!?何でここに…」
「何年ぶり?小学校以来だから7年ぶりくらいかしら?」
「いえいえ、優さんが中学生になってからもたまに会ってたでしょ…?」
「そういえばそうだったわね~」
何だこのテンション…?
「あ、あの…、佳奈と優先輩は知り合いなんですか?」
「ええ、佳奈ちゃんは私の小学校の後輩なの」
「優さん、今日は女モードなんだね」
「ええ、そうよ」
女モードの優先輩を知ってることから、相当親しい仲だと分かる。
「男モードの優さんは苦手だから良かったよ」
「そうだ、佳奈ちゃん?せっかくだし、私たちと一緒にお花見しない?」
「いいの!?じゃあ、そうする!」
「そういえば佳奈?知り合いってことは優先輩がオリンポスの能力者だってことも知ってるのか?」
「え?うん。もちろん、アテナのことも知ってるよ!」
「それならいいか。にしても、人増えてきてないか?」
「本当だね~。ボクたちが来たときよりも増えてる気がするね」
「こりゃ、さっさと帰らないと出られないかもしれないな…」
「じゃあ、急いで食べないといけないわね」
そう言って僕たち4人がそれぞれの食べ物を食べようとしたとき、女性の声が聞こえてきた。
「待ちなさい!わたくしのバッグを返しなさい!」
見ると、バッグを持って逃げるガラの悪い男とそれを追う、ウチの制服を着た金髪の少女が目に入った。
「ん?あの子って…」
「ん?知ってる人ですか、優先輩?」
「え、ええ、まあ…。それより早くひったくりの方を捕まえた方がいいんじゃない?」
「あ、そうですね」
「オラ、どけやぁ!」
僕はこちらに向かって突っ込んで来る男に手加減して能力を発動。
「…っ!」
軽い電気ショックを食らって男は気絶してしまった。
「…し、東雲君?何をしたの?」
「いや、電撃を弱めればスタンガンみたいにできるかと思って…」
「なるほどね…」
「美愛姉が警備員の人呼びに行ったから、私たちは帰ろっか…」
「あ、あの…」
「え?」
「ありがとうございました。バッグを取り返していただいて…」
「アリア、何やってるの?」
聞こえてきた声に驚いて横を見ると、いつの間にか男モードになった優先輩がいた。
「なっ、あなたは葦原優!?じ、じゃあ、あなたが東雲慎なの!?」
「あ、はい。東雲慎は僕ですけど…」
「な、なんてこと…!て、敵に助けてもらうなんて…」
「あー、東雲君、花見の約束守ってくれたから紹介するよ」
「…?」
「こちら、俺と同じ学年のアリア=ヴィーナスさん。オリンポスの…《アフロディーテ》の能力者だよ」
「えぇ!?この人がオリンポス!?」
「ええ、まあね。全く、桜を見に来たらひったくりに遭って、さらに敵であるあなた達と会うなんて、とんだ休日だったわ…」
「こっちをそんなに睨まないでよ。俺は悪くないだろ?」
「あなた達が今日、わたくしと同じ日に花見に来るのが悪いのよ」
「ひどい言い分だなぁ」
「…アリア先輩と優先輩は仲がいいんですね」
僕はアリアさんのことを敵だとは素直に思えなかった。
「誰がこんなやつと!?」
「ひどいなぁ。俺は結構仲良いつもりだったのに…」
「ふん!わたくしはもう帰りますわ。疲れましたし」
「じゃあね、アリア。また学校で」
「わたくしはあなたの顔も見たくありませんけど」
そう言い残してアリア先輩は人ごみの中に消えていった。またひったくりに遭わなければいいけど…。
「さてと、私たちも帰りましょ?」
「女モードになるの早いですね」
「今日は私の日だもの」
「ははっ。じゃあ帰りましょうか?」
今日はいろいろなことがあったな…。佳奈と優先輩が知り合いだったことも、敵の能力者であるひったくり被害者に会ったり…。今日は疲れたしさっさと寝よう。明日はどんな1日になるのやら。最近のパターンを考えるとまたろくでもないことが起きそうだ…。
続く