2話 非日常という日常
あの告白のあと、僕と美愛は疲れていたのでとりあえず帰ることにした。
「ねぇ~、シン~?」
「何?」
「ふふっ、呼んでみただけ♪」
「…考え事してるんだから、そういうのはやめていただきたい」
「えぇ~?恋人だよ?カップルだよ?付き合ってるんだよボクたち!これぐらいやらないと!というかテンプレだよ!?」
「さっきまで殺し合ってた相手とよくそんな事しようと思うな」
興奮気味な美愛に僕は冷静なツッコミを入れる。
「そりゃあ、そうなんだけど…さ、何というか…、良いんだよ。シンだから!」
「そりゃどーも」
そう返すと美愛は機嫌が良さそうにえへへ…、と笑う。
「とか油断させておいて、手をつないだときに能力発動で殺される!…とかいうのは無しだからな?」
俺がそう言ってからかうと今度は顔をプクーッと膨らませた。
「もう!どれだけ信用無いのさ、ボクは!」
「悪い悪い…。あとで好きなものおごってやるから怒るなよ」
「ホント!?じゃあ、ハンバーグとカレーライスとチャーハンとそれからそれから…」
「た、ただし、僕の財布とも相談しながらな!」
どれだけ食べるつもりだよ、コイツは。
「分かってる、分かってる。心配しなくても大丈夫だって!」
その後、美愛は有言実行する訳もなく、僕の所持金が6円になるまで食べ続けた。そしてその帰り道、僕達は今後のことについて話し合った。補足しておくけど、今後のことってのは能力のことについてだからそこのところ勘違いしないように!
「美愛は僕以外の他の能力者を知ってる?」
「知らないよ。ボクがシンが能力者だって知ったのも、教えてもらっただけだし」
「教えてもらった?誰に?」
「知らないよ。メールが送られてきたんだけど、相手の名前がどうみても本名じゃないし、ほら」
そう言って美愛は僕に送られてきたというメールを見せた。
「『Z』?確かにこれは本名じゃないし、第一、名前かこれ?」
「ボクもよくわからないんだよね~」
「ま、いいか。時間も遅いし、そろそろ帰ろう」
「うん、そうだね」
僕は帰宅したあとも他の能力について考えていた。
「やっぱり神話かな~」
僕のイザナギも美愛のイザナミも日本神話の神々だ。
「楓はタロットもあるとか言ってたな。じゃあ、《星》とか《戦車》とかもあるのかな」
ジョ○ョかよ!?と心の中でツッコミを入れた。
「強いのは、やっぱ神の名前がついた能力だよな…。ゼウスとかシヴァとかアマテラスとか」
今日は疲れたし、もう寝た方が良さそうだ。
「結局まとまらなかったな…。ふぁ~あ、寝るか…」
そこで僕はスマホにメールが届いていることに気づいた。だが、疲れていた僕はそのまま寝てしまった。
次の朝目を覚ますと、いい匂いが僕の鼻孔をくすぐった。
「ん?何の匂いだ?台所の方かな?」
気になって台所を覗くと、そこには女の子が鼻歌まじりに料理をしていた。
「えーと、どちら様?」
「ん?あっ、起きたんだ!慎兄、おはよう!」
「ん、おはよう。…じゃなくて!君は誰なんだ!?」
「えっ、私のこと覚えてないの!?そうかぁ、前に会ったの小1のときだもんね~。7年も経てば忘れるよね~」
少し悲しげな顔をしたと思うと、今後は笑顔で僕の方に向き直った。
「じゃあ、自己紹介するね?私は東雲佳奈!慎兄のいとこにあたるのかな?」
「えっ!?君があの佳奈なのか?」
「えへへ、驚いた?可愛くなったかな?」
「なったなった。ものすごく可愛い」
「ありがとー!そうだ慎兄、朝ご飯作ったからどうぞ!」
「おう、サンキュー。いただきます!」
僕は早速佳奈の作った卵焼きを食べて見た。
「うまい」
「ホント!?」
「ああ、超うまい。お世辞抜きで」
「良かった~!上手にできたか心配だったんだよね~!はい、お味噌汁」
「ん、サンキュー。お、味噌汁もうまい」
「そうそう、慎兄!」
「何だ?」
「美愛姉とはどこまでいったの?」
「ゲホッ、ゲホッ…」
「だ、大丈夫!?」
「あ、ああ、大丈夫。突然何てこと聞くんだよ?」
そういえば佳奈も美愛とは面識あったっけな。
「え~、気になるよ~」
「あー、遅刻するからそろそろ行くぞ?」
「待って、私も行く!」
食器類の片付けを終えると僕と佳奈は家を出た。
「佳奈はどこの学校に行くんだ?」
「春夏秋冬学園の中等部だよ」
「じゃあ、同じか。僕は高等部だけど」
歩いていくと、美愛と合流する。
「おはよう、シン!あれ?そこにいるのは誰?」
「おはよう美愛。ほら、再自己紹介しとけよ。分からないだろ?」
「あ、そうだね!東雲佳奈です!久しぶり、美愛姉!」
「えっ、佳奈ちゃん!?全然分かんなかったよ!可愛くなったね!」
「ありがとうございます!あ、今日から中等部に入るのでよろしくお願いします、先輩!」
「うん、よろしくね!」
「そうそう、2人に大事な話があったんだった!」
そう言うと、佳奈は急に真面目な顔になってこう言った。
「慎兄も美愛姉も、能力者になったのは最近でしょ?だから能力者としては私が先輩だからね!」
「「……は?」」
コイツ何て言った?能力者としては先輩…?
「佳奈、お前もしかして能力者なのか?」
「そーだよー」
「軽いな、お前!」
「だって、私の《天照大神》は強いもんねー」
「アマテラスって、日本神話の最高神かよ!僕と美愛よりも上かよ!」
「まあねー。ちなみに能力の内容は、小さい太陽を作ったり、相手の能力を見たりできるんだよー」
「太陽を作るとか桁違いじゃないか!あと、相手の能力が分かるのってチートじゃん!」
「それはそうと、私ね、慎兄と美愛姉に手伝ってほしいの」
「何を?」
「今、能力者の中でも危険視されている、『オリンポス12柱』の鎮圧」
「オリンポス?ってことはギリシャ神話の神々ってことか?ゼウスとか」
「そうそう。アイツら放っておくと戦争起こしかねないから」
「で?そのメンバーはわかってるのか?」
「1人も!」
「おい」
「しょうがないじゃん!噂になるものの、名前とか能力の詳細はなぜか謎なんだよねー」
「だから能力者の多い春夏秋冬に入ったのか。アマテラスの能力があれば相手の能力も分かるし」
「そういうこと!じゃあ遅刻しちゃうからもう行くね!また放課後~!」
「ねぇ、シン。どうするの?」
「やることがないし、手伝ってやろうと思ってる。戦争になるのも嫌だしな」
「そだね。ボクも手伝うよ」
「じゃあ、そういうことで。さあ、学校行こうか!」
「うん!」
ここから、僕らの本当の戦いが始まる。そう思うと、僕は胸の高鳴りを押さえることができなかった。
続く