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MOTIF  作者: 崇宮ナツメ
第1章
20/20

18話 終章

 僕達は雷道達との戦いを終え、普通の学校生活に戻っていた。

「ねぇ~、シン?授業終わったし、どっか行こ?」

「ん?いいけど…。なんで?」

「え……。シン、本気で言ってるの?もしそうだったら一度死んでもらわないと…」

 そう言って僕に近づいてくる美愛。

「ちょ、ちょっと美愛さん!?その言葉、あなたが言うと洒落にならないんですが!?」

 僕ら能力者(モチーフホルダー)と呼ばれる者はそれぞれ特別な能力、モチーフを持っている。美愛のそれは《伊邪那美(イザナミ)》。他者の命を触れるだけで奪ったり、蘇生したりすることができる。

「大丈夫だよ?殺したらすぐに蘇生してあげるから」

 笑顔でそういう美愛だが、目が明らかに笑っていない。…正直怖いのでやめてほしいのだが。

「すいません!すいません!何か分からないけどすいません!」

「ん~?分からない?じゃあやっぱりこr…」

「冗談!冗談だって!デート!…だろ?」

 必死にそう言うと、はあ…、とため息をついて美愛は微笑む。

「もう…。シンは彼氏の自覚が足りないんじゃないの?」

「それはその…スマン」

 僕と美愛はかなり前から付き合っているのだが、その生活のほとんどが戦いの日々だった。そのせいかどうかはさておき、確かに僕には美愛の彼氏としての自覚が足りないのかもしれない。

「謝らないでよ。なんかボクがシンをいじめてるみたいで嫌だし」

「あ、ああ…、ごめん」

「だから謝らないでって言ってるのに…」

「じゃあデート、だな。どこ行きたい?」

「むぅ…、話そらして…。でも、そうだな~。いつもボクの行きたい所だったし、たまにはシンの行きたい所に行かない?」

「確かにそれもいいけど…。そうだな…、僕の行きたい場所か…」

 僕は散々悩んだ結果、こう答えた。

「自宅…とか?」

「うーん。つまり、シンはボクとデートがしたくない、と?」 

「ち、違う違う!ほら、自宅デートってしたことなかっただろ?だからさ…」

「別に、家近いんだし…。それに、付き合い始めてからもシンの家なんて何回も行ってるよ?」

「それは一緒に夕飯食べようとか、みんなでゲームしようとか、そんな感じだったろ?要は気持ちの持ちようだよ。デートだと思ってれば、場所が自宅でも楽しめるってこと」

「うーん、少し腑に落ちないけど。シンの行きたい場所に行くって言ったのはボクだしね。じゃあ、行こっか?」

「おう!」

 そんなわけで僕と美愛は僕の家へ帰ってきた。帰ってきたのはいいのだが…。

「ねぇ、シン?これは…タイミング悪かったかも」

「ああ。なんというか、失敗だったな」

 東雲家の玄関。そこに並べられたたくさんの靴を見て僕達2人はため息混じりに言った。

「おかえりお兄ちゃん。あれ?美愛お姉ちゃんも一緒なの?ちょうど良かった!」

「ただいま楓。ちょうどいいってどういうことだ?」

「みんな来てるの!早く上がって!」

「みんなって…。どうする美愛?」

「まあ、みんなと過ごすのも楽しいかもね。ボクはそれでいいよ?」

「ま、そうだな。戦いが終わってからはあまり集まることもなかったし」

 同じクラスの美愛や琳音や夏希、家の前のアパートで暮らす佳奈とは毎日顔を合わせるものの、クラスが違う透や、一つ上の学年の優先輩やアリア先輩とはほとんど会う機会はない。卒業してしまっている梶野先輩は優先輩の家に居候しているにしてもほとんど会えない。

「慎君、早くおいでよ!」

「お、琳音か。今行くよ!ほら、美愛行こう」

「うん!」

 リビングに入ると、仲間達が所狭しと座っている。

「あ、慎兄!朝ぶり~」

「慎。帰ってきたばかりで悪いけどこっち手伝って」

「夏希か。なんかお前も…溶け込んでるよな…」

「琳音のおかげだよ。あんなひどいことをした私に優しくしてくれて…」

「そうだな。琳音は転校してきたときから随分丸くなったよな…。あの頃は、雷の能力者ってだけで殺されかけたりしたな…」

「それって、もしかしなくても私のせい、だよね?あの、ごめん」

「いやいやいや!確かにそうかもしれないけど、今更気にすることじゃないよ」

「あ、ありがと。やっぱり慎は優しいね」

「そ、そうか?」

「うん。琳音や慎だけじゃない。みんな人殺しの私に優しくしてくれた。私はみんなに感謝してるんだよ?」

「力になれているなら良かったよ」

「うん。これからも頼りにさせてもらうよ?」

「ははは、お手柔らかに頼むな?」

 夏希こそ、出会ったときから大分変わったな。罪悪感から引きこもっていた頃と比べると、最近は笑顔も増えてきて、琳音ともうまくやっているみたいだし。

「東雲君?こっちにも飲み物くれないか?」

「あ、優先輩!了解です」

「わたくしもお願いするわ」

「アリア先輩、少し飲み過ぎじゃ…」

「いいじゃない。みんな揃って集まれる機会なんて珍しいんだから」

「そりゃそうですけど…」

「文句言わないで早くしてくれない?年上の言うことは聞いておいた方がいいわよ」

「はいはい、分かりましたよ…」

 渋々僕はアリア先輩のコップにジュースをついだ。

「おい慎。ちょっとこっち来いよ」

「やっほー、慎ちゃんおひさー!」

「透と…梶野先輩?珍しい組み合わせだな」

「ああ、俺っちが一人でくつろいでいたら突然話しかけられてさ」

「そうそう、退屈そうにしてたからついね。話してみるとおもしろかったよ」

「それは良かったですね。…ていうか、慎ちゃんっていうの、やっぱり恥ずかしいんですけど…」

「え?いいじゃん。可愛いじゃん」

「僕は男です!」

 ブー、ブー、ブー…

「ん?メール?えっと…、外に出ろ?って、誰からのメールか分かんないし…。まあ、出てみるか」

「ん?シン、どっか行くの?」

「いや、ちょっと外の空気を吸ってくるよ。ここ、人口密度すごいし」

「うん。行ってらっしゃい」

「おう」

 玄関から外に出るが、そこには人影は見当たらない。

「あれ?おーい、誰もいないのか?」

「いるぞ、東雲慎。貴様の後ろだ」

「っ!?その声は!!?」

 聞き覚えのある、あまりいい印象のない声。振り返ると、想像した通りの人物が不機嫌そうな顔で立っていた。

「東雲。俺をあまり待たせるな」

「雷道…。突然呼び出しておいてその言い草かよ。…怪我はもう大丈夫なのか?」

「ふん。貴様のせいでまだあちこちが痛む」

「そりゃ悪かったな。…で?お前、何しに来たんだ?」

「いや、特に用はない。リベンジをしようにもこの身体ではな」

「そっか。このあと暇だろ?寄って行かないか?」

「馴れ合いはしないさ。俺はそろそろ帰るよ」

「そうか、残念だよ。佳奈もお前と話したがっているだろうしな」

「そうか。まあ、どうせ暇だしな。少し寄っていくとしよう」

「なんていうか、お前って佳奈に弱いよな」

「否定はしない。下手に機嫌を損ねるとこっちが殺されかねんからな」

「はは、そりゃそうだ」

 僕はほんの少し前に殺し合った男と一緒に家の中に戻る。

「みんな~!特別ゲストだぞ~?」

「東雲、大袈裟だ」

「別に大袈裟じゃないだろ?ラスボスが来たんだからさ」

「シン?特別ゲストって誰?…って、雷道さん!?」

「四条か。騒がしいな」

「雷道さんこそ、ボク達を殺しに来たんですか?」

「生憎だが、俺の身体は東雲にやられたときの傷が完治してなくてな。今は争うつもりはない。とりあえず、佳奈を呼んでくれ」

「分かりましたー」

 美愛は佳奈を呼びにリビングへ戻っていった。

「生徒会室で暴君やってたころより、よっぽどいい王様になれそうじゃないか」

「ふん。ならば、試しに俺の下で働いてみるか?」

「はは、冗談。…というのは嘘で。まあ、気が向いたらってことで」

「楽しみにしていよう。お前をこき使うときを

「オーバーワークだけは勘弁な」

「そんなことを言っているから、雷の撃ち合いでは俺に勝てなかったのだ」

「…心外だな。僕はお前に負けたつもりはないし、あの能力だってれっきとした俺の能力だ」

「貴様は何も分かっていないようだが、あの能力、《ルシファー》は危険だ。楓はあの能力を誰にも与えずに封印していた。その意味をよく考えろ。あれに頼り過ぎると、後戻りできなくなるぞ」

「分かってるさ。だから、今は僕自身でも《ルシファー》は封印してある」

「だが、貴様は戦いに巻き込まれることになれば再びあの力を使うだろう」

「ああ。そのときは頼れる仲間が何とかしてくれるよ」

「信頼関係があるのはいいが、あまり他人に頼りすぎるなよ」

「へいへい。…っと、佳奈が来たみたいだし、僕は中に戻るよ。ごゆっくり~」

 僕は佳奈と入れ替わりでリビングへと戻った。

 それから僕は仲間達と他愛のない話をして過ごした。久しぶりにみんなと過ごした時間はきっといい思い出になるのだろう。玄関が開く音が聞こえ、雷道が帰ったのだと分かる。戻ってきた佳奈はとても満足そうな顔をしていた。


 楽しい時間はあっという間に過ぎていくもので、夜も遅くなったので今日はお開きということになった。みんなそれぞれの家に帰り、僕の家には、僕と楓の2人だけとなった。

「平和だね」

 と、楓が一言。

「平和だな」

 とっさに僕も返す。

「お兄ちゃんのおかげだね」

「え?」

「この平和はお兄ちゃんのおかげだよ。お兄ちゃんが雷道を倒してくれたから」

「それはどうも、ありがとう」

「でもね、平和は一時的じゃダメ。私たちの後の世代までちゃんと引き継がなきゃ」

「ああ、そうだな。それにしても、僕らの後の世代、か。つまり、僕と美愛の子どもの世代ってことか」

「あっれ~?お兄ちゃん、もう美愛お姉ちゃんと結婚する気なの?」

「ん?ああ、このまま行ければな」

「2人なら大丈夫だよ。私も応援してるね!」

「ああ、ありがとう」


 平和は引き継がなければいけない。僕の、僕達の後の世代の人間達のために。後の世代がきっと平和でありますように。


END

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