1話 戦いの始まり
僕が春夏秋冬学園に入学してから、つまり『モチーフ』という力を手に入れてから1週間が経ったが、周りの同級生や先輩、教師のなかにいるであろう自分以外の能力者を特定することはできなかった。
「おはよう、シン。何かあったの?難しい顔してるけど」
僕が他の能力者について考えていると、隣の席に座る美愛に話しかけられた。
「そ、そうか?」
「うん。今まで見たことない顔してたよ?」
「へぇ~、どんな?」
「そうだなぁ、例えるなら、『犯人探しをする刑事か探偵の顔』かな…」
「へ、へぇ…」
(どんな顔だよ!?)
「それにしても1週間って意外と早かったね。結構クラスにも馴染めたし。ねぇ?透くん!」
美愛の前に座る気弱そうな少年、檜山透は突然声をかけられビクッとした。
「は、はい。自分も美愛さんと慎くんのおかげでクラスにも馴染めましたし」
「僕なんかが役に立てたならうれしいよ」
「あ、2人とも!先生来たよ?」
こうしていつも通り1日が始まった。
そして昼休みの時間…
「よし、学食食べに行こうか」
「そうだね、お腹ペコペコだよ…」
僕と美愛が教室を出ようとしたとき、
ズキッ!
「くぅ!?」
僕を突然頭痛が襲った。
「どうしたの!?だ、大丈夫!?」
「ぐっ、あっ…」
僕はその場で気を失った。
『能力者同士は戦う運命…』
「え?この声、楓か!?」
『能力者は他の能力者を憎み、蹴落とし、戦い続けなければいけない…』
「どういうことだよ、楓!?」
『これは戦争。モチーフという武器を与えられた者達の命をかけたゲーム…。でも、狙われるのが能力者だけとは限らない…』
「命がけなんて、そんなこと…。それに一般人まで狙われるなんて…」
『だから、簡単に死んじゃヤダよ、お兄ちゃん?』
「はっ!」
最後の言葉を聞いた瞬間、僕の意識は覚醒した。
「ここは…、保健室か…?」
場所を確認しようと目を開けると、僕の頬に何かが落ちてきた。
「うぇぇえん!死んじゃったと思ったよぉ~!」
「お、おい、美愛?泣くなよ…。そんなに悲しかったのか?」
「う、うん。それもあるけど…」
突然、美愛の両眼が僕を射抜いた。
「即死同然のダメージのはずなのに、失敗しちゃったことが悔しいのかな…」
美愛の口から発せられた言葉に頭が真っ白になった。
「な、何を…、言ってるんだ?」
「能力者は普通の人よりも丈夫って聞いてたけど、これほどなんてね~。でも大丈夫、安心して?今度こそボクの《伊邪那美》の力で楽にしてあげる。早くこの戦いを終わらせるためにも…ね」
『モチーフ』『イザナミ』
この言葉を聞いた瞬間僕はすぐに気づいた。
「お前、『能力者』、なのか?美愛」
「うん。ボクの『モチーフ』はさっきも言ったとおり《伊邪那美》。黄泉の力を操る事ができるの。ちなみにシンのモチーフは?」
「《伊邪那岐》。雷の力を使える」
「ふふっ、ボクと対になるモチーフだね。これも運命かな?さて、今度こそ送ってあげるよ、黄泉の国へ…」
そういうと美愛は起き上がった僕の胸に手を当てた。
「今度は直接逝かせてあげるから、痛みは一瞬だよ…」
しかし、僕は美愛が能力を使うとき躊躇いを見せた一瞬の隙を見逃さなかった。
「放電!」
「きゃあ!」
僕は身体から電気を放ち、美愛を吹き飛ばした。
「残念だよ、美愛。これからも友達でいられると思ったのに…」
倒れ込んだ美愛に手のひらを向ける。
「ひっ、や、やめて、殺さないで…」
「君が先に襲ってきたんだ。文句は聞かないよ」
「ボク達は友達でしょ?た、助けてよ…?」
「僕はそんな情けをかける気はさらさらないし、第一、君は自分の命を奪おうとした相手をまだ友達だって言えるの?」
「そ、それは…」
僕は美愛の答えがどうであろうと、倒さなければ僕は死ぬ。そう思っていた。
「言える、言えるよ…」
「何で?」
「と、友達だから。気の知れた友達だからこそ、裏切られても信じなきゃいけないと思う。だから…」
「…君は、あんなことをしておいて今更きれい事を言うのか?」
「それは…、」
「もういい…。落雷よ…」
僕はそう言って、美愛に向けた右手を空に掲げる。
「ひっ…!」
そして、激しい雷撃が美愛を襲…わなかった。雷は保健室の天井より少し低い所から美愛のいる地点から数センチ離れた所に落ちた。
「へ…?」
「…もういいって言ったんだ。今回は許してやるよ。でも代わりに条件がある。」
「な、何…?」
「僕ともう一度、友達になってくれ」
「…は?」
「聞こえなかったか?もう一度僕と…」
「ボク達、いつ友達じゃなくなったの?」
「いつって、美愛が僕を襲ったときからじゃないか?」
「はっきりしないな~。それにボクは友達をやめた気はないよ?」
「……」
僕は沈黙してしまった。
「お~い?」
催促するなよ。えっと、そうだな…、もうこれしかないか…。恥ずかしい…。
「…じゃあ、僕と、つ、つ…」
「ん?」
「僕と、付き合って、欲しいんだ…」
「……」
今度は美愛が沈黙したかと思うと、突然涙を流し出した。
「お、おい、泣くなよ!」
「う、うん…」
「で、どうなんだ?」
「どうって?」
「言わせるなよ!?」
僕は声を荒げた。
「もう一回、シンに言って欲しいんだ。大事なことだから…ね?」
(分かったよ!分かりましたよ!言えばいいんでしょ!)
「…僕と付き合って欲しい」
僕がそう言うと美愛は涙を流しながら、満面の笑みで答えた。
「はい…!」
続く