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MOTIF  作者: 崇宮ナツメ
第1章
18/20

16話 決戦へ

「みんな、急に集まってもらって悪かった」

 放課後、僕らは優先輩に呼ばれ屋上に集まっていた。

「優先輩、話って何なんですか?」

「ああ。最近、奴ら…オリンポスはずいぶん静かだろ?」

 確かにそうだ。佳奈のことがあって以来、全くと言っていいほど音沙汰がない。

「そこで、だ。そろそろ俺達から動いてもいいんじゃないかと思ってな」

「それはつまり、またあのダンジョンに攻め込むってことですか?」

「ああ、そうなるね。一度行ったことはあるし、多分問題無いだろう」

「あ、あの…、ダンジョンってどういうことですか?」

 琳音の疑問に夏希が頷く。そうか、この2人は初めてだったな。楓と梶野先輩、あとアリア先輩はもちろん入ったことあるだろうし。

「それはね、生徒会室の中はおかしなダンジョンのような構造になっているんだよ。なんか変なモンスターとかも出てくるし…」

「うわぁ…、なんか楽しみ!ね、夏希?」

「え?え?僕!?」

「当たり前だよ!だって夏希はあたしのパートナーだもん!」

「あ…ぅ…うん…。ありがと…!」

「じゃあ、明日の放課後に生徒会室前に集合ってことで。全員行くよりも突入班と待機班に別れた方がいいと思うんだ」

「確かにそうですね。じゃあ、僕と佳奈と優先輩、あとは琳音と夏希の5人で突入。美愛と楓と透と梶野先輩とアリア先輩は待機班でどうでしょう?」

「分かった。それで行こう」

「え!ボクはシンと一緒じゃないの?」

「ごめん。お前には死んで欲しくないからな」

「う、うん分かった。シンがそう言うなら…。ボク、シンの帰りを待ってるよ!」

「ああ」

「さてと、決まったね。じゃあまた明日、絶対に生き残ろう」

「「「「「「「「「おおー!」」」」」」」」」


 僕は家に帰り、楓と佳奈の2人と話した。

「お兄ちゃん、美愛お姉ちゃんを待機させて良かったの?」

「そうだよ。美愛姉ならイザナミの能力で誰かが死んでも蘇生できるし…」

「確かにな。でも、良いんだよ。僕は美愛に死なれたら本当に自分を見失っちゃうかもしれないしな。それに…」

 僕は目の前の2人の顔を見て言う。

「僕には、お前達もついてるだろ?頼んだよ、2人とも」

「うん…まあ、お兄ちゃんがそう言うなら仕方ないよね!」

「そうそう。慎兄は頑固なとこもあるし」

「そ、そうか?」

「そうだよ。ねー!」

「ねー!」

「はいはい…。それじゃあ明日はよろしくな」

「うん!」

「任せてよ、慎兄!」

 前までは子供っぽいと思ってたが、2人とも成長したことを実感し、少し嬉しくなる。

「そういえば佳奈。お前、今日はウチに泊まってくか?」

「ふぇ!?…し、慎兄がいいならそうするけど…」

「僕からすすめておいて、ダメな訳ないだろ?楓もそれでいいよな?」

「うん!夕ご飯が1人分多くなるだけだし、人数が多いと楽しいしね!」

「ありがとう、慎兄!楓姉!」

 久しぶりに過ごす僕達3人の楽しい時は過ぎていく…。


 そして、篠宮家…。

「り、琳音ー!助けてぇー!」

「ちょっ、夏希!なにやってるの!?」

 僕の家には琳音が泊まりに来ていた。僕は琳音のために料理をしようと張り切っていたんだけど…、少し張り切りすぎたようで、具体的には、油を入れすぎたようでフライパンからは天井に達しそうなほどの炎が上がっていた。

「夏希、火を止めて!早く!」

「あ…、ご、ごめん!」

 私はあわてて火を止める。

「はぁ、はぁ…。あなたねぇ…、少しは気をつけてよ…」

「あはは、ごめんごめん。せっかくだしローストチキンを作ろうと思ったんだけど、張り切りすぎちゃって…」

「ハァ…。危うく、チキンの代わりに家をローストするところだったでしょ?いいわ。料理はあたしに任せて?」

「そ、そんな!招いておいて、悪いよ…」

 僕がそう言うと琳音は呆れた顔をしたが、やがて諦めたようにため息をついた。

「じゃあ、卵買ってきて。さっき冷蔵庫を見たとき無かったから」

「う、うん!分かった!待っててね!すぐに買ってくるから!」

「焦って転ばないでよね?外はもう暗いんだから…」

「はーい!行ってきまーす!」

 玄関のドアを開け、僕は飛び出した。

「全くもう…。さてと、夏希が帰ってくる前に下準備を終わらせないとね!」

 琳音と夏希。慎のおかげで和解できた2人は仲良くやっているようだ。


 そして、翌日…。

「おはようございます、優先輩」

「おはようみんな。今日、俺達はこの戦いに終止符を打つ。こういうことを言うガラじゃないけど…、気合い入れて行こう!」

 優先輩の言葉に全員が頷く。

「作戦はこの後すぐ、朝のうちに決行する。あのダンジョンの中では時間が進まないし、授業に遅れることは無いだろう」

「あいつ、雷道はいるんですか?」

「ああ、奴は今日は大学を休んでここに来ているらしい」

 それなら好都合だ。確かにチャンスは今しかない。

「行ってらっしゃい、シン。ボク待ってるから」

「時間が進まないから、すぐに出てくるよ」

「あはは、そっか。じゃあ、がんばってね?」

「ああ!…よし、行こう。これで僕達の日常を…取り戻す!」

 僕達は生徒会室の扉を開けた…!そこには前回のようにRPGのようなダンジョンが広がってい………なかった。

「あ、あれ?どうなってるんだ?」

 扉の中は、闘技場のようになっていた。奥の方をよく見ると、誰かが近づいてくる。

「おい!お前誰だよ!」

 僕がその人影に話し掛けると、相手も口を開いた。

「おはようございます、皆様。私は神崎家で雷道様専属の執事をしております、後藤鳴海と申します。本日はお越しいただき…」

「御託はいいよ、後藤さん。あなたが最初の相手なんだろ?」

「おや、誰かと思えば裏切り者の葦原様ではありませんか。そうですね。私も無駄な時間の浪費は好きではありませんから。それに、最初もなにも、もはやオリンポス側には、私と雷道様しか残っておりません。では始めましょう。最初の相手はどなたですか?なんなら、お2人以上でも構いませんよ?」

 後藤に促され、僕達は相談を始める。

「さて、誰が戦おうか?」

「慎兄が戦えば?」

「僕か?いや、僕は雷道との戦いに温存しておきたいし…」

「あの、あたしと夏希にやらせてください!」

「ええ!?」

 僕達は驚きの声を挙げたが、一番驚いていたのは、指名された夏希だった。

「ふぇ~!?ぼ、僕ぅ~!?」

「当たり前でしょ!昨日も言ったけど、夏希はあたしのパートナーなんだから!」

「分かった。やろう、琳音」

 琳音と夏希は前に出て、後藤と向き合った。

「決まったようですね。ではまず、私の能力(モチーフ)《ポセイドン》の力からお見せしましょう」

 そう言って後藤は手を振り上げた。

「津波よ、あの方々を飲み込みなさい」

 突然巨大な波が出現し、琳音と夏希に襲いかかる。だが、2人は…。

「ごめん。今回琳音の出番ないかも」

「うん。夏希に任せるよ。その方が楽そうだし」

 2人は余裕の表情でこちらを見て言った。

「ってことで、慎。ちょっと能力出して?」

「?…ああ、なるほど。いくぞ、落雷!」

 僕は自分の目の前に雷を落として見せた。

「ありがと。覚えたよ。…能力《伊邪那岐(イザナギ)》をコピー!」

 夏希が言うと、彼女の身体は光り、一瞬で僕と瓜二つの見た目に変わった。その光景を見て、後藤は目を見張った。

「これは一体…?」

「驚いた?僕の能力は《ドッペルゲンガー》。他人の能力と容姿をコピーする能力なんだ」

「なるほど。そうでしたか…。でも、そんな能力をコピーしてどうするんです?」

「ん?分かんないの?執事ってもっと頭良い人がなるんだと思ってたけど…」

「い、いいからどういうことか説明してもらえます?」

「うーん。分かんないなら身体で覚えた方がいいと思うよ?」

 夏希がからかうように言った瞬間、後藤の態度が急変した。

「バカにするなァ!さっさと言えと言っているんだ、このザコがァ!」

 後藤の周りから放射状に波が出現する。

「やっぱりバカだね。死んじゃったらごめんね?…落雷!適当にその辺に落ちて!」

 夏希がそう言うと押し寄せる水に幾つもの閃光が降り注いだ。

「ぐああああああ!?」

 押し寄せる波ははじけ、雷は水を伝わり後藤を襲った。

「ぐ、なるほどな。それで雷の能力…か…」

「そ。あなたの能力、《ポセイドン》って、海の神様でしょ?海水は純水じゃないから、もちろん電気を通すよね。優秀な執事さんならこのくらい分かると思ったんだけどな~」

「く、くそがぁぁぁ!」

「いくら悔しがっても、身体が痺れて動けないでしょ?じゃあ私たちは先に進むから。元気でね~」

「夏希お疲れ」

「ありがと琳音。みんな、早く行こう!」

 そう言うと、夏希は奥の扉へ走り出した。

「おーい待てよ!…僕の姿と声で女口調は自分でもキツいモノがあるな。おーい!転ぶぞ~!」

 扉の前に全員が揃い扉を開けると、言葉が飛んできた。

「やはり来たか。後藤には悪いが、アイツでは貴様らを止められるとは思っていなかった」

「雷道…。1年ぶりか。あのときのリベンジ、果たしに来たよ」

「ふん、いいだろう…。かかって来い、東雲慎…!」

 最後の戦いはついに幕を開けた…。


続く

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