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MOTIF  作者: 崇宮ナツメ
第1章
14/20

12話 佳奈の告白と空席の主

 放課後、僕、美愛、優先輩、佳奈、アリア先輩のメンバーは屋上に集まっていた。

「さて、一体何の用か。聞かせてもらおうか?」

「本当に話しちゃっていいの、佳奈?」

 アリア先輩は佳奈にそう尋ねた。

「はい、やっぱり隠し事は気が引けるので」

「そう、じゃあわたくしも止めないわ。あなたの好きにするといい」

「ありがとうございます。じゃあ…」

 佳奈はこっちを向いて話し始めた。

「まず、私は慎兄達にどう思われてるのかな?」

 佳奈は突然こう聞いてきた。

「佳奈ちゃんは…、信じられる子だって思う」

「俺も同意見だね。佳奈ちゃんは考えも無しに裏切ったりしない」

 美愛と優先輩はそう答える。

「じゃあ、慎兄は…?」

「僕も2人と同じ考えだよ。…というか、実際そうなんだろ?」

「えーと…、やっぱり気づいてた?」

「はあ…、だってお前裏切り宣言した後の言動を考えれば誰だって分かるだろ。隠す気あるのかってくらい。もしかして話ってこのことか?」

「う、うん…」

「えーと、シン?どういうこと?」

 どうやら1人分かっていなかったらしい。

「つまり、佳奈は最初から裏切ってなんかなかったって話だよ」

「…?」

 まあ、いいや。美愛にはあとで説明しないとな。

「和解は済んだようね」

 アリア先輩は僕達の様子を見てそう言った。

「わたくしと佳奈は今後も潜入を続けるわ。何か分かったら報告する」

「あの、アリア先輩?なんで僕達の味方に?」

「そうね…。ゼウスのやり方に嫌気がさしたのかもね」

 僕が聞くと、アリア先輩は少し考えてからこう言い、屋上から出て行った。

「よし!そんじゃあ僕達も帰るか!」

「うん!じゃあね、シン!みんな!」

「俺は少し残るよ。じゃあまた明日」

「バイバイ、慎兄、美愛姉!」

 この後僕は何事もなく家に帰り、すぐに寝てしまった。


翌日…。

 時は一気に進み放課後、僕と美愛と琳音の3人は担任の教師に呼び出されていた。ちなみに担当教科は数学。

「…で、先生。僕達を呼び出して、何の用ですか?」

「お、3人とも揃ったな。お前達、教室の窓際の一番後ろの席が空いてるのは知ってるよな?」

 もちろん知っている。僕も気になってはいたのだ。

「はい。それが…どうしたんですか?」

「ん。単刀直入に言うとな、あの席の生徒を学校まで引きずり出して欲しいんだよ」

「不登校なんですか?その人」

「あー、簡単に言うと引きこもりだな。ちょっと過去にいろいろあってな…。ま、そんなところだ。お前ら頼まれてくれるか?一応クラス委員だろ?」

「僕と…美愛はいいですけど…」

「あの…、あたしはクラス委員じゃないんですけど…」

「お前ら、仲良さそうだからな」

「…わ、分かりました。そういうことなら…」

「よし。じゃあこれがそいつのデータだ。2年B組、篠宮夏希。一応男子ということになってるが、実際のところ性別不詳だ」

「うわー、きれいな顔…。でも、本人が男子だって言ってるんだから男子なんじゃ…」

 美愛が疑問をぶつけた。

「うーん。男子にしては足がきれいなんだよな…。あと声も女声だし」

「…このセクハラ教師」

 僕がボソッと言った言葉をこの担任は聞き逃さなかったらしい。

「東雲、次回のテスト…赤点な」

「ちょっ、いくら何でもそれは…!」

「じゃあ3人とも頼んだぞ。何かあったら報告するように」


 僕達はとりあえずその生徒、篠宮夏希の家に向かうことにした。

「さてと、着いたはいいがどうすりゃいいのかな」

「そうだね、とりあえずチャイム鳴らしてみれば?」

「そうだな」

 僕は琳音に言われた通り、インターホンのボタンを押した。

 ピンポーン

 ……。

「…出ないね」

「…出ないな。ってか、本当にいるのか?」

「あ、じゃああたしの能力(モチーフ)で調べてみるね」

 そう言うと琳音は家の中まで影を伸ばした。

「…ふむふむ。家の中に1人の反応あり、だね。この中にはいるみたいだけど…」

「ま、普通に考えて無視だよな」

「うん、そうだね」

 さて、早速詰んだっぽいな。どうするか…。

「シン?今日は帰った方がいいんじゃない?次の土曜日にまた来ようよ」

「うーん、そうだな…。琳音もそれでいいか?」

「うん。あたしもその方がいいと思うし」

「よし、じゃあ今日は解散だな」

 今日はいろいろあったな…。楓も待ってるだろうし、早く帰るか…。

「ただいま~」

「おかえり、お兄ちゃん!」

 家に入ると楓が、今日まで入院していたのが嘘のように元気にエプロン姿で迎えてくれた。

「楓、どうしたんだその格好?」

「えっとね、今までお兄ちゃん一人だったし、どうせ夕ご飯もコンビニ弁当とかだったんでしょ?だから久しぶりに私が作ろうと思って!」

「う、うう…、そうか…」

「お、お兄ちゃん、いきなり泣いたりしてどうしたの!?」

「いや、不覚にもお兄ちゃん、感動しちゃったよ…。ありがとう、楓…」

「もう。お兄ちゃんたら、大袈裟だなぁ。私が入院する前も交代でご飯作ってたでしょ?」

「そういえば…、そうだったな」

 序章でも言ったとは思うが、幼い頃に僕達の両親は母親は病気、父親は事故で亡くしている。そういう事情もあって1日の食事は交代で作ることにしていたのだ。

「さあさあお兄ちゃん!お腹減ってるでしょ?荷物を置いたら座って座って!」

「ああ。じゃあ飯にするか!」

 僕は楓の待つテーブルに座った。

「それじゃあお兄ちゃん、手を合わせて…」

「「いただきまーす!」」

 ここから新しい生活が始まるのだ。オリンポスの能力者との戦いも、引きこもりのクラスメートの問題も、何一つ解決してない。でも、それでも。明日からは今日までと少し違った視点から世界を見ることができる。いつもと違う、変わらない日常が始まる。そんな淡い期待を胸に秘め、僕は久しぶりの手料理を口に運んだ。

「ふぃー、食った食った。1年以上料理してなかったのにさすがだな、楓。お前は自慢の妹だっ!」

「ありがと。明日も学校だからね、早く片付けて寝ちゃおうよ」

「ああ、そうだな。片付け手伝うよ」

「いいのいいの、お兄ちゃんはテレビでも観ててよ」

「でも、体力落ちてないのか?」

「これぐらいへーきだよ、明日はお兄ちゃんにがんばってもらうんだから!」

「そうか。じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな」

 そんな会話をするうちも長い間家にいなかったとは思えない手際の良さで食器やその他もろもろを片付けていき、あっという間に片付けおわってしまった。楓はいいお嫁さんになれるな。まあ、相手の男は『慎お兄ちゃんの厳正な審査による楓の彼氏オーディション』を受けることになる。ちなみに合格率はヒ・ミ・ツ。まあ、国家試験を超える難易度とでも言っておこう。

「さてと、じゃあ今日は寝るか」

「うん。おやすみ、お兄ちゃん」


 次の朝、僕は楓が帰ってくるということがどういう意味であるか思い知らされることになった。

「起きろ。おーい、起きろってば楓。遅刻するぞ~」

「うー?お兄ちゃん、もうちょっと~」

「もうちょっと寝たら遅刻するんだって!いいから起きろ~!」

 僕は楓から布団を引き剥がした。

「ま、眩しい!死ぬぅ~!」

「大袈裟だ。人間はそんなことじゃ死なない」

「お兄ちゃんが冷たい!?」

「何バカなこと言ってんだ。早く起きろ。飯は作ってある。食器に水入れとけ、帰ってから洗うから」

「はーい」

 僕がそう言うと楓はテーブルについて、僕が作った味噌汁、玉子焼きなどなどを一瞬のうちに平らげ、学校の支度をした。


「お兄ちゃん、早く早く!遅れちゃうよ!」

「誰のせいだ。…はいはい、今行くよ」

 僕と楓は大急ぎて学校に向かった。その結果、朝のHRまでにはギリギリで間に合った。明日からはもっと強引に起こしてやらないとな…。


 昼休み…。

「シン?楓ちゃんは大丈夫?」

 一応僕の彼女である少女、四条美愛は僕の顔を心配そうな顔で覗き込んだ。

「ああ、健康そのものだな。そのせいで遅刻しかけたんだが」

「昔から寝起き悪かったもんね~。でも元気そうでよかったよ」

「まあ、アイツは頭いいし高校の授業も大丈夫だろう。問題は…」

 そう言って僕はもう一人の少女の方を見た。

「琳音。篠宮夏希のこと…、何か分かったか?」

「えーと、分かったのは…両親に捨てられて孤児院にいたこと、ぐらいかな」

「孤児院か…。その孤児院ってのは?」

「ここから少し離れたところにあるの。昨日行って話を聞いてきたんだけど、みんな篠宮夏希のことは話せないの一点張りで…。だから、分かったことはそれぐらいだよ」

 そんなに問題児だったのか?でも、無理に話聞くのもな…。孤児院の方は諦めるか。

「ま、そんなに簡単じゃないか…。とりあえず今日もアイツの家に行ってみるか」

「うん。じゃあ放課後、校門近くで」

「あたしも他のクラスに篠宮さんのことを知ってる人がいないか聞いてみるね」

「了解。じゃあ、またあとでな」


 そして放課後。校門の前には、美愛と琳音、その隣に呼んでない奴が約一名。

「えーと、なんで透がいるんだ?」

「えーとね、話を聞いて回ってたら、透君が知ってるっていうから連れてきたの」

「篠宮夏希は俺っちと同じ中学だったから!知ってることを教えてやろうと思ってね」

「へぇ…。んで?どんな奴だったんだ?」

「一言でいうと、『謎』だね。性別も分からなければ、親しくしてる奴もいない。最初は目立ってたけど、だんだん空気みたいになっていったんだ。誰も関わろうとしなかったからね」

「なんだかなー。分かったようで分からないな」

「ま、そんな訳でさ、俺っちも気になるんだよね。ということで…ついて行くよ」

 『檜山透 職業:学生がパーティーに加わった!』

「はあ、じゃあ早速行くか…」

 変な脳内アナウンスが流れたが、気にせず僕達は目的地の篠宮家に向かった。


続く

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