10話 佳奈の気持ち
「私は《アルテミス》の能力者、慎兄達の敵だよ♪」
そうは言ったものの、私…東雲佳奈は内心微妙な感情になっていた。
「そんな…」
「佳奈ちゃん、どうして…?」
私に言われても困る。こんな演技をするくらいなら死にたい。そして私は考えた末にこう言った。
「うーん、ここで2人とも殺しちゃってもいいんだけど…追いかけっこで疲れちゃったからまた今度でいっか!じゃあね2人とも。また明日学校で会おうね!」
逃げよう。今日は疲れた。細かいことは明日考えればいい。それにしても…私が裏切ったこと怒ってるかな、2人とも。てか、ちゃんと裏切ったって思ってくれてるかな?誤魔化すために雷道先輩に恩返し~、とか適当なこと言っちゃったけど…。はあ…。私、悪役の素質無いのかな…。明日からは慎兄達にはいつも通り接しよう。はあ…。
翌日、私が登校しようとすると家の前に3人の人影があった。
(慎兄と美愛姉!?なんでここに!?)
考え抜いた結果、私は味方だったころ(今も敵じゃないけど)と同じように行くことにした。
ガチャ…。
ドアを開けると、2人の視線が私に集まる。
「あ、えーと。お、おはようございましゅ…!」
噛んだ。盛大に噛んだ…。昨日、あんなことを言ってしまったせいか、ものすごく気まずい。
「み、み、み、みんな?そ、そろそろ行かないと、ち、遅刻しちゃうよ?」
この空気に耐えられず、私は歩き出そうとした。
「あのさ、佳奈…?」
「ひゃ、ひゃい!にゃんでしょうか、慎兄さん!」
「お前、昨日あんなにはっきり裏切り宣言したくせに、もうちょっと敵らしくできないのか?」
「その指摘はごもっとも!でもね、人間簡単に悪役になりきれると思わないでよね!」
「昨日は完全になりきってたけどな」
「ああ~もう、うるさいうるさい!ここで消し飛ばすよ!?」
「へいへい。さっさと学校行くぞ」
「あ、シンいいの?佳奈ちゃんのこと…」
「いいんだよ、だって…敵、なんだろ?」
その瞬間、慎兄が少し笑った気がした。うぅ~、このバカ兄め~!コイツもう、演技だって分かってるんじゃないの!?
「待って!私も行くからぁ~!」
とりあえず私は慎兄達に置いていかれないように急いだ。学校に着くと私は職員室に行った。どうやら私は不登校の扱いになっていたらしい。そういうところは雷道先輩に感謝しなくてはならないと思う。
「雷道側についたんだってね、佳奈ちゃん?」
職員室を出ると突然声をかけられた。
「優さん!?なんでここに!?っていうか、なんで女モード!?」
「ふふん。私の方も受け入れられつつあるってことよ。この一年で、ね」
「そうですか。それで、私に何か用ですか?」
「ええ。…雷道側にいてもいいことないわよ」
「…っ!分かってますよ、私だって。そのくらいのこと…」
「じゃあなんで…」
「こっち側で、やることがあるんです。別に仲間になった訳じゃありません」
「1人で?危険だわ」
「いいえ、2人よ」
「え?」
「ア、アリアさん!いつから…」
「話しているのを見かけたからつい…」
「それでアリア?2人って、まさか…」
「ええ。わたくしも佳奈と一緒に行動することにしたの」
「なるほど…。アリアがついてるなら大丈夫ね」
「そ、それで…優さん?慎兄達にはあくまでも私は敵になったことにしておいてくれませんか?」
「ふぅ…、分かったわよ…。じゃあまたあとでね」
「はい。ありがとうございます!」
私の一年ぶりの学校は、当たり前ながら授業も二年生の内容でついて行くのに必死だった。
「はぅ~、疲れた~」
「お疲れ様。一年ぶりの学校は大変だったでしよ?」
「優さ~ん!助けて~!一年生の夏から教えて~!」
「私もさすがに中学の内容をちゃんと教えられるかは自信ないわよ…。東雲君に頼めばいいじゃない。彼、成績いいんだから」
「む~!慎兄だって、もう高校二年生じゃないですか!それに私、今は慎兄の敵だもん!」
「はいはい。そうだったわね…」
ふん!私だって勉強すれば慎兄に負けないもんね!
「それはそうと…、今日東雲君のクラスに転校生が来たの」
「この時期に、珍しいですね。で、その転校生がどうかしたんですか?」
「南雲琳音さんっていう、女の子なんだけどね?さっき私に話しかけてきたのよ」
「優さんにですか。勇気ありますね、その子。で、なんて言ったんですか?」
「あなた、能力者ですよね?雷を操る能力者のこと、何か知りませんか?」
「…!?」
声がした方を見ると、黒髪ロングの優しそうな、まさに美少女が立っていた。
「えっと、あなたは…?」
「あたしは南雲琳音。自己紹介するなら噂の転校生ってところかな。よろしくね」
「あなたが慎兄のクラスに来た転校生さんか~。よろしくお願いします!」
「うん。よろしく」
「あ、そうそう。南雲先輩、同じクラスの慎兄…東雲慎さんは雷の能力者ですよ?私の親戚なんですけど…」
「えっ、ホント?」
ん?今、先輩の雰囲気がちょっと変わったような…。
「は、はい。慎兄は、《伊邪那岐》の能力者で、雷使いですけど…」
「ありがとう。じゃああたしは帰るね。明日、慎君と話してみるよ」
「はい、また今度…」
はふぅ…、きれいな人だったなぁ…。慎兄の理性、保つかな?うっかり押し倒したりしないよね?大丈夫!慎兄はその辺しっかりしてるから!やっちゃったら美愛姉、一回殺されるだけだもんね!
「ふぅ、疲れたし帰ろっかな…。いや、そうだ!久しぶりに楓姉にも会いに行こう!」
私が楓姉の病室に着くと、眠っている楓姉が目に入った。
「楓姉、一年以上前からずっと眠ってるんだね…」
「……」
「慎兄も美愛姉も頑張ってるんだよ。…イチャイチャしながら」
「……ふふっ」
「ん?笑い声?もしかして…」
「…ふふっ、ふふふふふっ!」
「か、楓姉!?な、なんで起きて…」
「ごめんね、さっきから起きてたんだけど…。それはそうと…、ねぇ、佳奈ちゃん。聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「う、うん。何?楓姉」
「雷道に会ったよね?どう?今の彼は」
「え…?な、なんで楓姉が雷道先輩のこと…。それに雷道って呼び捨てで…」
「佳奈ちゃん、《ヘラ》って知ってる?」
「うん。オリンポスのNo.2の能力者で、最初の反逆者でしょ?それがどうしたの?」
「それ、私だよ」
「………え?」
「だーかーらー、ヘラは私だって言ってるんだよ」
「ええええ!?楓姉がオリンポスのNo.2!?」
「うん。で、どうなの?雷道は…」
「雷道先輩は、根は優しいと思うよ。外面の、あの無慈悲で厳格な雰囲気は、ちょっと無理してるような気がする…」
「へぇ、いいとこ見てるね。さすが佳奈ちゃん!」
「えへへ、ありがとう楓姉!じゃあ、帰るね」
「あ、そうそう。私、明日には退院するから。お兄ちゃんに伝えといて?」
「う、うん。分かった。」
「じゃあ私は眠いから…」
「うん。じゃあね、楓姉」
私は落ち着かないまま病室を出た。
(まさか、楓姉が反逆者のヘラだったなんて…)
「帰ろっかな…」
家に着くと私は早速慎兄に電話した。
「あ、もしもし慎兄?」
『え?佳奈?お前、敵じゃないのかよ…』
「そんなことどうでもいいよ!」
『いや、どうでもよくはないだろ…』
「明日、楓姉が退院するって言ってたよ!」
『あ、さっきのどうでもよかったわ、ごめん。…って、どういうことだ!?』
「さっき楓姉のお見舞いに行ってきたんだけど、もう起きてて…、それで、話したの。で、明日には退院するから、って」
『何かよく分からないけど、分かった。敵にこんなこと言うのはおかしいかもしれないけど…、ありがとな』
「う、うん」
実は敵じゃないんだけどなー。言いたくて言いたくて震えてるんだけどなー。
「じゃあ、また明日ね。慎兄♪」
『あ、ああ。明日な』
はあ、いつまで敵の振りしなきゃいけないんだろう…。これだけで1日疲れたよ…。こんな調子で大丈夫かなぁ…。
続く




