8話 ニセモノの日常
朝、楓に起こされた僕は朝ご飯を食べ、学校へ行く支度をしていた。
「あー、今日も平和で何よりだ」
「お兄ちゃ~ん?のんびりしてるのはいいけど、ちょっとは急がないと遅刻しちゃうよ~?」
玄関の方から楓の声がする。
「ああ、悪い悪い。今行くよ」
僕と楓は少し急ぎ足で家を出た。
「やあ、東雲君おはよう」
家を出たところで僕は突然話しかけられた。
「あ…、おはようございます。優先輩」
「おはようございます。葦原先輩!」
「ああ。楓ちゃんもおはよう」
「先輩、風邪治ったんですね」
「ん?あ、ああ…、すっかり元気さ。ところで東雲君?ちょっと話したいことがあるから、昼休みに体育館裏に来てくれない?もちろん1人で」
「は、はい。分かりました…」
「あのー、2人共?遅刻するよ?」
僕は楓の言葉でハッとした。
「ヤベッ!早く行こう!」
この後、僕達は全力で走り学校にギリギリ間に合った。
昼休み…
僕は優先輩に言われた通り体育館裏に行った。
「それで…何の用ですか?優先輩」
「うーん、まだ君は気づいていないみたいだね」
「…?何のことですか?」
「君はオリンポスって知ってるかい?」
「バカにしないで下さい!僕達が戦っている敵じゃないですか!…って、あれ?」
朝、僕は今日も平和だと言ったはずだ。だが、つい最近も奴ら、オリンポスの敵と戦った記憶がある。
「良かった。東雲君には改変前の記憶があるみたいだね」
「改変?一体どういうことですか?」
「多分、オリンポス…正確には元オリンポスのメンバーの能力だ。思い当たる人がいるからね」
「それは一体…」
「ヘラ。他人への能力の付与と、パラレルワールドの作成の2つを能力として持っている。能力者は君がよ~く知ってる人だよ?」
「その能力…、まさか…!?」
僕は能力の内容を聞いたとき思い当たる節を見つけた。
「さてと…。あとは君次第だよ、東雲君?」
「はい。僕、アイツのところに行ってきます」
僕はあの人物がいるであろう、屋上へ向かった。
「はあ、はあ、はあ、はあ…」
「あれ?どうしたの?そんなに息上がって…」
「そうだったんだな。お前がヘラ、か…」
「…っ!?」
「優先輩から聞いたんだ。今回の異変はお前の能力だって。あと一つ、お前の能力は他人に能力を与えること。僕はお前からこの能力をもらったんだ。なあ、楓?」
「ふ、ふふふ。うふふふふ!さすがお兄ちゃんだね!そうだよ、私がヘラの能力者。今回の異変は私がやったの」
「…なんでパラレルワールドなんか作ったんだ?」
「お兄ちゃんが悲しまないようにするためだよ」
「僕が悲しむ…?」
「佳奈ちゃんのこと、昨日のことなのに忘れちゃったの?」
「…くっ!」
「本来なら病院のベッドで寝ているはずの私が自分の足で歩いて、お兄ちゃんの下にたどり着くために…」
「楓…」
「みんなの中で異変に気づいたのはお兄ちゃんと葦原先輩だけ。私の役目も終わったし、そろそろ世界を元に戻すよ」
「ああ。また頭ん中にお前の声が響くのを待ってるよ」
「うん。じゃあ、またね…」
意識が遠ざかる。どうやら元の世界に戻るようだ。楓が病院で眠り、佳奈がもういない世界…。
「僕が…、がんばらきゃな…!」
目が覚めると、そこは校門の前だった。元の世界に戻ってきたらしい。
「う…、戻ってきたか…」
「おはよう、東雲君」
「あ、優先輩。って、何で女モード!?」
「いいじゃない。気にすることでもないでしょ?」
「そう…ですね。っていうか、風邪が治ってるのはパラレルワールドから引き継いだんですね」
「まあね。…私が風邪なんて引かなければ、佳奈ちゃんも…」
「先輩、後悔するよりも、僕達がアイツの分まで頑張ればいいんです!だから…」
「ええそうね。オリンポスと戦えるのは私たちだけだし」
「さて、と。じゃあ今日は帰りますか」
「ええ、そうね」
改めて戦う決意をした僕だったが、そこからしばらくオリンポスは行動を起こさず、こちらからも不用意な手出しはできず、膠着状態だった。そして、僕達は高校二年生になったのだった。
「…あれから約一年、何もして来ないなんて不自然過ぎませんか、優先輩?」
「それを俺に言われてもねぇ…」
「そういえば、会長…雷道は卒業したんですよね?じゃあもう、手出ししてこないんじゃないですか?」
「いや、雷道先輩は結構な頻度で学校に来てるし、大体彼の影響力が卒業したからってなくなる訳じゃないよ」
「ねえ~、シン?ボクともお話ししない?」
「ん?美愛か。いいよ。じゃあ僕が楓の世界にいたときの話を…」
「へぇ~、そんなことあったんだ~!」
僕達は戦いから逃げる訳にはいかない。でも今は、今だけは、この心地よい騒がしさを楽しもう。僕はふと、そんなことを思った。
一方、その頃。生徒会室…
「期待してるぞ、いい報告を待っている」
「了解ですよ、雷道先輩♪」
新たに動き出したオリンポスの能力者は、笑顔で呟いた。
「一年ぶりかぁ…、楽しみ!待っててね、『慎兄』♪」
続く




