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普通の高校生は普通に普通

作者: 焼飯

 普津男ふつおは学校に向かうため通学路を歩いている。

 十字路に差し掛かった時、横から走ってきた女子生徒とぶつかってしまった。


「きゃ!?」

「あいたっ」


 女子生徒は勢い余って尻餅をつく。その女子生徒がツインテール少女であるのは言うまでもない。さらに、パンを咥えて走っていたのは言うまでもない。そして、普津男がスカートの中を見てしまうのも言うまでもないだろう。


「変態! エッチ! スケッチ! ワンタッチ!」


 それに気がついた彼女は羞恥で顔を赤らめ

て、慌ててスカートを手で押さえると、普津男を罵倒しだした。


「ぁ、す……せん」


 咄嗟に聞こえづらい謝罪だけ残してスタスタと普津男は学校へ向かっていった。





 普津男は登校途中いつもの場所で今日も目当ての人物を見つけた。学年でも一番カワイイと噂される女子生徒だ。

 この場合、黒髪ロングできつ目のクール系か、ゆるふわ茶髪のきょぬー系かのどちらかであるが、彼女は黒髪ロング系だ。普津男の趣味的に。あくまでも普津男の、だ。

 斜め後ろから彼女を眺める普津男。すると、ふと彼女が振り返る。その時、普津男は目が会った気がした。

 振り返った彼女は淡く微笑み、軽く手を振る。

 当然、普津男はその笑顔が自分に向けられた、とは全く思わない。欠片も思わない。言うまでもないだろう。


 そして、言うまでもなく後ろから女子生徒が飛び出して普津男を追い越すと、黒髪ロングに挨拶する。


「あ! 黒須さんおはよー」


「おはよう。あなた朝から元気ね」


 普津男はその間、黒髪ロング見ながら思っていた。


(綺麗な足だなー。胸ないけど)


 自分がお近づきになれるとは全く思っていなかった。






 公園を横切るあたりで普津男は気がついた。


(あれ? 周りに誰もいなくなった?)


 つい先程までは登校中の生徒が散見できていたのだが、ふと気がつけば辺りには人影ひとつ見当たらなくなっていた。

 その時、公園の中から声が聞こえた。


「てめえ! 朝っぱらから何の用だ!」


「何の用だと? 言わねば分からんなど、まこと愚かの極みよ! そこまで愚かとは! 良いだろう。ならば教えてくれる! 貴様の持つ神宝具、天叢雲剣のレプリカである八岐故首九本有可笑いちじくのつるぎを奪いに来たのだよ!」


「なんだと! これを狙ってやがるのか! だが渡すわけにはいかない!」


 普津男が公園の中を覗いていると、だらしない印象を受ける不幸そうな、自分と同年代の少年が目に入った。その少年は白いスーツに身を包んだ二十代半ば程の男と言い争いをしている。男は髪まで真っ白だ。


(なんだこいつら?)


「ならば死ぬがいい! 喰らえ! 暗黒悪夢無限万華牢獄インフィニティダークナイトメアプリズン!」


 白い男が叫ぶと黒っぽいが決して黒ではなく、もっとおぞましい名状しがたき冒涜的なナニカが男の足元から染み出して少年に襲いかかった。少年はそれに足をとられてしまう。


「しまった! 足が!足が!」


「はははは! そのまま永遠に虚無の彼方で苦しむがいい! 誰も助けになど来ないぞ! このあたりは俺の概念領域でプライマティックマナがドームストリームしてバーストリングランティカライズされている! 神であっても入ってはこれない!」


「くそ! 誰か、誰かがあの油断しまくって隙だらけなあいつを後ろからあそこに落ちている木の枝で殴ってくれれば俺が問答無用都合主義勝利斬デウス・エクス・マキーナで逆転できるのに! 誰かいないのか!」


 言うまでもないがその枝は普津男の近くに落ちており白い男も普津男に背を向けている。


「なんだよこれ……」


 普津男はおもわず驚嘆の声をこぼすと


(映画の撮影じゃん。だから誰もいなかったのか。映画ってこうやって撮ってんのかよすげえな。まいいや、怒られない内にさっさと行こ)


 足早に学校へ向かっていった。途中アスファルトの上に光ってる幾何学模様の落書きあったので、これは良くできてるな〜と思い踏まないように迂回した。






 「あ! 川に仔犬が流されてる!」


 なだらかな川に架かった橋の上で女子生徒が大声を上げた。

 つられて普津男が川を見下ろすと、柴犬の仔犬が乗ったダンボールが流れていた。


「大変だよ! 助けなきゃ! でも私泳げないよ~!」


 言うまでもないが普津男は決心した。


「おーい! 泳沢! 川で仔犬が流されてる。頼む」


 あそこに丁度良くいた水泳部の泳沢に任せるべきだと。自分でやって失敗したら恥ずかしいから。


 華麗に橋から飛び降りた泳沢は難なく仔犬を救出した。


「泳沢くん凄い!」


 熱っぽい視線を送っている女子生徒を見て普津男は


(俺はお邪魔だな。先に行こ)


 と学校に向かっていった。途中で、美男美女のグループが先を歩いていたのだが、彼らが曲がった後に普津男が曲がるとそこに彼らの姿はなかった。その中にいた少女の足を眺めていた普津男は残念に思った。


(もしかして見ているのに気付いて走っていったのか? そういえばさっきなんか角を曲がる前光ったな。写メられたか? 俺ツイッターとかに晒されてたらどうしよう……。変質者とかいって)







 学校にたどり着いた普津男は教室で適当にクラスメイトと駄弁ってホームルームまでの時間を潰す。

 そして、キンコンカンコンと鳴ると教師が入ってきた。


「えー、今日は転校生がいる。おまえらてきとーに仲良くしろ。いじめだけはやめてくれ。面倒くさいから」


 禁煙パイプを咥えた女教師はそう前置きしてから、転校生を教室に招き入れる。


「よーし、入ってこい。角渕」


 入ってきたのは今朝普津男がぶつかった、ツインテール少女だった。彼女は教室の面子を一通り見渡すと、


「えー、角渕パンです。親の都合で転校してきました。よろしくお願いします!」


 自己紹介をしてお辞儀をした。彼女はありふれている普津男の顔など覚えていなかった。

 そして普津男は思った。


(パンって……DQNネームじゃん……)


 普津男もスカートの中を見てすぐに謝罪して去ったので顔など見ていなかった。





 昼休み、普津男は弁当を食べていた。比較的仲のいいと思っているクラスメイト達が今日は別のクラスの生徒と食べると言ったため、今日は独りで食べていた。

 ガラリと教室の扉が開かれる。入ってきたのは今朝公園で見かけた少年だった。妙に制服が傷んでいる。

 少年は窓際の最後尾にある席についた。


「っう。あそこでまさか俺の右手の封印が解けるとはな……危うく街ごと消すとこだったぜ……」


(あれ映画の撮影してた奴じゃん。ウチのクラスの奴だったのか? あんな奴見覚えないけどなぁ)


 それは普津男だけではないようで、他の生徒もざわざわしている。


「誰あいつ?」

「てかなんで服汚れてんの?」

「でもなんかカッコよくない?」

「えーなんか冷たそう」


 自分が注目されていることに気がついた少年は、はっとした顔になって自分の失敗を悟ると、教室中に殺気を撒き散らして黙らせた。


「くそ! 魔力が空になってるから認識阻害魔術の効果が切れてやがる! ああもう、不幸だー!」


 などと意味不明な供述を繰り返していた。


(危ない奴だな。関わらないようにしておこう)


 言うまでもないが少年は右手に包帯を巻いてなにかを封印していた。





 放課後、普津男は帰る準備をしていた。そこに黒髪ロングが現れる。

 黒髪ロングは教室に残っている生徒に一人ずつ話しかけていく。


「私、部活作ろうと思ってるの。あと一人なんだけど入ってくれないかしら?」


「あーごめん俺テニス部の幽霊だから」

「あたしも手芸の幽霊なんだー」

「てかなんで二年のこんな時期に?」


「ちょっとね。分かったわ、ありがとう。気が変わったら教えて頂戴」


 部活の勧誘を断られた黒髪ロングは、普津男にも声をかけに来た。


「聞こえてたかしら? どう? 入ってくれない?」


 普津男は悩む。彼女と同じ部活は魅力的だ。しかし面倒なことはしたくなかった。運動部などは絶対に嫌だった。そこまで考えてから、そういえば何の部活なのか聞いていないことに気がつく。


「そもそも何をする部活なの?」


 黒髪ロングもその言葉で活動内容を伝えていないことに思い至り、バツが悪そうな顔をする。


「私としたことが迂闊だったわね……。部活名はナヤミバスターズよ!」


「は? それ何するの?」


 普津男はポカーンとしてしまう。問われた黒髪ロングは不敵に微笑むと、まさにドヤ顔といった表情で答える。


「ふふん、いいわ説明してあげる。この部は生徒の悩みを解決する部よ」


 そのまま過ぎてさらにポカーンとしてしまう。


「それでどうなの? 入るの、入らないの」


「え、えーと」


 非常に悩ましい問題だった。こんな面倒くさそうな部活には入りたくはない。しかし


(この足を毎日近場で見れるなら……胸ないけど……)


 普津男は決心した。


「うん。じゃあ俺も『ガララ!』にゅ『バン!』「ぶちょー! 相談者を連れてきましたー!」うぶする……」


 一際大きな音で開かれた扉の騒音と続けて発せられた大声で、その下心にまみれた言葉はかき消された。

 それを成したのは、長めの髪をサイドで纏めた小柄で活発そうな少女だ。頭頂部から飛び出したひと房の毛束が一際目を引く。下履きの色で下級生だと普津男は判断した。


「ちょっと! 鹿馬しかばさん! 今、部員勧誘中なんだから静かにして頂戴!」


 しかし咎められても少女は一切気にも止めず捲し立てる。


「ぶちょー! だから相談者なんだってばー! 大変なんですよー! 川でダンボールが仔犬がなんですー! この泳沢先輩が助けた仔犬の飼い主を探さなくちゃいけないんですよ! こっちの橋上先輩も手伝ってくれるみたいなんですー!」


 仔犬と聞いた瞬間から黒髪ロングは態度を変えて真剣な顔をしていた。


「解らないけど分かったわ! とにかくその仔犬のとこまで連れて行って。話はそれからよ!」


 そして黒髪ロングは普津男に向き直ると


「ごめんなさい、この話はまた明日しましょう」


 そう言って勇み足で去っていった。


 言うまでもないことだがその後、橋上と呼ばれた女子生徒が入部したため普津男のもとに黒髪ロングが来ることはなかった。





 帰宅途中、普津男は愛用のスマホをいじりながら歩いていた。


「更新きてねぇかな」


 お気に入りのサイトを閲覧していると突然、道端で叫ぶ。勿論、周りに誰もいないのは確認済であった。


「俺の人生なにも起きねー! 異世界でチーレムしてー! 召喚とか起きろよ! ラノベ展開はよ!」




 そして帰ると、家にトラックが突き刺さっていた


「そっちかよ!」

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