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7:刺刀・ツラヌキとの出会い

 空気を震わすほどの村人たちの歓声が耳に入ってくる。

 日色は片目を閉じながらうるさいなと口を尖らせるが、その声は誰も拾えていない。

 喜色満面の村長が日色の手を取り、涙ながらに感謝する。


「感謝します! 感謝しますぞ!」

「あ、ああ」


 戸惑いながらも返答する。そこにパニスもやって来る。


「き、君は凄腕の冒険者だったんだね?」

「さあな、そいつらが弱かっただけだろ?」

「いやいや、そいつらは《ハリオス兄弟》と言って、冒険者でもかなりの腕前だったはずだよ。札付きだがね」

 ふ~んと素っ気なく頷く。正直コイツらの出生や評価に興味は無い。

 するとバシッとお尻のあたりを軽く殴られたような衝撃が走る。見ればそこにニースがいた。


「なんだよにいちゃん! そんなにつよいんなら、さいしょからたすけてくれたっていいじゃんかよ!」

「これっ、ニース!」


 村長が(たしな)めるが、次の瞬間、日色の行動に皆が驚く。何故ならポカンとニースの頭を小突いたからだ。


「いってぇっ! なにすんだよにいちゃん!」

「言っただろ。オレは正義の味方じゃない。無償で人助けなんかするか。お前らを助けたのは、このオッサンに……いや、オッサンとチビッ子に依頼を受けたからだ。もちろん報酬アリでな」

「え……ココも?」


 するとココは「うん!」と花が咲いたように笑顔を作り大きく頷く。


「それにだ、殴った以上、一回は一回だ」

「なっ!?」


 拳を見せながら言うと、ぶ~っと頬を膨らませるニースは置いておいて、さっそくパニスと話すことにした。無論報酬のことについてだ。


「さてオッサン、さっそく村長には本の件を頼んでもらうぞ?」

「あ、ああ、いいけどさ」


 涙目で頬を膨らませて睨みつけているニースを見て苦笑いを浮かべるパニス。彼が村長に報酬のことを話すと、是非もなく了承してくれた。本は後で持って来てくれるらしい。

 さらに村長からは、宿代も無料でと言われたので、願っても無いと思い受けた。その際に豪華な食事も用意してくれるというので、思わぬ僥倖(ぎょうこう)だった。


「さあ、それじゃ行こうか」

「ん? 何処へだ?」


 パニスにはもう用事は無かったはずだが? そう思い彼を見つめていると、


「何だい、忘れたのかい? 言っただろ、うちの最高の武具を授けると」

「…………報酬はもう用意してもらったはずだが?」

「いやいや、私からの感謝の気持ちをまだ受け取って貰っていない。今は最高に気分が良いんだよ! 是非君に受け取ってほしい!」


 どうやらパニスからも報酬を貰えるらしい。まあ、貰える物は貰っておいて損は無いので、素直に彼の厚意を受けようと思った。

 それからパニスの店に向かって歩いて行くが、人に会う度に感謝される。先程は歓迎されていないムードだったが、今は大逆転ホームランである。


(現金な奴らだな)


 気持ちは分かるが、手の平を返したような態度はあまり好感が持てないと感じる。


「ここがウチの店だ」

「ほう、武器だけでなく防具も売ってるのか」


 店の中を見回して、一通りどんなものがあるのかチェックしていく。


「最高の武具をくれるという話だったが、この店の最高はどれだ?」

「ふっふっふっふっふ。よくぞ聞いてくれた」


 少し笑い方がウザい。思わせぶり感が半端無い。

 彼は店の奥へと行き、しばらくしてから一振りの刀を持って戻って来た。


「コレだ!」

「ほう」

「『刺刀(しとう)・ツラヌキ』という」


 見た目は日本刀そのものだ。長さも日本刀と比べても同等で、違うのは刀身がまるで氷のようにクリアな造形だということだ。

 しかし目を奪われるほど美しいと思ったのも事実だ。光に反射してキラキラと輝いている。


「これは刺すことに特化した刀だ。ちなみに刀ってのは知っているかい? 刀はもともと『獣人族』のある一部の者たちが造ったとされてる武器の一種だ。『人間族』が造る力任せに叩き斬ることを主軸に置いた剣ではなく、刀身を鋭くして力ではなく、速さを活かして獲物を斬り裂くことを主軸に置いたものだ」


 それは日本人である日色は知っていたが、黙って聞いていた。


「この『刺刀・ツラヌキ』も、もちろん切れ味は保証できる。だがコイツの真骨頂は突き! 名前の通り、どんなものでも貫き通すことに特化した刀だ。こんな形だが、頑丈さも折り紙つきだよ」

「これほどの刀をどこで?」

「商人のツテでちょいとな。家宝にしようと思い、今まで大事に保管してきたんだ」

「よくあの二人に取られなかったな」

「それはもう、これは地下倉庫に隠してあったからな」


 胸を張りながら自慢するように言う。それだけ大事なものなのだろう。


「しかしいいのか? これは家宝なんだろう? つまり売り物じゃない。オレは店の最高の武具と聞いたが?」


 店頭に並んでいない以上、この刀は店とは関係無いだろうと思った。


「いや、確かに惜しいが、君になら託せる気がするんだ」

「……買い被りだと思うが? オレは好き好んで奴らを討伐したわけじゃない。あのガキにも言ったが、オレは正義の味方じゃないしな」

「そんなこと関係あるもんかい」

「ん?」

「君はこの村を救ってくれた。過程はどうであれ、その事実だけでも我々にとっては最高に喜ばしいものだよ」


 再び刀を見つめる。そして何故かその刀を手にしてみたいと思っていた。


「……いいのか?」

「ああ、受け取ってくれ」

「分かった。じゃあ頂くとしよう」


 両手で『刺刀・ツラヌキ』を受け取る。初めて手にしたのにも拘らず、まるでずっと使っていたかのように手に吸い付いてくる。

 腰に身に着けると、これまた不思議としっくりとくる。つい頬が緩みそうになる。やはり日本男児なので、日本刀を腰に差すのは結構嬉しかったりするのだ。


(こんなとこで、嬉しい誤算と出会えたな)


 レベルも上がったし、良い刀とも巡り会えたし言うこと無しだった。再度パニスから礼を言われて、そのまま店を後にする。今日はもうすることが無いので宿に戻ることにした。

 だがその最中に目の前に立ち塞がった人物がいた。


「にいちゃん、ちょっといい?」


 ニースだった。隣にはココもいる。

 日色が大きく溜め息を吐くとニースは怒ってくる。


「こら! なんでそんなめんどくさそうなかおするんだよ!」

「…………はぁ」

「ほらまたぁ!」


 指を差すなと言いたいが、構っていると時間が幾らあっても足りなさそうなので早く要件を聞き出して終わろうと思った。


「何の用だガキ」

「ガキガキいうなよぉ! こうみえても七さいだぞ!」

「ああ、立派なガキだな」

「むき~っ!」

「もう、村の恩人さんだよニース」


 ココがニースを窘める。


「それはわかってるけど、こどもあつかいすんなぁ!」

「……はぁ、一体何の用だ?」

「……なまえ、おしえてよ」

「……は?」

「だからなまえ! とうさんにきいてこいっていわれたから!」

「父さん? 誰だ?」

「このむらのそんちょうだよ」

「…………お前村長の息子だったのか?」

「ふふん、いいだろ~」


 自慢気に言ってくるが、少しも羨ましくなんて無い。ココも呆れた感じでニースを見つめている。


「あ~はいはい、すごいな~、もうびっくり~、ちょ~すご~い」

「…………にいちゃん、ぜったいそうおもってないよね?」

「まあな」

「すなおにみとめたっ!?」


 ガ~ンとショックを受けたように口を開けているが、本当にこのままだと時間がかかるので、仕方無く教えることにした。


「日色だ。こっちではヒイロ・オカムラだな」

「ヒーロー……か、かっけえな! にいちゃん!」

「う、うん!」

「はあ?」


 急に二人が目を輝かせて言ってきたので、意味が分からなくてキョトンとする。


「そっかぁ~、にいちゃんはヒーローなのかぁ~」

「……何だかよく分からんが、村長に伝えに行くんだろ? 早く行かなくていいのか?」


 どうでもいいから早くどこかに行ってほしい。


「あ、そうだった! いまとうさんがアイツらをしばりあげてるから、てがはなせねえんだった! んじゃまたね、にいちゃん!」

「はいはい」


 元気に手を振って走り去って行くニースを見て若いなぁと思うのは、自分はあまりにも達観し過ぎてやしないかと思い首を振る。自分だってまだ十六歳なのだ。

 だが不思議なことにココは彼を追うわけではなくその場にいた。


「……どうした?」

「あ、あの……これ!」


 そうして手渡されたのは小さな包み紙だった。反射的に受け取ると、何だかそこから甘い香りがした。


「あ、あのね……おれい!」


 そう言って「えへへ」と嬉しそうに微笑むと、恥ずかしそうにニースの後を追っかけて行った。そして途中で止まったかと思ったら


「ありがと~、おにいちゃ~ん!」


 そう叫ぶと再び走り出した。どうやら依頼料である手作りのお菓子を頂けたようだ。包み紙を開けると、一口大のクッキーが何枚か入っていた。

 温かくはないので、今作ったものというわけではないらしいが、口に放り込むと果実の甘さに、ポリポリとした食感が楽しめた。


(まあ、ガキにしてはマシな依頼料だったな)


 宿に帰ると、これまた別人格かと思うほどの違いを見せつけてくれた宿主がいた。

 村長が言っていたように、豪勢な夕ご飯も作ってくれていたようで、こちらとしてはありがたいが、ここまでちやほやされると、何だか気持ちが悪く感じるのは、自分の性格がひん曲がっているせいだろうかと思い首を振る。


 しばらくして、今度はニースが村長とともに現れた。事後処理のせいでしっかりとした感謝を述べていなかったと駆けつけたらしい。その時に村長からは確かに本を渡された。


「これは差し上げます。こんなものしかございませんがお許し下され」


 その本は確かに古い本であり、見た感じこの世界の伝記のようだ。この【イデア】の歴史に興味を持っている日色にとっては最高の報酬だった。

 そのまま本を部屋に置くと、旅支度を整えるために、食糧を買いに出かけたのだが……。


 村を出歩けば村人からわざわざ感謝の言葉を向けられ、いちいち返答するのがさすがに鬱陶(うっとう)しくなった日色は宿の部屋に籠ることにした。

 体力的には全然疲れてはいないが、精神的に疲弊(ひへい)しているようだ。

 ここで改めて《ステータス》を確認しておくことにした。


ヒイロ・オカムラ

Lv 20


HP 320/320

MP 900/900

EXP 5672

NEXT 520


ATK 139(200)

DEF 100(115)

AGI 210(212)

HIT 112(120)

INT 189(193)


《魔法属性》 無

《魔法》 文字魔法(一文字解放・空中文字解放)

《称号》 巻き込まれた者・異世界人・文字使い・覚醒者・人斬り



 疑問に思うことがある。まず最初にこの《ステータス》の上がり度が異常過ぎる。確かレベルが上がるまでは18だったので、一気に2も上がったのは嬉しいことだ。

 しかしつい先程までHPは200もいかないくらいだったのだ。MPだって、その他のものだって、ほとんどが二ケタのままだったはずなのだ。

 それがいきなり2レベル上がったからと言ってこれは異常である。


(いや、こっちとしては嬉しいが、何が……)


 そう思い称号に目が行く。そこで《覚醒者》が気になった。《人斬り》はデブガリコンビを斬ったからついたのだと判断できる。

 しかし前者の方は理由が分からない。とりあえずクリックして内容を見てみる。



《覚醒者》

 異世界人補正。レベル20になると全てのステータスに大幅な補正がつく。これからはレベルが上がる度に少しだけ補正がつくことになる。



 おお~何というチートと思わず溢してしまったのは許されるだろう。さすがは異世界人だ。勇者でなくても、これだけの恩恵があるとは嬉しい限りだった。

 次に気になった《文字魔法》の《空中文字解放》だ。



《空中文字解放》 消費MP 100

 魔力で空中に文字を書けるようになる。使用する時は、対象物に触れて発動。また書いた文字を飛ばし、文字によっては空中で発動させることも可能。しかし矢のように真っ直ぐにしか飛ばせない。



 よく分からないので実際にやってみることにした。

 魔力を指先に集中して、いつも地面に書く要領で空中に書くようイメージする。すると青い光の文字が出来上がる。文字は『浮』だ。

 そのまま指を動かすと、文字も一緒についてくる。ちょうどそれを部屋にあった花瓶に向けて飛ばすイメージをした。


 引き金を引くイメージを想起(そうき)させると、文字が真っ直ぐ花瓶に向かって行く。そして当たった瞬間、そのまま花瓶に張り付いた。

 さらに発動と念じると、花瓶が浮くという驚くべき現象が発生した。


「おお、これは便利になったな」


 これならいちいち地面に書いて罠を張ったりしなくても、相手に向かって放ち、攻撃することが可能になる。

 どんどんチート化していく自分の力に少し呆れつつも、何だか楽しくなってくる日色であった。ちなみに浮いていた花瓶は一分ほど経ったら自然と落ちた。



     ※



 翌日ニースが村長たちと一緒に、もう一度日色にお礼を言おうと宿の前で待っていたら、慌てて宿主が出てきた。


「ど、どうしたんだ?」

「そ、それが……」


 日色が泊まっている部屋を確認した宿主から説明を受ける。


「何だと!? 彼がいないっ!?」


 実をいうと日色はすでに朝早く、日が昇る前に村から出て行ったのである。理由は言わなくても分かると思うが、この状況を予想していたからだ。

 それに国軍が来たら、めんどくさそうになるということも判断したようだ。


「何ともまあ、我々がどれほど感謝しているか知らずに……」

「な~んかにいちゃんらしいけどな~」


 ニースは笑いながら言う。パニスとココもうんうんと頷いている。


「またいつかあえるかな、ヒーローのにいちゃんに」

「うん、またあいたいなぁ~」


 村長はニースとココの頭を()でながら答える。


「きっとな。あの方は我々の英雄だからな」


 村長の言葉に、皆が頷きを返していた。







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