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4:モンスターとの戦闘

「ヒイロ・オカムラ様のクエスト内容をご確認致します。受注クエスト《フクビキ草の採取》、ランクF。こちらに対象を提示して下さい」


 受付嬢に言われて、袋から取り出した《フクビキ草》を大きな秤の上に置く。


「………はい、二十二束分ですね。では報酬として7700リギンになります。カードの提示をお願い致します」


 カードを手渡すと、どこかに行ってしまった。しばらくすると戻って来てカードを返してくれる。

 カードの貯蓄金額欄を見てみるとなるほど、先程まで0だった数字が7700となっていた。


「これでクエスト完了致しました。お疲れ様でした」


 丁寧に頭を下げると、変わらずの営業スマイルを向けてくる。それを一瞥して小さく頷くとギルドから出て行った。


(さてと、金は一応手に入った。とりあえず飯にするか。こっちへ来てまだ何も腹に入れてないしな)


 街人に聞き、飯屋を訪ねていく。この【人間国(にんげんこく)・ヴィクトリアス】は、広大な城塞都市として成立している。

 商業区、工業区、歓楽区、居住区と区画に分けられ、多くの人物が住んでいるのだ。一つ一つの区が大きく、まるで幾つもの町が一か所に凝縮された造りになっているみたいだ。


 商業区へ行き飯屋を探し、途中見つけた飯屋に入る。そこは美味い魚料理を食わせる店のようだ。魚は好きな方なので、ここに決めてメニューを見る。

 だがどれもやはり見たことのない料理名が書かれてある。よく分からないのでオススメと書かれてあるものを注文することにした。値段も手ごろだったし。


「は~い、『やみつき海鮮麺』一丁ですね! かしこまりましたぁ!」


 元気よく店員が注文を取る。料理が完成する間に、《ステータス》を確認する。

 そこで気になったのはMPだ。《文字魔法》を三回使用して、残りは30だったはずだが、40まで回復している。

 これは恐らく体力と同じく、身体を休めていると回復するのだろう。しかし使用してから一時間以上経過して、回復したのが10なので、効率が良いとは言えない。


(まあ、休めているとはいっても、MPを使っていないだけで街の中を歩き回っていたからな)


 多分本当の意味で仮眠をとったりして、身体を休めれば回復量も違うだろう。そう考えていると、湯気を上げながら料理が到着する。

 器にはたっぷりの海鮮が見え隠れしていた。

 イクラのような魚の卵に、エビのようなもの、昆布やワカメのようなものも大量に投入されている。箸を入れてかき混ぜてみた。


 すると強烈な海鮮の香りが鼻腔をくすぐる。瞬間お腹が警報を鳴らす。早く流してこいと言わんばかりだ。フカヒレのような高級そうなものを一かじりする。


「んお!」


 つい声を漏らしてしまった。ヒレには味がよく染み込んでいて、口の中に魚の味が広がっていく。臭みなど無く、物凄く後を引く美味さだった。

 レンゲでスープを掬い飲んでみる。これはもうスープだけでメニューに載せられるほどのものだと感じた。大量の海鮮の出汁が流し込まれたソレは、注意しないと一気に飲んでしまうほど喉越しが良い。あっさり感が半端無い。


 次は麺だ。何やらよく見ると細かい粒のようなものが練り込まれてある。一口食うと、これまた口一杯に海の味が広がっていく。

 この麺には魚をすり潰して練り込んであるみたいだ。まさに海鮮麺というわけだ。


(なるほど、これはやみつきになってもおかしくは無いな)


 ものの数分で平らげてしまった。あと二、三杯はいけると思ったが、金にも限りがあるので我慢することにする。しかしこれで450リギンは安い。

 それに何だか体が先程よりも軽い感じがする。どうやら食事をしたことで精神が充実しMPが回復してくれたようだ。無論HPも同様に回復した。


(うん、やはり美味いものはそれだけで正義だな)


 満足気に余韻(よいん)に浸ったその後は宿を探して、しばらくは金集めとレベル上げに集中するかと思いこれからの予定を立てた。







 翌日さっそく朝起きてすぐにギルドへ行き依頼書を見て、あるクエストを選んだ。


 ゴブリン討伐 E

 クリエールの森に生息するゴブリンを十体討伐望む。

 報酬 35000リギン


 このクエストは昨日も確認済みだった。初心者には手頃で、しかもなかなかに報酬が良い。

 少しレベルを上げてからにしようと思っていたが、向かう途中にでもレベルは上げられると思い選択することにした。それに魔法も試したいし。


「ゴブリンは最弱級のモンスターですが、群れで襲い掛かって来ますのでご注意下さい」

「ああ」


 受付嬢に素っ気なく答えるとギルドを出る。そのまま街の外へと向かいたいところだが、購入するものがあるので商業区へと足を運ぶ。

 そこでは武器を購入することにして、値段と使い易さを考慮してソリッドナイフという武器を手に入れた。


 防具はどうしようかと思案する。

 盾でも購入しようかと悩んでいたが、いざとなったら《文字魔法》を使えばいいかと判断し、このまま出掛けることにした。


 街から出て西にある【クリエールの森】を目指す。

 そこは【トール街道】という道を真っ直ぐ行けば到着できる。

 昨日宿屋を探している途中に雑貨屋へ行き、一応HP回復薬として《カリカリ豆》を五つに、MP回復薬として《蜜飴(みつあめ)》を三つ、そしてこの世界の地図を購入した。


 必要経費とは言っても、ナイフも予想以上に高くて、これでものの見事にすっからかんになってしまった。

 是が非でもクエストを達成して金を得なければ野宿になってしまう。それはそれで楽しそうだが、いきなりド級の貧困生活は勘弁してほしかった。


 しばらく歩いていると目の前に変な物体があるのを発見する。


(何だコレ……?)


 大きさはバレーボールくらいだ。しかし形は決まっていなく、プニプニウネウネした水色の物体が目の前で立ち塞がっていた。


(おいおい、コイツってまさか……?)


 あのRPGで有名な初心者用のレベル上げモンスターである    


「スライムかっ!」


 興奮気味に声を出す。するとその声に驚いたのか、急にこちらへ向かって突進してくる。


「おいおい、いきなり戦闘開始かよ!」


 鞘からソリッドナイフを抜く。相手の動きは遅い。しかしあんな気味の悪そうな感触で体当たりされたらと思って寒気がする。

 モンスターが跳び上がった瞬間、それに目掛けてナイフを振り下ろす。ブシュッとあまり手応えは感じなかったが、スライムらしきものは真っ二つになった。

 二つになったソレはまだウネウネと動いていた。ハッキリ言って気持ちが悪い。


「まさか分裂して二体になりましたとかじゃないよな?」


 それだと刃物が効かないということなので、どうしようかと思案していると、モンスターは苦しそうに地面の上でウネウネと動き回り、やがて停止した。


 恐る恐るナイフで突いて確かめてみる。…………動かない。


(あ、いやそんなことよりもコッチで確かめた方が早いか!)


 そう思い《ステータス》を開く。するとNEXT(レベルアップまでの経験値)が10だったのに、今では8になっている。

 経験値が入っているということは、モンスターを仕留めたということだと判断する。


「おお~、というかやはりモンスターだったんだな。ゴブリンと同じく最弱級のモンスターだろうな。経験値たったの2だし」


 だが初めてのバトルで勝利を収めた感覚は、何だか充実感があった。少しは心が痛むかと思ったが、案外平気だった。


「……やはりまだゲーム感覚……というかどことなく他人事みたいな感じだな」


 冷静に分析していると、またも背後からガサガサッと音がする。振り向くとそこにはまたもスライムがいた。しかも今度は三匹だ。


「これはレベル上げにはもってこいだ。だがどうせなら四匹出てきてくれよな」


 それならレベルアップできたのにと内心で舌打ちする。するとそれをあざ笑うかのように背後からもスライムが三匹現れる。日色は完全に囲まれてしまった。


「おいおい、初心者にいきなり挟み撃ちか?」


 愚痴を溢しながらも、まずは目の前の三匹を倒すことに専念する。一匹、二匹と剣でぶった斬ったところで、ドスッと背中に衝撃が走る。

 どうやらスライムの突進攻撃を受けてしまったようだ。


「くぅ……案外痛いなこれは……」


 普通に誰かに殴られたような衝撃である。少し離れて《ステータス》を確認する。するとHPが3も減っていた。


「これはウカウカ遊んでる場合じゃないか」


 気を引き締め直してナイフを構える。二匹同時に突撃してきたので、それを避けて一匹を即座に斬り裂く。だがまたも背後に他の二匹が迫ってくる。


「痛いのは勘弁だからな!」


 振り向き様にナイフを振ると、二匹同時に斬ることができた。あと一匹。日色は自分から突っ込み絶命させる。

 頭の中でピッピッピロロロロ~ンという力が抜ける音がした。

 ――《ステータス》を開く。

 もしかしたらと思っていたが、やはりレベルアップの音だったらしい。レベル2になっていた。


「やはりさっきの音はレベルアップした音か。それにしてもMPの上がり方が凄いな。一気に25も上がるなんてな。ま、こっちとしては大歓迎だが」


 しかし、このレベルのシステムというものはどういった基準で設定されているのか疑問に思った。

 国王たちから説明されたのは、この《ステータス》というシステムは、この世界を作った神が作ったとされているらしいということだ。


(神とやらの存在が本当にいるか分からんが、詳しいことは国王もよく分からんとか言ってたし、今は気にするようなことでもないか)


 そのまま現れてくるスライムを倒しつつ【クリエールの森】へと向かった。







 【クリエールの森】に着いたはいいが、どこにゴブリンがいるのか分からなかった。

 あれから何度かスライムを倒してレベルは3に上がっていた。


 仕方無く、周囲を警戒しながら森を進んでいく。迷わないように木に傷をつけていく。帰る時はコレを目印にすればいい。

 するとまたガサガサっと茂みが揺れる音がする。ゴブリンかと思い構えたが、またもスライムだった。


「……またお前か」


 そろそろ飽きたなと思いながらも瞬殺する。もう慣れたものだ。

 クエスト内容はゴブリン十体討伐。倒した証拠として《ゴブリンの歯》を持って帰る必要がある。

 ちなみにスライムも一応討伐部位として《スライムの身》があるのだが、そんなものは気持ち悪くて触りたくなかったので放棄した。


 森を進み、歩いているとまたもスライムが現れる。

 しつこいなと苛立ちを覚えた瞬間、横の茂みから何かが現れた。そして武器のようなもので殴りかかってくる。


 ――ブオンッ!


 咄嗟に体を傾けて避けたが、空気を震わせたその音を聞いてじんわりと冷や汗を流す。


(あ、危なかったぁ……そうか、あれがゴブリンだな)


 図鑑で見せてもらったモンスターの姿と一致した。身形は人間の子供のように小さいが醜悪な顔をして、手にはゴツゴツした棍棒を持っている。


(アレで殴られたらかなり痛いだろうな……)


 ゴブリンを睨みつけていると、背後にまたも衝撃が走り(うめ)き声を上げてしまう。スライムのことを完全に失念していた。しかもその隙にゴブリンも向かって来る。


(くっそ! 確かゴブリンは群れで行動するんだよな。ノロノロしてられないか!)


 ソリッドナイフを構え棍棒を受ける。ギギギと歯ぎしりするような声を出すゴブリン。

 その口元から(よだれ)が垂れている。

 絶対に噛みつかれたくないなと強く思い、蹴りを与えてゴブリンを前方へと飛ばす。


(ふぅ、人のような姿をしたモンスターか……()れるか……オレに?)


 自分に問いかけ目を細めながらゴブリンを見つめる。無論日本にいた時、殺人などしたことはない。虫を殺したことはあっても動物はない。

 そんな自分がモンスターとはいえ、人の姿に似た生物の命を奪うことができるか不安だった。


「……はぁ、オレはここで生きていくつもりだ」


 自分に言い聞かせるように言葉を吐くと、ギロリと敵を睨む。


「悪いな……オレの(いしずえ)になれ」


 全力で大地を蹴りゴブリンに向かう。何故か知らないが、日色はAGI(素早さ)が高い。ゴブリンはそのスピードに面喰ったかのように動かない。


 ――ブシュゥゥゥゥゥッ!


 ゴブリンの首を寸断するが、噴き出した血の量とニオイに少し吐き気を感じる。

 しかしそれは胸の中に呑み込み、キッとゴブリンを睨む。


「くっ! 次はお前だ!」


 そのままスライムも倒す。するとまたもレベルアップの音が頭の中で鳴る。これでレベルは4になった。順調に上がっている。

 だが喜びも束の間、前方からぞろぞろとゴブリンが姿を現してくる。どうやら先程の戦闘で気づかれたようだ。


 だがコレを待っていたのだ。魔力を指先に集中する。

 そして地面に素早く文字を書く。ゴブリンが数体纏めて向かって来る。


(よし……そのまま来い!)


 すぐ目の前までゴブリンが来た時、


「発動しろ《文字魔法》!」


 叫ぶと文字から放電現象が起きる。そして次の瞬間、地面から鋭いものが複数出現し、ゴブリンの体を突き刺していく。


「ハハ、成功したみたいだな」


 ゴブリンは痛みに歯を噛み締めながら必死に動こうとしているが思い通りに動かせない。次第に動きが止まり絶命していく。


 書いた文字は『針』。範囲は『硬』の時と同じく書いた所から前方に畳で四畳くらいの大きさだ。そこにゴブリンたちが入ってくるのを待っていた。

 まるでサボテンのようになった地面は、そこに入って来たゴブリンたちを刺殺(しさつ)した。


(くぅ……思ったより精神的にきやがるな)


 ゴブリンたちは貫かれた部分から(おびただ)しい血液を流している。

 それを見てこれが実戦だということを強く意識させられた。

 これは自分がやったこと。そして下手をすれば自分もこうなる。それを強制的に理解させられたのだ。


(ふぅ、とにかく今はまずやることをやる!)


 こんなところで死ぬわけにはいかないし、逃げたくも無い。だから攻撃意思を宿してすぐに次の行動に移る。まだまだ周囲にはゴブリンがいる。

 だが日色の奇妙な攻撃に戸惑っているのかなかなか攻めてこない。


「それじゃ次の実験だ」


 そう言いながら今度は拾った石に文字を書く。

 今度は『止』だ。上手くいけば相手の動きが止まるかもしれない。

 その石をゴブリン目掛けて投げつける。それがゴブリンの肩の辺りに当たった瞬間に発動する。


「止まれ! 《文字魔法》!」


 こうして声に出して言っているが、別に心の中で念じても発動することは確認してある。

 だがこうやって言葉に出した方が雰囲気が出るので、つい恥ずかしげもなく言ってしまうのだ。


 しかし止まったのは石だった。石は空中で時間が止まったように動きを止めている。


(なるほどな、魔法を流すことはできないか)


 石に書いてしまった以上、その石そのものにしか効果は反映されないのだと判断した。

 できるなら石に書いた文字の効果がゴブリンにも効いてほしかったが、そんな都合良くはいかなかったようだ。石そのものにしか効果は無く、その効果をゴブリンに流すことはできなかった。


(なら次だ!)


 今度はナイフの刀身に『伸』と書く。更にナイフを構えて体をコマのように回転させる。


「伸びろ! 《文字魔法》!」


 瞬間、刀身は何倍にも伸びて、距離を取っていたはずのゴブリンたちはその刃に体を斬られる。

 これで一気に三体を仕留めた。残りは見たところ三体いる。


「クエストだと十体だからあと二体でいいが、全員逃がしはしないぞ!」


 長くなったナイフを振り回しゴブリンたちを(ほふ)っていく。

 途中でレベルアップの音が鳴り響いたが気にせず倒すことに専念する。


 全て倒し終わった後、《ゴブリンの歯》を回収するために動く。

 上顎の一つだけ黒く尖っている歯を取ればいいとのことだった。その前に『元』の字を使ってナイフを戻した。


 回収し終わり、途端に全身を脱力感が襲う。MPもすっからかんだ。なのでMP回復薬である《蜜飴》を口にする。ほんのり甘い飴だった。体の脱力感が少し和らぐ。


(そういや、地面も元に戻せるか試しておくか)


 回復はしたので『元』の文字を使うと、思った通り地面も元通りになった。

 しかしこれだけ動いたのも久しぶりだが、やはりモンスターとはいえ虐殺に近いことをしたのが精神的に堪えている。


「ふぅ、オレはもっと感情が乏しいと思ってたんだがな」


 大量の血のニオイ、肉を斬り裂く感触、断末魔の声、死体、どれも平和な国に住んでいた日色にとっては凄まじいほどの衝撃を与えるものだった。

 やはりこれはゲームではないと、痛々しいまでに現実感を突きつけてくる。

 思ったよりも体も疲弊しているようで、一所(ひとところ)で腰を下ろし休憩することにした。

 だがガサッと音がして、何かがこっちに来ている足音がする。ゴブリンだった。


「ふ~、なるほどな。慣れるまでやれってか……」


 諦めたように大きく息を吐き、キッとゴブリンを睨みつける。


「ならやってやろうじゃないか! どんどん来いよ! オレを慣れさせるぐらいなぁ!」


 半ば自棄気味になりながらナイフを振るっていく。







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