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金色の文字使い ~勇者四人に巻き込まれたユニークチート~  作者: 十本スイ
終章 ヤレアッハの塔編 ~金色の文字使い~

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252/281

252:偉大な者たちが託せし世界

 ――――――【グレン渓谷】。


 深く霧深いその谷の中にはドゥラキンとドウルが住む屋敷が存在する。そしてその屋敷の周りに高く聳え立っている三つの塔。

 今、ドゥラキンはその一つの傍に立っていた。


「……ドウル、照準と誘導は任せるんじゃて」

「……本当によろしいんですね?」


 いつもテンションの高いドウルが、深刻そうな表情を浮かべている。


「……うむ。これが儂の最後のお役目なんじゃて」

「…………分かりました」


 ドウルが悲しげに目を細めた後、塔に両手をかざし始めると、塔の周囲を青白い魔力が覆った。

 ドゥラキンが大きく深呼吸する。


「……アダムスよ、これで約束を果たそう」


 塔に触れたドゥラキン。突如、耳鳴りのような高い音が周囲に響き渡る。


「……この三つの塔は、ただ装飾で建てたものではない。こういう事態に備え、儂が千年以上かけて力を注いで作り上げた三つの槍、その名も《魔槍・グングニル》!」


 ドゥラキンの魔力が注がれ始めると、塔の形が変化していく。槍と名付けるように、鋭い先端を成している一本の巨大な槍と化した。


「《第一・グングニル》――――発射じゃっ!」


 音すらも超える超速で一瞬で遥か雲の上まで飛んでいく《第一・グングニル》。クンッと方向転換し、放物線を描きながら、ある一点を目指し滑空していく。


 目指す先は【獣王国・パシオン】。

 ターゲットは――青竜。



     ※



 不意にミュアの耳がピクリと動いた。


「……何か来ます!」


 ミュアの視線の先、それは遥か上空。その場にいたレオウードたちも同様に視線を向ける。

すると雲を貫いて物凄い速度で突き進んでくるものがあった。真っ直ぐこちらに向かっている。


「いかんっ! 皆の者ぉっ、ここから離れるのだっ!」


 レオウードの声と同時に全員がすぐにその場から離れる。あのような巨大な物体が、凄まじい速度でこの地に落ちたら被害は甚大になる恐れが高い。


(で、でも、大丈夫な気がする。アレがドゥラキンさんの言った証拠なら……!)


 そう思う理由は、あの物体からは嫌な感じがまったくしないからだ。敵意はミュアたちに向いていない。だからこそ、ミュアは安心できている。

 飛来した物体は大地に突き刺さる前にクイッと方向転換して、今度は真っ直ぐ青竜へと向かって行った。


「槍……っ!?」


 その正体に気づき、ミュアは目を見開く。ただ気づいたと同時に、槍は青竜と衝突していた。青竜の殻は相当に防御力が高い。なので、飛んできた槍も空で止まっている。


「……失敗……?」


 そうミュアが思ったのも束の間、槍の後方部分から、まるでジェット噴射のように魔力が放出し――――――バキッ!

 殻にヒビが入ってからはまさに一瞬だった。巨大な槍は殻を突き破り、そのまま青竜の身体に突き刺さった槍は、その勢いのまま青竜を上空へと押し上げていく。 


 雲を越え、宇宙にも届くのではと思われた場所で、槍は一気に膨れ上がり爆発を引き起こした。

 天から降り注ぐ巨大な爆音と爆風に思わず身を硬直させたミュアたちだが、次第に静寂が場を支配していくにつれて、


「…………倒した……の?」


 と、ミュアが最初に呟いた。


“青竜撃破なんじゃて”


 不意にドゥラキンの言葉が皆の耳に届いた瞬間、兵士たちが一気に弾けたように歓声を上げた。

 それもそのはずだ。国の最高戦力を注ぎ込んでも倒せなかった相手を仕留めたのだから。

 だがその中で、アノールドがまだ釈然としない様子で口を開く。


「け、けどよぉ、ホントに青竜は死んだのか? いきなり甦ったりしねえだろうなぁ」

「大丈夫だよ、おじさん。ドゥラキンさんの言う通り、青竜はもういないよ」

「へ? 何でそんなこと分かるんだ?」

「青竜の力をもう感じないから」

「…………俺にはまったく感じねえ」

「鈍いからな、お前は」

「うっ、だ、だったら師匠は感じるんですか!?」


 アノールドがムッとした表情でララシークに言うが、彼女はツーンとした感じで顔を背けているだけ。アノールドは「……師匠……」とジト目で睨んでいるが。


「ドゥラキンよ、礼を言うぞ」


“言ったはずじゃて、現獣王よ。こんな事態に儂は備えておったと。じゃから、安心してお主らは玄武のもとへ向かってほしい”


 彼の言葉は証拠を見せたことにより説得力を生んだ。


「だ、だが、先の戦のせいもあってか、《転移石》の数も限りが出ている。とても我々の戦力をすべて魔界へ向かわせることができぬ」


 アヴォロス戦で多大に消費したため、残り少なくなっていたのだ。そしてそれは【ランカース】や【ハーオス】にも言えること。

 いくら急いだとしても、魔界までは時間がかかってしまう。間に合わなくなってしまう確率の方が高い。


「――――だったら……俺がみんなを……運ぶ」


 そこに現れた人物を見て、ミュアが目を丸くする。


「カ、カミュさんっ!? ど、どうして!」

「……一族の者たちが……行ってこいって」

「そ、そうなんですか?」

「うん。もう暴れ出したモンスターはいないからって」


 確かに一時期、アヴドルのせいでモンスターが暴れていた。カミュは一族を守るために、砂漠に待機して戦っていたのだ。


「まだ安心はできない……けど。でも……みんながお前だけでも……力を貸してやれって……言ってくれた」

「ありがとうございます! レオウード様! これで《転移石》の問題はなくなりました!」

「む? どういうことだ、ミュア?」


 カミュがこの場にいる者たちを、同時に転送させることができることをミュアが教えると、レオウードも嬉々とした表情を浮かべ、


「そうか! ではカミュよ、ワシらを送った後、【ランカース】にも行って、ジュドムたちを玄武たちのもとへ送れるか?」

「……任された」 


 これで問題ごとがなくなった。あとは魔界へと向かうだけ。


 そして【人間国・ランカース】に存在する白虎についても、ドゥラキンの力を証明させ打ち破ることができ、ジュドム率いる人間側の戦力もまた、カミュの力によって魔界へ赴くことになる。



     ※



「げほっ、げほっ、げほっ!」

「ドゥラキン様っ!」


 二発目の《グングニル》を放って白虎を仕留めた直後、ドゥラキンは吐血した。慌ててドウルが介抱に向かおうとするが、ドゥラキンはサッと手を上げてそれを制した。


「ま……まだ……仕事が……残っておる……」

「ですが! これ以上、《グングニル》に力を注ぎ込めばお命が!」

「……言ったはずじゃて。覚悟は……できておると」


 ドゥラキンは、最後に残された塔を見つめる。


「はあはあはあ……。三つの塔には、儂の寿命……生命力も刻み込んでおる。失敗は許さんれんのじゃて。アダムスが守りたかった世界は……儂が礎となっても守らねば……!」


 フラフラになりながらも立ち上がり、ドウルに支えながらも最後の塔のもとへ向かうドゥラキン。悲痛に歪むドウルを尻目に、ドゥラキンはただ前しか向いていない。


「これで……最後なんじゃ…………もってくれよ、儂の身体よ」


 だが塔に触れて魔力を注ぎ込んだ瞬間、ドゥラキンの血管から血が噴き出てしまう。


「あっぐぅぅっ!?」

「ドゥラキン様っ! もう身体が限界のはずですっ!」

「……くっ……あと一回なんじゃて……頼むから……踏ん張ってくれ……儂の身体ぁ」


 口から、いや全身から血を流しながらも魔力と生命力を塔に注ぎ込んでいくドゥラキン。塔は徐々に槍へと変化していくが……。


「ぐ……槍に変化するのが遅い……がはっ!」


 再び吐血。ドウルがドゥラキンの名を叫ぶ。


(……意識が……遠ざかる……! まだじゃ……最後の一撃……。アダムス……力を貸してくれ……!)


 しかし身体はほとんど言うことを聞かず、変化した槍も中途半端な形で止まってしまっている。このままでは威力がガタ落ちしてしまうので、この状態で放つわけにはいかない。

 するとその時、ドゥラキンの背中から温かいものが流れる感覚が伝わってきた。

 何事だとドゥラキンは意識を向けると、


「…………ホオズキ……か」


 そこにいたのは【スピリットフォレスト】の長にして『精霊王』を冠しているホオズキその人だった。

 いや、彼だけではない。多くの『精霊』たち。そして彼の傍には『妖精女王』であるニンニアッホの姿も見える。


「ほれ、もう少しなんじゃろ、最後まで頑張らんかい、ドゥラキン」

「……はは、アダムスと一緒で、相変わらず厳しい奴じゃて」


 アダムスと契約した『精霊』であるホオズキのことはもちろんドゥラキンは知っていた。アダムスが彼と契約を破棄してからは会ったことがなかったが、こうして再会できて懐かしさが込み上げてくる。


「まったく、【グレン渓谷】に舞い戻ってきたというのに、一向に顔を見せぬとは、薄情な奴じゃのう、お主は」

「忙しかったんじゃから、仕方ないんじゃて」


 友人。いや、親友と呼べるような間柄だった。互いに微笑を交わした後、すぐに表情を引き締め直したホオズキが言う。


「我ら『精霊族』が、お主に力を注ぎ込む。最後の大仕事、見事完遂してみよ!」


 彼の背後には数多くの『精霊族』が姿を見せている。


(……そうか、これが……アダムスが大切にしていた繋がりというもんなんじゃて)


 ドゥラキンは心に沁みてくる温かさを感じつつ、塔にすべての想いを注ぎ込んでいく。

 これだけの繋がりに支えられている頼もしさを覚えながら、ドゥラキンは清々しい表情をのまま一言  放つ。


「《第三・グングニル》――――――発射っ!」

 

 

     ※



 ドゥラキンが『精霊族』の力を借りて放った《グングニル》が、空を越えて魔界へと突き進む。

 ドゥラキンから説明を受けていたイヴェアムたちは、他大陸に現れた《四天魔》たちが、彼の力によって倒されたことを聞いていたので、それまで相手していた朱雀と距離を取って見守っていた。


 すると空気を斬り裂くような音とともに、空から真っ直ぐ巨大な槍が突っ込んできた。


「皆っ! 一応防御態勢を整えろっ!」


 イヴェアムの命に、兵士たちが攻撃に備えて身構え始める。

 《グングニル》が朱雀の殻を貫き、中にいるであろう朱雀の身体に突き刺さると、他の二体と同じように、そのまま雲の上まで運んでいき、爆発を起こし木端微塵にした。


「…………上手くいったようね」


 空を見上げながら、朱雀の魔力を感じないことにホッと胸を撫で下ろしたイヴェアムと、その場にいる兵士たち。


「あとはドゥラキン殿の言うように玄武を、三国が力を合わせて倒すだけ!」


 イヴェアムは全員を引き連れて、玄武がいる国の左側へ向けて急いだ。



     ※



 三発目の《グングニル》を放った後、ドゥラキンは力尽きたように倒れてしまった。同時に、屋敷の周囲を覆っていた結界も消失し、ドゥラキンはドウルたちの手によって屋敷の中へと運ばれていく。


「ドゥラキン様っ! しっかりしてくださいっ!」


 しかしすでにドゥラキンの意識は朦朧としており、瞼を開けているだけで精一杯の死への抵抗である。

 全身からすべての力を放出したように痩せ細り、生気のない顔色へと変化している。ホオズキが、魔力を分け与えるが効果はない。


 ベッドの上でドゥラキンは、自分の命が尽きていく感覚があった。砂時計の砂が落ちていくように、残された生命力が徐々に減っていく。


「……泣く……な……ドウ……ル……」

「だって……だってぇ……っ」


 思えば、彼女にはずいぶんと支えられてきた。契約してからもずっと彼女と一緒に暮らし、いつかこの命を使う日がくるということも教えておいた。

 それでも最後まで支えるとドウルは言ってくれていたのだ。それは申し訳ないと、契約を破棄することも考慮したが、彼女は頑なに首を縦に振らなかった。


『私たち『精霊』は、一度契約したら、死ぬまで主は一人だけです』


 そう言ってずっと傍にいてくれた。変わった娘ではあったが、自分の子供がいなかったドゥラキンにとっては、本当の娘のような存在だった。

 ノアが生まれてドゥラキンが世話を見ることになってからも、ドウルが傍に居てくれたから心強かったのだ。


「……感謝……しておるよ……ドウル」

「ドゥ……ドゥリャギンざまぁぁぁっ」


 涙で顔をグチャグチャにしながら、その温かい手でドゥラキンの手を掴んでいる。


「……これまで……支えてくれて……ありがとう……のう……」

「ひっぎ……ぐす……っ」

「……お前はもう……自由じゃ。今まで……ご苦労じゃ……った……のう」


 瞼が自然と下りてくる。命の砂が……尽きる。


「幸せに……なりなさい……」

「はい! はい! じあわぜになりばずからぁぁっ! おやぐぞぐじまずぅぅぅっ!」


 もうこれでやるべきことはすべてやり尽くした。アダムスに頼まれた仕事は、十全にこなせただろう。

 長い長い人生の旅路。


(これで……終幕じゃて)


 ただもう一つ願うは、


「……ノア……スー…………元気で……のう……」


 彼らの幸せもドゥラキンにとって願うべきものだった。


「……ドゥリャギン……ざま?」


 その場にいる、ドウル以外の者たちが静かに瞼を閉じた。旅立つ者を祝福するかのように、祈りを捧げるニンニアッホ。


「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 ただただ屋敷の中には、家族であるドゥラキンを失って悲痛に響くドウルの声だけがこだましていた。



     ※



「――――っ!?」

「――――――む? どうしたのだ、ノア?」


 突如何かを察知したように、獣人界の方へ顔を向けたノアに対して、人型のスーが眉をひそめて尋ねた。


「……じい……ちゃん……?」


 ノアはそのまま顔を俯かせる。その瞳は悲しみに彩られており、声をかけられるのにも憚れる雰囲気を醸し出していた。

 スーも彼の感情に思う所があったのかもしれないが、パンと彼の背中を叩くと、


「――――――今は、切り替えろ」

「……スー……」

「――――――ここで我らがアレを滅ぼさねば、すべてを無駄にしてしまう。そう、すべてを、だ」

「………………分かった」


 ノアに力強い瞳の色が戻る。

 アレというのは、空に浮かぶ巨大な球体のこと。その中には玄武がいるはずだ。空を覆うサタンゾアの力の一部である黒い煙をどんどん吸って大きくなっていく。

 どれだけのエネルギーを蓄えているのか定かではない。


 そこには獣人界からカミュの魔法によってやって来たミュアたちの姿もある。そして人間界からはジュドムや勇者たちの姿もあった。

 三国の最高戦力が、一気に集結しているのだ。

 指揮を執るのは、王として一番実績と経験のあるレオウードに任されている。


「アレを滅ぼさねば、我らに明日はないっ! ドゥラキンが作ってくれた光明を、ここで閉ざすわけにはいかんっ! 必ず我らの力で未来を掴もうぞぉっ!」


 その声に呼応して、数十万と集まった者たちから怒号にも似た大気を震わす声量が響き渡る。

 集った者たちが、空に浮かぶ玄武を囲むように地上で円を作った。また空を飛べるものは、上空にも円を描いた陣形で囲む。



     ※



 ――――【ヤレアッハの塔】。 


 日色とアヴォロスは【イデア】の様子を食い入るように見守っていた。今、自分たちは何もできないが、信じることはできる。

 その証拠に、彼らは《四天魔》を三体まで破壊することができた。


「ククク、やるではないか。あやつらも」

「当然だ。自分たちの世界を自分たちで守ろうと必死なんだ。これくらいはできる」

「それにしては、途中まではかなり焦った表情を浮かべておったではないか」

「……ちっ、相変わらず嫌味な野郎だな」

「しかし、これでサタンゾアにとっても予想外な事態が起きているはずだ。《四天魔》は残り一体。アレを何とかすれば【イデア】は救われる」


 アヴォロスの言う通りだ。本音で言えば、今すぐにも手伝いに飛んでいきたいが、先程からまったく力が回復しないのだ。

 これが長時間《天上天下唯我独尊モード》をし、《九文字》まで使用したツケなのかもしれない。


 それはアヴォロスも同じなのか、彼から感じる魔力量もほんの僅かであり、体力ともに回復していないように思える。彼もすべてを出し尽くした後遺症に悩まされているのだろう。


「とにかく、あとは祈るのみだな。やれやれ、まさか余が祈るだけしかできぬとは」

「それはこっちも同じだ。だが奴らなら……やってくれるはずだ」

「……それにしても、まさかこのような光景を拝めるとは思ってもいなかった」

「あ?」

「貴様には分かるまい。この光景がどれほど異常なことなのかが……」

「異常だと?」

「つい最近まで、奴らは互いを憎しみ合い、殺し合いをしていたのだぞ」


 そう言えばそうだった。日色が【イデア】に召喚された時は、まだ他種族同士で争っていた時期だった。実際に戦争だって起こしたこともある。


「それなのに、これは…………まさに奇跡だ」

「だがお前が起こした戦争でも、似たような光景はあったろ?」

「それはそうだが、こうして三国が……いや、すべての種族が力を合わせて【イデア】を救おうとする姿は初めて見る」

「そういや、タマゴジジイのとこには『精霊族』がいたな」

「『人間族』・『獣人族』・『魔人族』・『精霊族』。それらすべての種族が動き、【イデア】を守ろうとする光景は……もう二度と見られないものだと、余はどこかで決めつけていた」

「…………」

「だから余は、【ヤレアッハの塔】を掌握し、平和な世界を築こうとした」


 確かに《塔の命書》や塔自体のシステムを利用すれば可能だろう。


「だがこの光景を生み出したのは、彼らの意志そのもの。誰の手も介入していない紛うことなき覚悟によるものだ。…………余が手にしたかった絵が、今、ここに描かれている」


 彼もまたサタンゾアのように、私利私欲のみで世界を支配しようとしたわけではないことを知っている。彼の根幹にあるもの、それはやはり【イデア】の平和なのだ。

 まあ、考え方が歪み、とんでもない方向に間違って突き進んでしまったが。


「……お前はただ、信じれば良かっただけだ」

「…………かもしれぬな」


 あとはもう、彼らの頑張りに期待するだけ。



     ※

 


 空に浮かぶ暗黒の塊を葬り去るべく、魔界へ集結した三国が誇る勇士たち。


「よいかっ! まずはバラバラに攻撃して、殻のもっとも弱い部分を探るのだ! だが一撃一撃が軽ければそれも見極められんっ! 全力でもって調査に当たれっ!」


 レオウードの言葉により、一斉に魔法、《化装術》を放ち始める数十万の勇士たち。いくら絶対防御に思えるほどの防御態勢でも、必ず綻び……弱い部分というものは存在するはずなのだ。

 完璧な存在などこの世には存在しないのだから。なのでまずは、ある程度、攻撃範囲を定めて、そこを一点集中攻撃する。それを地上と上空から一斉に行い、傷のつき方、熱の引き方、攻撃の弾き方など、様々な現象を分析し、最も防御力の弱い部分を捜索することに決めた。


「ニョホホホホ! この僕が作った魔法具――《丸見え弱い部分機》を使って弱点を見つけてやりますですよぉっ!」


 分析係としてユーヒットが名乗りを上げ、そのサポート役としてララシークがつく。ユーヒットの前方には箱型の機械があり、そこからアンテナが伸びて、空に浮かぶ玄武をチェックしている。


 機械からはコードが伸びており、それぞれユーヒットとララシークの眼鏡に繋がっているような形。


「このセンサーを利用して、玄武の体内と体外変化を逐一詳細に把握することが可能なのです! そして解析したものをこの眼鏡に映し出すというすんばらしい発明品っ! もう自分の才能が怖いですねぇ! ニョホホホホホ!」

「笑ってないで集中しろ、クソ兄がっ!」

「あうちっ! もう……せっかく最高の頭脳が詰まっているのに、頭を殴りやがるとは酷いですよ我が妹よ!」

「うっさい! いいから集中しろっ!」


 そんな二人のやり取りを見ていると不安になってくるが、仕事だけはきちんとやる二人なので、攻撃を繰り出しているミュアたちも安心している。


「はあはあはあ……」

「よし、交代するぜ、ミュア!」

「お願い、おじさん」


 背後で控えていたアノールドと、ミュアは立ち位置を交換した。

 こうして攻撃間隔をあまり開けずに攻撃をし続けることで、より玄武の変化を調べ易くなるらしい。

 他の者たちも、同じターン制を利用して攻撃を繰り返している。


 だがまだ何も見つからないのか、ユーヒットたちからは言葉が無い。そうこうしているうちに、空を覆っている暗黒が小さくなっていく。

 すべて吸収されれば、ここで超爆発を引き起こしてしまうので、それまでに決着をつける必要があるのだ。


「あと……どれくらいなんだろう……?」


 ミュアには正確な時間配分は分からない。ただ、他の《四天魔》がいなくなった以上、三体が吸収するはずだったエネルギーも玄武が吸い取ることになると思うので、それを含んだ玄武が爆発すれば、少なくとも魔界が消えてしまう可能性だってある。

 そうでなくとも、近くにある【魔国・ハーオス】は綺麗サッパリ消失してしまうだろう。


(そんなことはさせない! 絶対に!)


 ミュアは回復薬を服用し呼吸を整えてから、アノールドに近づく。


「代わるよ、おじさん!」

「よ、よし! 頼む! ふぅ~!」


 額の汗を拭きながらミュアと交代するアノールド。

 そうやって、しばらく攻撃が続いている時間が流れ、ある時――


「み、み、み、見つけましたですよぉぉぉぉぉっ!」


 待ちに待った声が周囲に響く。

 ユーヒットがすぐにレオウードに報告する。


「……うむ。分かった。皆の者ぉっ、攻撃を止めぇぇぇっ!」


 レオウードの声に重なるようにあちこちで、「攻撃を止めぇぇ」という声が轟く。


「ユーヒットが見つけてくれたぞっ! 奴の弱点、それは――――真下だっ!」


 ビシッと指を差す先には、球体の最下部分がある。


「皆で一気にそこへ集中攻撃だっ!」


 全員が賛同し、玄武の下部へと移動しようとしたその時、球体がボコボコッと蠢いたと思ったら、中から巨大で黒々とした蜂のような存在が姿を現した。


「なっ!? ユーヒット、あれは何だっ!」

「恐らくは玄武の防衛反応でしょうねぇ。もしかしたらこちらが弱点に気づいたことを知りやがって、攻撃を阻止しようとしてやがるのでは?」

「ちっ、厄介な! なら……」


 レオウードが大きく息を吸い込み、胸を膨らませ、そして……。


「三国すべての者に告ぐっ! あの黒い物体をブラックビーと名付けるっ! また各国の最高戦力は玄武の直下に移動し、攻撃の準備をし、邪魔が入らぬように兵たちは援護に努めろぉぉっ!」


 作戦が決まったところで、一気に場が動き始める。レオウードの言った通り、三国において最高戦力と位置する者たちは一斉に玄武の下部へと移動を開始し、彼らに近づくブラックビーたちは、兵士たちが薙ぎ払う。

 玄武の下部に集まった者たちの顔ぶれはすごいものがある。それぞれ《四天魔》相手に、中心となって戦っていた者たちすべてが顔を連ねていた。

 ミュアやアノールドもその中の一人に数えられている。


「行くぞぉぉぉぉぉぉぉっ! 全員が一つになって、奴を討つっ!」 


 レオウードを筆頭に、下部に集った者たちが一気に最大の技や魔法を、玄武の弱点目掛けて飛ばした。

 《グングニル》のように、たった一撃だけで相手を仕留められる程の威力はないが、それでも下部に到達した、レオウードの攻撃は効いているのか、次第に下部から真っ赤に染まり上がっていく。


「効いているぞっ! すべてを出し尽くせぇぇぇっ!」


 だがそこへブラックビーが現れ、下腹部にある鋭い針で、レオウードの身体を突き刺した。同時にレオウードが吐血をする。


「レオウード様ぁぁぁぁぁっ!?」


 バリドたちが叫び駆けつけようとするが、


「手を緩めるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 レオウードのまさかの叫び。


「今手を緩めることは決して許さんっ! これは一度きりのチャンスだと思えぇぇっ!」


 そこへ兵士たちが駆けつけ、レオウードを刺しているブラックビーを仕留める。しかし刺されたところから壊死しているかのように黒々と変色していくレオウードの肌。


「ぐっ……いいかぁっ! 我々は皆の希望を背負っているのだっ! ありったけを注げっ!」


 そんなレオウードの覚悟を見せられて、他の者も意識を攻撃だけに集中させる。


 そしてついに――――――ピキキッ。


 空にヒビが入り始めた。それを確認したレオウードが、


「今だぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああっっっ!」


 再度、全員が最大の攻撃を繰り出した瞬間、殻がボロボロと崩れ始め、中から玄武が姿を現した。そして一気に霧散する、これまで吸収してきたであろう黒い煙。これで爆発の危険はなくなった……と、その油断が悪かった。

 玄武の甲羅がどす黒く輝いたと思ったら、甲羅から迸った黒い閃光が、地上にいる者たちに向かって急襲する。

 最大攻撃直後は、やはり隙ができるもの。皆の身体が硬直状態にある。


 しかしその中でただ一人――


「ウオォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオッッッ!」


 まさに獣の雄叫び。それはレオウードから発せられたものだ。彼の身体から溢れ出した紅蓮の炎がミュアたちの頭上を覆い、閃光を一瞬で燃やし尽くす。

 しかし残酷にも、レオウードに向かって降り注ぐ閃光は、レオウードを守ってはくれなかった。


「がふぅっ!?」


 黒い閃光に胸を貫かれはしたものの、レオウードは笑みを浮かべた。


「……ワシらは……礎……若き者を守る壁であるっ!」


 そのまま大地に倒れそうになるが、レオウードはしっかりと大地を踏みしめ立つ。


「……王は……道しるべ……。旗印……折れてはならぬっ!」


 胸から夥しいほどの血液を流し、ブラックビーにやられた部分からはさらに黒が広がって苦痛に顔を歪めてはいても、仁王立ちは崩さない。


「後は頼んだぞっ! お前たちィィィィィィッ!」


 レオウードの姿が起爆剤になったのか、全員が玄武に向かってさらなる攻撃を放つ。


「よくもよくもっ! レオウード様をォォォォッ! 許さねえぞっ、このクソ野郎がぁぁぁぁっ!」


 アノールドは玄武目掛けて跳び上がり、手に持った大剣を振り上げた時、彼の頭上の空間にヒビが入り、そこから蒼い毛を持つ巨大な犬が出現した。


「えっ、な、何お前っ!?」

「……力を貸してやるから、さっさと俺を振るえ!」

「しゃ、喋ったぁっ!?」


 すると犬が青白い粒子に変化して大剣へと吸収されて光り輝く。


「な、何だか分かんねえけど、オラァァァァァァァァァッ!」


 斬撃は暴風を生み、無数の傷を玄武に施していく。玄武が悲鳴を上げ、そのまま大地へと落下してきた。


「アノールドに続けっ! 最大攻撃でトドメを刺せぇぇっ!」


 ジュドムの声が響き渡ると同時に、全員が逆さまに落下してきた玄武に向かって全力で攻撃を放つ。身を守ることもできない玄武は、まともに攻撃を受けてしまう。

 そして一人、空を飛びながら冷ややかな瞳で玄武を見下ろす者がいる。


「……じいちゃんがコイツらの仲間を倒したんなら、おれも……やるのが筋だよね」 


 ノアだった。ノアは両手を上に上げると、


「其は無、生きとし生けるものを七色の世界に導く、零の虹っ!」


 ノアの両手から立ち昇る魔力が虹色に輝き、球体を作っていく。


「虚無に還れっ! この亀野郎っ!」


 ノアが放つ虹色の巨大玉。玄武に直撃した刹那、玄武の身体が虹色に輝き始め、ポツ、ポツ、ポツと、身体の部分部分が消失していく。

 消えた部分は虹色のシャボン玉に変化し、空に上がっては弾けて消える。それの繰り返し。

 玄武は断末魔の叫びを上げながら、怯えたようにその場に集った者たちを見つめながら、その存在は無になっていった。



     ※

 


 最後の《四天魔》である玄武が倒された瞬間を、日色もその目で見ていた。思わず拳を握りしめ、「よしっ!」とガッツポーズを取る。

 隣に座っているアヴォロスも同様に、どこかホッとした様子を見せている。

 ただ日色は玄武を倒したのはいいが、気になることもあった。


「……レオウード……」


 彼のことだ。玄武を倒すことだけに集中したのは良かった。そのお蔭で、余計な雑念が消え去り、皆の攻撃力を高めることだってできたはず。

 しかしブラックビーの攻撃を受け、さらに玄武の攻撃をまともに受けたのは痛い。ブラックビーの攻撃だけでも、即治療しなければならない重傷度だというのに、その上から玄武の攻撃をまともに受けてしまった。


「くそ……っ」


 自分があそこにいれば、すぐにでも彼の身体を治してやることができるのに、それができないことが歯痒い。

 できる力を持っているが故に、悔しさだけが広がっていく。


 心の中で、生きてくれと願いながらも、あの傷では……という考えもまた脳裏を過ぎる。必死にそんなネガティブな考えを払拭しようとするが、目の前に映し出されているレオウードの姿が、よくないイメージを与えてきた。

 それに最後の玄武の攻撃や、ブラックビーの被害は、何もレオウードだけではない。彼らの周りに集まった兵士たちも多大なる被害を受けてしまっている。


 中には直撃を受けて死んでしまった者だっている。皆、覚悟はあろうが、やはり死ぬという事実は、日色の心を強く締めつけてきた。

 皆がレオウードに駆け寄り、声をかけている。治療の中心となって魔法をかけているのは、勇者たちだ。彼らは光魔法を使えるので、レオウードの傷を癒そうとしているようだ。


(……頼む)


 それだけを願う。



     ※



「父上っ!?」

「親父っ!?」


 【獣王国・パシオン】の第一王子レッグルスと、第二王子レニオンが、レオウードに呼びかける。致命傷とも思える傷を受け、大量の血液が大地へと注がれていた。

 治癒が可能な、しのぶと朱里が必死に光魔法をかけ続けているが、一向に傷が塞がっていかない。


「パパッ!?」

「お父さまっ!?」


 そこへ第一王女ククリアと第二王女ミミルが駆けつけてきた。二人ともが信じられないといった形相で、言葉を失っている。


「お前……たち……」


 微かに漏らすレオウードの言葉に誰もが耳を傾ける。


「……よく……この世界を……守って……くれたな……。これで……安心して……任せることが…………できる」

「父上っ、何を仰っているのですかっ! 獣人にとって、いや、この世界にとって、まだまだあなたは必要なのですよっ!」

「そうだぜ親父っ! こんなとこであの世にバックレようなんて冗談じゃねえっ! まだまだ引退なんてさせっかよっ!」

「……お前たち……よく……聞け……」

「父上っ!」

「親父っ!」


 レオウードの言葉を否定するようにレッグルスとレニオンは叫ぶ。だがそこへ、ララシークが口を開く。


「お静かに、王子様たち」

「ラ、ララシーク……!」

「こんな時に黙ってられっかよ!」

「お静かにっ!」


 彼女の怒号にも似た声が、二人を黙らせた。


「……レオ様の言葉を……ちゃんと最後まで聞いてください」


 ララシークは無表情のまま淡々と言葉を述べた。見ようによっては冷たい印象を受けるが、彼女とレオウードが親友という繋がりにあることは、彼らも知っている。

 握りしめた拳が小刻みに震えているのを目にしたククリアが、


「……レッグ兄たち…………聞こう」

「ククリア……分かったよ」


 レッグルスがそう言うと、レニオンも了承したのか「ああ」とだけ言う。


「……レッグルス……。この場で……任命する……。この時を以て……お前に……獣王の名を……授ける」

「父上……!」

「お前は……皆に慕われておる。……優しさもあり……自分に厳しいお前なら……必ず良い王に……なれる。皆を……導け」

「…………承り……ました」


 レッグルスの眼から涙が零れ落ちる。


「レニオン……。お前はワシによく……似ておる。戦い好き……だしな。だが、心根は真面目だと……いうことも……分かっておる。……皆を……その強さで守れる男に……なれ」

「親父…………くそぉ」


 レニオンの強がりも、その場では意味を成さないようで、彼の眼からもやはり涙が流れ出している。


「ククリア……。それにミミル……。心残りは……お前らの花嫁……姿を……見ることができなかったこと……だな」

「パパ……!」

「お父さま……!」

「……ククリア……。お前はとても心の……強い女だ……。母親に似て……気丈だが……。男を立てることも……覚えておけ……。そうすればお前は……もっと良い女になれ……る。好きな奴ができたら…………逃す……なよ」

「パパァ……っ」


 ククリアは両手で顔を覆い、嗚咽を漏らす。


「ミミル……。お前はこの中の誰……よりも……心が強い。いや、強過ぎる……。たまには弱音を吐き……甘えることを……覚えろ」

「お父さま……」

「いや、その心配は……ないか。お前には……良い友が……」


 レオウードの目線が、ミミルの傍にいるミュアに向けられ、そしてそのまま空に浮かぶ塔へと向けられ、


「そして……良い男がついておる」

「お父様ぁ……っ」

「……ヒイロなら……きっと……お前を幸せにしてくれる……はずだ。あんな男は……そうそうおらん……。だから…………決して逃がすで……ないぞ」


 ミミルはもう言葉を発せず、顔がグチャグチャになりながら大量の涙で視界を曇らしていた。


「これまで……【パシオン】を支えてくれた勇士たち……よ。バリド、クロウチ、プティス、アノールド、ミュア、ユーヒット……そして兵士たち……感謝……する」


 皆が彼の名を叫ぶ。全員が涙声で、聞き取れない者まで出ている。


「……ララ……おるか」

「……ここに」


 ララシークが、レオウードの視界に入っていく。


「……ブランサには……謝っておいて……くれ」

「…………」

「……お前にも……迷惑かけたな」

「そんな……こと……っ」

「……国を……皆を…………頼んだ」

「…………はっ……い」


 ララシークは顔を俯かせ、歯を食いしばった。


「……平和を掴むことが……できた。……親父に……良い土産が……できたな」


 レオウードの声が徐々に擦れ、弱々しくなっていく。


「…………どうか……この平和を……永遠…………に……」


 そのままレオウードの命の灯が静かに消えた。

 その場のすべての者たちに見送られ、歴代の中で最強と言われた獣王の偉大なる魂は天へと昇っていく。


「お疲れ……様……でしたっ」


 皆が嗚咽で苦しんでいる中、ララシークだけが、天を仰ぎレオウードの魂に言葉を送った。





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