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金色の文字使い ~勇者四人に巻き込まれたユニークチート~  作者: 十本スイ
終章 ヤレアッハの塔編 ~金色の文字使い~

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246/281

246:目覚める神

 地上では、今まで狂乱して襲ってきていたモンスターたちの様子が変わった。


「い、一体どういうことだ……? 突然正気に戻ったかのように大人しくなったではないか」


 【魔国・ハーオス】の周辺で守りに徹していたマリオネは目を丸くする。


「どうやらお嬢様たちが何かされたのではないでございましょうか?」


 そう言うのは、【グレン渓谷】からこの場へアクウィナスとともに駆けつけていたシウバである。


「しかしながら、あのお方はどうも戦闘意欲を無くされてはいないようですが」


 シウバの目線の先にいるのは、漆黒の甲羅を持った巨大な亀のような生物。


「まさか空想上の上、神話級のモンスターである玄武が襲ってくるとは、どれだけ長生きしていても、このよう珍妙な経験などこれっきりであろうな」

「そうですな、マリオネ殿。ですが、相手が敵意満々である以上、少しでも気を抜けば、こちらが全滅しますぞ」

「フン、分かっておるわ執事。周囲のモンスターを相手にせずに済むのであれば、テッケイルたちも駆けつけてくるだろう。【魔国・ハーオス】の戦力を奴に見せてやるわ!」


 シウバはやる気十分の彼を見て頬を緩める。相手の強さは未知数。単独撃破など絶対無理といえるほどの相手。それなのに少しも減らない彼の闘争心に脱帽する。

 だがそのお蔭で、他の兵士たちの士気も下がりはしない。むしろ彼に感化されるようにエネルギーを身体に充満させている。


(さすがは将……といったところですな)


 シウバは空に浮かぶ金色の塔を見上げる。思うはただ自分の主を含め、日色たちの無事。恐らく死闘を行っているであろうリリィンたちのことを思い、シウバはすぐに表情を引き締め直す。


(お嬢様たちが戻って来られて、国を守れませんでしたでは話になりませんな。わたくしはわたくしで、全力を以て国を死守しましょうぞ! そして玄武を倒した暁には……)


 ニヤリと口角を緩めるシウバ。


「お嬢様にご褒美を頂きますぞぉ! ノフォフォフォフォフォ!」


 シウバの異様なやる気と笑いに度肝を抜かれている兵士がいることを、シウバは気づいていなかった。



     ※



「陛下ぁ~!」

「シュブラーズ! よく駆けつけてくれたわね!」

「オーノウスもいるわよぉ~」


 イヴェアムのもとへ駆けつけてくれたのは、《序列四位》と《序列五位》に位置する者たちだった。


「テッケイルたちは?」

「モンスターの相手が必要なくなったからぁ、マリオネたちの増援へ向かったわよぉ」

「それは助かるわね。けれど、私はもう魔力が……」

「そう思って私がここに来たんだからぁ」


 シュブラーズが妖艶な笑みを浮かべた直後、その場で舞いを見せ始めた。


「レベルアップした私の《舞踏魔法》――《時写の舞》を見せる番よぉ~」


 彼女が踊り始めると、彼女を中心に足元から魔法陣が広がる。彼女の《時写の舞》は、以前レオウードたちと決闘した時に見せた、時間を戻す力である。正確に言えば、一定の範囲内いるものだけに、最大で一時間前の状況を映し出すことができるのだ。ただし死んだ者までは復活させることはできない。


 彼女の舞いが終わった瞬間、傷ついていた部下たちの傷が、すっかり治っており、また魔力も元に戻っていたのだ。


「はあはあはあ……さすがに広範囲の《時写》は疲れるわねぇ」


 これまでは半径三十メートルほどの範囲までだったが、明らかに範囲が広がっており半径百メートルほどの範囲に拡大している。その中にいたイヴェアムたちは一時間前のほぼ全快状態に戻っていた。


「うん! これならいけるわ、ありがとうシュブラーズ!」

「うむ。お主は少し休んでおけ。あとは俺と陛下、そして……わが友であるアクウィナスに任せておけ」

「ううん、まだ私だってやれるわよぉ。それにモンスターが暴れなくなったっていっても、避難民の誘導や、モンスターを国から遠ざける役目もあるものぉ」

「だ、だけどその身体じゃ……」

「陛下。私たちは国を任されているわぁ。空ではヒイロくんたちも頑張ってる。だからそれに恥じない戦いをしなきゃ」

「…………分かったわ。だったら民たちを頼むわ。モンスターを遠ざけるのはイオニスたちに頼むから」

「オッケ~」


 陽気に返事をしたシュブラーズは、そのまま国内へと戻っていった。


「――ウィンドフェザー」


 イヴェアムがオーノウスに向かって風の魔法を放つ。すると彼の背中に風の翼が生え、フワッと彼の身体を浮かせる。


「これでオーノウスも飛びながら戦えるわ。翼の扱いはあなたの意志に任せるけど、どう、やれるかしら?」


 すると突然、彼が見事に翼を動かして自由に旋回して、再びイヴェアムのもとに帰って来た。


「ふむ……こうビュンビュンッという感じで、翼にグッと力を入れてバサバサッと動かせば問題なさそうですな」

「え……あ、まあうん」


 何でいきなりこれほど早くコツが掴めるのだろうということよりも、彼が言った言葉の意味がほぼほぼ理解できないことにイヴェアムは思い悩んでしまった。


「さて、行きますか陛下!」

「あ、そ、そうね!」


 今はそんな些細なことを気にしている暇はなさそうだ。気を引き締めて、アクウィナスのもとへと翔けた。



     ※



 【人間国・ランカース】でも他国と同様、モンスターたちが次々と正気に戻り国から離れていく。ただZクラスと位置づけられる白虎だけは例外だった。


「ガルアァァァァァァッ!」


 白虎の身体が一瞬に闇に染まり、その身体から黒い毛針を飛ばしてくる。当たれば防御している盾すらも一瞬で消失させる効果を持っているのだ。


「「「「イノセント・カーテンッ!」」」」


 四人の勇者による光魔法。オーロラにように周囲へとカーテン状の光が広がり兵士たちの前方を壁のようにして守る。

 毛針がそれに触れた瞬間、シュゥゥゥッと氷が一気に融けるがごとく消えた。


「守りは任せてください! ジュドム様たちは奴を倒すことだけに専念してください!」


 大志の叫びに、ジュドムが大きく頷く。そして白虎の近くで戦っているクゼルとタチバナのところまで一気に詰め寄る。

 同時に白虎が再び大きく跳び上がったが、


「させねえよ! そのまま落ちてこいや、野良猫っ!」


 タチバナがさらに上空へと跳び上がっており、白虎を刀で弾き落とした。ジュドムの言う通り、真っ直ぐ落ちてくる白虎。


「クゼル、行くぜ!」

「はいっ! 同時攻撃です!」


 ジュドムの右手が黄色いオーラ――身体力によって覆われ、クゼルの持つ刀も同様のオーラで纏われる。


「《豪・絶衝撃》っ!」

「《九刺斬屍(くしざし)》っ!」


 落ちてきた白虎に向けて、ジュドムのオーラで膨れ上がった拳が突き出され、クゼルによる一瞬の九連撃が、同時に白虎を捉える。

 吹き飛んでいく白虎を見定め、空中にいるタチバナが追い打ちをかけた。


「《斬撃落とし》っ!」


 その場で刀を振るい、強烈な斬撃を飛ばし、吹き飛んでいる最中の白虎へと見事に命中し、さらに白虎は、その背後にあった大岩へと激突してしまった。


「どうだぁっ! これが人の力だぜ! 舐めんなよ伝説ゥ!」


 ジュドムの声に呼応するように、兵士たちが一気に湧く。完全に勝利ムードである。

 しかしそこでクゼルが奇妙な異変に気づく。そしてハッとなり白虎の方を向くと同時に、大地がゴゴゴゴゴゴと揺れ始めた。


 白虎がぶつかった大岩が一気に弾け飛び、そこから刺すような強烈な殺気と力がジュドムたちを襲う。

 そして現れる。ゆっくりとした足取りで、どす黒いオーラに包まれた、さらに巨大化した白虎を――。


「……どうやら、まだ全力じゃなかったみてえだな」

「そのようですね」


 空から下りてきたタチバナも、困ったように眉をひそめている。


「さっきまでとはまた格段とレベルが違うでござるな。これは参ったでござるよ」


 巨大化した白虎の威圧感に、兵士たちは言葉を失って固まってしまっている。睨まれただけで失神しそうなほどの格の違う相手なのだから、仕方ないといえばそれまで。


「けどよ、俺らは諦めねえよ! 国はゼッテーやらせねえ! すべてを懸けてでも、てめえをぶっ潰すぜ! 白虎ぉぉぉっ!」


 一切怯えの見せないジュドムに怒りを覚えたのか、白虎が吠える。その声は天まで届くかと思われるような怒号。大気を震わせ、大地を軋ませる。

 しかし……。


「何度でも吠えな! 何度でも牙を剥きな! 俺らはその度にてめえを吹き飛ばす! 最後に勝つのは俺らだっ!」


 その言葉の力に、兵士たちの怯えも吹き飛んだのか、瞳に力が戻っていく。

 さすがは王。生まれながらにしてその資質を持つ男。

 これが人を導く王という人種なのだ。


「す、すげえ……!」


 大志も尊敬の眼差しをジュドムへと向けていた。いや、彼だけではない。千佳やしのぶに朱里、他のすべての者たちも、彼の背中に勇気をもらっていた。


「行くぜぇぇぇっ! 野郎どもぉぉぉっ!」


 ジュドムの意気に、皆が声を荒げる。叫ぶ。怒鳴る。

 彼らの轟きに、そこで初めて白虎が躊躇したかのように半歩後ろへ足をずらした。白虎もまた、人の強さを知った初めての経験なのかもしれない。



     ※


 

「オオォォォォォォォォォォッ!」


 レオウードの全身から、大地をも焼き尽くさんばかりの炎が迸る。


「ララァァァッ!」

「了解ですよっ!」


 傍にいたララシークが地面に手をつけると、地面が凍り始め、生まれた氷がどんどん大きく天を昇っていく。


「今です、レオ様!」

「おうよっ!」


 レオウードはその氷を伝って、真っ直ぐ駆ける。目標は――青竜だ。

 しかし空で悠々と浮かんでいる青竜もまた、レオウードが突撃してくるのを察知し、身体を回転させて即死効果の毒を含んだ《毒鱗》を飛ばしてくる。


「そのようなもの効かぬわァァァァァァッ!」


 さらにレオウードを覆う炎が巨大化し、まるで鎧のように顕現している。その炎が、飛んでくる鱗を瞬時に燃やし尽くす。


「喰らうがいいっ! 《極大焔牙撃》ィィィィィッ!」


 氷から跳び上がり、両拳に集束させた炎を一気に解き放ちながら拳を突き出す。しかし青竜の動きは機敏で、レオウードの攻撃をあっさりと回避してしまう。


「まだまだぁぁぁぁっ! 《風陣爆爪》ぉぉぉぉっ!」


 地上にいるアノールドが天へ突き上げた大剣から、竜巻のような風が生まれ、レオウードの身体を風の力で青竜のいる場所へと運ぶ。

 さすがの青竜も予想外な動きだったのか、レオウードの攻撃が直撃した。まるで巨大な獣の牙で噛みつかれたような痕が生まれ、そこから大量の血液が飛び散る。


 大ダメージを与えたと皆が喜んだのも束の間、飛び散った血が次第に形を変えて、小さな青竜を形作る。するとミニ青竜たちが、次々と地上にいる兵士たちに襲い掛かっていく。

 小さくてもさすがはZランクと呼ばれる存在から生まれた者たちなのか、兵士たちの身体に巻き付きその力で絞め殺そうとし始める。

 このままでは兵士たちが無残な姿を遂げてしまうと思われた直後、


「やらせないニャァァァッ!」


 突然現れた《三獣士》のクロウチの身体から、これまたミニ青竜と同等の、ミニ黒豹が次々と出現し、兵士たちを捕らえているミニ青竜たちの身体を噛み千切り始める。


「ニャハハ~! どんニャもんニャ~!」

「……クロ、油断しない」


 同じ《三獣士》であるプティスも登場し、彼女から放たれる冷気に当てられたミニ青竜たちが次々と凍っていく。


「我ら《三獣士》がいる限り、国は落とさせんぞ!」


 そして《三獣士》のリーダーであるバリドは鳥人。彼の翼から飛ばされる夥しいほどの羽は、針の穴を通すように、ミニ青竜だけを捉え地面に釘付けにしていった。


「「俺たちだって忘れてもらっては困るっ!」」


 【獣王国・パシオン】の誇る二大王子の登場だ。

 レッグルスとレニオンは、互いに剣を振るい、その剣圧で空から襲い掛かってくるミニ青竜を弾き飛ばしていく。


「おお! 皆がきてくれたぜ! これで百人力だぁっ!」


 アノールドの言葉に呼応するかのように、兵士たちの士気も一気に上がる。そして地上に下りてきたレオウードもまた満足気に笑みを浮かべて大きく頷く。


「さあ、皆の者! 全力を以て国の敵を討つぞっ!」



     ※



 三国が見事に奮闘している最中、日色はというと、サタンゾアがいる部屋から『転移』の文字を使い《イヴダムの小部屋》の前まで来ていた。

 目的はここに眠っているであろうイヴァライデアの封印を解くこと。


(どうなるかは分からない。これがホントに最良の選択なのかも……。だが残された道の中で、オレはこの道を選ぶことに決めたんだ)


 彼女を解放すれば危険度はさらに増す。しかし今のままではサタンゾアを倒せないのも確か。それだけ相手の力は暴虐なまでに強い。

 《天下無双モード》だけでは勝ち目が薄いのだ。限りなくゼロに近いといっていい。

 いつか、アヴォロスを打ち破ったような金色の力が必要だと日色は考えた。


(あの力があれば、奴ともまともに戦える気がする)


 日色は扉の前に立ち、ゴクリと喉を鳴らす。そしてゆっくりと扉に触れた。

 突如、眩い光が扉から放たれた直後、魔法陣のような紋様が扉にくっきりと浮かび上がる。


「こ、これは……っ!?」


 魔法陣の中心には砂時計のような絵が描かれてあるのが分かる。その砂時計のような絵が下から金色に塗り潰されていく。

 しかし半分程度塗り潰されたところでピタリと止まった。


「……? 何だ? 封印が解けたのか……いや、そういうわけじゃなさそうだな」


 確かに日色の力に封印が反応している。だが何かが足りないような感覚もあるのだ。


「おいおい、オレでもダメだってのか? だったらどうすれば……」


 実際自分なら扉を開けられると思っていた。イヴァライデアの力を受け継いだ自分なら、一人でも扉が反応して封印が解けられると。


(どうする……? 魔法で『開錠』とか使ってみるか? いや、そんなことで開かないことは何となく分かる。何かが足りないんだ。それが何か分かれば……!)


 その時、背後から足音が聞こえる。階段を昇ってきたのは   


「あ、ヒイロさんっ!?」


 ミュアたちだった。他の者たちもヒイロの姿を見て駆け寄ってくる。


(どうやら皆無事のようだな)


 誰一人欠けることなくこの場にいるようなのでホッとした。


「モンスターの狂乱は止まったようだ。よくやったな、お前ら」

「あ、えへへ」

「ほ、褒められたですぞ~」

「ん……何かくすぐったいね」

「オス! 父上の息子として恥ずかしくないように努めてますので!」


 ミュア、ニッキ、ウィンカァ、レッカがそれぞれ無事な笑顔を見せてくれた。


「ミミルも、無事で良かったぞ」

「はい。皆さんが守ってくれましたから。特にミュアちゃんはすごかったですよ」

「は、恥ずかしいから止めてよミミルちゃん」

「はいはい。馴れ合いはそこまでにして、ヒイロくん」


 話を真面目ムードに戻したのはペビンである。


「どうしてイヴァライデアさんの封印を解こうとしているのかお聞きしても?」


 その言葉に皆も日色がここにいる理由を察したのか息を呑む。それもそうだろう。封印を解かせないために戦っているのに、日色が解こうとしているのだから困惑しても不思議ではない。

 しかし日色が答える前にペビンが口を開いた。


「もしかして、彼女の力を頼りに、ですか?」

「……ああ」

「……やはりヒイロくんでも、そのままではサタンゾア様には勝てないということですか」


 少し失望した様子が見て取れるが、いちいち相手にしても仕方ない。実際に彼の期待には応えられていないのだから。


「彼女の力を借りれば、サタンゾア様を倒せる算段というわけですね?」

「そうだ。今のままではオレは奴には勝てない。それがよく分かった」

「……よく他の皆さん、特にリリィンさんが納得してくれましたね」

「というか、オレの背中を押したのはアイツなんだけどな。それに……早く力を手に入れて戻らないといけないんだ」

「……確かに今、ヒイロくん抜きでサタンゾア様とまともに戦えるとは思えませんしね」

「……そのことで一つ聞きたかったのだが」

「何です?」

「…………お前か? アイツを連れてきたのは?」


 その言葉にミュアたちは小首を傾げるだけだが、ペビンだけは微かに眉をピクリと動かしただけ。


「どうにか彼も説得に応じてくれましてね」

「何故言わなかった?」

「聞かれませんでしたから」


 確かにペビンとの契約には、嘘をつくなや害になるような行為をするなという条件が課せられているが、率先して情報を喋れといった条件はない。


「あ、あのヒイロさん、一体何の話を……?」


 ミュアにはあまり知らせたくない情報ではある。何といっても一度彼に殺されているのだから。しかしこの状況で話さないわけにはいかないだろう。


「……はぁ、いいか、驚くと思うが、これは事実だからな」

「は、はい」


 ミュアだけでなく他の者まで緊張感を漂わせる。


「今、神王と戦っているのは垂れ目野郎と鴉、リリィンだけじゃない」

「え、でも……」

「いいから最後まで聞け。アイツが…………アヴォロスが戦っている」


 時を凍らせたかのように一同が固まる。


「あの瀕死……というか数分後には死んでも不思議じゃなった状態で、何故アイツが生き返ってピンピンしてるのかは分からない。だがアイツは生きてて、今、ここで神王と戦っている」

「そ、そうなん……ですか。で、でも……その……味方……なんですか?」

「味方ですよ。少なくとも、彼はヒイロくんたちを助けるためにここへ来ています」

「ペビンさんが連れてきたんですか?」

「ええ、彼の力も必要になると思いましてね」


 ファインプレーはファインプレーなのだが、彼を褒める気にはならない。いろいろ謎は多いが、今はそれよりもやるべきことがある。


「今、時間を稼いで……いや、オレが今からやろうとしていることを考えると、神王だって止めないだろうが、とにかくイヴァライデアの封印を解くためにオレはここにいる」

「……それが必要なんですよね?」


 ミュアが真っ直ぐな眼差しで問う。


「ああ。だが扉に触れてみたが、オレ一人じゃ開かなかった。何かが足りないのは分かってるんだが……」


 今もなお砂時計のような紋様は浮かび上がっている。


「どうすればいいか悩んでたところだったんだ……」

「ヒイロさんでも無理だとすると、同じ《不明の領域者》のわたしでも無理でしょうね」

「だろうな。それに資格のない者は触ったら《反動》があるから無暗矢鱈に試すこともできん」


 日色含め、皆がう~んと唸っていた時、ゆっくりと手を上げた人物がいた。


「あ、あのヒイロ……さま」

「ん? どうしたミミル?」

「……ミミルなら、いいえ、ミミルとヒイロさまなら、この扉、開けられる気がします」


 驚くべき解答。いや、見過ごしていた答えとでもいおうか。


(そうだ。コイツだって始まりの生命体で、イヴァライデアの力を濃く受け継いだ『精霊の母』の転生体だった!)


 カチャリと、日色の頭の中で鍵が合ったような音がした。

 間違いない。彼女と一緒なら扉が開く。それはもう確信に近い直感だった。ミミルも同じものを感じたから名乗り出たのかもしれない。


「よし! ミミル、一緒に扉に触れるぞ」

「は、はいです!」

「お前らは下がってろ」


 日色に従い、皆が数歩後ろへと下がる。


「あ、あのヒイロさま」

「何だ?」

「そ、その……手を繋いで頂けませんか?」


 不安気に上目遣いで見つめてくる彼女。日色は彼女の小さな右手をそっと左手で掴む。


「同時にいくぞ?」

「は、はい!」


 日色は右手を、ミミルは左手を扉へと――。

 日色が触れた時よりも激しい輝きが扉から放たれる。同時に砂時計の半分ほどを塗り潰していた金色が、ゆっくりと器を満たすかのように金色に染まっていく。

 そして金色の砂時計が完成した瞬間、鍵が開いたような音が周囲に響いた。


 重厚な扉が音を立ててゆっくりと独りでに開いていく。

 自然と喉が鳴ってしまう。何故ならこの先には、【イデア】の運命を握る存在がいるのだから。

 扉が全開し、部屋の奥を見つめる。《イヴダムの小部屋》という名に相応しい、小さな空間が広がっている。


 部屋の中心には舞台があり、その上には奇妙なオブジェが見えた。両手の手首をくっつけ、手の平を開いたような造形物。またその両手の手の平には、金色に輝く球体が浮かんでおり、その中にあるベッドの上には、一人の少女が寝息を立てていた。

 いつか日色が見た、イヴァライデアと名乗った少女だ。何かに誘われるように、日色は部屋の中心へと歩いて行く。


 日色の後を追って、他の者もついてくる。

 両手のオブジェには階段が手首まで設置されてあり、一歩ずつ確かめるように日色は登っていく。他の者も後を追おうとしたが、ペビンがそれを制して止めさせた。ここは日色だけに任せろと言っているのだ。


 日色は球体に近づき、そっと触れるとシャボン玉のように割れた。思わず手を引っ込めてしまったが、ベッドがゆっくりと手の届く距離まで落ちてくる。


 ベッドへと近づき、いまだ静かに眠っている少女を見下ろす。

 黒くて艶々しい長い髪。片手で収まるほどの小さな顔。力を入れればすぐに砕けてしまいそうな弱々しく細い身体。簡素なワンピースだけを着用した不思議な雰囲気を醸し出す少女。


(ようやくここまで来たって感じだな)


 ジッと彼女を見下ろしていると、まつ毛がピクピクと動いている。日色はそのまま彼女の寝顔を見下ろしていた。


 ――――――バチン。


「ふにゅっ!?」


 デコピン一発。彼女から変な声が聞こえたが無視して、


「いつまで寝てやがる。迎えに来てやったんだから、さっさと目を覚ませ、黒幼女め」

「うぅ~ヒドいからぁ~。ここは王子様よろしく、目覚めのキスが定番なのに……」


 額を押さえながら蹲るイヴァライデア。


「お前が寝た振りをしてることは百も承知だった」


 だからまつ毛が動いていたのだ。まるで何かを待っているかのように。


「もう、ヒイロは乙女心を知らなさ過ぎ」

「黙れ。……それで? 状況は理解できているのか?」

「え~すぐに本題? ここはできれば頭を撫でてからわたしを落ち着かせるという手法を要求したいんだけど」

「このまま帰るぞ、黒幼女」

「むぅ……やっぱりヒイロはノリが悪いし」


 相手にしていると疲れる。


「はぁ。いいから質問に答えろ」

「……うん。大体は把握してるよ。夢の中で、ヒイロが見ていたものをたまにわたしも感じることができるから」

「そうか」

「ふにゅ!? にゃ、にゃんでぶつの!」

「お前がオレのプライバシーを侵害したからだ。ったく」

「むぅ……ぶってこれ以上ちっさくなったらどうするの? まだ伸びるかもしれないのに……責任とってね」

「安心しろ。数千年生きてるのに、その身長なんだ。お前はすでにロリの神と化してしまってる。故にそれ以上身長は伸びないし、縮んだところで五十歩百歩で何も変わらん」

「これって、怒ってもいいよね」

「とにかく、状況が分かってるなら力を――」


 その時、壁に巨大な亀裂が走り、塔全体が激しく揺れた。

 すると壁を破壊して、小さな塊が飛び出してきて、反対側の壁に突き刺さる。見ればそれは背中から紅い翼を生やしたアヴォロスだった。


 彼の姿を見て、本当に生きていたことを知ったミュアたちは驚愕の色に顔を染めている。同じように次々と壁からこの場へ吹き飛んでくる者たちがいた。

 その中にリリィンを見つけて、日色は咄嗟に床を蹴って飛んでくる彼女を受け止める。


「ぐっ……!? ヒ……ヒイロ……か……!」


 彼女の身体はすでにボロボロ、満身創痍だった。床に突き刺さったテンにノアとスー。そしてアヴォロスも全身が傷だらけである。

 次の瞬間、皆を襲う怖気。ただならぬオーラが、彼女たちが吹き飛んできた壁の向こう側から感じる。


 壁を破壊せず、擦り抜けるようにして巨大な人物が姿を現す。


「…………神王」


 それはサタンゾアだった。全力のリリィンたちを相手にしていたというのに、ほとんど無傷での登場だ。


「ククク、やはりイヴァライデアは復活していたようだな。よくやったぞ、《文字使い》」

「お前のためにやったわけじゃない。すべてはお前を潰すためだ!」

「できぬことを口にするな。あまりに滑稽過ぎて呆れてくるぞ」


 サタンゾアが立ち止まり、ジッとイヴァライデアを見据える。


「久しいな、イヴァライデアよ」

「相変わらず無駄に大きい」

「この時をどれほど待ったことか」

「そんなこと言われてもまったく嬉しくない。できればそのセリフはヒイロに言ってほしい」


 おい、欲望が漏れてるぞと突っ込みたいが我慢した。


「ようやくうぬの力を我のものにすることができる」

「ううん、それはできない。だって、止めるもの」

「ククク、うぬに残されている力はそうはないはずだ。それでも我に勝てると? 全盛期のアダムスとうぬでさえ敗北した我に?」

「……うん。確かに昔は勝てなかった。けど、今はヒイロたちがいる」

「ハハハハハハ! 面白い冗談だ。個々ではアダムスにも劣る者どもがいくら集まろうが、それは戦力ですらないぞ!」


 その言葉に皆がムッと怒りを覚えている表情を浮かべた。確かに現状、彼の言う通りだが、あまりにも彼は、日色たちを舐め過ぎている。


「……ヒイロ、ここじゃ戦いにくいから、動くよ」

「は? お前何を――」


 するつもりだと言う前に、イヴァライデアの指先が金色に光り輝き何かの文字を空中に書き記す。同時にその場にいるサタンゾア以外の者の身体に同様の文字が刻まれる。


「《文字魔法》――発動」


 彼女の呟きにより、その場にいた日色たちは一瞬のうちに全員が消失した。

 気づくと、足元には枯渇した大地が広がり、周囲はクレーターが幾つも存在する場所へと立っていた。

 どうやら塔の外へ出てきたようだ。


「お前、今のは『転移』の文字効果か?」

「うん。漢字……じゃないけど」


 確かに見たことのない文字ではあった。しかしその文字の意味が転移という事象を含んでいるのだろう。

 周りを見ればヒイロパーティ全員が集結しているようだ。しかし肝心のサタンゾアは見当たらない。


「ヒイロ、アイツが来るまでにみんなの治療を」

「ああ、分かってる」


 イヴァライデアの言うことに従い、リリィンたちの治癒に時間を費やす。しかし一分も立たずに、空から巨大な物体が悠然と滑空してきた。

 その巨躯を支える翼も、ペビンと比べて異質さがあった。ペビンはオーロラのような羽が六枚生えるが、飛んできたサタンゾアの背中には、オーロラに輝く十二枚の羽が見える。


「ククク、【イデア】まで飛んで逃げたかと思えば、ここを墓場に選んだということか」

「今からする戦いで【イデア】を傷つけたくない。だからここを選んだ   あなたの墓場として」

「……言うではないか。では最後の戦いとやらを始めるか」


 凄まじいまでのオーラがサタンゾアの身体から溢れ出す。そのオーラだけで並みの者は圧死してしまうのではないかと思うほどの圧力を感じる。


「しかしこれだけの羽虫どもを相手にするのは些か面倒でもある。なら面白いものを見せてやろう」


 すると彼から発せられるどす黒いオーラが、天を貫かんばかりに伸びて広がり、次第にそれが形を成していく。


「さあ再現せよ――――――魔神ネツァッファよ!」


 愕然としてしまうような言葉とともに、黒い塊は容赦なく、もう二度と見たくはない姿へと変貌を遂げていく。

 その姿。それはまさに以前、アヴォロスが復活させた魔神ネツァッファだった。


「そ、そんな……っ!?」


 ミュアの呟きだが、誰しもが感じていることだ。まさかこんなものまで再現できるとは正直思っていなかった。サタンゾアだけでも勝てる見込みが薄いというのに。

 絶望がさらに巨大化して日色たちの心を支配していく。


「――諦めないで」


 その時、イヴァライデアの声が皆を正気に戻させる。いや、正気に戻すというよりは、意識を自分に集中させたとでも言おうか。


「サタンゾアの力は万能で強力だけど、絶対的なんかじゃない。リスクも制限もある。あの魔神は、確かにネツァッファだけど、本物よりは格段に弱い」


 そうは言うが、魔神が与えてくるプレッシャーは、以前受けたものとそう変わらないと思わされる。


「それにあれだけの存在を生み出すのは時間制限もある。もって三十分」


 それだけあるなら【イデア】を滅ぼせる。


「大丈夫。今のあなたたちなら、時間くらい稼げる。ううん、倒せるはず。だから――」


 イヴァライデアの両手の人差し指が金色に光り、文字を形成していく。


「あなたたちに希望の光を――」


 彼女が魔法を発動した瞬間、日色以外の皆の身体が金色の光に包まれる。


「っ!? こ、これは……力が!?」


 ミュアが目を丸くしながら言葉を出すと、近くにいたニッキもまた、


「ど、どんどん力が湧いてくるですぞぉ!」


 拳を震わせ自身の力の上昇に戸惑いを覚えている。他の者たちも同様にだ。

 どうやら彼女たちの力を増幅させるような文字効果だったようだ。


(しかしそれにしても、一瞬でこの場にいる仲間の力を底上げするとはな。まるで四文字並みの強さだぞ)


 おいそれと四文字を使用できない日色とは圧倒的に力の質が違うようだ。


「……小癪なことを。ならば試してみるがいい。どちらが上かをな!」


 サタンゾアが腕を振り下ろすと同時に、魔神が物凄い速度で突っ込んでくる。狙いはミュアたちだ。


「さて、それでは最終決戦といこうか、イヴァライデア……そして《文字使い》よ」


 日色とイヴァライデアは、サタンゾアと対峙することになった。



 魔神ネツァッファはミュアたちに任せることにして、神王サタンゾアは日色とイヴァライデアが相手をするというスタンスに自然的になった。


「イヴァライデアよ、うぬの身体を貰い受けるぞ」


 そう言いながらサタンゾアが右手を日色たちへと伸ばすとグググンッと腕が伸びてイヴァライデアを捕まえようとしてくる。


「これは、フォーマルハウトの体質を再現したみたい。……けど」


 イヴァライデアが咄嗟に文字を書いて発動。すると向かってきていた腕全体が一瞬で凍結する。


「ふむ、我の誘いを断るとは小癪な」

「ヒイロならともかく、他の人にそんなこと言われても嬉しくない」


 おい、だからオレを引き合いに出すな、と心で突っ込む日色。


「――《灼熱のクドラ》」


 サタンゾアの全身が燃え滾るマグマのように変化して凍結した腕を瞬時に元に戻し、その右手を空へとかざした直後、右手から火山が噴火したようにマグマの塊が日色たちに向かって襲い掛かってくる。


「舐めないでほしい」


 再びイヴァライデアが文字を書いて発動。すると落下してくるマグマがグルリと方向転換をしてサタンゾアに向かって襲い掛かった。


「むぅ!?」


 マグマが直撃するが、サタンゾアは少しもダメージを受けていない様子で、今度は身体の周りに無数の剣やナイフ、槍などの武器を精製させて一斉に飛ばしてくる。


「オレもいることを忘れてもらっては困るぞ!」


 『土壁』という文字を発動させると、前方の大地がゴゴゴゴゴゴと音を立てて盛り上がり、日色たちを守る壁として出現した。


「ナイスサポート、ヒイロ」

「当然だ! 次はこちらから行くぞ!」

「うん!」


 日色は『飛翔』の文字を使って空を翔け、イヴァライデアは何もせずとも空を飛べるようで、そのまま浮き上がり、日色と一緒にサタンゾアに突っ込む。


「ヒイロ、一緒に!」

「ああ!」


 日色は『大爆発』の文字を書いて、サタンゾアへと放つ。ほぼ同時にイヴァライデアも文字を放った。しかしサタンゾアは、自身の前方にゲートホールを出して、またも攻撃を回避しようとしてくる。


「だからさせないってば」


 イヴァライデアが即座に文字を書いて発動した瞬間、日色たちが放った文字が消失し、サタンゾアの背後へと現れ、


「っ!?」


 サタンゾアが気づく前にすでに文字は彼の背中に貼りつく。


「「爆ぜろ、《文字魔法》!」」


 日色とイヴァライデアの同時魔法発動。凄まじい爆発がサタンゾアを襲った。

 初めての手応えを感じて日色は心の中でガッツポーズをする……が、少し気になっていることがあった。


 それは……彼女の扱う魔法について。少し前というより、サタンゾアと戦う前は、彼女が起こす文字は金色をしていた。

 しかし今は何故か普通の魔力のように青白い文字である。明らかにパワーダウンしている事実に日色はつい訝しんでしまう。


 そんな中、爆煙から水でできた触手のようなものが複数飛び出してきて、日色たちを捕らえようと向かってくる。


「ちィッ!?」


 『超加速』の文字を使用して触手を搔い潜っていく。イヴァライデアもその小さい身体を器用に動かしてかわしているのだが、彼女の瞳がフッと色を無くしたように日色の目に映った。

 その瞬間、彼女の動きが止まり、触手に捕まってしまった。


「しまったっ!? そいつは渡すわけにはいかんっ!」


 テンを宿している《絶刀・ザンゲキ》を握り、彼女を拘束している触手を斬る。そのまま解放された彼女を抱えて距離を取った。


「う……ごめん、ヒイロ」

「お前、やっぱり力が落ちてるな」

「…………うん」


 やはりそうだったかと納得する。だから金色の文字から青白い文字へとグレードが下がっているようだ。


「蓄えている力をあまり無駄にはできないから……。わたしに残されてる力もあまり……ない」

「そこは踏ん張れよ!」

「え、ここはカッコ良くお前の分までオレがやるから後は任せろ的なセリフを期待した」

「そんなどこぞの勇者的なセリフは他の奴に任せる」

「ぶぅ……やっぱりヒイロは無茶ばかり言う」

「あのな、そもそも無茶を押し付けたのはお前が最初だからな」

「……そうだった。ごめん」

「謝るな。話を聞いてこの道を選択したのはオレ自身だ。オレは自分で選択した道を絶対に後悔しない。何があってもな」

「ヒイロ……」

「だからお前も踏ん張れ。最後まで諦めるな。すべてが終わったら飴でも奢ってやるから」

「お~それは魅力的」

「だったらさっさと……っ!?」


 突然左腹部に走る激痛。


「がはっ!?」


 口から血液が吐かれる。


「「ヒイロッ!?」」


 テンとイヴァライデアの両者が叫ぶ。またイヴァライデアが日色の身体から離れて容体を確認する。

 日色の左腹部からは血が流れ出ていた。そのまま空から大地へと叩きつけられると思ったが、イヴァライデアが身体を支えながらゆっくりと下ろしてくれた。


「な、何でさ! まったく気が付かなかったさ!?」


 テンが刀から出て人型に戻り、日色の安否を気遣う。


「っ!? これは……っ!?」


 イヴァライデア何かに気づき、文字を書いて発動すると、日色の腹部を一本の剣が突き刺している姿が映し出された。


「け、剣が!? い、いつの間にヒイロに!?」


 テンは驚愕し、イヴァライデアは難しい顔を浮かべている。


「ククククク、どうだ? 《透明のクドラ》による透明化は対処が難しいであろう」


 攻撃まで透明化させられるとはつくづく万能過ぎて厄介な能力である。イヴァライデアが剣にそっと触れると、剣は光の粒子状に変化して消失した。


「よくもヒイロを……。ちょっと我慢して」


 イヴァライデアが日色の身体に文字を書く。


「ほんとはみんなみたいにあなたにも力を与えたいんだけど、それはまだ……」

「……?」


 何か言いたげな様子だが、かなりの痛みのせいかハッキリと聞き取れなかった。イヴァライデアが書いてくれた文字が発動し、青白い光が日色の傷口を包み込む。どうやら治癒効果のある文字のようだ。


「ククク、さあイヴァライデア、もう気が済んだであろう。そろそろ我も飽きた」

「……あなただけは許さない。わたしの世界を傷つけたばかりか、わたしの最愛の友達を裏切り、殺し、そしてヒイロまで……」


 徐々にイヴァライデアの身体を金色のオーラが包み始める。同時に漆黒の瞳も黄金色を宿す。


「ほう、ここからが本番だということか。なけなしの命を燃やし尽くそうとでも言うのか?」

「どんなものも無駄にはしない。そんなこと、ヒイロたちに失礼だもん」


 力強い瞳に当てられたサタンゾアの笑みが一瞬固まり、不愉快気に眉がひそめられた。

 刹那、日色の傍に立っていたイヴァライデアの姿が消え、一瞬にしてサタンゾアの目前に浮かぶ。そしてイヴァライデアの姿を見てサタンゾアが険しい顔つきを作る。


「どうやら本気のようだな。久しぶりに拝んだぞ、うぬの真の姿を」


 見れば、イヴァライデアという少女だった存在は、目まぐるしさを覚えるほどの成長を遂げ、見目麗しい大人の女性へと変貌していた。

 イヴァライデアという美少女を、二十歳ほどまでに成長させた姿。神々しい金色を纏いながら、背中から翼まで生やしている。


 その翼は、アヴォロスとの戦いの時に日色が見せた翼と同等のものだった。


「サタンゾア、あなただけはここで倒す」


 声も大人びたものへと変化している。彼女の変わり様に、思わず日色も呆気にとられているが、それは彼女が全力になった証拠だということは理解できていた。

 しかしそれは残りカスのような魔力だけでなく、命そのものを燃やし尽くしているのように思える。


「くっ……よせ……黒幼女……!」


 彼女の決死の覚悟。それはあの時、アヴォロスに立ち向かったミュアの後ろ姿に似ていたのだ。

 だから止めなければ、そう思うが、まだ全快してくれない。それだけサタンゾアの作り出した剣の攻撃力が凄まじいものだったことを悟る。


 しかし日色の想い虚しく、時間は動いていく。

 イヴァライデアが指を動かして文字を書くと、同時にサタンゾアの身体にも文字が刻まれる。無論金色の文字だ。


「させんわっ!」


 サタンゾアがまるで蛇のように脱皮して、その場から、いや、文字から脱出すると、文字が刻まれていた皮の方は、効果が発動した瞬間にボロボロと崩壊した。

 その光景を見て、逃げたサタンゾアが忌々しげに舌打ちをする。


「まだそれほどの力を残しておったとはな」

「女は秘密が得意。覚えておくといい」





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