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金色の文字使い ~勇者四人に巻き込まれたユニークチート~  作者: 十本スイ
第八章 ヤレアッハの塔編 ~真実への道~

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220:魔軍隊長決定戦

「えっと……テン殿はどうしたの?」


 【スピリットフォレスト】から【魔国・ハーオス】へと帰った日色たちは、帰った報告を魔王であるイヴェアム・グラン・アーリー・イブニングにするために彼女の執務室へと向かった。


 そこでちょうど仕事も一段落がついたということで、テラスでティータイムがてら話を聞くとのことだったので、彼女の自室にあるテラスへ行き紅茶を楽しんでいると、尻を真っ赤にして数倍に膨れ上げさせたテンが現れたのだ。……俯せの形で。


「放っておきなさい魔王イヴェアム。口は災いの元だと自覚する良い機会なのだから」


 白ヘビ姿のヒメはニッキの頭の上で突き放すように言葉を吐く。


「うぅ~……ヒイロォ……魔法で治してぇ」

「断る。魔力がもったいない」

「この薄情もんめぇぇぇ……」


 失礼な奴だ。そもそもヒメの言う通り自業自得なのだから我慢するべきだ。

 日色は【獣王国・パシオン】でのことと、【スピリットフォレスト】でのことをイヴェアムに報告した。


「【パシオン】でのことは私たちにも伝わってきているわ。《始まりの樹・アラゴルン》が復活したようで何よりね」

「《始まりの樹》じゃなくて《次世代の樹》と名付けたらしいがな」

「そうなの?」

「ああ、それに復活というよりは、新たな樹だし厳密にいうと復活じゃないけどな」


 《始まりの樹》の跡継ぎみたいな存在だ。


「それにしても、慌ただしかったみたいね」

「まあな」

「ニッキのことについても、誤解が解けて良かったわ」


 彼女もニッキのことを妹のように可愛がってくれているので喜んでいる。


「こちらは問題はないですかな?」


 ニッキが紅茶をぐびっと呑み込んだ後に尋ねる。


「ええ、さしたる問題は発生してないわ。みんなも精一杯働いてくれてるしね」

「おお、それは良かったですぞ!」

「そういえば、あの堅い喋りは止めたのか?」


 魔王として威厳を保つために、イヴェアムは城の中にいる時でも厳格な話し方を心がけていた。普段通りに喋っていると、ただの少女と変わりがないということで。


「……一応公の場なんかでは気を付けるようにしてるわ。だけど、こういう時くらいは肩の力を抜こうって思ったの」

「ほう、誰かに何か言われたか?」

「ううん。ただもっと自然体で大地に立とうって思っただけ。私は……王として外聞ばかり気にしていたのかもしれないわ。他の王と比べて若く、経験も足りない王。今回の《イデア戦争》でも王としてできたことなんてほんの僅か。どう取り繕ったって、私は私だもの。弱い私、未熟な私、そんな私を隠しても仕方ないって思えたのかもしれないわ」


 彼女の切なる言葉に誰もが真摯に向き合っている。


「もちろん民に恥ずかしくない王としての威厳を保つために、ある程度の礼儀を持った話し方は公では気を付けるわ。ただ普段はもっと私らしくいようと思ったの。他の王たちも飾らずありのままでいたから」


 確かにレオウードもアヴォロスもルドルフなど、王として立っていた者たちも、それぞれに一物を抱えていた部分はあるだろうが、基本的に飾らずに自分の姿をというものを存分に見せていた。レオウードは今もなお現役ではあるが。


「ふふ、実はね復興をし始めた【ヴィクトリアス】では、新たな王を選出する動きがあるのだけど、大多数の声が支持したのはジュドム殿なの」

「まあ、妥当だな」


 どう考えてもそれ以上の人選が思いつかない。もしリリスやファラに婚約者などがいれば、その者になるのだろうが、彼女たちはまだそのような相手はいない。


 また彼女たち自身という選択もあるかもしれないが、彼女たちは自らが断ったらしい。ルドルフの行ったことの責任を背負うためにも、その血を引く者は身を引くべきだと、死んでしまったマーリス王妃が、最後に彼女たちに委ねた言葉だったとのこと。


「ジュドム殿も、自分を飾る人じゃないし、少し見習おうと思ってね」

「なるほどな。まあいいんじゃないか。オレからすれば、お前はただの女だしな」


 ただの女と言った瞬間に、微かに頬を赤く染めるイヴェアム。


「……そういえば、ヒイロくらいね。私をそんなふうに言ってくれるのって。初めて会った時もそんなことを言ってくれたわ」


 彼女の目がユラユラと揺れる。何故そんな嬉しそうに微笑んでいるのか……。


「だ、だからね……その……せめてあなたの目の前だけでも……お、女の子でいようかなって思ったの」

「はあ? さっきも言った通り、最初からお前は女の子だと思うが?」

「はぁ~そういう意味じゃねえって言ってもお前は分かんねえんだろうなぁ~」


 盛大に溜め息を漏らす小動物の猿。何かムカつく。


「そうね、女心を一ミクロンも理解できない朴念仁らしいわ」


 次いでヒメもその波に乗る。


「むむむ? 師匠は女心はがっちり掴んでいますぞ! だってボクは師匠が大好きです! ボクは女ですし、身も心も捧げているですぞ!」

「よく言った。それでこそ愛弟子だ」

「任せてくださいですぞ!」


 日色はニッキと手をパチンと合わせて「よくやった」と褒める。


「はぁ~魔王ちゃんよぉ、もうこんな鈍感眼鏡、止めといたら?」

「えっ!? そ、それはでも……そ、そういうヒイロも良いかなぁって。それにヒイロが敏感過ぎても、それはそれで大変だろうし……」

「あ~ダメだ。完全に堕ちちゃってる。なあヒメ、どうしたらいい?」

「知らないわよ。私に聞かないでくれるかしら」


 何とも穏やかでのんびりした時間だが、日色も最近ではこういう時間が好きになってきている。ずっと緊張を強いられた中にいたせいか、この時間がとてもありがたく思えてくるのだ。


 だがふと、テラスの西側から何かがやってくる気配を感じる。他の者は気づいていない。建物の屋根から屋根へと跳び移り、テラスへとやって来る。


「? ……どうしたのヒイロ?」


 イヴェアムが日色の視線が気になったようで尋ねてくる。すると、ザザッとテラスへと入ってきた人物に皆が気づく。

 日色はそのままの状態で口を開く。


「いきなりどうしたんだ、ウィンカァ?」


 彼女はウィンカァ・ジオ。まだ人間界を旅していた時に出会った獣人と人間のハーフ。まだ十四歳のはずだが、ミュアが羨ましがるほどの豊満なボディを持っていて、いつもぼんやりとしている不思議少女である。


「ヒイロ~」


 トコトコと日色のもとへやって来ると、頭を胸に押し付けてくる。


「おい、一体何の真似だ?」

「ん~……ナデナデしてほしい」

「ちょっ、あなたはいつも大胆過ぎよ、ウイ!」


 イヴェアムが席から立って指を彼女に突きつける。確かにウィンカァは、こうしてスキンシップの取り方が大胆ではある。


「ん……ウイはヒイロのニオイ好き。だからナデナデしてほしい」


 意味が繋がっているのか繋がっていないのが判断しにくい。まあ、彼女の中では極めて当然の論理なのかもしれないが。


「で、でも女の子が、男の子にそうやって簡単にくっつくなんて……それにナデナデなんて私もしてもらったことないのに……」


 最後の方から声が萎み始め何を言ったのか聞き取れなかったが、正直ウィンカァに対して、日色は小動物のようにしか見えていない。

 確かに女性としての魅力は強烈に備えているが、彼女の行動自体が動物のそれとほとんど変わらないので、女性としてよりペット感覚ではある。


 今彼女には尻尾はないが、尻尾があれば確実に千切れんばかりに振っていることは明白。


「というかお前、何でここに?」

「……ナデナデ」

「いや、だから」

「ナデナデ」

「まずは質問に」

「ナデナデ」

「…………」

「ナデナデ」


 目を潤ませ頭の上にアンテナのように立っている髪束が「ここ掘れワンワン」的な感じでナデナデを誘っている。

 どうやら撫でなければ話しが進まないようだ。日色は諦めて彼女の頭にそっと手を置くと撫でてやる。


(オレも丸くなったもんだな)


 前までは何かしら条件をつけなければ撫でたりしなかったが、何かそれも面倒に思えてきている。異世界に染まっているとはこのことだろう。


「えへへ~」


 気持ち良さそうにウィンカァは微笑んでいる。そこへニッキがヒョコヒョコとやってきて、黙って頭を差し出してくる。


「…………何だ?」

「さ、最近師匠と弟子とのスキンシップが足りないような気がするですぞ」


 そんなことはないだろうと思いつつも、ついでだからと彼女の頭も撫でる。


「あ~これが幼女キラーの実力なのか……」

「まさしく変態ね変態」

「もう、ヒイロのバカ」


 テン、ヒメ、イヴェアムの順番に日色に聞こえないように声を発している。イヴェアムだけは羨ましそうに見つめているが……。


「それで? 何でここに来た?」

「ん…………何でだっけ?」

「お前は相変わらずだな」


 来た理由をオレに聞いてどうするんだと思いつつも、会った頃からこんな感じなので別に驚きはしない。


「あ、思い出した。リリィンが呼んで来いって」

「はあ? また呼び出しか」

「ん? また?」

「あ、いや、こっちの話だ。用があるならお前が来いって言ってこい」

「ん……でも最近ととさんが美味しい羊羹を作ったって言ってた」

「よし、行くか」


 日色は席から立つ。羊羹を是非とも味見しなければ。


「簡単過ぎだろぅ……」

「そうね、単純バカよ」


 テンとヒメの突っ込みが入る。今度は彼らの声が聞こえたので、日色は反論しておく。


「バカを言うな。美味いのは正義だぞ。それにクゼルは和菓子を作るのが得意だと聞いてる。是非ともその羊羹を口にしなければ嘘だぞ」

「まあ、別にお前が行くってんなら俺も行くけどよぉ」

「ボクも行くですぞ!」

「ちょっと待ちなさいニッキ」

「へ? 何ですかなヒメ殿?」

「ねえ、魔王さん、ここの修練場を使わせてもらっていいかしら?」

「ええ、別に構わないわ」

「なら私について来なさいニッキ」

「ええ~! ボクも師匠と一緒に行きたいですぞ~!」

「あのね、あなたはもっと強くなりたいんでしょ? だったら時間を惜しまずに鍛錬に当てなさい。まだ私の力も使いこなせていないし。ヒイロに追いつくんでしょ?」

「む、むむむぅ……分かったですぞ! ではさっそく修業ですぞヒメ殿!」

「あ、こら待ちなさい! まったくしょうのない子ね」


 ニッキがやる気に溢れた表情でテラスから飛び出ていく。ヒメもその後を追った。


「イヴェアム、あまり根を詰めるなよ。ぶっ倒れるとマリオネたちがうるさい」

「ふふ、分かってるわ。ヒイロたちも気をつけてね」


 日色は肩にテンを乗せると、ウィンカァとともに『転移』の文字でクゼルの小屋へと向かった。


 




 【魔国・ハーオス】から少し離れた丘陵にはひっそりと一つの小屋が建っている。イヴェアムの了承を得てクゼル・ジオが建てたものであり、ここでクゼルとその娘であるウィンカァが住んでいる。

 リリィンやシウバも足繁く通い、酒や茶などを一緒に嗜んでいるのだ。


「いらっしゃい、ヒイロくん」


 男だが端正な顔立ちを持つクゼルが出迎えてくれた。彼は《三大獣人種》である『金狐族』であり、その中でも『九尾』と呼ばれる最強種だ。

 その血を引くウィンカァも、やはりその身に持つ力は絶大で、《イデア戦争》でも大いに日色の救いとなってくれた。


「む、遅いぞヒイロ。ワタシが呼んでいるんだから、もっと早く来い」

「お前は変わらず偉そうだな、リリィン」

「フフン」


 何故か上機嫌な彼女。彼女の名前を呼ぶと決まって「フフン」と頬を緩めるのだが、それほど嬉しいものなのだろうか……。


「ごしゅじ~んっ!」


 ドスッと暴走列車のごとく突進してくる小さな物体。そのままジャンプして日色の首に手を回して顔を舐めてくる少女――ミカヅキ。


「ええい、何度言えば分かる! 舐め回すな!」


 彼女は元々ライドピークというモンスターであり、日色が魔法で擬人化させているのだ。しかしモンスターの頃から日色の顔を舐めるのがどうやら好きなようで、こうして人型の時でも状況に関係なく舐めてくるので辟易する。


 涎塗れになるので勘弁してほしい。日色はコツンと頭を軽く小突くと、


「ふみゅっ!? クイィィ~ッ、シャモエちゃ~んっ!」


 泣きながら桃色頭のドジメイドであるシャモエに抱きつく。何故彼女の顔を舐めずに自分だけなのだろうかといつも疑問に思う日色だった。

 シャモエはミカヅキの頭を優しく撫でると、彼女も気持ち良さそうに目を細めて「クイ~」と声を漏らしている。


「ノフォフォフォフォ! お聞きしましたぞヒイロ様! 何やらあの【グレン峡谷】に行ったそうで」

「いたのか、変態」

「これは手厳しい! 久しぶりの毒舌手厳しいですぞ! ノフォフォフォフォ!」


 見た目はナイスミドルな執事ではあるシウバだが、中身は――ただの変態だ。アノールドといい勝負のロリコンでもある……多分(可能性大・すでに危険域)。


「それで? 用ってのは何だ?」

「うむ。実はな戦争の後、獣王と交渉した結果、【ヴァラール荒野】を貰い受けることができたのだ」

「ほう、レオウードも太っ腹なことを」


 だから上機嫌なのかと納得。


 彼女――リリィン・リ・レイシス・レッドローズこと赤ロリ(日色命名)には野望がある。


 それは【万民が楽しめる場所】を造ること。


 別名【楽園】とも呼んでおり、種族の垣根を越えた、誰もが足を運び、誰もが楽しみ、誰もが住むことのできる場所のこと。


 リリィンは生涯をかけてそれを造り上げることを夢としている。この世界に限らず、異端者と呼ばれている者たちは迫害を受ける立場にある。


 たとえば代表すればハーフなどがそうだ。どちらの種族でもない半端者と断定されて、受け入れることを拒否される。他にも特殊な能力を持った者たちや、世界のはみ出し者など、枠組みから弾き出された者たちがいる。


 リリィンはそのような者たちが楽しく暮らせる場所を提供したいと思っているのだそうだ。

 そして日色もまた、彼女の考えを支持している。


 何故なら、面白そうだからだ。


 【楽園】では民たちを楽しませるために、いろいろな催しなども行うとのこと。その中でグルメ大会やスポーツ大会など、この世界にいる者たちが鎬を削るイベントを一目見てみたいと思い力を貸すことに決めたのだ。


 まさに地球でいうところのオリンピックのようなもの。それがこの世界でも行われるのであれば、一見の価値はあるはずだ。何といってもこの世界には魔法や《化装術》などもあり、規模も大きいものになるはず。

 これは絶対に面白いものになると判断し、日色は彼女の夢を支持しているということだ。


「先程通達があったのですよ。それでリリィンさんは、ヒイロくんにも知らせなければと慌てて」

「な、何を言っているクゼル! ワ、ワタシは別に慌ててなどいない!」

「おや? そうでしたか? ヒイロくんも喜んでくれるかなと可愛らしく私に質問してきたのはどなたでしたっけ?」

「にゃっ!? き、ききき貴様っ! せ、性格が悪くなってるぞっ!」

「ノフォフォフォフォ! 顔を真っ赤にして照れるお嬢様。素直になれないお嬢様。ですが愛しい人に伝えたいこの想い。そのジレンマに日々苦しめられるお嬢様ですが、私はそんなお嬢様がっ! ああもう辛抱溜まりませんぞ! おっ嬢さまぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!」


 シウバが何故か上着を脱ぎつつリリィンに向かってダイブするが、


「世のため人のため、ワタシのため! 貴様は一度地獄へ堕ちて来いっ!」

「まばばばばばばばばばばばっ! ぺぶんじゅっ!?」


 リリィンに全身をマッハのごとく連撃を撃ち込まれ、最後にサマーソルトキックでトドメを刺されたシウバは、天井に頭をめり込ませている。


「ふぇぇぇぇぇっ!? シウバ様ぁぁぁっ!?」


 これも通例通りシャモエが驚き声を上げる。


「わ~すごいね~。あたまがずこーんってなってる~」

「ああ……私の家が……」


 ミカヅキは楽しそうに笑みを浮かべているが、クゼルは自分の家の天井に穴が開いたことにショックを受けている。


「ウキャキャ、相変わらずシウバは面白えじっちゃんだぜ」

「ん……みんな元気」

「アオアオッ!」


 テンとウィンカァ、そしてスカイウルフというモンスターのハネマルも楽しげに笑っている。


(いつ来てもホントにカオスだなここは……)


 シリアスができないのかと心底呆れてしまうほど賑やかである。まあ、若干一人の変態のせいでいつもこうなるのだが……。


「まあ、変態のことは置いといてだ。土地をもらったのは戦争での報酬か何かか?」

「うむ。ヒイロ、貴様は獣王に貸しが山ほどあっただろ?」

「……まあ、幾つかあったか?」


 二つ、三つあったと思う。別に気にしていなかったが。


「ヒイロも【楽園】建造に乗り気だということを話すと、その貸しを返す当てもないから【楽園】に当てるかといって了承してくれたぞ」

「…………ちょっと待て。それはオレへの借りであってお前じゃないだろ。何を勝手に人の貸しを利用している?」

「いいではないか。どうせ貴様のことだ。貸しのことなど忘れておったのだろ?」


 それは的を射ているので反論はできない。


「だから貴様の主たるワタシが有効に使わせてもらおうと思ったのだ」

「まだ生きてたのか、その設定」

「せ、設定などではないわ! 貴様はワタシのものだ! つまり、しもべの貸しはワタシの貸しでもある! 故に問題などありはせん!」


 清々しいほどの横暴ぶりである。これだけのことを胸を張って言われれば、逆に気持ち良いくらいだ。


「……とにかく、建造地獲得はできたってわけだ」


 まあ、こちらも建造自体は望んでいることなので別にいい。


「うむ。問題は資金と資材、そして労働者だな」

「そちらは私が方々に声をかけて、いろいろ調達はしていますが」


 クゼルが答える。最近リリィンたちがよくクゼルと話をしているのは、【楽園】についての計画を煮詰めるためだ。


「ただ建造に着手する前に片づけなければならない問題もある」


 空気がガラッと変わる。緊張感が場に漂い始める。


「……『神人族』に関して、だろ?」

「そうだ。そいつらに関しては新たな情報は手に入ったのか?」


 リリィンの問いに、ドゥラキンから聞いた話を聞かせる。


「人の人生を決定させる預言書だと? そんなふざけたものが本当にあると言うのか?」


 当然疑い深いリリィンはこうなる。他の者も目を丸くして固まっている。ただシウバだけはホオズキとの繋がりもあって知っていたのか、静かに佇んでいるだけ。


「そ、その《不明の領域者》の因子が私やウィンカァにはあるのですか?」


 クゼルが不安気に尋ねてくる。


「ああ、可能性でいえばジイサンとリリィンもそうだ」

「む? ワタシもか?」

「お前はアダムスの魔法が扱える。つまりアダムスとの血の繋がりが一番濃い可能性が高い」

「フン、気に喰わない繋がりだがな」

「……前から聞きたかったが、お前はどうしてそこまでアダムスの話をすると嫌な顔をするんだ?」


 他の者も彼女から理由を聞いたことがないのか、興味深そうにジッと彼女の顔を見つめる。

 リリィンもまた軽く溜め息を吐き出すと、腕を組み椅子に腰かける。


「……そんなに聞きたいか?」

「まあ、話したくないなら別にかま」

「そんなに聞きたいか?」

「は? いや、だから話したくないなら」

「そんなに聞・き・た・い・か!」

「…………ああ」


 どうやら彼女は話したいらしい。ここは素直に彼女に従っていた方が話がスムーズに進みそうだ。







「ワタシは昔、【魔国・ハーオス】で暮らしていた。というよりも、出身が【ハーオス】だ」


 リリィンが話し始めた自身の過去。アダムスの話をすることが何故それほど気に喰わないのか聞かせてくれる。


「生まれた時にはすでに兄もいた。まあアヴォロスの話だと、ワタシとは血は繋がっていないみたいだがな」

「知らなかったのか?」


 彼女の兄――アクウィナス・リ・レイシス・フェニックスの正体をアヴォロスが暴露した。

 その正体はアダムスの親友だったフェニックスの転生体ともいうべき存在。種族的には『魔人族』にはなるが。


「ああ。まあ、奴が兄だろうとそうでなかろうとどうでもいいがな」


 彼女とアクウィナスとの間に何があったのか知らないが、仲は良くないらしい。


「ワタシが何故アダムスが気に喰わないのか、それはひとえにワタシが宿している魔法にある」

「《幻夢魔法》だな?」

「そうだ。それがどのような魔法なのか貴様も知っているだろう?」


 初代魔王が使用したと言われている《幻夢魔法》。何にも勝る凶悪的で強過ぎる能力だと聞いている。相手に幻術をかけて意のままに操ることも、そのまま永久に幻の中に閉じ込めることができる。

 しかもその発動の瞬間もハッキリとは認識できず、気づいたら死んでいたということも有り得る。まさに最強ともいうべき魔法の力だろう。


「この力のせいで、アダムスの再来やアダムスの器などもてはやされた」


 それはそうだろう。アダムスは『魔人族』にとっては神のような人物のはず。その人物と同じ魔法を持つ者が生まれたら、その者に期待するのは当然だ。


「だがワタシは…………奴ほどの才は無かった」

「そうなのか?」


 そうでもないと思う。レベルもさることながら、その魔法の力も身体的な能力も他を逸するほどのものを持っている。いや、『神人族』としてのアダムスの所業を考えると、確かに見劣りするのもまた事実かもしれない。


 まさに神のような行いをし続けていた彼女と比べるのは酷というものだろう。


「そんなワタシにほとんどの者が肩を落とした。勝手に期待して、勝手に落ち込む。忙しい奴らだ」


 自嘲するような笑いを浮かべる彼女を見て、彼女もまた実は皆の期待に応えようと頑張ったのではないかと思った。しかし求められるものが大きくて、彼女はそれに応えることができずに彼女に見切りをつける者が現れたのだろう。


「だからワタシはそんな程度の低い奴らのもとにいるのが我慢ならずに一人で国から出たというわけだ。それからは世界中を旅した」

「ほう、お前一人で世界をか?」

「ああ、人間界も獣人界も、無論魔界もな。どれほど渡り歩いたかは定かじゃない。そこで出会ったのがここにいるシウバだ」

「ノフォフォ、そうでございましたな。それからはわたくしめが屋敷を造り、そこに住むことになったということでございます」

「なるほどな。オレと初めて会った時のあそこか」


 ドーナツ型の湖が広がる場所。その中心小さな島に屋敷がポツンと建っていた。空からは《赤い雨》も降ってくるし、SSランクのユニークモンスターも現れるという奇妙な環境に包まれたところだ。今思えば懐かしい。


「しかし、お前にも繊細な心があったんだな」

「ど、どういう意味だ?」

「周りの期待が重くて、それが嫌で逃げ出したんだろ?」

「ち、違うわ愚か者! ワタシはただ、自分のするべきことを見つけるために旅をしたいと思っただけだ!」

「ふぅん、それで見つかったのが【楽園】ってことか」

「その通りだ!」

「……! あ、お前もしかして」

「な、何だ?」

「アダムスができなかった、万民を救う術を自分が見つければ、奴を越えられるとか思ったんじゃ……」

「っ!?」

「ヒ、ヒイロ様、それを仰っては――」


 シウバが制止の声をかけるが一歩遅く、日色もまたアッとなってしまう。リリィンはプルプルと身体を震わせて涙目で見上げてくる。


「ワ、ワタシは別にしょんなことなど思ってにゃいんだからにゃぁぁぁぁっ! このバカァァァァッ!」


 ダダダダダダと顔を真っ赤にして部屋から出て行った。図星をつかれて恥ずかしさに負けたのか……。


「ふぇぇぇぇぇっ!? お嬢様ぁぁぁぁっ!」


 シャモエがリリィンのあとを追いかけていく。


「あ、シャモエちゃんまってよぉ~」


 その後にミカヅキもついていく。


「ノフォフォフォフォ! ヒイロ様に図星をつかれていたたまれなくて逃げ出すお嬢様も可愛らしいでございますな! ノフォフォフォフォ!」

「はぁ、趣味が悪いですよヒイロくん」

「ん……ちょっと可哀相」

「ま、ヒイロだからしょ~がねえわなぁ」


 シウバ、クゼル、ウィンカァ。テンが次々と呆れた様子で口を開く。


(……オレが何かしたのか?)


 ただ思いついたことを言っただけなのだが……。


(まあ、リリィンが国を離れて【楽園】建造に躍起になるようになった理由もこれで分かったけどな。アイツはアダムスに少しでも近づこうと必死だったってわけだ)


 それで彼女が建造することもできなかった【楽園】を造ろうとしたのだろう。


「ヒイロ様、お嬢様はああ見えて寂しがりで臆病なお方なのでございます」

「…………?」

「世界を回り、種族の垣根を越えた優しい場所を建造するために土地を探し、差別などで困っている者たちとの邂逅を経て、その者たちに話を聞いていました」


 世界のはみ出し者とされる者たちと出会い、仲間を増やそうとしたのだ。


「しかしなかなか上手くはいきませんでございました。理想の土地は見つけられず、たとえ見つけてもすでに権利者の手に渡っており、交渉しても断られ続けていました。それに仲間集めも、お嬢様のことを信じられずに距離を取られてしまっていたとのことです」


 まあ、無理もないと思う。いきなりやって来て仲間になれと言われても、同種族や仲間たちから裏切られた者たちが、簡単にリリィンの言うことを信じることなどできはしないはず。


「わたくしと出会ってからも、いろいろ方々を回ったりしましたが、なしのつぶてと言いましょうか。お話を聞いてくれる者は少なかったのです。クゼル殿やシャモエ殿はお嬢様のお話を聞いて下さいましたが」


 それでシャモエは、リリィンの手を取り、クゼルもまたこうして手を貸すことになったということだ。


「次第にお嬢様も堕落的になりました」

「確かにオレと会った時は、それほど【楽園】建造に意欲的には見られなかったな」

「そうでございます。諦める……まではいっていませんでしたが、少し心が折れかけていたのかもしれません。自分は決してアダムスさんを越えることはできない……と」

「なるほどな。でもオレと旅をしたぞ?」

「そうなのでございます。ですからわたくしは本当に驚きでした。いつか、お嬢様を動かせる方が現れればと願っていましたが、突然ヒイロ様と一緒に旅に出ると仰られた時は言葉を失ったものです。ですがそれ以上に……嬉しゅうございました。お嬢様が再び意欲的になられたことが」 


 シウバがリリィンのことを本当に大切に思っていることが伝わってくる。それほど居場所を与えてくれたリリィンに感謝しているのだろう。


「ノフォフォフォフォ! やっぱり乙女を突き動かすのは――恋っ! でございますね!」


 ………………………………は?


「お嬢様にもようやく春がやってきたことを嬉しくも思い、寂しくもまたあります」

「お、おい何言って……」

「ノフォフォフォフォ! 是非ともヒイロ様にはお嬢様を幸せにしてほしいですな! 一緒に【楽園】を造り、そうでございますねぇ、そこに国を建国して、ヒイロ様が王でお嬢様が王妃、そしてわたくしとシャモエ殿が愛人という立場に立ち」

「何をふざけたことを抜かしておるか貴様わぁぁぁぁぁっ!」

「はっちょんびんっ!?」


 後頭部を蹴り抜かれたシウバは前のめりに壁に激突した。いつの間にかリリィンが戻ってきていた。見事な蹴りだった。


「……はぁ、私の家……新築なのに……」


 クゼルには同情しかなかった。 


「そんなことより、羊羹を食べさせろ、クゼル」

「ん……ウイも食べたい」

「あなたたちは……はぁ~」


 クゼルの苦難はまだまだ続く。



     ※



 ――――――【ヤレアッハの塔】。


 天空に浮かぶ金色の塔では、二人の人物が塔の前方にある魔法陣の上に立っていた。


「やはりウンともスンとも言いませんね、この転移魔法陣」


 大地に描かれた魔法陣に指先で触れながら肩を竦めるのはペビンという名の、糸目が特徴の男。


「我々を地上に送らせないために魔法陣の効果を無力化しているんだろうなぁ。自身を封じながらもこれだけのことができるとは、さすがは【イデア】の神――イヴァライデアといったところかな」


 もう一人はハーブリードといい、かつては【魔国・ハーオス】でハーブリード隊の隊長をしていた人物。


「しかしあれからもう三カ月は過ぎようというのに……」

「この間に、地上の者たちに力を蓄えさせようとしているんだろうねぇ」

「ですがハーブリード様、《遠見の鏡》の効果も失っていて…………ハッキリ言ってヒマなんですが」

「それは我慢だね。俺だってこの三カ月、君と二人っきりでつまんない日常を過ごしてきたんだから」

「つまんないとは言い草ですね。傷ついちゃいますよ?」

「そんなタマかい?」

「いえいえ、こう見えても心は繊細でして」

「はは、それは面白い冗談だ。とまあ、そんなことより、早くイヴァライデアの力を振り払い《塔の命書》を使って遊びたいんだけど……」


 ハーブリードが塔の方に視線をやる。塔は金色の蔓に全体を覆われまるで封印状態になっている。


 ハーブリードの右手にエネルギーが集束していき漆黒に彩られた剣が顕現する。そのまま彼は剣を天から地へと軽く振り下ろす。バキバキバキバキィッと大地を斬り裂きながら斬撃が塔へと向かう。

 しかし斬撃は蔓に触れた瞬間に霧散してしまう。


「はぁ、ビクともしないとはこのことだよね」

「僕たちの力でも効果無しなんですから、恐らくあの蔓には“拒絶効果”を宿しているんでしょうね」

「まったく、厄介だね。いつまでこの無駄な時間を過ごせばいいのやら」

「せめて地上の光景でも眺められれば、少しはマシなのですが、【イデア戦争】が終わった瞬間に《遠見の鏡》が発動不可能になりましたからね」

「とことん俺たちの邪魔をするつもりのようだ」

「ただそれも、時間の問題でしょうね……む? ほら、噂をすれば何とやらですよ」

「ん?」


 ペビンが見つめる塔上空へとハーブリードも視線を移動させる。すると金色の蔓が、徐々にヒビ割れていくのを発見する。


「おやおや、どうやら長い眠りから目を覚まされたご様子で」

「のようだね。本当に長かったよ」


 しかし大地から金色の光が溢れ出し、蔓を覆い始めヒビ割れを防いでいく。


「おお、イヴァライデアも黙ってやられるわけがありませんでしたね」

「ああ、けどあの方の力の方が強い」


 ハーブリードの言うように、ヒビ割れる勢いは弱まったものの、確実にヒビが入り続けていく。


「あの方――神王様完全復活までもう少しのようですね」

「だな。それまでは地上人も好きにするといいさ。束の間の平和を……ね」


 二人は塔を見つめながら楽しげに笑みを浮かべていた。



     ※



 【ヤレアッハの塔】で動きがあったことなど知る由もない日色は、いつも通り朝起きると朝食を食べながら本を読み、昼になると昼食を食べながら本を読み、夜になると夕食を食べながら本を読むといった生活スタイルに戻っていた。


「ダメ人間っぽいですよ……ヒイロさん」


 日色の侍女兼専属作家のランコニスが、自分の主人である日色の一日の行動に疑問を持ったようで半目で忠告してきた。


「何がだ? オレはいたって普通だと思うが?」

「どこがですか! 毎日毎日毎日毎日、食べるか読むかじゃないですか! 何かしてください!」

「そうは言っても、これがオレの日常だぞ」

「そんなことじゃ、引きこもりのダメ人間になります! あなたの侍女として、さすがに進言させて頂きます!」


 そう言われても、好きなことを好きなだけしているこの環境に満足している日色。確かに他から見ればニートのような生活まっしぐらかもしれないが、これまでかなり働いてきた日色にとっては、しばらく…………五年くらいこのままでいいのではないだろうか……?


「五年なんてとんでもありません!」


 あ、願望が声に出ていたようだ。


「お時間があるんでしたら、たまには身体を動かすためにも修練場へ向かわれてはいかがですか?」

「……めんどくさい」

「ダ・メ・で・す!」


 何だか最近、ランコニスが母親に見えてきたのだが……。


「レンタンもヒイロさんに修練をつけてほしいと言っていましたし」

「なら行ってやるから本か食べ物をくれ」

「ほんとこの人ダメ人間ですぅっ!」


 失礼な。正統な見返りだと思う。


「とにかく、ず~っと食っちゃ寝してたら身体に悪いです!」

「いや、寝てはいないぞ?」

「その状況でそんなことを言いますか?」


 今、日色はベッドの上で横たわりながら本を読んでいる。


「……これは横になっているだけだ」

「同じです! ほらヒイロさん!」

「こら、引っ張るなっ!」


 日色はランコニスに連れて行かれて部屋から出ていく。


(……まさかコイツがこんなに強引だったとは……はぁ、オレの幸せライフが……)


 別に身体は動かしたい時だけ動かせばいいと思う。そもそも好きなことをするために異世界を渡り歩いてきたのだから。


「ほらほら!」

「……オカンだな」

「何か言いました?」

「い、いや……」


 ギロリと睨まれたので目を逸らす。何だあの眼力……魔神よりも強烈だった……かも。


 そのままランコニスに修練場まで連れて行かれると、そこでは面白そうな催しがされていた。

 石で舞台を造り上げ、その上に二人が立って試合をしている。武器はどうやら刃挽きした剣など、比較的攻撃力が低い代物を使用しているようだ。


「あっ、ヒイロ兄っ!」

「むむ! 師匠ですかな!」


 レンタンとニッキが日色の姿を発見して駆け寄ってくる。


「一体この状況は何だ?」

「これはねヒイロ兄、試合だよ!」

「試合ですぞ!」

「いや、それは見て分かる」


 本当に説明が下手な子供たちである。


「穴の開いた《魔王直属護衛隊》の序列六位があったッスよね?」


 そこに現れたのはパーマを当てたような緑髪の青年――テッケイル・シザーだ。彼は序列三位の立場にある強者である。


「まさかこの試合で序列六位を決めようっていうのか?」

「いえいえ、六位はもう決まってるッス。ラッシュバルさんが就任したッスから」

「ああ、あの《魔軍総隊長》の奴か……」

「そうッス。そしてその総隊長の任に就いたのはイオニスさんッス」

「ほう」


 見た目が幼女の可愛らしいイオニスだが、元々はイオニス部隊の隊長でもあった。


「それで、魔軍には基本的に大きく分けて二部隊あるんスけど、イオニスさんは昇格して、ハーブリードさんは戦死されたので、ポッカリ二つ空いちゃったわけなんスよね」

「なるほどな。その二つの隊長の座を決めようってことか」

「そういうことッス。あ、でもまだ始まってはいないんスよ」

「そうなのか? なら今戦ってるのは何だ?」

「準備運動みたいなもんスよ。あ、良かったらヒイロくんも出場するッスか?」


 その瞬間、その場にいた者たちが青ざめた顔で日色を凝視する。


「……いや、立場に興味は無い」


 その言葉に皆が安堵の溜め息を漏らす。まあ、彼らの気持ちも分かる。魔神を一人で撃退した日色が参加すると、確実に一枠が決定してしまう。


「まあ、このイベントは面白そうではあるな」


 ランコニスに連れられてイヤイヤやって来たが、思わぬ暇潰しになりそうだ。







 二つの隊長の座を決定する催しが開かれることとなり、主催者はもちろん魔王であるイヴェアム。

 彼女が指揮をして闘いの舞台を整えた。


「この度、“魔軍隊長決定戦”に参加してもらい嬉しく思う! 皆、その力を存分に揮い、是非とも我々に選ばせてくれるような闘いを見せてくれ!」


 彼女の声に兵士たちが唸りを上げる。やる気十分といったところ。プロレスで見たことのあるような実況席(少し長め)が作られており、そこにイヴェアムはもちろん《魔王直属護衛隊》の面々が顔を並ばせている。テッケイルは日色の傍にいるが。


 ここ魔王城の修練場はかなりの規模があり、作られた舞台も大きなものになっている。その上で決定戦が行われるということだ。


 参加する兵士の数が多いので、幾つかのブロックに分けて、一回戦はバトルロイヤルということになっているらしい。そこで最後まで立っていた一名が二回戦のトーナメントに参加できるということ。


「お、始まるみたいッスね」


 テッケイルもイベントを楽しみにしているようで好奇心に目を光らせている。実況席を見てみると、イヴェアムたちが舞台に上がる猛者たちをジッと観察している。


 実はこのイベントには、兵士だけでなく国外の『魔人族』たちも参加権利があり、強者を募って参加させているらしい。


 まだ世界には隠れた実力者がどこかにいるはずだとのイヴェアムの言によるもの。実力主義の魔軍だが、余所者には負けられないと思っているようで兵士たちの気合も満ちに満ちている。


「まずはAブロックか。ほとんどが魔軍の兵たちだが……見たことない奴も結構いるな」


 見回すと魔軍の兵士たちが身に着ける鎧を装備していない者たちがチラホラと見える。恐らく全員が腕自慢の猛者たちなのだろう。胸には番号札が装着されてある。


「どうッスかヒイロくん。強そうな人、いたッスか?」

「何とも言えんな。なかなかに魔力が高そうな奴らはいるが、魔力が高いからって強いとは限らないしな」

「確かにそうッスね。要は魔力の使い方ッスから」

「おお~! ボクも出たいですぞぉ!」

「はは、ニッキちゃんは元気ッスね。けどニッキちゃんならもしかしたら優勝することも考えられるんじゃないッスか?」

「どうだろうな。確かにコイツの戦闘センスは高いが、相手は魔法を使う。魔法によっては相性が悪い場合があるし、実力を出せずに倒されることも十分に考えられる」

「そ、そんなことないですぞ! どんな相手でもボクのこの拳で!」


 ビュッと右拳を突き出しながら強さをアピールしてくる。


「はは、まあ今回は『魔人族』の血を引いている者たちだけの参加ッスから、どのみちニッキちゃんに参加資格はないッスけどね」

「うぅ~残念ですぞ~」

「ニッキ姉! そんなに落ち込まないでよ! ほらほら、試合がはじまるよ!」

「おお! そうでしたなレンタン! 試合も見るのも修業になるですし、しっかり見るですぞレンタン!」

「うん!」


 ランコニスの弟であるレンタンとニッキは、年頃も近いせいか仲が良い。特にニッキは自分にも弟ができたような感じらしく、よく修業も一緒にしていたりする。

 微笑ましい光景につい頬が緩む。


「さあ、闘いのゴングが今鳴り響こうとしてるぜ!」


 …………え?


 突然の実況が聞こえてきて、日色は思わず実況席に目を向けたが、そこにはどこで手に入れたのかマイクを片手にノリノリに実況するテンの姿があった。


(アイツ……いないと思ったら……)


 とことんノリのいい奴だと思い嘆息する。


「実況はこの俺っ、テン様に任せろぃ! 解説は《魔王直属護衛隊》の序列一位――アクウィナスに頼んでいるぜ! さあ、お前ら! 気合入れて闘いやがれっ!」


 調子に乗り過ぎだろう……あの駄猿。何とも気恥ずかしささえ覚えてしまう。


「それじゃあAブロック一回戦バトルロイヤル、始めろぃっ!」


 彼の宣言で、ドラが打ち鳴らされ一斉に参加者たちが近くの者を攻撃し始める。武器は刃挽きしているものばかりとはいっても、油断してまともに受ければ大怪我は必至。一瞬たりとも気を抜けないはずだ。

 そんな中、次々と舞台から脱落していく参加者たちが増えていく。


「うおぉぉっとぉ! これは凄い! 番号札22番! その細腕のどこにそんな力があるのか、次々と屈強な男たちを吹き飛ばしていってるぜ!」


 テンの言う通り、Aブロックで目を開かせてくるのは一人の女性。『魔人族』特有の褐色の肌をして耳が尖っている。クリーム色の髪をボブカットにしているサバサバした感じを受ける女性――いや、少女といった方が正しいか。日色よりも若干上くらい。


 その彼女が次々と迫ってくる参加者たちの拳や蹴りを搔い潜って、カウンター攻撃。舞台から吹き飛ばしている。ちなみに舞台から落ちたら負けでもあるので、彼らは敗北したということ。


「おい、空を飛ぶ事は禁止されてるのか?」

「空を飛ぶ事自体は禁止されてないッスよ。ただ吹き飛んだ彼らは翼を使う間が無かったってことッスかね。やるッスね、あの子」


 テッケイルの評価も上々のようだ。だが確かにAブロックの中ではあの22番が一番光っているように見える。


 参加者の数も少なくなっていき、とうとう残りは四人になった。あと三人、失格になったらAブロックの二回戦出場者が決まる。


「さあ! 二回戦への切符を手に入れるのは誰なんだ! たった一つの椅子を争い、四人が睨み合う! 熱い、熱いぜ! 今日は熱い日になりそうだぁぁ!」


 何故だろうか、テンが実況するほど日色はいたたまれない気持ちになってくる。身内がバカをやらかしている時に感じるあのもやもやと同じかもしれない。


「おっとぉ、まず動いたのは番号札6番!」


 魔軍の兵士の鎧を着込んだ男性から氷魔法がそれぞれ三人へと放たれる。鋭い氷の矢が彼らに襲い掛かっていくが、22番の少女は軽くかわし、素早く間を詰めると右拳を相手の腹に突き刺して失神させる。


 他の二人は氷の矢に若干傷つきながらもまだ立っている。そこへ22番がカッと目を見開いた瞬間、立っていた二人はいきなり後方へと吹き飛び舞台から落ちた。


(! ……あの覇気)


 日色は彼女が自分の身体から覇気を出してぶつけたことを見抜いていた。


(あれほどの覇気を放てるとは、相手が氷の矢を受けて疲弊していて動きが鈍くなっていたとしても、なかなかのやり手だな)


 彼女は外来からの参加者。これは思わぬ手練れが舞い込んできて喜んでるのではと思いイヴェアムを見ると、彼女も感嘆してコクコクと頷いている。


「決まったぁぁぁぁっ! Aブロックの勝利者は番号札22番――ジュリン・カフスだっ! すんばらしい闘いを見せてくれたぜィ!」


 観戦者たちから拍手が送られる。ジュリンという少女も、拳を突き上げてそれに応えている。


「それじゃ今の解説をアクウィナスにしてもらうぜ! どうだった?」

「そうだな。彼女の持つ覇気、いや覇気の中に魔力を込めている魔圧に似た力を放ち、対戦者たちを吹き飛ばしたようだ」


 なるほど。確かに魔力を覇気に乗せて放っていた感じだった。


「それにあの動き、もしかしたら彼女はイオニスに似た回避感覚を持っているのかもしれないな。どちらにしろ、楽しみな逸材ではあるだろう」

「おお! アクウィナスからも絶賛の声だ! これは初戦から盛り上がってきたようだぜ~!」


 残りは三ブロック。そこから三人の勝者を決めて、二回戦のトーナメントを行う。つまりその二回戦という名の最終戦に勝てば、隊長の座を射止めることができる。


 これが一つの枠を争っているのなら、あと一回戦で決まることはないが、二つの椅子が残っているので、四人でトーナメントをするので一度勝てば椅子に座れるのだ。


「あれ? ヒイロさん、どこに行かれるんですか?」


 ここへ日色を連れてきたランコニスが聞いてくる。


「トーナメントが始まる前に用足しを済ませておく」

「そうですか、分かりました」

「あ、俺も行くヒイロ兄!」


 レンタンが後ろからついてくる。修練場から城の中へと入っていく。


「ねえねえヒイロ兄! ヒイロ兄は誰が勝つと思う?」

「さあな。誰でもチャンスはある」

「そっかぁ。けどあの最初のお姉ちゃんは強そうだったよね!」

「確かに魔法も使わずに勝ち上がったんだから強いだろうな」


 あの少女を観察していたが魔法を使った形跡はなかった。純粋な格闘技術だけで他の参加者たちを倒していた。かなりの実力者なのは間違いない。


「ねえねえ、俺が参加してたらどこまでいけると思う?」


 目をキラキラさせて期待を浮かばせているが、日色は正直に言う。


「一回戦ですぐにやられるな」

「ええ~!」

「まずはニッキに追いつくことを目指せ」

「うぅ~……俺もまだまだかぁ」

「そういうことだ。それにお前の場合は、まず体力を上げることが必要だな」

「よっしゃ! 絶対にいつかヒイロ兄にも認めさせてやるからね!」

「まあ、期待せずに待っててやるよ」

「そこは期待してよぉ~!」


 日色たちがトイレを終わり再び修練場へ戻ろうとした時、魔王城の台所を預かるコック長――ムースンが目の前に現れた。


「おや、ヒイロ様とレンタンくんではありませんか」

「おいっすです! ムースンさん!」

「ふふ、今日も元気ですね、レンタンくん。ところでお二人とも、少しお時間ございますか?」

「何かあったか?」

「実はですね、今ちょうど新作のお菓子ができあがったんですが、よかったら試食してみませんか」

「うむ、是非ご馳走になろう」

「えっ!? 試合いいのヒイロ兄!?」

「仕方ないだろ? 奴の新作だぞ! 非常に興味が惹かれるじゃないか!」

「……ヒイロ兄らしいね」


 日色はレンタンと一緒にムースンに連れられて厨房へと向かった。


 そして彼女の新作のお菓子を堪能した後に、修練場へと戻った……が、何故か周囲がシーンと静まり返って、誰もが舞台を凝視していた。


「何かあったのか?」


 日色は同じように絶句しているテッケイルに近づき声をかけた。


「あ、ああヒイロくん、遅かったッスね」

「それよりも何故こんなに静かなんだ? もしかして決定戦が終わったのか?」


 菓子を食べるのに結構時間がかかったので、そういうこともあり得るかなと思った。


「い、いや、アレを……」


 彼が指を差したのは舞台の上。そこに立っているのはニッキと同じ年頃に見える少年。その周りには屈強で大柄な参加者たちが軒並み舞台の外で気絶していた。


(おいおい、あんなガキがこれをやったってのか……?)


 下手すればニッキよりも下の年頃に見える子供。

 その子供が無傷で相手を倒しているのだから皆が言葉を失っても仕方ないだろう。


 いや、よく見れば舞台にはまだ一人いる。倒れていたが、ゆっくりと起き上がる。身に着けている装備を見れば、魔軍の兵士だということは分かる。


「あの人はブラインさんって言いまして、イオニスさんとこの部隊にいた人ッス。かなり優秀で、優勝候補筆頭だったんスけど……」


 ブラインは明らかにボロボロで満身創痍な感じだ。


「ぐっ……くおぉぉぉぉぉっ!」


 ブラインが剣を構えて突進していく。少年が目つきを鋭くさせた瞬間に、大地を蹴り出して瞬時に移動する。


(……速いな)


 日色の目にも少年の速度は驚きを感じさせるものだった。ブラインを翻弄するように、その周りを円を描きながら疾走する。


「くっ!? どこだ!?」


 実力の差は明らかだ。目でも追いついていない。

 瞬間、少年がブラインの懐へと入り拳を突き上げブラインの顎を打ち抜く。


「がはっ!?」


 巨体であるブラインの身体が宙に浮く。


「ブラインッ!?」


 イオニスもこの決定戦を見物していたようで、近くで彼女の声が彼に届く。しかし無情にも少年の次なる攻撃がブラインの全身へと突き刺さる。


「……《十雨(じゅう)の舞い》!」


 一瞬にして十発の衝撃がブラインの身体を襲い、そのまま舞台の外へと吹き飛んでいく。


「す、すっげえ連撃が入ったぁぁぁぁっ! この勝負は、番号札108番の勝利ィィィッ!」






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