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金色の文字使い ~勇者四人に巻き込まれたユニークチート~  作者: 十本スイ
第六章 イデア戦争編

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170:獣覚と助っ人

 【ムーティヒの橋】でも突如として現れた《醜悪な巨人》と相対していたシュブラーズとラッシュバルだったが、【ドーハスの橋】に現れた巨人同様に、口からレーザー砲のような光の塊を放った。

 その殺傷力は凄まじく、触れたものをいとも簡単に塵にしていく。そして逃げ遅れてレーザー砲をまともに受けた兵士たちの命をも容易に奪っていった。

 レーザー砲は時間からすればものの数秒ほどの僅かな時だったが、それでも驚愕の光景を生み出していた。まるで空から隕石でも降って来たのかと思われるようなクレーターが地上に作り出されていた。

 そしてその周りには数え切れないほどの犠牲者が横たわっている。全身を塵に変えたものもいるだろうし、腕だけや、足だけの者もいる。そして上半身全部を奪われた者、同じように下半身だけと……凄惨な光景だった。


「ハーッハッハッハッ! さすがは《醜悪の巨人》だ! 大した威力じゃねえか!」


 イーラオーラが、目の前の光景を見て楽しそうに笑っている。その様子だけで、彼が命を何とも思わない残虐非道だということがよく分かる。


「くっ……」


 イーラオーラの目の先に、横たわっているシュブラーズを発見した。五体満足な身体だが、爆発の影響を受けて吹き飛んだ時にかなりのダメージを負ったようだ。


「ククク、そんな身体じゃあ、お得意の踊りも踊れねえよな? こりゃ愉快だぁ! トドメはこの俺が刺してやるよぉ!」


 イーラオーラがその巨体でズカズカと倒れているシュブラーズに近寄っていく。だがその時、上空から気配を感じたのかイーラオーラは足を止め上空に顔を向ける。


「死ねぇっ! イーラオーラァァァッ!」


 そこには《キラージャベリン》を構えたラッシュバルがいた。


「ちっ! まだ生きてやがったか!」


 そこからすぐさま離れようとしたようだが、


「グリーンバインドッ!」

「パラライズッ!」


 突如として出現した緑色の鎖状の物体がイーラオーラの身体を拘束し、バチバチッと放電が走り、イーラオーラの全身を覆った。


「むぅっ!」


 見ればイーラオーラの左右に朱里としのぶがいた。二人の魔法でイーラオーラは動きを奪われている。


「てめえらも生きてやがったのかっ!?」

「そうです! あなたは許せません!」

「せやっ! きっちり成敗したるっ!」

「ちィッ!」


 イーラオーラが全身に力を込めると、


「舐めるな小娘どもがァァァッ!」


 身体を拘束していた魔法を気合だけで吹き飛ばした。


「そんなっ!?」

「嘘やろっ!?」


 二人は全く自分たちの魔法が効かなかった相手に恐怖を覚える。しかし、


「いや、十分だお前たちっ!」


 上空から称賛する声が二人の耳をつく。ラッシュバルだ。少しでもイーラオーラの動きを制限したことで、ラッシュバルの射程距離にイーラオーラが入り、


「我が戦槍を受けてみよっ!」

「ちィッ!」


 イーラオーラは焦りの表情を浮かべながらも必死で避けようと身体を動かす……が、


 ――ズシュゥゥゥゥッ!


 ゴトンと、地面に大きな何かが落とされた。


「…………ちっ」


 その舌打ちはラッシュバルだった。彼の視界に映っているのは、その大きな右腕を切断されたイーラオーラだった。残念ながら奪ったのは右腕のみであり、その刃は命まで届かなかった。


「や、やりやがったなぁラッシュバル……」


 痛みに顔を歪めながらイーラオーラは悔しげに言葉を絞り出している。


「このまま一気に決めさせてもらおう!」


 すでにラッシュバルの持つ《キラージャベリン》は三つの属性の刃を備えた《フォース・ランサー》モードになっていた。


「二人とも、シュブラーズ様を頼む! そして何とかあの巨人を止めるのだ!」

「「は、はい!」」


 ラッシュバルの頼みに朱里たちは返事を返しシュブラーズの介抱に向かった。何とかシュブラーズには回復してもらい、兵士たちの指揮をして巨人の足止めをお願いしたいのだ。そして二人がシュブラーズの方へ向かったのを確認すると、ラッシュバルはギリッと槍を持つ手に力を込め始める。


「ククク、おいおいいいのか? アレを放っておいてよ?」


 イーラオーラが顎をクイッと動かしある場所に視線を誘導させる。そこには橋に向けて侵攻する《醜悪な巨人》の姿があった。


「問題無い。貴様を屠って、私もすぐに向かう」

「ほほう、ずいぶん大きく出たな。てめえにそんなことができるのか? ああ?」

「できるできないではない。やるのだ!」

「……ククク、相変わらず暑苦しい野郎だ。そんなてめえが昔から気に食わなかったんだよ!」


 実は《魔軍総隊長》を決定する時、名が挙がったのはラッシュバルとイーラオーラだった。しかし結果的に選ばれたのはラッシュバルである。彼の実力、人望共に申し分ないと選定されたのだ。メキメキ腕を上げる彼に将来性を見た選出だった。

 しかしイーラオーラの戦力だって持て余すわけにはいかず、重要な任務である国境の防衛に彼を就かせたというわけだ。


「俺の方が強え! それなのにてめえが俺より立場が上になる! あの時、俺がどんな思いだったか分かるか?」

「裏切り者の心情など理解できるわけも無い」

「フン、そうやっててめえはいつもすまし顔で俺の背後に居やがった」


 彼が感じていたのは劣等感か、それとも凄まじい速さで追いついてくる後輩に対する恐怖感だったのか……。


「だからいつも思ってた……」

「…………」

「……てめえはこの手で捻り潰してやりてえってなぁ!」

「ほう、奇遇だな。私も貴様のような愚鈍な存在には消えてもらいたいと思っていたぞ」

「後悔させてやるぞラッシュバルゥゥゥッ!」


 イーラオーラが懐から赤く光る水晶のようなものを取り出し、そしてニヤッと狡猾そうに口元を緩めると、その水晶を口の中へと放り込んだ。


「む?」


 一体何をするつもりなのか分からずラッシュバルは警戒態勢を強め見守っている。


「グハハハハハ……見せてやろう! これが陛下から頂いた力ぁ! 新生イーラオーラ様だァァァァァッ!」

「何っ!?」


 切断したはずの右手から、ボコボコと赤黒い物体が生えてきて、それが腕を形成していく。よく見ればイーラオーラの全身が赤黒く変色している。

 身体も徐々に膨れ上がり、元の三倍ほどの大きさに変化し、いかつかった顔もさらに恐怖を具現化したような鬼面に変わっていく。


「こ、これは……っ!?」


 驚くべきなのは何も変化した形状ではない。その体内に内包する魔力、体力が異常なまでに向上しているのだ。そこにいるだけで目を逸らすことのできないほどの存在感を放つ。

 これではまるであの《醜悪な巨人》の縮小版ではないかとラッシュバルは思わされる。


「グハハハハハ! 一撃目は手加減してやる。上手く避けろよ、ちんちくりん」


 変わり果てたイーラオーラが軽く腕を振り上げると、それだけで物凄い風圧が生み出される。そしてその風圧ごと、ラッシュバル目掛けて振り下ろしてきた。

 その動きを見極めて最小の動きで避けるが、


「いいのか? そんな近くに居て?」

「は?」


 地面を突いたイーラオーラの拳は凄まじい衝撃波を生み、近くにいたラッシュバルの身体を吹き飛ばす。避けたはずなのにまるで風の弾丸を受けたような衝撃がラッシュバルを襲った。


「な、何という出鱈目な!?」


 確かにそうだろう。相手の攻撃を見極めて避け、その隙に反撃をしようと試みていたラッシュバルの思惑は見事に外されてしまった。しかもそれを成したのが、攻撃によって生まれた衝撃波なのだ。直接受けたわけでもないのに、ラッシュバルを吹き飛ばすほどの威力に、ラッシュバルがそう思っても仕方が無いだろう。


「グハハ! まだまだ序の口だ。こんなんじゃ遊びにもなりゃしねえぞ?」

「ならば今度はこちらから行かせてもらう!」


 槍を構えて、その素早い動きで翻弄してから攻撃を加える。力は上がったイーラオーラだが、素早さはまだラッシュバルの方が上だ。


「おお、おお、速え速え~」


 他人事のような感じで感心しているイーラオーラ。


「その余裕ごと断ち斬ってやろうっ!」


 ラッシュバルがイーラオーラの背後を取り、そのまま胸を貫こうと槍を突いた………………が、瞬時にして捉えていたターゲットが消失して、貫いたのは空気だけだった。


「俺様が……遅えとでも思ったか?」


 ラッシュバルの背後から言葉が発せられる。


 ―――メキィィィッ!


「がぁは……っっっ!?」


 咄嗟に振り向いたが、ラッシュバルの顔以上にもあるイーラオーラの拳が腹に突き刺さる。骨が軋み、肺の中の空気が一気に押し出される。

 身体はくの字に曲がりながらラッシュバルはそのまま真っ直ぐに吹き飛ばされてしまった。

 地面を盛大に転げ回りながらも槍だけは手放さない執念はさすがだ。しかし攻撃をまともに受けたダメージは計り知れないものがある。


「ぐ……がはっ!」


 ラッシュバルの口内から鮮血が吐かれる。


(マズイ……内臓をやられたか……っ)


 起き上がろうと動く度に激痛が腹部から伝わってくる。たった一撃で、何とも理不尽な攻撃力だった。


「グハハハハハ! どうだァ? これがこのイーラオーラ様の強さよ! てめえじゃ逆立ちしても到達できねえ場所に俺様はいるんだよぉ! グハハハハハ!」


 口から血を流しながらも、槍を支えにして立ち上がるラッシュバル。そしてギロリとイーラオーラを睨みつける。


「ああ? 何だァ? その目は?」

「……ふふ、勘違いも……甚だしいな」

「ああ?」

「何が新生イーラオーラだ。何が到達できない場所だ。そんな強さは……まやかしだ」

「グハハ! どこがまやかしだ! 実際にその力を受けヒイヒイ言ってんじゃねえか!」

「……強さとは……自らが日々研鑽して培ったものを言う」

「あ?」

「貴様のそれは……誰かに与えられた……紛い物でしかない!」

「何だとォ?」

「本当の強さとは……」


 ビシッと槍を構え直し、ラッシュバルは言い張る。


「たゆまぬ努力と、己が信念とが結実した素晴らしき結晶だ! 強さを愚弄するな下郎がっ!」


 しかしそこでせっかく槍を構えたが、やはりダメージが大きかったのか、膝をついてしまう。それを見たイーラオーラは馬鹿にしたように大笑いをする。


「グハハハハハ! 何だかんだ言っても強さは強さだ! この俺様の強さこそ、本物だァァァッ!」


 ラッシュバルの目前に、壁とも思われるほどの拳が迫ってくる。


(くっ……ここまでか……)


 ラッシュバルが歯を食い縛りやってくるであろう衝撃に身を固めていると、


 ――――――バキィィィッ!


 突然目の前に迫って来ていたイーラオーラが横に吹っ飛んでいった。そしてそれを成した人物に自然とラッシュバルの視線が向かう。


「無茶をしているな、ラッシュバル」

「……オ、オーノウス様……っ!?」


 そこに現れたのは【魔国・ハーオス】が誇る《クルーエル》の《序列四位》であるオーノウスだった。



     ※  



 突如ラッシュバルを助けに現れたオーノウスの跳び蹴りによって、盛大に吹き飛ばされたイーラオーラは、身体を起こすと忌々しげに件の相手を睨みつける。


「てめえ……この半端野郎が!」


 血管を浮き出させ憤怒の表情のイーラオーラと、涼しげで自然体に佇んでいるオーノウスとの対比はまるで対極に位置していた。


「クソ獣人と『魔人族』のハーフのくせに、何出しゃばって来てんだよ! ああ?」

「……ふむ、ずいぶんと見た目からして変わったなイーラオーラ」


 オーノウスが知っているイーラオーラとはかけ離れた姿になっている。


「グハハ! そりゃそうだ! ここにいるのは新生イーラオーラ様だからなァ!」

「ああ、本当に変わった。ずいぶん……醜くなったではないか」

「……何だと?」


 イーラオーラは頬をピクリと動かすと、殺気が彼の身体から滲み出てくる。しかしオーノウスは別段気にしていない様子で続ける。


「俺の知っているイーラオーラという男は、確かに出世欲が激しかったが、その恵まれた身体能力をさらに鍛え上げ、自力で《クルーエル》になった敬うべき男だった」

「…………」

「残念なことに《クルーエル》から落ちてしまったが、その腕を買われ大事な国境防衛の責任者を任されていた」

「けっ! 国境防衛とは聞こえはいいが、体の良い左遷じゃねえか!」

「違う」

「何が違うってんだァ?」

「お主は国民の声を聞いたことが無いのか?」

「……あ?」


 オーノウスはまるで分からないといった具合のイーラオーラに対して語っていく。


「国民は言っていたぞ。橋をお主が守っているから安心して生活できると」

「…………」

「お主の強さがあれば、人間が攻めてきても、きっと何とかしてくれるから大丈夫だと。お主を……皆が信じていた。無論陛下もだ」

「……ちっ」

「国民たちがお主を信頼していたのも、それは今までお主が積み重ねてきたものの証に他ならぬだろう。それなのに、お主はいまだに裏切り続けるのか、守るべき国民たちを! 同志たちを!」


 オーノウスはイーラオーラの心に響かせるような声高で叫んだ。そしてイーラオーラの全身が小刻みに震え始める。そして……。


「グ……グハ……グハハハハハハハハハハハハハッ!」


 オーノウスの言葉を一掃するかのような大きな笑い声。イーラオーラは大きな手で顔を覆いながら、面白そうに笑っていた。


「何がおかしいのだ?」

「グハハハハ! これが笑わずにいられるかっての! 何だテメエ、いつから《クルーエル》ってのは敵のお涙頂戴に力を込めるようになったんだァ?」

「き、貴様ぁっ!」


 ラッシュバルはイーラオーラから受けた痛みに苦悶の表情を浮かべながらも、オーノウスを馬鹿にされたことに憤っているようだ。しかしそれをオーノウスはスッと手を上げて制止させる。


「オ、オーノウス様?」


 ここは任せろといった雰囲気をオーノウスから感じたのか、イーラオーラを睨みつけながらもラッシュバルは口を閉じた。


「……今のは本音か、イーラオーラ?」

「ああ? 何当たり前のこと聞いてんだァ? もしかしてそのおつむの中まで半端なのか? グハハ!」

「…………そうか」


 突然その場からオーノウスの姿が消失する。


「……あ?」


 イーラオーラもまた見失ったのか、一瞬固まってしまった。


「ぐぼォッ!?」


 イーラオーラの顔が弾かれたように後ろへ反り返る。口からは鮮血が飛び散り、そのまま地面に倒れる。


「ぐわァァァッ! イテェェェェェッ! アヅイィィィィッ!」


 地面の上で湯気を出している鼻を押さえながら転げ回っているイーラオーラ。そしてその前には、真っ赤なオーラで身を包んだオーノウスが立っていた。


「どうやらお主はもう、人の道へは戻れぬのかもしれないな」

「グゥゥゥ……テメエ……イテェじゃねえかァ……」


 見ればイーラオーラの鼻が見事に陥没していいた。しかも焼け焦げたようなような痕も残っている。


「さ、さすがはオーノウス様だ……何という速さ……」


 速さに自信があるはずのラッシュバルすらも手放しで褒めるようなオーノウスの動きは、視線で捉えるのも難しいのだ。

 やはり《クルーエル》の《序列四位》の肩書は伊達ではないということだ。


「このオオカミ野郎がァッ!」


 ブォンと空気を震わせながらイーラオーラの剛腕がオーノウスの顔を捉える。


「《太赤纏・静》っ!」


 オーノウスが纏っていた赤いオーラである《赤気》が、瞬時に彼の全身へと吸い込まれるように消えていく。先程までは全身から溢れ出ていたが、今はまるでそれが凝縮したように纏わりついている。

 そして目の前へ迫ってきているイーラオーラの拳に右腕を前に出してガードする。


 ――ズゥンッ!


 二つが衝突したが、崩れたのは二人が立つ足元の地面のみ。衝撃が地面へと突き抜けたような感じだ。オーノウスにはダメージが一切無い。見事に受け切ったようだ。


「厄介な業を使いやがって!?」

「覚えておくといい。半端者でも、努力次第でいかようにも強くなれるのだ! 《太赤纏・動》っ!」


 すると刹那、今度は先程と違い、オーノウスの身体から膨大な《赤気》が放出される。そしてそれを右手に集束し始める、イーラオーラの懐へ素早く入り込み、彼の腹の中心に自身の右手をピタリとつける。


「受けるがいいっ! 《熱波掌》っ!」


 瞬間、イーラオーラの腹から身体を突き抜けて背中まで衝撃が走る。


「ぐあァァァッ!?」


 背中は火傷を負ったように真っ赤に染まり、オーノウスがそのままその場から距離を取ると、イーラオーラは膝を折り地面に蹲ってしまった。

 明らかにオーノウス有利のこの戦い。ラッシュバルを一撃で沈めたイーラオーラの腕力も、オーノウスは片腕で防御し、素早さまでオーノウスに上を行かれたイーラオーラ。誰もが見ても勝負は決したように思える。


 しかし突如イーラオーラは蹲りながらも笑い始めた。しかもその笑い声は自棄になってのものとは違い、明らかに楽しんでいるようなトーンだった。

 オーノウスもラッシュバルも、彼の異様さに当てられたようで顔が強張っている。


「グフフフフ……いいなオイ。やるじゃねえかオーノウスさんよォ」

「何を言って……っ!?」


 そこで初めて気が付いた。何故なら先程《熱波掌》で与えたはずの傷が、みるみる内に治癒していくのだ。


「……どういうことだ?」

「グハハ! すげえだろ? これが陛下から頂いた力だ! この力の副作用で俺様だけが魔法を使えなくなっちまったが、それを補って余りある身体能力と再生能力を手にできた! 俺様は………………不死身だァ!」


 大地を破壊しながらタックルしてくるイーラオーラに、オーノウスは再び《太赤纏・静》を使用し衝撃に備える。


「グハハハハ! 今度はマジだぜェッ!」


 まるで見た目は巨岩そのものだ。それが大砲で飛ばされたかのように真っ直ぐ突っ込んで来る。彼の身体から発せられる黄色いオーラを見てオーノウスが驚愕に目を見開く。


「これは……マズイッ!」


 オーノウスは突然、何を思ったのか防御態勢を解き、即座に右足に力を込めて左へと跳んだ。そしてそのまま突進したイーラオーラは、オーノウスの背後にあった木々や岩などの障害物をものともせずに粉々にしていった。


「な……何という威力だ……化け物め……」


 ラッシュバルがそう呟くのも無理はない。イーラオーラが通った後には抉り取られた地面しかなく、本当に巨大な大砲が地面すれすれに飛ばされたかのようだ。

 その光景を見て、オーノウスもゴクリと喉を鳴らす。


(あのまま受けていたら恐らくは…………それに奴の身体を覆っていたのは……)


 オーノウスは、ドスンドスンと足音を立ててやって来るイーラオーラの身体を見るが、まるで無傷だ。木々や岩など彼にとって障害物でも何でも無いようだ。


「グハハ! 避けて正解だったぜオーノウス!」

「…………まさか身体力まで扱えるとはな」

「グフフ……さすがにテメェみてえな《赤気》は作れねえがな、それでも今の俺様にとっちゃ、身体力とは相性が良いんだよォ」


 確かに、純粋な身体能力を向上させることができる身体力なら、今の魔法が使えないイーラオーラと相性が良いだろう。


(しかしあそこまで力を集束させることができるとは、相当の修練が必要のはずだ。いや、それももしかすると今の姿に起因するものなのか……?)


 あの姿になっているからこそ身体力が使用できるのかもしれないと推察したが、それは意味の無い考えだと思い唾棄した。相手が身体力を使える以上、力のみなら《太赤纏》に匹敵するのだ。


「……テリトリアルとやるまで使いたくはなかったが」


 空気が瞬時にして張りつめ、明らかにオーノウスの雰囲気が変わった。


「ああ? 何だァ?」


 イーラオーラもその様子に気づいたようでオーノウスを観察するように目を細めた。するとオーノウスが目をカッと開くと、


「ウオォォォォォォォォォッ!」


 目が赤く充血し始め、彼の身体を覆っている体毛も青黒く染まっていく。そしてただでさえ獣のような姿をしている彼の身形が、さらに狼のそれへと変化していく。

 身体も大きくなっていき、見た目からして凶暴さが具現化したような獣の姿を見せつけている。


「テメェ……そりゃ……」


 イーラオーラの顔も険しくなり、彼のその言葉に答えるようにオーノウスは鋭い牙を生やしたその口を静かに開いた。


「ガァ……これが――――――《獣覚(じゅうかく)》だ。覚えておけ」








「《獣覚》……だと? 聞いたことがあんな」


 イーラオーラが目の前で豹変したオーノウスを睨みつけながら口を動かす。


「確か獣人のハーフだけが持つ特性……だっけか?」

「…………」

「本来《獣覚》は満月の夜にしか起きない衝動だということらしいが、熟達した獣人ハーフの中にはテメェのように自由に発現させることができるって話だな。《獣覚》を発現させると《ステータス》をかなり底上げできるってことだ。ウチにも獣人のハーフがいるが、確かそいつも《獣覚》ができるらしいな」


 イーラオーラの言う通り、《獣覚》というのは獣人のハーフしか発現させることができない。しかもほとんどの者はその《獣覚》を扱い切れず暴走させたりする。

 以前ウィンカァが暴走して、日色やアノールドたちと交戦したことがあるが、あれぞまさしく《獣覚》だ。

 またシャモエも満月の夜に日色を襲ったことがあるが、あれも同様である。では全ての獣人ハーフが、満月の夜にそうなるかといえばそうではない。

 あくまでも暴走しがちなのは、まだ精神的に不安定な幼い子供の場合が多い。年月を積み重ねていく間に、自然と耐性が身に付き、十歳を超える頃には、そう簡単には暴走しないようになる

 また幼い子供でも、内に秘めている獣の性質が薄い者は、たとえ満月の夜でも暴走は起こらない。若干身体能力は向上するが、獣の本能が弱いので正気を失ったりはしないのだ。

 暴走する可能性があるのは、己の中に秘める獣の本能が強い者のみ。ウィンカァやシャモエもそうだったのだが、何故十歳をすでに超えている彼女たちが暴走したのかといえば、簡単に言えば精神が不安定になることがあったためだ。


 ウィンカァの場合は、守りたかったハネマルの母親を殺されたから。

 シャモエは日色という突然見知らぬ他人が訪問し、あの時の日色の姿は『魔人族』。『魔人族』に苛められてきた経験を持つシャモエは、シウバに彼は安心だと言われていたとしてもやはり心がざわつき不安だったということだ。

 そして不運にも満月の夜が重なり、《獣覚》が起こってしまったのだ。しかしイーラオーラの言葉通り、満月の夜のみ発現する《獣覚》だが、これを自由に発現できる者が存在する。

 無論習得するには並々ならぬ努力と、やはり才能が必要にはなる。


「それで? その姿なら俺様に勝てるって……っ!?」


 瞬時にして懐へと入ったオーノウスに、イーラオーラはギョッとする。咄嗟に腕をクロスして防御するが、いつまでもこない衝撃に怪訝な思いを宿す。


「ここだ」

「な、何ッ!?」


 いつの間にかイーラオーラの背後に回り込んでいたオーノウスが鋭くなった爪で斬り裂くように腕を動かす。イーラオーラの腕の皮膚が抉られる。


「ぐぅっ!? イッテ……ェなッ!」


 イーラオーラも身体力を拳に宿し右拳を突き出すが、突然オーノウスの身体を包む赤いオーラ。そしてそこからさらに加速してイーラオーラの視界から消失するオーノウス。


「ちィッ! 《太赤纏》まで使えるのかよォッ!」


 ただの《太赤纏》ではなく、《獣覚》と《太赤纏》とが合わさった実力は、イーラオーラの能力をゆうに超えてしまっていた。

 オーノウスの拳がイーラオーラの背中に突き刺さり、そこにいるオーノウスがすぐさまそこから離れ、今度は彼の懐へと潜り込み顎を蹴り上げる。


「ぐぼおぁっ!」


 イーラオーラの大きな口から鮮血が飛び散る。


「クソ……がッ!」


 イーラオーラも黙っておらず、オーノウスを掴もうとするが、瞬時にその場からいなくなるオーノウスを捕まえきれずにいた。


「見せてやろうイーラオーラ。これぞ我が――――――《戦技(せんぎ)》!」


 オーノウスが両手を合わせ、まるでオオカミの牙を模したような形を作る。そこに《赤気》が凝縮し始め、かなりの熱量を備えているのか、周囲の大気がユラユラと波うっている。

 イーラオーラの真正面から、大地を蹴り上げそのままの格好で真っ直ぐに突っ込むオーノウス。


「《熱波狼牙(ねっぱろうが)》っ!」


 イーラオーラも負けじと身体力を宿した拳を突き出し逆に潰そうとするが、二人が衝突した刹那―――


「――――――グハァァァッ!?」


 交差した二人のうち、イーラオーラから凄まじい量の血液が身体から噴出する。何故なら彼の右上半身、肩から胸部にかけて、まるで何かに食い破られたように凄惨な傷を負っていた。

 イーラオーラはそのまま痛みに顔を歪めながらも、背後にいる背中を向けているオーノウスに身体ごと向ける。


「この……ヤロウ……がァ……っ!」


 オーノウスもまた振り向き、


「いつまでもお主を相手にしているわけにはいかない。あの巨人をどうにかしなければならぬのでな」


 今も兵士たちや、朱里たちが奮闘している《醜悪な巨人》をチラリと視線を向かわせる。


「俺は……俺様は……こんなところで終わりは……しねェッ!」


 するとグフフとイーラオーラが笑い始める。


「こんな傷、すぐにでも再生して……」


 彼がアヴォロスからもらった力の代償で得たのは驚異的な再生能力だ。だが不思議なことに、いつまで経っても傷が再生を始めない。


「ど、どうしてだっ!?」


 もちろんイーラオーラの焦りと混乱は半端ではないだろう。


「残念だったな。俺の《熱波狼牙》を受けた傷は、今もなお、お主の身体を蝕み続けているのだ」


 よく見れば、イーラオーラの傷口には真っ赤な炎が彼の細胞を燃やし尽くすように燃え続けていた。


「いくら再生しようが、それでは追いつかないだろう。そして、これからトドメを刺す」

「ま、待てっ! わ、分かった! 俺様がお前らの仲間になってやろう! そうすれば陛下、あ、いやアヴォロスも簡単に倒せるはずだ!」


 突然イーラオーラが膝をつき、懇願するように言い放ってきた。その姿を見て、オーノウスは悲しそうに目を細める。


「……悲しいな。お主も昔は、誰にも慕われる魔軍の隊長だったのだがな」

「い、いやオーノウス……俺は……」

「終わりにしよう、イーラオーラ」

「ま、待てェェェェェッ!」 


 《熱波狼牙》の構えをしたオーノウスに恐怖したイーラオーラが悲鳴を上げる。そして情けなく地べたを這いずり逃げようとしている。


「受けるが良い。これが、お主に裏切られた、民たちの怒りだ!」

「や、やめろおォォォォォォッ!」

「《熱波狼牙》っ!」


 オーノウスの両手が生んだ巨大な赤い牙が、イーラオーラの上半身を捉え、そのまま食い破った。


「……強さを履き違えた、お前の負けだ」

 

 《獣覚》して変貌したオーノウスの体が元に戻っていく。そしてガクッと膝をつくと、そこへラッシュバルが近づいてくる。


「大丈夫ですか、オーノウス様?」

「あ、ああ……《獣覚》は確かに強くはなれるが、その反動もまた大きいのだ」


 オーノウスは目を閉じながら大きく息を吐いている。


「お主こそ、奴の一撃をまともにくらったようだが?」

「あ、はい。ですが携帯していた回復薬を服用して大分良くなりました。それも助けに来て頂いたオーノウス様のお蔭です。お手を煩わせてしまい申し訳ございませんでした」


 丁寧に頭を下げるラッシュバルの肩にポンと手を置くと、


「相変わらず律儀な奴だ。だが、無事で良かった」

「オーノウス様……はい」

「さあ、シュブラーズたちの加勢に急ごう! あの巨人に橋を壊させるわけにはいかん!」

「はい!」


 二人は巨人の侵攻を防いでいる魔軍の兵士たちがいる場所へと向かって行った。

 


     ※



 【ドーハスの橋】でも《醜悪な巨人》の口から吐かれた光の塊によって被害は膨大だった。それまで巨人の右足を破壊するために、弱点属性である火と風の攻撃を放てる者たちを巨人の左右に配置し、今まさに攻撃しようとしたところ、巨人による攻撃が放たれたのだ。

 レーザーのような光を放ちながら、顔を左右に動かしたので地面には大きく抉られた跡がまるでヘビの通った跡のように繋がっていた。


 そしてその周囲では爆発力や衝撃力で吹き飛ばされて蹲っている《奇跡連合軍》の者たち。そこにはクロウチやイオニス、そしてアノールドやミュアの姿も見られた。


「くっ……ミュ、ミュア……大丈夫か?」

「う、うん……おじさんも大丈夫?」

「あ、ああ。それにしても、とんでもねえ威力だな今のは……」


 アノールドは思い出したのか顔をサッと青ざめる。それほどの破壊力だったのだろう。


「イオちゃんとクロウチ様は……?」


 ミュアは二人の存在を探し顔を動かすが、その視線の先に地面に突っ伏しているイオニスの姿を発見。


「イオちゃんっ!?」


 ミュアは若干痛む身体を動かして速やかにイオニスのもとへ駆けつける。


「う……」

「大丈夫イオちゃん?」

「ミュ……ア……?」


 巨人の攻撃を直接受けたわけではないようだが、攻撃で生まれた衝撃力をまともに受けたようで、体中が傷だらけだった。だが傷自体は深いものは見当たらない。

 どうやら吹き飛ばされた時に頭を打って昏倒してしまったようだ。


「イオちゃん、これ食べて」


 ミュアは腰に下げている袋からHP回復薬を取り出し、それをイオニスの口へと運んだ。彼女は口を動かし喉をゴクリと鳴らした。

 これでしばらくしたら回復するはずだとミュアはホッと胸を撫で下ろした。そしてクロウチの方は、何とか自力で立ち上がり、兵士たちに指示を与えている。


 巨人が再び先程の光の攻撃を放つ前に、何とか仕留める必要がある。しかし傷ついた兵士たちに加えて、先程の攻撃で多くの戦死者も出た。

 大分削られた戦力で巨人の侵攻を止めるのは些か不安が残る。すでにアノールドは、自慢の大剣を使い、巨人に攻撃を与えたりしているが、やはり傷はすぐに再生してしまっている。


「どうしたら……」


 ミュアはこのままではあの巨体の前に何もできなく敗北してしまうのではと思った時、突然巨人の前に小さな魔法陣が出現する。


「転移魔法陣ニャ!?」


 クロウチの言葉で、皆もまた敵が現れたのかと思い顔を強張らわせるが、そこから現れた人物に誰もが言葉を失った。


「うむ、これが報告にあった巨人か」

「ニャ、ニャ~レオウード様ぁぁぁぁ~っ!」


 クロウチの叫びは感動を呼び、獣人たちは揃って歓声を上げた。



     ※



 獣王レオウードが【ドーハスの橋】に単独で転移してきたことで、兵士たちの士気は大いに高まる。しかし彼の登場に愕然とした面持ちをしているアノールドやイオニスがいる。

 それもそのはずであり、何故軍の総指揮を取っているはずのレオウードが、まだ緒戦である橋の攻防に姿を現したのか疑問に思っていたのだ。

 彼は王であり、この戦争で失ってはいけない大切な存在である。彼がもし敵に討ち取られれば、獣人たちの士気は確実に最低に落ち、軍の統率にも大きな支障が出てしまうだろう。

 だからこそ、事前の軍議ではレオウードは自身の国を守ることに全力を尽くしてもらうことを決めていた。そしてそれは魔王イヴェアムも同じであり、二人は了承したのだ。

 それなのに、こんな場所に、しかも単独で出てきて身を危険に晒す行為をしていることにアノールドやイオニスは多大な不安を感じたのだ。


「ほう、なかなかにデカいな」


 当の本人は楽しそうに《醜悪な巨人》を見上げて笑みを溢している。本人は前線で戦いたいと言っていたので、ここに来ることができて嬉しいのかもしれない。


「レ、レオウード様! どうしてこちらへ!」


 アノールドが堪らず聞いてみる。


「む? おお、アノールドか。小言はララだけで十分だぞ? ここにワシが来たことは渋々ながらだが、ララたちも承知だ」


 アノールドの師匠であるララシークも、どうやらここに来ることを反対していたようだが、結局レオウードの押しで認めさせたようだ。


「し、しかしアイツは危険なんてものじゃありません! あなたは王ですよ! まだ戦争も始まったばかりで、こんな所へ来るお方ではありません!」


 アノールドの言葉に、レオウードの登場で反射的に盛り上がっていたクロウチや獣人たちは冷静になったのか押し黙っている。


「ガハハ! そうだ、ワシは王だ。だが、戦う王でもある!」


 レオウードが「ハァッ!」と気合を入れると、彼を中心にして衝撃波が周囲に放たれる。盛り上がる筋肉に、鋭くなっていく顔つき。


「この橋は譲れん! このデカブツはワシが塵にしてやろう!」

「レ、レオウード様……」

「ガハハ! そう心配するな。お主の友であるヒイロに遅れを取ったとはいえ、この程度の怪物に敗北するワシではない。それとだ、もう一つの橋にも同じような巨人が現れたという情報が入っている」

「なっ!? こ、こんな奴が二体も!?」


 向こうは『魔人族』だけの軍であり、きっと巨人の弱点である火や風の属性魔法を使えるものたちが大勢いるだろうが、それでも巨人の強さに不安を抱くアノールド。

 そんな心配性なアノールドを見てレオウードは笑みを浮かべる。


「安心しろ。向こうもワシと同等の助っ人が向かっておる」

「え?」


 同等の助っ人とは誰の事か尋ねたかったアノールドだが、すぐに巨人が動き、レオウードの戦闘が始まってしまった。



     ※



 【ムーティヒの橋】では、ようやくオーノウスが紋様黒衣の一人であるイーラオーラを倒したが、まだ肝心の《醜悪な巨人》の存在が残っていた。

 朱里としのぶの介抱で、身体を回復させたシュブラーズも、彼女たちと残りの兵士たちとで巨人の歩みを何とか止めていた。

 しかし巨人の攻撃力の前に、やはり徐々に歩を進めることを許してしまっている。また先程使用した殺人兵器とも言っても過言ではないレーザー砲の恐怖心から、いつまたアレを吐かれるのではと思い、兵士たちも尻込みしてしまっている。

 あのレーザー砲は、陣営も何もかも、すべてを薙ぎ払う威力を備えているので、まさに一撃必殺なのである。触れればその部分が消滅してしまうほどの存在に恐怖を抱くのは当然のことだった。

 そこへ、イーラオーラを倒したオーノウスとラッシュバルが駆けつけてきた。シュブラーズは彼らの増援でホッとするが、二人ともが表情に疲弊感を確認できる。

 あっさりイーラオーラを倒したかに見えるオーノウスだが、やはりかなりの消耗をその身体に残しているようだ。

 全力で戦えない彼らでは、たとえ増援だとしても無傷の巨人相手に心許無く感じてしまうシュブラーズ。


「シュブラーズ、首尾はどうだ?」


 オーノウスが険しい表情で尋ねる。


「そうね~、ハッキリ言って、パワーは桁違いね~。あなた、もう一度アレになれるかしら~?」


 アレというのは、イーラオーラ戦で見せた《獣覚》のことを言っているのだろう。しかしオーノウスは首を振って否定する。


「いや、しばらくはできん。《太赤纏》なら扱えるが、あのパワーでは、ほとんど意味を成さないかもな」


 巨人が十メートルほどのある大岩を片手で持ち上げ兵士たちの群れへと投げ入れている。


「そっか~、でもここを相手側に攻略させるわけにはいかないからね~」


 せっかく橋を渡れていても、巨人に押し返されれば意味は無い。またこの橋を破壊されても任務は失敗になる。二つの橋を攻略し、そこを守り続けることが彼女たちに与えられた任務なのだ。


「うむ。ならば全力でアレを仕留めるだけだ。ラッシュバル、お主もいけるか?」

「はい!」


 その時、一人の兵士が一枚の紙をシュブラーズたちに持ってきた。一体何事だと思い、オーノウスが目を通してみると、それはテッケイルからの情報だった。

 そこにはもう一つの橋である【ドーハスの橋】で起こっていることなどが記載されている。テッケイルはこうやって逐一情報収集に動き、それぞれの部隊に情報を届けているのだ。


「何……っ!? まさかハーブリードが……?」


 そこに書かれてあったのは魔軍隊長の一人であるハーブリードの戦死。それを見たオーノウスたちは絶句して固まってしまっていた。


「あの子が……死んだ……?」


 シュブラーズは驚愕に目を開き、わなわなと震えている。


「バカなっ! 何故アイツが死なねばならないのかっ!」


 ラッシュバルも憤りを言葉に乗せて叫んでいる。


「やったのは…………ビジョニー? 爆発効果を持つ泡使い……」


 オーノウスは噛み締めるように言葉を吐き、そして脳裏にその情報を焼きつけるようにジッと見続けていた。

 だが続きを確認していくと、驚くべき情報が目に入る。


「……獣王が【ドーハスの橋】に? いや、それよりも……っ!?」


 オーノウスが一番驚きを得たのは、一番最後に書かれてある一文。


『そちらに最強の助っ人が行くッス』


 一体誰がとオーノウスは思案していると、巨人から凄まじい呻き声が聞こえた。皆が何が起こったのか振り返って確認してみると――――――そこには無数の剣に身体を突き刺されている巨人の姿があった。

 そしてそれを成した人物、それが遥か上空に存在した。

 赤い髪を吹き荒れている風に委ねながらも、その真紅の瞳で冷ややかに巨人を見下ろす一人の男。その存在に気づいた者たちは、言葉を失ったかのようにただ見つめていた。


「…………アクウィナス……」


 オーノウスの呟きが正体を物語っていた。その男こそ、『魔人族』最強と言われ、長きに渡って《クルーエル》の《序列一位》に君臨し続けているアクウィナス・リ・レイシス・フェニックスだった。





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