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17:傷ついたスカイウルフ

 あれから十分にカニ料理を堪能した日色たちは、後片付けをしてから【ロギ山岳】を後にした。

 歩いている途中、ミュアは浮かれていた。


(何か仲間が増えたみたいで嬉しいよぉ)


 ここから一番近い街までウィンカァも一緒に行くとのことで、しばらくは四人旅になる。

 それでミュアは嬉しさが込み上げてくる。

 ウィンカァが女性だということがさらに頬を緩ませる。やはり女同士でないとできない会話などもあるからだ。

 どんな質問をしようかなと思っていると、ふと気になったことがあったので尋ねてみた。


「ウイさん、探してるお父さんは、人間界にいるんですか?」

「……分からない」

「そうなんですか?」

「ん……」

「手掛かりとかあったりするんですか?」


 するとウィンカァは背中に背負った長槍(今は縮めてある)である《万勝骨姫》を指差す。そこで答えたのはアノールドだった。


「槍だけって……んじゃ、どこにいるか全く分かんねえに等しいんじゃ……」


 槍がここですって道を教えてくれるわけがないのだから、確かに槍だけでは厳しいだろう。


「あ、そうだ。ウイのおっかさんはどうなんだ? 何か知ってるんじゃねえのか?」


 するとフルフルと首を振ってウィンカァは否定する。


「かかさん、ずっと前、死んだ」

「……悪かったな、辛いこと思い出させちまって」

「ううん、もうずっと前。だからもう大丈夫」

「そ、そっか、分かった。けど、ホントに(なん)も情報はねえのか?」


 少し考える素振りを見せたウィンカァが口を開く。


「かかさん、死ぬ前に教えてくれた。ととさんは、ほーろーへきがあるって」

「放浪癖?」

「だから世界中を旅してるって」

「ふぅん、そっかぁ。なら尚更難しそうだな」


 それではほとんど何も情報が無いのと一緒だ。

 しかも一か所に止まっていないということは、見つけるのも相当難しいものがあるだろう。


「そうか?」


 その会話に入って来たのは日色だった。


「どういうことだよヒイロ?」

「あちこち旅をしてるってことは、いろんな街や村に立ち寄っている可能性が高いってことだ。なら必ず何かしらの情報が街や村では手に入るはずだろ」

「……確かに」


 アノールドは大きく頷く。


「その情報を辿っていけば、いつかは追いつけるんじゃないのか? ここに来たのも噂を聞いてってそいつも言ってたしな」

「お~そうだな、ヒイロの言う通りだ」

「ん……ウイも諦めない。ととさん見つける」

「そういえば、どうしてウイさんはお父さんを探してるんですか?」


 これもミュアが聞きたかった質問だった。


「小さい頃……ととさん言ってた。狙われてるって」

「え? あ、あの、ウイさんのお父さんがですか?」


 ミュアだけでなく日色たちも少なからず驚く。


「ん……だからウイたちを置いてどっかに行ったってかかさんが言ってた。ウイたちに迷惑かけないように出てったって」


 どうやら獣人である彼女の父親は、何者かに狙われていて、このままではその牙が愛する家族にも向くと思った彼は、一人で家族の下を離れたらしい。

 そうすれば少なくとも狙われるのは自分だけだと判断したのだ。


「そっか、親父さんは自分のせいでウイたちに危害が及ぶのが我慢できなかったんだな……ん? 待てよ? なら何でウイは親父さんを探してるんだ?」


 アノールドの質問に若干ウィンカァの顔が引き締まる。

 そう、それは父親の意思に反する行為のはずだ。彼女が自分に近づいてくれば、それだけ危険が増す。だが彼女は父親を探し歩いている。それは何故か。


「ととさんは……ウイが守る」

「…………」

「ウイはそのために強くなった。だから守る」


 一片の迷いも感じられない瞳の色。それは自信に溢れていた。今の自分なら、幼い時とは違い、父と一緒に戦えると信じているようだ。

 アノールドは彼女の決意を聞いて大きく息を吐く。


「はぁ~、すっげえなウイ。その歳で自分の道を決めてるとは、普通できねえぜ」

「すごいな……ウイさん」


 ミュアは自分とそう歳も変わらないであろうウィンカァが、自分一人の足で立ち、しっかりとした目標を持っていることに嫉妬している自分に気がついた。

 これではいけない。守られてばかりでは何も成長できない。自分も彼女のように強くあろうと、改めて決心した。



     ※



 アノールドは腕を組みながら視線だけをウィンカァに向けて尋ねる。


「そんじゃウイは、今まで人間界を旅してきたんだな?」

「ん……ウイが旅を始めたのは七歳の頃から」

「そ、そんな小せえ頃から!? ま、まさか一人旅……なわきゃねえよな?」

「ううん、一人で旅してきた。あ、でも一緒に誰かとこんなふうにいたこともあった」

「ま、まあ当然だわな……というか今は何歳なんだ?」

「ん……と…………十四歳?」

「いや、こっちに聞かれても……けど十四歳だったのか……まあ確かに身長はともかくそれならミュアと違って発育が良いのは理解できて――」

「おじさん?」

「ひっ!」


 明らかな失言で、ミュアの怒りを買ったようだ。顔は笑っているのだが、目は全く笑っていない。焦ったアノールドは話を変えるために慌てて口を動かす。


「で、でもまあ、一人旅してたわけじゃねえんなら良かったよな!」


 まさか七歳で一人旅していたとは驚いたが、ウィンカァにも信じられる仲間がいたということがアノールドは素直に嬉しかった。

 だが次の彼女の言葉は予想だにしないものだった。


「けど、ウイのこと話したらみんなどっか行った」


 沈黙が流れる。そうだ、アノールドは忘れていた。彼女はこの世界では禁忌と呼ばれるハーフだったということを。空気がドッと重くなるが、その時、彼女がニコッと微笑する。


「だから、こんなふうにウイのことを受け入れてくれる人たちがいるのは……嬉しかった」


 その笑顔は反則だろう! 驚嘆の思いでアノールドは心の中で叫んでいた。思わず抱きしめたくなるが、ここはグッと堪えて頭を撫でるだけに留めた。


「そっか、よく頑張ったなウイは」


 気持ち良さそうにウィンカァは目を細める。そして何を思ったか、日色の元へヒョコヒョコと向かったと思ったら、少し身を屈んで頭を差し出す。


「…………何のつもりだ?」


 日色には彼女の行動の意味が皆目見当がつかなかったようだ。あまりにも鈍感過ぎる日色に溜め息が零れる。


「おいおい、そりゃねえぜヒイロさんよぉ」


 日色の顔が不機嫌に染まる。


「どういう意味だ?」

「ウイはな、お前に頭を撫でてもらいてえんだよ」

「は? 何故オレがそんなことをしなければならないんだ?」

「別に構やしねえだろ? 撫でてやれよ。ウイは今まで頑張ってきたんだからよ」


 期待しているのが丸分りのように瞳を輝かせている。しかしプイッと日色はそっぽを向く。


「断る。そもそも、頑張ってるのは何もアンテナ女だけじゃない。確かにコイツの過去は同情すべき点があるだろうが、この生き方を選んだのはコイツ自身だ。お前も、誰かに褒められたくてこの道を歩いてるのか?」


 すると彼女は日色の目を見て、フルフルと首を左右に振る。


「違う」

「おいおいヒイロ、理屈臭くねえか? 撫でるくらい別に――」

「いい」


 アノールドの言葉を遮ったのはウィンカァだった。


「え……ウイ、だってよ……」

「ううん、ヒイロの言う通り。ウイは褒められたくて旅してたわけじゃない」


 皆は黙ってウィンカァのことを見ている。


「ヒイロ間違ってない。間違ってたのはウイの方」


 本人にそう言われては、それ以上は何も言えなくなった。だが何故か彼女はまたも日色に頭を向ける。


「……おい、だから何のつもりだ?」

「褒められたいわけじゃない。ウイはヒイロにただナデナデされたい」

「はぅわ! 大胆だよぉ!?」

「ど、どうしたミュア?」


 ミュアが突然真っ赤な顔で叫んだので、近くにいたアノールドはビックリして彼女を見るが、「なななな何でも無いよぉ!」と言って激しく頭を振っている。


「撫でる理由が無いのに撫でるわけないだろうが」


 撫でるくらい良いじゃないかとアノールドは思うが、日色は頑なに拒否する。

 そんな日色の態度を受け、途端にシュンとなったウィンカァは、上目使いで日色に言う。


「なら、どうしたらナデナデしてくれる?」

「いや、そもそも何故オレが撫でなければ」


 ウルウルウルウル。


「だから……」


 ウルウルウルウル。


「オレが……」


 ウルウルウルウル。


「…………はぁ」


 目を若干潤ませて見つめる眼力に負けたのか、日色が肩をガックリと落とす。


「なら、撫でて欲しかったら特別に良いことでもしろ。そうしたら考えてやる」


 どうやら彼女のしつこさに屈してしまったようだ。どうやら傍若無人な日色でも勝てない存在がいるらしい。

 日色の妥協にぱぁっと顔を綻ばせたウィンカァだが、瞬時に眉を寄せて首を傾ける。


「良いことって……どんなこと?」

「それは自分で考えろ」


 それだけ言うと早足で進んで行った。それからウィンカァは歩きながら良いことを必死に考えているようだった。

 途中ミュアに何かを聞き、「わ、わたしが撫でてもらうなんてそんな!」などと驚愕の声を上げていたが、日色は気にせずにまた《ステータス》の再確認を始めていた。




     ※




 しばらく歩いていると、茂みからガサガサと何かが這い出て来た。それは一匹のモンスターだったのだが、何かと戦ったのか、体中に痛々しいほどの傷を負っていた。

 フラフラと日色たちの前に現れたかと思うと、こちらに気づきもせずに力尽きたようにパタッと倒れた。四人は気になってゆっくりと近づく。


「コ、コイツは……」

「ひ、ひどい……」


 アノールドはモンスターの傷を見て思わず顔をしかめる。ミュアも口を手で覆って愕然としている。

 どうやら見たところ命に別状は無いようだが、必死にここまで走ってきたのか、息も絶え絶えと言った感じだった。


「確かスカイウルフっつうモンスターだな。これでもランクBはある強えモンスターだ」


 ランクは下からF・E・D・C・B・A・S・SS・SSSとあり、Bランクはなかなかに強いモンスターで、個人で倒すにも相当のレベルが必要になる。


 日色も図鑑で見たことがあるので知っていた。透き通るような青色の体毛に覆われた狼のような姿だが、体長は大きいものなら五メートルを越えるほどになるという。

 さらに背中には翼が生えており、あまり飛ぶのは得意ではないが、確かに大空を翔けることのできるモンスターだと知識として頭の中に入っていた。


 目の前に倒れているスカイウルフも体長は三メートルくらいで、背中に翼を宿している。だがその翼も所々引き千切られたような様子が目に映る。


「……助ける」


 そう言うと、ウィンカァは腰に下げている袋から布を取り出し、血を拭き取っていく。それをスカイウルフは微かに目を開けて確認すると、


「ガッ!」


 突然噛みつくように口を大きく開け近づいてくるウィンカァを退けようとする。自分が殺されるとでも思っているのかもしれない。

 警戒心と敵意を最大限に込めて唸っているスカイウルフを見て、普通は近づくにも恐怖が心を掴んでくるのだが、ウィンカァはそんな感情を少しも出さずゆっくりと近づいていく。


 そんなウィンカァから敵意を感じないと思ったのか、視線は逸らさずとも唸り声を上げるのを止めた。

 ウィンカァも、下手に刺激させないように近づき、手に持った布でスカイウルフの体から流れ出ている血を優しく拭き取っていく。


 スカイウルフは彼女の行動を咎めようとせず、むしろ体を預けるようにして目を閉じた。

 だが頭からも血を流していて、布はすぐに真っ赤に染まっていく。傷の中で頭の裂傷が一番大きいようだ。このまま放置し続ければ出血死に陥るかもしれない。

 ミュアたちも何か手伝おうと手持ちの袋の中を漁って布を取り出すが、二人の横をさっと日色が通り過ぎる。


「どけ、アンテナ女」

「……え?」


 するとアノールドとミュアが驚くことが起きた。何と日色がスカイウルフに近寄り、身体に文字を書き始めたのだ。


(え……まさか助けるのかな!?)


 今までの日色の行動や言動を知っているミュアからすれば、まさか何の見返りもなく日色がスカイウルフを治すとは思えないのだ。しかしその思いは呆気なく裏切られる。


 日色が『治』の文字を書くと、瞬時に発動させた。すると青白くて淡い光がスカイウルフを包む。徐々に塞がっていく傷を見て、ウィンカァは目を見開いている。

 ミュアは日色が以前に、自らの傷をこうやって治したことを知っているので驚きは無かったが、何故彼がそんな行動をしたのか不思議だった。


 完治するまでは結構時間はかかったが、全部の傷が塞がり自らの力で起き上がるスカイウルフ。そしてこちらをジッと見つめてくる。いや、正確に言えば日色とウィンカァを見ている。

 するとスカイウルフは顔を二人に近づける。ミュアは、まさか食べるのではとも思ったが、警戒をせず不動を保つ二人を見て、ミュアも静かにしている。


 ――――ペロ。


 スカイウルフが二人の頬を軽く舌で舐めた。そして顔を二人の両脇に入れて、じゃれつくように頭を動かしている。

 どうやら襲う気など全く無く、それどころか日色たちを気に入ったようだ。

 とりあえず襲われる危険性が無いと判断したのか、アノールドは大きく息を吐くと、疑問を浮かべたような表情をする。


「なあヒイロ、お前何で治したんだ? 何の対価も要求しねえでよぉ」


 コクコクと隣でミュアも同意する。


「ふん、お前たちには分からんだろうが、カッコ良いオオカミは正義だろう」

「…………は?」


 もちろん日色にしか分からない思いなのだが、聞くところによると、ファンタジーの世界でこんな大きな狼を見ることができたことに感動しているのだ。

 男なので、という括りはどうかとも思うが、やはり大きな狼はカッコ良いと感じたらしい。それに日色が動物、しかも犬好きという情報も入手した。


 そんな存在が傷だらけで横たわっているのを見て、日色は動いているところを是非見たいと思い、傷を治したらしい。

 結局は日色の欲望が起こした状況なのだが、スカイウルフにとっては僥倖以外の何物でもなかっただろう。


「ヒイロ、ありがと」


 ウィンカァが嬉しそうにそう口にした。


「別に感謝される覚えは無いな。オレはオレのために治しただけだ。おいオオカミ、ちょっと走ってみろ」

 日色の言葉に頷いたスカイウルフは、物凄い速さでその場を離れて行く。

 躍動感溢れるスカイウルフの動きに日色は感動するように目を輝かせている。


「おお~、やはりカッコ良いな!」


 こんな日色は初めて見ると思ってアノールドはポカンと眺めている。

 ミュアも子供のように笑う日色を見て、何故か頬が熱くなった。


(ヒ、ヒイロさんってあんなふうに無邪気に笑うんだ……)


 滅多に見ることができない日色の笑顔に感動した。



    ※



「おいオオカミ! 今度はオレを乗せて走ってみてくれ!」

「ワオッ!」


 すると足を折り曲げて乗れの合図をしてくる。すると日色の服がクイッと引っ張られる。


「……ウイも」


 どうやら彼女も乗りたいらしい。頬が少し興奮を覚えたかのように上気している。


「二人、行けるか?」

「ワオッ!」


 スカイウルフは二人を乗せているのに、まるでスピードに陰りが見当たらない。

 電車から見ているかのように、凄い速さで景色が動いていき風が全身を切っていく。フワフワの体毛に包まれ、ファンタジー体験をしている日色の気分は上々だった。

 こういう体験ができるからこその異世界だとつくづく思えた。


 しばらく走った後、二人を下ろしたスカイウルフは、もう一度頭を擦りつけた後、ク~ンと鳴いた。


「ん? どうした?」


 首を傾けるが、またも服がクイッと引っ張られる。


「ヒイロ、この子、行かなきゃならないとこあるって」

「…………お前何言ってるんだ?」


 当然無表情でそんなことを言う彼女に対し怪訝(けげん)な表情を作る。


「まさかウイ、お前さんスカイウルフが何言ってるのか分かるのか?」


 アノールドも信じられないといった表情で尋ねるが、ウィンカァはコクンと頭を動かす。


「分かる」

「ホントか?」


 疑わしい目で見つめるが、スカイウルフがそこで肯定するように頷く。日色含めて皆は驚きを隠せずに目をパチクリさせてしまう。


「食欲に行動、言動、それにモンスターとの会話。どこまで不思議ちゃんなんだウイは……」


 アノールドのげんは正しく、そのどれをとっても変わっていると言えるのだが、まさに変人のフルコンプリートをしている彼女はもう不思議ちゃんで決定したようだ。

 ク~ンク~ンと鳴いているスカイウルフの声に耳を傾けているウィンカァは、聞き終わったらこちらに顔を向ける。


 彼女が言うには、スカイウルフはこの近くにある、ある施設から抜け出してきたとのことだ。そこでは多くの仲間たちが人間たちに酷いことをされているらしい。

 何とか隙を見て、外に抜け出し、傷が癒えたら仲間たちを救い出すために行動しようと思っていたという。


「施設? 施設ってのは何だ? この近くにあるって?」


 アノールドが疑問を口にすると、再びスカイウルフが鳴き声を上げて、それをウィンカァが拾う。


「ここからず~っと東に行ったところにそれがある」


 ウィンカァは東の方向を指差す。そこは日色たちが向かっている国境の方角とは少しだけずれる。


「その施設の名前は【ブスカドル】って言う」

「ブスカドル……ね」

「知ってるのかヒイロ?」

「……いや」


 確かに知っているとはハッキリと言えない。だが日色はブスカドルという言葉自体は、日本にいた時に何かの書物で見たことがあった。

 だがその文字の意味が、この世界でも同じだとは限らないので、あえて口にはしなかった。


(確かスペイン語で……《探究者》……だっけか?)


 何を探求するのやらと思い肩を竦める。別にスペイン語を話せるわけではないが、日本にいた時に読んだ本にそのような単語が出てきたことを憶えていたのだ。

 もちろん同音異義語である可能性も高いが、スカイウルフが言っていることが真実だとすれば、その施設ではスカイウルフやその仲間たちが逃げ出すようなことをしていることは間違いない。


 しかもあの傷も、そこで負ったものだという。つまり、【ブスカドル】の意味が本当に《探究者》という意味なら、日色が予測した答えはこうだ。


(モンスターの実験場……か、あるいは処理場)


 恐らく前者だろうとは思うが、モンスターを集めて何かを探求しているとしたら、実験という言葉が的確だと判断した。


 しかしそれをアノールドたちの前で口にするべきかどうかは迷った。彼らのことだからまた面倒事に巻き込まれる可能性が高い。

 幾らモンスターだからといって、こんな酷いことをしているのなら止めるべきだなどという正義感を振りかざしてくるかもしれない。


 そうなるとハッキリ言って面倒だ。しかしこのまま一人で旅を続けるのも少し躊躇してしまうところがある。

 それにアノールドたちによる獣人の知識や調理の腕が無くなるのは痛い。

 旅を潤わせてくれている大きな幸福でもあるのだ。なまじ彼の料理を食べてしまって癖になっている以上、それとお別れをするのは何だか切なくなる。


 どうしたものかと思い腕を組んで考えていると、


「オオカミの家族、たくさん殺されたって」


 ウィンカァがそう言い、アノールドたちが顔を青ざめる。


「他にもたくさんのモンスターがいるけど、みんなみんな変な薬をうたれたり、体をカイゾウ? されたりして死んだって。今はこの子の家族だけしかいないらしい」

「そ、そんな……何でそんなこと……」


 悲しそうに言葉を吐くウィンカァを見て、ミュア自身も悲しくなっていく。


「オオカミは助けたいって言ってる。みんな助けたいって」


 これは雲行きが怪しくなってきたと日色は感じた。彼女はスカイウルフの頬を撫でると、ウンと頷き、こちらに顔を向ける。






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