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金色の文字使い ~勇者四人に巻き込まれたユニークチート~  作者: 十本スイ
第五章 マタル・デウスの暗躍編

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154:純情過ぎる乙女

 マリオネの登場により、日色が入浴していたイヴェアムと鉢合わせしたということが明るみに出てしまった。

 無論故意でそんな場面に出くわしたわけではない日色なのだが、おいそれと他人に話せる話題でも無い。

 だからここへ来た時、リリィンたちに何かあったのかと問われはしたが無視していたのだ。

 しかし残念なことにそれはマリオネの登場で無駄になってしまう。


 そしてその話に最も食いついたのがリリィンだった。

 今彼女が醸し出している雰囲気は明らかに不機嫌だ。何故そこまで態度を豹変させたのか日色には理解できなかった。


「さて、詳しいことを聞かせてもらおうか」


 リリィンの迫力に、問い詰めようとしていたマリオネでさえ一歩引いてしまっていた。


「……そうは言ってもな。……事故だぞ?」

「ほほう、なら貴様はあの女の裸を見たということか?」

「それは……」

「ど、どこまで見た?」

「は?」

「どこまで見たと聞いているのだ!」

「……何故お前にそんなこと言わなければならないんだ?」


 もしこれがイヴェアムなら、正直に答えるだろう。明らかにこちらに非があるので、謝罪の意味も含めて質問には答える。

 だがリリィンに言う義務は無いだろうと思い、不愉快そうに眉をひそめた。


「いいから答えろ!」

「断る。お前には関係無いだろ」

「なっ!? う、うぅ~」


 日色の正論に振り上げた拳の落としどころを見失っている感じで唸っているリリィン。


「ええい! この変態っ! 女に興味が無さそうな振りをしてそういうイベントはちゃっかりか貴様は!」


 何を急に言い出したのか分からず日色は半目をしつつ、指を差しながら叫んでいるリリィンを見つめていた。

 すると「おほん!」と咳ばらいが聞こえ、ここからは自分が主導権を握ると言わんばかりに皆の視線を誘導するマリオネ。


「とりあえず小僧、幾らお前が我々の恩人だとしても女人の、しかもこの国の王の湯浴みを覗いた形になったことは間違いない。陛下はあれから部屋に籠って出てこん。何とかしてくるのだ」


 マリオネの話によると、風呂から出たイヴェアムは一目散に自室へと駆け込んだそうだ。

 そしてベッドに潜り込むと、うわ言のように「ヒイロに見られたヒイロに見られた」と繰り返しているらしい。


 イヴェアムは十歳を過ぎてから誰かと風呂に入ったことなどない。

 あの側近だったキリアでも一緒に入ったことなどなかったという。

 それはひとえに恥ずかしいという理由なのだが、まさか裸を見られたのが男であり、しかも懇意にしている人物だということがさらに恥ずかしさを助長させているという。


「陛下はああ見えて初心だ」


 何処からどう見ても初心だがとは今の状況で口が裂けても言うべきことではなかった。


「それに何というか陛下はお前にその……いや、お前に見られたからこそああなっておられる」


 今まで男性に裸を見られていないのに、突然他人である自分に見られたらそうなってもおかしくはないだろうと判断する。ただマリオネの言い方には引っ掛かりは覚えたが。


「今も布団を頭から被り出てこようとしない。さっきも言ったようにこれはお前が招いたことだ。何とかしてこい」


 マリオネの言い分は正しい。事故とはいえ日色の安易な行動で招いた結果なのは違いない。だから関係無いと言って逃げるわけにはいかない。


「……はぁ、分かった。行って来る」

「待てヒイロ!」


 こっちが渋々行くことを決意したというのに、リリィンが動きを止めるように声をかけてくる。


「……何だ?」

「…………」

「……?」


 何だか言いたいことがありそうな雰囲気でチラチラとこちらを見てくるが、その意図が読めない。


「……一体何だ? さっさと言え」

「う……だ、だからだその………………なよ」

「……は?」


 小声で聞こえにくく再度確認する。すると彼女は顔を真っ赤にしながら、


「で、できるだけ優しくするなよ!」


 この赤毛のロリッ娘は何を言っているのだろうか? 

 普通は傷心した女性に対して優しく接するのは当然だ。しかもその原因が自分にあるのであれば尚更だ。


「お、お前何言って……」

「ああもう何もないわ! とっとと行って来いっ!」


 もう話すことは無いと言った感じで背中を向けるリリィン。そんな彼女の態度で増々混乱しそうになるが、今は魔王の所に行くことを優先するべきだ。

 そう思いマリオネとともに部屋から出て行った。



     ※



 日色が部屋から出て行った後、頬を膨らませて目を吊り上げたままで腕を組んで仁王立ちをしていたリリィンに、シウバが静かに口を開く。


「本当にあの方は話題にことかかない方でございますね?」

「まったくだ! 帰って来た早々に何だこれは! 静かに帰ってこれんのかアイツは!」

「ハハ、まあまあ、それもヒイロさんの徳というものでは?」


 クゼルはそう言うが、キッと鋭い視線をリリィンは彼にぶつける。


「女の裸を見ることが徳か! ならば何故その相手が魔王なのだ!」

「ノフォフォフォフォ! もしかしてお嬢様、覗くなら自分にしろと?」

「ばっ、ばばば馬鹿なことを言うな! だれがヒイロなぞに覗かれたいと言ったぁっ!」


 リリィンが茹でダコのように顔を赤くさせて必死で言い訳する。


「ん~そんなにリリィン殿は師匠とお風呂に入りたいのですかな?」

「だ、だから違うと言ってるだろうが!」

「そ、そうなのですかな? で、ですが師匠とお風呂は結構楽しいですぞ?」

「た、楽しくてもそう簡単に一緒に入るなど……って、今何と言った?」

「はい? 今ですかな? お風呂は楽しいと言いましたですぞ」

「い、いや、その前だ。……貴様、ヒイロと一緒に風呂に入ったことがあるのか?」

「はいですぞ! 師匠は嫌がるのですが、何度かミカヅキと一緒に師匠が湯浴みしている時に突撃したことがあるのですぞ!」


 自慢するように胸を張りながら言う。彼女の近くにいるミカヅキもどうだと言わんばかりにドヤ顔をしている。


「そのときシャモエちゃんもよんだのにいやだっていったけどね~」

「ふぇぇぇぇぇっ! そ、そんなお、お、男の方と一緒にお風呂なんてハードル高過ぎですぅ!」


 シャモエはミカヅキの言葉でリリィンよりも顔を真っ赤にしながら両手で顔を押さえブンブンと頭を振っている。


「アハハ、ニッキさんとミカヅキさんはヒイロさんと仲がいいんですね」


 微笑ましそうにクゼルはそう言うが、何かに気づいように小さく「ひっ!」と声を漏らす。何故なら彼の目に映っているリリィンから黒いオーラが噴出していたからだ。


「あ、あの天然タラシめ……まさかニッキやミカヅキとそのようなことをしておったとは……」


 わなわなと拳を震わせるが、それもすぐに収まり大きく深呼吸すると呆れたように頭を振る。


「いや、落ち着けワタシ。アイツは無意識でそういう事態を招く天才だ。いちいち目くじらを立てていても仕方無いではないか……ククク、そうだクールになれワタシ」


 リリィンは少しずつ落ち着きを取り戻していく。だがまるで空気を読まないシウバから一言が放たれる。


「いや~きっと今頃ヒイロ様は、謝罪とは名ばかりの口説き文句でも口にしているのでしょうね~」


 ピキッとリリィンの額にくっきりと青筋が浮かぶ。


「まあ、あの方は無意識ですが、きっと優しい慰めでイヴェアム殿は増々ヒイロ様の虜に……」


 するとリリィンはまたも小刻みに身体を震わせ始める。


(ノフォフォフォフォ! 嫉妬なさるお嬢様もお可愛いでございますね! ノフォフォフォフォ!)


 どうやらシウバはわざとリリィンが嫉妬するようなことを言ったようだ。リリィンが日色に「優しくするな」と厳命するように言ったのは、それは彼女の願望だった。

 日色のことだからどうせまたイヴェアムの心を惹きつけるようなことを言うのではと推測した彼女なりの警戒を表した言葉だった。


 無論彼女のそんな想いに日色は全く気づいてはいないが。だがシウバだけは鋭く悟り、リリィンが可愛く嫉妬する姿を見たくて彼女の心を煽ったというわけだ。


「……あれ?」


 その時、扉が開いてカミュが姿を現した。彼の肩には『精霊』のテンも乗っていた。当然の如く二人は日色のことを聞いてきたので、シウバは現況を正確に話した。

 カミュは「ふ~ん」という感じだったが、テンだけは全てを悟ったようで「またか……」と口から溢していた。



     ※

 


 日色はマリオネの先導のもと魔王の私室、つまりはイヴェアムの部屋へと向かっていた。

 日色に裸を見られたショックで自室に閉じこもっている彼女を、何とかしろとマリオネに言われたからだ。


「ここから先は侍女についていけ」


 マリオネがふと足を止めたのは、大きな扉の前だった。その前にはメイド服を着込んでいる女性がいる。

 ここからは幾ら重鎮であるマリオネだろうと簡単に足を踏み入れていい場所ではないらしい。というよりも、それはマリオネの談である。


 彼は女人が住む部屋へ男が入ることを良しとしないらしい。無論二人の関係が男女のそれであるならば構わないが、そうでないなら極力遠慮することがマリオネの紳士道だという。

 変なところが真面目だなと思いつつも、ならば明らかに他人である自分は良いのかとマリオネに問うと、今は緊急事態に近いから良いのだと言われた。


 このまま寝込まれでもすれば業務にも支障が出るからマリオネとしては一刻も早く立ち直ってもらいたいのだろう。

 今日はもう王としての仕事はほとんど無いようだが、また明日には仕事が舞い込んでくるはずであり、イヴェアムには今日中に元に戻ってもらいたいと言った。

 この状況を招いた責任がある日色も、さすがに断れなくこうして部屋の前までやって来たのだ。


「私は執務室で仕事をしている」


 侍女はその言葉を受けて「はい」と返事をすると、日色に対し微笑を浮かべて「さあ、こちらへ」と部屋の中へ促してくれた。

 扉の中には、また大きな扉があった。この奥にイヴェアムの寝室があるという。侍女がトントンとノックをして入室の許可を取る。


 まさか彼女も日色が来ているとは思っていないのだろうか、くぐもったような声音で許可を出した。

 


     ※



 イヴェアム・グラン・アーリー・イブニングは十六歳である。アクウィナスやマリオネと比べても、あまりに短い人生しかまだ体験していない。

 そんな若輩なイヴェアムでも、『魔人族』を纏める魔王という立場に立たされている。最初は自分に務まるわけがない拒否したのだが、半ば強制的に王の役目を担うことになった。


 失敗ばかりで当時の側近であったキリアにはいつも尻拭いをさせていた。アクウィナスやマリオネにも多くの迷惑をかけた。いや、今もかけ続けている。

 だがそんな自分でも少しは王の任を背負えるようになったのではないかと思った。それは無論周りの支えがあってのことなのだが、王としての仕事も何とかこなせるようになってきた。


 マリオネからも成長なされましたなと褒められて思わず嬉しさが込み上がった。だからもっと皆の役に立とうと必死で勉強して国を良くしようと思った。

 そして今日も早朝から仕事をこなして、早目に終わることができた。あまり今日は仕事の量がなかったこともあったのだが。


 時間もできたので久しぶりに街を視察にでも出かけようと思った。視察とは名ばかりの息抜きではあるのだが、最近美味しい食べ物やができたという噂も聞いていたので是非一度足を運びたいと思っていたのだ。

 しかしそこで侍女の一人から「久しぶりに街へお出かけになるのですから、身綺麗になさってはいかがでしょうか?」と言われ、それもそうねと返して入浴場へと向かった。


 ここは本来魔王専用の浴場であり、魔王以外は誰も立ち入ることを許されていない場所である。

 魔王になって良かったことと言えば、こうして誰にも邪魔されない一人の時間を優雅に過ごせる場所があることではないだろうか。

 だからイヴェアムは入浴するのが大好きなのである。そして侍女の言う通り浴場に入り体を洗い、浴室へ浸かろうとした時、湯気の先に黒っぽい影が見えた。


 ここに誰かがやって来たとは思っていなかった。では何の影だろうと好奇心に吸い寄せられて近寄った。

 だがそれが間違いだった。まさかこれほど予期しない出来事が自分を待っていたとは思っていなかった。


 影の正体、それは――――――『魔人族』の英雄である日色だったのだ。


 しかし彼の姿を目にした瞬間は嬉しさが込み上げてきた。獣人界から彼がようやく帰って来たのだ。いろいろ話したいこともあるし、自分の趣味も読書なので、本について語りたいとも思っていた。

 だから素直に彼の帰還を喜んでいたのだが…………そう、ここがどこか忘れていた自分を殴りたかった。ここは浴場であり、自分は裸。


 相手が女性ならまだしも異性であり、自分が少なからず好意を抱いている男性であった。もう瞬間的に全身が火で包まれたかのように熱くなり、気づいたら全力で悲鳴を上げていた。

 あれからすぐに浴場を出て、自分の部屋へと急行した。そして一目散にベッドに潜り込み布団を頭から被っていた。


「ウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソオ~ッ!」


 まるでお経のように心の中で今あったことを否定する。まさか日色に自分の裸を見られるなんて……。


「ヒイロに見られた、ヒイロに見られた、ヒイロに見られた……」


 途中で誰かの呼び声が聞こえた気がしたが、気のせいだと思い布団の中で枕を抱きしめる。


「恥ずかしいよぉ! 何であそこにいるのよぉ! どんな顔して会えばいいのよぉ!」


 いまだ冷めきらぬ体温を感じ、ブンブンブンブンと必死で頭を振っていた。


「ああもう! 見られたわ……見られたわ……よりにもよってヒイロに! ……うぅ~」


 別に日色に見られて気持ち悪いといった感情は無い。むしろ逆にイヴェアムの頭の中には


「……ヒイロ、わ、私の体見てが、が、がっかりとかしてない……かな?」


 普通は日色を糾弾するのだが、イヴェアムは自分の身体を見た日色がどう思ったか、それが一番気になっていた。

 そして布団の中で軽く自分の胸に手を触れる。


「む、胸はそれなりにあるけど……だけどヒイロの周りってなんだか小さな子が多いし……あれ? ヒイロってもしかしてそういう女の子がタイプなの?」


 確かに日色の周りには用意されているかのように幼女体型の女性が多い。イヴェアムが知るだけでもかなりの数に上る。

 だから日色の好みがもしかしてそっち系なのかと勘違いしてしまうのも無理はないのかもしれない。


「うぅ~というかどこまで見たのかなヒイロ……ゆ、湯気もあったし、か、顔だけ? それともむ、む、胸? そそそそそそれとも……」


 目線が自然と下半身へと向くが、すぐさまブンブンブンブンと頭を盛大に振る。


「きゃぁぁぁぁぁぁっ! そんなの恥ずかし過ぎるよぉぉぉぉっ!」


 そうやってしばらく一人で考え、一人で悶えていると、扉をノックする音が聞こえた。


(ん……様子見で誰か来たのかしら? そ、そうよね、黙って浴場から出て来たんだもの、不自然に思うわよね)


 実際は部屋でブツブツ言うイヴェアムの言葉を聞いた侍女が、すでにその旨をマリオネに伝えていたことはイヴェアムは知らない。


 そして今、イヴェアムの部屋には自分が一番会いたくない人物がいることなど予想もしていなかった。

 布団に入ったまま侍女であろう人物の入室を許可する。扉が開き、また閉まる音がイヴェアムの耳に届く。


 イヴェアムもこのままではいけないと思い、大きく深呼吸をすると、ゆっくりと布団を剥ぎ、入って来た誰かに背中を向けたままで喋り出す。


「ご、ごめんね。ちょ、ちょっと予想外なことがあってつい取り乱した……わ……」


 顔をゆっくり背後にいる人物へとスライドさせて、そして視界に映った人物を見て石化したように固まる。


「……よぉ」


 そんな無愛想な返事がイヴェアムの全身を震わせ、そしてボフッと一気に体全体から湯気が噴出し、


「な、なな#%&$?*¥!&っ!?」


 解読不可能の言葉を発してしまう。何故なら目の前にいたのが―――


「ヒ、ヒイロォォォォォォッ!?」


 ―――件の少年だったのだから。





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