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金色の文字使い ~勇者四人に巻き込まれたユニークチート~  作者: 十本スイ
第五章 マタル・デウスの暗躍編

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142:太赤纏の極意とは

1月22日に新作を投稿します。

しかも今回は、新たな『文字使い』の物語です。


タイトルは


『終末の文字使い ~現実世界にモンスターが現れて500年後のユニークチート~』


です。

今作は現実世界が舞台で、もし文字使いがいたらという話になっています。

『金色』が好きな人は、きっと楽しめる作品となっておりますので、どうぞよろしくお願いします!


 気持ちの良い青空の下、日色が今何をしているのかと言えば……。


「…………あ~気持ち良い~」


 滞在するために与えられた客室の中で、何故かパンツ一丁で俯せになりマッサージを受けていた。しかもその相手というのが――。


「どうだ? 身体の奥から感じるだろう?」


 見た目は完全にオオカミ人間。

 魔王イヴェアムに仕える《魔王力護衛隊(クルーエル)》の一人――オーノウスが、日色の全身を熱心にマッサージしていた。


「ああ、よく感じる。これが……そうなんだな」

「そうだ。もっと感じろ、これならどうだ?」

「うっ……あ、ああ……強く感じるな」

「ふっ、我慢せずともよい。感じるままに身を委ねろ」


 オーノウスは日色の臀部から足先にかけて揉み解している。


「「あわわわわ!?」」


 そんな二人の傍には両手で顔を隠しながらも、全く隠し切れていない二人の幼女の姿があった。


「ミ、ミミルちゃん!」

「ミュ、ミュアちゃん!」


 日色を慕うミュアたちだった。

 無論日色たちは、意味があってマッサージをしているのだが、どうも彼女たちはその光景に何かしらの興奮を覚えているようだ。

 確かに声だけ聞くとなかなかに妄想をかき立てられてしまうような言葉が発せられてはいるが、日色は間違いなくマッサージを受けているだけだ。


 ただ、普通の……とは言えない。

 何せオーノウスの両手を赤い光が包んでいるのだから。


 オーノウスと出会ったのは、この【獣王国・パシオン】へやって来て翌日のことだった。彼は魔界と獣人界を行き来し、情報を魔王へと伝える役目を担っている。

 この任務の忙しさのせいで、《フォルトゥナ大図書館》で約束した《太赤纏》の扱い方をまだ教えて貰えていなかったのだが、この国で彼に会いしばらく時間が取れるというので、少しばかり基礎を教えてもらえることとなった。


 彼が言うには、まずは《赤気》を自在に体から放出させることができなければ応用へと進めないとのこと。だが今現在、日色が意識して放出できるのは右手の人差し指だけだった。

 そこでまずオーノウスは、自分が今から《赤気》を両手に纏いマッサージをするという。何故そのようなことをする必要があるのか問うとこう答えてくれた。


 《赤気》を直接肌に触れ合わせることで《赤気》を纏う感覚をイメージし易くなる。


 確かに日色は《天下無双モード》を使えば《赤気》を纏えるが、アレは持続時間も限られているし、何より体力も魔力も多大に消費するので非効率だった。

 それにあの時は確かに《赤気》を纏っているが、どうにも無意識というか強制的な感じであり、感覚が掴めていないのだ。


 だからオーノウスは、こうしてマッサージしながらも、ただ揉むだけでなく微量に《赤気》を日色の全身へと流しているのだ。

 そうして身体を解すことで血流を良くし、《赤気》を扱い易くなるという。やはり《赤気》も魔力を使うので血の巡りを良くすることは理にかなっているのだ。


 とりあえず彼の言う通りにマッサージを受けるために、一応獣人の姿から人間の姿へと戻っておいた。


「それにしても、そんなに熱くないんだな。アンタがあの時、決闘で戦っていた時は、相手は熱そうだったがな」


 オーノウスは、『獣人族』との決闘では第二王子のレニオンと戦っていた。

 そしてその時全身を《赤気》で覆っていたのだが、その時の攻防ではレニオンが腕を掴まれ、その腕を熱そうに感じていたように見えていたが。


「それはそうだろう。今はあの時のような熱をそれほど加えていないからな」

「そうなのか?」

「元々《太赤纏》とは《太灼纏》とも言う。つまり灼熱の炎のごとく熱きオーラを身に纏う術だからな。というより一応お前だって纏えるのだから知っているのではないのか?」


 確かに《天下無双モード》で纏うことができるが、あの時は別に熱など感じない。それは相手も同じはずだ。そう説明するとオーノウスは、納得するように頷く。


「なるほど、つまりあくまでヒイロのあの時の姿は防御主体であって、攻撃主体ではないということだな」

「……どういうことだ?」

「《太赤纏》には『静』と『動』の二つがある。『静』は防御能力を飛躍的に向上させる。そして『動』は《赤気》に激しい熱を加えて攻撃力を……」


 確かに《天下無双》時では、魔法、物理などの防御力が普段と比べものにならないくらい上がる。それに攻撃力は大して変わってはいない。

 日色にとって、攻撃は《文字魔法》の『剛力』などを使えばいいと思っていたので気にはしていなかったのだ。


「よし、そろそろいいだろう。立ってみろ」


 日色はそう言われゆっくりと立ち上がる。何だか体が羽のように軽かった。ただのマッサージではこうはいかないだろう。やはり少なからず《赤気》を身体に流してもらったことが大きいようだ。

 だがパンツ一丁なので、傍で見ているミュアとミミルはかなり顔を上気させている。ちなみに近くにはテンとカミュもいるのだが、彼らは大人しく見守っているだけ。


「それじゃ、これからやるべきことを教える」


 ゴクリと日色だけでなく、何故か周りの者たちも喉を鳴らしている。誰もがオーノウスの口元に注視していると、それがゆっくりと開いていく。


「…………こうダラリとなって、グルグルさせてギュッ! そしてボウッっとなるのだヒイロ!」



 …………………………………………………………………………は?



 その場にいた者全員が軽い脳震盪をくらったような目眩を覚える。

 それほど皆の視線を集めている張本人であるオーノウスの言動に現実感が失われていたのだ。


 だがそれは仕方が無い。外見上、どう見てもキリッとしていて隙の無い恐らく獣人では男前の部類に入るのであろう彼から予想だにしない発言があったのだから。

 しかも本人は至って真面目であり、困惑気味の日色たちを見て、逆に不思議そうに眉をしかめているのだ。


「……もう一度言ってくれるか?」


 とりあえず再度確認してみようと思い尋ねた。


「む? 聞いていなかったのか? だからこうダラリとなって、グルグルさせてギュッ! そしてボウッっとなるのだ」


 どうやら聞き間違いでは無かったみたいだ。


(……あの巻物に書かれてある内容を知ってはいたが、正直アレは自分にしか分からないようにするための暗号か何かだと踏んではいたんだが……)


 《フォルトゥナ大図書館》で見つけた《太赤纏》について書かれた巻物。それはオーノウスが図書館に納めたものだった。そしてその中身だが、とても常人には理解できなかった。

 何故なら今オーノウスが言ったような感じで、感覚的な主観で擬音風に書かれていたからだ。

 最初は何かの冗談かとも思ったが、今この時、それは紛れも無い真実だと痛感させられた。


「む? どうした? そのような虚を突かれたような顔をして?」

「…………はぁ、まあその何だ……単刀直入に言うが………………まったく意味が分からん」

「……は? 何故だ? これほど分かりやすい説明は無いと思うのだが……」


 本人は至って真面目というのが性質が悪い。


「いや、アンタの感覚的思考は理解できる。だがそれを伝えられて、やれ実践してみろと言われてもふんわりし過ぎて分からん」

「む、むぅ、そういうものなのか?」

「というより、アンタ兵の調練などもしてるんだろ? その時に兵士たちは妙な顔をしていなかったか?」

「……そう言えば、俺が教える時は皆が何故かいつも謎解きをするような顔つきをしていたな」


 ……気づけよ。


 兵士たちの気持ちは分かる。彼の言葉は謎にも等しい。立場上何度も聞き返したりしないように兵士たちはしているのだろう。だからこそ真剣に謎にも等しい言葉を解釈しようと皆必死なのだ。


「とにかく、もっと論理的に説明してくれるか?」

「む、むぅ……ろ、論理的……か……」


 どうやら彼は人を教える素養は皆無のようだ。感覚的思考も時には大事だが、主観と客観で物事を捉え、またそれを相手に分かりやすく伝えることができなければ教師には向かない。


「はぁ、ならそのダラリだったか? それはどんな感じなんだ? 実際にやって見せてくれないか?」

「うむ、それならばお安い御用だ」


 オーノウスが目を閉じたと思ったら、彼の身体に無駄な力が抜けていくのが分かる。

 そして体中にある魔力と生命力がちょうど腹の辺りで混ざり合って、それが全身へとまるで血流のように回っていく。


 日色は今、『視』という文字を使用して彼の体内で力がどのように働いているのか確認している。


(なるほどな、ダラリというのは脱力のこと。そして恐らくグルグルというのは二つの力を混ぜ合わせることだ。そしてギュッというのはそれを凝縮……そして――)


 オーノウスがカッと目を見開くと、血が体中から噴き出るかのように体外へと迸った。


(アレがボウッってわけか……それにしても的を射ている表現なんだがやはり分かりにくいな……)


 言っていることは間違いないだろう。感覚的には恐らくそのように感じているのも理解できる。しかし言葉だけでは実践が難しいのもまた事実だった。


「今熱を感じないが、それは『静』ってことか?」

「そうだ。つまり防御主体の《太赤纏・(せい)》だな」

「……ちなみにどれほどの防御力が?」


 オーノウスの纏っている力が尋常ではないほど強力なものだというのは伝わってくる。それこそ《天下無双》時と遜色ないほどにだ。

 これは彼がこの力の練磨を欠かさず続けてきた証拠だろう。だからこそ、今の彼の力に興味を惹かれた。


「ふむ、ならば全力で殴ってみればいい」

「あ、オ、オーノウスさん! それは危ないですよ!」


 ミュアがすさかずそう言い、ミミルも賛同して首を縦に振っている。しかしオーノウスは微笑を浮かべると、


「いや、その方が分かりやすいだろう? なあヒイロ?」


 まるで挑発しているかのようだが、実際そうなのだろう。それほど彼は《太赤纏》に自信を持っているのだ。

 ならちょうどいいと思い、実験をして確かめようと日色は拳を握る。


「部屋の中だから助走などはできないが、手加減せずにさあ来い」


 魔法は使わない。正直《文字魔法》を使えば難なく相手にダメージを与えることができるだろう。『貫通』でも良いし『無効化』でも問題無いだろう。

 しかしそれでは意味が無い。確認したいのは純粋な防御力だ。日色はレベルで言えば、恐らくこの世界でもトップクラスであり、身体能力も今では普段のレオウードにも劣らないかもしれない。


(全力を右拳に込める……)


 自然と魔力がそこへと集中していく。そして膝を曲げて、瞬時に床を蹴る。ほんの少しだけ助走をして、オーノウスの懐へと入る。

 彼は不動の構えで立ち尽くしているだけだ。その彼の腹へと、握りしめた拳を力一杯繰り出す。


 その拳には並々ならぬ威力が備わっていることは、その場に居た誰もが感覚で分かる。恐らくランクS級のモンスターでも一撃で吹き飛ばされるであろう力は持っている。


「はあっ!」


 バシィィィィッと二つの存在が衝突した。


 だが……。


「…………これで分かったか?」


 オーノウスは平然とそこに佇んでいた。


(くっ……硬い……っ!?)


 だが鉄のような硬さではない。


(まるで分厚いタイヤでも殴った感覚だな)


 拳を引き、オーノウスを覆っている《赤気》を見つめる。殴った感覚、それは確かにとてつもないほど厚く丈夫なゴムを殴ったようだった。

 衝撃を全て吸収されたかのような感じが拳に伝わって来ていた。しかしオーノウスの足元を見て若干ムッとなる。

 何故なら彼は少し後ろへ下がっただけで、吹き飛びもしなかったのだから。


「ヒイロ、お前が何を考えているか手に取るように分かるぞ」

「…………」

「何故ならな、俺に《太赤纏》を教えてくれた先生に、同じようなことをした後の俺と同じ顔をしているからな。俺が吹き飛ばなかったことがショックなのだろう? それに少しはダメージを与えられると信じていたのにそれが微塵も無い」

「…………ちっ」


 つい舌打ちをしてしまう。考えていることを言い当てられるのは嫌な気分だった。特に今の状況ではだ。


「そう悲観することもないのだがな」

「……?」

「何故なら防御の力そのものは、お前にも分かっているはずだろう? 魔法で扱うことができるのだから」


 一応彼には魔法で《太赤纏》モドキを使えることは知られているし、詳しくも教えた。教えを請う以上は、ある程度の情報は教えないといけないからだ。

 そして確かに彼の言う通り、防御に関して《赤気》が便利なのは納得済みではあるので言い返せない。


「この状態は対物理、そして魔法による攻撃に耐性を極限まで上げてくれる。それだけ体力や魔力も削られるが、それでも十分に強い見返りがある」


 この状態ならたとえ相手が魔法を使おうが剣で斬りつけてこようが、ほとんど無効化に近い衝撃で済む。無論防御力を越える力を受けると貫通ダメージはもらってしまう。

 それでもこの防御の能力だけでも素晴らしい恩恵ではある。それにまだ『動』という攻撃メインの力もあるのだからとんでもない業である。


「ちなみに『動』はこの場では勘弁してもらうぞ。部屋が壊れる可能性が高いからな」


 オーノウスがそう言うが、正直『静』だけでも十分だった。その凄さは『動』でも間違いなく期待できるだろうと予測できるからだ。

 それに一応『動』の方は決闘の時に見ているからそれで良かった。


「それではヒイロ、今度はお前の番だ。やってみろ」


 ハッキリ言ってかなりワクワクしていた。新しい業を覚える時というのは、やはり胸が高鳴ってしまう。こんなところは男の子なのだろうかと誰かが聞いたら思うだろうが、仕方が無い。だって熱くなってしまうのを抑えることができないのだから……。


(まずはダラリと……)


 身体の力を抜く。しかしそこで……。


「あ、あのヒ、ヒイロ様……?」


 突然ミミルが声をかけてきたので彼女に顔を向ける。


「何だ?」

「あの……その……も、もうよろしいのではないで……しょうか? その……」


 ミミルはこちらをチラチラと頬を真っ赤にさせて見てくる。隣にいるミュアも同じ仕草をしているようだが……?


「ヒイロ……服着る」

「そうだぜ! 野郎の裸なんか見ててもつまんねえし、何より気が散っちまう」


 カミュが服を持って来てくれていた。そしてテンはそのカミュの肩に乗りながらやれやれと首を振っている。

 ミュアたちの赤面についての理由が分かり、それもそうだなと判断して服を着ることにした。もうマッサージは必要無いのでオーノウスも許可してくれる。


「よし、それじゃやるか!」


 万全の態勢を整えて意気込みを言葉にするが、突如《王樹》内が慌ただしいことに気づく。

 そして日色たちがいる部屋にも、バタバタと音を立ててやって来たアノールドが驚くべきことを言い放つ。


「おい! 敵が攻めて来たぞっ!」


 突然の強襲報告だった。








 《王樹》の高台から街下を見下ろすと、そこには人間大くらいの大きさの奇妙な物体がウヨウヨと街の中を徘徊していた。

 ソレはゆっくりとまるでホラー映画のゾンビのごとくゆったりとした動きで街に広がっている。


(何だアレは……?)


 遠くからではソレが一体何なのか判別はできない。ただアノールドが敵と言った以上、あれらは何かしら害を成す存在なのだろう。


 しばらくそうして観察していると、その一つが国民の一人を捕まえる。

 しかもその捕まえ方に不気味さを覚えた。何故ならその何かから触手のようなものが飛び出してきて、国民の身体に巻き付いたのだから。

 そして驚いたことに捕まえた国民を自分の体内へと押し込んでいっている。


「アレはどうやら水でできた人形みてえだな」


 肩にいるテンがあれらの正体を教えてくれる。


「人形?」

「ああ、恐らく術者はどっか近くでアイツらを操ってんよ」


 テンが言うには、これは水魔法の一種であり、今国を襲っている奇妙な物体たちは、その使い手により生み出された水人形だということ。


「けどま、これだけの数だし、あんま複雑な命令はできねえと思うんよ」

「だが国民を襲ってるぞ? 敵味方は判別できるってことだろ?」

「ま~な、多分アレに命令されてんのは、近くにいる人を襲えってことじゃねっか?」

「……確かに水人形は人じゃないな。それに建物には一切手を付けてない」


 つまりテンの言ったことが高確率に的を射ている可能性がある。


「どうするの……ヒイロ?」


 隣にいるカミュが聞いてくる。アノールドたちやオーノウスたちは、国民の救助に向かった。こうして見ていると、あちこちで見知った顔ぶれが戦っている。

 その中にはミュアの姿も見える。イオニスと戦った時と同じチャクラムを使って侵攻を食い止めているようだが、どうやら単純な物理攻撃が効かないのか、身体を斬り裂いても再生しているようだ。


「オレが手を出さなくても、アイツらがいれば何とかなるだろ。それに獣王だっているしな」


 見れば獣王は兵士たちに指示を出していた。


「俺たちは……観戦?」

「別に戦いたければ行ってくればいいぞ。止めはしない」

「ヒイロ……どうするの?」

「様子見だな。ただで手を貸す義理は無いし。さっきも言ったが、別にオレが加勢しなくても連中なら何とかするだろ」


 確かに敵の数は多いが、見たところ大した能力は無い。ただ捕まえた国民を自身の体内に押し込み窒息死させようとしているが、動きは遅いし他の者が捕らえられた者を救出するのも簡単なようだ。

 水人形の中から民たちを強引に引っ張り出している光景を見て、隠し玉も無さそうなので獣王たちなら自分たちで何とかできるだろうと判断した。


「ちぇ~ヒイロ戦わねえんかよ~」

「ああ、めんどくさいしな」

「あ~あ、せ~っかく新生ザンゲキちゃんの力を試せたのにさ~」


 確かにテンと一体化した《絶刀・ザンゲキ》の試し斬りはまだだった。そういう機会に恵まれなかったので、能力などはテンから聞いてはいたが試してはいなかったのだ。


「む……そう言われれば確かにこの状況は都合が良いかもしれないな」

「それにアイツらのせいで……修業途中」


 カミュの言う通り、敵が襲って来たせいで、せっかく貴重な時間を割いてオーノウスに訓練してもらっていたのにそれが中断となったことで徐々に怒りが込み上げてきた。


「…………何か腹立ってきたな」

「おっ! んじゃやる?」


 テンがワクワクしたように目を輝かせている。


「……そうだな。さっさと終わらせて《太赤纏》の特訓もしたいしな」

「ウッキキィ!」


 嬉しそうに跳びはねるとテンはさっそく一本の枝の先に移り、そして大きな声で鳴き始めた。

 それは下にいる皆にまるで注目を浴びさせようとしているかのようで、よく通る鳴き声は、レオウードたちの視線をテンに移らせる。


「あのバカ、一体何を……?」


 だがよく見ると水人形も動きを止めてテンを見ている様子だ。奴らの動きを制限するためにやったのだと気づく。


「おいヒイロ、こっち来いってば!」


 テンはチョイチョイと手を振って来るが、実に行きにくい。

 何故なら物凄く注目を浴びているからだ。

 だが戦うと決めた以上ジッとしているのもどうかと思い、仕方無くだが重い足を動かしテンの元へ行く。


「二刀流はここで待ってろ」

「ん……分かった」


 カミュにそう告げ前を見据える。








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