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金色の文字使い ~勇者四人に巻き込まれたユニークチート~  作者: 十本スイ
第五章 マタル・デウスの暗躍編

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129:ニッキの意思

 テンから契約した恩恵について話を聞き終わると、待っていたようにニッキたちがこちらに向かって来た。その様子は飼い主に尻尾を振る犬のようだ。


「キキ、その前に刀を返しておくかんな」


 テンの言葉通り、突然左腰に重みを感じて確かめてみると、先程まで無かったはずの《絶刀・ザンゲキ》があった。

 別段変わったことはないが、テンから話を聞く限り、この刀はもうテンの身体の一部ということだ。


「ま、これからはよろしくなヒイロ!」

 そう言いながらヒョッと軽々しく跳び、肩の上に乗ってあろうことか頭に手を載せてきた。馴れ馴れしい態度に少し苛立ちを覚える。


「……重いから下りろ」

「え~、いいじゃんか! もう俺たちは主従の関係なんだしさ! あ、もっちろん俺が主でおめえが従な?」

「ふざけるなこの黄ザルが!」


 肩から振り下ろそうと盛大に揺らすが、急に目眩が起こり足元がぐらつく。

 そこへ左半身に温もりを感じたと思ったら、何かに身体を支えられていたことに気づく。

 結果的に転倒するのを防いでくれたのは……。


「ヒイロ……無事?」


 カミュだった。彼が支えてくれたようだ。

 見ればニッキも不安気に上目使いで見つめてきていた。軽く息を吸って吐くと、


「心配するな。魔力を使い過ぎたから少しよろめいただけだ」

「ウキキ、そうそう無理すんなよ! しばらくそっちの嬢ちゃん、じゃなかった坊主……は何か違和感あるし……ああもう、とにかくその子に支えてもらっておきゃいいっての!」


 彼の言い澱んだ気持ちは分かる。カミュは嬢ちゃんではないし、呼ぶなら坊主が正しい。だがどうも見た目が坊主とかけ離れているので呼び辛いものがあったのだろう。

 支えてもらいながら歩くなどゴメンだと言って一人で立ち、とりあえずテーブルがあった場所へと皆で戻って行く。

 そこで目に入ったのはニンニアッホの肩で眠っているオルンだった。


「うふふ、どうやら久々に楽しい時間を過ごして疲れたようなのです」


 ニンニアッホの言う通り、確かにここへ来てはしゃいでいたことを思い出す。特にニッキたちとワイワイやっててよく笑っていた。オルンは満足気な表情で夢の中にいる。


「皆さんには感謝しております。特にヒイロさんには」

「気にするな。貸しにしとくと言ったはずだ。それでいい」

「ええ、うふふ」


 綺麗な笑みを浮かべる彼女は、男が見たら確実に目を奪われるほどの清楚で美しさ溢れる魅力を備えていた。

 日色は改めて、自分の周りにはレベルの高い女性が豊富だということに溜め息が漏れる。

 その中に青山大志のようなイケメンがいれば、さぞ映えるだろうなと客観的に評価するが、美女だろうがそうでなかろうが、自分的にはどうでもいいので考えをすぐに破棄した。


 ホオズキが皆の顔を一望した後、もうすぐゲートが閉じてしまうという話をする。

 ゲートというのは日色たちがやって来た空間の亀裂のことだ。閉じてしまえば、再び開けるには時間が掛かるという。


 そしてもう一つ、【フェアリーガーデン】への通路も一度閉じなければならないという。

 それを聞いて、ヒメの表情に陰りを発見してしまう。同時にニンニアッホも、彼女の顔を見て寂しそうに息を吐いていた。


「あの二人……親友同士みたい」


 別に聞いたわけでもないのだが、カミュは耳打ちするような声で言ってきた。どうやら彼はホオズキから二人の関係を聞いたようだ。主に聞いたのはニッキのようだが。


(なるほどな。立場で気持ちを抑えてるってことか……)


 くだらないと一瞬思ったが、人それぞれの考えがあるのもまた事実だ。関わると面倒そうなので黙っていると、ニッキが二人に視線を送っていることに気づく。

 眉をひそめ、何か思いを秘めたような顔をしている。何をそんなに二人が拘っているのかとつい首を傾げていると、


「まあでも安心するんじゃニンニアッホよ。一度ゲートは閉じるが、またここに開くこともできる。ヒイロのお蔭でのう」

「……はい」


 慰めの言葉にしっかりと微笑んで反応するが、大手を振って喜びを表しているわけではなさそうだ。やはりヒメとの関係が棘になっているらしい。


「う~ん、ああ見えてヒメは素直じゃねえしな~」


 テンが肩を竦めながら言うが、


「ああ見えてって……どう見ても素直じゃなさそうだが?」

「ウキャキャ! それ言えてる! ヒメは頑固で意地っ張りでバカなぶぎゃろっぺっ!」


 テーブルに乗って、生き生きと喋っていたテンは、ヒメより投げつけられた椅子で吹き飛ばされて行った。


(アイツも懲りんな……)


 あんな大声で言えばこうなることは分かっていたろうに。

 するとヒメがハッとなり、ニンニアッホに向かって頭を下げる。


「ま、またお会いできますことを祈っております」


 それだけ言うと、そこから立ち去ろうとしたが、


「……え?」


 ヒメは足を止めた。いや、止めざるを得なかった。

 何故ならその前には両手を広げて立ち塞がっているニッキがいたからだ。日色の隣に居たはずの彼女がいつの間にかいなくなっていた。


「えと……何かしら?」


 困惑気味にヒメが尋ねる。


「このままお別れはダメですぞ!」


 おいおいバカ弟子よ、何をしてるんだ? 

 と、思わず心の中でそう問いかける。


 誰もがニッキの行動に言葉を失って固まってしまっていた。

 だがニッキは、周囲の様子など無視し口を尖らせ、力強い瞳をヒメにぶつけている。


「あ、貴方一体どうしたのかしら?」


 努めて冷静さをヒメは装う。


「このままわだかまりを残したままでお別れはするべきではないのですぞ!」


 するとヒメの顔に明らかな狼狽が見て取れた。しかしすぐに持ち直し、余裕を持った態度を作る。


「…………な、何を言っているのかしらねこの子は」

「だって」

「へ?」


 ヒメの言葉を遮るようにニッキが喋る。


「だって、もしもう二度と会えないようになったら、いっぱいいっぱい悔やみますぞ!」


 ヒメはショックを受けたように唇を微かに震わせている。ただニッキはどこか悲しそうな目を宿し、その目を見た日色はあることを思い出していた。


(アイツ……あの時のことを思い出したのか……)


 それはニッキと初めて出会った時のこと。

 彼女にもたらした恐怖…………今となってはそれは彼女の成長にも繋がっているのだが、誰もがあんな経験などしたくはないと思う。


 それほど辛く悲しい出来事。だからこそ、ニッキは自分のような思いをヒメにはしてほしくないと思いああやって思い止まらせているのだ。

 全てを知っている日色は静かに視線をヒメへと送る。彼女が《視る種族》として才を持っている存在だとしたら、今の発言が偽りでないことやどれほど重いものかを知るだろう。


 その上でどんな答えを出すのか、少しだけ興味が引かれた。見ればホオズキも厳しい顔つきで彼女を見ている。彼はニッキの想いに気づいているようだが……。


「……はは、ね、ねえ貴方、貴方はまだ幼いから理解できないでしょうけど、けじめというものを私は大切にしているのよ。だからけじめをつけるまでは……」

「そのけじめとやらは、大切な人よりも大切なのですかな?」

「っ!?」


 大人として言いくるめようとしたが、反論できないほどの真っ直ぐな正論を放たれ、言葉が詰まったように歯を噛み、少し苛立ちを露わにするヒメ。


「……どきなさい」

「嫌ですぞ!」

「どきなさいって言っているでしょっ!」


 瞬間、凄まじい気迫がヒメから迸り、それが集中的にニッキへと向かう。

 さすがは『精霊王』の直系なのか、その覇気は向けられていないこちらにまで影響を与え、カミュなどは警戒したのかニッキを助けに行こうとするが、それを寸前で「止めておけ」と言って止めさせた。


 カミュは「何故止めるの?」的な感じで怪訝な顔つきを向けていたが、「いいから見てろ」と言うと、それ以上何も言わなくなった。

 心配されたニッキはというと、その覇気を真正面から受けてしまい、全身を震わせ顔を白くさせている。しかしそれでも尚、そこから退こうとしない。


「……ど、どうして?」


 何故こんなにも立ち塞がるのか分からないのだろう。戸惑いつつ、逆にニッキの揺るがない意思を感じて後ずさってしまっている。

 ヒメもまた、どうすればいいのか分からず困惑している様子。


 そんな中、日色は大きく溜め息を吐く。

 このままで埒が開かない。

 ほんの少しだけ、弟子の手助けをしようと気まぐれを起こすことにしよう。


「はぁ、おいヘビ女」

「へ、ヘビ女って……な、何かしら?」


 明らかに不愉快そうに眉をひそめているが関係無く口を動かす。


「そいつはな、バカだがたまにバカじゃないことを言う奴だ」

「……はあ?」

「自分が正しいと思ったことは、これでもかってくらいバカ正直に突っ走りやがる」

「…………」

「少しだけそいつのことを教えてやるよ」


 誰もが息を飲み、日色の言葉を黙って待つ。


「そいつはある奴と凄く仲が良かった。だがある時、ほんの些細なことで言い争って、しばらく口を聞かなかった」


 ヒメだけでなく、日色の話に全員が興味深そうに耳を傾けている。


「つまらない意地を張っていて、そのうち仲直りできるだろうと思っていたんだろう。しかし…………そいつとはもう会話すらできなくなってしまった」

「……そ、それって……」

「ああ、ちょっとした出来事があってな。そいつは死んでしまった」


 言葉を失って、何を言えばいいのか分からないのかヒメが顔を伏せる。それはヒメだけでなく、ニンニアッホやホオズキたちも悲痛そうな面持ちだ。


「バカ弟子とそいつは、和解することはもう一生できなくなった。つまらない意地を張った結果だ」


 その時の悲しみや苦しみは、まだ幼いニッキには心臓に直接刃を入れられたかのような痛みを覚えたことだろう。

 だからこそ……その痛みを知っているからこそ、同じようなことをするヒメを黙って見ていられなかったのだ。


「けじめがどうとか言ってたな?」

「…………」

「確かに大切なことなんだろうな、お前にとっては」

「…………」

「だがオレもそいつも、そのけじめがホントに守るべきものなのかそんなのは知らない。ただそいつは、今一番大切なものをお前に優先してほしかったんだろうな」


 日色は呆れたように息を吐き、ゆっくりと立ち上がるとニッキの元へ行く。

 そしてそのまま彼女の開いた目を閉じさせ、お姫様抱っこのようにして抱える。

 その光景にカミュは驚いているようだった。まあ、ニッキが何の反応も返していないことが不思議なのだろう。

 ニッキを抱えながらヒメの横に移動して言う。


「まあ、お前がどんな答えを出そうがオレにはどうでもいいが、気絶しても尚立ち続けていたコイツの意思だけはバカにするなよ?」


 どうやらヒメの気迫を全身に受けた時からニッキは意識を奪われていたようだ。それでも倒れず立っていたのは、彼女の強い意思がそうさせたに違いない。

 日色は少し睨みを利かせると、そのままホオズキに視線を向ける。


「おい、オレらはもう帰るぞ。ずいぶんと居たし、向こうで騒ぎになってたら面倒だ」

「……そうじゃのう」


 ホオズキは頷くと、いつの間にかテーブルの上に戻って来ていたテンに目配せする。


「後のことはお主に任せるからのう」

「キキッ! まっかせろっての!」

「それとじゃ……」

「へ?」

「忘れておったが、今度帰って来た時は…………例のお仕置きじゃからのう?」

「ひぃっ! ウ、ウ、ウキィィィィィィッ!」


 どうやらテンが日色に悪ふざけをしたことに対してのお仕置きを忘れていなかったようだ。

 テンはこのままお流れになってしまうことを期待していたようだが、そう甘くはいかなかったようだ。

 凄まじい形相で森の奥へと逃げて行った。哀れな小猿の絵だった。


 ホオズキはしてやったりといった感じで笑みを浮かべると、再びこちらに視線を戻してくる。


「ありがとうのう」

「……何がだ?」

「いろいろじゃ。それにその子も」


 優しい笑みを浮かべてニッキに目線を送っている。ヒメのことに感謝しているのだ。当の本人は背中を向けたまま固まっているが。


「ヒイロさん、またお会いしましょう」

「機会があったらな」

「うふふ、残念ながらオルンはこのような状態ですが」


 涎を垂らして気持ち良さそうに彼女の肩の上で寝ている。


「騒がしくなくてちょうどいい。行くぞ」


 カミュも背後について、テンが逃げて行った先に視線を伸ばしそのまま真っ直ぐに彼を追いかけるように歩を進める。

 しかしその時、


「待ちなさい!」


 突然の声にピタリと足を止める。 

 その声は間違いなくヒメのものだった。


「……何だ?」


 ニッキを抱えながら振り返る。


「……な、名前……」

「はあ?」


 すると頬を真っ赤に染めて指を突きつけてくる。


「な、名前よ! その子の名前っ!」

「……一応自己紹介はしたが?」

「う……」


 つまり覚えていなかったということだ。ヒメはバツが悪いような態度を取っている。


「……はぁ、コイツはニッキだ」

「そ、そう……ニッキ……ニッキ……ね」


 近づいてきて、彼女の小さな手を優しく両手で包む。


「本当……生意気なんだから……小さい癖に」


 言葉とは裏腹に、どこかスッキリとした表情をしているヒメ。そして彼女は髪の一束に巻かれている白いリボンを取ると、それをニッキの手に巻いていく。


「……ありがとう」


 ほとんど口だけを動かしたものだったが、微かに何を言ったのかを聞き取れた。


(へぇ、コイツもこんなふうに笑えるんだな)


 その笑顔が、今まで見た彼女のどんな表情よりも豊かで惹きつけられるものを持っていた。


「お前、そんなふうに笑えるなら最初から笑え。その方がずっと良いだろ」


 そういう素直さを前面に出された方がこちらとしても、良い印象を持つし、変に突っかからないで済むので助かるのだ。

 だが日色の言葉を受けて、ヒメは顔を茹でダコのようにし、


「な、ななななな何言っているのよっ! わ、私を口説いてるのっ!? い、い、言っておくけどそんな簡単な女ではないからね私は!」


 口を盛大にパクパクさせて息巻いてはいるが、


「……何言ってるんだお前?」


 何が言いたいのか全く理解できなかった。

 どう捉えたら口説いているということになるのだろうか……?


「へ……?」


 無表情で言った日色に唖然とした態度を返す。


「あ、ああもう! とにかく!」


 するとニンニアッホに身体を向けたヒメ。

 ニンニアッホもいきなり友人に注目されたことに驚いたようで目を大きく見開いている。


「あ、あのですね……その……ごめんなさい! ううん、ごめんっ!」


 突然謝られたことで、どういう反応したらいいのか明らかに戸惑っているニンニアッホ。


「そ、その……ゆ、許してくれるかしら……ニ、ニア?」


 するとパアッと表情を明るくさせて、まるで満開の花のように嬉々とした顔つきを見せてきた。


「ヒメ……いいえ、嬉しいわヒメ」


 そして確かに彼女の目から涙が確認できた。余程嬉しかったのだろう。


(バカ弟子も気絶し甲斐があったということだな)


 そのまま感動な場面を見てても仕方が無いので、歩を進めていく日色。

 目の前にひょっこり現れたテンが、早く早くと急かすように手を動かしている。余程お仕置きが怖いのだろう。さっさとここから離れたいようだ。

 すると背後から声が届く。


「ヒイロ・オカムラ! 今度会った時は、必ずこの私を認めさせてあげるわ!」


 別にオレに認められなくてもいいだろうと内心で思いつつ、無視するように足を動かす。

 これでこの幻想的な空間はしばらく見納めになるなと思いながら先導するテンに視線を向ける。


(変なお供までゲットしてしまったが……)


 犬はニッキ、雉はミカヅキ、そして猿はテン。まあニッキは犬のようだという面だけだが。


(オレは桃太郎かよ……)


 とにもかくにも新しい力を手に入れられたことは素直に喜ぶべきことだ。

 まだ抱えている根本的な問題が解決したわけではないが、それでも今回の出会いは得るものがあったので良しとした。


(……説明が面倒だな)


 帰って来たリリィンや、特にシウバに語るのは面倒そうだと逡巡しながらも、美しき幻想空間である精霊の住処――【スピリットフォレスト】を後にした。





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