125:精霊王からの提案
「出会ってるというか、常に一緒にいるんだが……」
「ん? 誰じゃ?」
日色には精霊の仲間である変態執事ことシウバ・プルーティスがいる。少なくとも半年以上一緒にいたことを教える。
「ふむ、シシから決闘の場で彼を見たということは聞いておったんじゃが……」
何やら難しい顔をして唸っている。
(やはり何かワケありのようだな)
シウバからも自身が欠点のある精霊だと聞いている。
普通の精霊との間に何かしらの問題を抱えていると思っていたが、やはり何かある様子だ。
「シシ、もう一度聞く。彼に間違いないのじゃな?」
「間違いないのである。シウバとはともに切磋琢磨した間柄でもあるのである」
シシの偽りの無い言葉に逡巡気味に溜め息を吐くホオズキ。
「お主、ヒイロと呼んでもいいかのう?」
「好きに呼べ」
「うむ、ヒイロよ、彼はお主にどこまで自分のことを話しておる?」
「別にほとんど聞いてないぞ。欠点があるとだけしかな」
「ふむ、なら儂が詳しく話すようなことでも無いのう」
「別にいい。無理矢理聞く趣味は無い。オレが聞きたいのはアイツからは報告は受けて無かったのかということだけだ」
恐らくそれは無かったのだろうと推測できるが一応確かめることにした。
「そうじゃのう。彼からはもうずっと連絡一つもらわんかったしのう。シシに彼の存在を聞いて驚いたぐらいじゃ」
それほどの期間シウバは故郷とも言うべきここと断絶した生活を送っていたようだ。
「そうか。ならそれでいい。アイツの過去に興味は無い。アイツだって話したくなれば勝手に話してくるだろう」
それこそこちらが拒否しようがお構い無く。
「……そうか、じゃがなるほどのう。あやつが今を楽しく過ごしとるなら、それでええかものう」
遠い目をするように言うが、言葉には悔恨のようなものを感じ取れた。
このホオズキとシウバとの間に何があったのか知らないが、並々ならぬことがあったのだろうことは感じた。
「まあ、一言だけ言うとするならば、あやつと儂は無二の親友じゃということかのう……」
親友だったと過去形ではないことから、少なくとも彼はシウバのことを親しく思っているということだ。
シウバは彼のことをどう思っているかは分からないが、連絡を取り合っていないことから察するに、シウバは距離を置いていると判断できた。
「まあ、アイツのことはそれでいい。オレをここに呼んだのは、このためだけってことで判断していいのか?」
もう用が済んだのなら帰りたいのだがと付け加えると、
「ええ~っ! もう帰っちゃうの? もう帰っちゃうの?」
うるさいのがいたのをすっかり忘れていた。
日色としてはもう【スピリットフォレスト】には用事が無いので帰りたかった。
しかし妙にニッキとカミュがオルンや精霊たちと仲良くなってしまいどうしようか悩んでいた時、
「ヒイロよ、向こうに帰るには少し時間を置いてはどうじゃ? しばらくここへは来られん。こういった経験も良いものじゃぞ?」
そんなホオズキの言葉に諦めの溜め息が漏れた。
ホオズキの考えは容易に推測できる。
稀に見る客人に喜んでいる精霊たちや、ここへ訪れた『妖精女王』たちのために少しでも引き留めたいと思っているのだろう。
御馳走にもなったことだし、今は正直気分は良い。それにカミュたちも喜んでいるようなので仕方無くもうしばらく居ることにした。
「それにじゃ、お主、シシには勝てたようじゃが、精霊の真実は知っておるかのう?」
「真実というのは、今のアンタのように人型になれるということか? しかも人型の精霊は強さが別格だということじゃないのか?」
「ほっほっほ、知っておったか。もしかしてシウバにでも聞いたのかのう?」
「そんなところだ」
「……なるほどのう」
感慨深いような眼差しを向けてきて、
「シウバは余程お主を気に入っておるようじゃのう」
髭を擦りながらその表情は嬉しそうに綻んでいる。
今のやり取りで判断できるが、二人の間には憎しみだけの繋がりといった暗いものではないことを知る。
「人型の精霊を顕現できる者は少ないからのう。あの獣王でもまだまだ精進が足りんということじゃ」
「ホオズキ様、レオウードは拙僧の認めた傑物である。いずれ拙僧の真の姿を顕現できると信じているのである」
少しムッとした様子だったので、レオウードを批判したホオズキの言葉をそのまま受け止めたくなかったのだろう。
「ほっほっほ、すまんのう。いや、それは信じておるよ。あの獣王の中には、遥か太古から流れるお主との魂の繋がりが存在しておる。じゃから必ず顕現させることができるであろうのう」
シシは満足気に頷く。
「しかし今更ながら獣人たちには驚くわい。あの《腕輪》は本当に良く作られておる」
「……《腕輪》? もしかして《名もなき腕輪》のことか?」
「そうじゃ」
《化装術》を使うための道具のことだ。アレがあるから魔法が使えない獣人でも『魔人族』とまともに戦えるのである。
「アレは大したものじゃ。自らの魂に眠っておる精霊の力を呼び起こせる代物じゃ。作成した者は真に天才じゃのう」
グルグル眼鏡でボサボサ頭のユーヒットは、見るからに天才と呼べない雰囲気を醸し出しているが、『精霊王』が認めるということは正しく天才なのだ。
「一つ聞いていいか?」
少し気になったことがあったので聞いてみる。
「何じゃ?」
「獣人のルーツが精霊であり、昔は『霊獣』と呼ばれていたことは知ってる。《腕輪》は自分の《精霊魂》を現象化させる力を引き出すためのものだろ?」
「ほほう、なかなかに博識じゃのう」
実はララシークから聞いた話を覚えていただけなのだが。
「じゃがのう、別に《腕輪》などなくとも《精霊魂》を現象化させることはできる」
「……まあそれも正論だな」
元々自身の中に眠っている力なのであれば《腕輪》が無くとも引き出すことはできるだろう。
あくまでもブースターのような役目を持ち、現象化しやすい状況を生み出すのが《腕輪》の効能なのだ。
「自分の中の《精霊魂》を意識した時、この【スピリットフォレスト】に精霊が生み出される」
獣人が自身の中に眠っている精霊の力を引き出した時、ここに現象化するとのことらしい。つまり最初からここに存在する精霊と契約するわけではない。
あくまでも獣人の《精霊魂》が現象化してここへやって来るということだ。
「ということはだ、今ここにいる精霊たちは誰かの力そのものだってことか?」
理屈でいうとそうなる。しかしホオズキは首を横に振る。
「いや、中には自然に生まれた者だっておる。儂やヒメ、それにそこのテンだってそうじゃ」
自然の力が集まりホオズキのように高位な精霊になることもあるらしい。
「しかしそこのシシは獣王が《腕輪》を使って《精霊魂》を現象化した時、ここに生まれおった」
「そうなのである。レオウードは拙僧。拙僧はレオウードなのである」
二人は繋がっているということだ。
「ん? 繋がってるってことは、お前がもし死ねば獣王も死ぬのか?」
「いや、繋がっているといっても魂の一部ということ。精霊が消失しても、時間が経てばまたここで生まれる」
「なるほどな」
「しかしじゃ、獣人は別じゃ」
「……どういうことだ?」
聞いてみると、精霊は相手の攻撃などで殺されたとしても契約している相手さえいるのであれば、時間が経てばここで復活することができるらしい。
しかし顕現させる獣人が死ねば二度と復活はできない。文字通り完全なる死に繋がる。
「相手がいるならというのはどういうことだ?」
「儂やテンのような自然から生まれた精霊は現世に留めておける楔を持っておらん。もし死ねば繋ぎとめる力が失われこの世から完全に消滅してしまうのじゃ」
「なるほどな。妖精も同じなのか?」
隣で黙って聞いているニンニアッホに尋ねる。
「そうですね、元々妖精は誰かと契約などしません。死という概念は人と同じです。一度死ねばそこで尽きます」
どうやら『精霊族』という括りは同じでも、二つは明らかに違う存在だという。
「なるほどな。なら自然に生まれた精霊にとっては誰かと契約した方が得なんじゃないのか? 何度死んでも契約者さえ生きていればいいんだろ?」
するとホオズキは難しい顔をする。
「それはなかなかに難しい話じゃのう」
「何故だ?」
「獣人が儂らみたいな他の精霊と契約できない理由は分かるかのう?」
「………………もしかして二重に契約できないとか?」
獣人には元々精霊の力が宿っている。
だから他の精霊と契約しようとしても反発してしまい無理なのだそうだ。
「しかしじゃ、ならば『人間族』や『魔人族』はどうかと問われても難しい話じゃのう」
「そうなのか?」
確かに精霊の力を本来持っていない者ならば契約対象として考えられるのだが、そもそも『人間族』や『魔人族』は精霊の力を受け止められるだけの器を持つ者がいないとのことだ。
元々魂の器は一人一つだけ。
獣人は元々精霊の力を宿しているから別格として、一つの器に普通は二つの魂は入り切れないのだ。
無理矢理入れたとしても、器はその大きさに耐えられず悲鳴を上げてしまい、悪ければ精神が崩壊する恐れが多分にある。
それに特に今の『人間族』と『魔人族』は『精霊族』を信頼してはいない。契約は信頼の力でもあるのだ。こんな状況では契約など夢のまた夢のようだということらしい。
精霊の力は絶大であり、使いこなせれば大きな戦力になる。
だからこそ『精霊族』は今の『人間族』や『魔人族』たちに自分たちの力を与えるわけにはいかないのだ。
間違いなく間違った方向で力を行使することが目に見えているからである。
戦争――そんな不毛な争いのために強大な力を渡せない。
(ま、当然の理由だな。特に人間王がこのことを知れば間違いなく利用していたはずだしな…………ん?)
そこで気になったことがある。
「おい、そんな大事なことをオレに教えてもいいのか?」
自分も戦争に参加した人物であり一応『人間族』には違いないと思っている。そんな大事な話をして、誰かにバラされるとは思わなかったのかと思い尋ねた。
すると何やらニヤニヤとホオズキは笑みを溢す。何か物凄く嫌な予感がする。
「ヒイロ、お主確か《赤気》を使えるんじゃな?」
「あ、ああ……」
それがどうしたと口を少し尖らせると、
「どうじゃヒイロ、儂らの誰かと契約してみんかのう?」
予想だにしない提案をしてきた。
「契約? 何を言ってる?」
突然ホオズキに精霊と契約をしないかと言われて呆気にとられてしまう。ニンニアッホでさえも、彼の言動に時を止めたように固まってしまっている。
しかしホオズキは先程の言葉を裏付けるようにもう一度同じ言葉を述べる。
「契約じゃよ。ここにおる精霊とのう」
「……どういうことだ? 今話していた内容から察するに、普通の『人間族』や『魔人族』では器が小さ過ぎて不可能なんじゃないのか?」
精霊と契約して、その力に押し潰されて廃人のようになるのはゴメンだ。
「確かにのう、普通の者ならその負荷に耐え切れず精神の死を迎えることになってしまう。だがのう、あくまでも普通の者ならばという話じゃ」
「……説明をしてくれ」
「何、簡単な話じゃよ。《赤気》を扱うことができるということは、二つの異なった力のコントロールに長けているということじゃ。本来《赤気》はハーフ……つまり二種族の魂を持った者にしか生み出すことができなかったんじゃ」
それは知っている。ある程度の知識は文献や《四文字解放》した時に頭の中に流れてきた。
「それだけ異なった力を混ぜ合わせるのは非常に難しい……というか、普通はできんのじゃ。じゃがハーフは元々そういうコントロールを得手として生まれてくるのじゃ」
「それは分かってる。オレが聞きたいのは、ハーフでも無いし、魂の器だって一つしかないオレに契約を勧める理由だ」
ホオズキは思わせぶりに髭を擦りながら息を長く吐く。
「……本来純粋な人間であるはずのお主が《赤気》を扱う。それすなわち、ハーフと同等の資質があるということじゃ」
「……ん? ちょっと待て、ならハーフは簡単に精霊と契約できるということか?」
今の話から推察すればそういう見解に辿り着く。
「血の中に獣人が混ざっておらなかったらのう」
「……なるほどな。ハーフでも獣人の血を引く奴は、自身に眠る精霊がいるから新たに契約はできないということか?」
「その通りじゃ。じゃが人と魔のハーフには可能じゃ。無論全員が全員契約できるわけではない。あくまでも《赤気》を扱えるほどの熟達した者限定じゃ」
「なるほどな。なかなかに興味深い話だなそれは」
つまり今までハーフは《禁忌》とされて蔑まれてきた。
それは魔法も《化装術》も、彼らには何も与えられていなかったからだ。まさに異質な存在。だからこそ忌み嫌われていた。
しかしそんなハーフという存在にも光明があった。それが《赤気》だ。簡単に言うなら力のコントロールが突出して上手いということだ。
そしてそんな《赤気》を扱えるようになれば、強力な『精霊契約』を結ぶことができるのだ。
もしシシライガやユキオウザのような『高位精霊』と契約できれば、それこそハーフが他種族から飛び抜けて台頭する可能性だってあるのだ。
(何ともまあ、それぞれに一長一短があって面白いもんだな。しかしそれにしても、この話を聞いたハーフ排斥派どもの青ざめる顔が思い浮かぶようだな)
旅先ではそういう連中とも出会って来た。ハーフは何も持たない貧弱で薄汚れた種族だと聞かされてきた。ハーフであるシャモエも過去にはそういう経験を嫌というほどされてきたと聞かされている。
しかし現実にはハーフにはハーフとしての力が確かに備わっていた。
無論その力を育てなければ何もできないが、それでも何も無いというゼロ観念から脱することができるだけで大きな違いである。
「……まあ、ハーフについてはそれでいい。ようはハーフでも無いオレがホントに契約なんてできるのかということだ」
それに契約したからどうなるかなどまだ聞いていないので不安が浮かんでくる。
「何じゃ、『精霊王』の儂の言うことが信じられんのかのう?」
「会ったばかりの他人を信用などできるか」
寝言は寝て言ってほしいものだ。まだほとんど会話もしていない状況で相手を信じられるのならこちらがどうかしている。
「ほっほっほ、それもそうじゃのう。では少し試してみようかのう」
そう言いながらゆっくりとした足取りでこちらへ向って来る。
日色も同じように立ち上がると、二人にニッキたちは視線を向けた。
「まさか契約はアンタとか?」
「ほっほっほ、そうしたいのはやまやまなんじゃがのう」
「違うのか?」
「今の儂には契約を維持できるだけの力は残っとらんからのう……」
少し寂しそうに言う彼を見たニンニアッホも同じような表情を作っているのを視認できた。どうやら深い事情がありそうだがそこはどうでも良かったので話を変える。
「ならもし契約できるとしてオレと契約するのは誰だ? まさか、さっきのやかましいヘビ女じゃないだろうな?」
嫌な表情をしながら言う。どことなくヒメとは相性が悪いような気がするのだ。顔を突き合わせると言い合いに発展しそうなのだ。
「ほっほっほ、儂としてはそっちの方が嬉しいんじゃがのう」
「勘弁してくれ」
「安心するんじゃ。ヒメのお相手はお主じゃないわい」
その言葉を聞いて少しホッとする。もしヒメと契約して、ずっと一緒にいることになったら、リリィン以上に小言を言われそうだ。
しかし彼女ではないとすると一体……。
「それじゃ誰なんだ?」
「ここにおるテンじゃよ」
そう言いながら呆けている猿の頭に手を置いた。どうやら自分に近づいてきたのではなくテンに近寄ったらしい。
「……へ、へぇっ!? お、俺ぇっ!?」
どうやらテンも寝耳に水だったようで驚愕に顔を歪めている。
「何じゃ嫌なのか? お主前々から外へ出て一花咲かせたいとか言っておったじゃないか」
「え……あ、いや……それはそうだけど……」
チラチラとこちらを見ながら、値踏みするように観察している。
「それにじゃ、これから先、このような機会など無いかもしれんぞ?」
「う……」
「さらにじゃ、このヒイロは恐らく天下でもなかなかにお目にかかれぬほどの傑物じゃぞ?」
「う~」
「お主だって、薄々は感じていたんじゃないのかのう」
「……」
さすがにそこまで褒められると少し恥ずかしさを覚えるが、こちらにも言いたいことがある。
「おい、オレはまだ契約するとは言ってないぞ?」
「ふむ、嫌なのかのう?」
「嫌……というより契約したらどうなるのかをまず教えてくれ」
もしこんな猿と融合なんかした日には目も当てられない。
「お、そうじゃのう。そもそもお主は契約とはどういったものじゃと考えておる?」
「質問を質問で返すなよな……まあいい。契約か……獣王のように精霊を扱えるんじゃないのか?」
つまりイメージとしては《化装術》のように、属性の力を使役でき、また精霊そのものを呼び出すことだと思っている。
しかしそんな返答にホオズキは首を振って否定した。
「いや、獣人たちのそれとは全く契約の意味が違う。獣人たちのはあくまでも元々備わっている自らの力を顕現しているのじゃ。じゃが、この契約では主になる者がまず媒介となるものを提示しなければならん」
「媒介?」
つまり日色とテンに置き換えると、まず日色が何か所持品を提示し、その品に互いに契約の印として血印を押す。そしてその血を通して生命力と魔力を同時に流し始める。
ここで注意すべきなのは、互いに全く同じ量の力を流すこと。
そしてその力を主になる者はバランスよく混ぜ合わせる。簡単に言えば合成するのだ。上手く合成することができれば精霊はその品に宿り主の力として支援することが可能になる。
「なるほどな。その媒介を通して互いの力をオレが上手く合成させることができれば契約成立するということか」
「そうじゃ。そしてその媒介が、契約者と精霊を繋ぐ楔になるんじゃ」
「失敗したら?」
「ん~まあ、運が悪かったら死ぬだけじゃのう。あ、それと媒介は消失するぞ」
さらっととんでもないことを言いのける。
死ぬだけじゃないぞ死ぬだけじゃ!
しかし上手くいけば精霊の力を宿した物が手に入る。
それが高位の精霊なら確かに試してみる価値はあるかもしれない。
二つの力を混ぜ合わすには相当の集中力が必要になってくるだろう。確かに《赤気》を生み出す時も気が抜けない。しかし《赤気》はあくまでも自分の力。
契約は他人と力を共有させなければならず、それ以上の難解さを要求されるに違いない。簡単に契約できないという理由が良く分かる。
「言い忘れておったが、媒介なら何でも良いというわけじゃないぞ?」
「ん? そうなのか?」
「そうじゃ、それは精霊が決めることなんじゃが、大概は主の思い入れのある物であったり、その精霊が気に入った物じゃがのう」
「なるほどな」
それを聞き、一応自分の所持品にどんなものがあったか思い出してみる。しかしその時、
「その刀だ!」
皆がその発言をした者に視線を送る。
「何がその刀なんじゃテン?」
皆が気になった疑問を代表してホオズキが聞く。
「いや、だからもし俺がそいつと契約するんならその刀が良い!」
どうやら彼が指し示しているのは《絶刀・ザンゲキ》らしい。
「その刀からはおめえの意思がビンビン伝わってきやがる。その刀だったら、俺と相性も良さそうだし!」
「ほほう、テンはそのように言うておるが、どうじゃヒイロ? 試してみるかのう?」
「けどちょっと待ってくれよ」
またもテンが間を割るように言い放つ。
「何がじゃ?」
「これは別に強制なんかじゃねえよな?」
テンはホオズキに尋ねると、彼もハッキリと頷く。
「当然じゃ。ただこの中じゃとお主が適任かと思っただけじゃ」
テンも頷きを返すと日色を見つめる。
「確かに俺は外へ出て暴れてみてえ。けどつまんねえ野郎に命を預けてえとも思わねえ」
「…………」
ジッとテンの目を見つめ返す。その目には真剣さが込められており澱みなど一切感じない。
「ならばどうするんじゃ?」
テンはビシッと日色を指差すとこう言い放つ。
「おめえが俺の主に相応しいか、ここで見極めてやる! だから俺と戦え眼鏡野郎!」
そういうことかと心の中で得心する。確かに彼の言い分も分かる。どうしようもない奴と契約などしたくはないだろう。契約とはそれほど彼らにとって重いものを指すのだろう。
だからここでもし日色がテンのお眼鏡に叶うことがなく、テンも外へとはばたけないとしても、つまらない主につくよりは良いと判断するのは当然だろう。
どうせこんな馬鹿っぽい猿だから勢いで契約するとか言い出すのではと思ったが、存外感心する部分を持ち合わせていたようだ。
だからこそ思わず小さな存在が大きく見えてしまって、少し驚きを得た。
それに確かに精霊の力を得られるのは得難いことかもしれない。
《魔法無効化》をその身に宿している精霊であるシシライガとの戦いで、その突破口をずっと探していて《太赤纏》を見つけたが、精霊が自らの力となってくれるのなら、もしかしたら《太赤纏》を身に着けるコツも早く掴めるかもしれない。
何と言っても《赤気》について精霊も詳しいようだから、これは是非契約しておいた方がメリットがあると判断する。
相手がちんちくりんの猿だというのは少し驚くが、彼も高位の精霊に違いない。
それにあの『精霊王』が認めている者だということは、彼が自分に合っているということなのだろう。
何にせよ《視る種族》の長が仲立ちするのは光栄なことなのかもしれない。なら、必ずこの猿との契約を成功させてやろうと決意した。
「……面白い。ならずたぼろにしてやるよ猿野郎!」
一人と一匹の視線で火花が散る。ホオズキも止める気などサラサラ無いような感じで、
「戦うのはええが、儂が作る結界内でするようにのう」
ホオズキが先導してかなり開けた場所までやって来た。
そこには用事があるからと言って去ったはずのヒメもいて、ここに来た理由を聞いてきた。それに答えたホオズキに、ヒメは呆れたように日色に溜め息をぶつけてきた。
「人間が契約って……下手すれば死ぬわよ?」
「黙れ。何だろうと使いこなしてやる」
それが精霊の力だろうと《太赤纏》だろうと、やってやれないことはないと自分に活を入れる。
ホオズキが両手を空へと掲げると、青白い魔力が半球状に広がっていく。
「この中なら目一杯やれるじゃろ」
どうやらこの結界内だと、壊れた所も瞬時に修復できるらしかった。
実は精霊の力よりも、ホオズキのその結界の力が欲しいと感じたのは日色の秘密だった。
とにかく戦う以上は負けるつもりなどサラサラ無い。サルがどれほど強いかは分からないが、あのシシライガと同等の存在だということを一応認識しておく。
だがどんな相手だろうとこちらには万能な《文字魔法》がある。相手がどんな攻撃をしてこようが、戦い方さえ間違えなければ勝てる。
そんな戦闘ムードの中、ホオズキが驚くべきことを口にした。
「あ、ちなみに結界内は魔法は使えんぞ?」
…………………………え?
今年も拙作を読んでくださり感謝しております。本当にありがとうございました。
誠に申し訳ございませんが、正月休みを頂きたいと思います。
次回の更新は1月5日からになりますのでお待ちください。
では皆様、よいお年を~!




