124:再びの妖精女王
「そうじゃのう、まずは素顔を見せてはくれんかのう?」
「…………」
そう言えば自分が今は『アスラ族』に変化していることをすっかり忘れていた。それにしてもさすがは《視る種族》を豪語する奴らだと心底感心する。
ここならミーハーな連中も追いかけては来れないと思い、《文字魔法》を使って元の姿に戻った。
「うむ、やはり人は素顔が一番じゃのう。なかなかに魅力がある顔をしておるではないか。どうじゃ? ウチのヒメを嫁に……」
かぷ……っ!
「…………痛いんじゃがヒメよ」
驚いたのはそれがヒメだということではなくて、先程は小さかったヒメが人の頭を丸かじりできるほどの大きさに肥大化したことだった。
頭を大きくさせたヒメがカプリとホオズキの頭を噛んでいて、そこからは滝のように真っ赤な血が流れ出ている。
「変なこと言うからよ!」
完全にホラーな感じになっているのだが、そろそろ離してやった方がいいのではないか……このままだと出血多量で死ぬかもしれない。
するとまた元の大きさに戻ったヒメは、そのままテーブルの上に乗って威嚇する。
「いいかしらお爺さま? 次に余計なことを言ったら……」
「わ、分かっておる! 分かっておるから怪しく目を光らせるのは止めるんじゃ!」
ヒメはふんっと鼻で息を吐くとこちらに視線を向けてくる。こっちも突然巨大化した生態に驚いて観察していたので目が合う。
「あら? もしかして本気にした? でも残念ね、私は自分が認めた人でないと好意なんて向けないわよ?」
何やら盛大な勘違いをされているようだが、高飛車な感じが少し気に障ったので言い返す。
「ふざけるな。誰がお前みたいな高慢ちきに情欲を持つか。鏡を見て喋れ爬虫類」
「はっ、ははははは爬虫類ですってっ!?」
日色の言葉に当事者のヒメはもちろんのこと、ホオズキもキョトンとショックを受けたように固まっている。
「ウキキキキキキキ! おっもしれぇ~! 爬虫類だってよ! 爬虫類! はちゅうぶほっ!?」
猿が腹を抱えて笑っていたが、見事にその横っ面をヒメの尾でひっ叩かれて吹き飛ぶ。そのままヒメが憤慨した表情で睨みつけてくる。
「あ、あ、貴方ねえ! だ、誰が爬虫類よ誰がっ!」
「どう見ても爬虫類だろうが白ヘビ」
「私は精霊よ! しかも高位の精霊! 『精霊王』のお爺さまの直系よ!」
「ほう、それはまた残念な跡継ぎだな精霊王よ」
話を振られ、思わず苦笑するホオズキ。
「ざ、ざざざざ残念ですって!? な、なら見なさいっ!」
ボンとヒメを中心にして煙が立ち昇ると、そこから人型の影が見えた。
「見なさい! これが私の本来の姿よ! これでもまだ残念だとでも言うのっ!」
そこには日色と同年齢くらいの美少女が顔を真っ赤にさせて立っていた。
怒っているせいか目を吊り上げてはいるが、確かに光を反射するほどの美しい白髪に、リリィンが羨ましくなるほどのスタイルを持っている。
しかも何故か巫女衣装のようなものを着込んでいるが、顔立ちが和服の似合う美顔なので男を魅了するほどのものを備えているのは間違いない。
ただ……。
「…………だから何だ?」
「……へ?」
恐らくヒメは自分の美貌には自信を持っていたのだろう。しかしトコトンそういう方面には無頓着な日色には相手が美人だろうが関係無かった。
それに確かに彼女は美少女で間違いないのだが、日色の周囲には今ここいるカミュも含めて、やたらと男の目を惹く女性が多い。正直美少女など見慣れていると言っても過言では無かったのである。
だから別に目の前に美少女が現れようが取り乱したり感嘆するほど心を動かされることは無かったのだ。
「えっと…………これが私の真の姿よ?」
「それは聞いた。だから何だと言ってる」
「…………こ、こう見えても周りからは綺麗とか可愛いとか言われるんだけど……」
「そうだろうな。だが見てみろ」
そう言ってカミュとニッキを指差す。
「そんな言葉、コイツらだって散々言われてるぞ」
「え……」
カミュもニッキも間違いなく美少女である。カミュは美男子なのだが、大多数の女性が羨むほどのルックスをしているのも確かだ。
「むむむ~照れるですぞ師匠~」
「…………ん」
二人は頬を染めてモジモジしだした。事実を言っただけで別に褒めたわけではないのだが……。
だがヒメは日色の言葉に反論できず固まっている。
「ウキャキャキャキャ! おめえの負けだってヒメ! 井の中の蛙大海を知らずとはよく言ったものばぎゃんてっ!?」
猿がまた挑発するようなことを言ったので、今度は木で作られた椅子を投げつけられ、再び吹き飛んで行った。
「はあはあはあ……」
キッと鋭い視線をカミュとニッキに向けてよく観察した後、その視線を日色に戻す。
「…………胸は私の勝ちだわ!」
確かに豊満な胸をしているのだが……。
「お前、コイツらと比べて勝って嬉しいのか? 一人はガキだし、一人は男だぞ?」
「……は……はあ!?」
無論カミュが男だということに驚いているのだろう。
「お前、一応《視る種族》なんだろ? だったらよく視てみろそいつを」
ヒメはこちらの言を確かめるが如く、穴が開くようにカミュを見つめて………………ガックリと肩を落とす。
「う……そ…………あんなに可愛いのに……お……お……男ぉ……」
「良かったな。ガキと男に胸の大きさで勝てて」
トドメを刺してみた。
「う……うぅ……こ、殺すわこの男!」
「や、やめんか馬鹿者!」
ホオズキに後ろから羽交い絞めされて動きを拘束される。しかし彼女は必死に体を動かし、
「は、離してお爺さま! 後生だから! この男を殺させてぇっ!」
「こ、殺しはいかんわいっ!」
「大丈夫よ! ちょっと噛み千切るだけだからっ!」
「それ死ぬからっ! お、落ち着かんかヒメ! そ、それにじゃよく思い出してみなさい!」「何をよっ!」
「ヒメが可愛いのは認めていたじゃろうに!」
「…………え?」
ピタッと動きを止めて確かめるようにホオズキに視線を向ける。ようやく話が通じると思った彼は大きく溜め息を吐く。
「……ふぅ、先程ヒメは周りに自分が褒められると言っておったじゃろ?」
「……ええ」
「その後にそちらはそうだろうなと言っておったじゃろうが。つまりヒメの美貌はそちらも認めているということじゃ。ああ、疲れたわい」
いつの間にか血は無くなっていたが、額からは大量の汗が噴き出ている。それをやれやれといった感じで拭き取っている。
ヒメはヒメで、真実を求めるように日色に視線を動かす。
「……わ、私って可愛いのかしら?」
不安気にそう尋ねてくる。
「世間一般ではそうだろう。お前が不細工なら、大多数の女どもが苦情を申し立ててくるぞ」
ハッキリ言ってヒメの美少女レベルはかなり高い。もしそんな娘が不細工なのだとしたら、それはもう美の観点の基準に疑問を持ってしまう。
すると少し顔を俯かせた彼女は、しばらくその態勢を維持した後、長い髪を片手で払い上げると、
「でしょ!」
物凄く良い笑顔で上から物を言った。今凄く上機嫌なのだということは誰の目にも明らかだった。
またここで機嫌を損ねると面倒なので、もう何も言わず沈黙を守った。
(それにしても、ずいぶんプライドの高い奴だな。こんな精霊もいるんだな)
そういやここに来てずいぶん経つが自分たちの紹介をしてなかったことに気が付いて、一応名乗られた以上は名乗り返そうとしたが、向こうはもうこちらの名前など最初から御存知だったみたいだ。
それでもとりあえず名前だけカミュとニッキも含めて自己紹介はしておいた。
「それで? 早く本題に入ってくれ」
「それもそうじゃな」
おほんと軽くホオズキは咳をすると、
「ここにヒイロ、お主を招いたのは、実のところ大した意味などは無い」
なら呼ぶなと言いたいが、美味い料理も食わせてもらったので何も言わなかった。
「嘘じゃよ?」
…………吹き飛ばすか?
思わずイラッとしたのでつい人差し指を立ててしまった。
「あのニンニアッホが気にする異世界人とやらを、この目で見てみたかったというのが理由じゃのう」
「それだけか?」
「ふむ、それとじゃ、ちょっと立ってくれるかのう」
言われたように立つと、ホオズキはそのまま近づいてくる。少し警戒して全身に力を入れる。ニッキとカミュも日色の雰囲気を感じ取って守るように前に立つ。
「ほっほっほ、優秀な護衛じゃのう。しかし安心するんじゃ。別に危害を加えるわけじゃないんでのう。ほれ、お主は以前ニンニアッホから魔力を預かっておるじゃろ?」
「魔力? ……ああ」
思い出した。確かに初めて『妖精』の住処である【フェアリーガーデン】に行った時、その帰り際に妖精のオルンには信頼の証として《妖精の指輪》、女王には魔力の塊を貰った。魔力の塊はその際に胸の中に吸い込まれていったが、あれから何も無いのですっかり失念していた。
「それをこうして……」
ホオズキが日色に向かって右手をかざすと、突然日色の胸が光り輝く。
魔力の温かさが胸一杯に広がり、それが徐々に体から離れて行く。大きなシャボン玉のような魔力の塊が空に浮き出て、それがホオズキに向かっていく。
そしてそのまま水辺にそれを放り込んだ。何をするのかと思って視線を巡らせていると、突然水が浮き上がり扉のような形に姿を変えた。
そしてそれがゆっくり開いていき……。
――――ピューッ!
何かが扉の間からこちらに向かって飛んできた。
「わ~い! イセカイジンだ! イセカイジンだ!」
それは間違いなく以前にも見たあの口喧しい妖精だった。
しかも一番ベタベタしてきていた赤い髪の奴。
嬉しそうに日色の回りをグルグル飛び回っている。
「久しぶりだね! 久しぶりだね!」
相変わらず鬱陶しい口調をする奴だと呆れる。しかしホオズキが一体何をしたのか説明がついた。もう一度水の扉に視線を向かわせると、そこからはこれまた見たことのある女性が姿を現した。
「お久しぶりですね、ヒイロ・オカムラさん」
『妖精女王』こと、ニンニアッホの登場だった。
透き通った水色の髪が、地面にも届くほどに伸びている。その髪は陽光を浴びてキラキラと光り輝いている。そして頭の上には王冠のようなものを発見できた。
背中には数枚の美しい羽根を広げ、虹色に輝くそれは、宝石のように人々の目を引くであろうことは想像に難くない。顔立ちもスラッとしていて、まるで本の中に出てくる女神のように整っている。
間違いなく以前に出会ったニンニアッホだった。
その手には杖があり、先端には球体状の物が施され、球体から羽のような物が生えている。
「イセカイジン! イセカイジン! 久しぶりだね! 久しぶりだね!」
相変わらず赤い髪をした『妖精』が日色の頭の上をグルグル飛び回り嬉しそうに破顔している。
「これオルン、久しぶりでそのような気持ちになるのも分かりますが、『精霊王』の御前ですよ?」
「あ、いっけない! いっけない!」
手を口元にやって可愛らしくアッとなると、慌てた様子でニンニアッホの方へと戻って行く。
「ほっほっほ、元気な子じゃのう」
「うふふ、元気過ぎて困っております」
「いやいや、元気が一番じゃよ。うむ、久しぶりじゃのうニンニアッホよ」
「こちらこそ、このような形でしかお会いできず申し訳ありませんでした」
ニンニアッホが丁寧に頭を下げる姿を見て、上下関係はホオズキの方が上なのかと納得した。
「ほっほっほ、仕方あるまいて。お主はもう女王じゃ。昔のようにそちらとこちらを簡単に行き来できるような立場じゃないじゃろうのう」
少し残念そうにホオズキは言う。
(どうやら顔見知り……というよりかなり親密度が高そうだが……)
単なる種族の王同士という間柄ではなく、それ以上な関係だということが今の言葉で理解できた。
少なくとも昔はニンニアッホもこの【スピリットフォレスト】にやって来れていたほど仲は深いらしい。
「改めまして。お久しぶりですホオズキ様。それに……ヒメ」
ニンニアッホがヒメの方に顔を向けるが、ヒメは少しバツが悪そうな感じを表情に一瞬浮かべるが、すぐに顔を引き締めて、
「はい、お久しぶりですニンニアッホ様」
「…………」
「お爺さま、それでは私はこの後少し所用がありますので」
「こ、これヒメや!」
ヒメはホオズキの言葉を受け流し、そこからさっさと退散してしまった。
(何だアイツ? 急に態度がよそよそしくなったな……)
明らかに今までのヒメの態度と違い、強烈な違和感を覚える。それにニンニアッホの顔も悲しそうな色を宿している。
「……すまんのう。あの娘も悪気があってあのような態度を取っているわけでは……」
ニンニアッホは微笑を浮かべて首を横に振る。
「いいえ、ヒメの気持ちも理解できますから」
「そうか……」
「ですが……」
「ん?」
「もう……以前みたいにニアとは呼んでくれないのでしょうか……」
何とも居心地の悪い空間になり、ニッキやカミュもまたその空気を察してか頻繁に助けを請うような目で日色を見てくる。
だがそんな中、
「ねえねえお母様、お母様」
空気をガラッと変えてくれたのは、陽気過ぎる小さき存在オルンだった。
「な、何かしらオルン?」
「イセカイジンだよ! イセカイジンだよ!」
明るく笑う彼女の姿のお蔭で、先程まで陰りを帯びていたニンニアッホの顔も、フッと頬が緩んでしまう。
「うふふ、そうですね。ホオズキ様、彼との再会のために再び扉を繋げて下さり誠に感謝致します」
「ほっほっほ、気にするでないわい。お主はヒメと同じ儂の孫のようなものじゃからのう」
ニンニアッホはこちらに視線を向けるとニコッと笑みを溢す。
「いろいろ聞きたいことがあると思いますが、本当にお久しぶりですヒイロさん。ずいぶん立派になられた様子で安心しました」
「……忘れてたな」
「え?」
「そういや、確かオレに魔力の塊を渡した時、アンタはこう言ってた。それは【フェアリーガーデン】とオレを繋ぐものだと。こういうことだったとはな」
それに最後に確かに『精霊王』についても触れていた。
「すみません。あなたなら、いずれこの【スピリットフォレスト】にも入ることが可能になると思い、私の力を託しました」
「オレを運び屋として使って、ここへ来ることが目的だった……と認識してもいいのか?」
少し不愉快そうに言うと、彼女もまた申し訳なさそうに頭を下げる。
「本当にすみませんでした。ですが私が再びここへ来るには、この方法が一番確実だったのです。ヒイロさんを利用してしまったことは、お詫びすることしかできません」
何故こんなことをする必要があったのか聞いてみた。
遥か昔、【フェアリーガーデン】と【スピリットフォレスト】は、簡単に行けるほどの距離だったという。
しかしある日、二つを包む空間が突然亀裂の走った空間に飲み込まれてしまった。
気付くとそれぞれの住処は、それこそ簡単に行き来できないほどの距離と環境に身を置くことになったという。
「……環境? 何だその環境というのは」
どうやら何かが原因で、空間ごと転移したようだが、環境という言葉が気になった。そうだ、そもそもここ、いや、ここだけでなく二つの住処がどこに存在しているか知らないのだ。
「……ヒイロさんは、【フェアリーガーデン】、そして【スピリットフォレスト】がどこに存在するかご存知ですか?」
「……どこだ?」
「……海の底です」
「…………は? 海の底だと……?」
これまた珍妙な回答が返って来た。問題のありそうな環境として、迷いの森の中や、砂漠の中に埋もれているのではと思っていたが、まさか海の中だとは想像を越えていた。
「……息できるじゃないか」
ここは普通に息をしてられるのだ。だからとても海の中だとは考えられなかった。
「それはそれぞれの王が……ここでは儂が、あっちではこのニンニアッホが結界を張り続けているからじゃよ」
「そうなのか?」
「ええ、ほんの少しの間でしたら、こうして【フェアリーガーデン】を離れても大丈夫ですが、さすがにここへ普通の方法で来るには時間が掛かり過ぎるので」
確かに海の圧力や、凶暴なモンスターから守るにはそれ相応の守護能力が必要になるだろう。何と言っても海の中には想像もできないほどの環境が存在しているのだから。
「だからアンタはここへ来るために、オレを架け橋にするしか方法が無かったのか……」
納得いった。確かにその方法なら後はホオズキが自分をここへ呼び寄せれば問題解決になる。
「だが少し気になるな」
「何がじゃ?」
ホオズキは自らの顔に視線が向けられたので尋ねてきた。
「この半年以上、何で音沙汰無かったんだ? もっと早くオレをここへ呼べば良かったんじゃないのか?」
それならもっと早くにニンニアッホはここへ来れたはずだ。
「条件があるからじゃよ」
「条件?」
「そうじゃ。お主、【フェアリーガーデン】に入った時を思い出してみるがええ」
そう言われてあの時のことを思い出す。
アノールドたちと旅をしていて、夜に《文字魔法》の練習をしようと思い開けた場所を探していた時、小高い丘の上で奇妙な物体が幾つも光を放っていたことに気が付いた。
それはオルンたち妖精だった。
そしてその後、何故かオルンたちに気に入られ空間に亀裂が走り、その亀裂の中へと誘われて入ったのだ。
「実はのう、それぞれの空間に入るには妖精たちや精霊の許可が必要になるんじゃ」
「それはまあ、そうだろうな」
「ただしのう、それにはもちろん直に我々に会う必要が出てくる」
「……? それは当たり前だろう? 許可が必要なんだから実際に会わなければ話にならんだろうが」
「そうじゃ。【フェアリーガーデン】の時は、偶然妖精に出会い、その性質を見極められることができたが、精霊とは会ったかのう?」
「ん……そういや……いや待て、会ったぞ。雪ウサギみたいな奴だ」
確かにララシークが顕現させたユキちゃんことユキオウザには出会っていた。
「そう、ユキには会っておったのう。そしてあの子を通して初めてお主の居場所に気づけた」
話によると空間の亀裂は簡単には作ることができないらしい。一月に一度だけが限界だという。
「ユキから話を聞き、亀裂を開いたはいいのじゃが、すでにお主はその場にはおらなんだ」
確かに【獣王国・パシオン】にはそう長く居たわけではないので、すれ違った可能性は十分にある。
「そうそう、その時も俺が行ったんだけどさ、おめえはどこにもいねえし参ったっつうの」
今まで黙っていた猿……テンが文句を放ってくる。そんなことを言われてもこちらとしても知らないのだから仕方が無い。
「それからしばらく陸にいる『精霊』たちにお主のことを見かけたらすぐに連絡をするように伝えたが、ようやく会えたのは今日じゃったということじゃのう」
「それもあの雪ウサギからか?」
「ほっほっほ、いやいや、ほれ、足元を見てみい」
ホオズキに言われて足元に視線を向けると、そこにはいつのまにか犬……いや赤毛の猫がジッとこちらを見つめていた。
「……何だこの猫は?」
「分からんかのう?」
「…………あっ!?」
そこでハッとなり思い出す。確かにもう一匹といっていいのか精霊には会っていた。
というよりガチに戦っていた……。
「ま、まさか……あのライオンか?」
「そうなのである。拙僧の名はシシ。あの時のお主の力、感服致したのである」
何とも堅苦しい喋り方をする奴だと思ったが、シシということは、この猫はあのレオウードが顕現したシシライガなのだろう。
思わずサッと距離を取って警戒してしまった。何故なら一度彼を半殺しにしている経験があるからだ。
そんな思いを見越したのかシシが口を開く。
「あの時の結果を気にする必要はないのである。正々堂々と拳を合わせ戦ったのである。遺恨など持ち合わせてはいないのである」
澄み切った目でそう言われ、彼の言葉が真実だと判断できた。
(し、しかしあのバカデカい巨獣が……)
今は何とも可愛らしい猫なのだ。思わず頭や喉を擦りたい衝動にかられてもおかしくはないだろう。こう見えても犬や猫は好きな方なのだ。
「シシに話を聞いて、お主が【魔国】にいると聞いてのう、テンに向かわせたのじゃよ」
「なるほどな。それでオレを森へおびき寄せてここへ案内させるつもりだったってわけか」
「そうそう。だからさ、あの時のおいたは勘弁してくれよ。可愛いおサルのお茶目! 略してサル茶目!」
テヘって感じで少しも反省の色が無いのでイラッとしたが、
「その件については後でお話……じゃからのう……テン?」
物凄い殺気がテンへ向き、またもガタガタブルブル震え出す小動物であった。
「だがなるほどな。そういう理由があったのなら今日までオレを呼べなかったのは納得した。だが……コレは貸しにしとくからな妖精女王?」
「はい、ありがとうございます」
少しホッとした様子で頭を下げている。もしかしたら罰か何かを受けるかと思って不安を覚えていたのかもしれない。
「……ん、ちょっと待て、そういやもう一人変態……いや、精霊と出会ってるぞ?」
日色のそんな言葉が皆の視線を引きつけた。




