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金色の文字使い ~勇者四人に巻き込まれたユニークチート~  作者: 十本スイ
第四章 運命を決める決定編

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115:恒久同盟

「師匠ぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

「ご主じぃぃぃぃぃぃんっ!」


 ニッキとミカヅキがこちらに向かって一目散に駆けつけ飛び込んできた。このままだと間違いなく突進という名の抱擁を間違いなくされる。

 だからギリギリでヒョイッとかわしてやった。

 当然目的を失ったニッキとミカヅキはそのまま……。


「ふぴぃっ!?」

「ふにゅっ!?」


 地面にダイブしてしまい転がっていく。


「ふぇぇぇぇぇっ! お、お、お二人とも大丈夫ですかぁぁぁっ!」


 シャモエが慌てて二人に駆けつけるが、


「ふおぉぉぉぉ! 痛いですぞぉぉぉっ!」


 ニッキは鼻を強打したのだろう。両手で押さえながら地面を転がり回っている。


「クイィィィィィッ! シャモエちゃぁぁぁぁんっ!」


 対してミカヅキは額を打ったようで、そこを真っ赤に染め上げながらシャモエに抱きついて泣きじゃくる。


「相変わらず騒がしい奴らだ」


 肩を竦めながら溜め息交じりに呟くとリリィンが近づいてきた。


「どうでもいいが時間がかかり過ぎだ。何を楽しんでいた」

「別に構わないだろうが。それに宣言した通り勝った」

「フン、次はもっと手際良くやるんだな」


 言ってくれるが、そう何度もレオウードクラスの強者と戦いたいとは思わない。少なくとも今は熱い風呂に浸かりゆっくり寝たい気分なのだ。


「……ヒイロ」


 そこに現れたイヴェアムの顔を見て、淡々とこう告げる。


「約束は忘れるなよ?」


 ――――ギュッ!


 油断していた。

 まさか彼女がそんなことをするとは微塵も思っていなかったのと、疲労感が溜まった身体のせいで、突然抱きついてきたイヴェアムをかわせなかったのである。


「ああぁぁぁっ!? な、何をしてふがっ!?」


 リリィンがイヴェアムの行動に対し目を吊り上げた瞬間、シウバに後ろから口元を塞がれた。


「ノフォフォフォフォ! お嬢様、ここは少し空気をお読みになりませんと」

「ふがへぇぇぇっ!(はなせぇぇぇっ!)」


 彼の腕の中でもがくが、何とも完全に動きを奪われており身体の自由が利かないようだった。

 しかしリリィンだけでなく日色にだって言いたいことはあった。

 いきなりで戸惑ったが、イヴェアムの行為の意味が分からず、咄嗟に彼女の両肩に手をやり引き剥がそうとする。


「おいこら魔王! 何を抱きついてるんだ! 離せっ!」


 最悪突き飛ばしてでも離れさせようとした時、


「……良かった……」


 耳元で涙声が聞こえてきた。

 思わずピタッと動きを止めると、そこで彼女の身体が微かに震えているのを確認できた。



     ※



「良かった……無事で本当に……良かった……」


 確かに今回の戦いでは、肝を冷やす部分が大いにあった。しかも日色は『人間族』であり、本来ならこの決闘に参加する理由の無い者なのだ。

 だが依頼とはいえ『魔人族』のために戦い、あれほどの激闘の最中、死に近い場所で必死に戦い勝利を捥ぎ取ってくれた。


 イヴェアムにしてみれば、もし日色が死んでしまったらと思うと、唐突に怖くなった。無論自分が巻き込んだことは重々承知しているが、それでも決して死んでほしくは無かったから。

 日色を信じていても、彼が傷ついて胸が締め付けられるような思いを何度もした。

 勝ってほしい……その思いはもちろんあるが、それよりも無事に戻って来てほしいという願いの方が強かった。


 そして日色は見事無事に帰って来てくれた。『魔人族』の勝利という最高の贈り物を手にしながら。イヴェアムにとってこれほど嬉しいことは無い。

 だから日色が帰って来たら、笑顔で迎えてまず先にお礼を言おうと決めていた。

 しかし彼の疲弊した身体を見た時、思わず抱きしめたくなった。そして彼がこうして自分の腕の中にいるのだという温かさを直接感じて、心から安堵したのである。


 日色は抱きつかれながらも、引き離そうと最初は必死だったみたいだが、徐々に力が弱まっていき、今ではもう両手を下に向け抱きつかれたままになっていた。

 そして先程のような怒気が混じったような言い方では無く、いつもの平坦としている声音が耳に届く。


「気が済んだらどいてくれ。少し苦しい」


 そこで自分がかなり強く締めつけていたことに気が付き、慌てて顔を離すと、日色の顔を真正面から見ることになり――――――――――――ボフンッ!

 日色の相変わらずのぶっきらぼうに細められた目と見つめ合い、顔から湯気が出るほど瞬時に熱くなる。


「んもう陛下ったらぁ、大胆なんだからぁ」


 シュブラーズのからかいマックスの声が聞こえて、増々恥ずかしくなってくる。そしてようやく自分が今何をしていたのかを正確に把握して、


「あ、っち、ち、違うわっ! こ、これはね、か、かかかか感謝の気持ちを表したのであって!」

「へぇ~、陛下ったらぁ、殿方に対して感謝の気持ちをハグして表すのねぇ~初耳だわぁ」

「そそそそそんなわけないじゃないっ! わ、私は誰にでもそういうことをするような女じゃないわっ!」

「ふふ~ん、そっかぁ、ヒイロくんはと・く・べ・つってことなのねぇ」

「と、と、とととと特別なんて……っ!?」


 そこで再び日色と目が合う。もう何だか分からず考えが全く纏まらない。頭の中で盛大な祭りが開催されているかのように騒がしい。


「ああぁぁぁぁぁっ! お城帰りたいぃぃぃぃぃぃっ!」


 恥ずかしさが天元突破してしまい、両手で顔を覆ってしゃがみ込んだのであった。



     ※



 突然わけのわからない行動に出たイヴェアムを見てつい眉をしかめてしまう。


(何がやりたいんだ?)


 見てみればシュブラーズは楽しそうな笑みを浮かべて、蹲っているイヴェアムを見ている。マリオネやオーノウスなんかは呆れたように首を振っている。

 そして極めつけは、


「も、もういいだろうがシウバ! あ、あの小娘め! こうなったらワタシの魔法で脳をグチャグチャにして生き人形と化してっ!」

「ノフォフォフォフォ! おいたはいけませんよお嬢様」


 物騒なことを口走っている幼女と、その幼女に後ろから抱きつき、何故か嬉しそうに頬を染めている変態もいる。

 傍では自分の弟子が喚きながら地面を転がっており、ペットのような鳥娘はいまだに泣きながらシャモエに抱きつき、そのシャモエも「どうしたらいいんですか! ふぇぇぇぇっ!」と困惑している。


(何故だ……何故オレの周りにはこうも濃い奴らが集まるんだ……?)


 思わず溜め息が出るが、とりあえずこのまま無駄に時間を過ごすのだけは勘弁だ。


「おい、この後はどうするんだ?」


 少し不機嫌そうに言うと、恥ずかしそうに頬を染めながらもイヴェアムが身を正し、咳を一つしてから答える。


「そ、そうだな。だがまずは言わせてくれヒイロ」

「……?」


 スッと一歩下がると、イヴェアムは頭を下げてきた。


「本当にありがとうヒイロ。本当に……本当に感謝している!」


 するとその場にいた者たちも次々と頭を下げだした。あのマリオネですら、微かに顎を引いて下手に出ていることには驚く。


「そう思うなら行動で示してくれ。オレは約束さえ守ってもらえればそれでいい」

「…………ふふ、やはりヒイロはヒイロだな」


 そこで久しぶりに穏和な笑顔を浮かべるイヴェアムを見た。

 そして彼女がすぐに真面目な表情を作ると、


「今から獣王のもとへ向かう。そこでこれからのことを決めなければならんからな」


 そうだろうなと思いつつ、レオウードが倒れているところを見ると、どうやら治療は終わったようで、彼も上半身を起こしているようだった。

 


      ※



 日色の《文字魔法》により、しばらくしたら目を覚ましたレオウード。その視界に映った家族の顔を見つめて、


「……そうか、ワシは負けたか」


 全てを悟った。


 大きく息を吐き、全てを出し尽くしてその上で負けたのは自分としては納得できているが、どうにも気になることがあった。

 それは身体の痛みが薄らいでいることだ。


 死をも覚悟して全力を出し、そして日色の一撃をこの身に受けたというのは身体が、心が記憶している。それまでに受けた傷もあり、その一撃で意識とともに体力も根こそぎ奪われたと思っていた。

 それなのに胸にパックリと開いたはずの傷や、負荷をかけ過ぎた筋肉疲労など、この戦いで負ったはずのダメージがほとんど無くなっている。

 そんな自分の困惑ぶりに気づいたのか、ララシークが見下ろしながら口を動かす。


「レオ様、あの小僧に借りができましたね」


 その言葉で全てを把握した。


「……そうか、大きな借りができたみたいだな」


 ククリアやミミルの泣き腫らした顔を見れば、自分が死に近い所にいたのだということを理解した。

 だがそんな自分を日色が情けで……。


「ん? 情け? ……なあララ、奴は何か言ってたか?」

「ええ、これは貸しだと」


 そうだ、日色がただの情けだけで助けるわけがない。

 無論日色にそういうつもりなど無くとも、こちらは大きな借りとして受け止めようと思っていたが、日色もしっかりこれは貸しだと公言していたようだ。

 戦う前にした賭けの報酬。それも貸しとすると日色は言っていた。


「はぁ、これで借り二つか……」


 何をさせられることやらと思いつい溜め息が漏れる。意識もハッキリしてきたのでそのまま上半身を起こす。少し痛みを感じたが身体を起こしてから皆の顔を一望する。


「レオ様、ホントに危なかったんですからその子たちに言うべきことがあるんじゃないですか?」


 ララシークの言うことは正しい。自分が死んでしまうと聞いた家族の心痛は並々ならぬものだったろう。

 それに結果的に無事だったとしても、決闘に負けてしまったのだ。頭を下げたところで許されるようなことではないが、それでも誠意だけは見せなければならない。


「すまなかったな……皆」


 王として、そして信頼を預けられた人として、その想いを全うすることができなかった。


「お前たちに勝利を味わわせてやることができなかった。これから『魔人族』の領地となってしまうであろう【パシオン】だが、辛いものにならぬようにワシは――」

「――我が領地になどしないぞ獣王よ」


 するとそこへ魔王を筆頭に『魔人族』の者たちが現れた。



     ※



「…………どういう意味だ魔王よ?」


 レオウードは、その場に現れたイヴェアムが言い放った言葉の真意を問うてくる。

 多くの『魔人族』を背後に従えながら、イヴェアムは代表者らしくそんな彼らの前に位置取っていた。


「意味はそのままだ。我ら『魔人族』は、そちらの領地を奪うつもりなど一切無い」


 獣人たちはイヴェアムがどうかしたのではないかといった感じで見つめている。それもそのはずだ。命を賭してまで決闘を行って、辛勝ながらも勝利を得たのだ。

 それも全ては獣人界を掌握するつもりだと皆が思っていたに違いない。獣人たちだって、もしこの決闘に勝っていたら『魔人族』を従えるつもりだったはずなのだから。


 だからこそ、何のために戦ったのか理由すら不明瞭なイヴェアムの言葉に混乱してしまうのも無理はない。

 さすがの獣の王も、イヴェアムの言葉を受けギョッとなってしまっているが、すぐに真相を確かめんばかりに険しい表情を浮かべる。


「……では何を望むというのだ?」


 領地を奪わないのなら、それに代わる大きな要求を必ずしてくるのが普通。だからイヴェアムの答えを聞くために皆々が息を飲んで見守っている。

 イヴェアムは一つ間を置いて、皆の視線を自身に集中させると、


「――――――同盟だ!」


 透き通るような声が、周囲に響き皆の耳を震わせる。

 レオウードはそんなイヴェアムを目を細めて観察するように窺う。


「同盟……だと?」

「そうだ! だがただの同盟ではない! 私が望むのは永遠の平和だ! 故に、あなたたちと結びたい、恒久同盟をっ!」

「恒久……同盟か……」


 噛み締めるようにイヴェアムの言った言葉をなぞっていく。


「我々が望むは諍いではない。もし『魔人族』が獣人界へと渡り、『獣人族』を支配しようとするなら、たとえそれが決闘によってもたらされた約定だとしても、必ず不満や憎しみなどが出てくるはずだ。それに私は支配を望んでいるわけではない! 『魔人族』と『獣人族』が、それぞれの大陸を、それぞれの種族を尊重し合い、手を取り合って平和を作っていきたいのだ! 故にそれぞれが持つ大陸を、そこに住む種族が統治する。だが互いに交易したり、国や町などの発展のために尽力する間柄、すなわち同盟だ!」

「それを永遠に続ける……恒久同盟か」

「そうだ。それが此度の決闘で、我々が望む要求だ!」


 獣人たちは互いに顔を合わせて戸惑っている様子を見せている。

 支配されると思っていて、負けた以上覚悟はしていたのだろう。しかしあまりに肩透かしのような要求を突きつけられどう反応を返したらいいか分からないようで、すべての判断を仰ぐように皆の目がレオウードに集中していく。

 ジッと互いに目を逸らさずに魔王と獣王が見つめ合う。

 そして先に口を開いたのはレオウードだった。


「恒久……永遠……同盟……そんなものが本当に続くと思っておるのか?」

「ああ」

「過去に、それを成そうとした者たちがいないとでも思っているのか?」

「……」

「だが結局人は争い、今のような世の中になっておる。確かに同盟は平和への一歩になるだろう。しかしお前が望むような永遠は、絶対に来ない。それは――理想でしかないのだ」


 辛辣な意見を聞いてイヴェアムは静かに目を閉じる。


「そうだな。確かに貴公の言う通り同盟を成したとしても、それが永遠に続くとは限らない。それは歴史が証明している」


 実際に『人間族』には先にあったような裏切りにも遭っている。また仲間だと信じていた者たちにもだ。

 理想は理想でしかない。それはイヴェアムも痛感したことであはある。

 だが……。


「ならば何故望む?」

「簡単だ!」


 イヴェアムはカッと目を見開く。


「む?」

「歴史に無いのなら、我々が歴史を作ればいいのだ!」

「……っ!?」


 真っ直ぐ歪みの無い瞳をレオウードに向けている。


「理想を理想で終わらせたくはない。甘いかもしれないが、望むのなら私は常に最高のものを望む! だからこそただの同盟では無く、永遠の同盟を私は望むのだ!」


 イヴェアムから覇気が迸る。

 その気迫は激しく空気を震わせ、獣人たちに息を飲ませる。


「…………クク、甘いな魔王」

「…………」

「同盟は永遠には続かない」

「…………」

「だが……ククク……歴史に無いなら自分たちが歴史を作るか……ククク、ガハハハハハハ!」


 突如壊れたように笑い出したレオウードを皆が一斉に視線をぶつける。


「ワシも……王としてずれていると言われたことはあるが、お前は特別にずれているようだな。まさか命を奪い合った者に手を差し伸べるか……」


 イヴェアムはフッと頬を緩めると、


「ああ、それが私だ! 獣王レオウードよ、いや、『獣人族』たちよ! この手を……取ってはくれないか?」


 そう言いながらサッと手を差し出す。

 レオウードはしばらくその手を見つめ思案するように沈黙している。そしてレッグルスに身体を支えられながらその場で立ち上がり、細めた目を獣人たちへと向けた。


「……国は民あってのものだ。そしてその民を守り慈しみ、育てていくのが王としての役目。その未来を奪うようなことはあってはならない」

「…………」

「我が父が口を酸っぱくして言っていた言葉だ」


 同志の顔をゆっくりと見回すレオウード。


「……ワシとともに、ついてきてくれるか?」


 どうやらもうレオウードの中では答えが出たようだ。

 そして誰もがそのことに気づいている感じである。


「もちろんですっ!」

「そうだそうだっ!」

「どのような茨の道でも俺たちは国王様と一緒ですっ!」


 口々にレオウードが嬉しくなるような言葉を発している。レオウードは万感たる思いを覚えた様子で口に緩みを見せた。


「父上、これが皆の答えです」


 レッグルスが優しげな笑みを浮かべて頷く。彼だけでなくレニオンもククリアもミミルも、皆がレオウードに賛成を表すように首を縦に振る。

 レオウードは再びイヴェアムに対面した。今もなお差し出されている手を見て、その視線をゆっくりとイヴェアムに向ける。


「――魔王イヴェアムよ」

「ああ」

「獣王レオウードの名をもって、我ら『獣人族』は、ここに『魔人族』との同盟を……いや、恒久同盟を結ぶことを宣言する!」


 そしてガッシリと握手を交わすと、互いの陣営から尋常ではないほどの歓声が轟く。


「歴史を作ろう『獣人族』たちよ! ここからが平和への第一歩だっ!」



     ※

 


 こうして『魔人族』と『獣人族』の決闘アガッシの結末を迎えることとなった。

 結果は『魔人族』の勝利に終わったが、イヴェアムは敗者である『獣人族(我々)』には要求として恒久的な同盟を求めてきた。

 そして獣王レオウードはこれを受けた。その方が支配されるよりも良いと判断したのもあるが、正確なことを言えば同盟も悪くないと思ったのだ。


 今回の決闘で互いに全力でぶつかり合ったお蔭で、今の『魔人族』は昔とは明らかに違うことを理解することができた。

 確かにその『魔人族』を束ねる魔王は理想家で、そのくせ甘過ぎる戯言ばかりを口にする小娘だ。しかしその理想を追い求める真摯な姿に、レオウードは心を掴まれてしまった。


 ただもちろんまだ全面的に信頼するわけにはいかないが、それでもこの魔王とならば、今までとは違う新しい未来を作っていけるのではと期待させるだけの何かを感じさせた。

 お互い足りない部分があるのは否めない。だがその足りない部分を補い合っていけば、今よりも一歩平和に近づいていく。


 獣人たちも支配される恐怖に身を竦ませるような思いをせずに、優しい日々を過ごしていけるのかもしれない。


(クク……理想家(バカ)理想家(バカ)を呼ぶということか……)


 自分にも理想はある。

 それは民が安心して笑い合える世界を手に入れることだった。

 そのため、敵である『魔人族』や『人間族』を倒して掌握しようと考えていたのだ。


 無論その考えは相手を信用できないところからきている。だが実際に拳を合わせてみると、彼らの純粋な思いが伝わってきた。

 命を賭して戦った相手すら尊敬し合い慰め合う。憎しみで支配されていたはずの両者間は、まるで違った繋がりを得ていた。


 無論全員がこの同盟を快く思っているとは考えていない。だが現実にこの場に居て戦った者たちの顔に澱みが感じられない。

 こういう者たちとなら、もしかしたら手を取り合う生き方もできるのではと思った。


(難しいかもしれぬが、それでもまずは一歩。勇気を出して決断するのも王としての役目だったな……親父よ)


 ずいぶんと前に他界してしまった父親の顔を思い浮かべる。

 自分よりも厳格であり、何をおいても民のことを考える真の王だった。そんな王としての父親に嫉妬も覚え、そして憧れた。

 民にとって一番良い選択を選ぶ。

 それが王に与えられた義務。


 今盟友となったイヴェアムの手から感じる温もりに、思わず笑みが零れる。


「どうされたのですレオウード殿?」


 イヴェアムが眉をひそめ尋ねてくる。


「いや、忘れて……違うな、見向きもしなかったのだ。『魔人族』もまた、我々と同じ熱き血潮が流れていることをな」

「生きていますから」


 まだ少女なのに、笑顔を浮かべた彼女は凄く大人びていた。


「ガハハ、そうだな。生きているのだワシたちは。……それはそうと、何故急に敬語なのだ?」


 彼女が突然敬語を使ってきたので気になった。

 すると恥ずかしそうに頬を染めると、


「い、いえ……その、今は敵ではなく盟友です。それにレオウード殿は目上の御仁なのですから、敬語で話すのは当然のことだと……」

「ガハハ! 別に気にしなくてもよいわ! 友ならばなおさらのことだ!」

「い、いえ! り、立派な国王殿に砕けた喋り方などもってのほかです!」

「ふむ、案外頑固……いや、やはりといったところか? まあいい、これから徐々に慣れていけばそれでよい。時間はたっぷりあるのだからな」

「あ、はい! そうです、時間はたっぷりあります!」


 イヴェアムも嬉しそうに破顔する。

 するとどこからか馬の足音のようなものが耳に入ってくる。レオウードもそれに気づき顔ごと向けて確認する。

 そこにはライドピークというモンスターに乗った兵士がこちらに向かって来ていた。


「父上……」

「ああ」


 レッグルスが不安気に声を漏らすが、レオウードもまたやって来る兵士の雰囲気を察して険しい顔つきになる。

 徐々に近づいてくる兵士を黙って見つめていると、突然驚くべきことが起きた。


 ――ドゴォォォォォォンッ!


 兵士の、というよりライドピークの足元から凄まじい水の奔流が出現して兵士を上空へと吹き飛ばした。

 その水が形を変えて、今度は触手のように鋭い線状になると、兵士の身体を貫いていく。すると兵士の身体が一瞬にして膨れ上がり――――――ボンッ!


 ――――――破裂した。


「いやぁっ!?」


 その惨さに怯え、ミミルが咄嗟にレオウードに抱きつく。

 その衝撃過ぎる光景は、ミミルだけでなく全ての者の言葉を奪った。

 そんな中、イヴェアムがハッとなり自分たちの右側に視線を向ける。

 イヴェアムに続いてではあるが、他の『魔人族』たちもその方向に疑問を浮かべた視線を向けた。


 するとその視線の先には、いつの間にあったのか水溜まりがポツンと存在していたのである。

 それはまるで真っ白い紙に、墨を一滴垂らしたような強烈な違和感を皆に与えた。


「皆下がれっ!」


 イヴェアムの尋常ではない声に、当然『魔人族』たちは従い距離を取る。

 そして『獣人族』もまた、ようやくその声で水溜まりに気づき、同様にその場から離れて行く。


 直後のことだ。水溜まりに何もしていないのに波紋が生まれる。その水溜まりは徐々に大きくなっていき、半径十メートルほどの大きさへと変化していった。


「――――――――――――アハハ、成長したみたいだね」


 警戒と沈黙が続く中、不意に声が聞こえてきた――――――水の中から。


 その声を聞いて、イヴェアムが明らかな動揺を見せる。顔からは血の気を失い、肩が小刻みに震え出している。

 そしてそれはイヴェアムだけでなく、《魔王直属護衛隊》の面々もそうだった。まるで信じられない声を聞いたような感じで固まっている。


 『獣人族』たちは何が何だか分からないといった感じで困惑していたが、唯一レオウードだけは殺気を含めた視線を水溜まりの中心に注いでいた。

 何故ならレオウードには、その声に聞き覚えがあったからである。


 水溜まりから、ゆっくりと何かが浮き上がってきた。しかもそれは複数の存在だった。

 それぞれが黒いローブを身に纏い姿を隠しているような格好だが、見たところ全部で十人居た。


 身体の大きな者、小さな者と様々だが、明らかに異様な雰囲気をそれぞれが醸し出している。

 その究極とも言うべき違和感の正体であり、まさしく異質な存在感を際立たせているのが、中心に現れた小さな少年だった。


 彼もローブを着用はしているが、他の者たちと違ってフードで顔を覆っていないので少年だと分かる。

 そしてその少年を見たイヴェアムが、真っ青な顔のまま消え入りそうな声で呟いた。



「………………アヴォロス・グラン・アーリー・イブニング」






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