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金色の文字使い ~勇者四人に巻き込まれたユニークチート~  作者: 十本スイ
第四章 運命を決める決定編

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112/281

112:日色VSレオウード

「ノフォフォフォフォ! これはこれは、まるで勇者のようですなヒイロ様?」


 クレーターの中心にやってくると、ニヤニヤした変態執事がいた。


「冗談はよせ。あんな偽善者と一緒にするな。あくまでもこれは依頼だ」

「ノフォフォフォフォ! そうでございますか! ならばそういうことに致しましょうぞ!」


 まだ開始までは時間があるのでしばらく雑談をしていると、二人してピクリと眉を動かす。

何故なら、とてつもない気迫を感じたからだ。その気迫の正体を目で追うと、そこにはこちらに向かって歩いて来る獰猛な獣がいた。


「ほほう、これはこれは、あちら様はやる気万全みたいでございますね?」

「はぁ、他人事だと楽だなジイサン」

「ノフォフォフォフォ! ほら、来られましたよ」


 体格は圧倒的に差がある。目の前にやってきた相手はまさに怪物と呼んで差し支えないほどの体躯をしている。

 究極に磨き上げられたその肉体は、日色と比べると月とスッポン、比べること自体がおかしいだろう。


「待たせたな」

「いいや、それで? 万全な体調にしてきたのか?」

「ガハハ! それはこの戦いで見せてやろう」


 互いに牽制しながら睨み合う。視線だけで火花が散っている。


「ようやく戦えるなヒイロ」


 貫録のある野太い声が鼓膜を刺激する。傍から見れば大人と子供のような二人だが、レオウードの放つ覇気に、微塵も揺らいでいない日色を見てレオウードの楽しそうに口端が上がる。

 余程この一戦を待ち望んでいたようだ。


「存分に戦おうぞ。そしてワシが勝つ」

「いいや、オレだ。オレが勝つ」


 二人は視線をぶつけ合い一ミリも逸らさない。第三者のシウバが逆に気圧されているくらいだ。


「ヒイロよ、一つ賭けをしないか?」

「賭け?」

「ああ。無論お前にもメリットはある」

「……一応聞こうか?」

「ワシが勝ったらヒイロ、ワシのものになれ」

「全力でお断りだ」


 空気がピシッと固まる。

 レオウードも、あっさりと断られるとは思っていなかったのか思わず呆けてしまう。


「な、何故だ?」

「オレはノーマルだ。男が欲しいなら若干二名ほど当てがあるから、そっちを紹介してやる」


 するとこの【ヴァラール荒野】にいる二名の男の背筋に寒気が走った。

 それは変態ロリコンと、変態執事の二つ名を持つ者たちだったが、執事は顔を引き攣らせていたが、ロリコンの方は訳が分からず首を傾げていたという。


「バ、バカモノ! 誰が男色だ! そういう意味で言ったのではないわ!」


 さすがのレオウードも、そんな勘違いは絶対嫌らしく必死で否定してきた。


「なら誤解を招くような言い方をするな」

「ったく……よいか、ワシが勝ったら【パシオン】に来い!」


 どうやらただの勧誘だったようだ。思った以上にレオウードには気に入られたらしい。だが今のところどこかに永住する気は無い。


「ならオレが勝ったら?」

「ミミルをやろう」

「いらんわアホ」

「……ここにミミルがいなくて良かったわい」


 日色の躊躇のない即答に対し顔を引き攣らせるレオウードだが、断られることも想定していたのか、


「ならお前の望むものを言え」


 そんなことを言ってきた。

 しかしそう言われてもと、日色は考え込むが……。


「…………無いな」


 特に思いつかなかった。


「……お前にとってワシの国はそんなに魅力は無いのか?」


 若干落ち込み気味になるレオウード。


「そうは言ってもな……なら一つ貸しにするというのはどうだ?」

「貸し?」

「ああ、その貸しはいつか必ず返して貰う。それでどうだ?」

「……本当に変わった男だなお前は」

「は?」

「今までこの賭けをした奴らは、全員がワシの地位や国、大金などを要求してきたが、思いつかず貸しにすると言ったのはお前が初めてだ」

「ノフォフォフォフォ! ヒイロ様は普通の尺度では計れませんから!」

「黙れ変態」

「これは手厳しいっ! ノフォフォフォフォ!」


 そんなやり取りを見て、レオウードもつい頬が緩んでしまう。


「ガハハ! なるほど、ならばその賭け了承しよう! 必ずワシが勝ってお前を手に入れてみせよう!」

「できるものならやってみろ」


 どうやらじゃれ合いにも似た舌戦は終了したようだ。

 シウバもまた二人の間の空気が変化したことを感じてか、緊張気味にゴクリと喉を鳴らす。


「準備は……よろしいでございますか?」


 二人は同時に頷きを返す。


「では――」


 バッと、またも二人同時に後ろへ跳び距離を取った。


「――――――決勝戦始めっ!」


 『魔人族』と『獣人族』の運命を決める最後の戦いのゴングが今鳴らされた。







 今まさに決勝戦が始まったが、両者ともに動かずにジッと互いの目を睨みつけているだけだった。

 互いに先に攻撃してこいと言わんばかりに相手の出方を窺っている状態である。


(とりあえずレベル差は無いと考えた方がいいな。身体能力だけを見れば、向こうの方が圧倒的に上だ。一撃でもまともにくらえばかなりのダメージになる)


 だから油断だけは確実にできない。無論生きてさえいれば《文字魔法》で治癒はできるが、大きなダメージの場合、回復するまでに時間がかかる。それまで相手が何もしてこないというのは考えられない。

 結論、近距離型の相手にはやはり遠距離で攻撃する方がベスト。


(《設置文字》はできるだけ温存しておくか。なら……)


 日色の右手の指が高速で動く。

 それを察知したレオウードも、即座に全身を真っ赤にさせる。


(いきなり《転化》か! 向こうも大分と警戒してるようだな)


 日色は書いた文字を指先の前で停止させたまま、ゆっくりとレオウードを中心にして円のように動く。

 相手もまた目だけではなく身体を真正面からずらさずに対応してくる。


(隙がないな、さすがだ。直接当てるのはなかなか厳しそうだが……試しに行くか!)


 そうして指先を相手に向け放つ。

 レオウードは右に跳んで避けようとするが――。


 クイ……。


 日色が指先を動かすと文字の動きが急遽変わりレオウードを追っていく。


「むっ!?」


 レオウードも真っ直ぐしか飛ばせないと思っていたのか少し驚きを見せるものの、地面に軽く手をついて身体を回転させると、文字が飛んできている方向を確認し指で何かを弾く。

 その何かは高速で文字に当たる。そしてその何かは動きを止めずに文字ごとこちらへ向かって来た。


(なるほどな)


 文字を発動させる。

 するとその何かはピタッと日色の前で動きを止めた。

 よく見るとそれは小石だ。

 飛ばした文字は『止』。

 もしレオウードに当たれば動きを止めることができたはず。

 しかしレオウードは地面に手をついた時、小石を拾って指で弾いたのだ。それが文字に命中してしまった。


(触れたら剥がせないって制限が無かったら良かったが……)


 もしそうなら例え命中してもまた文字を操作して小石から剥がしてレオウードに向かわせたのだが、一度何かに命中してしまうと、文字はその何かを対象として認識してしまう。


「ほう、半信半疑で試してみたが上手くいったな。お前の魔法はその奇妙な文字を飛ばして相手にぶつけることで効果を発揮できるというのは分かっていたが、障害物に一度触れてしまえば効果はそれに行く。しかもだ、命中してもそのものの動きを止めるわけではなさそうだ。何故なら小石のスピードは変化しなかったからな。故に、今そこで止まっているのはヒイロの書いた文字の効果……だな?」


 ただの脳筋とは思ってはいなかったが、やはり前回会ってずいぶん研究されたのか、かなり《文字魔法》の特性を見抜いている。


「ならば……」


 レオウードの左腕が炎に変化して身体から切り離されたと思ったら、それが数えるのも鬱陶しくなるほどの小さな火の玉と化し彼の周囲を覆った。


「常にこうして身の回りを守っていれば、飛ばされる文字に対抗できるかな?」


 なるほどなと得心する。

 今レオウードは左腕を失った代わりに、周囲に防御壁のような火の玉が出現している。

 確かにアレでは本体のレオウードを《文字魔法》で狙っても、火の玉に命中してしまって効果はその火の玉になってしまう。


「よく考えたもんだな獣王」

「ガハハ! お前と戦うのを楽しみにしていたからな! 実際に決闘でお前と当たらなかった時は残念に思ったが、このような決勝戦でやり合えるとは嬉しい限りだ」

「この戦闘狂め」


 さて考える。どうにかして本体であるレオウードを叩くにはあの左腕が変化した火の玉群が邪魔だ。一応その火の玉でも攻撃すれば痛みは感じるのかもしれないが、そもそもアレに『眠』などの文字を放っても効くのだろうか?

 たとえ左腕だとしても、あれはもう肉体とは切り離された部位なので、本体には効果が反映しないのかもしれない。

 そもそも《文字魔法》は、命中した物体だけに効果があるのであって、切り離されている一身体にその効果はいかない。


 言ってみればアレは盾を使っているのと同じで、盾に命中したところで所持者に効果は流せない。それが《文字魔法》の特性でもある。


 しかしこの場合はどうなのだ? 切り離されているが、アレは間違いなくレオウードの左腕である。感覚を共有しているのであれば効果は流れるのか?


「……試してみるか」


 再び『止』の文字を放つ。そしてそのままレオウードの火の玉に命中する。発動。


「…………やはりそう上手くはいかないか」


 懸念した通り、止まったのは火の玉だけで、レオウードはピンピンしていた。


「どうだ? なかなか良い対策だろ?」

「まったくだ。お前に当てるにはちょっと面倒だな」

「ガハハ! だが次はワシの番だ!」


 上空へと高く跳び上がり、そのまま突進してくる。

 日色は舌打ちを鳴らすと、後ろへ大きく避けた。

 だがその時、レオウードを覆っていた火の玉群が、一斉にこちらに向かって動き出した。


「何っ!?」


 咄嗟に《設置文字》の『防御』を発動。青白い魔力でできた壁が日色の前方を覆う。


 ――ドドドドドドドドドドドドドドッ!


 まるで散弾銃で撃たれているかのように防御壁を叩いてくる。まともにくらうと大ダメージは必至だ。

 だがその直後、膨らむ殺気を感じたと思ったら、こちらに物凄い勢いで突撃してくるレオウードがいた。

 右手がマグマのようにボコボコと蠢いている。その右手に凄まじい力を宿しているのは一目で分かった。


「これが本当の《極大焔牙撃》だぁっ!」


 その右拳を防御壁目掛けて突き出そうとしてきた。

 しかし二文字の《文字魔法》である『防御』は、SSランクのモンスターの攻撃でも防いでくれる代物だ。

 ただそこで日色は思い出す。一番最初にレオウードと会った時、同じような技を放たれ、これまた同じ『防御』の文字を使ってガードした。その時、もう少しでこちらの防御壁が崩れるという稀有な経験をしたのを思い出す。しかもあの時とは違って今は《転化》している。


 ハッとなって迫ってくるレオウードを見る。そして彼の右肘がまるで火山が噴火したように破裂し、突如グンッと段違いに突進力が向上する。

 ゾクッと背中を走る悪寒に日色は目を見張る。


 ――バチィィィィィィィィッ!


 防御壁と拳が衝突し、次の瞬間――驚くことに防御壁が弾かれてしまったのだ。無論そのまま壁を失った日色の目の前に巨大な拳が迫る。


 ――ドゴォォォォォォォォンッ!


 激烈な衝撃音が大気を震わせる。

 凄まじい爆発がその場で起きたかのような光景だ。

 両陣営も今の攻防を固唾を飲んで見守っていた。

 中には日色の安否を気遣う者たちが大勢いる。


 煙が晴れ、レオウードがいるその場は巨大なクレーターが生まれていた。それだけで先の攻撃の威力が一目瞭然である。その上、地面が溶けている部分もそこかしこにある。

 これはレオウードのマグマのような右手が生んだ状況なのだろう。

 レオウードが左腕も元に戻して静かにその場で佇んでいると、何かを感じたように上空へと視線を向ける。


「――うおぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 そこには日色が刀を抜いて落下してきていた。

 咄嗟にレオウードは身を引いてかわそうとするが、完全に回避することができなかった。

 日色の攻撃は、相手の右腕を見事斬り落とすことに成功する。


「ぬぅっ!」


 痛みに顔を歪めるレオウード。

 日色は手を緩めることなく、この好機に今度は身体を貫こうと突きを放つ。


「させぬわっ!」


 左腕を日色の方に向けて先程の火山のように爆発させてくる。

 するとピタッと動きを止めた日色は舌打ちをしながらも左方向へと跳んで回避。

 そして互いに一定の距離を保ちつつ睨み合う。


「ふぅ、《転化》まで解いていたら右腕は今頃無かったであろうな」


 落ちた右腕が炎化して再び身体へと戻っていく。

 やはり《転化》の特性は厄介である。


「しかしその剣……いや、その形状は刀か。ただの刀ではあるまい」


 《転化》の身体を傷つけ痛みまで与えられた時点で普通の刀ではないと判断したようだ。

 しかし日色は答えずに、ただ身構えている。


「ここでユーヒット辺りなら笑いながら解説するのだろうが、そこまで甘くはないか」


 レオウードがニッと口元を歪める。


 実際のところ日色は舌を巻いていた。

 まさかこんな短期間で《設置文字》を二つも使わされるとは思っていなかったから。

 あの時、『防御』の壁を崩された時はさすがに衝撃的だった。だから咄嗟に《設置文字》の『転移』を使って上空へと回避するはめになったのである。


 そこから《絶刀・ザンゲキ》で落下の勢いを利用してレオウードを攻撃しようとしたが、さすがの野生の勘でこちらに気づいて反応されてしまう。真っ二つにしようとしたのに右腕だけしか斬ることができなかった。

 そこから追い打ちをかけようと思ったが相手の左手からマグマが噴出して、紅蓮の放出物を弾丸のように飛ばしてくるので、そこから離れることを余儀なくされたわけである。


(しかしまあ、二文字が破壊されたのってSSSランクのモンスター以来だぞ?)


 改めてレオウードの攻撃力には驚かされる。

 圧倒的な身体能力に加えて、《化装術》の力によるものだろうが、それにしてもまだまだ本気ではないはずなのに感嘆するほどの強さだった。


 そしてレオウードが《絶刀・ザンゲキ》のことを聞いてきたが答える義務は無いので黙っていた。

 だが確かに彼の言った通りただの刀ではない。魔力を流し相手を斬ることで、相手の持つ魔力を乱して意識を奪うことも可能である。

 今回の場合も魔力を流して斬ったお蔭で相手にダメージを与えることはできたが、さすがは獣王なのか、意識を混濁させることはできなかったようだ。


「さあ、次だヒイロよ」


 すると今度はレオウードが突然地面を殴りつけた。

 そのためこちらの足元まで地面の亀裂が走り、その亀裂がさらに大きくなると足元の安定が失われる。

 一瞬レオウードから視線を逸らして足元を確認してしまう。すぐさま元に戻して相手の存在を視認しようとするが、そこにはもういなかった。


 直後上空から感じる熱風に、対象が空にいることを知る。すぐに顔を上げて確認すると、そこには一つの太陽が浮かんでいた。

 小さな太陽が放つそのあまりの熱量で顔をしかめる。


(アレは確か一回戦で見た……!)


 マリオネ戦でレオウードが使用した《真醒の焔玉》だった。

 だがあの時よりもさらに大きなものになっている。


(あの野郎……滅茶苦茶に力を溜めてやがるな)


 そんなに張り切らなくてもいいんじゃないかと言いたくもなるが、とりあえず刀を鞘に納める。


(二文字単体だけじゃ心許無いか……なら)


 右手の人差し指を立てると、その先に青白い光がポワッと灯る。ユラユラと光りを煌めかせ、空に文字を書いていく。


(今度はこっちが驚かせてやる)



     ※

 


 マリオネの時よりもさらに力を練り上げて火力を上げる。

 レオウードを中心にして、小規模だが太陽そのもののような塊が、今まさに一つのターゲットを見下ろしていた。


「行くぞっ! 我が《真醒の焔玉》を受けてみるがいいっ!」


 そのまま地面へ向けて、いや正確には一人の男に向かって太陽が襲い掛かる。


「さあどうするヒイロォォォッ!」


 すると日色が人差し指を立て、魔力をそこに集中させていった。


(また魔法か! だが先程のようなものなら一掃してくれるわ!)


 ゴウゴウと燃え盛る炎の塊が日色に向かって落ちてくる。それはさながら巨大隕石のようだ。

 そして日色が指をこちらに向けて文字を放ってきた。

 だがそこでレオウードはニヤリと笑みを浮かべる。


 先程の左腕を火の玉化した時のような火の玉群を太陽の前方に出現させる。その火の玉が文字に当たるが瞬時にシュワッと煙みたいに消えた。

 恐らく文字が届くかどうか相手も試したのだろう。しかしそれが無駄だと分かり、日色もまた舌打ちをしてそうな表情を浮かべている。

 また日色は文字を書く仕草を見せた。だが今度は先程と違って魔力の桁が多い。恐らくこの感じは先程の防御壁の時よりも強いと推測できた。


「面白いっ! 何をするつもりか分からんが、止められるものなら止めてみろっ!」


 太陽は日色へと近づき、そしてレオウードは驚愕すべき現実を目の当たりにする。

 文字対処に前方に出現させていた火の玉があろうことか徐々に消失していくのだ。


「な、何だとっ!?」


 同じく自分を覆っている炎まで収縮していくではないか。


「ど、どういうことだっ!?」


 まるで風船が萎んでいくようにどんどん小さくなっていく。

 そうはさせまいと、さらに大きくするために身体から炎を生み出し球体を覆うが、小さくなっていくスピードの方が明らかに大きく、そして――シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……。


 自分の周囲を覆っていた炎が消失してしまい絶句しているところ、突如として目前に日色が現れ、手に持つ白刃で斬撃を放ってきた。


 ――ブシュゥゥッ!


 まさかの事態に《転化》まで解けてしまっていたことに気が付かなかったせいで、左肩から右腹部にかけて鋭い刀傷が走った。


「ぐぅぅぅっ!?」


 痛みと混乱で意識の統一がされていない。だがそこで頭に火がつけられたように沸騰し、気づいたら日色の腕を掴んでいた。


「しまっ……!?」


 日色は焦った様子を見せるが、ハンマーのように振り下ろされた拳をその背で受けてしまう。そしてそのままの勢いで、激しく地面へ突き刺さった。

 だが地面に降りたレオウードもまた浅くは無い傷を負わされ、その激痛で顔を歪めている。

 何が起こったのか分からなかったが、それでもまともに攻撃を受けたのはまずかった。


「くっ……ヒイロォ……ッ」


 かなりの血液が身体から流れ出ている。

 このままの状態ではさすがに厳しいと思い、即座に《転化》する。

 この状態になれば痛みは和らぎ、血も出ることは無い。しかし受けたダメージそのものを回復するわけではないし、《転化》を使い続けるとHPもMPも消費し続けてしまう。


 このまま戦いを長引かせるわけにはいかないと踏んで、落下したはずの日色の姿を探し出した。一撃をくらったことで憤激を表情に表しながら。



     ※



 日色は自分に油断があったことに内心で叱咤していた。幾ら自分の攻撃がようやく届いたことが嬉しくても、その後の行動に問題があった。


(痛っつ……くそ……)


 背中に受けたレオウードの拳の衝撃力が苛烈だった。

 実際に深手を負わせることができたと思ったが、まさかすぐに反撃をしてくるとは考えていなかったのだ。完全に油断していた。


(いや……アレはもう本能というか、反射的に身体が動いたって感じだったな……)


 普通ならば自信のある攻撃が急に消失し、突然目の前に現れた相手に深手を負わされてすぐに反撃できる者は少ないだろう。

 その証拠にあの時のレオウードは視点も定まらないような目をしていたし、反撃は無いだろうと判断していた。


 しかし突然レオウードの目に強い光が走ったと思ったら、次の瞬間には腕を掴まれていた。咄嗟に魔法を発動させようとしたが、対応が間に合わず背中に衝撃が走り、気づいたら地面に転がっていたのだ。


 あの時、レオウードの《真醒の焔玉》に対し、


『鎮火』と『火球』


 この二つの文字を両手で書き発動させた。

 これは日色の認識した火球を全て鎮火させる効果を持つ。

 レオウードが防御の為に作り出した小さな火の玉群も、そして太陽のように大きな炎塊を身に纏っているレオウードの力も、日色から見れば火球である。


 つまり彼の炎は、日色の魔法によって全て消失させられたのである。

 そのあとは『転移』の文字を使って彼の目前に現れ刀で一気に斬った。


 しかしここで幾つか誤算があった。

 まず一つは異常なまでのレオウードの身体の頑丈さだ。まるで鉄を斬っているかのような手応えだった。だがそれでも初めてつけられた大傷である。


 そして次の誤算、もちろんレオウードの即座の反撃である。

 しかもその反撃の速度はこちらが反応できないほど敏速だった。本当に反射神経全開で動いた感じであり、腕を掴まれたのも、背中に衝撃が走ったのも意識的にはほぼ同時だったのである。


 さらにこのダメージの深さ。たった一撃なのに、その一撃に全てが集約されていたかのような重さ。

 あのまま地面へと生身で衝突すれば、まるでトマトを高所から落としたようになるのではと焦って《設置文字》の『防御』を発動して、落下の衝撃力からだけでも身を守った。


(……仕方無いな)


 《設置文字》である『治癒』を使って痛みを消し去る。このままでは動きに支障が出る。

 幾ら相手に深手を負わせたかもしれないといっても、この状態で動くのは芳しくない。何故なら背中の骨にヒビくらいは入っているだろうから。動くたびに激痛が走るのでは、これからの戦いは厳しい。

 身体が青白い光に包まれて、先程まで感じていた激痛が和らいでいく。


(はぁ、ホントに《文字魔法》さまさまだな)


 魔法が無ければどうしようもなかったと思い改めて万能なユニーク魔法だということを幸運に思った。

 するとそこにゾクッと、全身を氷で包まれたような感覚が走る。

 感覚とは逆で、大気は熱されたようにユラユラと波打っていた。

 尋常ではない殺気の塊が自分にゆっくりと近づいてくるのを感じる。その空気の中にいるだけで口が段々と乾いていく。


 まだ身体が光に包まれたままで治癒は終わっていないが、そのままジッとしていられず立ち上がり、その殺気の塊に視線を向ける。

 案の定そこにはレオウードがいた。

 だが先程までとは打って変わって、その表情に余裕は見当たらない。それどころか相手を殺すことしか考えていない獲物を見つけた野生の本能、いや野生の怒りそのものが浮き出ている。


(これは……キレやがったな)


 まるでSSSランクのモンスターに周囲を囲まれているような気分になる。どこにも逃げ場はないぞと言われているようだ。


「やれやれ、マグマ人間みたいな奴だな」


 先程は右腕だけマグマのように沸騰していたが、今回は全身が紅蓮に染め上がり、ボコボコッと煮え滾っている。レオウードの足が触れている部分もその熱のせいで溶けている。

 しかもこちらの嫌味を含めた言葉にも全く反応を返さない。


(どうやらホントにキてんなこれは……あんな身体で攻撃されてしまえば一瞬で溶かされそうだ)


 迂闊には近づけないと判断するが、《設置文字》も大分使ってしまった。ここらでストックしなければと思うが、どうにも下手な動きができそうにない。

 今意識を逸らせば、瞬間に噛みつかれて終わりそうな予感が走る。だがそんなヤバイ状況なのに、何故か頬が緩んでくる。


(やっぱオレも男だってことか……)


 こんな肉体チートな相手を、どうすれば倒せるか考えるのを楽しんでいる自分がいる。

 実際に自分が強くなって、少し策を巡らすだけであっさりと敵を制してきたことを考えれば、こうして肌がざわつくような戦いは久しぶりだった。


 小説でもゲームでも、やはり厄介な相手や強者を相手にする時はワクワクするものだ。特に男はこういった状況で臆病になるのは違うなと日色は思う。

 確かに圧倒的な実力差があり、完全なムリゲーのような状態なら諦めもするかもしれないが、今の状況のように戦って勝てる手段があるのだから、それを駆使して攻略するのは……。


(燃えなきゃ男じゃないな)


 あいにく向こうはキレてて楽しんでいるのか謎ではあるが、日色は自然と笑みが浮かんできている。


「……ふぅ、行くか」


 覚悟して指に魔力を集中させた時、


「ヒイロォォォォォォォォォォッ!」


 マグマの塊が襲い掛かって来た。 







いつも読んで頂きありがとうございます!


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