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110:魔王VS獣王

 もう一つの戦いであるユーヒットVSラッシュバルの方にも動きがあった。

 そこへ現れたシウバに第四回戦の結果を知らされたのである。


「……ふぅ、そうか、やはりさすがはオーノウス様だな」


 ラッシュバルは軽く溜め息を漏らす。実際のところオーノウスならレニオンに負けないとは思っていた。しかしオーノウスの役に立てたのかと問われれば甚だ疑問が残る。

 武人でもないユーヒット相手に、お互いが無傷という結果を残して終わってしまった。どうせならオーノウスのもとに駆けつけたかったという思いが胸に宿る。


「ニョホホホ! いや~レニオン様は負けちゃいましたですかぁ!」


 そんなセンチメンタルな物思いに耽っているところを、空気を敢えて読んでいないのかユーヒットの笑い声が響く。

 結局は彼の魔法具でいいように遊ばれた感じが否めない。一撃、たった一撃でも拳が届けば恐らく倒せたはずなのだが、その一撃が遥かに遠く感じられた。


 それはアクウィナスやマリオネに感じる強者相手のものではなく、まるで異質で不気味な感情だった。立っている舞台が全く違うと言ったらいいのか。とにかく、最初から最後までユーヒットに踊らされていたようだ。

 しかもだ、今まで本体だと思っていたユーヒットは、実は彼が遠隔操作していた分身体だったらしい。《写像紙》とはまた違った存在であり、彼はその分身体にずっと本体のように思わせ、自らは岩場の陰でのほほんと安全を確保していたという。


 まさに道化を演じられたというわけだ。いや、彼が作った舞台に道化として扱われていたのはもしかしたらラッシュバル自身なのかもしれない。

 結局のところ負けもしなかったが、勝てもしない後味の悪い結果を手に入れてしまった。


「なかなか、興味深い戦いでしたねぇ!」

「……お前とは二度と戦いたくは無いな」

「ニョホホホ! 何だかレニオン様と同じことを言いやがるのですね!」


 どうやらレニオンは彼と戦ったことがあるようだが、自分と同じようにこんな気持ちにさせられたのだろう。


「あ、そう言えば《キラージャベリン》についてですが」

「……いや、それはもうお前が敵である私から勝ち取ったようなものだ。ここで見苦しく返せなどとは言わんよ」

「え? そうなのですか? ん~でも確かに今は返すつもりはないのですねぇ」

「そうか……ん? 今?」


 思わず聞き返してしまった。


「はい。あの槍もいろいろ調べた後、ちゃんとお返ししやがりますですよ」

「……いいのか?」

「もちろんなのです。興味の無いものをコレクションする趣味は無いので! ニョホホホ!」

「……一応家宝なのだが?」


 ピクピクと頬を引き攣らせる。さすがに興味がないと言われると腹の底から何か熱いものが込み上げてくる。


「ニョホホホ! これは失言でしたね! ですが満足したらお返しはするので、お約束しますですよ?」

「…………できれば無事に返してほしいものだな」


 だが期待はしないでおく。もう自分の手元には戻ってこないと覚悟はしていたのだから。


「ニョホホホ! 興味が出たら是非パワーアップしてお返ししやがりますですよぉ! ニョホホホ!」


 普通に返してくれればいいのだが、それを言っても仕方が無いようなので、そのまま話を打ち切りオーノウスのもとへと戻って行った。



     ※

 


「大丈夫か!」


 レニオンはユーヒットに支えられながら陣地へと戻って来ていた。バツが悪そうな表情を浮かべて、駆けつけて来たレッグルスを見る。


「わ、悪い兄貴……負けちまった」

「あ、ああ……」


 何と言っていいのかレッグルスも分からず眉を寄せている。そこへ大きな足音を立てながら獣王であり、父親でもあるレオウードが現れる。


「……親父……」


 言い訳はしないと心に決めているのか、自分一人で真っ直ぐに立ってジッとレオウードの顔を見つめる。レオウードもまた厳しい顔つきで息子であるレニオンを見返していた。

 周りの者が息を飲む音が聞こえてくる。かなりの緊張感が包み、その中でようやくレオウードが言葉を発する。


「二勝二敗か……」


 最初に二連勝して、次は二連敗。その原因となった者たちが皆表情を暗くさせる。


「……クク」


 突然耳に入って来た声に皆がピクリと反応する。


「クククククク」


 それは籠った笑い声であり、レオウードが出しているものだった。


「お、親父……?」


 思わずレニオンは呟くように言葉を発した。


「ガハハハハハ!」


 堰を切ったような笑い声が響く。皆がキョトンとする中、ララシークだけは溜め息を漏らしながら肩を竦めている。


「ガハハハハハ! そうかそうか二勝二敗かっ! これは面白いっ!」


 何故このような状況で笑えるのか分からず、皆が戸惑っていると、


「分かり易くて良い!」

「……は? ど、どういう……?」


 レニオンが問う。


「次で勝利した側が……《アガッシ》の勝者だ!」


 レオウードはニヤリと口角を歪めると、


「実に分かり易い! そうだろレニオン!」

「え、あ、ああ……けど俺様たちが強けりゃもっと楽に……」

「ああ、だからもっと強くなれ」

「え?」

「今回で勝った者、負けた者それぞれだろう。だがそれで終わるな腐るな。もっと高みを目指せ! 目標を定めろ! それが我々『獣人族』が持ち続けるべき矜持だ! 負けたなら勝てる努力をすればいい! 勝った者はそれに驕らず更なる強さを追い求めればいい! 終わりではない! 人生は生きている間はずっと始まりだ! ガハハハハハ!」


 大きい。とても大きいとレニオンは痛感する。こんな男が自分の父親であることを悔しく思いながらも、やはり良かったと思える。

 高い壁は近くにあるほど良い。レニオンは思わず胸が熱くなり拳を握る。そしてその思いは、その場にいる者全員が少なからず感じたものだった。


「親父!」

「ん? 何だレニオン?」

「俺様は…………俺はいつかアンタを越えてやる!」


 レニオンの真っ直ぐな瞳を受け、レオウードは嬉しそうに笑みを浮かべる。そしてレッグルスもまた、レニオンの肩に手を置いて、


「俺もお前にばかり良い格好をさせるわけにはいかないな!」

「ガハハ! それでこそ我が息子たちだ!」


 だがそこでレニオンは微笑を浮かべながらレッグルスを見る。


「まあ、兄貴は武人というよりは文人向きだからな。ケンカしても俺様が勝っちまうし」

「な、馬鹿お前! 俺が本気で弟とケンカすると思っているのか!」


 言い訳じみたことを言ってくるレッグルス。その顔は少し赤らめていた。だが突然レニオンの表情が真面目になる。レッグルスもそれに気づいて見返す。


「……次は兄貴の番だ。頼んだぜ?」

「……任せておけ」

「安心しろお前たち。最後はワシも出るのだぞ?」


 そう、最後の第五回戦は、レオウードとレッグルスの親子コンビである。


「いいかレッグルス、決闘ではお前が王だ。心して臨め」

「はい!」

「負けるわけにはいかん最後の戦いだ。誰が出てくるかは分からんが、油断だけはするな」

「もちろんです!」

「ならば行くぞ! 我らで『獣人族』の勝利を手にするぞ!」

「おおっ!」


 二人を鼓舞するように、『獣人族』たちがそれぞれ歓声を上げている。その声に押されるように二人は戦いの地へと足を向けて行った。



     ※



 一方『魔人族』陣営では、何とかここまで漕ぎ着けられたことに安堵していた。

 まさか開始直後に二連敗を喫することになるとは思わなかったが、それでも続いて連勝をして、最後の五回戦目で決着を着けることになった。


 しかしそこで問題が生じているのである。

 五回戦へ出場するのは魔王イヴェアムとマリオネなのだ。


 この決闘では一人だけ二回出ることが可能なのだが、兵士からは一番信頼の厚いマリオネを推す声が多かった。

 日色の活躍を知る者たちからは日色を推す声もあったが、それでもやはりマリオネ自身の考えも含めて、結局マリオネが第五回戦に出ることになったのである。


 日色はそれについて何も言わなかった。確かに『魔人族』が勝った方が好都合ではあるのだが、『人間族』である日色があまり発言してしまうと妙な誤解や障害が生まれかねない。

 だから日色はそれが『魔人族』が選んだことなら黙認しようと思っていた。

 リリィンたちからは、「ヒイロにしておけば確実なものを!」的な感じで『魔人族』を非難する声があったが。


 ただこうなってしまった以上は、何が何でも勝たなければならない。第一回戦で重症を負ったマリオネをパートナーにしてだ。

 しかも相手は恐らくそのマリオネを倒したレオウードが出てくる。

 状況は最悪に近い。

 まさか一回戦でマリオネとレオウードが対戦するとは思ってもいなかったので、完全にオーダーミスとしか言いようがなかった。


「さて、どうなると思う?」


 リリィンが聞いてきた。


「さあな。なるようにしかならんだろ」

「相変わらずドライな奴め。これで負けてしまえばもしかすると図書館籠りができなくなるかもしれないぞ?」

「ふん、その時はその時だ。裏ワザでも使って忍び込むだけだ」

「……まあ、貴様らしいな。だができるなら穏便に事を運びたいのだろ?」

「当然だな。平和が一番だ」

「どの口が言うんだか」


 呆れるように肩を竦めるリリィン。

 日色は腕を組みながら、向こうから歩いて来るレオウードを見つめる。


「だがまあ、二回出る奴は王の役を背負えない。つまり相手の王は、あの王子だ。確かに分が悪いのは否めないが、やり方次第じゃ勝つ可能性も十分にある」

「こちらの王は、あの小娘だろ? あっちの小僧をやる前に獣王にやられなければいいがな」


 クククと楽しそうに笑みを浮かべる。


「赤ロリの懸念も分かるが、オレは案外面白い戦いになると思っているがな」

「ん?」

「勝負は下駄を履いてみるまで分からないということだ」

「どういう意味だそれは?」

「まあ、見てれば分かるだろ。もう少しで最終戦が始まる」


 『魔人族』たちの声に後押しされるようにイヴェアムたちは決闘場所へと向かう。

 いよいよ第五回戦……決勝戦が始まる。



     ※



「マリオネ、身体はどうだ?」


 歩いている間、隣で歩くマリオネにイヴェアムが尋ねる。マリオネもまた平静を装っているのか、顔色を変えずに答えた。


「お気遣い痛み入ります。しかしご心配には及びません。陛下に次には必ず勝利を捧げると宣言したことを、ここで成し遂げることができるように尽力しますので」

「……そうか、ならば勝とうマリオネ!」

「はっ!」


 そうして向こうからこちらに向かって来ている対戦相手に視線を促す。

 まだまだ距離があるので小さく見えるが、それでもレオウードの存在感はハッキリと伝わってくる。さすがは獣王だと自然と手に汗が滲み出てきた。まるで見上げるほどの巨大な獅子が悠然と向かってきているかのようだ。


 そしてようやく二つの陣営が直接に顔を合わせることになった。

 改めて見るが、イヴェアムはレオウードの大きさに感嘆する。

 対峙しているだけで、その大器ぶりが窺い知れる。

 これほど大きな人物とマリオネは戦ったのだ。

 そして善戦したが負けてしまった。それでも彼の手の内をほとんど把握することができて、効率の良い戦略を立てられるようになったのもマリオネの奮闘のお蔭だったが。


「ノフォフォフォフォ! ようこそ第五回戦へ!」


 まるで自分が開催しているかのような雰囲気を出すシウバに誰も突っ込まない。ここにリリィンがいれば確実に何かしらの反応をしてくれたとは思うが。


「……ごほん、では確認します。『獣人族』陣営、レオウード殿、レッグルス殿、王はレッグルス殿。よろしいでございますね?」


 二人は小さく頷きを返す。


「『魔人族』陣営、イヴェアム殿、マリオネ殿、王はイヴェアム殿。よろしいでございますね?」


 こちらもしっかりと肯定する。


「それでは両陣営、どちら様もご悔いの無いように。準備ができましたらお声をおかけくださいませ」


 そう言ってシウバが一歩退くと、まず口を開いたのはレオウードだ。


「この戦いに勝った方が、全てを手に入れることができる」

「ああ、全力で倒させてもらう」


 イヴェアムはそう答えると、レオウードはニッと笑みを浮かべてマリオネを見つめる。


「悪いとは思わんぞ。これも戦いだ」

「当然だ。この場に出た以上、情けなど無用。必ず勝たせてもらう」

「ガハハ! 良い雰囲気だ。やはり戦場はこうでなくてはな」


 獰猛そうに、だが確かに楽しそうに口端を上げる。


「それに魔王よ」

「何だ?」

「ワシが勝ったら、ヒイロを貰い受ける」

「なっ!?」

「アレをワシは気に入っててな。是非娘の婿にしたい」


 そんなレオウードの発言にマリオネはキョトンとし、レッグルスはやれやれと肩を落とす。

 そしてイヴェアムはというと――。


 プルプルプルプル……。

 

 肩を小刻みに震わせていた。顔を俯かせたままで。


「…………ない」

「ん? 何か言ったか魔王よ?」

「わ、わ……」


 他の者がイヴェアムに注視すると、イヴェアムはバッと顔を上げて宣言する。


「渡さないっ!」


 レオウードもその覇気にも似た決意に当てられてか、思わず目を見張ることになった。


「いいか! 絶対にヒイロは渡さんっ! ヒイロは私のものだっ!」


 そこからはしばらく沈黙が流れ、イヴェアムも勢いで自分が何を口走ったのか思い出し、瞬間湯沸かし器状態になってしまう。


「あ、う、い、いや、その、こ、これは違くて……」


 皆の視線が何故か冷たく感じるイヴェアムは両手で顔を覆いしゃがみ込むと、


「ああぁぁぁぁっ! お城に帰りたいぃぃぃぃっ!」


 とんでもないことを叫び出した。


「へ、陛下……」


 マリオネもさすがに不憫に思ったのか、優しく声をかけるが、突然キッとイヴェアムは彼を睨みつける。


「い、いいいいか! い、い、今のは言葉のあやで、あ、あ、あれだ! 私=『魔人族』なのであって、つまり私のものだというのは『魔人族』のものであって、決して私個人の思いというわけではなくてだな!」

「は、はあ、もう分かりましたから毅然としてください陛下」

「わ、分かっているわよっ!」


 口調も変化して、半ば自棄になったように立ち上がると、ビシッとレオウードに指を差す。


「わ、私が勝つっ!」


 イヴェアムの勢い九割確実な宣言を聞いてレオウードは楽しそうに笑みを見せつける。


「ガハハ! なるほど、さすがはヒイロだ! すでに魔王の心をも掴んでおったか!」


 そして瞬時に目を細めて真面目な表情をする。


「ならば力づくで全てを奪わせてもらおう!」


 二人の視線の間に火花が散る。二人してサッと視線を逸らすと、互いに距離を取るように離れて行く。


「こちらは準備はいい」

「こっちもだ」


 イヴェアムとレオウードの発言を聞いて、シウバが軽く咳をしてから、


「それでは開始宣言をさせて頂きますね」


 キーンと周囲の空気が一気に張りつめる。互いが互いの一挙手一投足を見逃すまいと瞬きを忘れて見入る。


「第五回戦――――――始めっ!」


 最終戦の幕が上がった。









「陛下、獣王は私が何とか抑えます! ですからあの者を!」


 王の役目を背負っている第一王子であるレッグルスを討つことを優先するのは当然の戦術だ。だがその考えは相手も当然持っているはず。

 獣王レオウードがレッグルスの前に立ち、さすがの覇気を感じさせている。王を獲れるものなら獲ってみよとでも言うかのように。


「マリオネ、上へ飛べっ!」


 イヴェアムは地面に手を置くと、


「――グランダッシャーッ!」


 凄まじい地響きとともにレオウードたちに向けて地面に亀裂が走る。そしてその亀裂がさらに広がり、その中から爆風に混じって石や土の塊などが彼らを襲う。


「むぅっ! 左に跳べレッグルス!」

「分かっています!」


 二人は弾けるようにその場から脱出を図り、イヴェアムの攻撃から避ける。


「マリオネッ!」

「分かっております! ――イクリプス・トライデント!」


 レオウード戦で見せた魔法を惜しげもなく使うマリオネだ。闇色の三叉槍がマリオネの周囲に幾本も生まれる。そして今度は槍群がレオウードたちに向かって空から襲い掛かった。


「上です父上!」

「理解しておると思うが決してアレに触れるなよ!」

「承知っ!」


 レッグルスは素早く剣を抜くと、力を剣に集中させる。すると剣を中心として空気中の水分が集束していく。水がちょうど剣を覆うほどになると、レッグルスはそのまま横薙ぎに振り切る。


「――《水の牙》ぁぁぁっ!」


 水でできた刃が剣から放たれ、槍群に直撃する。

 そして触れた瞬間、《水の牙》は弾けて槍群を吹き飛ばしていく。


「よくやったぞレッグルス!」


 上手く相手の攻撃を防いだレッグルスを褒めるが、


「こちらはまだ手はある!」


 イヴェアムはすぐさま次の行動に移っていた。今度は両手を開いて二人に向けている。


「――ブレイブフレイムッ!」


 右手から火炎が噴出し、


「――エアスパイラルッ!」


 左手からは風が竜巻状に放たれる。さらにその二つが合わさり、さながら炎の竜巻が生み出され、レオウードたちを襲う。

 それを見たレッグルスはギョッとなり咄嗟にその場から逃げようと試みようとするが、


「レッグルス、そこでしかと踏ん張っていろ!」

「……父上?」


 レオウードの身体が火のように真っ赤になり、顔をしかめるほどの熱風が飛んでくる。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 驚いたことに炎の竜巻に向かって突撃した。


「ち、父上っ!?」


 まさかの行動に驚いた様子のレッグルス。

 突然レオウードが炎に向かってその剛腕を振り抜くようにアッパーを繰り出したのだ。すると竜巻は拳圧に負けてしまったのか方向を変え、上空へと昇っていく。

 竜巻を殴り飛ばしてしまったレオウードの規格外っぷりに、息子であるレッグルスも唖然としてしまった。


「油断するなレッグルス!」

「え?」


 レッグルスの背後には、いつの間にかマリオネが位置取っていた。


「早々に終わらせてもらうぞ小僧!」


 その手には先程の三叉槍が握られている。


 ――ブシュッ!


 レッグルスの胸を突き破り三叉槍は残酷な姿をレオウードに見せつける。だがレオウードは少し驚いた表情を浮かべただけで、マリオネの方に向って来る気配は無い。

 何故だと思ったが、次の瞬間理由が分かった。


 ――パシャァッ!


 突然目の前にいるレッグルスの身体が液体状に弾けて地面に散る。


「なっ!?」


 そして背後から殺気を感じて振り向くと、そこから水の塊が飛んできていた。


「ちっ!」


 翼を広げてその場から空へと避難した。そして水の塊が放たれた先を確認すると、そこにはレッグルスの姿があった。


「……若造め、一杯喰わされたか」


 どうやら先程攻撃したのは水でできた分身だったようだ。


「まるで魔法のように《化装術》を使いこなすとは……これは認識を改める必要があるというわけか。さすがは獣王の血を引く者か」


 隙をついて勝負を決したと思ったのだろうが、逆にそれを逆手に取られていたようだ。しかも《化装術》を使いこなせていることから見ても、余程訓練をしたのだと推測できたはず。


「あの獣王がパートナーに選んだだけはあるということか」


 ゆっくりとイヴェアムの傍に降りてくる。


「陛下、どうやらあの若造もただの飾りではないようですな」

「それはそうだろう。彼はレオウード王の後継者だ。武よりも智に優れた人物だとは調査で理解していたが、だからこそ《化装術》の使いようが上手いのだろう。そしてそれは戦いでも確実に発揮できる」


 するとレオウードも嬉しそうに笑みを浮かべてレッグルスの近くに向かう。


「どうだ魔王イヴェアム、そしてマリオネよ! そう簡単には王は取らせんぞ?」

「……ああ、それは百も承知だ。しかし私の魔法を殴り飛ばすとは、どういう身体の構造をしているのだ?」

「ガハハ! 忘れたのか? ワシは火の《化装術》を持つ者だぞ?」


 そこでイヴェアムはゴクリと喉を鳴らした。たとえ火に耐性があっても、殴り飛ばすことができるのはレオウードしかいない。


「だが驚いたのはコッチもだ。マリオネの実力は先の戦いで分かっていたが、魔王があれほど強力な魔法を……しかも複数の属性を扱えるとはな。それに二つの属性魔法を合わせて攻撃するとは恐れ入った」

「舐めるなよ。こう見えても魔王だ!」


 イヴェアムはキッと鋭くさせた視線をぶつける。


「マリオネの体調のこともあり、すぐに終わるかとも思ったが、存外楽しめるな」


 獰猛な殺気がビリビリと大気を震わせる。生半可な者ならば、この圧力を受けただけで息苦しさを憶え戦闘不能に陥るだろう。


「マリオネ、体調は……いや、聞いても答えは同じか」

「そうですな、聞くだけ無駄ですとだけ答えておきましょう」

「ならその命、私に預けてくれ!」

「御意っ!」



     ※



 日色は目の前で繰り広げられるレベルの高い決闘に舌を巻く思いで見つめていた。


「ほう、やるではないかあの小娘も」


 リリィンも、予想以上の力を見せたイヴェアムのことを再認識したようだ。


「まあ、仮にも魔王だからな。あれくらいは当然だろ」

「ククク、獣王に蹂躙される小娘の姿を思い描いていたが、存外合成魔法まで使えるとは驚きだ」


 淡々と怖いことを言う彼女だが、合成魔法という言葉が気になった。


「知らないのか? 先程小娘がした火と風の魔法を合わせた魔法のことだ」

「ほう、アレが合成魔法か」

「合成魔法を成功させるには、互いの魔力を均一にしなければならない。その上で相性の良い魔法を繋ぎ合わせるコントロールは、かなり精密な魔力コントロールが求められる」

「なるほどな、見た感じ威力も段違いに跳ね上がるみたいだな」

「ああ、成功すれば数倍の威力になるだろう。しかし失敗すれば暴発する。序盤で使うとは、余程魔力コントロールに自信があるのだろうな」

「本でも読んだが、元来魔王とは『魔人族』の王という意味の他にも魔力の王という意味も含まれているというのは本当だったというわけか」


 何度も納得げに頭を縦に動かす。


「小娘もやるが、あの獣人の王子もなかなかだったな」

「ああ、《化装術》の使い方に無駄が無いな。よく考えてる」

「獣王は《化装術》をその力のままに暴力として使用しているが、あの王子は状況を見て戦い方を分けている。そうだな……獣王が剛なら王子は柔ってとこか?」

「みたいだな」


 そこで目の端にニッキとミカヅキの姿が映る。ニッキは戦いに目が奪われているかのように瞬きを忘れて見入っているが、ミカヅキは決闘には興味が無いのかシャモエと喋っているようだ。

 ニッキは自分も戦いたいのか明らかにウズウズしている様子である。彼女は人間のはずなのだが、何故か好戦的というか強い者に興味があるようだ。


 やはりモンスターに育てられたからなのだろう。人は環境次第でどうとにでも変わるという良い見本なのかもしれない。

 そこで再度視線をクレーターの方へ向ける。マリオネとレオウードの《ステータス》は確認していた。そこで『覗』を使い他の二人の力も確認することにした。




イヴェアム・グラン・アーリー・イブニング


Lv 104


HP 4750/4750

MP 6000/6500


EXP 820989

NEXT 41111


ATK 840(1040)

DEF 850(1050)

AGI 825(900)

HIT 819(919)

INT 1087(1287)


《魔法属性》 火・水・風・土・氷・雷・闇

《魔法》 ブレイブフレイム(火・攻撃)

     デッド・ヒート(火・攻撃)

     アクアジェット(水・攻撃)

     クール・ペイン(水・攻撃)

     エアスパイラル(風・攻撃)

     ゴッド・プレス(風・攻撃)

     グランダッシャー(土・攻撃)

     アストラル・レイン(土・攻撃)

     アイシクルストーム(氷・攻撃)

     イノセント・セイバー(氷・攻撃)

     ライトニングフォース(雷・攻撃)

     ボム・ヴォルト(雷・攻撃)

     インペリアル・ゼロ(闇・攻撃)

     ファントム・メテオ(闇・攻撃)

     アヴィス・ブレイド(闇・攻撃) 

     コスモエンド(闇・攻撃)




《称号》 魔王・エレメンタルレディ・最上級魔人族・本好き・モンスター殺し・我が道を行く・デキない女・信じられない子・ユニーク殺し・超人・甘えたがり・寂しがり屋・怖がり・ミスノーパーフェクト・頭がお花畑・魔王(笑)・夢追い少女・わがまま姫・恋に恋する乙女・極めた者




レッグルス・キング


Lv 83


HP 2870/3100

MP 380/455


EXP 652910

NEXT 12319


ATK 675(825)

DEF 622(672)

AGI 700(770)

HIT 442(502)

INT 312(315)


《化装特性》 水

《化装術》 水の牙・水形珠・流水転化・一閃の紫水



《称号》 水の友・家族思い・フェミニスト・秀才・苦労人・次期獣王・野生の剣・モンスター殺し・人斬り・ユニーク殺し・戦う獣人・達人・水の智将



 イヴェアムのMPはさすがと言うべきか。かなりの高さを誇っていた。そしてこの属性の数。確か普通は一人一属性を持っているのが普通であり、二つや三つ持っていることは稀だったりする。

 それなのに彼女はレベルが違った。光以外の七属性という圏外な才能を宿している。それに彼女は合成魔法も使えるので、手札はさらに多いはず。


(それだけ戦い方の幅を広く持てるってのは良いことだな)


 相手によっては相性などがあり、効き難い属性しか持っていなければ不利になる。しかしこれだけ多くの属性を持っているのであれば、相手に合わせて攻撃方法を選ぶことができるので有利に働く。


(あのヒョロ王子もまだまだ力を隠してるようだな)


 《転化》を使い出したらどうなるか見ものだと思った。ちなみにレッグルスの見た目がヒョロッとしているのでヒョロ王子と名付けた。


(まずは互いに序盤戦が終わり、これから激しくなっていくか……いや、長引けば長引くほど魔王たちが不利なのは目に見えてる)


 マリオネは一見回復したように振る舞っているが、間違いなく疲労している。勝負が長引けば不利になるのは当然だ。だからこそ魔王たちは短期決戦で決着を着ける必要があるのだ。


(次はどっちが先に仕掛けるか……)


 日色は興味深く目先を四人に向けた。






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