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11:旅仲間として

「――――国境越えだ」

「……え? そ、それって……?」

「ああ、お前らと同じだな」

「何でだよ! 何で人間のお前が獣人の大陸なんかに来るんだよ!」

「あ? そんなもん行ってみたいからに決まってるだろうが」

「………………はい?」

「オレはこの世界の情勢など知らん。興味も無い。オレはオレのやりたいようにやる。邪魔する奴らは最悪殺してでも押し通るぞ」


 沈黙がしばらく続く。


「…………ぷっ」


 アノールドは吹き出し大笑いを浮かべる。また自分を見て笑われたので額に青筋が立つ。


「何がおかしい変態」

「その肩書き定着させるつもりかコラァッ!」

「大体、オッサンたちが今やってることを、オレがやるだけだろ?」


 アノールドは突如真剣な表情をして言う。


「危険なんてもんじゃねえぞ? 特に今の『獣人族』はあらゆる意味で好戦的になってる。人間なんか見

かけたらただじゃすまねえかもしれねえぜ?」

「上等だ、返り討ちにしてやる」

「……本気なんだな?」

「当然だ。避ける理由が無い」

「獣人は強えぜ?」

「だがオレの方が強い」


《文字魔法》もあるし、何とかなると信じている。


「ほう、言うじゃねえか。増々お前のこと知りたくなったぜ」

「止めろ、寒気がしてくる。あいにく男色(だんしょく)()は無いぞ」

「俺もねえよチクショウが! 誰がホモだコラァッ!」


 まともな会話を成立させるつもりがねえのかと続けてアノールドが怒鳴ると、そうかもしれんなと淡々と返す。

 そのやり取りを見たミュアがまた小さく笑みを溢す。

 だが日色は彼女が自分を見て笑っているのが気になり「何がおかしいんだ?」と尋ねてみた。


「あ、ごめんなさい!」

「いや、ただ聞いただけなんだが……」

「あ……そのぅ……ヒ、ヒイロさんはいい人なんですね……って思っただけで」


 オレがいい人? そんなこと言われたこともほぼ皆無だし、まさか言われることがあるとも思っていなかったので、何だか逆に気持ちが悪い。


「おいおいミュア、コイツのどこがいい人なんだ? 悪い人の間違いだろ?」

「そ、そんなことないよ! ヒイロさんはわたしを助けてくれたし、それに…………と、とにかくいい人なの!」


 ミュアの剣幕に押されたアノールドは頬をかきながら押し黙る。


「まあ、オレがいい人なのかどうかはどうでもいい。それよりその帽子の下、見せてくれないか?」

「……え?」


 ミュアは突然の申し出に困ったような表情を浮かべるが、日色としては尻尾だけでなく獣耳を目にしたいという欲求がある。やはり異世界に来たのなら目にしておきたい。


「ダメか?」

「えっと……あ……はい、それじゃ……」


 恥ずかしそうに上目使いでこちらを見てくるが、彼女が帽子に手をやると、ゆっくりとその下に隠れていたものが姿を現す。


「ほうほう、なるほどな」

「う、うぅ……何か恥ずかしい……です」


 そこには紛うことなきアニメや漫画で見たような獣耳が存在した。ピクピクと動くそれが、実に可愛らしく映っている。

 この世界に来て、見てみたかった獣人をこんなにも早く拝むことができるとは幸先良いと思い満足気に頷く。

 本音を言えばじっくりと観察して触ってもみたかったが、さすがにそれは初対面でやることでもないし、相手は幼くても異性であることを考えて我慢することにした。


「もういいぞ、ありがとな」

「あ、は、はい」


 ミュアの頬は相変わらず上気していたが、帽子を被り直すと顔まで隠すように俯いた。どうやらかなり恥ずかしかったようだ。

 そんなミュアを見て、「むむむ!」と不満気に唸っていたアノールドが、日色とミュアの間に流れているムードが気に入らないのか、二人の間に体ごと入ってきた。


「何だオッサン?」

「い、いや~別に何でもねえぞ」

「何か白々しいんだが?」


 突然間に入って来て下手な口笛を吹く姿を見て何も思わない者はいないだろう。


「と、とにかく、ここで会ったのも何かの縁だ。行き先は同じなんだし、一緒に来いよ? 案内してやっから」

「ふざけるな。なに上から物を言ってる? オレは一人で……」


 そう言って少し思案顔を作る。急に黙ったのでアノールドが聞いてくる。


「ど、どうしたんだよ?」

「……ついて来て下さいの間違いだろ?」

「ぐっ……このガキは……ホントまったくよぉ」


 歯ぎしりしながら睨みつけるが、すぐさま溜め息に変わる。


「はぁ~、お前には口では勝てそうにねえわ。ま、そんじゃ一緒に行くとするか」

「勝手にしろ」


 本来なら一人で行動するつもりだったが、獣人のことを学ぶのに良い機会だと思った。

 これから向かう獣の大陸に、予備知識無く入るよりは断然あった方がいい。だから同行することを許可したのだ。


「あ、それとだ」


 突然アノールドが凄んだ顔つきで睨みつけてくる。


「何だ?」

「一つ忠告しておくぞ」

「だから何だ?」

「…………ミュアには手を出すなよ」

「オレはノーマルだ変態め」

「ふっざけんな! 俺こそドノーマルじゃボケェ!」

「ん? それは初耳だな。オレは幼女に興味は無いが、お前は幼女にしか興味が無いんじゃなかったのか?」

「よしよしよ~し、表に出ろやこの腐れガキポンタンがぁっ!」

「ここはもうすでに表だロリコン」

「その名で呼ぶなぁぁぁぁっ!」


 二人の変わらずのやり取りを見て、やれやれと肩を竦めるミュア。しかし誰にも聞こえないような呟き声で、


「わたしは幼女じゃないもん」


 と言ったのを聞いた者は誰もいなかった。









「なあヒイロ、さっきの戦いでも感じたけどよ、お前ってレベル幾つなんだ?」


 【トーチュー山脈】を越えている最中、アノールドから質問が飛んできた。


「何故そんなこと聞く?」

「いやな、お前って妙な魔法使うけど、レベルはあんま大したことねえんじゃねえかと思ってな」

「何の根拠があってそんなこと思う?」

「だってよ、お前って確かに『人間族』にしては妙に身体能力高えし、殺気もガキとは思えねえけど、何かこう戦いの動き方が少し素人臭え」

「…………」

「だから強えは強えけど、戦闘経験はそれほどでもなくて、レベルもまだ低いんじゃねえかと思ってな」


 アノールドの観察眼はなかなかのものだと感嘆した。確かにこの【イデア】に召喚されてからまだそれほど時間は経っていない。

 様々なクエストをこなし、モンスターとも山ほど戦ったと思ったが、熟練者の冒険者と比べると可愛いものだろう。


 それを先の戦いでしっかりと観察していたというのだから、アノールドの観察力には舌を巻く思いだった。


「さあな、レベルが低かろうが高かろうが別に関係無いだろう? 要は強いか弱いかだ」

「あのな、これから一緒に旅するんだぜ? 戦闘時も互いに庇うこともあるかもしれねえ。だから互いのレベルを知ってた方が何かと都合が良くねえか?」


 アノールドの目をジッと見つめる。そこには偽りを含ませた濁りは感じなかったし、彼の言うことも正論だと思った。


「そうだな、一理ある」

「なら」

「オッサンは?」

「は?」

「オッサンは幾つなんだ?」

「ああ、俺か? 俺は31だ」


 迷うことなくスラリと言葉を出した彼を見つめる。


(……一応確かめておいた方がいいか?)


 魔力を人差し指に集中させると、彼らに見えないように素早く文字を書く。


(この文字なら調べることができるだろう)


『覗』


 これは相手の思っていることや、《ステータス》などを覗くことが可能になる。

 これでアノールドの言っていることの真偽を確かめることができる。



アノールド・オーシャン

Lv 31


HP 305/315

MP 158/158

EXP 46879

NEXT 5250


ATK 334(378)

DEF 299(315)

AGI 278(283)

HIT 206(208)

INT 95(96)


《化装特性》 風

《化装術》 風の牙・風陣爆爪・爆風転化

《称号》 風の友・元奴隷・料理人・親バカ・暑苦しい男・変態と呼ばれた男


ミュア・カストレイア

Lv 13


HP 107/111

MP 82/82


EXP 2655

NEXT 533


ATK 102(105)

DEF 100(108)

AGI 99(102)

HIT 77(78)

INT 54(55)


《化装特性》 

《化装術》 

《称号》 奪われた者・マイエンジェル・キューティフラワー・我慢の子




 確認した結果、彼のレベルが31であることと、隣にいるミュアのレベルが13だということを確認できた。アノールドの称号に関しては思わず吹き出してしまうものが幾つもある。

 だがアノールド自身は、嘘を言っていないことが証明された。

 ここまで慎重になることは無いかとも思ったが、『覗』の文字効果も確かめたかったからちょうど良かった。


 そして彼らの《ステータス》の中で《化装術(けそうじゅつ)》というのも気になった。本来そこには魔法のことが書かれてあるのだが、どうやら獣人は違うらしい。


(さっき使ったほとんど魔力を感じなかった技がこれってことか……なるほどな)


 今度《化装術》についても時間があったら調べてみようと思った。


「…………オレは23だ」


 アノールドが正直に答えたので、こちらも正直に答えた。別にレベルくらい教えても支障は無いと判断したからだ。

 だが今回のことで、アノールドはかなりの馬鹿正直ということも確認できた。それにお人好しな部分もある。総合して言えば良い奴ということだ。

 自分は疑り深い性分だが、少なくとも彼らは自分を騙そうとするような者たちではないことが分かった。


(まあ、まだ完全に信用するのは無理だが、しばらくコイツらと一緒にいるのも面白いかもしれないな)


 そんなふうに思っていると、


「よっしゃあっ! やっぱ俺の方がレベル上だった! よっしゃ勝ちぃぃぃ!」


 もういい歳なのに、子供のようにガッツポーズをして喜びながら、こちらに優越感を宿した表情を向けてきたので少しムッときた。


「ふん、レベルだけが全てじゃないだろ? 何が嬉しいんだ変態?」

「変態言うなっ! 負け惜しみかコノヤロウ!」

「……何だと?」

「あわわわわ!」


 二人が睨み合うので、ミュアはどうしていいか分からずおどおどしている。


「なら試しに仕合ってみるか?」

「おお、それは面白えじゃねえか! ここらで大人の強さってもんを見せつけといてやるぜ!」


 言い争いを始めた二人を見て、このままでは口喧嘩の域を越えてしまうと思ったのか、ミュアがその場から勢いよく走り出した。

 それを見たアノールドがハッとなり、彼女の名前を叫ぶ。すると彼女はピタッと立ち止まる。


「は、早く行こうよおじさん! ここを越えたらすぐに村があるんでしょ!」

「あ、ああ」

「わたしお腹減っちゃった! だから早く行こ!」 


 またも走り出したミュアを見て、一人で行かせるわけもいかなく、


「ああもう、ヒイロ! この続きはまた今度だ!」

「恥をかかずにすんだなオッサン」

「そりゃお前だバーカ!」


 ミュアは二人がそんなやり取りをしているが、自分の後を追って来ているのを確認してホッとして頬を膨らませながらも、どことなく楽しそうに言葉を発した。


「よ、良かったぁ~。……もう、おじさんもヒイロさんもケンカするなんてダメなんだからね!」




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