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金色の文字使い ~勇者四人に巻き込まれたユニークチート~  作者: 十本スイ
第四章 運命を決める決定編

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107:チートな日色

「ミュアちゃん!」


 自分の陣営へと戻って来たミュアたちは、不安そうに駆けつけてくるミミルに安心感を与えるように微笑んで迎えた。


「腕……大丈夫なのですか?」

「う、うん。痛いけどね」

「すぐに治療を受けてくださいね!」


 必死に自分の心配をしてくれるミミルの気持ちに心が温かくなる。


「アノールドさんも、是非お身体をお休め下さいね」

「ありがとうございますミミル様」


 そこにララシークがレオウードとともに近づいてくる。


「何か面白いことしてたみてえだが、小僧が何かしてたのか?」


 ララシークにアノールドが説明すると、傍にいたレオウードも感心するように唸っていた。


「ふむ、そのようなこともできるとは本当にビックリ箱のような奴だなヒイロは」

「はは、確かにアイツの力は謎だらけです」


 そしてそこへ話を聞いていた第一王女ククリアも興味深そうにクレーターの中心にいる日色を見つめる。


「次はあの子が戦うのよね?」

「え? あ、はい、そうですよ」


 アノールドが彼女に顔を向ける。


「本当にそんなに強いの?」

「はは、実のところ今の実力は分かりません。けど、国王様がお認めになられているということは、そうなのでしょうね」

「ふぅん……信じられないわ」


 確かに歳はククリアと変わらないし、豪傑とは言い難い日色の華奢な姿を見てそう思ってしまうのは仕方の無いことだった。


「ククリアよ、よく見ておくがいい。あの男こそ、今や『魔人族』の英雄と呼ばれし『人間族』だ。その強さは……その目で確かめるのだ」

「……分かったわ父上」


 レオウードは小さく頷くと、


「さあ、次はお前たちだ。後一つ勝てばこちらの勝利だが、最後まで気を抜くな。どうやら次はあの英雄のようだからな」

「「「はっ!」」」


 答えたのはレオウードの前に跪いている三人だ。

 そしてその三人こそ、【獣王国・パシオン】が誇る《三獣士》の面々だった。


「お前たち三人のコンビネーションは完璧だ。いいか、先程も言ったが、相手を侮るなよ? と言ってもバリドと、特にクロウチはそういう心配は無さそうだな」


 二人は小さく頷く。何せ二人は直に対決しているのだから日色の厄介さは理解しているだろう。


「よし、では行って来い! お前たちの手で『獣人族』勝利を捥ぎ取って来い!」

「「「はっ!」」」

 


     ※



「おや? 来られたようですよ?」


 シウバが隣にいる日色に、次の第三回戦の『獣人族』がやって来たことを口にする。


「……げ」


 相手を見て思わず日色は唸る。何故ならその中の一人から熱烈な視線を向けられていたからだ。


(おいおい、またあのニャンコ野郎かよ)


 その相手はクロウチだ。ニヤニヤと口角を上げまくっているのだが、それが不気味過ぎて寒気がする。


「お? こちらも来られたようですよ?」


 そしてそこに現れた『魔人族』陣営を見て、さすがのシウバも「え?」と言う感じで固まっていた。

 無理もないだろう。何故なら明らかに数合わせのような兵士が二人いたからだ。《三獣士》たちも、その二人の顔と名前はもちろん知らないだろう。言えば日色だって知らない。興味もない。

 その中で、特にバリドなんかはハッキリとした殺気を日色にぶつけてくる。


「どういうことだ少年?」

「……何がだ?」

「惚けるな。あの者たちは隊長格でも、《魔王直属護衛隊》の側近でもないだろう?」


 完全に緊張してそわそわしている二人の兵士の姿を見て額に青筋を走らせる。


「どう見てもただの一般兵だ。この決闘が種族の命運が懸っていることを魔王は理解していないのか?」

「してるだろ」

「ふざけるな! この一戦で貴様たちの運命が決まるのだぞ! 負ければこちらの三勝で決闘は終わりだ! そんな大事な決闘にたかが兵士二人だと!」


 馬鹿にされていると感じているのか、それとも決闘を舐められていると感じているのか、顔を真っ赤に染めながら怒声を浴びせてくる。


「はぁ、別にふざけてはいない。この二人で十分だと判断したから、事前にこの二人を登録しておけと言っておいただけだ。まあ、オレの提案に魔王はひっくり返りそうになってたけどな」


 日色は自分が出る戦いは兵士でもいいと言った。下手にアクの強い奴がチーム内にいると面倒だったので、大人しい兵士をチームに入れるように提案したのだ。

 無論魔王他全ての者が反対した。何せ国の一大事を決める決闘なのだ。少しでも勝利する確率を考えると強者を加えた方が良いに決まっていた。


 だが日色は断固として兵士を所望した。そうしなければ参加しないとも。

 そんな日色の断固とした提案に、イヴェアムは渋々頷くしかなかった。


「……ということはだ、その弱卒を加えただけのチームで、我ら三人を相手にできるとでも言うのか?」

「そういうことだ」


 淡白にそう言うと、ギリッと歯を噛み締めたバリドが、


「ほほう、後悔させてやろう。その提案をした貴様も、本来部外者である『人間族』の提案を馬鹿みたいに了承した魔王もな!」


 ギロリと睨みつけてくるので、日色の背後にいる兵士はその圧倒的な覇気で気圧されている。


「我々を舐めた代償は高くつくぞ!」

「……馬鹿にしないでほしい」

「ニャハハ! ホントに面白いことばかりするニャねヒイロ……ううん、タロウ?」


 バリド、プティスが喋った後、クロウチが口を開いたが、その言葉を聞いて日色は少し目を見開く。


「……気づいたのか?」

「ニャハハ……会いたかったニャ……」

「オレは会いたくなど無かったけどな。あとオレはヒイロだ。タロウは偽名だ」

「知ってるニャ。確認のために言っただけニャ」


 楽しそうにニヤッと口元を歪めている。


「……しかしお前、あの時は力を使い果たして真っ白になってたが、どうやら体調は万全のようだな?」

「お蔭様でニャ。それにニャ、今のこの姿だって、元々僕の力で作り上げているだけニャのニャ」

「…………ということは本来の姿はアッチか?」


 白い姿の方がクロウチの正体らしい。


「そうニャ。ニャんでこんな格好してるかというとニャ」

「ああ別に興味無いからどうでもいい」

「ニャんとっ!?」


 日色にあっさりと拒否られガックリと肩を落とす。そしてクロウチの身長が徐々に縮んでいき、黒い毛も真っ白くなっていく。

 そして涙目で指を突きつけて叫び出す。


「これはニャ! 僕の名前がクロウチって言うのと、貫録をつけるためにカッコ良い大人の男の格好をしてただけニャッ!」


 説明を求めていないのに勝手に喋り出した白い幼女に対して溜め息を漏らす。


「……あっそ」

「ニャんでそんな興味がニャいニャァァァァァァァッ!」


 頭を抱えてパニックに陥る白髪の幼女。確かにどこからどう見ても、先程の黒豹のような威圧感は感じられなかった。

 まるで白い猫が擬人化したようなその姿は、ただ…………。


「ノフォフォフォフォ! これは何とも可愛らしいお姿です! ついつい熱き抱擁をしたくなりますなぁ! ノフォフォフォフォ!」


 変態を呼び寄せるだけだった。


「どうでもいいからさっさと始めろ変態執事」

「これはまた手厳しいお言葉! ノフォフォフォフォ!」


 相変わらずのシウバに溜め息しか出ない。だが一つ咳をした後、彼はキリッとした表情を浮かべる。


「では、準備はよろしいでございますか?」


 日色とバリドは頷きを示す。


「まずは双方参加者の確認でございます」


 そうしてシウバが名前を呼び上げて、それぞれが返事をする。


「次に王の確認でございます。『獣人族』陣営はバリド様。『魔人族』陣営はヒイロ様。間違いございませんね?」


 またも二人が首を縦に振る。


「それでは、第三回戦…………始めっ!」


 すると弾かれたようにクロウチが飛び出し、日色を襲撃しようとする。

 しかし――。


「うぐぅっ!?」


 突然クロウチが地面に向かって押し潰されているかのように張り付く。地面にはヒビが入り、彼女は必死に動こうとするが自由がきかない。


「ニャ……ニャにが……っ!?」


 無論彼女の状態は日色が生み出したものだ。

 いつの間にか右手の人差し指の先には『重力』という文字が刻まれていた。

 その文字の効果は、重力を操ることができるというものだ。向かって来るクロウチに対して、彼女の周りの重力を十倍以上に負荷をかけた。


「クロウチッ!?」


 バリドが叫ぶが、


「こ……こうニャったらぁぁ……」


 するとクロウチの影が広がり、そのまま影に吸い込まれていく感じで身体が沈み込んでいく。半分以上身体が埋まったところを確認すると、


「それを待ってたんだ」


 日色はその影に向かって『拘束』という文字を放つ。バチバチという放電現象が起きると、ピタッとクロウチが沈むのが止まる。


「ニャッ!? う、動けニャいニャァァァァッ!」


 両手両足がまるで影に引き摺り込まれて拘束されているかのようにビクともしない。日色は『重力』の効果を解くと、ゆっくりとクロウチの傍まで歩いて行き、


「……まず一人目」


 バリドとプティスを見つめる。あっさりと動きを奪われたクロウチを目にして、二人の警戒心は最大限になる。


「気を抜くなプティス! やはりあの少年は脅威だ!」

「……わかった」


 ペンギンの着ぐるみを着たプティスの頭がコクンと動いた。

 しかし彼らが何かをする前に、日色は『発光』の文字を使い、周囲に目を覆うほどの発光現象を生み出す。


 咄嗟に二人はほぼ同時に距離をとるために後ろにジャンプするが、プティスは着地した瞬間に足元の違和感を覚えたのかギョッと固まる。


「動けないだろ?」


 日色はすかさず地面に向けて『粘着』という文字を放っていた。これでプティスの足元の地面は鳥モチのように変化して動きを奪った。


「……っ!?」


 先程の光はこれを仕込むための目眩ましだったのである。プティスは悔しそうにプルプルと震えていた。


「……これで二人目」


 そうして地面に着地せずに空を飛んでいるバリドを見上げる。


「あとはお前だけだ――鳥野郎」

「くっ! ならばこちらも早速《転化》で――っ!」


 バリドは警戒度をマックスにし、獣人にとって奥義でもある《転化》を使おうとしたが――ガシッ!


 突如、バリドの背後に立った人物が、彼の頭を掴んだ。


「――っ!? い……いつの間に……いや、それよりも……!」


 バリドは眼下に意識を向けるとそこには間違いなく日色がいた。

 ならば背後にいるのは誰なのか気になるのも当然だろう。

 しかし、だ。


「――お前で最後だ」


 日色の声が背後からバリドの耳鼓膜を震わせた。

 そのままバリドは愕然とした表情を浮かべながらも、全身から力を抜き、闇へと意識を沈めていった。


 まさに瞬殺――。


 日色はぐったりとして落下していくバリドを冷ややかに見下ろしている。

 日色がしたことは実に簡単な事だった。

 各個撃破を考えていた日色は、まず手の内を知っているクロウチから仕留めようと考えた。


 だから彼女が向かって来た瞬間に『重力』の文字を使って、まず動きを制限させる。ただそれだけでは恐らく影を使う相手なので、相手はその中に潜り込むと推察。

 そのため潜り込む最中に『拘束』の文字を使って完全に動きを奪うことにした。

 

 そして次、残りの二人に目眩ましさせるために『発光』を使用する。

 だがここでプティスは、日色は『粘着』の文字を使って地面を鳥モチにしただけと思っているようだったが、実際はもう一つ行動していた。


 それは以前ララシークの時にも使用した『影分身』だ。その場に分身体だけを残して、本体は『隠形』を使って気配を断ち、その場を離れて身を隠した。

 『粘着』の効果で動きを止めることに成功した日色は、最後にバリドに視線を向けて注意を促した。無論これを行ったのは分身体である。


 そして本体は『転移』の文字を使用して、すかさず彼の背後に迫り、頭を掴んで『気絶』を使い意識を奪ったということだ。

 ハッキリ言ってこれは迅速に行う必要のあった行動だった。


 何故ならば、幾ら『拘束』と『粘着』で他の二人の動きを止めているとは言っても、《転化》して手足の部分を切り取れば解放されるからだ。

 そうなれば今度は慎重さを重視し、倒すのが面倒になる可能性が高い。だから日色は、一連の動きを全速力で行ったのである。


 実際こうも上手くいったことに少しは驚いていたが、奇しくも参加者全員がほぼ無傷で勝利といった、イヴェアムが手を上げて喜びそうな結果になった。

 だが間違いなくこの勝負は――。


「――第三回戦は『魔人族』の勝利です!」


 日色の圧勝だった。



     ※



「う……嘘……!?」


 その呟きはククリアのものだったが、それは『獣人族』全員の心に浮かんだ叫びだっただろう。

 それもそのはず。自分たち『獣人族』が誇る最高戦力の《三獣士》が、ものの数分足らずで戦闘不能に落とされたのだ。しかもそれを行ったのがたった一人の少年である。

 驚かない方がどうかしている。日色のことを知っているミュアたちもまた、あまりの光景に絶句していしまっていた。


「ち……父……上?」


 ククリアは隣にいるレオウードに顔を動かさず言葉だけ放つ。


「こ、これが彼の……強さ……ですか?」

「…………」


 厳しい表情で日色を見つめているレオウードは何も答えない。


「……そうです」


 するとその中でミュアが重々しい口を動かした。

 ククリアが彼女に視線を向ける。


「アレが……今のヒイロさんです」


 だがミュアもまた日色の想像だにしない成長ぶりに驚嘆していた。

 そんな中、大きく息を吐く音がレオウードから聞こえる。


「……ククク……ガハハハハハ! 何という奴だ! 《三獣士》を子ども扱いだとはな! ガハハハハハ!」


 そして彼の目に、今もなお呆けているミミルの顔が映る。


「お? どうしたミミル?」

「…………」

「ん? ミミル?」


 確かに呆けているのだが、まるで感動しているかのように頬が赤く染まっている。そしてようやく彼の言葉が届いたのかハッとなってミミルは正気に戻る。


「あ、お父様……」

「どうしたミミル? 未来の夫の勇姿に見惚れていたか?」

「お、お父様っ!」


 頭から湯気を出しながら声を張り上げる。ポカンとしているククリアを視界に捉えると、


「ククリアよ、お前も他人事ではないぞ?」

「へ?」

「お前が奴を気に入れば、ワシは奴をお前たちの婿として迎える用意がある」

「なっ、ななななななななっ!」


 瞬間、顔を真っ赤にしながら口をパクパクと動かし始めるククリア。ミミルも恥ずかしそうに顔を俯かせている。

 だがその中で気が気でない少女が一人いた。

 アノールドがその少女であるミュアを見て「ひっ!」と思わず悲鳴を上げる。

 何故なら彼女の背後から黒いオーラが漂ってきているからだ。


「だ、駄目ですっ!」


 ミュアは我慢できず会話の中に入っていった。

 レオウードはキョトンとなったが、ミュアの表情を見て何か察したのかニヤリと口角を上げる。


「ほほう、アイツも隅に置けないようだな。まさか、そうなのかミミル?」


 ミミルにミュアの想いを確かめると、


「そ、その……」

「ガハハハハ! その反応だけで十分だ!」


 楽しそうに笑うと、視線をミュアに戻す。


「なるほど、ならば簡単な話だ。ミュアもヒイロを婿にとるといい」

「ほへ……へぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」


 予想しなかった提案だったらしくククリア同様の表情で叫ぶ。


「何を驚く? 好いた相手をものにするのは『獣人族』は当たり前だろうが。それにだ、強い男が多くの女を囲うのは当然のことよ! まあワシが生涯をかけて愛しているのはたった一人だけだがな! ガハハハハハ!」


 一夫多妻制というのは、少なくても【パシオン】では認めているらしい。ただレオウードが認めた者限定のようだが。


「ちょ、ちょっとパパ! か、勝手に人の結婚相手を決めないでよ!」

「ククリア、父上か父様かで呼べと言っているだろう? それにそうは言うが、お前は気に入らんのか、あれほどの男だぞ?」

「え、あ、その……それは……」


 チラリと日色を見つめるが、頬がサッと染まる。


「だ、だから前から言っているけど、ワタシは好きになった人と一緒になりたいのよ!」

「分かっておる。だから無理強いはしてはおらんではないか。それにヒイロのことを好きになるかもしれんだろう? というより、お前もワシの血を引くのなら、少しは惹かれておると思ったのだがな」


 ニヤニヤとレオウードは見つめてくるが、ククリアはプイッと顔を背ける。


「知らないもうっ!」

「ガハハハハ! まあミミルとミュアはすでに確定みたいだがな! この分だと幼いミミルたちに先を越されるぞ? ガハハハハ!」 


 その言葉にミュアとミミルはまたも真っ赤になって顔を俯かせる。

 そしてそんな会話を黙って見ていたアノールドが恨めしそうに呟く。


「ヒイロ……何て羨ましい奴」


 国王公認という事実に開いた口が塞がらない。


「というよりも絶対にミュアはやんねえからな!」


 ギラッと日色に殺気を込めた視線をぶつけるが、ふと真面目な顔になる。


「けど、ホントまったくよぉ、強くなり過ぎだろうがボケ……」


 まさか日色が半年であれほどの高みにまで登りつめていることが信じられないようでショックを受けている。彼だって死にもの狂いで修行してきた。そして強くなった自負もあるだろう。

 だが日色の圧倒的な強さを見て、軽く消沈し肩をガックリと落とす。

 すると肩に手が置かれる。見るとララシークだった。


「し、師匠?」

「こりゃ追いつくのは必死だな」

「……そうですね。まったく、とんでもねえスピードで走りやがって」

「けど、置いていかれるのは勘弁なんだろ?」

「もちろんです!」


 力強い瞳を彼女に向ける。彼女もニッと笑うと、


「なら強くなりゃいい。あんなもんの隣に立ちたかったら生半可な覚悟じゃ無理だろうがな。しかしまあ、アイツの魔法はホントに反則くせえな」

「はは、言えてますね」


 必ず日色の強さに追いつくと決意を込めてジッと見つめた。



     ※



「フニャッ!」


 日色の魔法が解かれ、拘束から抜け出したクロウチ。

 そしてプティスもまた地面を元に戻されて自由を手に入れた。


「またオレの勝ちだなニャンコ野郎」

「今は野郎じゃニャいニャ!」


 それもそうかと日色は思った。今の彼女はどこからどう見ても幼女なのだから。


「そういや、お前はそれが本来の姿って言ってたな」

「そうニャ! 驚いたニャ?」


 自慢するようにふんぞり返っているが、基本はどうでもいいので、


「じゃあ、ニャン娘(こ)な」

「そのまんまニャッ!?」


 日色のあまりにもセンスも捻りもない名付け方に大きなショックを受けて固まる。


「……少年」


 そこへバリドが声をかけてきた。どうやらプティスに起こされて気がついたようだ。そして悔しそうな顔を見ると、負けたことを教えられたらしい。


「何を言おうが勝ちは勝ちだぞ?」


 そもそも相手に実力を出させずに勝つのは兵法の基本である。


「…………いや、勝負に異論を言うつもりはない」


 これは少々意外だった。きっと何かしら不満をぶつけてくると思っていたからだ。


「我々は確かに少年に負けた。それが結果だ。そして戦いでは結果こそ全てだ」

「……さすがは軍人ってとこか」


 彼の潔い考えに肩を竦めて口を動かした。


「……一つ聞いてもいいか?」

「答えられることならな」

「もし少年の企みが失敗して、各個撃破ならず、三対一という図式になってしまった時、少年はどうするつもりだったのだ?」


 他の兵士たちはほとんど数にも数えられない戦力だと言外で言っている。確かに日色は兵士には戦力など求めてはいなかった。


「そうだな、その時は……」

「その時は?」

「…………纏めて潰してたろうな。それこそ力づくでな」

「それができたと?」

「ああ、問題無くな」


 するとバリドは目を細めて睨みつけてくるが、日色はそれを何でもないような感じで見つめている。

 そしてバリドはフッと頬を緩めた。


「そうか。いやすまない、ただ少し未練があっただけだ」

「…………」

「できることなら一対一で勝負してみたかった。互いの全力をぶつけてな」


 どうやら不満はあったようだ。しかしそれは日色を非難するものではなく、ただ日色と本気で戦ってみたかったという欲求らしかった。


「別に構わないぞ」

「……え? 本当か?」


 思ってもみない日色の反応にハッとなるバリド。


「ああ、対価さえ払えばな」

「た、対価?」

「当然だ。誰がただで動くかよ」

「…………フフフ、なるほど、ララシーク様からお聞きした通りの人物だな」


 呆れたように苦笑を浮かべると、サッと手を出してくる。


「では、いつか対価を用意しておくとしよう。その時を楽しみにしている」


 日色もその手を取り、しっかりと握手を交わす。


「ああ、くだらん対価なら引き受けないからな」

「はは、善処しよう」


 そのままバリドは踵を返して自分たちの陣営に戻って行った。その後ろをプティスがチョコチョコっとついて行く。


「お前らももう帰っていいぞ」


 兵士たちも日色の圧倒的ぶりに衝撃を受けていたのか固まっていたが、日色に話しかけられてビクッと正気に戻り、慌てて頭を下げて恐縮すると、言われた通りその場から即座に去って行った。

 そして何故か場に残ったクロウチがジッとこっちを見上げてきている。


「……何か用か?」

「タロウ……じゃニャかった、ヒイロ!」

「あ?」

「僕の部下に……」

「断る」

「ふにゅ~」


 即座に断られて頬を膨らませる。


「お前な、前の時もそうだったが、言っただろ、オレは誰の下にもつく気はない」

「そ、そんニャこと言って! 魔王の下についてるのニャ!」

「違う。ただ単に依頼を受けてここにいるだけだ。要するに仕事だ仕事」


 本当は魔王イヴェアムと一緒に居れば、リリィンの夢の実現に少しでも近づくからという思いがある。


「ふぅん……ニャらね、この決闘が終わったら、うちに来るニャ!」

「は? うち? 【パシオン】にか?」

「そうニャ! そんで《三獣士》に入るニャ! あ、ヒイロが入ったら四獣士になるのかニャ?」


 どうでもいい悩みを浮かべているようだが、日色はきっぱりと言う。


「いいか、オレはどこかに永住する気は今のところはまったくといっていいほど無い」

「…………どうしてもかニャ?」

「どうしてもだ」


 すると顔を俯かせたクロウチが肩を震わせ出したかと思ったら、


「フニャァァァァァァ~ッ!」


 突然地面に転がり始めた。


「嫌ニャ嫌ニャ! ヒイロは僕と一緒に来るのニャァァァァ!」


 もうただの駄々っ子そのものだった。


「ノフォ……とても可愛らしいですなぁ……」


 変態執事にはその光景がご褒美のようだ。だが当然日色にはそういう嗜好は無いので呆れるばかりだった。


「はぁ、オレは帰る」


 そう言って放置して帰ろうとしたら、ガシッと腰を掴まれる。


「う~ヒイロォォォ~」


 目をウルウルさせながら、欲しい玩具をねだる子供のような態度を向けてくる。


(よだれ鳥、バカ弟子、青リボン、それにコイツ。何でこうも幼女がしがみついてきやがるんだ?)


 称号にも《幼女落とし神》があったが、何一つ意識して落としたことなどない。気がついたら抱きつかれたり頼られたり尊敬されたりするのだ。


(分からん……もうホントに意味が分からん)


 ハッキリ言って幼女にときめくような変態スキルは持ち合わせていないのだ。


(オッサンやジイサンみたいにロリコンなら喜ぶんだろうけどな……実際に今変態執事が羨ましそうにコッチを見てやがるし……)


 シウバはじ~っと日色の腰に顔を擦り合わせているクロウチを見ていた。


「……はぁ、とにかく離れろ」

「嫌ニャァ~」


 するとクロウチの首元をガシッと誰かが掴んだ。


「フニッ!?」


 思わず首が締まり声が漏れる。


「ニャ……誰……?」


 振り返った先には先程バリドとともに去ったはずのプティスがいた。


「プ、プティス? ニャにするのニャ!」

「……帰る」


 どうやらいつまで経っても戻ってこない彼女を連れ帰りに来たようだ。


「う~ヒイロも連れて行くのニャァ!」

「……わがまま、だめ」

「嫌ニャ嫌ニャ嫌ニャ嫌ニャ嫌ニャ嫌ニャ!」


 ――ドスッ!


 盛大に拒否し頭を左右にブンブン振りまくるクロウチの後ろ首に一撃入れるプティス。

 容赦のない奴である。


「ふにゃ~……」


 花が萎れる感じに脱力し、ブラックアウトしていくクロウチ。

 その様子を見て、ようやく面倒事から解放された日色は礼を言う。


「助かったぞ。ありがとな」

「……別にいい」


 ペンギンの着ぐるみを着た変な奴だが、こうして助けてくれたので、結構良い奴なのだろうと推測した。

 だが何故かこちらをジッと見つめているプティスに気がつき、


「……何だ?」

「……ふしぎ」

「……は?」

「あなたは……ふしぎな人」


 それだけ言うと、クロウチを引きずりながら帰って行った。


(……何なんだアイツ……?)


 やはり獣人には変わった奴が多いなと思いながらも、自分もリリィンたちのもとへと帰って行った。






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