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金色の文字使い ~勇者四人に巻き込まれたユニークチート~  作者: 十本スイ
第四章 運命を決める決定編

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103:ミュアたちの戦い

「……うぅ」

「マリオネッ! マリオネ、大丈夫かっ!」


 マリオネとレオウードの決闘が終わって、イヴェアムたちは意識を失ったマリオネの元へ急いだ。そしてクレーターの外へと運び介抱していた。

 しばらくしてマリオネが意識を回復する。


「へ……陛下……」


 マリオネが敗北したことを反芻したのか、申し訳なさそうな表情をして拳を震わせる。


「お……お力に添えず……申し訳ありませんでした……」


 彼の気性からどんな罵倒も誹謗も受けるつもりだったのだろう。必ず勝つと豪語しておいて、結局のところレオウードを本気にさせただけで、確固たるダメージも与えられずに終わってしまったのだから。

 《魔王直属護衛隊》として、あまりに情けない結果に対し何を言われても仕方が無いと思っているはず。

 しかしイヴェアムは静かに首を横に振り、「そんなことはないっ!」とマリオネの思いを一掃するかのように声を張り上げた。


「……陛下?」

「確かに負けてしまったのは残念だ。しかし、それで私のお前に対する信頼が落ちるはずもないだろう!」

「…………」

「むしろ獣王相手に、あそこまで追い詰めたのだ。今後彼が決闘に出たとしても、手の内が知れた相手なのだ。次の者は楽になる」

「陛下……」

「良い戦いだったぞ、マリオネ!」


 マリオネは一辺の曇りも無いイヴェアムの明るい顔を見て、どこか安堵したような表情を浮かべる。そしておもむろに目を閉じると、マリオネは静かに言葉を発した。


「お言葉…………痛み入ります。次は……必ず勝利を陛下に捧げます」

「ああ、期待しているぞ!」


 その言葉に目を微かに開けて軽く笑みを浮かべると、再び意識を失うようにその目を閉じた。

 イヴェアムは部下にマリオネの介抱を頼んで、次の戦いに備えるようにクレーターの中心を見つめる。

 敗北に気落ちしているわけにはいかない。

 第二回戦が始まるのだ。



     ※



「お疲れ様でした父上!」


 レオウードの勝利に、『獣人族』は湧いていた。

 皆の大きく突き上げられた拳がその嬉しさを物語っている。

 一番最初に声をかけた第一王子のレッグルスの表情も嬉々としていた。


「うむ、なかなかに楽しめた戦いだったぞ」


 レオウードも満足気に頷きを返している。


「う~俺様も早く戦いてえぜ!」


 第二王子のレニオンは、先程の熱い戦いに当てられて身体が疼いているのか自然と笑みが零れている。


「どうだククリア、それにミミル、これが本物の戦いだ」


 レオウードの勝利に喜んでいるのは確かだが、ククリアたちの顔が若干引き攣っているのは、命をかけた本物の決闘を目にしたからだろう。

 その激しさと、命を失うかもしれない危うさにショックを受けたはずだ。


「……父上はいつもこのような戦いを?」


 そう聞いたのは第一王女であるククリア・キングだ。レオウードとそっくりの赤茶色のショートカットをしている。

 少し鋭い目つきは父親譲りであるが、どことなく幼く、皆からは愛嬌のある可愛い顔立ちと言われるのは、母であるブランサの血を引くお蔭なのだろう。


「そうだな。戦争では簡単に命が失われる。だからこそ、皆は死なぬために全力で戦うのだ」

「…………」

「恐怖を感じるのも無理はないだろう。しかしお前は、いや、お前だけでなく、ミミルもこの決闘を自身の目で見たいと言った。本来なら見せるようなものではないのだろうが、ワシはあえて許可を出した。その理由が分かるか?」


 ククリアとミミルの二人は互いに首を横に振る。


「それはな、この決闘が『獣人族』の運命を決めるものだからだ。それにこの決闘なら、お前らでも観戦することができるからな。そうして、お前らにはこの転換期をその目で見ていてもらいたかった」

「……どうして?」

「お前らが次代を担う若者だからだ」


 確かに今はレオウードが国を治めてはいるが、いずれ誰かがその後を継ぐことになる。

 もし長男のレッグルス、次男のレニオンが戦争半ばで散った時、その後はククリア、もしくはミミルが継ぐことになる。


 だが争いの本質も知らない若者が、国のトップに立っても、必ず歪みが生じてくる。特に今の時代はそれが顕著に表れてくるだろう。

 だからこそ戦争の恐ろしさ、戦いとはどういうものなのかを知っていてもらいたかったのだ。


 この決闘で『獣人族』が勝つにせよ負けるにせよ、大きな節目を迎えることには違いない。その節目を経験しているかしていないかの差はやはり大きいとレオウードは判断していたのだ。

 レオウードはククリアとミミルの頭にそっと手を置く。


「だからよく見ておけ。この戦いに臨む者たちの生き様をな」

「……分かったわ」

「……はい」


 二人の返事に満足そうに頷くと、


「次の出番は……お前たちだ」


 そうしてレオウードが視線を促したのは、


「ま、やるだけやりますよ」


 めんどくさそうに頭をかいているララシークだった。


「弟子の成長を確認がてらにね」


 彼女は背後にいるアノールドとミュアをチラリと見る。どうやら二人は緊張しているようで顔が強張っている。特にミュアなんかは今にも倒れそうなほど顔を青ざめていた。

 次に出るのはこの三人である。


「そう緊張するなアノールド、どんな相手でも、全力でぶつかることに意義があるんだ」


 レオウードの言っていることは理解できていると思うが、これは種族の命運をかけた戦い。まさかそんな大事な戦に自分が出されるとは微塵も思っていなかったのだろう。幾らこのために修行したとはいえ、身体が震えてしまうのは当然のことではある。

 ミュアもガチガチに身体を硬直させ、できれば止めたいと本気で思っているような表情だ。確かに彼女は日色の言葉通り強くなるために頑張ってきたが、こんな大舞台に立つとは思わず完全に委縮してしまっている様子である。


「おいララ、まあ相手次第だとは思うが、アノールドたちのことを頼むぞ?」

「分かってますよレオ様。コイツらがあまりにも不甲斐無かったら早々に見捨てます」

「あ、いや……そういうつもりで言ったのではないのだが……」

「何を言ってるんですか、もし本当に嫌ならあの場で逃げ出すこともできたはずです。ここまで来たのはコイツらの意思、コイツらは選んでここまでやって来たのです。自分の力を出し切れず死ぬのなら、ワタシの見る目が無かったんだと諦めるだけです」


 ララシークの言葉を聞いて、それはさすがに言い過ぎではと中には思う者がいたと思うが、アノールドとミュアは体中に電気が走ったような衝撃を受けた表情を見せる。

 実際断ることだってできたはずだ。彼女の言うように、ここまで来たのは日色に会いたいという思いもあったし、自分たちの力を彼に見せてやりたいという欲望があったためだろう。


 そして、こういう大舞台に参加させてもらえるだけの理由が自分たちにはあったのだと、正直に言って嬉しいはず。それだけ成長できたということだから。

 だからこそ認めてくれたララシークやレオウードの期待に応えるためにも。自分たちにできることをしなくてはと今更ながらに感じたのかもしれない。


 アノールドとミュアは互いに決意を秘めた顔を見合わせ頷き合う。そんな二人の様子をララシークは見ると、ニヤッと口元を綻ばせた。


「さあ行くぞお前たち! 派手に戦デビューと行こうか!」

「お、おうっ!」

「は、はいっ!」


 三人はそれぞれ自分や周りに活を入れるように声を張り上げて、クレーターの中心へと向かった。



     ※



 クレーターの中心では、シウバが例の参加者が書かれてある紙を持って待っていた。

 そして現在、第二回戦の両者の代表が顔を突き合わせている。


「おほん! では確認致します! 『獣人族』陣営、ララシーク殿、アノールド殿、ミュア殿。『魔人族』陣営、シュブラーズ殿、ハーブリード殿、イオニス殿。両者間違いございませんね?」


 シウバの問いに両者が頷き肯定を表す。


 ハーブリードは長身で額に生えている三つの角が特徴の男性であり、イオニスはミュアより少し身長の高い女の子で、何故か両目を覆っているアイマスクが特徴だ。

 奇しくも双方とも、女性二人、男性一人のチームになっていた。


「おいアノールド、あのシュブラーズという女はお前にはまだ早い。だから奴の相手はワタシが……って聞いてるのか?」


 ララシークが小声で作戦を伝えようとしていると、隣にいるアノールドがある一部分を凝視していることに気づく。


「んん……」


 艶かしい吐息混じりの声がシュブラーズから漏れる。

 するとアノールドの目がさらに開かれ充血した。


 ――バゴッ!


「のほぅんっ!?」


 アノールドは突然ララシークに頭を殴られ悶絶する。


「な、何するんですか師匠!」

「黙れこのバカ弟子がっ! いつまであの女の胸を見つめているつもりだっ!」

「い、いやいやいやいや、そそそそそれは何かの間違いでっ!」

「……おじさん……」


 必死に言い訳するが、挙動不審な態度を取る彼をさすがに弁護などできないのかミュアも引き気味に言葉を漏らした。


「ほほう、ならあの胸を見ていないと? 興味が無いと?」

「え? あ、いや……た、確かに素晴らしいものをお持ちだと思い、ついつい目がいって離せなくって……あ」

「おじさん……」


 最早言い逃れはできないアノールドは、ララシークに蹴り倒され、決闘が始まる前に瀕死に追い込まれる。


「フフフ、面白いわねぇ~彼ぇ」


 両手を胸を持ち上げるような格好で組み、その豊満な胸を強調させる。隣にいるハーブリードは少し頬を染めながら目を逸らし、イオニスは自分の胸に手をやって首を傾げていた。


 ボタボタボタボタボタボタ……。


 だが忘れてはいけなかった。アノールドよりも、はるかに強烈で熱烈な視線をシュブラーズの双子山に送っていた一人の変態がいた。


「ノフォォォォォォォォッ! なんとまあ見事なお胸でございましょう! ああでもいけません! 今わたくしは中立に立つ身……幾らお誘いされてもそれにお応えすることはかないませんっ! だがしかし! この決闘が終わったら是非、その豊かで艶やかなオツパイにマッサージをさせて頂き――」

「恥をさらすなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 突然上空から身体をクルクルと回転させたリリィンが現れ、シウバの脳天へと踵落としを叩き込んだ。


「びにゅんぷぅっ!?」


 頭から地面に埋まり、足だけが地面から覗く変態の図が完成した。


「貴様は私情を挟まずさっさと進行せんか!」

「お……ぐ……」

「返事はぁっ!」

「い……いえす……まい……ろーど……」


 リリィンは腕を組みながら、その場を後にしていく。その場に残された者は完全に呆気にとられているようでポカンとしている。


「な、何だったんだ……」


 アノールドの呟きは皆の意思だっただろう。だがそれに答えてくれる者は誰一人いなかった。


「ノフォフォフォフォ! これは皆さまお時間を頂きすみませんでした! ノフォフォフォフォ!」


 早々と復活したシウバが、丁寧に頭を下げながら言う。


「お、おい、あのじいさん鼻血出したままだけどいいのか……な?」

「う、うん……」


 アノールドの疑問はミュアも思ったことだが、本人が気にしていないようなので突っ込むことは避けた。


「おほん! ではここで『王』を確認させて頂きます! 『獣人族』陣営はララシーク殿、『魔人族』陣営はシュブラーズ殿で相違ございませんね?」


 両者が首を縦に振り認める。この決闘システム《アガッシ》の特徴は、複数人数で戦う時、両者に『王』という役割を決定させる。

 そしてその『王』がやられないように、他の者は支えるのだ。


 一対一の場合は、必然的に互いが『王』なので、どちらかが戦闘不能になった時点で決闘は終了するが、今回の場合は『王』さえやられなければ仲間が倒されても負けにはならない。

 ただ仲間がやられると、それだけ『王』の守りが薄くなるので敗北の可能性は高くはなるのだが。


「では両者準備は宜しいでしょうか?」


 その言葉と同時に、両者は後ろへ跳んで互いに距離を取る。

 シウバは双方を確認して大きく息を吸う。


「それでは、第二回戦始めっ!」


 日色の元旅仲間であるアノールドとミュアの戦いが今始まった。



     ※



「それじゃ、アノールドはあの男で、ミュアはあの小さな女を相手しろ。その間にワタシがあの胸が摩訶不思議な女を逝かせてやる!」


 ララシークが不愉快そうにシュブラーズの胸を指差しなが言う。


「あら~、私としてはそっちの男性の方が相手なら嬉しいんだけどぉ~」


 またもプルンと胸を震わせながら誘うようにアノールドの目を見つめる。


「……ごくっ」


 アノールドは瞬きを忘れながら鼻を膨らませている。


「先に逝くかアノールド?」

「い、いえっ! あ、アイツと戦えばいいんですよね! ま、任せて下さいよ! アハハハハ!」


 ララシークから明らかな殺気を感じてガタガタと全身を震わせながら必死に取り繕う。ミュアも呆れたように溜め息を漏らし、そして自分が相手をするべき人物に視線を送る。

 薄緑色の髪をサイドに結っていて、クルクルとカールを巻いている。だが一番気になるのはやはり両目を覆うように着けているアイマスクの存在だ。


 あれでは何も見えないのではと思うが、死角があると勝手に思い込んでいると、痛い目を見るかもしれないと思って首を振る。

 決闘にまで出されるほどの実力者なのだ。きっと自分の想像以上の強さを、あの自分とほとんど変わらない小さな身体に宿しているのだと判断してつい拳に力が入る。

 そしてふとクレーターの外にいる日色の方に視線を向けた。


(……見ててくださいヒイロさん)


 再びイオニスに視線を向ける。


(わたしの成長を見てもらうんだ!)


 そう自分に言い聞かせて目に力を込める。


「さて、ならそろそろ始めるぜ。お前たち、あっさりやられたら許さんからな!」


 ララシークの激が飛び、アノールドとミュアは力強く返事をする。


「こっちも行くわよ二人とも?」

「はっ!」

「了解なの」


 こちらもシュブラーズの声にそれぞれが反応する。


「まずは分断させるぜ! ほいっと!」


 ララシークが右手を地面に触れると、そこから氷の棘が無数に生まれ相手の三人に向かって出現していく。

 シュブラーズたちはそれぞれ地面からの攻撃をかわすが、上手くばらけさせられてしまう。

 そしてそれぞれ一騎打ちの形で相対する。



     ※



 アノールドは目の前にいる相手であるハーブリードに向かって、背中の大剣を抜いて突撃する。


「うおぉぉぉぉぉっ!」

「甘いです! シャドウブレイド!」


 ハーブリードの手に闇魔法で造られた黒い剣が握られる。そしてアノールドの剣をそれで防ぐ。

 互いに歯を食い縛りながら鍔迫り合いで力比べをしている。


「むぅ、さすがは獣人ですね。大した力です!」

「それはありがと……よっ!」


 アノールドが剣を振り切ると、対するハーブリードは押された形で後ろへ跳ぶ。すかさず後を追うアノールドに、ハーブリードはニヤッと口角を上げながら剣をアノールドに突きつける。


「……何だ?」

「シャドウボウ!」


 突然黒い剣が今度は姿を変えて弓矢になる。


「なっ!?」


 真っ直ぐ向かっていたアノールドの前方から矢が放たれる。


「くっ!」


 アノールドは咄嗟にブレーキをかけて横に跳んで矢をかわす。


「まだまだだ!」


 ハーブリードは休むことなく弓を引いてくる。物凄い数の矢がアノールドを襲う。


「おいおい、こなくそぉぉぉっ!」


 大剣を振り回しながら、飛んでくる矢を防ぐ。


「これでもダメージを与えられませんか。ならばこれならどうです!」


 今度は凄まじい速さで間を詰めてくる。アノールドも迎い撃つために態勢を整える。


「シャドウアックス!」


 今度は巨大な斧へと姿を変えたハーブリードの武器。


 ――ドガッ!


「ぬおっ!? な、何て力だっ!」


 アノールドは大剣で応戦したが、斧の衝撃力の強さに耐えられず弾かれてしまう。大剣を持つ両手が勢いで上空へと上がる。


「隙ありです! シャドウダガー!」


 防御の失った胴回りを隙と判断して、小回りの利く短剣に形を変えて追撃する。


「くっ!」


 このままでは腹を裂かれてしまう。だが腕を戻そうにも、弾かれた力が強くて、戻すのが間に合わない。


「もらいましたっ!」


 ハーブリードは勝利を決めたようにダガーを素早く振り切った。

 確実に捉えた。これで命を奪えなくても、もう相手は戦闘不能だろうと判断したのか、すれ違って背中を向けた状態だったので、アノールドを確認しようと彼は振り向く。

 そこには、立ち上がったままで腹が裂かれているアノールドがいる。


 だがそこでハーブリードはおかしなことに気づく。

 裂かれている場所から噴出するであろう血液が、一滴も見当たらないのだ。


「ど、どういうことです……?」


 目を見張りながら固まっていると、


「痛ってえなぁ、ホントまったくよぉ。もう少しで死ぬとこだったぜ」


 背中を向けたまま致命傷を受けたはずのアノールドから暢気な声が聞こえてくる。

 そしてハーブリードは、裂かれている部位をジッと見て、そこが緑色に変色しているのを確認してハッと息を飲む。


「……《転化》……ですか?」


 するとアノールドの傷が元に戻って行き、ハーブリードに対し笑みを浮かべながら正面を向ける。


「まさか、使えねえとでも思ってたのか『魔人族』さんよぉ?」

「……失念していました。さすがは決闘に選ばれる人物です。お名前を、聞かせてもらってもいいですか? 僕はハーブリード・ユリウスと申します」

「俺はアノールド・オーシャンだ。急遽この決闘に参加することになっちまったけど、出た以上は負けるつもりはねえぜ!」

「そうですか、急遽参加……なるほど見たことが無いはずです。ですが僕も、『魔人族』の平和の為、敗北するわけにはいかないのです!」


 そう言ってまたもシャドウブレイドの形に戻す。


「幾ら《転化》といえど、魔法攻撃なら痛みは感じますし、それ相応のリスクがあることも存じています。それに……」


 ハーブリードはアノールドの身体を観察するようにジッと見て、


「どうやら獣王のようにまだ全身を《転化》させることはできないみたいですね?」

「さあな、それは今後のお楽しみだ!」


 二人は互いに笑みを浮かべると、両者ともに大地を蹴った。



     ※



「もう、降参したほうがよさげなの」


 イオニスは今地に臥せている人物を見下ろしながら淡々と言葉を放つ。


「う……」


 彼女の対戦相手であるミュアは、先程から全ての攻撃をイオニスに避けられ、その際にカウンターを受け続けてしまい地面へ転がっていた。


(す、すごい……全然攻撃が当たらないなんて……!)


 アイマスクをしているイオニスを見て、その素晴らしい動きに感嘆の息が漏れる。普通見えないはずなのにという考えはもう捨ててある。

 だがそれでも自分の攻撃をあれほど見事にかわされるとは思っておらず驚愕していた。ミュアは立ち上がり、もう一度攻撃を放つ。


「――《雷の牙》ぁぁっ!」


 以前レオウードと戦った時と同じように雷を飛ばす。

 地面を伝ってイオニスへと向かって行く攻撃だが――ヒュンヒュンヒュンッ!

 その動きには一切の無駄がなく、全て紙一重にかわされている。

 しかも雷は無造作に放電現象を起こしているはずなのに、それすらも見極めて避けているので愕然とする思いだ。

 さらに攻撃を放った隙を狙って間を詰めてきて、蹴りを放ってくる始末。


「きゃっ!?」


 咄嗟に腕でガードはするが、かなりの力が込められており吹き飛んでしまう。


「無理なの。そんな雷はイオには当たらないの」


 歯を食い縛りミュアは立ち上がる。


「まだ諦めないの? だったら今度はこっちから行くなの」


 すると両手を懐に入れた彼女は、何かを握り締めて、その何かを投げるようにな仕草をする。 

 咄嗟にミュアは後ろへと跳ぶ。


 ――ボゴッ!


 その何かは地面に穴を作った。

 もし当たればかなりダメージを受けてしまうことが認識できる。

 気を付けようと思ったその時、


「きゃっ!」


 突然左肩に衝撃が走り吹き飛ばされる。

 そしてミュアは見た。

 自分に命中したその何かが、シュルシュルと音を立ててイオニスの方へ戻って行くのを。

 しかも自分に当たったものだけではなく、地面に落ちたものも同様に彼女の元へと戻って行った。


 シュルルルルルルルルル……。


 左肩を押さえながら、何で攻撃されたのかを確認する。

 そしてイオニスが手にしているものを見て眉をひそめた。






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