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金色の文字使い ~勇者四人に巻き込まれたユニークチート~  作者: 十本スイ
第四章 運命を決める決定編

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102/281

102:第一回戦決着

「――ロックブレッド!」


 マリオネの魔法。

 大きな岩が地中から幾つも浮かんできて、それが真っ直ぐにレオウードへと放たれていく。


「うおぉぉぉぉぉぉっ!」


 避ける素振りなど一切見せずに、岩の弾丸を素手で簡単に破壊していく。


「くっ! 何というバカげた身体能力だ! ならばこれでどうだ!」


 右手に魔力を込め、そのまま地面に拳ごと突き出す。


「我が魔手にて粉塵となるがよい! ――レ・ディスラプション!」


 大地から巨大な手を模した塊が出現し、レオウードに向かって襲い掛かっていく。

 またもレオウードは拳で破壊しようと試みるが、今度は手の方が強度があったようで失敗に終わった。


「このまま握り潰してくれるわ!」


 まんまと土の手に捕まったレオウードは、体中にかかる圧力に思わず顔を歪める。同時に周りからレオウードを心配する声が聞こえてくる。


「ぐおぉぉぉぉぉぉっ!」

「無駄だ! 我が魔手はそう簡単には砕けん!」


 マリオネの言う通り、剛力無双のレオウードが力を込めてもビクともせず、増々圧力が強まる一方だ。


「くっ……ならば仕方無いっ!」


 さすがにこのままではダメだと判断したのか、レオウードが背中に背負った大剣の柄を握り、力を集中させていく。


 ――ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!


 剣が急に細かく振動し始め、徐々に熱を帯びたかのように赤くなっていく。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ! ――《火の牙》ぁぁぁぁぁっ!」


 力一杯大剣を抜くと、そのまま土の手を寸断した。


「なっ!?」


 しかも切断面が溶けている。かなりの熱を宿している証拠だ。


「ちっ! もう一度だ! ――レ・ディスラプション!」


 だが次もレオウードの持つ大剣に真っ二つにされる。

 ブオンブオンと巨大剣を振り回しながら、


「もうネタ切れか?」


 と挑発してくるレオウードに、マリオネは一瞬悔しげに歯を噛み締める……が、すぐに愉快そうに笑みを浮かべる。


「さすがは獣王だ。まさか我が魔手が効かぬとはな」


 すると羽織っているマントを肩から外し放り投げる。


「次のステージへと向かうとしよう」


 目が鋭く細められたと思ったら、背中から大きな黒い翼がバサッと生える。そのままフワリと身体が浮き上がり、上空へと昇って行く。


「闇の力を味わわせてくれよう!」


 マリオネは右手を高く突き上げると、彼の周囲に三叉の黒槍が幾本も出現する。


「――イクリプス・トライデント!」


 マリオネが右手をレオウード目掛けて振り下ろすと、それを合図に凄まじいスピードで黒槍群が襲い掛かる。


「むぅっ!」


 レオウードは大剣を豪快に振り回しながら、雨のように降ってくる槍を弾いていく。

 またも攻撃が通じていない様子に、獣人たちはさすがは王様だと喜ぶ声がしているが、マリオネは焦った様子などなく、むしろ微笑みさえ浮かべている。


 その表情に気づいたレオウードは眉をひそめるが、次の瞬間ハッと息を飲む。何故なら自分の持つ大剣が黒く変色していたからだ。


「何……?」


 その黒が、徐々に広がっていく。危険を感じてその黒が柄にまで及ぶ前に手を離す。そしてドガッと地面に落ちた剣を見つめる。


「ふむ、そのまま武器を手放さなければ良かったのだがな」


 マリオネは上空に浮かびながら舌打ちをする。


「……何をした?」

「ククク、我がイクリプス・トライデントはただの闇魔法ではない。触れたものを闇色に染める」

「染める……だと?」

「我が闇は耐性のないもの全ての時を止める。それはまるで氷のように、そして死のように……」

「ほほう、厄介な魔法だ。つまりワシの剣は闇に飲まれて使い物にならなくなったと?」

「いや、使えるぞ。ただし資格の無い者が触れれば闇に浸食されるが」


 そう言いながら地に降りたマリオネは、黒く染まった大剣を持ち上げる。


「む……このような重いものを振り回していたとは、さすがの身体能力だ」


 そして興味を失ったかのように地に放り投げる。


「さて、剣を失った貴様は次はどのようにしてこの魔法を防ぐか見ものだ!」


 再び空へと舞い上がり、またもイクリプス・トライデントを放つ。

 先程までなら剣で防ぐことができたが、今のレオウードには防ぐような武器が無い。このままだと空からの攻撃を避け続ける必要が出てくる。剣のように闇に浸食されるわけにはいかないのだ。


「この獣王を舐めるでないわっ!」


 突然貫手を地面に向かって放つ。右腕がスッポリと地中に埋まる。


「ぬおぉぉぉぉぉっ!」


 叫びながら腕を引き抜いていく。すると驚いたことに、地面にヒビが入り、盛り上がっていく。

 まるで自分の腕をスプーンのように使い、地面を掘って持ち上げている。そのままその持ち上げた地面で上空を守る。グサグサグサグサと黒槍が突き刺さっていく。


 しかしそこで誰もが不審に思う。何故なら土の塊に黒槍は確かに刺さっているのだが、剣と同じように黒く染まっていかないのだ。

 レオウードもまた疑問を浮かべているようで眉を寄せて考える。そしてハッとなり周りの様子を確かめていく。


 黒槍が幾つも地面に突き刺さってはいるが、闇に浸食されてはいない。そこで一つの仮説を立てる。


「……どうやらお前の闇とやらは何かしら制限があるようだな」


 ピクリとマリオネは眉を動かす。何も答えず沈黙を貫くが、正直に言って彼の見解は当たっていたのだ。


 イクリプス・トライデントの特徴、それは事前にターゲットを決定する必要があるということ。そしてそのターゲット以外には闇が浸食しないのだ。

 しかも事前に設定できるターゲットは一つだけである。今回の場合、ターゲットをレオウード本人と決定していたため、岩で防御されてしまった結果、その効果は発動しなかっただけだ。


 先程の件では、無論最初からレオウードの持つ剣を使用不可能にしようと思っていたので、思惑通り事が進んだが今回は上手くいかなかった。

 自分の魔法の欠点がこれほど早く分析されるとは思っていなかったマリオネは、思わず感嘆の思いを抱いていた。


「伊達に獣王は名乗っていないということか」

「次はこちらの番だ!」


 レオウードがキッと視線を鋭くさせると、突然空気が変わった。


「見せてやろう! これが《化装術》の奥義! ――《爆熱転化》だっ!」


 ――ボオォウッ!


 凄まじい炎がレオウードの両手から噴出し、彼自身を包んでいく。かなりの熱量が上空にいるマリオネにまで届いてくる。


「何という熱気か!?」


 思わず顔をしかめてしまうほどだ。そして炎が渦を巻き、次第に小さくなっていく。まるで何かに吸収されるようにだ。その中から現れたのが、真っ赤に彩られた獣王の姿だった。


「さあ、楽しもうか!」


 獰猛そうな笑みを浮かべてマリオネを見上げている。


「そろそろそちらも本気でかかって来たらどうだ……《剣将(ソードジェネラル)》よ」


 その言葉にマリオネは目を細めて口角を上げる。


「……やはり知られているか」


 今まで上空にいたマリオネが、ゆっくりと地面に降りてくる。そして地に足をつけると、大地に向かって右手をかざす。物凄い魔力が彼から放出され、それが地面へと流れていく。


 ――メキメキバキィ……!


 渇いた音とともに大地が盛り上がり、それが全長十メートル以上もの塊となって空へと浮かぶ。

 そして塊は魔力の光を浴びながら徐々に圧縮されていき、それは一振りの剣へと姿を変えた。


「――――《大地を司りし細剣(イルヤドゥール)》」


 出現した剣の柄を握り、軽く横に向けて振る。

 すると突然大地に大きな裂け目が生まれた。ただ軽く振っただけで相当の衝撃力を生んだ剣を目にしてレオウードもさすがに言葉を失っている。


「我が最強の剣、とくと味合わせてやろうぞ」

「……それが《剣将》と呼ばれたお前の相棒か」


 大地で創造されているからか、全体的には赤褐色のような剣だが、刀身はとても細く少し力を入れただけで折れそうに思える。しかし土の塊を凝縮させて造られた剣が脆いわけもない。

 見た目とは裏腹にとてつもない攻防力を備えた剣だと把握できた。



     ※



 日色の考えは当初はこうだった。接近戦のレオウードと遠距離戦のマリオネ。それぞれが得意なレンジを活かして相手を攻略するだろうと。

 しかし今、マリオネの手には一振りの剣が装備されていた。ここで自分の見解が間違っていたことが理解できた。


 マリオネの真骨頂は遠距離戦などではなく接近戦だったのだと。

 そしてレオウードもまたクロウチが使った《転化》を使用しているようだ。

 あれは単純な物理攻撃は一切効かない。だが彼の姿を見てマリオネは物理攻撃主体だと推測できる剣を創造した。


 きっとあの剣には《転化》の身体にダメージを与えることができる何かが隠されているのだろうと判断した。

 先程までの戦いでも十分レベルの高い戦いだった。さすがはトップクラス同士の決闘だ。しかしこれから始まるのは、それよりも更に上の戦いになるだろう。


 思わず白熱したスポーツテレビを観ているような感覚が胸に走っている。周りの者たちも、息をするのも忘れたように見入っている。

 目が奪われるほどの戦いを両者がしているということだ。そして今からもっと凄いものが見れると思い誰もが静かに見守っていた。


「……あの剣は厄介だな」


 突然隣にいたリリィンが呟く。


「分かるのか?」

「ああ、あれは大地が生み出した剣といっても過言ではない。つまり一種の《精霊剣》みたいなものだ」

「《精霊剣》?」

「分かり易く言えば《魔法剣》だ」

「つまり魔法の力を備えた剣だということか?」

「ああ、精霊そのものになる《転化》に対し、通常物理攻撃は意味を成さないが、魔法の力を宿す《精霊剣》はその身を容赦無く傷つけることができるはずだ」

「なるほどな、やはりカラクリはあったか」


 納得して微かに頷く。まあ、ただの剣をマリオネが使うとは思ってはいなかったが。


「しかし、あれほどの剣を生み出すとなるとリスクも相当高いはずだ」

「どういうことだ?」

「恐らくほとんどの魔力を消費して生み出したはずだ。それに使用している間も魔力を消費していくはずだ」

「割りに合わん代物だな」

「馬鹿を言うな。普通の奴が《精霊剣》など作れるわけがない。それだけ《精霊剣》の持つ力は甚大なんだ。生み出せただけでもさすがは《序列二位》と言わざるを得ないな」


 リリィンが感心するように言うと、


「さすがはヒイロの仲間だ。博識だな」


 同じように感動めいた声を出したのはイヴェアムだった。話を聞いていたようだ。


「彼女の言うように、あの剣はマリオネの奥の手の一つでもある」

「そんなものをもう使うとはな」

「それだけ彼を追い詰めているということだろう。さすがは獣王だ」


 確かにマリオネは幾度となく魔法で対抗していたが、そのどれも粉砕されている。ここらで優位に立つためにも何としても先に相手に攻撃を与える必要があった。


「だが王である彼も《転化》を使用している。彼もまた奥の手を出してきたというわけだ」


 イヴェアムは少し興奮交じりに言葉を放っている。彼女もやはりこの戦いの見応えに心が震えているのだ。


「しかし彼女が言ったように、あの剣は長時間使用できない。それに相手の《転化》も相当の体力を消費するし、これまた長時間維持はできないはず」

「ということはだ、思ったより早く決着が着きそうだな」

「ああ、私はマリオネを信じる! 必ず勝ってくれると!」

「しかしだ、髭男爵が剣を使えるとは思わなかったぞ?」

「そうか、ヒイロは知らないのだな。マリオネの剣は随一だぞ。いまだに彼に勝てる剣士は国にはおらんしな」


 それは寝耳に水な情報だった。まあ興味が無かったのだから当然とも言えるが。日色は軽く息を吐くと冷静に向かい合っている二人を見つめる。


(奥の手……か)


 そう思いながら『覗』の文字を使い二人の《ステータス》を確認する。



マリオネ・ジュドー・クライシス


Lv 168


HP 8489/8522

MP 3455/7098


EXP 5356789

NEXT 119890


ATK 1200(1700)

DEF 1167(1150)

AGI 1317(1390)

HIT 1050(1300)

INT 1120(1135)


《魔法属性》 土・闇

《魔法》 ロックブレッド(土・攻撃)

     グランニードル(土・攻撃)

     レ・ディスラプション(土・攻撃)

     イルヤドゥール(土)

     ショドウシックル(闇・攻撃)

     ダースインパクト(闇・攻撃)

     イクリプス・トライデント(闇・攻撃)

     ブラックアッシュ(闇・支援)

     


《称号》 一途な男・最上級魔人族・羽根付き・世話焼き・子煩悩・短気なチョロ髭・分からず屋・モンスターの天敵・人斬り・ユニークジェノサイダー・超人・剣将・クルーエル・愛情深き者・復讐者・残虐・獣人の毒・立派な髭を持つ者・髭男爵・強者を求める者・極めた者





レオウード・キング


Lv 202


HP 10589/12765

MP 3055/4300


EXP 10930081

NEXT 221107


ATK 1830()

DEF 1533(1663)

AGI 1221(1301)

HIT 1509()

INT 816(840)


《化装特性》 火

《化装術》 火の牙・焔牙撃・極大焔牙撃・爆熱転化・真醒の焔玉・現象の儀・終の牙




《称号》 火の友・鍛える者・剛腕・戦闘狂・脳筋マン・親バカ・大酒飲み・仲間思い・我が道を行く・人気者・頼りになる人・ユニークジェノサイダー・モンスターの毒・キングダンディ・超人・戦う獣人・野生の力・現象の力を持つ者・極めた者・炎弾・獣王・超越者





 確認した《ステータス》的には、マリオネは不利だ。それにイヴェアムが、二人は奥の手を使ったと言っていたが、レオウードの方がどうやら隠し持っているカードの数が多そうだ。

 だがカードを幾ら持っていようが、使いどころを誤ったり、後の戦いのために温存しておくなどという浅慮をレオウードがしていたとしたら、マリオネの攻撃にあっさりと沈められる可能性も十分にある。


 それに二人とも、使用している力のせいで、マリオネは急速にMPを、レオウードはHPとMPがそれぞれ減っていっている。

 《精霊剣》と《転化》は、やはりそれなりにリスクのある力だということがよく分かる。このまま何もしないで突っ立っているだけで戦闘不能に陥る可能性がある。


(特に獣王はHPも減っていってるし、戦いを長引かせるわけにもいかないだろうな)


 そう考えて、今一度二人を見る。互いに牽制し合って、攻め込む隙を窺っている。そしてついに戦いが動いた。




     ※



 先に動いたのはレオウードの方だった。彼は凄まじい速さで間を詰めて拳を突き出す。その拳は赤く燃える炎を纏っている。


 ――ブシュッ!


 二人がすれ違って互いに背を向ける。

 そして、ボトッと何かが落ちる音がした。見るとレオウードの右手の肘から先が地面に落ちていた。


「くっ!?」


 落ちた腕は炎に包まれており、次第に霧散していく。

 マリオネはあの一瞬でレオウードの拳をかわし、剣で斬り裂いたということだ。レオウードが避けられなかったということは、それほどの早業だったのだろう。


「ガハハ! やりおるな! さすがは《剣将》よ!」


 右腕を無くしながらも豪快に笑っている姿を見て、マリオネは怪訝な表情を宿す。


「笑っていられるのも今の内だ。次はだるまにしてやろう」

「ガハハ! だるまは勘弁だな!」


 すると失っていたはずの右腕が、斬られた部分から火が噴出し、それが形取って腕を形成していく。


「なっ!?」


 マリオネはその光景に目を大きく見開く。それもそのはずだ。せっかく奪った右腕が再生したのだから。


「……なるほど、貴様を殺すには全身を斬り刻む必要があるようだな」

「そういうことだ。片手だけじゃ痛みは感じるが、まあそれだけだ」

「ならばっ!」


 今度はマリオネが大地を蹴って間を詰める。そして懐へ入り込むと、剣を下から上へと斬り上げた。

 だが残念なことに、素早さではレオウードの方が上らしく、簡単に背後に回られてしまう。しかしマリオネはそれも予想していたのか、すぐに体を回転させて今度は上から下へと振り下ろした。


 ――バキィィィィィィィッ!


 地面が盛大に斬り裂かれる。そして同時にその目の前にいたレオウードの身体もまた右腕が斬られてしまう。

 そこを好機と判断したマリオネは畳み込む。常人には見えぬほどの速さで剣を動かしていく。左手、右足、左足、有言実行でだるまにするために切り刻んでいく。

 最後に大きく横薙ぎに斬ると、レオウードはそのまま地面へと倒れる。


「どうだ、これが《魔王直属護衛隊》の――ワシの力だ!」


 見下ろしながら宣言するように発する。燃える身体のままで動かないレオウードに対し勝利を確信した瞬間、


 シュゥゥゥゥゥ……。


 驚いたことに目の前で倒れているレオウードが炎が鎮火したように消失した。


「んなっ!?」


 そして上空から物凄い殺気を感じて、即座にそちらに向かって顔を向ける。するとそこには無傷のレオウードがいた。


「いつの間に変わり身をっ!?」


 どうやらマリオネが先程切り刻んだレオウードは、彼が炎で作り出した分身だったようだ。当の本人はその隙に、上空へと飛んで次の攻撃の準備をしていたらしい。


「これで灰塵となるがよい《剣将》よっ!」


 レオウードを中心に激しい炎が出現し、彼自身を守るように覆っていく。その炎は徐々に大きくなり、まるで小さな太陽のようになる。


「喰らえぇぇぇっ! ――《真醒(しんせい)焔玉(ほむらだま)》ぁぁぁぁぁっ!」


 そのままマリオネに向かって上空から落ちてくる。

 この大きさだと、今更逃げたところで捕まってしまう。

 マリオネは覚悟を決めたように歯を食い縛ると、大量の魔力を《大地を司る細剣》に集束させていく。


「ここで負けるわけにはいかんっ! 我らが陛下の為、このマリオネは一刃となって道を切り拓かねばならんのだっ!」


 マリオネは剣を勢いよく地面へと突き立てた。


「来いっ! ――ジ・アースッ!」


 ――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!?


 大地震が起きたかのように地面が盛大に揺れる。

 すると地面に巨大な亀裂走り、そこから何かが競り出てくる。

 それは――――――――――巨大なドラゴンだった。


 ――ゴオォォォォォォォォォォッ!


 強烈な怒号を響き渡らせながら、大地から生み出たドラゴンが、落ちてくる太陽へと向かって行く。


 ――バチチチチチチィィィィィィィィィィィィィィィッ!


 二つの存在が触れた瞬間、まるで落雷が落ちたかのような音が轟く。両者は互いに一歩も揺るがず、完全な力比べの押し合いになっている。

 太陽が押したと思ったらドラゴンがまた押し返す。その逆もまた然り。何度も続けられていく。

 これはどちらか先に精神力が尽きた方の負けだということは、誰もが見て分かった。


 そしてついに結末が訪れようとしていた。


 先に変化があったのは――――――――――。

 



 ――――――――――太陽の方だった。



「ぬぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」


 太陽はドラゴンの突撃により真っ二つに割れてしまい、その中にいたレオウードはドラゴンの牙の餌食になる。

 かろうじて食われないように口の先で、上顎と下顎が触れ合うのを全身で止めている。


「……太陽は地に落ちる」


 マリオネは勝利を確信して笑みを浮かべる。

 そしてこのままでは本当にドラゴンの腹の中に収められるレオウードは、歯を噛み締めながら目を閉じる。


「………………………………我は願う……」


 レオウードが呪文のようなものを唱えているように見えたマリオネは、


「はあはあはあ……じ、辞世の句を唱えるか。さすがは獣王、潔いことだ」


 息を激しく乱しながら上空にいるレオウードを睨みつける。マリオネにしても最大級の、それこそ全てを込めた攻撃だったのだ。気を抜けば今にも倒れそうだが、勝利を得るまではと思い必死に足を踏ん張っている。


 するととうとうドラゴンの口がガシッと閉じられてしまう。それを見た他の者たちは一様に驚愕している。

 その中には、マリオネの勝利を得たと感じた者、レオウードの敗北を感じた者、二人のあまりの攻防に呆気にとられている者など様々だ。


「……フフ、勝った」


 マリオネがそう呟いた時、だ。


 ――バキバキバキバキバキバキバキバキィィィィッ!


 突然あろうことかドラゴンの全身にヒビが走って行く。

 そして――ボボボボボボボボボボボボボォォォウッ!

 その亀裂から炎が噴き出す。


 ――ドガァァァァァァァァァンッ!


 凄まじい爆発音とともにドラゴンが弾け飛び、その中から何かがマリオネに向かって来る。


「……赤い……獅子……っ!?」


 それは炎を身に纏った真っ赤な獅子のような姿をしていた。


「がふぅっ!」


 マリオネが獅子に体当たりをされて、背後の大岩に全身を叩きつけられる。口から血を撒き散らし、地面に崩れ落ちていく。


「……な……なに……が……」


 マリオネを見下ろしていた獅子は、そのまま火の粒子になって消えていった。そしてカツカツとその後ろからレオウードが姿を見せる。

 彼を見て驚愕に顔を歪めるマリオネ。


「危ないところだった。さすがは《魔王直属護衛隊》の《序列二位》だ。ワシにこの力を使わせるとはな」


 もうレオウードの身体は先程のように真っ赤には燃えていなかった。決闘を行う前と変わらない。


「きさ……ま……っ」


 悔しそうに歯噛みして必死で身体を起こそうとするが言うことを聞かない。先の一撃もそうだが、魔力も底をついてしまっているのだ。


「……ぐっ…………殺せ」


 マリオネは諦めたように目を閉じる。しかしそんな彼をレオウードは黙って見下ろしているだけだ。


「陛下に会わす顔が無い。さあ、殺せ!」

「…………勿体無いな」

「……何?」


 閉じていた目を開く。


「勿体無いって言ったんだ。お前ほどの強者、また戦いたいものだ」

「…………貴様は馬鹿なのか? 自慢ではないが私は『魔人族』のトップクラスだ。ここで捨て置くということは、いずれまた牙を剥かれるということだぞ?」


 強者なら尚更厄介なことになる前に仕留めておいた方が普通は良いはずだ。


「いいだろう、ならかかって来い。返り討ちにしてやろう」

「…………」

「それにこの決闘にこちらが勝てば、お前はワシの部下も同然。ならこんなところで優秀な部下を失いたくはない」

「ふざけるな! そんな屈辱を受けるくらいなら死んだ方が」

「復讐……」

「……っ!?」


 レオウードの言葉を否定しようとした時、思わぬ言葉を聞いて口ごもった。


「《剣将》よ、お前には成し遂げたい望みがあるのだろう?」

「…………」

「ならば何故死に急ごうとする?」

「……くっ」

「確かにこれは決闘だ。ワシも殺すつもりでお前と戦った。だがこうして一目で分かるようにお前はもう戦闘不能だ。そんな相手にトドメを刺すなど面白くは無い」

「お、面白く……」

「それにだ、戦っているお前の剣は殺気こそ含んではいたものの、復讐の精神など微塵も感じなかったぞ」

「…………」

「ガハハ! 楽しかったなマリオネよ!」


 マリオネは、目の前にいる男を見て、思わず心が震えたのを感じた。何故なら、戦いを振り返ってみると、確かに楽しんでいた自分を発見できたのだから。

 それに、確かに目の前の男は馬鹿だが、同時にもう一度戦いたいという衝動にも駆られていた。マリオネは大きく溜め息を漏らす。


「……本当に殺さんのか?」

「くどいぞ。敗北者は勝利者に意見などできん!」

「くっ…………いつか後悔させてやるぞ」

「ガハハ! 楽しみに待っていよう!」


 そしてレオウードが踵を返したのを見ると、途端に意識が揺らぐ。


「ああ、そう言えば一つ言っておこう」


 レオウードのそんな言葉に、薄れゆく意識の中で耳を傾ける。


「お前が追っている獣人、名は――コクロゥだ」

「……っ!?」

「獣人界でも指名手配中の外道だ」


 それだけ言うとレオウードはそのまま自分の陣営へと戻って行った。

 そして彼から聞いた言葉を頭の中で繰り返したマリオネは、そのまま暗闇に落ちていった。

 戦闘不能に陥ったことを確認したシウバがレオウードの方に手を向けて叫ぶ。


「第一回戦はっ、『獣人族』の勝利ですっ!」







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