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知らない場所にやって来・・・た?


・・・・やってしまった。


私は今、猛烈な後悔に苛まれている。


思わず苛立ちをぶつけてそのまま逃げ出した私は、海辺の小さな入り江の砂場に頭を抱えて座り込んでいた。海水浴場からは死角になっている岩場で、この場所は地元の人間もあまり知らない。小さい頃偶然見つけたそこは、私の中だけの秘密の場所になっている。落ち込んだり、嫌なことがあったりすると一人でこの場所に来ていたのだ。


それにしても。・・・皆の目の前であんな醜態を晒すつもりは無かったのに。

あの男はあんなやつだと自分の中では自分なりにけじめをつけていたはずだったのに。


「あーもー最悪・・・・・・・」


「何が?」


「うっぎゃああああ!!?」


耳元で話しかけられ、奇声を上げてしまった。

あれ、なんかこんなこと前もあった気がするなと思いつつ振り向いた視線の先で、白いワンピースを着た中学生くらいの黒髪ロングの美少女がにっこりと微笑んでいた。

顔に見覚えはない。というか、こんな美少女一度見たら絶対忘れられない。


「ど、どちらさまで・・・・・?」


人違いじゃなかろうかと思いながら恐る恐る尋ねる私に対し、美少女は髪をなびかせながら小首を傾げた。

どうでもいいことだが、そのキューティクルが非常に羨ましい。


「驚かせてごめんなさい、お姉さん。でも、泣いているみたいだったから気になって・・・」


美少女に申し訳なさそうに言われると、こっちが悪いこと言ったみたいな気がして落ち着かない。


「泣いてなんか・・・・・」


否定する私に、少女は年齢には不釣り合いな、全てを包み込むような優しい微笑みで私の頭をそっと撫でた。


「嫌なことや辛いこと。悲しいことはきちんと吐き出して、自分の気持ちを伝えた方がいいよ」


「え?」


どいういうこと?と疑問符を浮かべる私に背を向け、少女は海を見やった。


「―――ここは素敵な場所ね」


顔だけをこちらに向け、少女が笑う。


「自分の為にも、彼の為にも、少しだけ素直になってあげて」


彼って誰のこと?と困惑する私に、少女は続ける。


「貴女のおかげでレオは救われた。私が言える立場ではないけれど、貴方には感謝を。そして、巻き込んでしまってごめんなさい」


ぺこりと頭を下げられたが、台詞の内容はそれどころではない。私は思わず立ち上がった。


「レオって・・・・・貴女いった・・い・・・・?」


美少女が私の額に細い指をトン、と当てた。

そして急に眩暈のような睡魔のようなものが襲ってきて、私の意識は暗転していった。


チリン、と服の下にある鍵が小さな音を立てた気がした。











―――――そして。













そして、目をあけたら何故か見覚えの無い森の中にいた。


服装はいつもの店の制服だ。

けれど、目の前に広がる風景に見覚えが全くない。

さっきまで海の側に居たのに、潮風は全く感じられず、森林の澄んだ空気がひんやりと体を満たす。


ああ、森林浴ってこんなかんじなのかなー。

落ち着くわー。



「っってそうじゃない!!どこよっここ!」


セルフつっこみを入れるがそれどころじゃない。

右を見ても左を見ても木。木。木。あと草。

異様に高い木々が周りを取り囲んでいる。日本によくあるような杉やヒノキなんかじゃなく、昔写真で見た大きい木が生えている外国の森だ。

昼間なのに、木の密度が高すぎて薄暗く、太陽の光なんてほとんど届いていない。


はっきり正直に言います。


怖い。むちゃくちゃ怖い。


見知らぬ、しかも人の気配の全くない森の中にいきなり放り出されることを想像してほしい。

小鹿やウサギが急に出てきて、「ああ、びっくりした!でも可愛い~うふふ」なんてのほほんと思えるような森じゃないから。

一寸先は闇。ってほどじゃないけど、何かが潜んでいそうな薄暗い物陰。明らかに大型の何かが通った後と、突然飛ぶ鳥の羽音と(姿は見えない)自意識過剰なのかもしれないけれどなにかに見られているような気がする。主に獲物を見るような目で。




「だ、誰かいませんかー・・・・ね?」


小声でとりあえず辺りを見回してみるが、当然のごとく誰もいない。

心細いし、怖い。そして嫌な予感しかしない。

こういった森、というかこの森は初めてだけど、こんな森は一年前に今となっては忘れ去りたい記憶の中にある。

そう、私がふざけた役割をむりやり押し付けられ、過ごしたあの旅の記憶だ。

もしや夢遊病で勝手に一人知らない場所に迷い込んだかと思い込みたかったが、小さな地元の町で知らない場所は無いし、少し離れた場所を横切った兎のような生き物には角のようなものが生えていた。あんなもの少なくとも実家の近辺にはいない。

多分きっと、ここは私のいた場所とは全く違う場所・・・異世界とやらの確率が高いだろう。



これは夢だ。と言い聞かせて痛いくらいに頬を抓ってみたけど、一向に目が覚める様子は無い。

ということは現実?


原因は、絶対さっき出会った美少女だ。

どうやらレオのことも私のことも知っているらしいし、あちら・・・今となってはこちらの世界の関係者だろう。



とりあえず、つったっていても仕方がない。


そのあたりに落ちていた棒を私は拾うと、びくびくしながら恐らく木々の影が薄いだろうと当てをつけて歩き出した。

あの時はレオとその他がいた。

彼等はともかく、レオは怯える私を側で守ってくれていた。

そんなレオは今はいない。

自分の身は自分で守るしかない。



お願いだから、変な生き物に出くわしませんように!と願いながら歩き出した私の頭上で、梟よりはるかに大きな鳥が飛び立っていった。


だから急に飛び立つのやめて!!

心臓に悪いから!



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