閑話――聖女と騎士――
少し短いです。
ひんやりとした白い大理石の神殿の奥深くで、長い栗色の髪の美しい少女が跪いて祈っていた。
少女は神殿で大神官に次いで高い身分にある聖女、シェリア・ネフリーだった。
この神殿には、この世界を創造したと言われている双子神の片割れ、シータ神が祀られている。
シータとエイダは双子の神。
この世界を、大地を、人間達や生き物を創造したと言われている二人の神である。
疫病や天災などで人間神に助けを祈った時に、すぐに手を差し伸べてくれたのはシータ神だった。
エイダ神は何故か沈黙を通した。
それゆえに、人びとは次第にシータにのみ信仰心を集めるようになっていった。
神殿の主神はシータであり、姉であるエイダは次第にその存在を薄れされていった。
カツン、と小さく靴音が響いた。
閉じていた瞳をゆっくりと開き、シェリアは女神を象った像を見上げた。
「――――――神は、何と?」
「シータ神は応えてくれました。時が満ちれば、わたくしたちをあちらの世界に送り出してくれると」
シェリアは立ち上がり、声の主を振り返った。
そこには、きっちりと騎士の衣装に身を包んだ青年、イオニアス・デルフィが佇んでいた。
「イオニアス。わたくしと共に、あの方を連れ戻しましょう。あの方は・・・レオ様は、この世界になくてはならないお方なのですから」
ぎゅっと胸の前で両手を握りしめ、シェリアは己に言い聞かせるように言った。
シェリアの前に、イオニアスは跪いて剣を立てた。
「聖女シェリア。貴女のお心のままに私は従います。この剣と我が心に誓って」
「・・・ありがとう。イオニアス」
シェリアは再び神を見上げた。
(必ず、貴方を連れ戻します。レオ様・・・)
シェリアの脳裏に、かつてこの世界を救った黒髪の少女の姿が過ぎった。小さな、ただ偶然神に選ばれただけの少女・・・。
レオは彼女を追って、異世界を渡る手立てを探し、見つけ、そしてこの世界から去ったのだ。
異世界を渡るには、聖女が神に祈って力を借りるしかないはず。けれど、彼は不可能だったことを成し遂げた。
(そう、彼女を追って・・・・・・・)
シータ神を見上げるシェリアを、イオニアスは静かに、けれど何かを決意したかのように見つめていた。