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やって来た魔女

朝食を食べながらテレビを見ていると、ふと気になるニュースが目に入ってきた。


『――区の××町の公園で、大きな悪戯描きが見つかりました』


「あれ、この公園・・・」


「どうした?ヒナコ」


「うん・・・ここ、近所の公園だなーって思って」


このアパートから最寄りの駅に向かう時の道とは正反対だが、歩いて十五分ほどの場所にある小さな公園だ。

暖かくなってきたし、夜間徘徊する高校生か中学生が悪戯でもしているのだろうか。

車もそうだが、改造バイクのあの爆音は腹が立って仕方がない。楽しいのだろうか?人がぐっすり寝静まっている真夜中に大きな音で走り回る輩の気がしれない。というか自分にもうるさいんじゃなかろうか。


「全く・・・こんなことして何が楽しいのかね。・・・・レオ?」


向かいに座るレオの表情が、少し硬い気がする。その眼はテレビに向けられている。

全国区のニュースならそんなに話題にならないような内容だが、この番組はローカルなものなので取り上げられているのだろう。


『付近では数日前に局地的な原因不明の停電が起こっていました。警察と電力会社では原因を現在も調査しているようです。では、次のニュースです』


「レオ?どうしたの?」


「いや―――・・・何でもない。ヒナコ、少し俺は出かけてくる。今日は学校は休みだろう。頼む、絶対この部屋から出ないでくれ」


「は?」


レオが一人で出かけるのは構わないが、部屋から出るなとはどういうことだ。

けれどやけに真剣な表情で訴えて来るので、納得はいかないが私は頷いた。


「まぁ用事も無いからいいけど・・・何なの?」


「後で理由は話す。すまない。それと、この前渡した鍵は持っているか?」


「あるけど」


「それを、念のため肌身離さず持っていてくれ」


そう言われ、私は細身の長いネックレスに鍵を通した。あちらに居た時も、同じようにして首からかけていたものだ。

レオが理由も無くこんなことを言ってくることはあまり無い。

一年の旅の経験から、レオの言うことにはとりあえず従っておいた方が良いというのは学習済みである。






レオが出て行った後、私は片付けと掃除を始めた。天気も良いので布団も干す。

洗濯物を干し終わり、ほっと息をつく。

ベランダから部屋を見ると、いつもの自分の部屋だ。

けれど、レオがいない。一人きりというのは久しぶりな気がした。


以前は自分の物しかなかったけれど、レオの私物も少しずつ増えている。

と言っても主に服などだが。あとは図書館で借りてくる本など。

私はまず絶対手を出すことは無い哲学書や昔の難解な文学書、話題の本など、ジャンルは幅広い。

あらゆることに興味を持ち、レオは貪欲に知識を吸収している。

何気に勉強熱心な上に順応力が高い。


再会してまだ数日しか経っていないのに、ずいぶん長い間一緒に居る気がする。


私にはもう関係の無い世界だけど、レオにとってはあちらの世界は故郷だ。

このままではいけないということは解っている。

でも、本人が戻る気が無いのなら、どうしたらいいのだろう・・・・。



「あ――――もうっやめだやめっ!よし、お菓子でも作ろう」


レオ自身が決めないと自分にはどうしようもない。考えることを放棄し、私は気分転換することにした。

食材を確認すると、ドライフルーツを見つけた。以前買ったまま、忘れていたらしい。

賞味期限も近かったので、これを使ってパウンドケーキを焼くことにした。


料理は良い。

無心になれる。

嫌なことや悩みがあっても、料理をしている間はそちらに集中できるので、忘れることができるのだ。



混ぜ合わせた材料を型に流し込み、後はオーブン任せである。


「さて、布団をひっくり返そうかな」


レオが出かけてそろそろ二時間になろうとしている。

どこに行ったのかと考えながら、布団たたきを手にベランダに出る。



足を一歩踏み出したところで私は固まった。



私の部屋はアパートの三階である。

周りに高い建物は無く、南向き日当たり良好で築年数もそれなりに新しい。駅から少し離れているせいで家賃も高くない。離れているといっても歩いて十五分ほどだ。立地条件は悪くない。

悪い噂も無く、ましてやどこかの部屋で誰かが死んだとか幽霊が出るとかそういった曰くは一切ない。

なのに。


ベランダの手すりに、女が座っていた。

確かに玄関の鍵をしたはずだし、今まで一人きりだったはずだ。

なにより、今この場にいるはずの無い人間が目の前にいる。

燃えるような鮮やかな赤い髪に、弧を描く紅い唇。真紅のドレスのスリットから、長い形の良い足がばっちり覗いている。色っぽいたれ目の瞳が、玩具を見つけた猫のように楽しそうな光を放っている。


「ふふ、見つけたわよぉヒナコ。久しぶりね」


「―――どこのどなたか存じませんが人違いですさようなら!!」


一気に言い放ちながら私は部屋に戻り鍵をしてカーテンを閉めた。




何で!?

何であの女がここにいる!?




ばっくんばっくんと心臓が音を立てている。


「なぁに?私のこと忘れちゃったのかしら?」


コンコンと窓をガラスを叩きながら窓の外で何か言っているが、聞こえないふりをすることにする。

そのまま五分。というか、五分が一時間にも感じる。

気配が無くなったので、私はそろりとカーテンの隙間から外を覗いた。


「・・・・よし、居ない」


「誰が?」


「ぎゃあああああああああああああ!!」


ポン、と肩を叩かれ、私は悲鳴を上げた。

ばっと振り返ると、先ほどの女が笑いながら私の後ろに居た。


「ひどいじゃなぁい?三年ぶりに会った旅の仲間なのに。もし私を忘れているなら、思い出させてあげましょうか?」


目の前に差し出された杖にぞっとして、私はぶんぶんと首を振った。

冗談じゃない。何をされるか分かったもんじゃない。


「ひ、久しぶり・・・アンジェリーナ」


「うふふ、覚えていてくれて嬉しいわ。ヒナコ」


目の前の妖艶な美女。

彼女はあちらの世界で一緒に旅をした、魔女だった。

・・・とりあえず靴脱いでください。ここ土足禁止。








「貴方が巫女様?貧相な子供ねぇ」


初めて彼女に出会ったとき、開口一番こう言われた。

失礼な。確かに体は貴方方に比べればかなり小さいかもしれないが一応十八だと言うと、「ますます貧相ねぇ」と言われた。

そりゃあ貴女の出るとこ出て締まるとこ締まったハリウッド女優みたいなスタイルに比べりゃ誰でも貧相ですよ!



魔女であるアンジェリーナは本来は魔族側だったが、勇者を気に入り魔族を裏切った大魔女だと言う。いいのかそれでと思ったが、魔女というか魔族と言う種族は自由奔放な者が多いらしく、寝返ろうが仲間を裏切ろうがさして問題ではないらしい。どうやらRPGにありがちな、魔王がいて魔族は全員王に心酔している、というわけではないようだ。

元々は人を惑わす魔女と恐れられていて、勇者となる前だったレオがギルドに頼まれて討伐に向かったらしいが、アンジェリーナは彼を一目見て気に入り、あっさりと寝返ったという。

そしてレオが勇者として選定され、その一向にアンジェリーナは自ら加わった。

魔女が・・・と彼女の仲間入りを危惧する者も多かったが、アンジェリーナは強大な魔力を持つ大魔女だ。

もし彼女が裏切れば、彼女より強いというレオが倒せばいい。野放しにしておくよりは、彼の側に居させる方が安心だという意見でまとまったという。

まぁ、もし反対されていても彼女はレオについていっていただろう。人に何かを命じられて聞くような女性では決してないから。



女王様のような彼女にはからかい交じりにいじられていた気がする。

ただ、彼女の場合それが悪意からではなく、弱い変わった玩具を相手にする子供のようなものだったと思う。

かといって時々身の危険を感じることはあったのだが。


彼女の探究心は深く、新しい魔法の開発実験につき合わされそうになることが多々あった。他のメンバーは助けてくれないのでレオを頼りに逃げていたが、たまーに逃げきれず彼女の魔法の餌食になっていた。死にそうなものではないけれど、カエルっぽいものにされた時は本気で泣いた。小さいアマガエル的なものだったのでまだ茶色いのよりはましだが。

巫女様がきゃーきゃー騒いで、騎士に蹴り飛ばされそうになった。アンタさっき私が変身させられてるの見たんじゃないの!?と言いたかったが、出た言葉は「ケロケロ」というもの。

レオが助けてくれなきゃ一生あのままだったかもしれない。何しろ「その姿でも使命は果たせるんじゃない?歩く必要も無くなるし、元々小さいから別にいいでしょ」と魔女が言ったせいで危うくその姿のままだったかもしれないからだ。いいわけあるか!何で爬虫類にならなきゃならないんだ!あ、カエルは両生類か・・・。


魔族の彼女にとって、黒は別に忌むべき色ではない。

なので私に対して偏見の目は無かったけれど、なんにせよ、もう一度会いたい人物ではない。







「それにしても狭い所ねぇ。物置小屋にしても狭すぎるわ」


「一応ここ私の住んでる部屋なんですけど」


え、そうなの!?と大げさに驚かれても。すいませんね、これ一般庶民の普通なんです。

さも珍しそうにきょろきょろと部屋を見回している美女を目の前にし、私は自分の紅茶に口をつけた。


あちらの世界に居た時、文字通り役立たずだった私はせめて料理位はと思って一度だけ作った。けれど私の料理は、なぜかレオ以外誰も手を付けなかった。


「畏れ多くも巫女様が作った料理を自分たちが食べるわけにはいきません」


と言われたが、「お前の料理なぞ得体がしれん」と目が言っておりました。

腹が立ったので残りは私が責任もって食べました。残すともったいないし。あ、レオは食べてくれたけど。

そういうわけで、それ以降私も料理は一切しなかった。

今回は一応アンジェリーナにも紅茶を出したが、飲むかどうかは彼女の自由だ。


「・・・で、何しに来たの?というかどうやって来たの?」


「私くらいの魔力を持ってすれば、自分一人くらい異世界へ渡ることは造作も無いわ。ただ、さすがに暫くは魔力の回復が必要だけどね。ヒナコの近くへ転移するつもりだったんだけど、座標が少し狂ってたみたいでどこかの広場に着いたの」


「・・・・もしかして公園?」


「さあ?鉄の棒とか砂がある場所だったわ」


私の頭の中で、今朝のニュースが流れる。

アンタの仕業か!!!



もしかすると、レオは彼女の気配を感じて出て行ったのかもしれない。


「・・・・で、何しに来たの?」


もう一度聞くと、アンジェリーナはテーブルに頬杖をついてにっこりと笑った。


「そりゃあもちろん、アナタに会いに」


嘘つけ!顔に嘘よって書いてるよ!


「――なぁんてね。実はヒナコの世界に前から興味があったの。それと、レオが来てるでしょう?彼に会いに来たの。ヒナコはそのついでね」


「はぁ・・・。あ、そうだ、なら」



続きを言いかけた時、大きな音を立てて玄関の扉が開かれた。


「ヒナコ!!無事か!?」


慌てた様子で帰ってきたレオだった。

というかドアをそんなに乱暴にしないでほしいんだけど。


「いや別に何ともないんだけど・・・どこ行ってたの?」


私が普通に座っているのを見てホッとした様子のレオだったが、同じく座っているアンジェリーナを見て心なしか目つきが鋭くなった気がする。空気をわざとに読んでいないアンジェリーナは、ひらひらとレオに向かって手を振った。


「はぁい。お久しぶりねぇ、レオ」


「―――アンジェリーナ・・・・・やはりお前か」


「うふふ。相変わらず冷たいのねぇ。そんな所も気に入ってるんだけど」



美女と美青年に挟まれている超平凡な私。

ここ私の部屋なのに、なぜか場違い感が半端ないんですが。







「気配を感じて探しに行ったが、魔力の残滓しか感じられなかった。ここにいたとはな・・・。それで、何をしに来た?」


私と同じ質問をするレオ。

とりあえず私の部屋に腰を落ち着けて三人はテーブルを挟んで向かい合った。


「・・・・ちょっと。何で私にひっついてんのよ」


何故かレオは私を抱き込むように座っている。

解せない。座るスペースはいっぱいあるじゃないか。


「お前を守るためだ、ヒナコ」


「あらあら。妬けるわぁ。ふふっ」


怖っ!笑ってるけどなんか背筋がヒヤリとするんですけど!?


しかし話が進まないので私はレオはただの背もたれと思い込むことにした。レオがいれば彼女も妙なことはしないだろう。・・・多分。


「ヒナコの世界に興味があったのと、アナタに会いに。久しぶりの再会じゃない、そんなに睨まないでほしいわ。それに何もしないわよ」


「レオに会って、連れ戻しに来たんじゃないの?」


なにせ世界を救った勇者様だ。いなくなったら皆困るんじゃないのだろうか。


「連れ帰れるものならそうしたいけど、私の魔力じゃさすがに別の人間を異世界に送ることはできないわね。自分一人がさすがに限界かしら」


そうなんだ。

連れ帰ることができるのなら、元の世界に送り返してほしかったんだけど。

ちらりとレオを見上げると、「帰らないからな」と言われた。

あ、そう・・・。


「でも魔法がないのにこちらの世界の文明もわりとすごいわね。文化、歴史、色々と興味深いわ」


「そうなの?」


「そうよ。面白いわね、この世界は。数えきれないほど言葉があり、歴史がある。この数日でいろんな場所を回ったわ」


魔法とは、ただ杖を振るえば誰でも使える、というわけではないらしい。

炎を起こすための原理。四元素の関係や調合。あらゆる難解な知識が必要だという。科学みたいなものなのかな?よくわかんないけど。

魔族にとっても同じことで、魔法を使う者は皆知識に貪欲でいろんなことに興味を持っているらしい。

そういえば彼女は時間があればいつも本を読んでいた。


「それで?用件は済んだだろう。ならこの場から去れ」


「やだ、冷たいわね。久しぶりに会ったというのにつれないわ。まぁ、貴方に会うという目的は果たせたけれど、まだこちらの世界に興味があると言ったでしょう?しばらくこちらにいるわ」


「はい?!」


何と言いましたかこの人は!


「・・・ヒナコに危害を与えないと誓うならいいだろう」


上から目線かい!


「当然よぉ。レオと戦うのは楽しいかもしれないけど、お互い無事じゃすまないだろうし。それに、こう見えて私結構ヒナコのこと気に入ってるのよ」


うふふと目の前で笑う美女がなんだか怖いです。


「・・・もう好きにして」


正直疲れた・・・。


そして、私はふと気付いた。

アンジェリーナが目の前の紅茶に手を伸ばすのを。

私の視線に気付いたのか、アンジェリーナは「なぁに?」と聞いてきた。


「いや・・・飲むんだなーと思って・・・」


あちらでは一切私の作ったものに手を付けなかったのに。


「だって今のヒナコはただの人間でしょう?」


「?」


わけがわからない。

すると、レオが私の疑問に答えてくれた。


「あちらの世界ではヒナコは召喚された巫女として神の加護を受けていたんだ。一応アンジェリーナは魔族側だからな。神の加護を受けた者が触れた物には簡単に触れることはできないんだ」


「え、そうだったの?」


「そうよ。まぁ私くらいの力を持ってて、神殿の誓約を受けた魔族なら多少は大丈夫だけど、必ずしも大丈夫というわけではないのよね。料理を食べた程度で死にはしないだろうけど、具合が悪くなる程度にはなったでしょうね。今のヒナコはただの人間。だからもう大丈夫よ」


なるほど。それは仕方ないだろう。その気は無くても、私の作った物で食中毒的な症状になると分かっているものをあえて食べてもらいたいとは思わない。

ずっと一緒に居たので忘れていたけれど、アンジェリーナは純粋な魔族だったということだ。


「ん・・・?アンジェリーナが私の料理を食べなかった理由は解った。でも他の人は?」


騎士や神官、聖女なんかは当然神殿の加護を受けているだろうから平気なはずなのに。


「ああ、それは恐れ多いからじゃないかしら?なんたって神の加護を受けた巫女様の手料理なんだし」


「それはないわね」


彼らの様子を思い返せばそれは絶対ありえないだろう。絶対嫌がらせだ。特に聖女様と騎士と神官。


「ヒナコの料理は美味い。食べないなんてあいつらは馬鹿だ」


「いや、仮にも仲間だった人たちでしょう?馬鹿って・・・」


美味しいといわれるのは嬉しいが、気恥ずかしさも若干ある。


「ね、ヒナコ。私は貴女の手料理が食べてみたいわ!こちらの料理に興味もあるし」


興味津々といった風にアンジェリーナが身を乗り出してきた。


「それはいいけれど・・・。いつ食べに来るの?」


「とりあえず今日ね。あと、甘い香りがするんだけど何?」


「ああっそうだ忘れてた!」


パウンドケーキを焼いていたのだ。

そろそろ焼きあがる時間だ。


レオの腕の中から抜け出て立ち上がり、キッチンへと向かう。


「ヒナコ。このお茶のお変わりも頂けるかしら?」


「はいはい。レオも飲む?」


「ああ」


茶葉を取り換えながら、私はふと気が付いた。

あちらの世界ではアンジェリーナは私のことを「巫女様」と呼んでいた。

けれど、こちらでは「ヒナコ」と呼ぶ。

それは私を”巫女”という肩書ではなく”雛子”という一人の個人として見てくれているということだ。

案外、彼女とはゆっくり話をすれば、少しは仲良くなれるかもしれない。


「あ、お茶は熱めにしてね。さっきのはちょっとぬるかったわ。それと、もう少し濃いのがいいわね」


いちいち注文が多いな!

でもまぁいい。

彼女は一応お客様だしね。


さて、アンジェリーナに何を食べさせてあげよう。

メニューを考えながら、私は自分が少しだけ気分が良いことに気付いた。




















昼食の材料が足りないと言って、雛子は買い物に出かけた。

レオはアンジェリーナを一人にしておくこともできず、部屋に残った。

雛子が扉を閉めると、部屋にぴんと糸を張りつめたような緊張が走った。


「・・・で、本当は何をしに来た?返答次第ではただでは済まさない」


レオが睨み付けるが、アンジェリーナは平然としたままだった。。


「言ったでしょ。ヒナコの世界に興味があったって。いやぁね。そんな怖い顔していたらヒナコに嫌われるわよ?せっかくマシな顔に戻ったと思ったのに、彼女が居なくなってた三年間の状態に戻ってるじゃない。・・・本当、彼女には何もしないわよ。私は、ね」


アンジェリーナの言葉に、レオがぴくりと反応した。


「・・・・どういうことだ」


「私はただ、忠告に来てあげたのよ?感謝してほしいくらいだわ」


「忠告?」


訝しげなレオに、アンジェリーナは頬杖をついて頷いた。


「そ。さっきはああ言ったけれど、いくら私でも異世界を渡る力は持っていないわ。レオが居なくなってから、ちょっと問題が起こったの。だから、適任者として私が呼ばれて、こちらへ来た。期限付きだけど、ヒナコの世界を見て回るのはその対価ってところね。魔力は制限されているけれど、貴方のように条件は与えられていないわ」


「・・・聞いたのか?」


「ええ。彼の人の力で私はこちらへ送られたのだもの」


レオはじっとアンジェリーナを見つめた。

アンジェリーナもからかうような表情を消し、視線が交わる。


「・・・分かった。お前を信じよう。それで、忠告とは何なんだ?」


「あの二人・・・聖女様と騎士のイオニアスもこちらへ来るわ。気をつけなさい。とくにヒナコに気を配るように」


それを聞いてレオが立ち上がった。

けれどアンジェリーナがそれを止める。


「まあ待ちなさい。まだ大丈夫。いくら神の力といっても、二人同時に異世界へ送ることは簡単にはできないと聞いているわ。それに、もし彼らがこちらへ来たら、あの方にはそれが解る。その時は神官長から連絡が入るわ」


「アーネストか?」


アーネスト・フィニアンは一緒に旅をしたかつての仲間だ。旅の後、その功績を称えられて最年少で神官長の座に就いている。


「ええ。誰かさん達のせいで胃痛で苦しんでるみたいだけど、立派に神官長をやってるわ。・・・今回の聖女シェリアの勝手な行動は、神殿も驚いていたわ。内部でも意見が分かれている。でもまぁ貴方がそれを気にすることはないわ。レオはただ、ヒナコを守っていなさい」


「当然だ。何に変えても守る」


レオの返答に満足し、アンジェリーナは微笑んだ。






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