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現役女子大生なんですよ一応

あれから押し問答の末、半ば押し切られるようにレオと暮らすことになった。

しかも期限は無期限。

私がレオに答えを出すまで、ということだ。

答えと言っても究極の二択しかないのですが!?どちらにしてもレオが一緒というのは同じなんだけどね・・・。


ど う し ろ と ! ?


元・年下。現・年上になったくせに家に帰りたくないという子供の駄々っ子か!



勇者であるレオも当然魔法を使うことができる。

自分の敵に対しては容赦ないその様子は、若干私も怖かった時もある。

否・・・正直に言おう。かなり怖かった。

でも、異世界を渡るほどの魔力を持つ者はほとんどおらず、まして他人を異世界に送るなんて芸当ができるのは聖女様くらいらしい。

勇者も無理だと言うことだ。

聖女様に送ってもらったのでなければ、レオは誰にこちらへ送ってもらったのか?

けれどそれに関してはレオは答えをはぐらかした。

言いたくないものを無理に聞くつもりは無いけれど。

どうやってあちらの世界に戻るのかと聞くと、それに関してもレオは教えてくれなかった。

何でだ。

曰く、「その時になったらわかる」とのこと。



とにかく。一緒に居る以上こちらの常識もわかっていない人間を放り出すわけにもいかないし、知り合いに預けるわけにもいかない。何を聞かれるかわかったもんじゃない。

なので、結局私の住むアパートで暫く一緒に暮らすことになったのだ。


暮らすにあたって、いくつかレオに条件を突き付けた。


① 魔法類の使用禁止。こっちの世界は魔法なんてものはないので、魔力自体かなり力の精度は落ちるらしい。それにしても、だ。魔法なんて概念は絵物語の中にしかないので、目立つような行為をわざわざ起こしてもらうわけにはいかない。


② 必要以上の接近禁止。あれからやけに奴はスキンシップが激しくなった気がするのは絶対気のせいではない。


③ こちらの世界に慣れるまで、一人での外出禁止。ただでさえ目立つ身長と容姿だ。せめて一般常識は身に着けてもらわないと非常に困る。



まぁ大きく言うとこんなものだ。

ちなみに、勇者便利グッズも使用禁止だ。

うっかり落としでもしたら大変である。

持ち主にしか使えないらしいが、ただの宝石としても価値は高いと思う。

言っておくが私に弁償能力は無い!実家にも無い。

もし無くしたとしたらそれは自己責任である。



あれからまず最初に困ったことはレオの服だ。

男物の服は私もあまりよくわからないし、とりあえず何着かはネットで購入。

通販の偉大さを改めて知ったよ!!


どうでもいいことだが、試着をしないで服を買うと、かなりの確率で失敗することがある。

雑誌でモデルさんがかっこよく色んな服を着こなしてるけど、あれはモデルのスタイルがあるから似合うのであって、一般人が同じ格好をすると大概「??」なことになる。パンツの丈が合わなかったり、肩幅が合わなかったり、思ったより似合わなかったり。

私も体が小さいので、合う服を見つけるのに苦労している。


レオの服は身長などでサイズを調べてとりあえず買ったのだが、まーこれが似合うこと似合うこと。

何の変哲もないシャツもパンツも、まるであつらえたようにピッタリである。着るだけでそのままモデルの被写体になれそうだった。


通販での購入だしあまり高い物ではないが、若干懐が痛い。・・・欲しかった圧力鍋を暫く我慢するしかないな・・・。

あまり無駄遣いする方ではないのだが、バイトもしていないので貯めていた貯金を少々切り崩すことにした。

レオがこちらのお金を持っているはずはなく、戸籍もないのでバイトもできない。資金源は当然私になる。

レオが持っていた勇者便利グッズの宝石を渡そうとしてきたが、丁重に断った。あんな高そうなもの貰っても困る。

というか、その中に勇者の鎧とか勇者の剣とか色んなものを入れてるんじゃないの!?

簡単に人に渡そうとするもんじゃない!!


あちらの世界に居た時は全部の旅の資金を見てもらったので、そのお返しのつもり、というのもある。実際は自分で稼いだものではなく、実家からの仕送りやお年玉などなので、本当にお返しになっているのかと言うと疑問だが、この際細かいことは置いておく。


改めて考えると、あちらの世界では英雄視されている勇者が、こちらの世界ではニート・・・笑えない・・・。



私が大学に行っている間、レオはアパートに置いてきた。

何はともあれ、まずはこちらの世界の一般常識を学んでもらわなければならない。レオにはパソコンや図書館で借りてきた本を与えてきた。

ちなみに言語の壁はスルーらしい。何と言うご都合主義。

私もあちらでは言葉は通じたし文字も読めた。さすがに書くことは覚えなければならなかったけれど。

文化が全く違うので全てが興味深いらしく、基本的なことを教えたパソコンを早くも使いこなしていた。







「はー平和だ・・・」


午前中の講義が終わり、私はぐったりと机に突っ伏した。大学だけが、今の私にとって落ち着ける場所になっている。


「どうしたの、雛子。えらく疲れてるじゃない。春休みボケ?」


友人である宮村唯みやむら ゆいが側に来た気配がした。


「休みボケってわけじゃないけど・・・ただ疲れてるだけ・・・」


正直疲れていた。レオのスキンシップに。

あちらの世界ではもっと生真面目だったのに、再会してからの奴は気を抜くと何をしてくるか予測がつかない。隙あらば触れてこようとする。

別の布団で寝ているはずなのに、朝になるとなぜかあいつは私と同じ布団で寝ていて、しかも抱きしめられているのだ。

布団に入って来るの禁止!と言っても無駄だった・・・・。というか、抱きしめられた時点で起きない私もどうかと思うけどさ・・・。

邪魔だとは思うけどベッド買おうかな・・・・。(今の私の部屋にはベッドは無い)


「何?何かあったの?」


「・・・別に。ちょっとね」


ふうん、とそれ以上追及してこず、唯は私の頭をつついた。


「ほら、お昼行こう。天気もいいから外で食べよ」




桜の花が大学の至る所で咲いている。

天気も良いので、中庭やテラスで昼食を摂る生徒がほとんどである。


私も唯も基本的にお昼はお弁当を作ってきている。

お互い料理が好きなので、作ってきた物を交換したり、料理についての意見交換などをしている。

ちなみに唯が得意な料理は和食だ。

外見は、髪をブラウンに染めて緩く巻いていて、メイクもばっちり。服装も雑誌をよくチェックしており、流行の最先端。そんな今時女性だが、彼女が作る和食は本当に味が優しくて繊細である。将来料亭でも開いたらいいんじゃないかと思うくらい美味しいのだ。


「ね、聞いて雛子。春休みから私、塩麹にはまっててね」


「そうなんだ。私はまだ使ったことないなー。でもお母さんが使ってた。あれ美味しいね」


「でしょ?あれすっごい便利だよ」


塩麹とは、水と塩と麹を混ぜて発酵させたもので、様々な料理に使える調味料だ。

実家の母親も最近使い始めたらしく、チャーハンにも入れていた。あれは本当に美味しい。


春休みのことや授業のことを話しながら空いているベンチを見つけ、腰かける。

鞄からお弁当を取り出すために開けるが―――――・・・・・・


「あれ・・・?」


無い。

今朝作った弁当が入っていない。


「うわぁ最悪・・・忘れた・・・」


どうやら朝、レオが学校に行く私について来ようとして全力で止めていて遅刻しそうになり、慌てて出てきたのがいけなかったようだ。



「あらら。どうする?食堂行く?」


「せっかく作ったのに・・・はぁ・・・買いに行ってくる。先食べてて」


「わかった。いってらっしゃーい」


唯に手を振り、私は一番近くの購買へと向かった。






中庭を横切っていると、なにやらあちらの方が騒がしい。

何があったのだろうと思ったが、さして興味も無いので購買のある建物へ向かっていると、すれ違う女生徒の会話が耳に入ってきた。


「ねえ!すっごくかっこいい外国人が来てるんだって!」


「背が高くて金髪のモデルみたいな人だって。見に行ってみよう」


金髪?背が高い?


嫌な予感がします。

知らないふりしたいんだけど・・・・まさか、ねぇ?ほら、金髪の外国人なんてこの大学にもいるし?



「誰か探しに来てるみたい」


「え、誰?」


「えっと、ヒナコって人探してるみたい。この大学の人かな?どこの学部だろう」




私は足を止めた。

・・・・まじか・・・。










人違いであることを願いつつ、次第に人(主に女子)が増えつつある方向へと向かう。


うわぁ・・・・帰りたい。


目の前には芸能人が来たのかと思うほど人だかりができていた。

しかし飛びぬけて背の高い男の顔が嫌でも目に付く。

嫌な予感的中。

アパートにいるはずのレオがそこにいた。



何をやってるんだ何を!!




正直近づきたくない。

許されるものなら回れ右して他人のふりをしたい。

だがそういうわけにもいかない。

と思っていたら、向こうの方が私に気付いた。


「ヒナコ!」


こらあ!私の名前を呼ぶんじゃない!!

ほらっ周りの女子の目が怖いじゃないか!


ああ・・・・向こうでもこんなことあったな・・・。

勇者の側にいる私は、女の人に仇でも見るような視線でしょっちゅう睨まれていた。なぜか魔女と聖女様はスルーであったが。

女の嫉妬って怖い。超怖い。

しみじみと感じだ瞬間だった。



女子ばっかりの垣根を超えて、レオは私のところへ歩いてきた。


「誰?あの子」


何やら言われていたが、聞こえないふりをする。


「良かった、見つかった」


「いいからっこっち来なさいっ」


私はレオの腕をつかみ、その場から逃げるように足早にそこを去った。








人気の無い場所までレオを連れて行き、私は奴に向き直った。


「ちょっと、何しにここに来たのよ!」


「これを届けに。忘れていただろう?」


差し出されたのは、忘れていたお弁当だった。


「お弁当・・・ありがと。ってそうじゃなくて!まだ一人で出歩かないよう言ったじゃないの!というかどうやってここへ来たの?」


「ここの名前は聞いていたから、パソコンで調べた。電車というのもなかなか面白い乗り物だな。馬よりも早い」


確かにネットを使えば場所は分かるだろう。お金も何かあった時の為に置いてきたし、電車にも乗れるだろう。

けれど、それを実行できたレオは正直すごいよ。

ちょっと感心した。

というか、順応力高いな!



「ヒナコの言うとおり、魔法も魔法具も使っていない。目立つようなことはしていない。安心しろ」


いや、貴方の外見からすでに目立つんですよ。

・・・見た目はどうしようもないけど。

まぁとりあえず妙なことはしていないだろう。


「はぁ・・・もういいわ・・・」


午後の授業があと一時間残っているが、レオを一人で帰らせるのも不安なので休むことにする。

後で唯にノートを写させてもらわなければ。

そして、はたと気づく。

唯の所に教科書を入れたバッグを置きっぱなしだ。


「あーしまった・・・・レオ。私ちょっと荷物取ってくる。一緒に帰るから待って・・・・てあれ」


持っていたバッグから振動。

スマホを取り出して画面を見ると、唯からの着信だった。


『あ、雛子。どこにいるの?』


「ごめん、唯。ちょっとハプニングが・・・」


「誰だ」


「ちょっと黙ってて!」


『え、どうしたの?』


「あ、いやごめんっこっちの話」


レオに黙るように目配せする。


『?で、どこ?』


「今からそっち一度戻るから。待ってて」


『そう言われても・・・・あ、いた」


スマホからではなく、耳に直接聞こえた声。

振り向くとスマホ片手に唯が私のバッグを持って近づいてきていた。


「もーずっと待ってたのに戻ってこないし。やけに女子がうろうろしてるし何なの?ていうか誰?この人」


「あはははは・・・」


笑うしかなかった。

唯に痛々しい体験を言うわけにもいかず、どうごまかそうかと必死に考える。

ちなみに唯は彼氏がいる。珍しくレオのハーレム体質はあまり効いていないらしい。人妻にも頬を染められていたのに珍しい。


「えーっとえーっと・・・し、知り合い?」


「え、彼氏じゃないの?」


「そうだ」「違う!」


しれっとした顔で嘘をつくな!


「違うからね!唯」


「そうなんだー。もしかして皆が探してる人ってこの人?あ、初めまして。雛子の友人の宮村唯です」


「レオ・ルーデンスだ」


「留学生ですか?背、高いですねー」


こらあそこっ!私を置いて話を進めるな!


「ゆ、唯っ、私今日急用ができて、次の授業休むから!ノート後で写させてね!」


「え、そうなの?いいけど・・・もしかしてデート?」


「ちーがーうー!!」


「大丈夫だぞ、ヒナコ。まだ用があるんだろう?俺は一人で家に戻る」


「え・・・もしかして、一緒に住んでるの?」


「ああ、そうだ」


「レオ!!」


「きゃー本当!?雛子ってばいつの間に!」


何ばらしてるんだ!


「っごめんっ唯、とりあえず私今日は帰るから!じゃっ帰るわよ、レオ!」


くるりと背を向けかけた私の肩を、唯はがっしりと掴んだ。

恐る恐る振り返るとにっこりと笑った友人。


「ノート写させてあげる。とりあえずこのことは誰にも言わない。だから、後でじっっっくりと話を聞かせてね。雛子」


笑っているのに目が怖い。


「・・・・ハイ・・・」


後が怖いんですけどぉおお!?


「じゃあね、雛子。レオさん」


そう言って、唯はうきうきとした足取りで戻って行った。

私は唯になんと説明したものか頭を抱えたくなった。じろりと下からレオを睨み付けると、「何だ?」とレオは微笑んでいた。

何だ?じゃないっ!



でも、私はまだこの時点では気づいていなかった。

さらに頭を抱えたくなるようなことがこれから起こることを――――――――・・・・・・・・。














人気の無い夜の公園だった。

ぼんやりと光っていた街灯がバチバチっと音を立てて点滅し、電気が消えて真っ暗になる。

次いで赤い模様が地面に浮き上がり、ぶわりと風が吹いた。

赤い光が辺りを照らし、それが消えるとそこには一人の女性が佇んでいた。


紅い髪に紅いドレス。

緑の目が周りを見回し、紅い唇が弧を描いた。


「ここが、あの娘の世界ね・・・」


笑みを含んだ女の声が、闇に溶けて行った。





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