進入。そして対決
せめてもう一度会いたい。そんな思いでイノはあっち側に足を踏み入れていた。
「・・・大丈夫。すぐにばれる事はないはず」
帽子を目深に被り、イノは慎重に軍事施設へ向った。
だが目の前に着くと夥しい警護人数に中へ入る事は出来そうになかった。
「・・・どうしよう。折角此処まで来たのに」
ある程度距離をとりながら何とか中の様子を探ろうとするが、高い壁に阻まれて不可能だった。
「ダメだ」
諦めて帰ろうとした時、軍服を着た謙吾らしき人物が目に入った。
「・・・ケン、ゴ?」
目を凝らし、見つめるとやはり謙吾の姿に間違いなかった。
「どうして・・・?」
疑問だけが膨れ上がった。
真衣の言った通り、謙吾が何を考えているのか全く理解出来なかった。
「隊長。ご命令を!」
「西エリアに武器の大量所持が見受けらた。抗戦への可能性がある。速やかに排除しろ」
「了解。直ちに向います」
敬礼と共に軍隊は武器を構え走り出した。その後に続いて謙吾も姿を消して行った。
「・・・何で?わけわかんないよ」
謙吾の姿に悲しみを抱きながらイノは静かに帰って行った。
こっち側に戻って来ると何故か謙吾の兄、一義の姿があった。
「・・・ケンゴのお兄さん!?何でこっちに?」
驚いた様子で駆け寄るイノに一義は複雑そうに笑みを浮かべた。
「僕のマイエンジェル。謙吾が代わってやるっていきなり来て追い出された」
「エッ?」
「私も最初はビックリしたわ。突然来てお世話になりますとか言われて・・・」
真衣もどこか複雑そうに答えた。
だがイノはこの状況によりようやく謙吾の考えが理解出来た。
「ケンゴ、お兄さんの代わりになったんだね」
イノの震える拳が痛々しくも一義は寂しそうに頷いた。
「ケンゴはバカなの?」
目に涙を浮かべるイノに一義は小さく溜息をつき、語り始めた。
「・・・・・・それはこの街。アークを守る為何だ」
元々一つの街だったアーク。だが浮彫りになる貧困と格差によって街は分裂。内戦間近だった。
その核とも言えるのが軍事総管を務める達士だった。
内戦になれば街はほぼ壊滅状態になり、多くの犠牲を伴う事は目に見えていた。
その均衡を保つ為に争いの火種になる前に潰すのが一義の役目だった。
「この状況を保つためには仕方ない事なんだ」
「そんなのおかしいよ!結局やってる事は同じでしょ!?」
「だね。それでもどうしようもないんだ」
「そんな事ない!和解すればいいだけでしょ!?」
「・・・それが難しいからこの状況何だ。それにこの暮らしが心地良い人も居るし」
真衣を見つめ、静かに諭す一義にイノは納得出来なかった。
「いくら居心地良くても住みやすいわけじゃない」
真衣が好きで此処に居るのではない事を知るイノは強く反発した。
「環境も設備も食料も。こっち側に住む人は生活するのも大変何だよ!?」
「でもだからと言ってあっち側の人々と折り合う気は無い。だからこっち側に住み続けてるんだろ?」
一義の問いかけに真衣は複雑そうに笑って頷いた。
「えぇ。この子達も居るし。この数じゃ何処も受け入れて貰えないわ」
結局どう足掻いても変えられない現実に為す術はなかった。
でもイノはまだ希望を捨ててはいなかった。
「・・・要するにケンゴのお父さんを説得すればいいんだ」
真夜中、イノは真衣のペット達と一緒にあっち側にいた。
「頼んだよ」
小声で話しかけると猫達はいっせいに軍事施設に忍び込んで行った。
数分後。得意気な様子で戻って来てカードキーをイノに渡した。
「ありがとう。後は俺一人で大丈夫」
優しく猫達の頭を撫で真衣の元に戻るよう促した。
そしてイノはカードキーを握り絞め一人、施設へと乗り込んで行った。
猫達の情報ルートに従い、監視の網を掻い潜るイノ。
たどり着いた先は軍事総管執務室だった。
その扉にカードキーを差し込んだ。すると扉は重々しい音と共に開かれた。
小さく拳を握り絞めイノはその部屋に足を踏み入れた。
「・・・どうやら何の間違いか子猫が紛れ混んだようだな」
真上から高圧的な声で言われ、イノは咄嗟に身を翻した。
「・・・何時の間に!?」
ついさっき入って来た扉に達士の姿があった。
「まんまと忍び込んだようだな・・・」
見下す様な眼差しにイノは対抗し、睨み返した。
「話しがあって来た。ケンゴを開放しろっ!」
強気な言葉とは裏腹イノの全身は震えていた。
「陳腐な話しだな」
「自分の息子に人殺しさせるなんてどうかしてる!」
「・・・何を言っているんだ?さっぱり意味が分からないな」
ゆっくりとした足取りで椅子に深く腰をかける達士。
「とぼけるな!あんたがしてる事は正義なんかじゃない!!」
「では聴こう。少年、それでは一体何が正義なのか・・・」




