須賀原達士見参
「その程度で僕は倒せないよ?」
「元々倒す気なんてねぇよ。大体兄貴だってこんな仕事本当はやりたくないんだろ?」
「僕の天使はやはり純粋なんだね。けど僕は違う、もう遅いのさ!!」
刀を振り抜き謙吾吹っ飛ばすと鞘に収めた。
「せめて苦しまずに殺してあげましょう」
刀を抜く瞬間、イノは叫んだ。
「止めて!可笑しいよ、兄弟でこんなの・・・間違ってるよ!!」
悲しそうに訴えるイノの言葉に一義は僅かに気持ちが揺らいだ。
剣先は謙吾の頬を掠めて止まった。
すると突如、重厚感が身体にのしかかり、高圧的な威圧感にイノは謙吾の後ろに隠れた。
「と、総管!?」
「・・・迷いを生じたようだな」
「申し訳ありません」
膝を立て座り込み敬意を評するように頭を垂れ下げる一義。
謙吾は居心地悪そうに実の父親を睨みつけた。
「相変わらず威勢だけはいいみたいだな、謙吾。何しに戻って来た」
「てめーに関係ねぇだろ、クソ親父」
悪態つく謙吾の顎を一瞬に掴み上げ、達士は重たく述べた。
「口の利き方がなってないな」
「うごがぁああ」
顎が割れる程の力に謙吾は呻いた。
「まあいい」
そのまま謙吾を床に叩きつけるように放り捨てる達士。
その衝撃が体中に駆けめぐり、痺れたように謙吾は動けなくなった。
達士はイノに対象を代え見下ろすと、その鋭い眼光にイノは震えだした。
「こんな小動物に手こずるなど話しにならんな」
震えるイノに構わず腕を掴み上げると無造作に注射器を刺した。
「んにゃぁ!!」
痛みに叫ぶイノに構わず血を抜き取ると達士は軍事用ナイフを取り出した。
「よせっ!」
力の限り謙吾は叫ぶが達士は冷血にもイノの猫耳を切りつけた。
「いぃ!!」
想像以上の激痛にイノはミミを押さえ転がった。
「サンプルはコレで十分だ。後始末は任せたぞ」
達士は一義にそれだけ告げると何事もなかったかのように立ち去った。
「おい、ガキ。大丈夫か!!」
這いずるように近づく謙吾にイノは微笑した。
「ケンゴ、大丈夫。少し切られただけだから・・・」
イノの片方の猫耳は少し欠けており、大丈夫とは程遠く痛々しい状態だった。
「・・・バカ野郎」
優しい気遣いに謙吾は悪態つくとイノを優しく抱きかかえた。
「兄貴、やっぱり俺はあいつのやり方は気にくわねぇ。それに従うてめぇも同じだ」
「・・・そうだろうね。僕は魔王に魂を売った悪魔だ。何と言われても仕方ない」
諦めたように呟くと一義は鞘に手をかけた。
「そんな事ない!だって本当はこんな事したくないんでしょ!?」
「君に何が分かると言うんですか?」
「ケンゴが言ったから。本当はしたくてしてるんじゃないんでしょ?」
不意についた謙吾の言葉をイノはちゃんと覚えていた。
すると一義は鞘から手を離し謙吾を見つめ、懐かし気に語り始めた。
「かれこれ18年前になる・・・」
重々しく語られる言葉にイノはミミをすませた。
幼少時代、既に一義は軍事訓練をさせられていた。
そんな兄を傍らに謙吾もよく真似をしてオモチャの刀を振っていた。
興味があるならと、まだ未成年の息子を達士は戦地に連れて行った。
当然多くの惨劇を目の当たりにした。
すると謙吾は目を輝かせて興奮気味に言ったのだ。
「凄いね、兄ちゃん。父さんはやっぱり強いんだね!俺、絶対父さんみたいに強くなる!!」
希望に満ちたその瞳に一義は何も言い返せなかった。
幼い謙吾にはまだこの状況の理解が出来ていなかった。
正義だとして疑わない純粋な心の謙吾に真実を告げる事など出来なかった。
「その時から俺は強くなろうと決意した。謙吾を守る為に」
誰よりも強くなる事で愛する弟を争いの場から遠ざけようとした。
だがそれは同時にやりたくない事も沢山しなければならなかった。
いつしか謙吾はそれが嫌になり逃亡したが、一義は今更投げ出す事も出来なかった。
「僕は多くの人を犠牲にして生きて来た。今更後戻りもやり直しも出来ない」
再び鞘に手をかける一義に謙吾は嗤った
「そうやって俺の為って言って自分を正当化してきたんだろ?」
「違う!僕は本当に・・・!!」
一瞬の隙を謙吾は見逃す事なく一義の顔面を警棒で強打した。
眼鏡がひん曲がり、レンズが割れ散ると一義はゆっくりと倒れ込んだ。
「悪いな、兄貴。親父相手に手緩い偽装工作は出来ねぇからよ。俺にやられたって事で大人しく見逃してくれや」
朦朧とする意識の中、謙吾の声はやけに鮮明に聞こえた。
「じゃーな。もう二度と会う事はねぇだろうよ!」
謙吾の行動に評し抜けになっているイノを引っ捕むとその場を後にした。
そこで一義の意識は完全に途絶えてしまった。




