恐怖の刷り込み
結局一睡も出来ずにイノは朝を迎えた。
呑気に寝息を立てる謙吾を見て平和そうだと思うイノだった。
「いつまで寝てんのよ、この不法滞在者がぁ!!」
華麗な踵落としが見事に決まり思わず拍手をするイノ。
「おまっ、俺を本気で殺す気か!?」
「ぐうたら寝てるあんたが悪い。さっさと仕事しに行きなさい」
真衣に急かされ面倒臭そうに舌打ちをしつつも出掛ける謙吾。
そんな謙吾の後を慌ててイノは追いかけた。
「ねぇ、真衣さんは何でこっち側に住んでるの?」
「ハッ?そんなもん知るか!」
「エッ!?一緒に住んでるのに知らないの?」
「あいつに興味何かねぇからな」
「あのさ、謙吾は知りたいとか思わないの?」
「はぁ?思うわけねぇだろ」
「・・・俺は知りたいな。聞いてみてよ?」
昨日の一件以来、少し聞き辛かったイノは謙吾にそれとなく頼んでみた。
「あぁ?イヤだね。俺は知りたくもねぇし、そんなに知りたきゃてめぇで聞きな」
「・・・ケチ」
何となく予想はしていたが案の定全く当てにならない謙吾にイノは諦めて家に戻った。
するとエサの時間なのか真衣は猫達に囲まれていた。
「あ、あの。真衣さん!」
「ん、何?イノちゃんもお腹空いた?」
「いえ、あの。真衣さんはどうしてコッチ?側に住んでるの!?」
意を決して質問するイノに真衣は笑顔で答えた。
「この子達の為よ」
「この子って、猫ですか・・・?」
「そう」
「えっと、それならアッチでもいいんじゃ・・・?」
「そうね。飼うだけならどっちでも構わないわね」
「ならどうして?」
尚更こっち側に居る意味が分からなくなるイノに真衣は続けた。
「私ペット好きであっちでもかなりの数飼ってたの」
数が増える度に周囲の人達から文句を言われていた真衣。
真衣なりに迷惑はかけずに育てていたが最終的には追い出されてしまったのだ。
その為仕方なくこっち側に住み今も世話を続けているのだった。
「まぁ、結果的にこっちに来て正解だったわ」
エサをやり終えた真衣は猫のリーダーの頭を撫でた。
「今日も頼んだわよ?ただし、くれぐれも事故には気をつけてね」
鳴き声を上げいっせい走り去る猫達に真衣は満足そうに笑っていた。
「うわぁ。どうやったらそんなに仲良くなれるんですか?」
驚きの声を上げるイノに真衣はどこか寂しそうに呟いた。
「・・・それは私が知りたいわ。何でイノちゃんは私に敬語なの?」
「そ、それは住まわせて貰ってるから・・・」
「大丈夫。イノちゃんみたいな子は大歓迎だから遠慮しないで?」
笑顔で近く真衣にイノは何故か危機感に襲われた。
「それをえこひいきって言うんだぞ?」
「五月蝿いわね!何しに帰って来たのよ!!」
「あ?成果みりゃ分かんだろ」
食料調達を終えて戻って来た謙吾は今日の収穫を真衣に見せた。
「・・・シケてんわね」
確かに数は予想以上に少なく、イノも思わず落胆した。
「しゃーねぇだろ。俺は生身の人間何だからよ」
「だから使えない奴は嫌いなのよっ!」
苛立つ真衣の姿にイノはこっそり謙吾の後ろに隠れた。
「何だ、ガキ。真衣の奴が恐いのか?」
首を横に振るイノだったが、猫ミミは完全に怯え震えていた。
「エェ!何でよ、イノちゃん」
悲しみのあまり涙ぐむ真衣に謙吾は思い出したように呟いた。
「お前の第一印象がアレだったからじゃねぇ?」
「・・・・・・アレって、飛び蹴り?」
「あぁ。動物とかあんだろ?最初に見た奴が親とかってなる・・・」
「あぁ、あんたが言いたいのは刷り込みの事ね」
「それでこのガキはお前の事が本能的に恐いんだろ」
「・・・成る程。ってあんたの性じゃない!!」
拳を握り、躊躇なく謙吾の顔面を殴り飛ばす真衣にイノは飛び退いた。
「ハッ!いや、これはこいつだけなのよ?恐がらないで!!」
泣きそうな声でイノに歩み寄るがイノはすかさず謙吾の後ろに隠れてしまった。
「ウゥ。これもそれも全部あんたの性よっ!」
とても悲しそうな真衣に複雑な表情を浮かべるイノ。
ただ勝手に身体が反応してしまう為、イノにもどうする事も出来ないのだった。
「けど、あんたは平気ってのが納得いかないわ!」
「あ?あぁ、それはこいつ助けてるからな」
乱暴にイノの頭を掴む謙吾を迷惑そうな瞳で睨みつけた。
「でも最終的には最低な人だった」
「でも怯えてはないわね・・・」
不満そうにイノを凝視する真衣に謙吾は食料を取り出した。
「もういいだろ?それより腹減った。食っていい?」
確認しておきながらすでに食べ始める謙吾を真衣は殴った。
「何勝手に食べてんのよ。食料は全て渡す契約でしょ!」
「別にいいだろ、一つぐらい」
「・・・あっそう?じゃああんたのご飯それね」
食べかけの人参を指差し真衣は冷ややかに言い切った。
「・・・マジか?」
顔を青くして聞き返す謙吾に真衣は笑顔で頷いた。
それを目にし、崩れ落ちるように落胆する謙吾だった。
「一日ぐらい食べなくても大丈夫だよ」
的外れな慰めをするイノに謙吾は呆れながら人参を頬張った。
「・・・それ、ワザと言ってんのか?」
「えっ?どうゆう意味?」
無自覚なイノの姿に悪気がなくとも苛立ついた謙吾は猫ミミを引っ張った。
「何かムカツクなお前」
「い、痛いよ!!」
嫌がりつつも謙吾に怯えていないイノに少しだけ落ち込む真衣だった。




