猫好き女子高生
渋々イノを連れ帰宅する謙吾に突如飛び蹴りを喰らわした彼女は罵倒を浴びせた。
「いったい何時間待たせれば気が済むのよ!この愚民めっ!!」
「危ねぇな。いきなり何すんだよ!」
「黙りなさい、この不法滞在者めっ!さっさと今日の稼ぎ出しなさい!!」
「んなもんねぇよ」
「あぁ!?よくも手ぶらで帰って来れたわね。良い覚悟だわ、大人しくエサになりなさい!」
憤怒を顕わにする彼女の姿に完全に怯え謙吾の後ろに隠れるイノ。
それに気付き彼女はイノの首元を引っつかんだ。
「・・・何この子。まさか隠し子!?」
引く程驚く彼女に謙吾は怒鳴り声を上げた。
「ちげぇよっ!!歳的にありえねぇだろう!」
「・・・いくつだっけ?」
「俺はまだ23だ!!」
「君は?」
突如話しかけられイノは怯えながら答えた。
「じゅ、11・・・」
震える猫ミミに気付いた彼女は目の色を変え抱きついた。
「キャー。何この動物、めちゃくちゃ可愛いわ」
狂喜乱舞してイノを振り回す姿に謙吾は頭を抱えた。
「・・・やっぱりか。おい、真衣。それ以上するとそいつ死ぬぞ?」
「エッ!?」
謙吾の一言に我を取り戻しイノを見つめた。
「ヴー。気持ち悪い」
「あっ、ご、ごめんね?」
さっきまでの怒号が嘘のように優しく労わる姿にイノは軽く混乱した。
「えっと、だ、大丈夫です」
「本当に?君お名前は?」
「エッ?あっとイノ。藤咲イノです」
「イノちゃんか。可愛い名前だわ」
恍惚した表情でイノの頭を撫でる真衣に困惑しきっていた。
「おい、ガキ。真衣に頼みがあったんじゃねぇのか?」
謙吾の言葉に目的を思い出しイノは改めて頭を下げた。
「あの、俺を此処に住ませて下さい」
「いいわよ。私のペットにしてあげちゃう」
「?」
意味が分からないと助けを求めるイノに謙吾は深い溜息をついた。
「真衣。そいつをお前のペットと一緒にすんなよ」
「いいでしょ!私の可愛がってる子達と変わらないんだから」
「いや、全然違うだろ」
呆れたように呟く謙吾を無視してイノを愛でる真衣。
「・・・あの、お姉さんの名前は?」
「いけない、私としたことが自己紹介してなかったわね。私は和田真衣。よろしくね?」
人の良さそうな笑顔に安堵するイノに謙吾は冷たく言い放った。
「・・・気ぃつけろよ?そいつと居るとペットと一緒にされるぞ?」
「・・・その。さっきから言ってるそのペットって?」
「あぁ。そうね、紹介するわ。私のペット達よ」
軽く真衣が手を叩くと何処からともなく猫がやって来た。
部屋を埋めつくす程の数にイノは硬直した。
「・・・何匹いるの?」
「そうね。500匹ぐらいじゃない?」
「ご、ごひゃっ」
あまりの数の多さに目を丸くし、側頭寸前になるイノ。
「はい。みんな今日から一緒に住む新しい仲間よ。仲良くしてね?」
真衣が語りかけると猫達は一斉に鳴き声を上げるのだった。
猫達が去り一息ついた所でイノは質問した。
「あの、真衣さんが一番年上何ですか?」
「えっ?違うわよ。私はまだピチピチの16歳。華の女子高生よ」
「・・・えっと、じゃあ何であのお兄さんより偉いの?」
「それはあいつがただの不法滞在者だからよ」
真衣の言葉に理解が出来ず首を傾げるイノ。
そんなイノの頭を撫でながら真衣は丁寧に教えた。
「つまり勝手に居着いて、勝手に食べ物食う愚民だからよ?」
言いたい放題の真衣に謙吾は苛立ちながら口を挟んだ。
「俺もたまには金や食料取ってきてんだろ?」
「そんなのあってないようなもんじゃない!!」
「しょうがねぇだろ。こっちはリスクあんだぞ?」
いきなり口論を始める二人に全くついていけないイノ。
「あ、あの!話してる意味がよく分からないんだけど・・・」
「えっ?あぁ、私達の方には食料って全然回ってこないの」
「だからわざわざあっち側に行って食料調達しなきゃなんねぇんだ」
「・・・それのどこがリスクなの?」
「まぁ、簡単に盗めるもんじゃねぇからな」
当たり前のように答える謙吾にたじろぐイノ。
「ぬ、盗むって!やっぱ悪い事してるじゃん!!」
「そうしなきゃ生きていけねぇんだよ。必要悪ってやつだ」
「と言ってもこいつ全然使え無いんだけどね」
冷ややかに突っ込む真衣にイノは驚いた。
「まさか真衣さんも盗んでるの!?」
「・・・そうよ」
目を伏せて辛そうに肯定する真衣にイノは少し反省した。
「ほぼ毎日猫達に頼んで狩りしてきて貰ってる。おかげでご飯に困る事はないわ」
複雑な表情で告げる言葉にイノは何だか申し訳ない気持ちになった。
「ごめん。俺、真衣さんの気持ちも分からないでこんなこと言って・・・」
「良いのよ。仕方ない事だもの」
諦めたように微笑する真衣の姿がその日、頭から離れなかった。
同じ街なのにまるで別の場所に来たような不思議な感覚だった。




