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〜第五章 混沌の神〜

〜第二十一話 開かれた扉〜

「我が国はガリアと戦争する事に決まった。」

ファウルスの言葉が響き渡る…。


「なん…だと?」

クラウスが唖然とする。


「王!

 正気ですか?!

 ガリアとヴェインはかなりの距離…。

 それまでの兵の疲労で、勝てる確率は大きく下がります!!」

イヴァがファウルスを説得しようとする。


「正気だとも。

 大丈夫だ。

 我が国の兵に、そのようなやわな者はいないさ。」

ファウルスが笑顔で言う。


「それに…ガリアを落とすには…転魔鏡をなんとかしなくてはならない。

 転魔鏡を動かすには、魔力が必要だ。

 ガリア王は膨大な魔力を持っている。

 だが、無限ではない。

 兵を総動員して、キヴァードに挑む…!」


「もはや…質より量作戦とでも呼ぶべきか…。」

クラウスが蚊のような声で言う。


「それで…いいね?」

ファウルスはゼアを見て言った。


「…お願いします。」

ゼアが決意に満ちた表情で言った。


「今回の総隊長は、クラウス君。

 君にお願いしたい。」

ファウルスが満面の笑みで言う。


「…イヴァの方が適役ではないのか?」

クラウスは表情を変えずに言った。


「いや…君にやってもらいたい。」


「私からも、頼む。

 今回の戦い、君に任せよう。」

イヴァも前に出てクラウスに言った。


「全ての気持ちをこの戦いでぶつけるといい。」

ゼアが微笑みながらクラウスに言う。


「クラウスがいれば、私、何でもできるような気がするよ。」

リーネがクラウスに言う。


「なぁに。

 俺がいるんだ。

 この戦い、何があろうと勝ちに転がるぜ。」

怜真がクラウスの肩を叩く。


「いや、お前いらない。」

クラウスの言葉の前に、怜真は砕け散った…。

そして、ゼアの慰めが始まる…。


「クラウス…。

 あなたには、皆にはない力がある…。

 だから…物事を謙虚に受け取ってはだめだよ…。」

メイがクラウスに近づいて、言った。


「分かった。

 …俺が、総隊長を務めよう。」


「君ならそう言ってくれると思っていた。

 さぁ、城の外の広場に兵と、義栄軍を集めてくれ。

 早速、総隊長様を紹介しなきゃね。」

ファウルスは兵にそう伝えた。










広場には、何千、いや、何万の兵達が集結した。


「義栄軍とヴェイン兵が集まればたいした数になるな…。」

ファウルスがつぶやく。


「俺は…皆を統べる自信がないんだが…。」

クラウスは緊張と不安が入り混じった表情をする。


「大丈夫、自分を信じて。」

そう言って、ファウルスはクラウスの背を押した。

クラウスは広場の奥の台に立つ。

皆が静まり返った…。


「…俺の名はクラウス。

 自慢するつもりはないが、カオスに選ばれてしまった者だ。

 今回は、ファウルス王の推薦で総隊長を務めることになった。

 こんな子供が…と思う奴も少なくないだろう。

 無論、俺も反対はした。

 それに、俺は自分の力に過信もしていない。

 なのに、総隊長を務めることになったのは、俺にしかできない事があるから。

 皆にも皆にしかできない事柄があるだろう。

 それが、たまたまこのような形でつながってしまったようだ。

 だから、俺は運命に叛かない。

 皆も、その運命に従うのであれば、俺の言う事を聞いてくれ。」

クラウスは自然に浮かんできた言葉を全て言った。

広場に沈黙が流れる。

そして、イヴァが台に上がった。


「私が、今回の戦いの軍師を努める、イヴァだ。

 クラウスが総隊長を務める上で納得できない者は

 早々に立ち去るがいい。」

だが、誰一人去る者はいなかった。


「…では、クラウス。

 出陣の合図を。」

イヴァが台を降りる。


「用意がよければ、すぐに船を出す。

 皆、出陣だ!」


「オオオ!!」

兵達は、声を揃えて叫ぶ。

皆が、船の準備にかかる。


「お疲れ様、クラウス。」

ファウルスが優しい笑みを見せる。


「いや…戦いはこれからだ。

 ここで疲れていては話になるまい。」

クラウスはそのまま港へ向かう。


「ファウルス様。

 私達も港へ向かいましょう。」

イヴァがファウルスに言う。


「ああ、そうだな。」








船に、積めるだけの糧を積み、武器という武器もありったけ積んでいた。


「総隊長!

 第ニ戦艦、準備完了しました!」

隣の船から、兵の声がする。


「了解した。」

クラウスが兵に応答する。


「ついに事は戦争にまで…か。」

怜真が呟いた。


「そして俺は…総隊長…。

 世の中分からないものだ。」

クラウスが海の遥か先を見つめて言う。


「やっぱり、お前自分のせいで勝てないだろうとか考えてるんだろうよ。」


「ちっ…。

 貴様に心理を読み取られるとは…。」

だが、クラウスは笑みを見せていた。


「俺も…よく倒せない敵に挑んだもんだ。

 仕事柄があれだからな。

 だが、俺はこうやって生きている。

 あんときゃ、仲間がいたからよ。」


「仲間…か。

 ある時は戦力になり、ある時は足手まといだ。

 それに、仲間に傷ついてはほしくないのが俺の本音だな。」


「バカだな〜。

 仲間だってお前の役に立ちたいと思ってるんだぜ。

 それを断った日にゃ好感度ダウンじゃねぇか?」

怜真がニヤニヤして言った。


「…そうだな。

 俺だって、そうだ。」


「ここは…お前がきっちり命令するんだな。

 何かして後悔した時より、何もしないで後悔した方が、

 悔やまれるんだからよ。」


「ああ…。

 今回ばかりは遠慮するわけにもいかないな…。」








船内の部屋の一室で、イヴァは作戦を練っていた。

すると、コンコンと二回のノックが聞こえた。


「開いている。」

イヴァはそれだけ言った。

扉は開かれ、そこにはゼアが立っていた。


「ゼア、どうした?」

イヴァがテーブルの上にある地図を見ながらゼアに言う。


「いや、もしかしたらこれが最後かもしれないだろう?

 軽く飲まないかい?」

ゼアがなにやら瓶を持って言った。


「…いいだろう。」

ゼアはイヴァの正面に座った。


「ヴェインの最高級ワインだ。

 ファウルス王からだよ。」


「ファウルスは何を考えているのだろうな?」

イヴァが初めて笑みを見せた。


「さあね。」

ゼアも微笑んで言った。


「ここのグラスを使っていいかい?」


「構わない。」

ゼアは立ち上がり、棚にあるグラスを手に取り、座った。

そして、瓶のコルクを開けてグラスに注ぎ始めた。


「色、香り、ここまでは完璧だね。」

ゼアはワインを注いだグラスをイヴァに手渡し、言った。

イヴァは黙ってワインを口につける。


「どうかな?」


「お前も飲んでみたら分かる。」

イヴァはまた笑みを見せて言った。

ゼアもワインをグラスに注ぎ、口にする。


「…なるほどね。」

ゼアはにやりとした。


「まさか…このような形で再会する事になろうとはな。

 正直、私はお前を倒さなければならないような気がしていた。」

イヴァは真剣な目つきでゼアに話す。


「そうだね…。

 僕も君が義栄軍の軍長をやっているなんて、

 思ってもみなかったよ。」


「運命とは逆らえぬものだ。

 ガリア国王を毛嫌いしていた私が、まさか王子と

 面識をもつなどと…。」

イヴァはにやっとして言った。


「よしてくれよ。

 僕だって、そりゃ嫌だったさ。

 でも…なかなか決心ができなかった。

 しかしまぁ、今はクラウス君のおかげでふっきれたさ。」


「あのクラウスという少年…。

 カオスに呪われているというのに、全くの濁りのない目…。

 経験をしてきた証だな。」


「きっと、理の神様に認められているんだよ。」


「そうかもしれないな…。」








「ぼ、僕は…どこで仕事をすれば…。」

ルウィンがおどおどしながら言う。


「あ、ルウィンさん。

 ちょっとこの武器を武器庫に運んでくれませんか?」

エイリスが数個の拳銃やライフルを持って言った。


「は、はい!

 喜んで!」

ルウィンはそれを受け取ろうとするが、見事の全てが甲板に落ちた。


「あ、あああああああああああああ!

 だ、だだだ大事な武器を!

 す、すいません!!」

ルウィンが何度もペコペコしながら言う。


「だ、大丈夫ですよ。

 はい、今度はお願いしますね。」

エイリスは素早くそれらを拾い、ルウィンに手渡した。


「は、はい!

 承りました!!」

ルウィンはよたよたと武器庫に向かった。







リーネとメイは、船内の部屋で準備ができるのを待っていた。

「メイちゃんは…何も覚えていないの?」

リーネが徐に聞く。


「うん…。

 でも、うっすらと、景色は浮かぶ…。」

メイが何か懐かしむかのような表情をする。


「景色?」


「そう…。

 ここに来る前に…よく見ていた景色…。

 その時の喧騒を離れて、よく行った…。」


「そう…。

 それは、どんな景色?」


「森の奥の…丘。

 他のところは建物が建って、自然を感じられるのはそこだけだった…。」


「森の奥の…丘…。」

リーネはかつての思い出を思い出していた…。 


 



 

 

「総隊長!

 全ての戦艦の用意ができました!」

兵がクラウスに報告する。


「よし…出撃だ…!!」

クラウスの合図の後、兵達の声が轟いた…。








〜第二十二話 悪の根源〜

「王!

 ヴェイン軍が攻めてきます!」

兵が慌ててガリア城の王の間に走りこむ。


「なんだと!?

 私の魔力も回復しきれていないというのに…!!

 おのれ、ファウルス…!!

 今すぐ、戦闘態勢をとれ!!」


「はっ!」

兵が慌てたまま、王の間を飛び出す。


「取り乱すとは…みっともないですよ、王。」

どこからともなく一人の少年が現れた。

その顔は少女と間違うほどの美貌だった。


「誰だ貴様は!?」


「お忘れですか…?

 僕はエヴァーノの軍師、キルです。」

キルは笑顔を作って言った。


「キルか…。

 これから、ガリアはヴェインに攻められる。

 早く、どこへなり消えるがいい。」


「いえ、僕はガリアに力添えするように命令され来たのです。

 シャルや、ヴォレアスが来ますよ。」


「そうか…!! 

 ならば勝機が見えてきたぞ…!

 くくく…ファウルスめ…ここに攻めた事を後悔させてやる…!!」

キヴァードの不気味な笑い声が王の間に響き渡った…。

 







『クラウスと怜真が第一戦艦…。

 メイとリーネが第二戦艦…。

 私とゼアが第三戦艦で…

 エイリスとルウィンで第四戦艦を守ってもらう。

 第一戦艦を先頭にする。

 私達で援助をするから、必要な時に呼ぶんだ。』

イヴァの言葉が頭に甦った。


「…なんだ…?

 一隻の船が…近づいてくる…?」


「ありゃあ…エヴァーノの旗だぞ…!?」

怜真が驚愕して言う。


「ま、まさか、エヴァーノがガリアに加担していたのか!?」


「くそっ!

 こいつはしてやられたな…」


「しかし…怯む事はない。

 相手は一隻だ。

 大砲を一斉発射すれば問題ないだろう。」

そう言っている間に、その船はどんどん近づいてくる。


「砲撃用意!!」

兵が大砲の方へ走る。


「…発射!!」

数個の大砲の弾が物凄いスピードで飛んだ。

それは、一隻の船を貫いた。


「よっしゃ、命中!」

怜真がそう言ったが、その船は何事もなかったかのように進みだす。


「ば、馬鹿な!?

 あれほどの砲撃を受けたというのに!!」


「クラウス!!」

隣の船からイヴァの叫びが聞こえる。


「あの船は幻影だ!!

 だが、大砲をかわした今、実像を露にしている!!

 もう大砲は、あまりに至近距離で使えない!!

 今すぐ、戦闘態勢に入れ!」


「だそうだ!

 皆、武器を持て!!」

クラウスの命により兵は武器庫に向かう。


「多分…あの幻影も転魔鏡によるもの。

 厄介な物を持ってやがる…!」

怜真が歯を食いしばる。


やがて、その船は第二戦艦に近づいてきた。


「皆!

 ありったけの火矢を打て!!」

クラウスの命で、弓を持つ兵全てが火矢を放つ。


「燃えてはいるが…くそっ!

 あの船は不死身かよ…!!」


「あの船に近づいて、白兵戦にもちこむんだ!」

船は徐々にその船に近づいていく。

だが、その間にも、第二戦艦は攻め込まれていた。

第二戦艦の様子にクラウスは戦慄を覚えた。


「くそっ…!! 

 リーネとメイは…!?」

すると、クラウスの後ろに風の様なものが走った。

そこには、リーネとメイがいた。


「テレポートか。」

クラウスが納得する。


「第二戦艦はもう駄目…。

 あの船に乗ってる人…皆が皆強すぎる…。」

メイが珍しくも歯を食いしばって膝をついた。


「おい、大丈夫か!?」


「メイちゃん!

 どうして…!?」

怜真がメイを抱きかかえる。


「ちょっと…テレポートを使いすぎたみたい…。

 人が多ければ多いほど、負担がかかって…。」

メイはそれを言い終わると気絶した。


「レイ、メイを船室に。」


「ああ。」

怜真はメイをおぶって船室に向かった。


「よし…そろそろ乗り込むぞ。

 リーネはここから弓で援護してくれ。」


「分かった。」

次の瞬間、兵が木の橋で二隻の船を繋げた。


「突撃!!」

クラウスの命で全員が敵船に乗り込んだ。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

兵は唸りを上げて敵兵を屠る。


「紅炎の魔石よ…!!

 フレイムランス!!」

クラウスの左手から、槍の様な炎が飛び出す。

それに次々と敵兵が貫かれた。

また、その魔法を唱えようと思った瞬間、後ろから殺気が――。

やられると思った瞬間、その殺気は消えた。


「後ろも気をつけたほうがいいよ、クラウス君。」

ゼアが血のついたレイピアを拭っていた。


「ゼア…という事は、第三戦艦も…?」

第三戦艦もすでに敵船につけていた。


「ああ、これで一気に形勢逆転して見せるよ。」

ゼアはそう言って、次々と敵兵を屠る。


「総大将を倒せば、無駄な殺生は必要なくなる…。」

クラウスは、敵船の船室に向かった…。








「クラウスは総大将を倒すつもりだな…。

 いい判断だ。

 だが…総隊長の単独行動は感心できないな。」

イヴァがセリュクストと呼ばれる剣で一気に二人の兵を屠る。

セリュクストとは、女神が所持していたと言われる伝説の剣で、

様々な装飾もされている。

さらに、流れるように斬りつけるので、相手は痛みを覚える事無く息絶えるという。 


「行ってあげたいところだけど…ここの兵達の強さは半端じゃない…!!」


「かなり訓練された者達だな…。

 さすがエヴァーノ軍といったところか――。」









「…貴様が総大将か。」

クラウスが大男の後姿を睨みつける。


「いかにも。

 わしが、ここの船の大将だ。」

その言葉と共に大男は振り向いた。

厳つい大男が、クラウスを見下ろす。

物凄い威圧でクラウスを近寄らせない。


「お前さんも総大将じゃないかい?

 一人で乗り込むとは、たいした度胸だ。」

くっくっくと笑いながら大男は言う。


「…俺と戦え。」

クラウスが油断なくヴォルノ・エッジを抜く。


「喧嘩っ早いのは嫌いじゃないが、生憎わしは武器を持ってないのでな。

 この拳を受け止められたなら、受けてたとう!!」

この大男の拳とは考えられないくらいのスピードだった。

クラウスは動く事もできなかった。

しかし、クラウスに当たる寸前に、風が入ってきた。


「…総大将を簡単に倒されたら困るんでね。」

刹那の速さで大男の拳を止めたのは、やはり怜真だった。


「レイ…!!」


「速い…

 それに、拳を止める技量も申し分ない。

 気に入ったぞ!

 わしの名はヴォレアス。

 いつか、決着をつけようぞ…」

そう言って、ヴォレアスは消えた。


「消えやがった…。

 これも、エヴァーノの技術かよ…。」


「…すまなかった。」


「なぁに。

 お前が単独行動するのは、イヴァさんにはお見通しだったようだぜ。

 そんで俺が監視役になったわけ。」

怜真がにやにやして言った。


「…そうか。

 以後気をつける。」

クラウスと怜真は、甲板に出た。

すると、もうすでに決着はついていたようだ。


「すまない…イヴァ。」

クラウスはイヴァの元に行き、頭を下げて謝る。


「お前のこんな姿を見たら、士気も下がる。

 早く、第一戦艦に戻るんだ。」

イヴァは厳しく言ったが、顔は微笑んでいた。


「了解した。」

ここで落ち込んでは話にならない。

すぐにクラウスは気持ちを切り替えた。


「目標は…ガリア。

 全速前進!!」

ついにクラウス達は、ガリアの地を再び踏むことになる…。









〜第二十三話 君〜

「皆、武装をして船を下りろ。」

兵はそのクラウスの命に従った。

ついに、クラウス達はガリアの地を踏んだ。


「ここまで来たな…。

 こっからは、誰がどこから襲ってくるかわかんねぇぜ。」


「その通りだ。

 単独行動は慎め。」

イヴァが怜真の意見にそって言う。


「分かっている。」


「俺が先に行って、偵察してくる。」


「ああ、気をつけてな。」


「大丈夫だって。

 へまはやらかさないさ。」

怜真がクラウスに笑みを見せる。


「…。」

クラウスは風と共に消えた怜真を見送った…。









「…出てきな。」

怜真が油断なく言った。


「…。」

風と共に、仮面の男が現れた…。

その男は…ヴィオーラを殺した張本人―シャルク。


「よく分かったな…。

 ふっ、ヴィオーラが死んだ事に責任を感じているのか?」

仮面のしていない左半分の唇が薄く笑った事を物語る。


「てめぇ…わざと…!!」


「そうさ…俺がヴィオーラを殺すため…仕向けたんだ…。」

さらに、シャルクの唇がつりあがった。


「俺を…利用しやがったのか――?!」


「あの老い耄れに生きていては困る人がいたのでね…。」


「てめぇ!!」

怜真がシャルクに一気に突っ込んだ。


「銃が武器のてめぇには、この至近距離では話にならねぇだろ!!」

仕込み刃でシャルクの顔を狙った。

だが、金属音が響いた…。


「銃にも…色々あるって事を覚えておくがいい…。」

銃から、刃が出ていた。

それは、まさに「剣」そのものだった。


「ちっ…。」

舌打ちをして怜真は一旦下がる。


「そんなに距離をとっていいのか?

 遠慮無く…撃つ。」

その銃口からは想像できないほどの大きな弾だった。

いや…「光」だった。


「くっ…!!」

紙一重だった。

怜真の頬を掠めて光は消えた。

怜真の頬には一筋の赤い糸が通っていた。


「一応言っておこう。

 この弾は普通の弾ではない。

 聖光の魔石の力を銃口に凝縮し、撃つ。

 君は全く魔石の力を使っていないようだが…?」


「俺は…魔石の力に頼らずとも、てめぇを倒す!!」











「…遅すぎるな。

 クラウス、ここで油を売っていても、危険になるだけ。

 城に向かうんだ。」


「だが…レイが!」


「なに。

 私が行く。

 私が信じられないか?」

イヴァの言葉はやけに説得力があった。


「いや…あんたを信じる。

 俺達は行ってるから、イヴァも早くな。」


「ああ。

 では、私は怜真の援護に向かう!

 城に向かうものは、クラウス隊、ゼア隊、リーネ隊!

 他の者は船を守る事!

 では、突撃!!」

イヴァの命で、隊は動いた。

クラウスは不安を抱いていたが、自分を奮い立たせ、城に向かった…。










「…船にも、幾人の兵が残っているみたいですね。

 負傷者が多いのか…それとも、船に何かあるか…。」

キルが考え込むように言った。


「所詮、ファウルスの手駒共だ。

 何も考えずにいるのだろう。」


「王、敵を侮れば、その瞬間敗北が決定いたしますよ。」   

キヴァードは何も言えないようだった。


「ヴォレアスがすでに帰還しているという事は…

 ヴォレアスを満足させるほどの猛者がいるということですね…。

 王、少々お待ちください。」

そう言って、キルは消えた。









「城に前面突入!!

 全ての門を制圧するんだ!!」

クラウスの合図に、兵は散り散りになり門を制圧に行く。


「クラウス君、どうやらもう外には敵はいないようだ。

 いや…怜真君とイヴァが戦っているが…。」


「やはり…か。

 だが、あの2人だ。

 きっと大丈夫。

 俺たちにできる事をやるんだ。」


「了解。

 総隊長。」

ゼアは笑顔でそう言った。


城の中には、思ったほどの兵はいなかった。

やはり、あの時の戦いでの負傷兵が多いのだろう。


「このまま行けば楽勝だが…何か策があるのか…。

 それに転魔鏡の事も…。」

そう言いつつ、王の間に向かうクラウス。


「どうかな…。

 エヴァーノが加担している割には、兵は少なすぎるし…。

 少し、理不尽な事が多すぎるな…。」


「私…思ったんだけど、そう簡単には魔力は回復しないと思うの。

 きっと、転魔鏡を操る魔力は膨大。

 ということは、まだキヴァードの魔力は回復してないかもしれない…。」

リーネが2人に追いついて、思っていた事を言った。


「なるほど…確かに、転魔鏡を操るには膨大な魔力が必要だ。

 もしかしたら、誰一人欠ける事無く、生還できるかもしれない。」

ゼアは、少しの希望に満ち溢れた。


「まぁなんにせよ、油断は禁物だ。」

クラウスがそう言っていた時、十余人の兵たちが追いついてきた。


「総隊長!

 我々が、転魔鏡からお守りします!」


「我々が盾になり、総隊長達を守るので、どうかその間に!」


「絶対…キヴァードを倒しましょう!」


「…ああ、ありがとう。」

クラウスは勇敢な兵たちに、心を打たれた。


ついにクラウス達は、王の間の扉の前に辿りついた。

だが、そこには、少女と見間違えるほどの美貌を持った少年がいた…。


「初めまして、あなたがクラウス殿ですね…?

 僕は、キルと申します。

 以後お見知りおきを。」

キルが怪しい笑みを浮かべながら、自己紹介をする。


「…どけ。

 さもなくば斬る…。」

クラウス達は油断なく個々の武器を構える。


「そう気を立てないでくださいよ。

 闘うのは僕でなく…この方なのですから…。」

今まで、キルの陰に隠れていた少年が姿を現した。

…カイルだった。


「…!!」


「…。」

カイルは、殺気に満ちた表情でクラウスを睨みつけた…。










「レイ!」

イヴァが着いた時には、もうシャルクの姿は無かった。

だが、脇腹を押さえた、怜真が蹲っていた…。


「…!!

 どうした、レイ!!」

イヴァが瀕死の怜真の元へ走った…。









〜第二十四話 怜真の死闘〜

「…俺は魔石の力など頼らず、お前を倒すぜ。」


「…ふ…ふはははは!

 魔石の力無しで生き抜けると思ったら大間違いだ…!

 それを今証明してやる…」

そういい終わると、シャルクは消えた。

シャルクは音の速さで怜真の後ろに回り込んだ。

銃口から刃を出し、刹那の速さで振り下ろした。

だが、怜真もまた同じ速さで仕込み刃で受け止めた。


「反射神経は…いいんでね。」

怜真はそう言うと、シャルクを弾いた。

シャルクは間合いを取る。


「ふん…だがな…これならどうだ!!」

シャルクの銃の銃口から光の速さで槍が突き出た。

怜真は完璧に油断していたが、紙一重で急所は外した。


「ぐっ…?!」

怜真は思わず蹲った。


「今までの戦いで分からなかったのか?

 俺は遠距離を最も得意とすることが…。」


「甘いな…。

 急所は外した。

 …次の一撃で、お前を倒す…!!」

怜真はかろうじて立ち上がった。

意識が遠のいていくのが分かる。

だが、気力だけで意識を保っていた。


「…ほう?

 その体で…か。

 ふん、いいだろう、その攻撃、受け止めてやろう。」

シャルクは銃を腰に下げた。

まさに丸腰だった。


「その行動…後悔させてやるぜ…!!」

怜真は、今までほとんど使わなかった刀を抜いた。


「そ、それは…草薙剣!!」

シャルクは一歩たじろぐほどに驚いた。

草薙剣――最も有名な名は天叢雲剣あめのむらくものつるぎ

三種の神器に称されるほどの神刀。


「いくぜ…不知火流奥義『徽龍閃』!!」

怜真は刹那の速さでシャルクの懐へ立つ。

そして、飛び上がり様に一閃を入れ、着地様に三閃を入れた。

この技は、飛び上がり、相手の後ろに立つ事ができる、つまり、防御もできる奥義である。

さらに、ひるんだ相手の後ろに立つ事ができるので、組み合わせが自由になってくる。


「『紅蓮閃爛』!!」

この技は、不知火流の特徴を大いに使った技である。

不知火流は、自分の中にある『徽』を空中の酸素と混ぜ合わせ炎を纏った剣を生み出す事ができる。

その炎を纏った剣で、相手を四回斬りつけるのが『紅蓮閃爛』なのだ。


「ぐあああ…!!」


「不知火流はスピードが命でな。

 それに炎を出すとくりゃ、水も必要だろう。

 火傷するからな。

 だから、俺の流泉の魔石は、間違って俺を燃やしちまったときの為にあるのよ。

 この技の弱点…?

 クラウスと技がかぶるところかな。」

怜真は聞かれてもいないのにべらべらしゃべった。


「ちっ…!!

 甘かったのは俺のほうか…!!

 今度は本気でやってやる…!!!」 

シャルクはそう言って、消えた。


「おお、首を長くして待って…」

怜真は言い終わる前に倒れた…。









「さぁ…甘ちゃんの君たちに、この人を倒せるのかな?」

キルは怪しい笑みを浮かべ、言う。


「外道が…!!」


「これもれっきとした作戦だよ…。」

クラウスとキルは暫く睨みあっていたが、カイルがその沈黙を裂いた。


「殺す…。」

カイルがクラウスに突っ込む。


「くっ!」

クラウスはヴォルノ・エッジでカイルの剣を受け止めた。

間近で見たらよく分かった…。

カイルは正気ではない…。


「カイル…目を覚ませ…!!」


「こ…殺…す…。」

ゼアとリーネは何もできないでいた…。


「ふん、虫と虫の戦いなど、とうに見飽きたわ。

 死ぬがいい、害虫が。」

後ろの方で声が聞こえた。

ゼアとリーネが振り向いたがもう遅く、すぐ近くまで弾丸が迫っていた。

その奥には、憎き、『織田残奇』と、銃を持った軍団がいた…。


「くっ!!」

ゼアはレイピアで自分にかすめよう玉を弾き落とした。


クラウスにまでも、弾丸が迫っていた。

やられる…!!!

クラウスはそう思った。

だが、自分を覆う影が現れた。


「うっ…」

リーネだった。


「リーネ!?」


「…リ…−…ネ……?」

クラウスもカイルも一瞬時を失った。


「リーネちゃん!!」

ゼアが、リーネを抱きかかえる。


「カイル…お願い…だから…目を覚まして…!」

リーネはそれを言って気を失った。


「…ゼア、隙を見たらリーネを船へ運んで医師に見せろ。」

クラウスは静かに言った。

だが、表情は変わっていた。


「…分かった。」

ゼアが頷いた。


「ふん、虫が一匹死んだだけで、そんなに悲しいか?」

残奇は少し震えているようだった。


「…まだ死んではいない…。

 死ぬのは貴様だ…!!」

残奇を睨みつけ、クラウスは言った。


「ちっ、余計な奴が入り込んだな…

 とりあえず、キヴァードに報告するか…」

キルがそう言って、姿を消した。


「まだ生きていたか…

 性懲りも無く、俺に殺されに来るとはいい度胸だ…!!」

カイルが徐に口を開いた。

クラウスと同じ表情をしていた。

そして…目に光が戻っていた。


「ひ、ひひひひひ…!

 死ぬのは貴様らだ!

 う、撃て!!」

残奇の命令で一斉に弾が放たれた。

だが、今のクラウスとカイルには通用しなかった。

全ての弾丸を叩き落としたのだ。


「そんな玩具で俺を殺せると思ったら大間違いだぞ…!!」

クラウスとカイルはいつの間にか足並みがそろっていた。


「一撃で貴様ら全員葬ってやろう…!!」


「ひ、ひぎゃあああああああ!!」

残奇の断末魔が木霊した。

クラウスが周りの敵を一掃し、カイルが止めを刺した。


「…行け。」

クラウスはゼアに言った。

ゼアは無言でリーネを抱え、船に戻って行った。


「…。」

2人は事が終わると、いつか話したような穏やかな表情だった。


「もう…聞かない。」


「ごめん…。

 僕はもう…戻れないんだ…。」


「ガリアは…陥落させるぞ。」


「なら…」

カイルは一度戻した剣を再び抜いた。


「仕方がない…わけはないだろうがな。」

クラウスも剣を抜いた。


「行くぞ…」

2人の剣撃が木霊した…








 


その頃、ゼアは船に戻っていた。


「ゼア…リーネが負傷したのか…。」

イヴァは怜真を医師に診せているところだった。


「ああ、クラウス君をかばってね…。」


「無茶をする子だ…。」


「じゃ、頼みます。」


「ああ、任せなさい。」

ゼアは医師に二人を託した。


「クラウス君一人だし、カイルという子にも何か事情があるように見えた…。」


「なら、行こう、無駄な戦いは絶対に阻止するんだ。」

ゼアは頷き、また二人は城に向かった―。









〜第ニ十五話 平和のために〜

「くっ!」

クラウスがカイルの剣を屈んで避ける。

クラウスは、その隙をつき剣を振り上げるが、軽く受け流された。


「…。」

2人は本気を出せるはずが無かった。

こうしている間にも、キヴァードの魔力が回復しているのだと思うと

もどかしくてたまらない。

だが、カイルがその願いを聞き入るとは到底思えなかった。

クラウスはカイルを気絶させるため、カイルの懐に向かう。


「おおおおおお!!」

クラウスは片方の剣を振り上げた。

クラウスは、片方の剣に集中させてもう片方の剣の柄で気絶させるつもりだった。


「ふっ!」

だが、いとも簡単にその策は敗れた。


「…気絶させるなんて甘い考えは持たないでくれ…。

 殺す気で…来てくれないか。」

カイルに何もかも読まれていた。

会うまでに、カイルは剣の物凄い修行を行ったのだろう…。

本当に無駄の無い動きで、クラウスの剣を受け流す…。


「今度は…僕から行くよ…!!」

カイルはスピードまでは強化されていなかったため、動きは読めた。

だが、そこからだった。


「…!!」

物凄い連剣撃が襲ってくる。

全ての剣を受け流す事はもはや不可能だった。


「ぐっ…!!」

クラウスの左胸辺りが斬れた。


だが、やはり痛みも無く、血も流れなかった。


「そういう体…正直羨ましかったよ。」


「体に異物が入り込んでくるのも、いい気持ちではないんだがな。」


「そろそろ…遊びは終わりですよ。」

キルがどこからともなくカイルの後ろに出てきた。


「キル…!?」

次の瞬間、カイルの胸から血を帯びたキルの手が出てきた。

…胸を貫いたのだ。


「カイル…!!」

クラウスは倒れるカイルを受け止める。


「貴様…!!」


「友達相手に本気も出せないような隊長は必要ないんでね。」

キルは冷たい表情を浮かべる。


「隊長…!?」


「奴は、元二番隊隊長、カイル=ソルネット。

 どうやら、エヴァーノを乗っ取るとか考えていたらしい。

 全く、笑っちゃうよね。

 エヴァーノを乗っ取れば平和が訪れると思ってるんだから…。」

キル口から赤い糸が垂れているカイルに冷たい笑みを投げかけ、言った。


「…そうか…。」


「クラウス…ごめ…ん……。」

カイルは完全に事切れた。

クラウスは、優しくカイルを寝かせた。


「…どけよ。」


「どけと言われてどくはず…!!?」

クラウスの周りに禍々しいオーラが漂っていた…。


「ま、まさか…お前…!!」

クラウスが、キルの首を持ち、そのまま持ち上げた。


「ぐ……あ…!!」


「カイルが世話になったな…

 …そのまま死ね。」

クラウスはキルの首を握りつぶした。

キルの頭が空しく転がった…。








ゼアとイヴァは、ようやく王の間に続く道に辿り着いた…。


「な…カイルと…あれは…エヴァーノの将…!?」

ゼアは、すでに事切れているふたつの死体を見た。


「…どうやら、魔石の力を解き放ったようだな…。」


「カイルがやられて…という感じだろうか?」


「いや…カイルは敵側についているはずだろう。

 もう用無しになったという事も考えられない事は無いが…。」


「…そんな事を考えている暇は無かった。

 急ごう。」

イヴァは頷いた。








王の間を扉が開いたかと思うと、禍々しいオーラが注ぎ込まれてくるかのようだった…。


「殺しに…来たぞ…。

 キヴァード…レイ!!」

クラウスは、ギンとキヴァードを睨みつけて言った。


「それは無理だな…!

 何故なら、私の魔力はすでに転魔鏡を発動させるほどに回復しているからだ!!」

キヴァードは、左隣に置いてあった転魔鏡を発動させた。


「また、飛んで行くが…!!?」

クラウスは、全く動じていなかった。

それどころか、真っ直ぐキヴァードに向かってゆっくり進んでいる。


「ば、馬鹿な!?」


「俺にそんな小細工は効かない…。」

キヴァードに触れるほどに近づいたクラウスは、キヴァードの首を持ち、そのまま持ち上げた。


「貴様も…奴と同じ運命に歩ませてやろう…!!」


「クラウス!!」

ゼアとイヴァの叫びも遅く、キヴァードの首が転がっていた…。


「…!!!」


「…クラウス…君…。」


『よくやった、よくやったぞ、クラウス…』

クラウスの頭上に、全身を黒い布で覆った何者かが現れた…。


「何者だ…!!」

クラウスは思わずたじろいだ。


「ま、まさかあの姿は…!!」

イヴァが思わず言った。


『そうとも…イリアの子孫よ…

 我こそが…カオスだ…!!』

皆の体に電撃が走った…。


『ゼアの父…キヴァードを殺した名誉を称えてやろうではないか…。

 だが、ひとつ教えておいてやろう…。

 キヴァードを操ったのは…この我だ…!!』


「な…なんだと!!?」

クラウスの驚きようにカオスは大笑いをする。


『ふはははははは…!!

 いいぞ、その顔だ…!!

 我はその顔を望んでいた…!!』


「カオス…!!

 貴様!!!」

ゼアはカオスに向かってソニックブームを放つ。

だが、カオスが手を翳すとその剣撃は消滅した…。


『父を操られていた事が悔しいか?

 それとも、その父に殺されかけた事が悔しいか?

 それとも…愛する者に裏切られたからか…?』

 

「…!!!」

一気にゼアの顔が引き攣った。


『もちろん…奴も我が操った。

 あのときの事は全て見ていた。

 実に面白かったぞ…!!』

カオスがまた笑い出す。

人というものを否定するかのように…。


「カオス――――!!!!!!!!!」

クラウスは己の総てを解き放った。


『そのオーラで…我に勝つつもりか…?』

カオスが手を振ると、クラウスのオーラは吹き飛んだ。

圧倒的な強さだった…。


「ば…馬鹿な…!!」


『ここまで良くやったことを敬して…ヴェインまで全員送ってやる。

 また闘う日を楽しみにしているぞ…!!』

三人と数隻の船は、亜空間を通じヴェインに強制送還されるのだった…。

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