〜第四章 かつての友〜
〜第十六話 皆の運命〜
ゼアとリーネが辿り着いた先はなんとジパングだった。
「あらあら、この辺じゃ見ない顔ね?
外国から来たのかしら?」
着物を着た女性が話し掛けてきた。
「はい、ガリアから来た、ゼア=レイです。」
ゼアはお得意の社交辞令で返す。
「あらあら、ガリアから?
はるばるこんな田舎によく来たわねぇ。」
「はい。
ところで、この近くにクラウスという、ガリアから来た少年は見かけませんでした?」
「う〜ん。
見ないわねぇ…。」
「そうですか…。
なら、紅 怜真は…?」
「紅 怜真!?
まさか…あの紅風!?」
女は急に形相を変えた。
「ええ…」
ゼアは途中で気付いた。
彼はここでは『人斬り』だ!
もしかしたら、警察を呼ばれて、その仲間として処刑されるかもしれない。
「あ、え、いや・・・」
ゼアが誤魔化そうとした時、
「あの紅風が…!
帰ってきたのね!
ああ、なんて素晴らしい日なんでしょう!」
素晴らしい!?
人斬りの帰りが何故これほどまでに…。
「あ、あの…怜真さんは人斬りでは…。」
「ああ、いくら人斬りでも、義賊なのよ。
明治になった世で、明治維新の志士がふんぞり返っていた時よにね、
そいつを殺して、その金を貧しい人達に配っていたのよ。
今じゃ、警察が血眼で捜してるわ。」
義賊…。
それはゼア達王家にとって、相容れない存在。
だが、怜真はゼアを殺そうとはしなかった。
少し疑問を抱えながらゼアは言った。
「あの…。
実は僕らは怜真さんの仲間でして、離れ離れになってしまい、捜索しているところなんです。」
ゼアは事情を説明した。
「あら…そうなの…。
じゃあ、見たら教えるわね。
そうだわ、警察に行ったら?
なにか情報が得られるのではなくて?」
「はい。ありがとうございます。」
ゼアは道を教えてもらい、警察庁に向かった。
「貴様、警察庁に何のようだ。」
警察庁の門番がギロリとゼアを睨みつける。
「ガリア王国から来た、ゼアです。
どうか、通していただきたく…。」
「何?!
ゼア=レイか?」
もう一人の門番が口を開く。
「は、はい…。」
「指名手配犯だ!
取り押さえろ!」
「なっ…!!」
抵抗する暇もなく、ゼアたちは取り押さえられた…。
イヴァはメイを見つけた後、奥でエイリスも見つけた。
三人は手分けして、この島で生活するために必要なものを取ってくる事にした。
「まさか…無人島に流れ着くとはな…。」
イヴァが徐に口を開く。
「そうですね…。
誰も人がいないとは思いませんでした…。」
エイリスも口を開く。
「…私、散歩してくる。」
メイが立ち上がり言った。
「気をつけてくださいね〜。」
エイリスがメイを見送る。
「さて、私が木でも持ってくる。
エイリスは食材を。」
「はい。」
メイは森の奥に来ていた。
「…誰かいる。」
その声に茂みがガサガサと揺れる。
「…出てきて。
出てこないと…。」
「すすす…すいません!!」
茂みから、耳の長い者が出てきた。
「…エルフ?」
「は、はい…。
エルフのルウィンです…。」
「なんで…こんなところにいるの?
エルフは絶滅したんじゃないの…?」
「は、はい…。
確かに僕以外のエルフはいません…。
でも、僕だけがここに…。
そのときの記憶がないのですが…。」
ルウィンはオロオロしながら言う。
「そう…。
もう行かなきゃ。
また来るね。」
メイはそう言って踵を返す。
「はい…。また。」
そして、徐にメイは帰ってきた。
「あ、お帰りなさい。」
エイリスが笑顔で言う。
「…ただいま。」
メイも静かに言う。
「君が散歩している間に、薪と食料は集まった。
安心してくれ。
ところで自己紹介がまだだったな。
私はイヴァだ。
義栄軍の軍長をしている。」
「私は副長のエイリスです。」
「私は…メイ。」
「どこから来たんだ?」
イヴァがメイに聞く。
「分からない…。
封印されていたし、記憶もない…。」
「封印…。
一体どういうことだろう…。」
イヴァが考え込む。
「ごめんなさい。
もう眠い…。」
メイが目を擦って言った。
「ああ、悪い。
この葉をかけて寝るといい。」
人を覆えるほどの大きな葉をメイに手渡す。
「ありがとう。」
礼を言ってメイはそれを受け取る。
「…これから…どうすればいいのだろうな…」
イヴァはこれからの生活の不安を隠しきれなかった…。
〜第十七話 エルフと遺跡〜
「ファウルス様!
ゼア様らしき人物が見つかったそうです!」
兵士が慌てて報告しに来た。
「何!?
どこだ!」
ファウルスも玉座から立ち上がらんばかりに言う。
「ジパングだそうです!
しかし…」
兵士が言葉を詰まらせる。
「…?
何だというのだ?」
「ジパングの警察に…捕まったそうです…!」
兵士は言葉を振り絞り言った。
「なんだって!?」
「紅 怜真の仲間と疑われ、牢に入れられているそうです!」
「紅風か…!
なぜ、そんな事に!」
拳を震わせてファウルスは言った。
「なぜ?
今俺がここにいるからだぜ。」
「自信満々に言うな。」
奥から怜真とクラウスが出てきた。
「聞いていたのか?」
「悪いな。
だが、貴様がそこまで名の知れた人斬りだったとはな。」
クラウスが怜真に一瞥をくれ、言った。
「これでも…かなりの数の豪族を殺しちまってな。
後悔するべきか…しないべきか…。」
怜真が顔を暗くして言う。
「君が…あの伝説の人斬り…!?」
ファウルスは驚きを隠せない。
「伝説になってるのか?
こりゃいいね。」
「馬鹿か。
今はリーネとゼアを助けるんだろうが。」
「そうだな…。
王様よ、船を用意してくれ。」
「分かった。
兵士を総動員して、船の準備をしろ!」
「は!」
ファウルスの命令で今まで王の間にいた兵士が慌しくなる。
「また…散歩行って来るね…。」
メイが徐に口を開く。
「あ、私もついていっていいですか?」
エイリスがにこにこして言う。
「うん…。行こう。」
森の奥についた2人。
エイリスがきょろきょろして言った。
「ここに…何かあるんですか?」
「…ルウィン…
この人は…いい人だから。」
メイが草の茂みを見ながら言う。
「あ…あ、は、はい…」
観念したかのようにルウィンが出てきた。
「あ…エルフさんですか?」
エイリスもおどおどして聞く。
「は、はい…。
ルルル…ルウィンと申します…。」
人間が2人になったという事で、ルウィンのおどおどはさらに凄まじくなっていた。
「ルウィン…
あなた、食料はどうしてるの…?」
メイが静かに言った。
「ああ…はい。
実は…洞窟に貯蔵してまして…。」
「洞窟…?」
「は、はい。
良ければどうぞ…。
ここでは熱いですしね…。」
三人は洞窟に向かう事にした。
森の奥、さらに奥に洞窟というより、遺跡のようなものがあった。
「洞窟というより…これは人の手で作られた建物ですね…。」
エイリスがキョロキョロして言った。
「は、はい…。
この島を彷徨っていたら、この場所に…。」
「…ここの遺跡には誰かいるの…?」
メイが徐に言った。
「い、いえ…。
僕ひとりだと思っていましたが…。」
怯えるようにルウィンが言った。
「…いるよ。誰か。」
メイが何かに操られているかのように指す。
「あ、あの部屋は…僕もまだ行った事なくて…
でででで、でも…怖くて…。」
ルウィンは頼りなさ全開で言った。
「あ、あの…なにがいるんですか?」
エイリスも怯えて言う。
「…強いもの…。
私たちじゃ…勝てない…。」
そう言ってはいるものの、顔色一つ変えないで言うメイ。
「あああああ…あの…。
開けなければ…いいんですよね…?」
「うん…。
多分…。」
「あ、あ…そうですか…。
あああ、あの…食料に困っているのなら…持っていってください…。
ああああ、あんなに…いらないので…。」
ある小部屋を指し、ルウィンは言った。
「うん。
エイリスさん。
あなたも手伝って。」
「はい。了解しました。」
にこにこしてエイリスは言った。
一方、ジパングでは…。
「くっ…また捕まるとは…。」
ゼアが悔しそうに言う。
「ゼアさん…指名手配されてたんだね…。」
リーネが重い口を開く。
「そこが一番の失態だった…。
きっと、どこの国に行ってもそうだろう…。」
「私達…ここで死ぬのかな…。」
「大丈夫だ。
必ず、抜け出すさ…。」
「帆を上げろー!!」
一人の兵士が叫ぶ。
「よっしゃあ!
出航だー!!」
怜真が叫んだ。
徐々に船が進みだす…。
「リーネ…ゼア…
無事でいろよ…!!」
クラウスは、胸に手を当てた…。
〜第十八話 血塗られた少年〜
「この2人に判決を言い渡す。
『死刑』。」
その言葉に、二人は驚きを隠せなかった。
「な…!!」
「この罪人達を牢に入れておけ。」
「はっ!」
裁判長が兵士に命令する。
「馬鹿な!
こんなもの!詐欺だ!!」
ゼアが兵士の腕でもがきながら反論する。
「黙れ。
これは公平な判決だ。」
「くそっ…!!
クラウス君…!!」
「クラウスさん…
知っていますか?」
一人の兵士がクラウスに怯え気味に言う。
「なんだ?」
クラウスが聞く。
「この近海に…『海物』が出るんです…。」
「怪物だと?」
クラウスがオウム返しで言う。
「はい…。
死の怪物が…と漁師の者が…。」
「死の…?
まぁ、いたとしても、俺が倒す。
航海を続けろ。」
「は、はい!」
兵士はどこか誇らしいクラウスに感銘を受けたようだ。
「な〜に気取っちゃってんの。
本当は怖いんじゃない?」
怜真が哀れなおちょくりにかかる。
「お前には負ける。」
ゼアさえいてくれれば…と果てしなく思う怜真だった。
「ところで…お前はどう見る?」
急にクラウスが怜真に疑問を投げかける。
「あ?
怪物の事か?」
「ああ、魔物か…それとも異端の者か…。」
「…どちらにせよ、俺たちがいるんだ。
楽勝だろうぜ。」
「ああ…そうだな。」
怜真は少し驚いた。
あのクラウスが自分の事を否定しないのだ。
「お…お?
熱でもあるのか?」
おどおどしながら怜真が言う。
「いや、すまない。
少し、臆病風に吹かれたようだ。
気にしないでくれ。」
苦笑いをして怜真に言うクラウス。
怜真は少しクラウスの事を分かったような気がした。
「グォァァァァ…」
「ぐ…!」
叫ぶ事もできず、兵士は殺された。
異端の者達は、見回りの兵士を次々と殺していく。
「おい…
なんか、兵士が減ってないか…?」
怜真が異様な空気を感じ取る。
「…!!!
しまった!!
早く皆を戦闘態勢に入るように言ってくれ!!」
クラウスはそう言って、走っていった。
「おお、任せろ!」
怜真は、クラウスとは反対側に向かった。
それは、魔物というべきなのか、呪いというべきなのか…。
白骨共がうようよ徘徊していた。
人を素手で貫き、内蔵を抉り出す。
この世の光景とは思えなかった。
「はっ!!」
斬っても斬っても、カタカタと笑い、また復元されていく…。
「ならば…!!
『ヴォルカニック・ブレイド』!!」
それを受けた白骨は体内から爆発が起こり、粉々に吹き飛んだ。
「…あまり…魔石の力は使いたくないのだがな…。」
クラウスは白骨に一瞥をくれ、呟いた。
「おい!
怪物が出たぞ!!
勇気のある奴は戦闘態勢!
臆病もんはそこら辺に隠れてろ!」
怜真のうまい言葉でほとんどの兵士が武装した。
「よっしゃ、今はクラウスだけで戦ってるからな!
俺たちも行くぜ!!」
甲板へ出るための扉を開け、一気に飛び出す怜真と兵士達。
「遅れんなよ!
ビビってないで攻撃しな!!
魔石宿してる奴は今回ラッキーだったかもな!!」
そう言って、クラウスを探しに行った怜真。
船の先端で、奮闘しているクラウスを発見した。
「おい、俺にもやらせろよ。」
怜真はそう言いながら、白骨を風の速さで粉々になるまで斬りつける。
「ふん。
人以外のものを斬るのは初めてじゃないか?」
「おお、言うんだったら見てな。」
2人は一気にたたみにかける。
クラウスの背中に来た白骨を怜真が倒し、
怜真の背中に来た白骨はクラウスが倒し、
徐々にその数も減っていった。
「減ってきたな…。」
「怪物も無限じゃないって事さ。」
「ここでいっちょ、やってみるかい?」
怜真がにやりとして言った。
「俺は魔石を使うのは控えたいのだが?」
それでも、クラウスの顔には笑みがこぼれていた。
「よっしゃ、構えな。」
怜真はそう言って、水の魔石が宿った右手を突き出す。
「言われなくとも。」
クラウスも左手に宿った紅炎の魔石を突き出す。
「いくぜ…『ブレイジングストーム』!!!!」
二人は同時に叫んだ。
すると、炎と水の混じった竜巻が白骨達を飲み込んでいく。
水ですくいあげ、炎で灰と化す。
二人の協力攻撃だった。
2人は白骨達を殲滅させるとハイタッチを交わした。
「おい、今日が死刑執行の日だ。
出て来い。」
兵が牢の扉を開け、二人を連れ出す。
結局2人は何もできずじまいだった。
リーネとゼアはクラウス達への申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
しばらく歩くと、絞首死刑執行場に着いた。
「あの縄の輪に、首をかけろ。」
2人を連れてきた兵士が命令した。
二人は大人しく従うしかなかった。
そして、2人の目の前に、裁判長が現れた。
「くっくっく…。
尿糞を垂れ流し、死んでいく様をまた見れるとはな…。」
裁判長は狂ったように笑みを浮かべる。
「貴様…!!」
ゼアが歯を食いしばり言った。
「もう遅いのだよ。
兵士は完備しているし、もう君たちに逃げ場はない…。
くっくっく、哀れなものだねぇ…。」
「貴様…本当に裁判長なのか…?」
ゼアはその裁判長の姿を哀れにも見えた。
「ああ…もともとは、人斬りだよ…。
名前を聞いたら分かるかな…。
私の名は、『織田 残奇』
織田家を追放された身だよ…。
でもね…あの時代は人を殺さないとだめだったんだ…。
その功績をが認められここにいるわけさ…!!」
どこを向いているかどうか分からない目が飛び出した。
「なぜ…そんな政治を…!!」
ゼアは悔しそうに言う。
「おっと、冥土の土産はここまでだ…。
兵、台を引く準備を。」
だが、誰も応答しなかった。
「おい!!
どうした!!
早く…!!」
振り向いた瞬間、残奇は目を見開いた。
血塗られた剣をもった少年がいたからだ。
「貴様…!!
何者だ!!」
2人は、クラウスだと思った、だが、違った。
「俺の名は…カイル・ソルネット。
貴様を殺す者だ…。」
カイルの表情は、怒りに満ちていた…。
〜第十九話 開かずの間〜
「貴様を殺す者だ…。」
カイルはそう言った。
リーネは信じられなかった。
あのカイルが剣を持ち、さらに人を殺すなど…。
「か、カイル!」
リーネが叫んだ。
だが、返答は帰ってこない。
確かに容姿や声はカイル本人なのに…。
どこか違うカイルの雰囲気に、リーネは涙が出そうだった。
「ききき…貴様!
わわわ、私を殺すだと…?!」
残奇は平静になろうとはしていたが、明らかに慌てていた。
「さらばだ、愚かな者よ。」
そう言って、カイルは剣を振り上げる。
「カイル!!!!!」
どこからか、クラウスの声が聞こえた。
「…。」
カイルは目を瞑り、剣を下ろした。
「カイル…何故お前が…。」
クラウスは困惑していた。
「ごめん…。
でも…やらなきゃいけないんだ…。」
カイルは悲しそうな笑みを見せる。
「今まで…なんで顔見せなかったんだよ…!」
クラウスが歓喜にも似た表情を見せ、カイルに近づく。
だが、ある程度近づくとカイルは剣をクラウスに向けた。
「ごめん…。
これ以上近づかないで…。
僕…揺らぎそうになる。」
「カイル…。」
「リーネのこと…頼むよ…。」
カイルはそう言って姿を消した。
「…。」
クラウスは何もいえなかった。
「クラウス…」
リーネが近づいてきた。
「俺は…カイルに…何かしちまったかな…。」
その場の雰囲気は重く、悲しかった…。
「おい…。
こんなたくさんの食料…どこにあった…?」
イヴァはたくさんの食料を見て言った。
しかも、加工されているもんだから疑うのも無理はない。
「エルフさんにもらったんです。」
エイリスがにこにこして言った。
「エルフ…?
こ、この島にいるというのか…?」
イヴァは驚きを隠せない。
「はい。」
やはりエイリスはにこにこしている。
「あのな…仮にもエルフは魔族だぞ…?
それに絶滅したと聞いたが…。」
「大丈夫…。
彼、悪い人じゃない…。」
メイの言葉にはなぜか説得力があった。
「わ、分かった…。
明日、私も連れて行ってくれ。」
「分かった…。」
そして、夜が更けていった…。
次の日の朝、三人はいつもの場所に着いた。
「ルウィン…。
ごめんなさい…。
怖いのは分かるけど…この人も悪い人じゃないから…。」
やはり、茂みに向かってしゃべるメイ。
「すすすすすすすすす…すいません…。」
ルウィンが茂みから出てきた。
やはり、いつもよりもおどおど度がアップしていた。
「この節は、食料を分けてもらってすまない。
私は、イヴァだ。
よろしく。」
そういって、手を差し出すイヴァ。
「ああああああああああああ、あの…
こ、この手に何の意味が…。」
差し出された手に怯えるようにルウィンが言う。
「ああ、手と手を握るんだよ。
握手って言うんだ。
友好の関係を作るための行動かな。」
「ははははははは、はい…。」
ルウィンは震えながら、ゆっくり、ゆっくり手を伸ばす。
そして、握手を交わした。
「今日は…イヴァさんもいるから…遺跡の…あれに…会う…?」
「ええええ?ええええええええ?!
ちょ、つ、強いものでは…なかったのでは…!?」
さらにおどおどしてルウィンが言う。
「大丈夫…イヴァさん、強いから…。」
メイの言葉にイヴァは理解できなかったが、とりあえず遺跡に向かう事にした…。
「ルウィン…。
こんな所に住んでいたんだな…。」
イヴァは少し感心したように言う。
「は、はい…。」
イヴァが危害を加えないところを見て、少し落ち着いたルウィンであった。
「開けたよ。」
メイは言った。
「ひ、ひいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」
何の前触れもなく、メイはあの開かずの扉を開けてしまったのだ…。
そして、中から人らしき者が…。
「あ、ルウィン。」
中から、エルフが出てきた。
「あ…サイヴァ…。」
「知り合い?!」
エイリスとイヴァは同時に叫んだ。
「どどどど、どういうことだメイ!
敵じゃないぞ!!」
「殺気があるとは言ってない…。」
メイは顔色ひとつ変えずに言う。
「どどどど…どうしてここに…?」
ルウィンがサイヴァに言う。
「いや…なんか…気付いたらここにいた…。」
「あ、あの…ルウィンさんとサイヴァさんはどんな関係ですか…?」
エイリスが恐る恐る聞く。
「エルフの村にいたとき、親友だったんです…。
まさか…こんなところで会えるなんて…。」
「ほんと、奇遇だよなぁ…。」
サイヴァの適当な言動に、イヴァは本当に親友なのかと疑問を持ったという…。
「あ、あの…今日はここに泊まっていきませんか…?」
「分かった。」
メイが了解した瞬間、イヴァとエイリスの運命も決まった。
「こちらの部屋へ…。」
こうして、遺跡での夜を過ごしていった…。
〜第二十話 ファウルスの決断〜
肌寒い夜に、サイヴァは徐にベッドから出る。
遺跡から出て、夜風に当たる。
「…あなた、隠してる。」
メイが遺跡から出てきた。
サイヴァは初めて驚きの顔を見せる。
「…ばれちゃったか。」
サイヴァは、あの時の声とは違う、優しい声を出した。
「あの遺跡…あなたの物でしょ。」
「君には負けるね…。
そう、あの遺跡は、僕達『シャハン』の住居だったのだから…。」
悲しい目でサイヴァが言った。
「シャハン…。悪魔…。」
「そう…世間体では、悪魔だ。
だけど…僕らは一回も人間を襲ったりはしていない…。」
「わけは…分からないんでしょ?」
「ああ…。
きっと…誰かにはめられたんだ…。」
サイヴァは悔しそうに拳を握る。
「…明日…一緒に国に行かない…?」
メイは急に話を切り出した。
「国…?」
「私達の仲間が…そこにいるの…。
シャハンの生き残り…いるかもしれないから…
一緒に旅しない…?」
「…ごめん。
僕はここにいる…。
シャハンとばれたら…君たちに迷惑がかかるからね。」
サイヴァが悲しい笑みを見せる。
「ルウィンは…連れて行ってくれないかな?
2人で暮らすとなると…さすがにシャハンだって事がばれそうで…。」
「…あなたはどうするの…?」
「ここで…一生を終えるさ…。
『悪魔』は消えた方がいいだろうからね…。」
「あなたは…本当にそれでいいの?」
「構わない…。」
サイヴァは憂いを秘めた表情で言った。
「…分かった…。
でも、あなたの人生は、あなたで決めて…。
…過去に囚われないで…。」
そう言って、メイは遺跡に戻って行った…。
サイヴァは、何か考えているようだった…。
早朝、メイは広間に仲間達を呼んだ。
「メイ、こんな朝早くに、何をしようというのだ?」
イヴァはもう完全に目覚めていた。
「ふわぁぁぁ…。」
エイリスはまだ眠そうだ。
「あ、あ、あの…」
ルウィンは言いたい事を言えない様子だった。
「じゃあ…これから、皆のいるヴェイン共和国に行く…。」
「な、皆はヴェインにいるというのか?!
それに…行くって言ったって…無理に決まっているだろう…」
「…私には…できる…。」
「ちょ、ちょっと待ってください!
サイヴァを置いて行くのは…」
ルウィンが必死に言葉を搾り出す。
「…ごめんなさい…。」
メイはそう言って呪文を唱えだす。
広場には巨大な魔法陣が浮き上がる。
「こ…これは…!」
イヴァが驚愕して言った。
「さ、サイヴァ!!」
ルウィンは部屋の隅にいるサイヴァを見つけた。
「悪かったなぁ…ルウィン。
俺…シャハンなんだよ…。
エルフじゃない…。」
サイヴァは少し微笑んで言った。
「…!?
サイヴァ…」
ルウィンは憂いをこめた表情をした。
「じゃあ、な。
もう…二度と会わないだろう…。」
「サイヴァ!
僕…僕、サイヴァがどんな人でも!
…親友だから…。」
「ルウィン…。」
「今まで…迷惑ばかりかけて…ごめん…。
でも…今までずっと…楽しかった…。」
ルウィンはそう言って消えていった…。
サイヴァの目には、一粒の光が見えた…。
ヴェイン城の王の間は、突如閃光が走る。
その閃光が止む頃には、ルウィンを含めた四人は、ヴェイン城の王の間に現れていた。
「な、なんだ?!」
ファウルスが、仰け反りながら言う。
「…ご無礼をお許しください。
メイの特殊能力により…ここに辿り着きました…。」
イヴァは慌てないように努めながら言った。
「イヴァ…それにエイリス…。
その小さな子が…メイか。
しかし…そこの少年は…?」
「はっ…。
こちらの少年はルウィン。
エルフの生き残りです…。」
「エルフ…。
なるほど、噂には聞いていたが…。」
ファウルスがルウィンに近づくが、当のルウィンはメイの陰に隠れる。
「あ、あ、あ…あの…
あ、あんまり近づかないでください…。」
ルウィンがおどおどして言う。
すると、後ろからなにやら人の話し声が聞こえてくる…。
「ゼアとリーネを連れて、今戻った。」
クラウスが先頭に立って言った。
その後ろに、リーネ、怜真、ゼアと続く。
「あ…クラウス。」
メイが少し驚いた表情をした。
「あ…メイ。」
クラウスも言う。
「メイちゃあああああああああああああああん!!」
怜真がメイに向かって走り出す。
「グオ!!」
クラウスが裏拳で怜真を倒した。
「無事だったか。」
クラウスが何事もなかったかのようにメイ達に言う。
「私のテレポートで…。」
メイが少し疲れたように言う。
「そうか、苦労をかけたな。」
「イヴァ、君はどこに飛ばされていたんだい?」
ゼアが前に出て、言った。
「とある無人島にな…。
そこにエルフがいたから、連れてきたんだ。」
イヴァがルウィンを見て言う。
「…ルウィン。
悪い人は…いないから…一部を除いて。」
その時、メイの言葉になぜか怜真は落ち込んだという…。
「あ、あ…
は、初めまして!
ルルルルル…ルウィンと申します!」
「そうか、ではルルルルル=ルウィン。
お前も俺たちと共に戦ってくれるのか?」
クラウスの天然ボケが炸裂した。
「あ、あ、あ、ち、ちがうんで…す…。」
だが、ルウィンの声は周りの雑談にかき消された。
「では、皆聞いてくれ。
これから皆は、ガリアに向かおうと思っているところだと思う。
だが、行ったとしても、また転魔鏡を使われるのは言うまでもない。」
「だが…見過ごすわけには行かない。」
クラウスが厳しい表情をする。
「まぁまぁ、聞いてくれ。
そこで、大臣たちと相談した結果…
我が国はガリアと戦争する事に決まった。」
賑わっていた王の間が…一気に静まり返った…。