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〜第三章 封印されし少女〜

〜第十一話 封印されし少女〜

「くっ!」

巨人の振り下ろす拳をジャンプで避けるクラウス。


「ヴォルカニック・ブレイド!」

あまりに大きく、あまりに重いため、巨人の動作は遅い。

だが、それを補うような防御力があった。


「ぐぁ!」

技は命中している。

だが、その無機質な体は全てをはね返した。

そして、虫を振り払うかのように平手打ちをしてくる。


「クラウス君!

 リーネちゃん、矢で援護を頼む!」


「は、はい!」

リーネは戸惑いながらも返事をする。


「レイントラスト!」


「ブラストアロー!」

ゼアは雨のような突きを巨人に浴びせる。

そして、リーネは風の力を矢に込めて渾身の一撃を放つ。

しかし、巨人は全く動じていなかった。


「くっ…不死身なのか…?」

ゼアが歯を食いしばる。


「痛ってぇ…」

怜真が目を覚ました。


「レイ!早くそこから離れろ!!」


「なに?」

だが、巨人の拳は怜真のすぐそこにきていた。

そして、物凄い衝撃が走った。


「レイ!」


「怜真さん!」


「怜真君!」

三人は同時に叫ぶ。

だが…

「喚くなよ。

 俺はここにいるぜ。」

怜真はいつのまにか、巨人の肩に乗っていた。


「ふん…。

 スピードだけは天下一だな…。」

クラウスはため息を吐き、言った。


「よっしゃ!

 こんな人形は瞬殺だぜ!!」

怜真は刀を鞘から抜き、斬りかかる。


「あ。」

しかし、刀は巨人の頭部分に当たった瞬間に折れた。


「ブ!」

巨人は怜真を摘み上げ、地面に叩きつける。


「くそ…。

 どうすることもできないのかよ…!」

クラウスが悔しそうに言う。


「クラウス君!

 この巨人は何かを守っている!」

ゼアが何かを見つけたようだ。


「なんだと!?」


「さっきから、この巨人は何かを守るかのような動きしかしていない!

 現に、巨人の後ろには扉がある!」

確かに、巨人の後ろに扉があった…。

唯一、人の手が加えられた扉…。

いったい何が…。


「しかし…あそこに入るには誰かが囮にならなければ…。」


「囮か…。」

皆が怜真を見た…。


「え?なんで?!」


「行ってこい。」


「はい…。」

怜真はクラウスに逆らえなかった…。


「…。」

怜真は巨人の前に立つ。


「お前の父ちゃん…機械オタクかよ!!!!」


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

巨人が唸りを上げる。


「え!?え!?

 お前言葉なんてわからんだろ!?

 そしてなんで怒ってんのぉぉぉぉ?!」

怜真がダッシュで逃げる。

そして、それを追いかける巨人。


「…明らかに変な状況だが、これで道は開けた。

 リーネ、ゼア!行くぞ!」


「ちょ…、怜真さんは!?」

リーネが慌てて聞く。


「あいつは死なん!」

  

「ええええええええええええええええ!?

 死にます!死にますよ!」


「行くぞ。」


「無視!?」

怜真を無視して三人は扉に入る…。


「…!!」

クラウス達は言葉を失った。

地面から突き出ている沢山の結晶…。

その中でとびぬけて大きい中央の結晶の中に長い髪を垂らした少女が眠っていた…。








〜第十二話 隠された力〜

「…少女?」

長い髪で服装はなにやら、魔法使いが着そうな、今の時代は考えられないものだった。


「全てが理不尽だな…。

 結晶の中に女の子とは…。」

ゼアが考えながら呟く。


「それにしても可愛いよなぁ…。」

いつの間にか怜真が中心よりも右寄りの結晶の上に座っていた。


「殺されたくなければ、今すぐ降りろ。」

こめかみに血管を浮き上がらせながら、クラウスが怜真に指示する。


「んん?

 お前リーネちゃんという彼女がいながらこの子に惚れたのか?」

怜真がにやりとして言う。

次の瞬間、クラウスが物凄いスピードで怜真に突進した。


「ぎぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

ただただ、怜真の叫び声だけが聞こえた…。


「怜真君!

 あの巨人をいったいどうやって撒いたんだい?」

ゼアが今にも死にそうな怜真に言う。


「ハァ…ハァ…俺のスピードが凄ぇのは、お前も知ってるだろう…。

 だから…とりあえず…逃げた…」


「…は?」


「貴様…あの巨人がここに来たらどうするつもりだ!!」

そしてまた、怜真の絶叫が木霊した…。


「…ん?」

ボコ殴りの刑執行中にクラウスの右手に宿る混沌の魔石が光りだす…。

それに共鳴する様に結晶も次々と光りだした…。


「な…なんだというんだ…?!」

困惑するクラウスたちを他所に、点滅を繰り返す魔石と結晶…。

そして次の瞬間、目の眩む様な強い光が放たれた…。


「くっ…!」


「クラウス…!」


「クラウス君…!!」

そして、その光が消えたと思えば、なんと今まであった結晶がすべて消えていた…。

そして、中に入っていた少女は抵抗もなく落ちていく…。


「ゼア、頼む!」

クラウスが叫んだ。


「分かった!」

ゼアはそれに応答し、少女の落下点で構える。


「なっ…!」

しかし、少女は落ちてこなかった。

何者かが、物凄いスピードで少女をさらったのだ。


「危ねぇな…。ニコニコ君よ。

 こいつの体温はマイナスを遥かに超えてるんだぜ…。

 触った瞬間、ショック死がオチよ…。」

怜真が少女を抱えて着地して言った。


「なんだと…?」

クラウスが目を見張る。


「本当…。

 近づいただけでどれだけ冷たいかわかる…。」

リーネはあまりの冷気に身を震わせる。


「怜真君!?

 でも、君の腕は…。」

ゼアは驚愕した。

怜真の腕を水の衣が包んでいた…。


「流泉の魔石。

 水の神が創り出した代物よ。」

怜真はにやりとして言った。


「カッコつけるな。」

クラウスはその言葉と共に怜真の後頭部に飛び蹴りを入れる。


「ぐお!!」

怜真は倒れた。


「クラウス君。

 魔石でこの子を暖めてやるんだ。」

ゼアが怜真をあからさまに無視して言った。


「判った。」







「…ここは…。」


「気がついたか。」

クラウスが魔石による温度供給を終了する。


「君は何故かここで封印されていたんだよ。

 まずは君の名前を教えてくれないか?」

ゼアが優しい笑みを見せて言った。


「私は…メイ…。」

メイは困惑しながらも、自分の名前を言った。


「メイちゃんかぁ。

 可愛いねぇ、今度俺とお茶しな…」


「変なバンダナ。」

その言葉に、怜真は今までの言葉の中で一番ショックを受けたという…。


「まぁ、しょうがないさ…。」

そして、ゼアが慰めにかかる…。


「ところで、お前はなぜここに封印されていたか分かるか?」


「分からない…。

 私は…封印されていたの…?」


「ああ、お前の素性は知りたいが、とりあえず、ここから出るぞ。」

クラウスは立ち上がりかけたが、衝撃によりそれはできなかった…。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

巨人が壁を打ち破り、侵入してきた。


「くそ!どうすれば…!!」

クラウスはヴォルノ・エッジを構える…。


「止まって…ゴーレム…。」

メイは何かに操られたかのように言った。

そして、その命令どおり、巨人は止まった…。


「…?!

 どう…やったんだ?」

クラウスは困惑を隠せない。


「自然に声が出て…何故だかわからないけど。」

メイがにこりともせず言う。


「だが…道は絶たれた…。

 王都まで行く道はここしかない…。」

ゼアが悔しがりながら言う。


「王都まで行くの?」

メイがおもむろに聞く。


「ああ…

 だが…これでもう終わりだ…。」

クラウスが地面にこぶしを叩きつけ、言った。


「王都まで…行けるよ。」


「え?」


『テレポート!』

クラウス達の体が持ち上がったかと思うと、いきなり景色が途絶えた。

そして、次の瞬間、クラウス達は王都のすぐそばにいた…。


「なっ…!!」


「ここは…!?」


「あれは…王都!?」


「ところでメイちゃん、せっかく王都まで来たんだから

 お茶しない?」


「…いや。」

ひょんな事から一気に王都に辿り着いた一行…。

謎の少女メイも加わり、物語は中盤を迎える…。








〜第十三話 ゼアについて〜

「ゼア様!

 お帰りなさいませ!」

門番がビシッと敬礼して言う。


「お疲れです。」

ゼアが笑顔で返す。


「お前って貴族かなんかか?」

怜真がゼアに疑問を投げかける。


「いやぁ、まぁ、そんな感じ…。」

アハハと微笑みながらゼアは言う。


「…?」

怜真は、ゼアの謎の言動を理解できなかった。

そして、門番によって門が開かれた。


王都に入った後も、ゼアが通っただけでどよめいた。


「あら、ゼア様。

 おかえりなさいませ。」

貴族の令嬢がゼアに近づいてきた。


「ああ、ただいま。」

ゼアが微笑んで返す。


「外は魔物で物騒でしょう?

 さぞ大変だったでしょうね…。」

令嬢はゼアを心配するような目で言う。


「ああ、仲間のおかげで何とか乗り切ったよ。」

ゼアはクラウス達を見ながら言う。


「あらあら、服装から見ると、どこかの村からいらしたのね?

 道中さぞ大変だったでしょう?

 私にできることがあればいつでも言ってくださいね?」


「は、はぁ…。

 ありがとうございます…。」

クラウスが戸惑いながらも言う。


「では、ゼア様。

 またお会いしましょうね。」

令嬢はそう言って、また買い物に出かけていった。


「貴族って…威張っているイメージがあった。

 きっと、子汚い村の子汚い子供って言われるものかと思ってた。」

クラウスが本音を吐く。


「ハッハッハ。

 まぁ、中には誇り高い貴族もいるよ。

 でも、彼女は平等を望んでいるんだ。

 だから、僕も好意を持って話し掛けられたわけさ。」


「貴族って…よく分からん。」







城下町を抜けて、城の門の前まで来た一行。

「でかいな…。」

クラウスが感想を漏らす。


「本当…。おっきいねぇ…。」

リーネも城の上のほうを見ながら言う。


「メイちゃん。大きいねぇ。

 俺らもいつかはこんなところに住みたいね。」


「レイとは…住みたくない。」

そして、いつものゼアによる慰めが始まる…。


「ゼア様…。」

城の門番が徐に口を開く。


「ん。なんだいケイン。」

ゼアはその門番の名前で呼んだ。


「王から…ゼア様を抹殺せよとのご命令があったのです…。」


「そうかぁ…。

 で?」

微笑みながらゼアは言う。


「で?って…!!」


「ケインは、僕を殺す気かい?」


「い、いえ…。

 できれば、そんなことはしたくない…。

 お逃げください!

 そうすれば…!!」


「ケイン、耳を貸してくれ。」

ゼアがケインに近づきながら言う。


「は、はぁ…。」

ゼアはクラウス達には聞こえない声でケインに耳打ちする。


「そ、それは本当ですか!?」

途端にケインは希望に満ちた顔になる。


「ああ、本当だよ。

 悪いけど、城中の兵士にこの事を伝えてくれないか?」


「は、はい!

 承りました!」

慌ててケインは城の門を開ける。


「ですが…王は何かを企んでいるようです…。

 会見の際はお気をつけて…。」

そう言ってケインは、走って他の兵士に話を伝えにいった。


「何言ったんだよ。」

クラウスが不貞腐れながら言う。


「秘密の魔法さ。」

ゼアは、白く光る歯を見せながら笑って答えた。


「メイちゃん、これから何があっても君を守るから安心してね。」

怜真もまけじと白い歯を見せながら言う。


「私…別にレイの力無しでも大丈夫だから。

 それに、あんまり当てになりそうにない…。」

そして、ゼアは慌てて怜真の慰めに入る。







階段を上り、二階の王の間に辿り着いた一行。

「ふん…急に抜け出したと思えば、のこのこ帰ってきおって、馬鹿息子が。」

キヴァードが威厳たっぷりに言う。


「申し訳ありません…。

 父上…。」

クラウス達は目を丸くする。

あのゼアが、キヴァード・レイの息子だったのだ。


「お前のような奴にはもう飽きたわ。

 これから親子の縁は切る。

 分かったな。」

ものすごい威圧で、ゼアに言うキヴァード。


「どういう…事ですか!?

 もう、父上の跡取はいなくなるという事ですよ!?」

ゼアが目を見開いて言う。


「私を父と呼ぶな。

 跡取のことなら、もうすでに考えておるわ。

 入れ。」


「はい。」

キヴァードの命令に答えたのは、美麗な女性だった。

王の間の隅のほうに身を寄せていて、誰も気づかなかった。


「新しい跡取の、ミリアンヌ嬢だ。」


「久しぶりね。ゼア・レイ。

 私が新しい跡取になることになったの。」

不敵な笑みを見せるミリアンヌ。

美麗な顔が醜く歪んだ。


「ミリア…!!

 なぜ…!!」

ゼアは今までで一番驚愕した顔をする。

クラウス達は話の流れに全くついていけなかった。


「こやつらを牢にぶち込んでおけ。」


「はっ!」

キヴァードの命令に側近の兵士が応答した。


「父上…!!

 なぜこのようなことを…!!!」

兵士に体を取り押さえられながら、ゼアは叫ぶ。

しかし、キヴァードは聞く耳を持っていなかった…。


「父上、父上ーーーーーーーーー!!!!」

最後の叫びにも、キヴァードは答えなかった…。







「で、どういうことなんだ…?」

クラウスが徐に口を開く。


「すまない…。」

ゼアは謝る事しかできなかった。


「そんなに…俺らのこと、信じられないかよ…!!!」

ゼアの胸倉を掴み、クラウスが叫ぶ。

ゼアが憎い訳じゃない…。

ゼアに信じてもらえなかった、自分が憎かった…。


「俺も…納得いかねぇぜ…!

 俺はジパングじゃあ、名の知れた人斬りだ…。

 俺は言ったのに、何でお前は言わないんだよ…!!」

急に怜真が立ち上がり言った。


「クラウス君が…父上をひどく嫌っていたから…

 教えたら…殺されると思ったんだ…。」

ゼアにいつもの笑みはなかった…。


「クラウス!それ以上、ゼアさんを責めないで!

 ゼアさんは悪くないよ…!」

リーネが必死にクラウスに言う。


「じゃあ…一体、誰が悪いんだよ…!」


「…。」

リーネは何も言えなかった…。


「僕が悪いんだ…。

 いつ死んでも悔いはない…。

 …好きにしてくれ…。」

ゼアが静かに言った。

しかし、言い終わった瞬間、右頬に衝撃が走った。

目の前には、クラウスが立っていた…。


「甘えてんじゃない…!!

 お前はキヴァードという父がいることで、自分に責任を無理矢理負わせてるだけだ…!!

 少なくとも俺は…お前はお前で、あいつはあいつだと思っている…!!

 お前が責任を感じることなんて何もないんだ…!!」


「そうだよ!自分とお父さんを照らし合わせちゃだめだよ!」


「お前は、あいつとはぜんぜん違うじゃねぇか。

 俺も…お前を信じてるぜ。」

怜真は少し微笑んで言った。


「かっこつけんな。」

クラウスはボコ殴りの刑を開始する。


「私も…みんないい人だと思うから…。」

メイも静かにそう言った。


「ありがとう…皆。」

ゼアにいつもの笑みが戻った…。


「ところで…あの女の人…誰なんですか?」

リーネが引っかかっていたことを言う。


「彼女はミリアンヌ…。

 僕の幼馴染だ…。」


「幼馴染だと?」

クラウスが刑を一時停止する。


「彼女は…王子である僕に、気さくに話し掛けてくれた、唯一の人なんだ…。

 皆、王子、王子と…実際嫌だった時にね。」

ゼアが昔を思い出しながら言う。


「じゃあ、なんでそいつが跡取に…。」


「分からない…。

 父上は僕に後を継がせたくないだろうとは分かっていたが…まさかこんな方法で…。」


「ミリアンヌさんとゼアさんって仲良しなんでしょ?

 なんでミリアンヌさんそんなことを…。」


「…。」

ゼアは信じたくない気持ちだった。

あんなに優しかったミリアンヌが…。

しかし、次の瞬間、壁から球体がものすごいスピードで突き抜けてきた。

その勢いは牢屋のドアをも壊すほどだった。


「大砲の玉!?」


「来たようだね…。

 反乱軍…いや、義栄軍が…!」

ゼアは不敵な笑みを見せた…。








〜第十四話 義栄軍〜

「は、反乱軍だ!!

 反乱軍が攻めてきたぞー!!」

兵士の声が聞こえた。


「反乱軍ってなんなんだ?」

クラウスがゼアに聞いた。


「対ガリア国の組織だ。

 最終目的は、世界の統一。

 父上から見放された村や町出身の人が多いよ。」


「なるほどね。

 一揆みたいなものってことか。」

怜真が納得したように言う。


「とにかく、早く出たほうがいい。

 反乱軍と合流するんだ。」

さっきの大砲の玉で壊れたドアをこじ開け、進もうと思った瞬間、何者かが近づいてくる気配がした。


「牢屋なんて行かなくてもいいような気がするんだがなぁ…。」


「何言ってんだよ。

 イヴァ様の命令だろうが。」


「まぁなぁ…。」


「おいおい…

 兵士なのか?反乱軍なのか?」

怜真がゼアに聞いた。


「恐らく…反乱軍だろう…。

 だが…。」


「お、まだ人がいるぜ!」


「よっしゃ!いっちょここで成果上げるか!!」


「ちっ…。

 反乱軍と戦うことになろうとはな。」

クラウスがヴォルノ・エッジを鞘から抜く。


「俺たちは反乱軍じゃねぇ!!

 義栄軍だ!!」

そう言って、反乱軍の兵士は大剣を振り下ろす。

だが、瞬時にクラウス達は避けた。


「そんなでっかいもの持ってちゃ、俺の攻撃はかわせないぜ。」

クラウスはそう言って、ヴォルノ・エッジの柄を相手の後頭部に当てる。


「くそっ!!

 今度は俺が相手だ!!」

二人目の反乱軍の兵士は銃を持っていた。


「これがあれば、お前ら剣士は不利だぜ…?

 さぁ、どうするよ?」

だが、何か風のようなものが兵士の横にくる。

怜真だった。


「スピードがありゃぁ…銃なんて屁だぜ。」


「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!」

兵士は銃を捨て、そう叫んで逃げていった。


「ちっ、軟弱な野郎だぜ。」


「とにかく、僕は反乱軍の統一者と面識があるんだ。

 それまでは耐えよう。」


「つまり、大将さんに会わなきゃ、戦い詰ってことか。」


「なるべく早く会わなくては…。」








城の兵士とも、反乱軍の兵士とも戦いながら、

統一者に会わんとする一行。


「ちっ、戦わなくていい相手を相手にするとはな…」

クラウスが一振りで二人の兵士を斬りながら言った。


「あまり、力を入れすぎないでくれよ。

 特に反乱軍相手にはね。」

ニコニコしながら急所をはずして兵士を突くゼア。


「風の魔石よ…

 ウィンド!!」

リーネがそう唱えると、突風が兵士達を襲う。


「なるほど…相手を吹き飛ばすことで殺傷させることはない…。」

ゼアが感心しながら言う。


「メイちゃん、守ってあげるからね。」

怜真がメイの前に立つ。


「…いらない。」

戦いの最中だというのにゼアの慰めが始まる。


「な…!!」

クラウスは絶句した。

目の前に横に一列になって銃を構えた者たちが現れたのだ。


「これで貴様らもお終いだ!

 正義のために、消えろ!!」

引き金を引こうかというところで、何者かの声が聞こえた。


「正義のためなら…彼らを殺すことはおかしいのではないか?」


「イヴァ様…!

 申し訳ありません!

 この方々は…?」


「彼らは、我々の仲間だ。」


「イヴァさん、助かりましたよ。」

ゼアがイヴァと呼ばれた女性に歩み寄る。


「その言葉づかいと呼び方をやめろ…ゼア。」

彼女の名はイヴァ。

長い紅色の髪で、服装はいかにも軍団の統一者といった感じだが、赤を基調としている。


「他の仲間のことは後で聞こう。

 今は、キヴァードを討ち取る。

 …覚悟はできているか?」


「ああ…。行こう。」


「イヴァ様!

 エイリス様はもう王の間まで到達しているという情報が入っています!」

兵士の一人が、イヴァに報告する。


「そうか、ならば急ごう。」








王の間では、兵士同士の死闘が繰り広げられていた。

「エイリス!

 大丈夫か!」


「はい!

 大丈夫です!!

 しかし、キヴァードの姿がないのです!」

エイリスが兵士を相手にしながら叫ぶ。


「なに!?」


「父上!」


「私は逃げたりはせんぞ…!

 これで貴様らを葬ってやる…!!」

キヴァードが奥のほうから出てきた。

巨大な鏡の様なものを押して…。


「あれは…なんだ?」

クラウスが目を細める。


「まさか…転魔鏡か!!」

ゼアが叫んだ。


「その通りだ。ゼアよ…。

 貴様らなどどこかへ飛んでいってしまえばいいのだ…。

 のう…。ミリアンヌ…。」


「その通りですね…。お父さま…。」

奥からミリアンヌも出てきた。


「ミリア!

 話を聞いてくれ!

 なぜこのようなことをしたのか…!!」


「黙れ!!

 私はあなたのような偽善者が大嫌いなの…。

 憎くて憎くて仕方がなかったわ…。」

ミリアンヌは歪んだ顔で言った。


「ミリア…。」

ゼアが悲しい表情をする。


「お喋りはここまでだ。

 飛んでいくがいい!!」

キヴァードが転魔鏡を発動させる。

すると、ものすごい逆風が鏡から出てきた。

まるで、小型ブラックホールのように…。


「くっ…!!

 吸い込まれる…!?」


「メイちゃん!!

 必ず守るからね…!!!」

怜真は自分を盾にしてメイを守る。


「リーネ!掴まってろ…!!」

クラウスの言葉に、リーネは従った。


「無駄な抵抗はよせ。

 転魔鏡に勝てるわけがない…!

 最大パワーだ!!」

キヴァードが転魔鏡の逆風の強さを上げる。


「だめだ…!!

 吸い込まれる…!!」

クラウス達の抵抗も空しく、皆が吸い込まれていった…。










〜第十五話 ヴェイン共和国〜

「痛ってぇ…。」

クラウスが目覚めると、そこは屋内だった。


「気づかれましたか。」

鎧を身に着けた老兵がクラウスに声をかけた。


「ここは…。

 それにあんたは…。」


「ここはヴェイン共和国のヴェイン城です。

 そして私はここの兵のウエインと申します。」

ウエインは丁重に礼をして言った。


「ヴェイン…だと?」

クラウスが目を丸くする。

ヴェイン共和国といったらまさに王都とは地球の裏側といったところだ。


「我が国の浜辺に打ち上げられていたのです。

 幸いお怪我は少ないそうで…。」


「はっ!

 リーネは?!ゼアは?!」

慌ててキョロキョロするクラウス。


「その方達はお仲間ですかな?

 そちらの、ジパングから来たと言う青年から聞いたのですが…。」

ウエインがその青年を見ながら言う。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオ…。

 メイちゃんはどこ行っちゃったんだよぉぉぉぉ…。」

壁に凭れ掛かり、涙を流す怜真。


「…メイと、リーネ…。

 それに、ゼアとイヴァ達…。

 皆いなくなっちまったのか…。」

クラウスはあの時の事を思い出し、悔しがる。


「クラウス様。

 あなたはガリアから来たそうですね…。

 しかし…一体どうやって…?」

ウエインが不思議そうに言う。


「転魔鏡って…知っているか?」


「転魔鏡…はい、存じておりますが…。

 ま、まさか…?!」

ウエインが初めて驚きの顔を見せる。


「その…まさかだ。」


「よっ、起きたかクラウス。」

さっきの顔はどこへやら、にぱっとして怜真が近づき、言う。


「ああ…。

 しかし、こうも簡単に離れてしまうことになろうとは…。」


「全く、あの王…。

 やってくれるぜ…。」

怜真は右の拳で左の掌を殴り、言う。


「とにかく、仲間を見つけなくてはな…。

 この二人だけでは、到底冒険など不可能だ。」


「おお、さっさと仲間見つけに行くぜ!」


「あの…お二方。」

ウエインが二人を何か物言いたげにに止める。


「なんだ?

 まさか…敵国から来た奴だからってんで、殺すつもりなのか?

 だったら、老いぼれだろうがなんだろうがぶっ潰すぜ…。」

物凄い威圧でウエインに言う怜真。

しかし、ウエインは全く動じずに言った。


「いえ…どうか王にひとつ挨拶を…と思いまして。

 もしかしたら、お二方の仲間集めの件、手伝ってくれるやも知れません。」


「そんな事…あるのか?」


「ええ、もちろんですとも。

 我等が王は人柄が良く、人望があるまったく素晴らしい方です。」

ウエインがニコニコして言った。


「ああ…そうだったな。すまん。

 クラウス、ここの王は信じていいぜ。

 こっちでも評判の王だからな。」


「貴様の情報など当てにならん。

 会ってみる価値はありそうだ。

 王の間に連れて行ってくれ。」

この時、怜真はゼアの存在がどんなに大きいものか初めて判ったという…。








「ファウルス様。

 例のガリアから来た者たちを連れてまいりました。」


「ありがとう。

 下がっていいぞ。」

ファウルスがウエインに言った。

ファウルスは王にしては若く、若干29歳だった。


「ほぉ…。

 君達が…。」

玉座から立ち、近づいてくるファウルス。


「ファウルス様!

 そのように近づかれては危険です!」

ある兵がファウルスに警告する。


「大丈夫。

 心配しないで。」

ファウルスがにっこりして兵に言う。


「度胸があるな…。」

クラウスが静かに言った。


「ハッハッハ。

 度胸というか、好奇心かな。

 君たちに興味がある…。」

クラウスをじっと見ながらファウルスは言った。


「ゼアといい、あんたといい…。

 この世の王や王子はどうなってるんだ…。」

クラウスが思わず言った。


「ゼア?あのゼアかい?

 彼とは知り合い?」


「ああ。

 共に旅をした仲だ。」


「ゼアが…。

 君たちは何の目的で旅をしていたんだい?」


「…魔物の殲滅…。」

クラウスはあえて、魔石のことは言わなかった。


「何言ってんだよ。

 実際のところ、混沌の魔石を外す為にカオスを倒そうとしてるんだろうが。」

怜真の言葉にクラウスは切れた。

混沌の魔石の事はなるべく言いたくなかった。

クラウスは後で覚えてろよ…と言わんばかりに怜真を睨みつけた。

怜真は魂を抜かれた気分になった。


「混沌の魔石…?!

 まさか君が…?」

さすがのファウルスもこれには驚いたようだ。

他の兵士もざわついている。


「見せて…くれないか?」

ファウルスが恐る恐る言う。

クラウスは無言で右手を差し出す。

ファウルスはクラウスの手をとる。


魔石は人を惑わすような紫の光を放っている…。

ファウルスは確信した。


「まさに…この魔石こそ…混沌の魔石!!」

ファウルスの言葉に王の間が一気にどよめく。


「今回は俺がカオスに選ばれたらしい。

 危険だと思うのなら殺すがいい。」

ギンとファウルスを睨みつけクラウスは言った。


「やめておくよ…。

 僕は君を殺せそうにない…。」

クラウスの目には強い光が宿っていた。

そして、クラウスを殺すことは、何か重大な罪になるような予感がしてならなかった。


「殺しはしないが、牢に入れるか?」

怜真がにやりとして言った。


「いや…最善の協力をしよう。」

ファウルスが玉座に座り言った。


「ガリアからジパングまで兵を送ろう。

 その仲間の特徴を教えてくれ。

 報告する。」


「ああ、助かる。」

クラウスは僅かながら希望が見えた…。







「リーネちゃん、リーネちゃん!」

ゼアの叫びが聞こえる。


「ゼア…さん?」

かろうじて返事をするリーネ。


「良かった。気がついたんだね。」

ゼアはほっとする表情を見せる。


「ここは…?」

リーネが辺りを見回す。


「判らない…。

 見つかったのはリーネちゃんだけだった…。

 他の皆はどこに行ったのだろう…。」

ゼアが空を見上げて言った。








「ん…ここは…。」

イヴァが目を覚ました。


「浜…か。

 海に落ちてしまったようだな…。」

イヴァは痛む腕をおさえながら、歩き出す。


しばらく歩くと、浜辺に小さな女の子が倒れていた。

「…!

 あの子は!!」

イヴァは静かにメイを抱き起こした…。

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