〜第二章 出会いと別れ〜
〜第六話 覚醒〜
用事が済んだ後、クラウス、リーネとゼアは合流した。
異様に減っている金の入った袋を見て、
ゼアはただただ、大笑いしていた。
「アッハッハッハッハ」
フィーネの町に響く謎の笑い声…。
こんな不況に何故笑えるのか。
町民達は謎の笑い声として一時期噂にしたという…。
「で、次は王都だな?」
「今回は洞窟を通って行かないといけないぞ…。
あの洞窟にいい噂は聞かないんだがな…。」
ゼアの言う洞窟とは、一回入った者は出られないという事で知られていた。
王都につながる唯一の道だが、誰も近寄らない。
よって、どんな悪政を王が行っても、民衆の反乱は全く起こらないという事だ。
「ふん…。どうせ、キヴァードが変な噂を流しただけだろう。
中には何かしら仕掛けでも作ってあるんじゃないか?」
クラウスは少し薄ら笑いを浮かべながら言う。
「クラウス君…。登場当初はもっと明るい子ではなかったかい?
悪役みたいで怖いよ…。」
苦笑いしながらゼアは言う。
「ふん…。これが明るくていられるか。
魔物を倒し、この世界を平和にしなければいけない。
それだけだ。」
「クラウス、言ってる事と顔が合ってないよ…。」
「とにかく、あの洞窟には何かあるんだろう。
そんなもの破壊してやるがな。」
そう言って、町を出るクラウス。
「…クラウス君…。怖い…。」
「同感…。」
ゼアは固まっていたが、リーネは悲しい表情をしていた。
「ここか…。」
巨大な穴が姿を現す。
中から、風が吹き抜ける。
ひゅー、ひゅーと何かもの悲しい雰囲気だ。
「クラウス君、リーネちゃん。多分、この穴も魔物の占領下にあるだろう。
戦う準備はできてるね?」
「当然だ。」
「はい…。大丈夫です!」
同時に答えるクラウスとリーネ。
そして、三人は暗闇に飲み込まれていく…。
今まで陰に隠れていた者が姿を現す。
「…侵入者を排除せよ。」
それだけ言って、その姿は消えた…。
「暗いね…。」
リーネは不安そうに呟く。
「大丈夫、こんな事もあろうかと、ランプ持ってきてるから。」
にこにこしながら、ゼアはランプを取り出す。
「…準備良すぎだろ…。」
クラウスは正直な感想を言った。
「それがゼアさんのいいところじゃない?
お香だってそうだし…。」
やはり、リーネもにこにこしながら言う。
「…。」
クラウスは黙ってゼアを見据えた…。
やはり、ゼアの言った通り、魔物が次々と襲ってくる。
クラウスは新品のヴォルノ・エッジを手に、魔物を屠る。
「はっ!!」
クラウスが斬る度に、魔物は炎を撒き散らし、倒れていく。
「ふっ!!」
ゼアはやはり舞うかの如く、次々と魔物を刺していく。
「やっ!!」
リーネは安物の矢だというのに、確実に魔物を射していく。
「くっ、ここまで魔物が多いとは予想してなかったな…。」
「着実に進むんだ。必ず、出口はある。」
「それはどうかな…?」
洞窟の奥から、男の声が聞こえる…。
「…最初からはめられていたという事か…。」
ゼアは悔しそうに言う。
「その通り。
魔物を操っておられるのは、我が帝王ゼイヴァル様!
我らが王がいる限り、あんたらは王都へ行くことすらできない…。」
男は薄ら笑いを浮かべながら、こちらに姿を現す。
まるで、男は忍者のような服装だった。
首には特徴的なバンダナをしていた。
「あんたらに怨みはないが、消えてもらうぜ。」
言い終わると同時に、クラウス目掛けて走り出す。
「なっ?!」
気付いたときには遅く、すでに、男はクラウスの懐に来ていた。
そして、手に仕込んだ刃をクラウスに向ける。
「俺はよぉ…無駄に人を殺したくはないんでね。
退くのであれば、見逃してやるぜ…。」
男は呟く。
だが、クラウスの返事は男の考えていたものとは違っていた。
「悪いが…ここまで来て引き下がるつもりは、ない。
ここで、お前を倒し、進むまでだ。」
クラウスは刃をつきつけられたにも関わらず、そう言った。
「なぜ…死を恐れないんだ?」
男は疑問を投げかける。
「俺を刺した瞬間、リーネとゼアが何とかしてくれるだろう。
俺が死のうとも、目的が果たされれば、それでいい。」
「そうかよ…。
なら、殺してやる!!」
「クラウス君!」
「クラウス!」
二人は同時に叫ぶ。
だが、その叫びも虚しく、クラウスの首に刃が突き刺さった…。
「バカな野郎だ…。」
男は刃を引き抜く。
だが、ひとつおかしい事に気付いた。
血がついていない。
「バカな?!
血が流れない人間など!!」
「…いるようだな…。
目の前に…。」
なんと、首を刺されたはずのクラウスが喋りだした。
「…!?」
男も、ゼアも、リーネも驚きを隠せない。
「ぐ…?!
うああああああああああああああああ!!」
クラウスは突然苦しみ始める。
「なんだっていうんだ!?
こいつ…今頃効いたのか!?」
男は何がなんだか分からず、困惑している。
「…。」
突如、クラウスの悲鳴が止んだ。
だが、そこから覗く目は、まるで、操られているかのようだった。
『こんなところで終わっては…全くもって退屈だ…。
少し…力を分けてやろう…。』
クラウスの声とは思えないほど、暗く冷たく貪欲な声だった。
突如、クラウスの周りから閃光が奔る。
次々と出てくる、闇の閃光が、魔物を捕らえ、灰とさせる。
「な、なんだ!?
魔物が…灰に…?」
男は慌てて、すごい速さで逃げていった。
「く、クラウス…!!」
リーネはクラウスの威圧に押されながらも、クラウスに近いづいていく。
「リーネちゃん!?
だめだ!今のクラウス君は普通じゃない!!」
ゼアも、クラウスの威圧に押され、顔が歪んでいる。
「クラウスは苦しんでいるの…!
放っておけない…!!」
ゼアははっとした。
なぜ、この少女がそこまでクラウスを慕い、助けるのか…。
彼女はもう、知ってしまっているのかもしれないとゼアは思った。
「ぐおおおおおおおおおおおおお!!」
クラウスもまた、何かに必死になって耐えているようだった。
(…ここは…?)
そこは、異世界とでも言うべき場所だった。
崩壊した建物達が宙に浮いている…。
『アルド、お前はどうするつもりだ。』
クラウスは、奥に見える人影に気付く。
『俺は、こいつを封印しないといけないんでな。』
男は自分の手の甲を見て言う。
次の瞬間、二人の人影は消えた。
(…なんだというんだ…)
奥に、なにやら気配がする。
クラウスは、吸い込まれるようにして歩き出す。
『ぐ、ぐああああああああああ!!』
先ほど、アルドと呼ばれた男が叫びを上げている。
『貴様も…もう戻れないのだよ…。
そう…お前もだ…クラウス!!』
黒い影が、赤い目をむき出しにしてクラウスを睨む。
(くっ…?!なんだ…!?
か…体が動かない…!?)
じわじわと、黒い影が近づいてくる…。
『苦しいだろう…?
今、俺が楽にしてやる…。ククク…。』
(や、やめろ―――!!)
『ウス…クラウス!!』
頭の中に響いてくる声…リーネだった。
「クラウス…!」
リーネはやっとの思いでクラウスの手を握る。
「…来るな…リーネ…!!」
クラウスは歯を食いしばりながら、リーネに言う。
「これ以上…苦しんじゃ…ダメ…!!」
リーネの言葉と共に、クラウスの周りを取り囲む禍々しい空気が消えた。
クラウスとリーネは倒れこむ。
「クラウス君!リーネちゃん!」
ゼアは二人のもとに走り出す。
「こんなに早くに発動するなんて…。
クラウス君…!!」
クラウスの右手の甲に、静かに魔石が宿る…。
〜第七話 クラウスの苦悩〜
『アルド…。
やはり、運命からは逃れられないのか…。』
アルドの右手に宿る魔石は惑わすような光を放っている。
『イリア!
ここは危険だ!早く逃げろ!』
男が、女に駆け寄り、言う。
『…今行く。』
イリアと呼ばれた女は踵を返した。
しかし、その瞬間、魔石が眩い光を放つ。
『なっ…!?』
魔石がイリアの右手に向かって飛んでくる。
『イリア!!』
その時にはもう遅く、すでにイリアの手に魔石は宿っていた…。
『うああああああああああああああ!!』
「はぁ…はぁ…」
クラウスは右手の激痛で目覚めた。
右手をさすってみると、何か冷たいものに当たった。
魔石だった。
「ここは…。」
家だった。
誰の家かはわからないが、木造の、どこか重苦しい雰囲気のある家だった。
「…。」
クラウスは何かを悟ったように、目を瞑る。
「ヴィオーラ様…。すでに、クラウス君の体には…。」
なにやら、奥から声が聞こえる。
「そんなことは知っていたよ…。
彼の体はすでにカオスに侵されている…。」
少ししわがれた女の声が聞こえた。
「…彼らは何らかのの形ですでにわかっていたような気が…僕にはするのです…。」
「彼ら…?
ああ…リーネの事かい…。」
ヴィオーラの声は全てを悟ったかのような、厳しく、暖かい声だった。
「そうだね…。
クラウスには、なにかしら辛い過去があるのだろう…。
それが…仕組まれたものだと知っているのかもしれないね…。」
クラウスは驚愕した。
仕組まれたものだと…?
つまり…誰かがあんな惨い事を仕組んだという事か…?
「答えろ!!
一体…一体誰がやった!?」
クラウスは思わず飛び出していた。
「…クラウス君…。」
ゼアが悲しい目でクラウスを見る。
「答えろ、ゼア!
誰が…誰がやったんだ…!!」
ゼアのむなぐらを掴み、クラウスが叫ぶ。
「…お前自身ではないのかい?」
ヴィオーラが、静かに言う。
「な、なんだと!?」
クラウスはそう言ったが、否定はできなかった。
「分かっている。
あんたがやったが、それはあんたじゃない。」
「…。」
威厳のあるヴィオーラの言葉に、クラウスは言葉を失った。
「クラウス君。
ヴィオーラ様は全てを見通しておられる。
…それは分かってくれ。」
ゼアはどこか悲しそうだ。
「…俺は…。」
クラウスは言葉が見つからなかった。
「もういい。
あんたはよくここまで耐えた。
あんたがその宿命から逃れたいのなら、その方法を教えてやる。」
「…待ってくれ。リーネと会いたい。
…それはそれからだ。」
「リーネちゃんは二階だよ。
まだ…眠っている。」
ゼアは階段を指差し、言う。
「分かった。」
みしみしと木造の階段が鳴る。
クラウスはリーネに一言、お礼が言いたかった。
今までの事も…あのときの事も…。
クラウスは静かにドアを開ける。
クラウスはリーネの寝ているベッドに近づく。
「…。」
クラウスはリーネの顔を見つめてこう言った。
「お前には…いつも助けられてばかりだ…。
今回だって…今までだって…。」
クラウスは踵を返し、歩き出す。
「…リーネ…。俺のために無理はしないでくれ…。
俺はお前を失いたくない…。」
後ろ向きでリーネに言う。
そして、クラウスはドアを閉めた…。
「…ありがとう。
でも…私…。」
「待たせたな…。」
クラウスは階段を降りながら言う。
「では、クラウス君、座って。」
「分かった。」
ヴィオーラは、手を組んでクラウスに話す。
「ひとつ言える事は…あんたは、混沌の神が今、最も入りやすい、
容器のようなものだという事だ。」
「混沌の神…?
俺が…容器だって?」
クラウスは、頭が混乱した。
混沌の神など聞いた事がない。
それに加えて、俺が容器だと…?
怒りと、悔しさがこみ上げる。
「混沌の神は、亜空間を統べる王…。
そう簡単に倒せる相手ではない…。」
ヴィオーラは目を瞑って言う。
「…倒す。」
「クラウス君!?
混沌の神を倒すなんて…無理だとは思わないのか!?」
ゼアは疑問を投げかける。
「なら…俺は宿命に逆らう事もなく、死ぬという事だろう?」
「何故その事を…?」
ゼアは今まで見た事もない顔を見せる。
「親を見たのだろう…。
灰に変わる…その瞬間を…。」
ヴィオーラが静かに言う。
しかし、深く悲しい、そして少し震えた声だった。
「俺は…何もしないで終わるのは御免だ…。
抗う事もできないほど、俺は臆病じゃない。」
クラウスは強く言った。
今までの悲しみを振り払うかのように。
「…私も…行きます…!」
リーネが階段から降りてきた。
「リーネ!?
…もう、平気なのか?」
クラウスは、リーネの体を心配する。
「うん…。
大丈夫だよ…。
クラウスの心の傷なんかより…全然深くなんかない…。」
「…聞いていたのか?」
「うん…。」
「ならば話は早いな。
混沌の神の呼び名は、カオス。
500年に一度…カオスがとりつく人間が現れるという記録が残っている…。
それは、まさに無差別。
どこの国なのかすらも分からない…。
しかし、クラウス。今回はお前が選ばれてしまったのだよ…。」
ヴィオーラは正直に全てを話した。
クラウスは目を閉じて聞いていた。
「…そのような人間だという事は、すでに分かっていた…。
俺が普通の人間だという事など…分かっていたんだ…!!」
クラウスは悔しさと怒りを露にする。
ゼアもリーネもクラウスに目を合わせられなかった。
だが、ヴィオーラは冷静にクラウスを見据える。
「あんたの察している通り…あんたの右手には混沌の魔石が宿っている…。
それは、カオスが作り出した世の中で一番恐ろしい物質だ。
私にも、その石がどんな効果を持つかは分からない。
ただ…恐怖の石だ…。覚えておくといい。」
ヴィオーラは、冷静を装うも、どこか声が震えていた。
「ふん…これがどんな物質であれ、乗り越えなければ話にならない。
そうだろう?」
「分かっているではないか…。
では、手を出しなさい、あと、リーネもだ。」
ヴィオーラはそう指示して、机の引き出しから何かを取り出した。
「はい…。」
リーネがクラウスの隣に立った。
そして、2人は同時に手を前に出す。
「…。」
ヴィオーラは2人の手の上に手を翳す。
クラウスの手には、炎のような燃える赤の光が。
リーネの手には、優しい流れるような緑の光が。
「あんたらの手に魔石を宿した。
なぁに、自然の神が創ったものさ。
つまり、まともな魔石って事さ。」
それでも、クラウスとリーネは首をかしげる。
「アハハ。
僕が説明するよ。
クラウス君の左手に宿ったのは、紅炎の魔石。
炎の神様が作った魔石だよ。
ある程度、火を操れるようになる。
で、リーネちゃんの右手に宿ったのは、疾風の魔石。
風の神様が作った魔石だよ。
紅炎の魔石と同じである程度、風が操れるようになるよ。」
ゼアはいつもの微笑みに戻って説明してくれた。
「ふん…。」
クラウスは踵を返し、出口を向かう。
「どこへ行く?」
ヴィオーラが訊ねる。
「外で、この力を使おうと思ってな。」
「何言ってんの。
お礼が言いにくいだけでしょ?」
リーネがくすくす微笑みながら言う。
「ば、バカ!
そんなんじゃない!!」
「ハッハッハ。
相変わらず、クラウス君は素直じゃないなぁ。」
クラウスはまた思った。
ああ〜やはりここには敵しかいないのだと。
〜第八話 刺客〜
「ヴォルカニック・ブレイド!!」
これは、クラウスが創った必殺技である。
敵の懐まで走りこみ、通り際に切りつけ爆発させる技。
ヴィオーラの作った土人形をいとも簡単に破壊する。
「…なんだ、その技の名前は…。」
ヴィオーラが呆れながら言う。
「いちいち、人のネーミングセンスに口出しするな…。」
クラウスは、踵を返し、ヴィオーラの家に帰って行く。
「待て。」
ヴィオーラは持っている杖を前に突き出した。
すると、先端から電気が走り、クラウスに当たった。
「ぐああああああああ!」
クラウスは虚しく倒れこむ。
「あんたの修行はまで終わっていないよ。」
ヴィオーラは何から何まで謎の女性だが、ゼアの師で、この事態が起きる事を予想していたらしい。
クラウスは油断なくヴィオーラを見据えていた。
「なんだ…その技は…?」
起き上がり際、クラウスは辛うじて言う。
「戯け。勝手に技にするな。」
また、ヴィオーラの庭に閃光と叫びが木霊した。
「貴様…俺を殺す気か…。」
クラウスは立ち上がれない。
「これくらいで立ち上がれないとは…軟弱な男だね。」
ヴィオーラは吐き捨てる。
「どうやった…?
杖から電撃など…論理的にありえないはずだ…。」
クラウスは何とか立ち上がる。
「理論に関してはあんたの腐った脳みそじゃ何も計れないだろうさ。」
「…分かったから、理屈を言え。」
クラウスは不貞腐れた。
「まぁいい、教えてやるよ。
私の宿している魔石は迅雷の魔石。
雷の神が創ったものさ。」
ヴィオーラが自分の右手の甲を見ながら言う。
「…?
それなら、普通に魔石の力を使ったのでいいのでは…?」
「戯け。」
三度目の閃光と叫びが木霊した。
「私の持っているこの杖は、先端にスパークエレメントがついている。
雷を吸収し、増幅させる力を持っているのさ。」
ヴィオーラはダウンしているクラウスを見て言う。
「なる…ほど……。
応用と…いう…わけか…。」
クラウスは今にも死にそうだった。
「あんたも、剣の力だけに頼っていてはいけないよ。
頭も使いな。
今日はお終いだ。解散。」
「…鬼か。」
ヴィオーラは地獄耳だった。
「ぐあああああああああああああああ!!」
「逃がしたのか…。奴を…。」
物凄い威圧が男を襲う。
王座に座っているのは、ギヴァード・レイ。
現ガリア王国国王。
「申し訳ありません…。」
男は、前回クラウスたちと戦った、あの忍者もどきだった。
やはり、首に特徴的なバンダナをしている。
「ふん…。まぁよいわ。
すぐに奴らを殺して来い。
反乱軍に組している様だからな…。」
「承知!」
男は素早く任務に取り掛かる。
「王…。
彼は有名な人斬りですぞ。
あいつらごときに苦戦するような輩ではござりませぬ。」
大臣らしき男が言う。
「ふん…。
臭うな。
調べさせろ。」
「承知しました。」
大臣は下の階に降りた。
「クズ共めが…。
さっさと混沌の魔石を手に入れればよいのだ…。
さすれば…その力はわしのものになる…ククク。」
キヴァードは怪しく笑った…。
「クラウス、朝だよ〜!」
リーネがクラウスをたたき起こす。
「…まだ、体が痺れてやがる…。」
クラウスは昨日の悪夢を思い出す。
「昨日は大変だったね…。
今日は私も修行に参加するよ。」
「…無理はするな。」
「うん!」
リーネが元気よく頷く。
「ああ〜、おはよう!
クラウス君、リーネちゃん。」
にこにこしながら、ゼアが言う。
「ゼア…。
昨日どこ行ってたんだよ…。
ていうか、朝は苦手じゃなかったのか…?」
クラウスは眠そうに言う。
「ハッハッハ。
昨日は今日の朝ご飯の買出しにね。
目覚まし時計をかけたら僕は普通に起きれるさ。」
「…。」
あんだけ用意が良かったんだから、目覚まし時計くらい持って来いよ…と思ったクラウスであった。
「さぁ、僕の手料理を食べてみてくれ!」
出されたのは、スクランンブルエッグだった。
見た目はなかなかよかった。
「ふぅん…。
お前が作ったのか。」
「おいしそうだね!」
「まぁ、食べてみてくれ。」
ゼアがにこにこしながら言う。
クラウスとリーネはゼアの手料理を口に運ぶ。
しかし、口に入れた瞬間、電撃が走った。
「まず…」
「まず…っ!!」
「そうか、「まずまず」か。
これからは美味しい料理を作れるように頑張るよ。」
ゼアはやる気満々だ。
なんとおめでたい奴なのだろうか…
そして、それと同時に、これからの地獄が予想された…。
「ばあさんは食べたのか?」
「いや…ヴィオーラ様はフィーネの町のコックの料理を食べてるよ。」
(ばあさん殺す…。)
クラウスは密かにそう思った。
「ばあさん見てろ…。
俺なりに考えた「ヴォルカニック・ブレイド改」だ。
土人形を出してくれ。」
「…だから、何なんだその名前は…。」
愚痴りながら、ヴィオーラは土人形を出す。
説明が遅れたが、ヴィオーラは豪地の魔石を左手に宿している。
その魔石を使って、土人形を作り出しているというわけだ。
「行くぞ!」
走り際、相手を斬りつけ、爆発させるこの技。
しかし、この後が違った。
なんと、剣が伸びている。
いや、魔石の力を剣に宿し、具現化させたのだ。
「おおおおおおおおおお!!」
圧倒的なリーチの違いで土人形を斬りつける。
そして、クラウスが剣を柄に納めると同時に土人形は爆発した。
しかし、旧「ヴォルカニック・ブレイド」の比べ物にならない爆発だった。
まさにそれは、火山の噴火だった。
「魔石の使い方を分かったようだね。
上出来だよ。」
ヴィオーラが珍しくクラウスを褒めた。
「すごいねぇ。クラウス君。
僕の必殺技は比べ物にならないよ。」
ゼアはにこにこしながら言う。
「ゼアも必殺技があるのか…。
見せてくれ。」
「ゼア。やっておやり。」
「はい。分かりました。」
ヴィオーラの命令に従うゼア。
クラウスは少し不貞腐れた。
ヴィオーラは土人形を再び作り出す。
「じゃあ…行くよ。」
(なんだ、あの構えは?!)
ゼアはレイピアを胸に翳す。
そして、払うかのようにレイピアを振った。
「ソニック・ブーム!!」
「飛ぶ剣撃だと!?」
クラウスは驚愕した。
なんと、振ると同時に衝撃波が出たのだ。
そして、土人形に当たった…。
「バ、バカな…。」
「さよう。
彼は魔石の力など全く使っていない。
自分の力だけで…「斬った」のだ。」
そのヴィオーラの言葉とともに、土人形は真っ二つに切れた。
「ゼアさん…すごいんですね。」
リーネが尊敬の眼差しを見せる。
「修行したからね。」
ゼアは微笑んでいたが、眼は暗かった…。
「クラウス!
お命頂戴!!」
「なっ!?」
その言葉とともに、クラウスの首辺りに剣撃が走る。
「また会ったな。
クラウス=コルノール。
今度こそ、貴様を倒す!!」
また、特徴的なバンダナをしている忍者もどきだった。
「くそ…むかつくな…。
いちいち忍者もどき忍者もどきって…!!」
「…誰に向かって怒っているんだこいつは…。」
「…人斬りか…。」
ヴィオーラは蚊のような声で言った。
「ここであったが百年目!
死んでもらうぜ!!」
走り際に男は抜刀した。
「なっ…!?」
クラウスは男の刀をヴォルノ・エッジで受け止めた。
「残念だったな。
…俺も修行は積んでいる。」
そう言って、男をはじき返す。
「来い。」
クラウスは、男を見据えた…。
〜第九話 紅 怜真〜
「へへっ。
どうした?
俺のスピードに驚いてるのか?」
「…名は。」
クラウスは静かに聞く。
「紅 怜真」
「クレナイ…レイシ…?」
「おうよ!」
「貴様、女か。」
「バカ野郎!
どっから見れば女に見えるんだ!?」
「名前…。」
レイシは通常、女が使う名前である。
「俺の出身国はジパングなんだよ!
向こうじゃ、漢字っていう文字で名前をつけるんだ!
怜真っていう名前もあっちじゃ珍しいけど、俺は男だ!」
しかも、読み方としては、怜真は「れいま」が正しい。
「なんで、ナレーションにもつっこまれなきゃいけないんだよ!?」
(ナレーション…?
なんだこいつは…。)
クラウスは密かに恐怖を覚えた。
「ああ!もういい!
さっさと死ねぇぇぇぇ!!!」
怜真が突っ込んで来た。
「おい。
こっちはゼアもばあさんも、リーネもいるんだぞ。
お前に勝ち目はないだろう。」
「なに?!」
怜真の動きが止まる。
そして、ゼア達に目を向けた。
まず、怜真はゼアを見る。
…にこにこしていた。
次にヴィオーラを見た。
…おばさんだった。
そして、リーネを見た。
…タイプだった。
「ハッハッハ!
一人はニコニコしてて弱そうだし、もう一人はおばさんで、さらにもう一人は俺のタイプだ?!
笑わせるな…」
そういい終わる前にヴィオーラによる電撃が走った。
「ぎょええええええええええええ!?」
叫び声と共に、怜真は空高く飛んでいった。
「お疲れ様、クラウス君。」
ゼアがにこにこしながら言う。
「俺は何もしていない。
結局、ばあさんがブッ飛ばしたからな。」
「人のことをばあさん呼ばわりするとは…
どう見ても、20代前半じゃろうが。」
「どう見ても、60後半じゃ…。」
「戯け。」
また、閃光とクラウスの叫びが木霊した…。
「…さっさとここを出て…カオスを倒さなければ…。」
クラウスは、暗くなった外を見ながらつぶやいた。
「!?」
次の瞬間、クラウスの目の前に、何かがすごい速さで通り過ぎていった。
「誰だ!?」
クラウスは外を見たが誰もいなかった。
そして、クラウスは180度首を回転させた。
「…矢文…?」
ドアに刺さった矢に、紙が括り付けられていた。
『森の奥の湖の辺に来い。
決着を望む。』
それだけ書いてあった。
「ふん…行ってやるか。」
机に置いてあるヴォルノ・エッジを携えて、クラウスは指定の場所に向かう。
「ヴィオーラ様…クラウス君が…」
ゼアが言う。
「…やはり…か…。」
ヴィオーラは静かに言った。
「追わなくていいのですか?」
「なぁに。
あいつはそれなりにタフな奴だ。
それに…ここも直に狙われる。
私はここを守らねばならん。」
ヴィオーラは何か、決意に満ちた表情で言う。
「な…?!
なら、僕はここに…!」
いつものゼアらしからぬ表情だった。
「戯け。
私は大丈夫だよ。
クラウスを助けてやりな…。」
「し…しかし!」
「今は、老い耄れの心配より、若造の心配をしてやりな。
それに、あいつが死んだら、悲しむ奴もいるんじゃないかい?」
ヴィオーラは少し微笑んで言った。
ゼアは少し考えた後、こう言った。
「ヴィオーラ様…
今までありがとうございました…。
クラウス君は…必ず僕が守ります。」
そう言って、ゼアは森の奥へ消えていった…。
「ふん…。
もう察するとは、勘だけはいい奴だ…。
…ゼア、頼んだぞ。」
そして、ヴィオーラは外を見上げた。
「よく来たな、小僧。
怖くて逃げたとばかり思ってたぜ。」
怜真は木の枝の上に立っていた。
「ふん…。
それはこっちの台詞だ。」
クラウスは怜真を見上げて言う。
「口だけは達者だな。」
そう言って、怜真は木の枝から降りてきた。
「口だけかどうか…試してみるか?」
「面白ぇ…。
やってみやがれ!」
怜真が飛び掛る。
クラウスは剣を×にして、防ごうとした。
しかし、何の手応えもなかった。
「バカな奴だ。正直に正面から攻撃するわけねぇだろ!!」
後ろから声が聞こえた。
次の瞬間、背中が何かが刺さる感覚に襲われた。
だが、あるはずの痛みが全く感じられなかった…。
「…お前は一体なんだ…。
血は流れないし、その表情じゃ、痛みは感じないときてる…。」
怜真は刀を抜きながら、言う。
「多分…、俺がカオスに選ばれし、人間だからだろう。
昔からそうだった。
血も、痛みも、涙も、味も…すべてないんだ…。」
「なん…だと?」
怜真は思わずあとづさる。
「俺は…何も感じない…なにも…。」
涙を出したいのに、全く出てこなかった。
血も出したいのに、全く出てこなかった。
今まで、カイルが帰ってこなかった事があった。
リーネは泣いていた。
俺も泣きたかった。
なのに…一滴も涙は出なかった。
『クラウスは…泣かないの?』
『俺は…泣けないんだ…。
なぜか…涙が出ないんだ…!!』
『じゃあ…私がクラウスの分も泣いてあげる…。』
「…俺は…「人」ではないのかもしれない…。」
「…やめだ。」
怜真は言った。
「何…?」
クラウスはいっている意味が分からなかった。
「俺は…正義のために戦っている。
誰もが安心して暮らせるような世界がほしいんだ…。」
怜真は夜空を見上げながら言う。
「ふん…。
表向きじゃあ、あの王が正義さ…。
だが、俺は自分を正義だと信じている。」
「…俺が間違ってたぜ。」
「ふん…。
その間抜けなバンダナも間違ってるぞ。」
「余計なお世話だ!!」
「…お前はどうするつもりだ。
俺を殺さないと、王に殺されるのではないか?」
「本当だよ!
どうしよう!」
急に怜真はオロオロしだす。
「…阿呆が…。」
クラウスは呆れ顔を見せる。
「…来たか。」
ヴィオーラが静かに言った。
「久しぶりだな…。
ヴィオーラ…。」
黒髪で冷たい印象を持つ男が言った。
腰には銃を携えていた。
「あんたも怪物みたいな男だよ…。
あの王に仕えるほど腐っちまったのかい…。」
「…流れに従っただけだ。」
男は冷たい目でヴィオーラを見据える。
「そうかい…。
ならば、私があんたを止めてみせる!」
ヴィオーラは杖を構える。
「愚かだな…。」
男も腰に携えた銃を抜く。
森に大きな閃光が走った…。
「クラウス君!!」
「クラウス!」
ゼアとリーネはやっとの思いで湖の辺に着いた。
「ゼア…。リーネ…。
やはり分かっていたんだな。
あのばあさん。」
クラウスはしわがれた老婆の顔を思い出す。
「おお。
ニコニコ君。」
怜真がゼアに言った。
「ニコニコ君って…。
クラウス君!
早く離れて!」
ゼアが叫ぶ。
「いや…こいつ、俺たちの仲間になるらしいぜ。」
クラウスが言う。
「…は?」
ゼアは口をあんぐりさせる。
「まだ、信じてもらえないと思うけどよ、よろしく頼むぜ!」
怜真がニカッっとして言う。
「…うわぁ。
クラウス、怜真さんを仲間にしちゃったんだ!」
リーネはいかにもすごぉいというような顔をする。
「全く…さっさとクラウスも自分が正義だって教えてくれりゃいいのによ。」
怜真が不貞腐れて言う。
「それくらい分かれ、単純野郎。」
クラウスが挑発気味に言う。
「んだとこの…」
そういい終わる前に、ヴィオーラの家の方角から、閃光と爆発音が…。
「なんだ!?」
「まさか…ばあさん!」
クラウスは、この予想は当たらないでくれと願うばかりだった…。
〜第十話 無機質の人〜
「ばあさん!」
クラウスの見たものは、顔の左半分を仮面で隠した黒髪の男と血みどろになったヴィオーラだった…。
「貴様…!!」
クラウスが目を引き攣らせた。
「貴様がクラウスか。
ヴィオーラの敵をとりたければ、王都まで来るんだな。」
男はそう言って、静かに消えた…。
「待て!!」
クラウスは男のいた場所に走ったが何もなかった…。
「ヴィオーラ様…。」
ゼアはヴィオーラを抱き上げ言った。
「ヴィオーラさん…。」
リーネは、顔を覆うしかなかった…。
「そんな悲しい目をするな…。
こうなる事も予想済みだったさ…。」
ヴィオーラは何も悔いているようにも、悲しんでいるようにも見えなかった…。
「クラウス…。
奴を倒そうとは思うな…。
奴は…化け物だ…。」
何かに怯える様にヴィオーラは言った…。
「だが、奴をのさばらすのは性に合わん…!!」
クラウスは悔しそうに言う。
「クラウス…。
覚えているだろう…。
お前には、隠された力がある…。
だが、それと同時に何かを失う…。
望むなら…使わずに済めば…いいのだが…。」
ヴィオーラは夜空を見上げていった…。
「ヴィオーラ様…。
最後にお聞かせください…。
なぜ、僕を匿ったのか…を。」
ゼアは涙を堪えながら言った。
「ふふ…。
お前の目が…澄んでいたからさ…。」
「!!」
ゼアは、はっとした。
希望に満ち溢れたかのように…。
「ならば…父上は…!!」
「ああ…。
もしかしたら…お前の頑張りで何とかなるよ。」
ヴィオーラは笑顔でそう言った…。
「何言ってんだよ、ゼア!
早く医者に…。」
「いいんだよ、クラウス…。
私も、人間の道から外れてしまったんだ…。
これで…楽になれ…るな…ら…………。」
ヴィオーラは全てを言い終わる前に息絶えた…。
「ばあさん…。」
クラウスは涙に暮れたかった。
自分の恩人でもあるこの人のために…。
「クラウス君…。
ヴィオーラ様を弔ったら…王都に向かう…。
それでいいね?」
「ああ…。」
ゼアは平静を装っていたが、やはり声が震えていた…。
そして、頬には何か光るものが見えた…。
ゼアは誰の手も借りず、一人でヴィオーラを弔った…。
それに、何の意味があるのか、それは誰にも分からなかった…。
「よぉ、まだ祈ってんのか…。」
怜真がゼアの隣に座り込んだ。
「怜真君か…。
そうだね。この祈りで、ヴィオーラ様の魂が報われるなら…。」
ゼアが悲しそうな微笑を見せる。
「あんたも、大変だな…。
一番慕ってた人間が死んじまうんだからな…。」
怜真は同情の意味を込めて言った。
「でも…これは分かっていた事だったから…。」
「…?」
バカな怜真は全く意味が分からなかった…。
(余計なお世話だ!!)
「怜真君…。
これから起こる戦いは、並大抵のものではない。
何の関係もない君を巻き込みたくはない…。」
「馬鹿野郎。
俺だって、クラウスを殺しかけちまったんだ。
責任は取るつもりだぜ…。」
「言っても聞かないみたいだね…。
でも、君は死ぬかもしれない…。
彼のために死ねるというのかい?」
「ジパングじゃあ、俺も立派な人斬りだからな。
こんな人生が終われるなら、どんな死に方だっていいぜ…。」
「そうか…。」
しばらく沈黙が続いた。
「あんたも…俺のこと信じねぇだろうな…。
一度でも敵側に立っちまったんだ。
言い訳もするつもりはねぇ。」
怜真は強い目でゼアを見た。
「僕も、クラウス君も、リーネちゃんも…お人好しだから、信じてるよ。
それに、最初君に会った時も、悪い奴には見えなかったからね。」
微笑みながらゼアは言った。
「お前ら…そんな事じゃ、すぐやられるぞ…。」
怜真が呆れ顔になる。
「ハッハッハ。
でもね、僕らはそれにも負けない力があるんだと僕は思うんだ。」
ゼアはにっこりして言った。
「それは俺がいるからだろう?」
怜真はにやりとして言った。
「いや、それは無い。」
ゼアはニコニコして言った。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!?
そこは認めるところだろう!」
怜真が立ち上がり、叫ぶ。
「僕は嘘つかない。」
ゼアはやはりにこにこして言う。
「バシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウゥ」
異音と共に怜真はどこかに飛んでいった。
「怜真君はリアクション豊富ですね…。
ヴィオーラ様…。」
それを最後に、ゼアはヴィオーラの住んでいた家に戻った…。
クラウスはバンダナを締め、気合を入れる。
「…よし、行くぞ…!!」
「うん…!がんばろうね!」
「僕の力が続く限り…。」
「へへっ。
暴れてやるぜ!!」
個々で準備を済ませ、外に出た一行。
「ゼア、港に着くまでに、何か障害はあるか?」
クラウスがゼアに聞いた。
「ひとつ…ある。
蒼鱗の洞窟だよ。
名前の由来は岩肌が青く光っているから名付けられたんだ。」
ゼアは聞いてもいないのに説明する。
「そうか…そこにも魔物が潜んでいる可能性があるな…。」
クラウスはゼアの説明を無視して言った。
「魔物は俺に任せな。
パパっと片付けてやるぜ!」
怜真が左手の拳で右手の掌を殴って言った。
「いや、お前は当てにならん。
そこら辺で素振りでもしてろ。」
クラウスが冷たく怜真に言う。
「すすすすす、素振りぃ?」
「まぁ、頑張る事だ、怜真君。」
ゼアが怜真の肩をポンと叩く。
「…。」
怜真はひどく落ち込んだらしい。
「クラウス…。
もう、混沌の魔石は使っちゃだめだからね…。」
リーネが心配そうにクラウスに言う。
「ああ、分かってるさ。」
クラウスは笑みを見せた。
リーネも微笑を返す。
「まぁ、なんだ。
俺の実力は隠しておくもんじゃないぜ…。
判ったかクラウス。」
「気安く呼ぶな。」
「ズーン…。」
「まぁ、頑張る事だ、怜真君。」
ゼアは今度は怜真に二回、ポンポンと肩をたたいた。
「俺…ここに来なかったらよかったな…。」
「なら帰れ。」
クラウスの冷たい即答に怜真の心は砕け散ったらしい…。
「よし、いらないやつは置いていく。行くぞ。」
「よぉし、行こう行こう!」
リーネは少し怜真を心配するもののクラウスに従った。
「まぁ、クラウス君はいつもあんな感じだよ。
ついていけないのなら、ジパングに帰りなさい。」
ゼアがにこにこして言う。
「いや…ここで沈む俺じゃねぇ…。
絶対…ついていってやるぜ…!!」
怜真は、カオスを倒すよりも大変な目標を作ってしまったのかもしれない…。
「ここが…蒼鱗の洞窟…。」
入り口は、人一人がやっとすっぽり入るくらいの大きさだった。
奥は、暗いのかと思いきや、蒼く光る岩肌で幻想的な雰囲気を醸し出していた。
「なんか綺麗だねぇ…。」
リーネがうっとりして言う。
「気をつけたほうがいい。
奥のほうから剥き出しの殺気が出ている…。」
顰め面をしてゼアが言った。
「おーし、腕が鳴るぜ!」
「貴様の腕など折れていればいい。」
クラウスが怜真に見向きもせずに言った。
「ズーン…。」
「まぁまぁ。気にしない事だ。」
ゼアが怜真の肩をポンポンと叩いた。
「行くぞ。」
クラウスがヴォルノ・エッジを鞘から出して言った。
リーネがクラウスの後についていく。
ゼアは怜真の肩をポンポン叩いて慰めながら歩き出す。
「人間の手は全くと言っていいほど出てないな…。」
クラウス岩肌に触れながら言う。
「本当…。
こんなに綺麗なのに…不思議だね…。」
「それは、ここの洞窟に言い伝えがあるからさ。」
ゼアが前に進み出る。
「人間は、そういうの信じないんじゃないか?」
「それはお前だけだろう。」
クラウスはやはり怜真に見向きもせずに言う。
そして、ゼアがまたいつもの慰めにかかる。
「確かに、強欲な人間もいた。
だが、何か仕出かす前に何者かが潰すから、誰もこの岩肌に触れられなかったんだ。」
「俺、触れてるぞ。」
クラウスが岩肌をポンポンと叩きながらゼアに言った。
「きっと、邪悪な気を持ってないからだよ。」
にこにこしてゼアが言った。
「いや…俺、普通に混沌の魔石つけてるぞ。」
クラウスがゼアに混沌の魔石を見せつける。
「心だろうね、見るのは。」
「だそうだ、気をつけろ、レイ。」
クラウスがまた怜真に冷たい言葉をかける。
ゼアはまた慰めにかかる。
この洞窟は氷属性の魔物が多かった。
仲間の足や手が凍らされるその度に、クラウスの紅炎の魔石が役に立った。
「ぐっ…!
クラウス、魔石で頼む!」
怜真は魔物に足を凍らせられたようだ。
「気安く呼ぶな。
それに、今のお前にはそれがちょうどいいだろう。
自然に溶けるのを待っていろ。」
そう言って、先に進むクラウス。
「…ええ?ええええ?!」
「クラウス、怜真さんは?」
「死んだ。」
「ええ!?」
「嘘だ。」
真顔でクラウスは嘘を言った。
リーネは心臓が止まりそうだった。
「まぁ…彼のことだ。
大丈夫だろう。」
ゼアがにこにこして言う。
「は!」
氷属性の相手には、ヴォルノ・エッジの効果が倍増した。
理には、相性というものがあって、氷は炎に弱いというのは、魔物と魔石の間にも、もちろんある。
「今回は本当にクラウス君が頼もしいね。」
「本当。大活躍だね!」
「ただ、相性が良かっただけだ。
騒ぐことじゃない。」
「クラウス君。
ここにはボス級の魔物はいないようだ。
小さい気ばかりだし、それに、魔物の行動も皆バラバラだ。」
「そうか、なら楽に攻略できるな。」
次々と襲ってくる魔物を切倒し、先に進む一行。
「ほとんど一本道だな。」
「そうだね…。」
「…!!
クラウス君、リーネちゃん…!
これは…!!」
ゼアが何かを見て驚愕していた。
クラウスもゼアの見ている方向を向いた。
「…!!!」
それは、人でも魔物でもなかった。
巨大な「物」だった…。
「なんだこれは…!!」
「人型の…機械か…。」
「機械…?
では、動くということか…!」
「何もしなければ、動くこともないだろう。
早くこの場を…。」
そういい終わる前に上の方からなぜか怜真の声が聞こえた。
「なんだ、これ?
全然うごかねぇし…置物か?」
ガンガンと拳で巨大な人型の機械の顔の部分を殴りながら怜真が言った。
「ファイア!」
クラウスがこめかみに血管を浮かばせながら、怜真に火の玉を発した。
「アッチィィィィィィ!!」
怜真機械の肩でピョンピョン飛び跳ねる。
そして、ピョンピョン跳ねるうちに足を滑らせた。
「ブ!!」
見事に顔面を強打した。
「何をしている!
こいつがどんな力を隠せているのかもわからんというのに!!」
クラウスは完全に切れていた。
「す、すいませ…ギャアアアアアアアアアアアアアアア!」
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
怜真の悲鳴とは別の叫びが聞こえた。
「な…?!」
クラウスはボコ殴りの刑を終了し、身構える。
しかし、怜真は失神していた。
「な、何?この声…!」
その、声とも音ともいえぬ叫びは次の瞬間止んだ。
そして、なんと巨人の足がどんどん上に持ち上がっていく…。
「クラウス君!
ここを離れるんだ!」
「判った!」
クラウスは怜真を担いで走り出す。
そして、巨人は持ち上げた足を前に突き出し、地面に下ろす。
人間にとっては、普通の動作だが、この巨人が行う場合、地面が割れんばかりに揺れる。
踏み潰されたら、ただでは済まないだろう。
「ちっ、お前のせいだぞ!
レイ!」
だが、怜真は三途の川を見ているような表情だった。
「クラウス君!
僕らは完全に敵視されたようだ!
早くここから逃げるしか…!!」
しかし、次の瞬間、巨人の腕が大きく動き、天井を壊した。
「な!?こいつ、道を…!」
崩れた岩が積もって、進むべき道が途絶えてしまった…。
「意思を持っているってことなの?!」
リーネは驚愕して言った。
「こいつはきついな…。
意思があるってことは、戻っても追いかけてくるってことか…。」
「町に被害を与えるわけにもいかないね…。
ここで倒すしかない…!」
ゼアがレイピアを抜く。
「行くぞ…!」
クラウスは少し不安を覚えるも、身構えた…。