〜第一章 運命の始まり〜
〜プロローグ〜
まさに地獄と言うべき光景が広がっていた。
崩れ落ちる民家、焼け爛れた死体。
「…俺の…せい…なのか……」
一人の少年が呟く。
だが、返答は帰ってこない。
崩れる瓦礫の音…、そして、猛威を振るった火の音はまだ幼い少年の頭に刻み込まれた。
〜第一話 伝説の魔物〜
「行ってきまーすっと」
元気の良い、少年の声が聞こえる。
彼の名はクラウス。
この村に住む、少年。
頭にバンダナをし、革の鎧を身につけている。
頬には、なにかしらでできた傷が痛々しく残っている。
「待っててば!私も一緒にいく!」
いかにも、お転婆そうな、少女の声が響く。
彼女の名はリーネ。
この村に住む、少女。
髪をひとつに結び、クラウスとは対照的に軽装備である。
「もう!まだ準備できてないって言ってるでしょ!?」
少女は頬を膨らませながら言う。
「だってよぉ、お前が遅いんだろ?
この時間帯にしか、猪は出てこないんだぜ?」
この村には、国からの援助は全く来ない。
それもそのはず、強欲な王、キヴァード=レイが全ての税を自分のために使っているのだ。
よって、若者は昼に狩りに出掛ける事が、風習の様になっていた。
「もう…、私みたいな女の子も狩りに行かないといけないなんて…。」
「それは仕方がないことだろう。
今、狩りに行ける様な状態なのは、俺とお前くらいだからな。」
「それは判ってるけど…。」
二人は、会話をしながら、村の外れの森へ向かう。
「あ〜、小さい頃は、この森でよく遊んだりしたなぁ。」
「うん…。あの時、私達の年くらいの子なんて、一人もいなかったね…。
カイル以外は…。」
二人は、幼馴染で、よく一緒に遊び、食べ、喜び、泣き、
まさに心の友だった。
「…?」
クラウスは森の異様な空気に気づく。
「どうしたの?」
「…おかしい…。
ここまで深く森に入ったのに…動物一匹顔を出さない…」
森は、沈黙に覆われていた。
鳥の囀りも、草の茂る音も、何もかも聞こえなかった。
「ぐっ!!」
なにか、犬くらいの黒い影が、クラウスを襲う。
「クラウス!?」
「何者…!?」
クラウスとリーネは戦慄を覚えた。
一見、犬のようだが、顔は爛れ、身は今にも崩れ落ちそうなほど、腐りきっている…。
「…魔物…だと!?」
「そんな!魔物のわけ…」
だが、リーネは否定できなかった。
このような奇怪な動物は本でしか見たことがない。
それこそ、まさに魔物だった。
「魔物…それは空想の怪物ではなかったのか…?!」
次の瞬間、涎を垂らして様子を見ていた黒い影がクラウスに飛び掛る。
「くっ…!!驚いていては話にならない!
…応戦だ!!」
クラウスは狩り用の剣を抜き、魔物を払いのける。
「リーネ!!弓だ!弓を使え!!」
「判ったわ!」
リーネは弓を構える。
「はっ!!」
クラウスは必死に見たこともない生き物を相手に、
勇気を振り絞り応戦する。
だが、いくら切っても、魔物は襲い掛かってくる。
「くっ…、こいつ…不死身なのか…?!」
「クラウス、退いて!」
次の瞬間、リーネの矢が魔物に突き刺さった。
魔物は悲鳴を上げ、倒れる。
「はぁ…はぁ…」
「大丈夫?クラウス…」
「心配するな…。怪我はない…」
クラウスは緑色の血を流した魔物の死体を見る。
このような奇怪な生物が…この世に存在するとは…。
それが、クラウスの本当の気持ちだった。
「それより、今すぐ、村に戻るぞ。
魔物が現れたなんて…誰も信じてはくれないだろうが…」
「この死体を持っていくのも…ちょっとね…」
魔物を見たリーネは苦い顔をする。
「とりあえず、村長に報告。俺達だけででも、警戒だ」
リーネは頷いた。
二人で駆け足で村へ戻る。
だが、そこには村はなかった…。
いや…この光景は…。
「そ、そんな馬鹿な…!!」
「…!!」
リーネは言葉にもできなかった。
元々、村だったそこは…クラウスがかつて見た…地獄の光景だった…。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」
クラウスの声だけが虚しく響いた…。
〜第二話 逆らえぬ運命〜
「…クラウス…」
二人はただ、呆然と立ち尽くすしかなかった…。
「二度と…二度とこんなこと…起きてほしくなかったのに…!!」
明らかに、魔物の仕業だった。
死体は、噛み砕かれ、溶かされ…。
まさに、地獄絵図だった。
「おっとぉ?これはどういう事かな…?」
聞き慣れない声が聞こえた。
「誰だ?!」
「あ〜、悪いね…。僕は旅の者さ。
ここら辺に村があるって聞いたけど…まさかここ?」
明らかに、軽そうな青年だった。
髪を長く垂らし、顔は整っていた。
服装は、まさに旅人と言ったところだった。
「そうですけど…魔物に…」
リーネが顔を手で覆う。
「ああ〜そうみたいだねぇ…。
僕もさ、魔物に村をやられて出てきたんだよねぇ…。」
「な、なんだって?!」
クラウスは驚きを隠せなかった。
魔物がここだけではなく、他の村にも…。
これは一大事だった。
「魔物の被害は、どこまでいっているんだ…?!」
「そうだねぇ…。小さい村はもうどこも駄目なんじゃないかな?
大きい町は大丈夫そうだ。」
「そうか…。」
クラウスは顔を暗くする。
「君達も、行くとこないなら一緒に来ない?
君…強そうだし、女の子の方は、弓を使えるようだね。」
それぞれの武器と顔を指差しながら、青年は言う。
「…名は?」
「ゼアだ。」
「俺の名はクラウス。
こっちがリーネだ。
よろしく頼むぞ。」
「おお、一人じゃ心細くてねぇ。
助かるよ。
一応、僕も剣には自信があるんだ。
魔物が現れても、僕が倒すよ。」
「ああ、お手並み拝見…といこうか。」
「あ、あのリーネです!よろしくお願いします!」
緊張気味に、リーネはゼアに言った。
「うん。よろしく。」
にっこりしながら、ゼアは言った。
「行く当てはあるのか?」
「そうだね。行くとしたら、やはり王都だね…。
王にこの事を知らせよう。」
それを聞いたクラウスは顔を引きつらせる。
「…王に?あの腐った奴に何を言っても無駄では?」
「ありゃりゃ。仮にも俺たちの王だよ?
そんなこと言っていいの?」
半分笑ったように、ゼアは言う。
「奴は…村になど見向きもせず、ただ、自分の野望だけに生きている男だ。
慈悲したところで何をすると言うんだ…!!」
クラウスは自分の中に貯まったものを吐き出した。
「じゃあ、クラウス君。
他に手はあるのかい?」
ゼアはにんまりしながら言う。
「それは…。」
クラウスは返事に戸惑った。
「クラウス!ここはゼアさんに従ったほうがいいよ!」
「…仕方がないな…」
クラウスは負けを認める。
「王都は遥か東…。
しかも、船じゃないといけない。
僕ら貧乏人には夢のような話だけど…神様が何とかしてくれるさ。」
ゼアはやはり笑いながら言う。
「神頼みは好きじゃないがな…。
今回ばっかりは、そうも言ってられないか。」
暗かったクラウスの表情が、晴れた。
「うんうん!その意気その意気!」
リーネはクラウスを励ます。
「では、行こうか。
まずは、フィーレの町までだ。
それまでは、魔物に会う可能性も高いだろう。
準備はいいね?」
「当たり前だ。」
「うん!よし行こう!」
クラウスとリーネが同時に言った。
こうして、運命の糸に導かれし者は旅立ったのだ…。
〜第三話 ゼアの秘密〜
フィーレの町まで行くのに、山を越えなくてはならなかった。
「さすがだね。クラウス君。
僕なんかよりもかなり強いねぇ。」
にこにこしながら、魔物をレイピアで刺していくゼア。
クラウスは驚愕していた。
まさか、あの軽い男がここまで剣を使えるなんて…。
クラウスも初めて見る、レイピアという剣…。
刺す事を重視した、細身の剣。
それを、舞うかの如く操るゼア。
リーネはただ、唖然とし立ち止まるしかなかった。
「よし。ここの敵は一掃したようだね。
お疲れ様。」
ゼアは、剣についた血を拭いながら、やはりにこにこして言う。
「て言うか…ほとんど、ゼアが倒している…。
それはこっちの台詞だ。」
クラウスは少し不貞腐れているようだ。
「すごいんですね…ゼアさんって…。」
リーネは驚きの色を隠せない。
「なぁに。少し、訓練は受けたからね…。」
ゼアはやはり微笑んでいたが、眼には悲しみの色が浮かぶ。
クラウスは少し疑問に思ったが、あえて、口にはしなかった。
「山頂までまだ距離がある…。
日も暮れてきたし…頂上までいけるか…。」
「野宿しかないだろう。
だが、魔物は容赦なく襲うであろうがな。」
「大丈夫。魔よけのお香を持って来ている。
魔物全般に関して言えることだが、どうやら、浄毒草を煎じた匂いが苦手らしい。」
そのお香らしきものを袋から取り出した。
「すごーい!よく判りましたね!」
リーネは尊敬の眼差しを見せる。
「…どうして判ったんだ?」
クラウスは鋭い眼で、ゼアを見据える。
「魔物に攻撃されて、毒を受けたとき、浄毒草を煎じて飲もうとしたんだ。
そしたら、煎じている間魔物が寄りつかなくて…まさかと思ったわけだよ。」
「…そうか。」
「では、登ろうか。
なるべく山頂近くまでは行きたい。」
三人は歩き出す。
だが、クラウスは、ゼアへの疑問を考えてばかりいた。
「疲れたぁ…。私もう駄目…。」
リーネが尻餅をつく。
「ゼア…。ここらへんでいいんじゃないか?」
クラウスはリーネの体力を考慮し、提案する。
「そうだね。レディの体のことは配慮しないとね…。」
キラキラ光る眼をリーネに向けながらゼアは言う。
「…ありがとうございます…」
リーネはゼアにうっとりしながら言う。
「ねぇねぇ、クラウス!私のことレディだって!」
クラウスの肩を持ち、揺らしながらリーネは言う。
「はいはい。ようござんしたね。」
半分呆れながら、半分不貞腐れながらクラウスは言う。
「なぁに?やきもちやいてるのぉ?」
リーネがにんまりしながら言う。
「な?!んなわけねぇだろ…。」
多少、顔を赤らめながらクラウスは言う。
「へぇぇ。純情少年だね。クラウス君?」
ゼアもにんまりしながら、クラウスをおちょくる。
「くっ…。」
クラウスは思った。ああ〜ここには敵しかいないのだと。
とりあえず、近くの寝れるような場所を探し、暖をとった三人。
リーネはよほど疲れていたのか、すぐに眠りに入る。
「なぁ…。」
クラウスはゼアに言う。
「なんだい?クラウス君。」
お香を周りに置きながら、ゼアは応答した。
「お前…何か隠してないか?」
クラウスはおもむろに聞く。
「…君には負けるね…。さすがの洞察力…といったところか。」
ゼアにはいつもの微笑ではない、特別な笑みを浮かべる。
「ふん…。観察していれば、誰にでもわかる。」
「悪いけど…まだ教えるわけにはいかないよ。」
ゼアは表情を崩さず、静かに言う。
「だろうな…。だが、お前は普通の人間ではない。それだけはわかっているつもりだ。」
「そうだね…。きっと君にもわかる日が来るさ…。」
「ふん…。」
クラウスはどこか、ゼアに嫉妬している自分が嫌だった。
なぜかは判らないが、ゼアは自分の足元にも及ばない人間だとクラウスは感じていた。
「ところで、リーネちゃんとはどういう関係?」
ゼアは途端にいつもの笑みに戻る。
「あのな…。別に、どんな関係でもない…。
ただの…幼馴染さ…。」
少し、クラウスの表情が曇る。
「それだけ…かい?」
「…。」
「まぁいいや。いずれ、それも判る日が来ることを楽しみにしているよ。」
「ふん…。勝手にしろ…。」
ゼアの前では、必要以上に気が立ってしまう。
そんな自分が嫌で嫌で仕方がなかった。
こうして…旅立ってから初めて夜を迎えた…。
〜第四話 ツッコミ上手(?)なクラウス〜
小鳥の囀る声が聞こえる。
「ん…。朝か…。」
クラウスは周りを見る。
リーネはもう目を覚まし、薪を拾いに行っていた様だ。
「おはよー。クラウス」
リーネはクラウスに、にっこり笑いかける。
「ああ…お早う。ゼアはまだ寝てる?」
「うん…。ぐっすりね。」
クラウスとリーネはゼアの顔を覗き込む。
その顔はまさに熟睡だった。
「リーネ。水。」
「はーい。」
クラウスはリーネに水を持ってくるように指示した。
「持ってきたけど…どうするの?」
「んなの決まってるだろ。」
クラウスはそういいながら、水が入った容器のキャップを外す。
そして、ゼアの顔の真上に翳し、容器を90度回転させた。
「うわわわわわわ!!」
見事にゼアの顔に水がかかる。
クラウスはにやりと歯を見せる。
「な、なにしてんの?!」
リーネは驚愕の顔をしていると思いきや、笑いを堪えていた。
「クラウス君…。僕は朝に弱いんだよ…。
もう少し寝かせてくれ…。」
といいながら、ゼアはまた夢の世界へ入っていく。
「…ど根性なのか、鈍感なのか判らん…。」
クラウスは呆れ顔だ。
一時間後…。
「おはよう!君達!
今日も頑張ろうか!」
ゼアはさわやかな笑顔を見せる。
「…さっきまでダウンしていた男が…」
クラウスはお香が切れて、魔物がどんどん押し寄せてくるのを、一時間も耐えていた。
「あんな近距離じゃ…私の弓も役に立たないし…」
リーネはクラウスの陰に隠れるしかなかったことが悔しかった。
「あぁ〜悪かったね2人とも…。
僕はめっぽう朝に弱いんだ…。」
まだ、眠そうなゼアの顔に、責任と言う名の錘が圧し掛かる。
「今回は許す。怪我人は誰も出なかったのは、不幸中の幸いだ。」
クラウスはそう言うも、今にも倒れそうだ。
「次から気をつけてください。」
クラウスの様子を気遣いながら、リーネも言う。
「ああ。今回は許してくれ。
次からは必ず、君たちを守ろう。」
ゼアは本気で深く反省しているようだ。
「…許すといっている。
反省するのはいいが、支度を早くしろ…。」
「忝い…。」
そういって、ゼアは支度を始める。
「ねぇ…。クラウスってゼアさんと話すとき口調変じゃない?」
意表をつかれて、クラウスは内心ビクっとする。
「…それは俺も否定はできないんだ…。
何故なんだろうな…。」
幼馴染に痛いところをつかれ、顔が暗くなる。
「クラウス…。
あなたは強い…。
だから、負けないで。」
リーネは真剣な眼差しでクラウスに言う。
「ゼア…よりもなのか…?」
クラウスは不意に思ったことを言う。
リーネも何も言えなかった。
「さぁて、こっちは準備OKだ。
今日中には、フィーレの町に着くと思うよ。」
ゼアはさっきの暗い顔はどこへやら、にっこりしながら言う。
「ああ…じゃあ…行くかぁ…。」
クラウスは完全に呆れ顔で、やる気がひとつも感じられない言葉を吐く。
「はいはい。元気出して、行ってみよ〜!」
いつも通りの元気なリーネの姿を見て、クラウスはさらに呆れ顔になる。
だが、どこかほっとしたクラウスであった。
「はっ!」
クラウスの声が響く。
「くっ…さすがに町近くになると、敵も手強いな…。」
あのゼアの顔が、少し歪んでいる。
「ゼアさん、なんで魔物が強くなってるの…?」
ゼアは魔物を払いながら、リーネの問いに答える。
「魔物が出現しているポイントを知っているか…?」
そういっている間に、一匹の鳥形の魔物を屠る。
「それって…!!まさか、王都からとか!?」
リーネは驚きながらも、一匹の獣型の魔物に一閃入れる。
「アハハ。そうだったら、王都は壊滅してるよ…。」
笑いながら舞い、また一匹魔物を屠るゼア。
しかし、最後の言葉になると、表情は沈んで見えた。
「出現ポイントは、どうやら、王都のさらに東にある、
帝国エヴァーノの近辺。
だと言うのに、エヴァーノはまだ健在らしい…。」
ゼアは、考え込む仕草を見せるが、その間に三匹の魔物を屠った。
「臭いな…。」
「え?僕はしてないけど…。
まさか、リーネちゃん?」
ここぞとばかりに、ゼアは一番のにんまり顔を見せる。
魔物をある程度屠った後、クラウスはゼアに向かって走り出す。
「ちょ、ちょっとクラウス君?!じょ、じょうだ…」
次の瞬間、クラウスの拳がゼアの頬にめり込む。
「ぐ、は・・・。」
7mほど、ゼアは飛んだ。
リーネはあえて何も言わなかった。
リーネの頬は赤く、膨れていた。
と同時に、ゼアの頬も赤く、腫れていた。
「覚えておくといい。
俺の前でふざけた事は言うな。」
クラウスは、クールを装っていたが、口元が引き攣っていた。
「たまには、ギャグもいいじゃないか…。
シリアスばかりだと、身が持たないだろう?」
頬をさすりながら立ち上がり、近づいてきた魔物をレイピアで一掃する。
「俺はお前のようにやわじゃない。」
そう言いながら、クラウスは周りの敵を回転切りで殲滅する。
リーネは一応、弓でゼアを援助する。
「はいはい。もういいですから、町に向かいましょう。」
「そろそろ坂になってきた…。
一気に駆け抜けよう!」
ゼアの合図と共に、三人は坂を駆ける。
「あれが…フィーレの町…。」
クラウスの目の前に広がるのは、クラウスとリーネはまだ見たこともない大きな大きな町だった…。
〜第五話 フィーレの町〜
「人が…たくさんいるな…。
俺はこういうのは苦手だ…。」
人々は忙しそうに、あっちへこっちへ…。
「今は、魔物が出たという話題が持ちきりだろう…。
武器屋と防具屋は大繁盛だろうがね…。」
「武器屋とか防具屋なんてあるんですね…!
すごいなぁ…」
リーネはキラキラ目を光らせながら言う。
「なら、俺は武器屋に行ってみよう。
この武器じゃ、これからの戦いでやっていけないからな。
ゼアはどうするんだ?」
クラウスは一回、自分の木製でできたボロボロの剣を見て、
そして、ゼアを見て言った。
「僕は少し用事があるから、いろいろ見て回るといい。
この広場で落ち合おう。
君たちはお金がないだろう?これをもって行くがいい。」
そう言って、ゼアは何かが入った袋を渡す。
「…金か?」
「そう。僕は用心棒もしてたから、お金は一応持ってるんだ。船に乗るほどのお金はないけどね。」
「…そうか。受け取っておく。」
そう言ってクラウスは、差し出された金を受け取った。
「リーネ行くぞ。」
「うん。ありがとう、ゼアさん。」
にっこり笑ってリーネはゼアに言う。
「うん。じゃぁね。リーネちゃん。」
ゼアもやはりにっこりしてリーネに言う。
ゼアと別れ、クラウスとリーネは武器屋に向かう。
「いらっしゃいませ〜」
気前のよさそうな、中年のおじさんが迎えてくれた。
「剣を見せてくれないか?」
「はいはい。どんな剣をご要望で?」
にっこりしながら、店主は言う。
「剣に種類があるのか?」
「はい。もちろんですとも。
片手剣に両手剣、あと、双剣もありますよ。」
「双剣…?」
クラウスは初めて聞く名前だった。
その名前から連想するのは、二つの刀…。
つまり二刀流だった。
「はい。その名の通り二つの剣。
片方の剣で受け流し、もう片方の剣で斬るというのが一般的な戦い方ですよ。」
にこにこしながら、店主が教えてくれた。
「そうか…。では、その双剣を見せてくれ。」
「はい。ただいま持ってきますね。」
そう言って店主は、奥の扉にを開け、部屋に入っていった。
「双剣…。そんな剣もあるんだね…。」
初めての武器屋にきょろきょろしながら言うリーネ。
「両手剣は重くて使い物にならないだろうからな…。」
そう言っていたら、店主が数種類の双剣を持って奥から出てきた。
「はい。当店では、四種類の双剣を扱っております。
ひとつは、ツインソード。
リーチは短いですが、軽くて使いやすく、値段も手ごろです。
これが、ファルシアム。
ファルシオンという片手剣を基調とした双剣です。
値段、性能は普通です。
これは、双龍剣。
竜の姿が描かれている双剣です。
他の双剣よりも、少し性能がいい代わりに値段が高いです。
そして、一番性能が高く、値段も高いのが、この
ヴォルノ・エッジです。
光の速さで敵を切りつけ、炎で殲滅させる、火属性の剣です。
さてどうしま…?」
そう、言い終わらないうちに、クラウスはひとつの双剣を手に取る。
「ヴォルノ・エッジをいただこうか。」
店主もリーネも目を丸くする。
「ちょ、ちょっとクラウス!?
これはゼアさんのお金なのよ?
ちょっとは遠慮しないと…。」
恐る恐る、リーネは言う。
しかし、
「いや、こんな大金を渡した奴が悪い。」
クラウスは言い放つ。
リーネは思う。
そうだ…クラウスはそういう人だったんだと。
クラウスは何をするにも遠慮を知らず、村の人達から正直な男と言われていたのだった…。
(ゼアさん…。どう思うであろうか…。)
リーネは心の中でゼアに謝った。
「お、お買い上げ、ありがとうございます…。」
店主はまだ驚きの色を見せていた。
「リーネも何か、矢を買うがいい。」
クラウスは剣をまじまじと見ながらリーネに言う。
「あの…一番安いの…お願いします…。」
なぜか、リーネは罪悪感を覚えていた。
「まさか…お前が私に頼みを乞うとは思ってもみなかったな…。」
冷静な女の声が聞こえる。
「魔物が現れた今…、王都はいずれ滅びる。
その時は、混沌の魔石を持つ者を守ってくれ…。」
ゼアはいつもの微笑みは消え、真剣な表情で女に頼みこむ。
「ついに…動いたのか…。」
「魔物は魔石目掛けて飛んでくるだろう…。
彼は…負ける…。」
「その代わり、王都は戴く。
魔物が来る前にな…。」
「ああ、手配しておこう。」
「しかし…いいのか?」
「誰もあんな王など…望んではいない…。
僕が決着をつける…。」
「…では、私はこれで。
約束は必ず守る。」
「ああ、頼んだ。」
二人は立ち上がり、酒場を出る。
ゼアの表情は、終始、沈んでいた…。