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カクメイ部 〜字園奉仕メイド部〜  作者: 翡翠
第一揆 風紀は咲き乱れた
4/13

ようこそ学園奉仕メイド部へ(3)

「理想とは虚像。現実とは絶望。真実は残酷で世界に光などない」


「焔、青葉君どうしちゃったの」


「脱走の企てを阻止されたことが余程応えたのではないでしょうか」


「やるとは思ってたけど、それだけでここまで落ち込むかしら?」


「来世は花になりたい…」


「ちょっと〜これじゃ話が進められないじゃない。ほら、青葉君目を覚まして」


 ぼくは起きているじゃないか。意識もはっきりしている。チェスの駒が赤く染まることぐらい、オセアニアじゃ常識だ。


「まぁこれはこれで使えるわね。焔、正気に戻る前に青葉君にうちの入部届を書かせて」


「承知しました」


 メイドさん達は綺麗だなぁ。特にあの青い髪のメイドさん、とても男だとは思えないなぁ。男だとは思えないなぁ。男だとは。男…男…


「うわぁぁぁぁぁ!」


 一気に現実世界に引き戻される。ここは学園奉仕メイド部の部室。目の前には九条アリス、俺の背後には聖焔。俺は今危機的状況の最中。


「っっ!びっくりした〜。いきなり大声出さないでよ」


 アリスが耳を押さえながら顔をしかめた。


「ま、いいわ。正気に戻ったところで、散々引き伸ばした本題に入りましょ」


 先程までの冗談めいた様子から、あの支配的な表情へと切り替わった。


「改めて言うわね青葉君。この学園奉仕メイド部に入りなさい!」


「…拒否権は?」


「あると思っているのかしら?」


 アリスはスマホを操作し、その画面をこちらに向けた。

 そこに映っていたのは――焔の着替えを覗いているように見える俺の姿だった。

 全く何なんだよ。俺はただこの学園奉仕メイド部の調査に来ただけなのに、覗き魔に仕立て上げられるわ、それをネタに入部を迫られるわ、俺の理想のメイドがいるかと思えばそいつは男だとか――。

 ……いや、待てよ。


「……問題ない」


 思わず小声で呟いた。

 俺に絡まっていた糸が一本、音を立てて切れる。


「……問題ないじゃないか」


 俺は顔を上げ、アリスに視線をぶつけた。


「男が男の着替えを見たって!」


 自分でもビックリするような大声でそう叫ぶ。


「あら、気づいてたの。焔が男だって」


 アリスは少し驚いた表情で俺を見る。

 しかし、次の瞬間にはまた支配者の顔になっていた。


「……確かにね」


 アリスは小さく肩をすくめた。


「男が男の着替えを見たところで罪にはならないわ、()()()()


 依然余裕綽々といった面持ちでこちらを見る。


「青葉君、この学園の校則は覚えてる?」


「あぁ、立場上覚えなければならないんでね」


「その中の一つに【不純異性交遊の禁止】があることも知っているかしら」


「もちろん知っている」


「それはそうよね。この学園でその校則を知らない人間はいないわ」


 ため息混じりにアリスは話す。


「その校則が問題なのよ」


「覗きの件とどう関わりがあるんだ?」


「禁止されているのは不純異性交遊。でもね、不純同性交遊は禁止されていないのよ」


「…ん?」


「そんな学園で、焔がどうなったか。そう、争奪戦よ」


「…へ?」


「青葉君は外部生だから知らないかもしれないけど、かつてこの学園では焔を奪い合うために幾度となく闘争が繰り返されてきたわ。その熱は、あの生徒会長でも手を焼く程のものだったの」


「…は?」


「焔がその闘争に参加した馬鹿共を全てフったことで、ようやく争いは治ったけど…。その後、【聖焔に邪な気持ちで近寄るべからず】という条約が馬鹿共の間で締結されたわ。今では"篝火"なんていう学園非公認組織が焔に近寄る男がいないか監視しているらしいけど」


 思い出すのも嫌といった様子でアリスは語った。


「だから今回問題なのは、()を覗いたことなの」


 先程まで存在していなかった説得力が俺を支配する。


「この写真があいつらに流れたら青葉君がどうなるのか、私にも想像がつかないわ…」


 一筋の嫌な汗が背中を伝った。

 アリスはスマホを伏せて俺に向き直る。

 そして、あの嫌な笑顔でこう言った。


「これが最後通告よ。学園奉仕メイド部に入りなさい」

 


***



 地球の重力とは強いもので、特にここ生徒会室の重力といったら、床に押し付けられた俺の頭が上がらないほどに強力だった。


「なぜお前は頭を下げている」


 是乃会長は氷点下の声音(こわね)で俺に問いかける。


 覗き(やっていない)を隠し撮りされた挙句、それをネタに脅された、なんて言えるはずもなかった。

 俺は、学園奉仕メイド部の実態をより正確に把握するために入部した、と虚偽の報告をする羽目になった。

 しかし是乃会長を目の前にしたとき、後ろめたさと罪悪感から自分でも気付かぬうちに土下座していた。


「あ、いえこれは是乃会長への尊敬の念を表しているだけなのでお気になさらず」


「…まあいい。後で今回の調査報告書を出しておいてくれ」


「仰せのままに」

 


***



 俺は長い時間学園から支給されたパソコンと向かい合っていた。今回の件をどうまとめれば良いのか困っていたのだ。

  分かったことといえば、部員構成が九条家の娘・九条アリスと、その専属メイドである聖焔の二名だということだけだ。

 活動目的も、部室の扉に掲げられた「字園奉仕メイド部」というプレートの真意も、九条アリスが口にした「カクメイ部」という言葉の意味も、何一つとして掴めていない。


「俺の学園生活…どうなるのかな…」


その答えを知るものは誰もいない。



***



学園奉仕メイド部調査報告書 【抜粋】


 学園奉仕メイド部は、九条立九条学園高等部に所属する非公認部活動である。

 現時点で確認できた部員は二名。

 一名は九条家本家の娘、九条アリス。

 もう一名は九条アリス専属のメイドであり、生徒でもある聖焔。

 活動内容については「学園奉仕」を掲げているものの、具体的な奉仕対象・頻度・実績については未だ不明。

 青葉紅葉の潜入調査が実をを結ぶことに期待する。

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