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回復魔法が使えないと追放された聖女、実は拳で『物理回復』できる最強武闘家でした  作者: 無響室の告白


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第7話 森の病巣と、闇に潜む視線

「ふぅ、これでこの一帯の患者さんたちは、みなさん安らかな眠りにつきましたね」


月明かりが差し込む黒の森で、エレナは満足げに額の汗を拭った。


彼女の足元には、先ほどまで凶暴性を剥き出しにしていたベノムウルフたちが、幸せそうに――いや、白目を剥いてピクリとも動かずに折り重なっている。


「……エレナ、お前な。これどう見ても死屍累々だぞ。安らかな眠りっていうか、強制終了シャットダウンだろ」


リックは引きつった顔でツッコミを入れるが、彼の背筋には冷たい汗が伝っていた。


エレナの放った『遠隔指圧ソニック・プレス』は、狼たちの群れを一瞬で沈黙させた。


殺してはいない。


だが、骨格レベルで矯正された狼たちは、当分の間、悪さをしようという気概すら起こせないだろう。


「あら、リックさん。彼らは毒素ストレスが溜まりすぎて暴れていたんです。


こうして強制的にリラックス状態(気絶)にすることで、自律神経を整えたんですよ」


「お前のリラックスの定義、辞書で引き直してこい!」


二人はさらに森の奥へと進む。


進むにつれて、周囲の空気は粘度を増し、肌にまとわりつくような不快感が生じてきた。


ただの瘴気ではない。


何者かが意図的に汚染を広げているような、悪意ある気配だ。


「……おい、様子がおかしいぞ。自然発生した瘴気じゃねぇ。何かが、森の魔力を無理やりねじ曲げてやがる」


盗賊としての勘が、リックに警鐘を鳴らしていた。


やがて二人がたどり着いたのは、森が開けた広場のような場所だった。


そこには、異様な光景が広がっていた。


地面から突き出すように、黒曜石のような禍々しい結晶柱が屹立していたのだ。


その結晶はドクドクと脈打つように明滅し、周囲に濃密な瘴気を撒き散らしている。


「なんだありゃ……!? 『呪いのくさび』か!? こんなもん、誰が……」


リックが警戒して短剣を構える。


明らかに、これは自然物ではない。


人為的に設置された、魔物を狂暴化させる装置だ。


敵対勢力の影が、明確にそこに在った。


しかし、エレナの反応は違った。


彼女は眉をひそめ、心底かわいそうにといった表情でその結晶柱に歩み寄る。


「酷い……。こんなにガチガチに凝り固まって……。これじゃあ、大地の血流が悪くなるのも当然です!」


「は? エレナ、待て、それは罠かもしれん――」


「大地さん、今すぐ楽にしてあげますからねっ! 必殺・『物理鍼治療パイル・ドライバー』!!」


言うが早いか、エレナは高く跳躍した。


彼女は両手を組み、全体重と筋力を一点に集中させ、その不吉な結晶の頂点へと脳天唐竹割りのように拳を叩き込む。


ズドォォォォォンッ!!


森全体が揺れるほどの轟音。


呪いの楔は、魔術的な防壁を展開する暇もなく、物理的な衝撃によって粉々に粉砕された。


「……あ、あぁ……俺たちの調査対象が……粉々に……」


リックが頭を抱える中、砕け散った結晶から溢れ出ていた瘴気は霧散し、森の空気が急速に澄んでいく。


「ふふっ、頑固な凝り(呪い)でしたけど、砕けば治りますね!」


爽やかな笑顔で振り返るエレナ。


だが、二人は気づいていなかった。


その様子を、遠く離れた大樹の枝の上から、冷ややかな視線が見つめていることに。


「……報告にあった『聖女』とは、これのことか」


闇に溶け込むような黒衣を纏った人物が、低く呟く。


その手には、砕かれた結晶と同じ材質の杖が握られていた。


「我らが設置した『魔力増幅器』を、あのような野蛮な方法で破壊するとは……。


魔法のことわりを無視した、異常な力だ」


黒衣の人物は、興味と警戒が入り混じった目でエレナを見下ろす。


「計画の修正が必要だな。……勇者アレクサンダーよりも、厄介な存在になるかもしれん」


風が吹くと同時に、その姿は幻のように掻き消えた。


マッスルヘイムの平和な日常の裏で、世界を蝕む陰謀が、確実にエレナへと狙いを定め始めていた。



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【登場人物】

- 黒衣の人物: 謎の監視者(敵対勢力)


【場所】

- 黒の森・深部広場: 瘴気の発生源となっていた場所。開けた空間だが、空気が澱んでいた。


【アイテム・用語】

- 呪いのくさび: 何者かが設置した黒曜石のような結晶柱。周囲に瘴気を撒き散らし、魔物を狂暴化させる機能を持つが、エレナに粉砕された。


- 物理鍼治療パイル・ドライバー: 両手を組んで跳躍し、全体重を乗せて対象を垂直に打ち砕くエレナの新技。頑固な凝り(呪いのオブジェクト)を一撃で破壊する。

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