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回復魔法が使えないと追放された聖女、実は拳で『物理回復』できる最強武闘家でした  作者: 無響室の告白


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第6話 第6話:遠隔施術(ソニック・プレス)と集団治療

マッスルヘイムの北に広がる黒の森。


そこは常人であれば呼吸をするだけで肺が焼けるような、濃密な瘴気に包まれた危険地帯である。


だが、この場に踏み入った元聖女、エレナ・サンフォースの認識は少し違っていた。


「あら、まあ……。なんて換気の悪い森なんでしょう。空気が澱んでいるせいで、木々もお肌が荒れていますね」


「いや、お肌とかそういう問題じゃねぇよエレナ。これは瘴気だ。毒ガスみたいなもんだぞ」


口元を布で覆った盗賊のリックが、涙目でツッコミを入れる。


冒険者ギルドからの依頼は、この森の異変調査と解決。


つまり、エレナにとっては『往診』である。


「困りましたね。これほど環境が悪いと、集団感染パンデミックのリスクが高まります。……おや?」


エレナが足を止め、慈愛に満ちた瞳を茂みへ向ける。


ガサガサという音と共に現れたのは、全身から紫色の毒煙を噴き出す狼の群れ――『ベノムウルフ』だった。


その目は赤く充血し、理性を失って凶暴化している。


「グルルルゥッ……!!」


「ひっ、出たなベノムウルフ! しかも群れだ! エレナ、こいつらは毒を持ってる、近づくのは危険だ!」


リックが短剣を構えて警告する。


しかし、エレナはパァッと顔を輝かせ、白衣(という名の戦闘服)の袖をまくり上げた。


「大変! みなさん、顔色が真っ青(紫)じゃないですか! 重度の血行障害ですね。


今すぐ治療して差し上げないと!」


「いや、あれは生まれつきそういう色……って、聞いてねぇ!」


エレナは地面を蹴り、狼の群れへと突貫する。


だが、敵は十数匹の集団だ。


先頭の一匹に拳を叩き込もうとした瞬間、左右から別の狼が牙を剥いて飛びかかってくる。


「おっと」


エレナは半身をひねって回避するが、数が多い。


一匹ずつ『物理回復』をしていては、その間に他の『患者』が悪化(攻撃)してしまう。


「むむ……。一人ひとり手厚く施術したいのは山々ですが、これでは間に合いません。緊急医療トリアージの概念が必要ですね」


彼女は一旦バックステップで距離を取ると、ミスリル製のナックル『聖女の鉄拳』を強く握りしめた。


思考する。


拳が届かないなら、どうすればいいか。


答えは単純。


拳の威力を、届かせればいいのだ。


「みなさん、少し衝撃が強いですが、まとめて血行を良くしますね!」


エレナは深呼吸と共に、体内の筋肉を一斉に収縮させる。


そして、狼たちそのものではなく、彼らの中心にある『空間』に向けて、神速の正拳突きを放った。


「――『遠隔指圧ソニック・プレス』!!」


ドォォォォォォンッ!!


拳が空気を叩いた瞬間、大砲を撃ったような爆音が森に轟いた。


圧縮された空気の塊が衝撃波となって拡散し、群がっていたベノムウルフたちをまとめて吹き飛ばす。


「ギャインッ!?」


衝撃波は狼たちの体を通り抜け、骨格を強制的に矯正し、血管内の淀みを無理やり押し流す。


十数匹の狼は木の幹や地面に叩きつけられ、白目を剥いてピクリとも動かなくなった。


「ふぅ。これで一安心ですね。衝撃で森の澱んだ空気(瘴気)も吹き飛びましたし、一石二鳥です」


エレナが汗を拭うと、確かに周囲の霧が晴れ、清浄な空気が流れ込んでいた。


その光景を呆然と見ていたリックは、ポカーンと口を開けたまま、乾いた笑い声を漏らす。


「……指圧って、離れた場所から衝撃波でやるもんだったっけ……?」


「ええ。熟練の施術師は、気合だけで凝りをほぐすと言いますから。これもその応用です」


「絶対違うと思うけど、結果オーライだからもういいや……」


新たな戦術(治療法)を編み出したエレナは、満足げに微笑む。


だが、森の奥からは、さらに強大な気配が漂ってきていた。


「さあリックさん、道が開けました。この森の『病巣』を取り除きに行きましょう!」


意気揚々と進む聖女の背中を見ながら、リックは胃のあたりを押さえてその後を追うのだった。



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【登場人物】

- ベノムウルフ: 患者(敵モンスター)


【アイテム・用語】

- 遠隔指圧ソニック・プレス: 拳圧で空気を圧縮し、衝撃波として放つ遠距離攻撃。エレナ曰く、離れた場所の凝りをほぐすための応用技術。

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