表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
回復魔法が使えないと追放された聖女、実は拳で『物理回復』できる最強武闘家でした  作者: 無響室の告白


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/7

第5話: 冒険者ギルドと世界の『診断』

騒然とする市場の大通り。


その中心で、エレナは額に浮かんだ汗を優雅に拭った。


「ふぅ。少し運動不足でしたでしょうか。関節の動きが硬かったですね」


瓦礫の山と化した廃屋の側には、白目を剥いてピクリとも動かない巨大なオーガが転がっている。


その光景を目の当たりにしたマッスルヘイムの住人たちは、恐怖ではなく、純粋な畏敬の念を抱いて震えていた。


「すげぇ……あんなデカブツを素手で……」


「あの姉ちゃん、何者だ? 聖女の服を着たバーサーカーか?」


ひそひそと囁かれる称賛(誤解)の声に、エレナは嬉しそうに微笑み、リックの方を振り返る。


「リックさん、見てください。皆さん、健康への関心がとても高いようです! 私の施術に興味津々ですね」


「……いや、あれは絶対に関心じゃなくてドン引きしてるだけだと思うぞ。あと施術じゃなくて『制圧』な」


リックは深い溜息をつきながら、頭を抱えた。


しかし、事態は収束した。


このまま路上で立ち話をしていても仕方がない。


「とりあえず、ここを離れるぞ。ギルドへ報告に行かないと、お前も報酬がもらえないからな」


「はい! 開業資金は大切ですからね!」


二人は熱狂する群衆をかき分け、都市の中心部にある『冒険者ギルド・マッスルヘイム支部』へと向かった。


辿り着いたギルドの建物は、エレナの想像するような洗練された場所ではなかった。


石と鉄で組まれた武骨な要塞のような外観。


扉を開けると、鼻をつくような汗と鉄錆、そして安酒の匂いが充満している。


「うわぁ……男臭ぇ……」


リックが顔をしかめる横で、エレナは目を輝かせた。


「あら、活気がありますね! 皆さん、筋肉の仕上がりも素晴らしいです」


エレナが足を踏み入れると、騒がしかったギルド内が一瞬で静まり返った。


市場での噂は既に広まっているらしい。


荒くれ者の冒険者たちが、道を空けるように左右に退く。


その最奥、一段高いカウンターの奥から、巨岩のような男が姿を現した。


「お前が、例の『拳で治す』聖女か」


低く響く声。


顔の左半分に大きな古傷を持つその男は、この支部のギルドマスター、ガロンだった。


彼は鋭い眼光でエレナを見定める。


「は、はい! エレナ・サンフォースと申します。現在はフリーの『物理治療家』をしております!」


エレナはスカートの裾を摘み、優雅にカーテシーを行う。


ガロンは数秒沈黙した後、口の端をニヤリと歪めた。


「面白い。オーガを単独で沈めた手腕、しかと報告は受けている。だが嬢ちゃん、状況はもっと深刻だぞ」


ガロンはカウンターの上に一枚の地図を広げた。


指し示されたのは、マッスルヘイムの北に広がる広大な森林地帯だ。


「最近、北の『黒の森』で魔物の暴走が頻発している。


今日のオーガも、そこから溢れてきた一匹に過ぎん」


「溢れてきた……?」


「ああ。森の奥で『何か』が起きている。


古の封印が解けかけているのか、あるいはもっと凶悪な上位種が目覚めたのか……。


とにかく、森全体が瘴気に覆われつつあるんだ」


リックが息を呑む。


「おいおい、マジかよ。黒の森って言えば、国境防衛の要だろ? そこがヤバいってことは……」


「ああ。この都市も、いずれ飲み込まれるかもしれん」


ギルド全体に重苦しい空気が流れる。


世界の危機、未知なる脅威。


誰もが沈痛な面持ちになる中、エレナだけが真剣な顔で地図を覗き込み、そして顔を上げた。


「大変です……!」


「ああ、そうだろ? だから俺たちは戦力を――」


「これは、大規模な『集団感染パンデミック』の予兆ですね!」


「……は?」


ガロンの目が点になる。


「森全体が悪い気に覆われているということは、生態系の『気』の流れが滞っている証拠。


つまり、森そのものが深刻な『凝り』と『血行不良』を起こしているのです!」


エレナはミスリルナックル『聖女の鉄拳』を胸の前で握り締め、決意に満ちた瞳で宣言した。


「放置すれば、症状は都市にも伝染します。私が現地へ向かい、森のツボを直接刺激して、根本治療(物理)しなければなりません!」


「……おい、リック。こいつは何を言ってるんだ?」


「気にしないでくださいマスター。こいつの中では『世界を救う』のと『マッサージ』が同義なんです」


リックは諦めの境地で首を振った。


「とにかく、嬢ちゃんの腕は確かだ。その『治療』とやらで森の異変を解決できるなら、ギルドとして正式に依頼を出そう。


……頼めるか?」


「お任せください! どのような頑固な症状も、私の拳でほぐしてみせます!」


こうして、エレナの活動範囲は都市を越え、未知なる脅威が潜む『黒の森』へと広がることになった。


彼女にとっては、ただの『往診』に過ぎないのだが。



-------------------------------------------------------------------------------------


【登場人物】

- ガロン: マッスルヘイム支部のギルドマスター。顔に傷を持つ巨漢で、実力主義者。


【場所】

- 冒険者ギルド・マッスルヘイム支部: 汗と鉄の匂いが漂う、武骨な石造りの建物。荒くれ者たちのたまり場。


- 黒の森: 都市の北に広がる広大な森林地帯。瘴気に覆われ、強力な魔物が生息する危険地帯。


【アイテム・用語】

- 集団感染パンデミック: エレナ語録。魔物の大量発生や瘴気の拡散を、彼女は「病気の流行」として認識している。


- 往診: エレナ語録。危険地帯への遠征任務のこと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ