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回復魔法が使えないと追放された聖女、実は拳で『物理回復』できる最強武闘家でした  作者: 無響室の告白


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第1話 追放された聖女は、拳を握りしめる

「おいエレナ! 回復魔法も使えない聖女なんて、ただの飯食い虫だ。この勇者パーティから出て行け!」


王都の大聖堂前に、勇者アレクサンダーの怒号が響き渡った。


その言葉に向けられたのは、純白の聖衣に身を包んだ一人の少女、エレナ・サンフォースである。


彼女はおっとりとした顔で小首を傾げ、アレクサンダーの指差す先を見つめた。


「あら……つまり、クビということでしょうか?」


「当たり前だ! ステータスの『回復魔力』がゼロの聖女など前代未聞だ! 我々は魔王討伐に向かうんだぞ。


貴様のような役立たずを連れて行けるか!」


アレクサンダーは鼻を鳴らし、背を向ける。


彼の隣にいる魔導師や戦士たちも、憐れみと軽蔑の混じった視線をエレナに向けていた。


だが、エレナは悲嘆に暮れることはなかった。


むしろ、その慈愛に満ちた瞳の奥で、何かが静かに『納得』していたのだ。


(なるほど……やはり、私の『治癒』は繊細な勇者様たちには刺激が強すぎたのですね)


彼女は深く一礼すると、誰にも引き止められることなくその場を去った。


それから数週間後。


エレナがたどり着いたのは、魔物との最前線に位置する辺境都市マッスルヘイムだった。


常に死と隣り合わせのこの街では、形式ばった魔法よりも実力が全ての「力」


が支配していた。


「はぁ、はぁ……くそっ、ここまでか……」


街外れの路地裏に、一人の男が倒れ込んだ。


彼の名はリック。


この街を拠点とする盗賊シーフだ。


ダンジョン探索中に魔物の群れに襲われ、脇腹を鋭い爪で抉られていた。


出血が酷い。


意識が遠のいていく。


「あら、瀕死の重傷ですね?」


ふと、頭上から鈴を転がすような声が降ってきた。


リックが霞む視線を上げると、そこには場違いなほど神聖な空気をまとったシスターが立っていた。


「た、助けてくれ……ポーションを……いや、治癒魔法を……」


「ええ、お任せください。神に仕える身として、見過ごすわけにはいきません」


エレナは微笑み、懐から何かを取り出した。


リックはそれが聖杖か何かだと思った。


だが、彼女が両手に装着したのは、銀色に輝く無骨な金属塊――『聖女の鉄拳ミスリルナックル』だった。


「……は?」


リックの思考が停止する。


エレナはナックルを打ち合わせ、「カキンッ」


と重い音を鳴らすと、慈母のような笑顔で右の拳を振りかぶった。


「大丈夫、私の拳気で細胞を一気に活性化させますから! ちょっと骨が軋む音がするけど、我慢してくださいねっ!」


「は、はい!? ちょ、待て、それは治癒じゃ――」


「『物理回復フィジカル・ヒール』ッ!!」


ドゴォォォンッ!!


鈍器が肉を打つ音ではない。


岩盤が砕けるような轟音が路地裏に響いた。


エレナの拳は、正確無比にリックの患部――抉られた脇腹へと叩き込まれたのだ。


「ぎゃあああああああああああ!!」


リックの絶叫がこだまする。


激痛。


文字通り、死ぬほどの衝撃が全身を駆け巡った。


だが次の瞬間、奇妙な感覚が彼を襲った。


殴られた箇所から、爆発的な熱量と共に細胞が蠢き、傷口が異常な速度で塞がっていくのを感じたのだ。


「……あ、れ?」


数秒後。


リックは呆然と自分の脇腹を触った。


傷がない。


出血も止まっている。


それどころか、昨日からの肩こりまで解消されていた。


「いかがですか? 少し強めに活性化させておきました」


目の前には、拳から立ち昇る白い湯気(あるいは聖なる光のエフェクト)を払いながら、満足げに微笑むエレナの姿があった。


「やめろ! それは治癒じゃねぇ! ただの暴行だ! ……でも、痛みが消えてる……?」


「ふふっ、また一人、迷える子羊を救ってしまいましたね」


こうして、回復魔法が使えない聖女の、新たな伝説が幕を開けたのである。



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【登場人物】

- エレナ・サンフォース: 主人公 / 追放された聖女 / 物理回復の使い手


- アレクサンダー: 勇者 / エレナを追放した張本人


- リック: 盗賊シーフ / エレナの最初の患者


【場所】

- 王都の大聖堂: 物語冒頭でエレナが追放を宣告された場所。


- 辺境都市マッスルヘイム: 魔物との最前線にある実力主義の都市。物語の主な舞台。


【アイテム・用語】

- 物理回復フィジカル・ヒール: エレナの固有スキル。患部を殴打し細胞を強制活性化させる。


- 聖女の鉄拳ミスリルナックル: エレナが装備する最高純度のミスリル製ナックルダスター。

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