強襲!魔導アーマー
その日、ロイ大佐は数騎の騎士を連れてプラテラの砦建設現場の視察に来ていた。
「兵舎はどのあたりになってるんです?」
ロイ「砦内部の西側だなぁ。」
ロイ大佐と騎士たちは馬から降りてプラテラを見渡せる小高い丘から視察をしていた。
ロイ大佐は、図面と建設現場の柱の位置を見比べて完成図を思い描いていた。
「砦ができれば、その周りに街ができます。」
「プラテラは蘇りますよ!」
「そしたら、いま以上の予算がつくし、税収も上がりますね!」
ロイ「おいおい、領地経営でもする気か?」
言われて若い騎士は恥ずかしそうに頭を掻いた。
「いやぁ、リヴィエール公がよく食堂でその手の話をオルガ少佐達としているもので。」
ロイ「ハハハ、お前も今度、話に参加するといい。面白いアイデアが出てくるかもしれん。」
その時、カウテースから水しぶきとともに黒い塊が国境の河を越えてくるのが見えた。
「!敵襲!」
「なんだアレは!?」
ロイ「単騎だと!?」
その黒い塊から熱線が放たれ、建設現場は木っ端微塵に大爆発した。
「!」
「うわ!」
「なんてこった!カウテースの新兵器だ!」
慌てふためく騎士の中にあってロイ大佐は冷静だった。
ロイ「早馬!アントルイスに知らせろ!」
「は、はい!」
若い騎士が馬で駆けていくと、ロイたちも騎乗し黒い塊に突貫していった。
アレッシー「ほんとに大丈夫なのか?あの一機だけだぞ?魔女ディーネ。」
馬に乗り双眼鏡で戦況を見ながらアレッシーは傍らに騎乗している赤い髪の魔女に質問した。
自分たちは国境の川のカウテース側で待機して見守る。
こんな楽な仕事はないとアレッシーは最初こそ喜んだが頭のイカれた魔女の護衛と言われて落胆した。
ディーネ「ドルガ先輩の一番弟子の私に不可能はない。あれにはリボルディングキャノンを内蔵してる。あれだけでラウトを落としてやるよ。ケケケ。」
赤い長い前髪からギラギラと光る黄色い瞳が前を見据えている。瞳の周りは濃いクマで覆われていた。
アレッシー『何言ってるのかさっぱりわからねぇ、魔女はこれだからなぁ……』「魔導アーマーってのの実戦テスト、ゆっくりここで見守るとするか。」
ロイ「その機械の腹から覗いてる筒に気をつけろ!また撃たれるぞ!」
ロイ大佐達はその黒塗りの機械を取り囲み、標準を定められないよう周りを旋回騎動していた。
「ソイツの爪にも気をつけろ!近づきすぎるな!一撃離脱だ!」
ドガァ!
ランスでむき出しの足関節を狙う。
ロイ「やったか?!」
ブゥン!
「ぎゃぁ!」
機械の爪が騎士を襲う。馬ごと両断する威力も驚くが、関節を攻撃したのに、その機械は少し、動きがぎこちなくなっただけで、前進を止めなかった。
「コイツはオスカー方面を目指してます!」
「今さっきの砲撃で町を焼き払う気だ!」
「大佐!」
ロイ「ここで食い止めろ!一騎、オスカーに知らせを!」
「わかりました!」
ゴチン
機械から何かが回転した音がする。
ゾク。
何かを感じ取ったロイ大佐は部下の騎士達に叫んだ。
ロイ「!退避!」
カッ
ドォォン!
機械は腹の砲身を地面に向けると雷撃が周囲を駆けていた騎士たちを襲った。
バチィ!バチバチ……ッ!
近くでランスを構えていた騎士が瞬く間に馬ごと炭化する。
ロイ「ぐわぁ!」
そこにいた騎士全員が馬をやられて落馬した。すぐさま顔を上げ立ち上がった騎士の頭めがけて機械の爪が襲いかかる。
ドシィン!
ロイ「伏せてろ!」
ドッドッコロコロ……
「ひぃぃ!」
生き残った数名はその場に伏せた。伏せてても次の雷撃が来るかもしれない。騎士達は生きた心地がしなかった。
ロイ『こんなのに生身の人間がかなう訳無い!魔女や魔法でなければ!』
しかし、機械はオスカーに向けて歩き始めた。その場に伏せていた騎士たちを無視して……。
ガション。ガション……
ダチョウのような足をぎこちなく前に進める。
この機械の挙動を見てロイ大佐は瞬時に分析した。
ロイ『動かなければ攻撃してこない。そして、強力な一撃を食らわせたら多少なりとも破壊は可能。何とか、アミナス様にお伝えせねば!』
騎士団詰所に騎士が敵襲と叫びながら、転がり込むようにして駆け込んで来たので、僕やオルガ姉達は驚いて表に出た。
オルガ「先に出るよ!」
ネブリナ「待ちな!オルガ、私も乗せろ!」
オルガ姉がネブリナを自分の後ろに乗せて駆け出した。
その右手には方天画戟が握られている。
僕の腕に知らせに来た若い騎士がすがる。
「砲の一撃で建設中だったところが消し飛びました!アレは機械です!物理が効くのかどうか、わかりません!」
僕も馬にまたがる。
アミナス「オルガ姉!待って!」
ダリア「アミナス様!私も!」
アミナス「ダリア行くよ!つかまった?」
ダリア「はい。」
ムニュ
ダリアは僕の背中に抱きついている。
これから死地に向かう不安と、
愛する人と一緒と言う安心感と、
それらを絶対守らなきゃと言う使命感を胸に僕は馬を走らせた。
オルガ「見えた!アレだ!」
首のないダチョウのような、黒い塊がオスカーに向けて進撃しているのが見えた。
ネブリナを降ろすとオルガは方天画戟を片手に突貫した。
オルガ「てやぁ!」
ガッ!
オルガ「っ」
ビィィィィ……ン
後ろからの渾身の一撃だったが機械はびくともしなかった。熱い装甲に阻まれ方天画戟は衝撃にいなないている。
ウィィィ……ン
その衝撃に反応して機械はオルガに向き直った。
ガショガショ
機械が爪を振り回す。
ビュウン!
ガチィン!
オルガ「嘘だろ!?」
爪を受けた方天画戟が切り飛ばされる。
方天画戟の切っ先は宙を回転しながら地面に刺さった。
同時に霧が立ち込める。
ネブリナ「くらいな!」
バチィン!
霧を伝うように機械に雷が落ちる。
ブスブス……
鉄とゴム類の焦げた匂いが霧とともに立ち込める。
オルガ「やったか?!」
ネブリナ「今のうちに距離を取れ!」
そこへロイ大佐達も駆けつけた。
ロイ「ソイツは接近すると爪で攻撃してくる距離を取れ!オルガ下馬しろ!早く!」
ゴチン
機械の内部から鈍い音が響く。馬から降りたオルガが機械から離れる。
ヴヴヴ……
「大佐!砲です!」
ロイ「みんな!ふせー」
ドバッ!
極太の水の柱が騎士たちを襲う。
水圧で瞬時に体がバラバラになり、大地を深々と削り飛ばした。
ロイ「!」
至近弾を受けロイ大佐は吹き飛ばされた。
オルガ「大佐ー!」
オルガはロイ大佐に駆け寄り抱きかかえた。その体の右側はボロボロにひしゃげている。
機械「ソンモウ、ケイビ。プログラム、ゾッコウ。」
ネブリナ「クソッ対魔法防壁か!?ドルガのやつめ!」
ネブリナが魔法で機械を攻撃する。
が、炎も雷も通用しない。機械はオスカーの目前まで迫っていた。
僕はネブリナに状況を聞いた。ネブリナが息を切らしてるところなど初めて見ることだった。
ネブリナ「魔法が効かない!私らじゃ無理そうだ!」
アミナス「ようし!ソレなら風刃!」
露出したコード類を切ろうと隙間をねらうも、直前で魔法の風刃が掻き消える。
アミナス「ほんとだダメだ!」
ネブリナ「言っただろ?!」
機械「キタイ、チェック。ザンダン、2。ホキュウ、ヨウセイ。」
機械か立ち止まる。
僕の後から弓騎兵が掛けてくる。その中にはオルガの乗っていた馬に乗ったダリアも居た。
「足を止めた!コード類、計器を狙え!」
ビシュ!
ビシュ!
爪も届かない。砲でも狙えないよう機械の周りを駆ける。
「大佐が言われた!我らでこいつを仕留めろ!」
「後がないぞ!」
「オスカーをやらせるな!」
矢でコードが切れる。
「やった!」
機械「タイ、ショック。」
機械の後ろの蓋が開き、中の筒から全方位に光る粒子が散布される。
騎兵たちはその不思議な光景に目を奪われた。
「なんだコレ?」
ダリア「!」
ネブリナ「ヤバイ!アミナス!」
アミナス「え?!」
ネブリナに庇われ、咄嗟に目を瞑る。
ズドォォォン!
機械の周り一帯が光りに包まれ大爆発を起こす。
機械「プログラム、ゾッコウ。」
しかし、あの大爆発で僕たちは無事だった。
ネブリナ「なんで?!」
アミナス「僕に言われても……。」
機械の向こうにいた騎士たちも無事だった。
ネブリナ「どうなってるんだ?」
騎士の中からダリアが機械の前に出てくる。その顔は何か違った。怒った顔?とも違うような?
ダリア「娘の大事な人になにかあったらどうするの!?このデグ人形!」
娘?
ダリアのしていたペンダントが消える。三日月に猫をあしらったペンダントが消える。
機械「ビィィィ!ガガガッ」
プッシュー
機械は大きな音を立てて擱座した。中から何やら煙を吐いている。
騎兵たちも何が何だかわからず、一人が弓を機械に放つ。
コォン!
機械は動かない。何も言葉を発せず、その場から動かなくなった。その場にいた騎士たちは互いに顔を見合わせ首を傾げた。
「やったのか?」
「さあ?」
ネブリナ「……あり得ない。」
未だに僕に覆いかぶさるネブリナはダリアを見据えながら続ける。その顔は驚愕に歪んでいた。
ネブリナ「戦略魔法、辺津鏡だ……。」