ホームレス公爵
鉱山の採掘従業員を募るにあたりアントルイス、オスカー、首都のセントローゼに求人の、張り紙をして回る。
アミナス「悪いね、オルガ姉。手伝ってもらって。」
オルガ「いいのさ、実家に顔見せとこの前の戦の報告もあったからね。」
大きな胸を張ったオルガ姉は戦勝記念の口上を高らかに、自慢げに述べた。
オルガ「ラウトの鬼神、方天画戟のオルガ•サングリエが見事、アントルイスとその領主リヴィエール公爵を守った!ってね!」
なるほど。
騎兵ならではの価値基準だ。
僕にはこれが始まりでしかないと思えてならない。今後は、カウテース側も対策をねってくるだろうから。
アミナス『けど、まぁ、オルガ姉が嬉しそうにしてるんだから思ったことは口にチャックだ。』
風の魔法、鬼神オルガ、伏兵、ブラフの松明=アントルイスに大軍勢が駐屯している。対策するとしたらこのあたりか?
オルガ「にしても、求人出すのも大変だなぁ。」
アミナス「この前みたいに外注かけてたら、お金かかるし、自分らでやれることは、やらないと。」
オルガ「お、次、あそこの食堂に貼らせてもらおうぜ?」
アミナス「よし!行こう、行こう!」
昔も、オルガ姉とこんなふうに街を走り回ってたなぁ。懐かしい。
結構、求人貼りを頑張って、屋敷に帰ってきたのは深夜だった。
アミナス「御者もできるんだね?オルガ姉は。」
オルガ「馬を扱うのは慣れてるからな!」
アレ?そう言えば、オルガ姉は今日やけに男言葉だったな?
玄関を開け屋敷に入ると大きなお山にぶつかった。
ボヨン!
アミナス「うぶっ!」
ネブリナ「アンタ、今何時だと思ってるんだい?」
鬼の形相で仁王立ちして待っていた押しかけ女房のネブリナの後ろからダリアがこちらを覗いて怒っている。
ダリア「朝帰りするんじゃないかって心配しました!」
えぇ?!しないし!
オルガ「大丈夫さ!アミナスにそんな度胸無いよ!」
グサッ
うぐ、そこまで言わなくても。
アミナス「僕だってこんな男みたいなオルガ姉と朝帰りできるわけないよ!」
ネブリナ&ダリア「あ。」
……え?一瞬、空気が変わる。
オルガ「そ、そうだよな!アハハハハ!」
その空気を吹き消そうとオルガ姉は気丈に振る舞った。
オルガ「よーし、ネブリナ。厨房行こうぜ!」
ネブリナ「いいね!ワインでも開けよう!」
固まってる僕を置いて、2人は屋敷の奥へと消えていった。
ダリア「アミナス様?お風呂どうぞ。その後でお話したいことが……」
アミナス「う、うん。わかった。」
応接室
アミナス「地下水からマナ?」
ダリア「私もよくわからないですが、試飲されたネブリナさんが言うにはそうらしいです。」
応接室のソファに座り、風呂上がりの水をタオルで拭く僕の前にボトルに入った水が差し出される。
アミナス「見た目、何の変哲もない水だけどなぁ。」
ゴク。
アミナス「あ、確かに。なんか違うね。」
ダリア「疲れが消える感じですか?」
アミナス「うん、そう。今日一日歩きっぱなしだったから足がパンパンだったんだ。それがスゥッとなくなる感じ?」
ダリア「ほうほう、じゃぁ、明日、炭鉱掘削従業員の方にも配布してみます!」
アミナス「なんか売れそうだね、コレ。」
ダリア「うふふ!」
そうなれば、その売り上げで少しは借金の減るスピードが上がるかもしれない。
まとまった数の従業員が集まり、いよいよ鉱山開発が始まった。王宮にも知らせて正式に鉄鉱販売を認めてもらう。
僕は自室で書類に署名して、執事に頼んでそれを郵便屋に持っていってもらう。
そこから、セントローゼの役人に渡って国王のハンコをもらって……
アミナス『こんな田舎まで中央の役人なんて来ないか。その分タイムラグがあるけど掘り始めてもらおう。』
…………
アレ以来オルガ姉とは口をきいていない。
なんだかさみしい。
けど、オルガ姉も悪い。人に度胸がないとか。
アミナス「そうだ。違う魔法も使えるようになろう。そしたら度胸がないなんて言われない、はず。」
ちょっと、ズレてる気もするが、そうしよう。
そうと決まれば、ネブリナに魔法の本でも貸してもらおう。そう思って僕は部屋を出た。
アミナス&オルガ「あ。」
そこにはちょうど、朝風呂から上がってきたオルガ姉がいた。いつもと違って髪を下ろしているせいか女性っぽかった。
オルガ「…………」
アミナス「オルガ姉!」
オルガ「なによ?」
オルガ姉は部屋に入ろうとして止まってくれたが、こっちは向いてくれない。
アミナス「ソッチのほうが似合ってるよ。髪型。」
スー、ハーー!
大きなため息をついたオルガ姉はようやく、こっちを向いた。
オルガ「そう?じゃぁ、リーゼントやめようかな?」
アミナス「うん!そうしなよ!そっちが可愛いよ!」
コン
アミナス「いて!」
オルガ「綺麗でしょ?」
二人して笑い合うのは久しぶりだ。なんだか胸の凝りが取れてスッキリした。オルガ姉とはずっと仲良しでいたい。
そう、ずーっと。
それから一ヶ月後、
鉱山の採掘が進み、いよいよ初期生産された鉄鉱を首都で業者に買い取ってもらう時期になった。
アミナス「は?こんだけ?」
業者「その金額が嫌なら、よそに行けばいい。鉄の産出がない隣国ならここの相場よりかは高いと思うよ?」
提示された買取価格は予想してた金額より丸が一つ足りなかった。
隣国まで持っていこうにも、そこまでの輸送コストと考えたら、多分ここで買い取ってもらう方が高い。
アミナス「ここが一番高く買い取ってくれるっていうことだったから持ってきたんですよ!?」
業者「そうだよ!アンタしつこいね?売るの?売らないの?」
うぐぐ、コレじゃ、生産するだけ赤字じゃないか。
今月末には給料日だってのに。参った。
僕は事務作業部屋で従業員達の給料や税金の計算をしながら頭を抱えた。
どうやっても足らない。借金の返済も考えたらどうしようもない。
事務作業を手伝ってくれている、ネブリナとダリアに僕は重い口を開いた。
一縷の望みを託して。
アミナス「……そういえば、地下水の売上は出てる?」
ダリア「はい。一応。」
一応?なんか期待薄かも……
ネブリナ「あんまり売り上げが伸びないのさ。」
ダリア「宿場町のオスカーと穀倉地帯の街セラに卸してますけど。輸送コストとかでトントンです。」
あー、もっと開発コストをかけるべきだったかなぁ?
戦争で死ぬより先に借金で首吊ることになりそうだ。
アミナス「あー、給料待ってもらうことできないかなぁ?」
ネブリナ「何のんきなこと言ってんだい。しっかりおしよ!」
苦肉の策で現物支給をしてみたが、予想通り従業員達のストライキが起こり、村は連日のデモや暴動で騎士団も巻き込む騒動となった。
ロイ「困りますな、リヴィエール公。騎士が出動する回数を増やされては。」
うん。大佐の防衛強化案実現のために頑張ってるんだけどね。
僕は暴動の原因ということで騎士団の取調室に呼ばれた。
アミナス「も、申し訳ありません。」
王族である公爵家のものが取調室、前代未聞のことではなかろうか?
オルガ「なんとかなんないの?アミナス?」
髪を下ろしたまんまのオルガ姉が僕の肩をポンと叩く。
部屋の隅には血のついた警棒が立てかけられていた。
慣れない鎮圧に出動したオルガ姉もなんだかお疲れ気味だ。
アミナス「鉄鉱販売がこうも安いとは思いもよらなかったよ。」
ロイ「ソレなら製鉄してから売ればよろしいのでは?」
今からかぁ、
アミナス「製鉄所、見学に行こうかな?」
オルガ「その前に従業員への給料だよ。」
僕は決断をした。
ダリア「私たちのおうちなくなっちゃいましたね……」
ごめんよ。
僕はいたたまれなくなった。競売に出され差し押さえの紙が張られた屋敷の玄関をぼうぜんと眺めた。
ネブリナ「これからどうすんのさ。」
オルガ「しばらく騎士団の詰所でお世話になれるように私から大佐に掛け合うよ。」
宿屋でマンスリー契約かと思っていたのでオルガ姉の申し出に僕はうれし涙を流した。
アミナス『僕の13歳、過酷すぎやしませんか?!神様!』
騎士団詰所
ロイ「まぁ、私もリヴィエール公にご苦労をかける者でもありますし、わかりました。三部屋お使いください。」
アミナス「ありがとうございます!大佐!」
ロイ「明日、一緒に首都に行きましょう。リヴィエール公。」
何しに?
ロイ「私が金を借ります。リヴィエール公は連帯保証人としてついてきてください。その金で小さくてもいいから製鉄所を作りましょう。」
アミナス「ありがとうございます!」
すげー助かる。しかし、多重債務者には変わりない。
僕は首の皮一枚で助かったが、尚も、つま先立ちしながら綱渡りをしてる気分だった。