決戦!アーハンソーの戦い
王宮会議室
アミナス「議長どうぞ。」
アルメア「では、今後の左大臣勢力の予想される動きについて話していきたいと思います。」
ヒソヒソ
ザワザワ
オルガ「そこ!議長になんか文句でもあるのか!?」
10歳の少女のアルメアが壇上にあって、軍議に集まった将兵たちの一部にはそれを面白く思わないものもいた。
アミナス『まぁ、予想はしてたけど、反発してるやつは案外多いな。僕も10代の若造だし、中堅連中は裏でどう思ってるのやら。』
書紀のダリアが続きを促した。
アルメアは壇上から降りて会議室中央の立体地図のコマを動かしながら説明を続けた。
アルメア「現状、左大臣勢力の経済力は穀倉地帯セラを中心とした軍事経済、領内交易に頼っています。」
ルドハネ公「しかり、南領には大きな港湾がなく、隣国へ続く陸路も細く険しい。生産物は領内で回すしかありますまい。」
娘の晴れ舞台だからとコーラス領から馳せ参じたルドハネ公が付け加える。
公爵家の威厳を持って反発勢力を黙らせにかかっている。
政略結婚に出した娘とは言え末娘、かわいくないわけがなかった。
アルメア「なので、左大臣勢力はどうやっても港湾都市オヴェストを手にしたい。外と領内の生産物を交易したい。そして、鉄器も手にしたい。」
ヴェイン「初手で鉱山のあるアントルイスを攻めに来たのだから相違はありますまい。」
オルガ「うん。」
アルメア「ですので、アントルイスの魔導兵器を避けるであろう左大臣勢力は、ここアーハンソーを攻撃してくるはずです。」
アルメアは指揮棒でアーハンソーを指し示した。
それを見て、会議室の後ろで座っていた将兵が手を挙げて質問する。
「議長。セントローゼには来ない理由は何でしょう?」
アミナス「セントローゼに至るにはセラから直で続く街道は無いし、どうやってもアーハンソーかアントルイスを経由しないと。」
僕はアルメアを守ろうとして、焼き付け刃の知識で割って入った。
後に、それは要らぬお節介だったと思い知らされるのだが……
「平野部を通って首都を攻める可能性は0ではありますまい。」
アルメア「大軍勢が集まる首都に攻め込むのは自殺行為でしょう。
平野部と言っても開発のされてない荒地、原野が広がってます。そこを大軍で進軍するとなると足が遅くなる。
ここに着くころには我々は万全の態勢で臨むことができます。」
うーむ。
将兵からアルメアの頭脳に舌を巻くものが出てきた。言い負かそうとしたが、彼女が練る構想は十分な裏付けに基づくものだった。
アミナス『ほんと、10歳のお嬢様か?』
まぁ、戦史、戦記物が好きで、
騎士団詰所には交戦記録を見に行くし、
虫取り網で森の中を一人で入っていく姿を知ってる身からすれば、当然のことかと思えなくもなかった。
ヴェイン「では、アーハンソーの守りを固めるのですか?」
アルメア「いいえ、逆です。手薄にします。」
ザワザワザワザワ……
アミナス「静粛に、アルメア?それはなぜ?」
アルメア「左大臣はまだ兵力を温存しています。南領に侵攻するにも、和平を結ぶにも、もう一撃加えないといけない。」
オルガ「アーハンソーで釣るのか。」
ルドハネ公「あえて攻め込まして兵力を削るのですな。」
ヴェイン「危険なのでは?」
アルメア「アーハンソーを攻めるとなるとセラからは3日の距離です。その分、補給拠点を設ける必要が出てくる。その補給路を遮断し再起不能な一撃を加えます。」
アミナス「こちらはアーハンソーから離れていない。」
オルガ「インファイトすることになるから補給路の確保は容易ってわけか。」
コトッ
アルメアの小さい手でアーハンソーの地に青い凸が置かれる。
アルメア「アーハンソーは工業都市ですから防御は硬い。気取られぬよう一万ほどの駐留軍をおき、敵の大軍を招き入れてやりましょう。」
アルメアの大胆な戦略構想に金髪に戻った後も髪は下ろしたままのオルガ姉が付け加える。
オルガ「アーハンソーの守りにはヴェインが付け。」
ヴェイン「拙者でござるか?」
オルガ「客将上がりのどこの馬の骨やも知れぬ新参者が守っているとなると相手も攻めやすかろうしな。」
ヴェイン「なるほど。分かり申した。その大役、このヴェインにお任せください!」
かくして、アーハンソーの南の街道に沿って左大臣の大軍が押し寄せてきた。
ヴェイン「思惑通りか、さすがだ。」
「報告!敵は10万!我が方の10倍です!」
ヴェイン「首都からの援軍は。」
「まもなく到着の模様!」
「報告!敵は一万で西の砦を包囲してます!」
左大臣の大軍を察知して築いていた東と西の砦。アルメアの当初の指示通り西の方の建設をあえて遅らせていたが、
ヴェイン「まさかこうも、引っかかるとは……出陣する!」
ヴェインは騎兵隊数百だけを連れて西の砦に急行した。
ドドドドド……!
ヴェイン「鋒矢陣形!狙うは敵将のみ!」
敵将「お?!」
ドシーン!
ヴェインの青龍偃月刀が西の砦を取り囲んでいた敵将の首を綺麗に飛ばす。
ヴェイン「雑魚に構うな!撤収する!」
雷光のごとくいきなり武功を挙げたヴェインはすぐにそのばを離れアーハンソーに戻った。
「報告!東の砦に援軍!」
ヴェイン「旗印は!」
「サングリエ!オルガ将軍のものです!」
ヴェイン「おお!オルガ殿か、心強い!」
出鼻をくじかれた左大臣の軍はその後のアミナス国王軍の援軍の到着で睨み合いを始めた。
左大臣「穴はどのくらい掘れた?!」
「まだアーハンソーまで数キロあります。」
「こちらが兵の数では勝っています!一気呵成に押しましょう!」
「いや!アーハンソーは硬い!包囲持久戦がよろしいかと!」
「このまま穴を掘り進めるのがよかろう!?」
左大臣陣営の将校の意見は分かれていた。左大臣にはどれも決定打に欠けるような気がした。
アミナス国王軍の援軍が到着した今、容易に軍を動かすのはリスクを伴った。
左大臣『初手でアーハンソーを囲めばよかったか?西の砦につられてしまった。』
その時、若い将が手を挙げて進言した。
「使者を送り和平を結ぶフリをして、ここは撤退しましょう。」
左大臣「貴様!臆病風に吹かれおって!」
ビシッ!
皆の前で指揮棒で顔を打ちのめされ地面に伏せる将。
「し、失言でした、お許しを……」
「女子供の軍になめられていては世紀の笑いもの!ここは攻めるべきです!」
左大臣「うーん。」
アーハンソー東の砦
オルガ「不安だからってついてくるなよ。アミナスは今は国王なんだぞ?」
アミナス「この時のためにネブリナにお願いして影武者を用意してもらったんだ。2〜3日はバレないよ。」
僕は猫亜人のコルボを伴ってオルガ姉についてきた。そのコルボに指示を出す。
アミナス「コルボたー。」
コルボ「わかってるって、兵糧庫だろ?探してきてやるよ!」
僕が言い切る前にコルボが遮って話し出す。コルボは自身がここにつれてこられた理由をわかっていた。
けど、
アミナス「敵中深くに潜る潜入作戦だ、危険だけどやってくれる?」
コルボ「任せろよ、私はプロだぞ?」
「報告!敵の大軍がこちらに向けて進軍中!」
オルガ「規模は!?」
「およそ半数!」
オルガ「籠城戦!礫をかき集めろ!」
アミナス「僕も屋上に行くよ!」
ガッポ!
オルガ姉にフルフェイスの兜を被せられる。
オルガ「顔をあんまり出すなよ?」
アミナス「うん!」
アミナス「風刃!」
敵の矢を無力化して、押し寄せる軍勢を退ける。
味方の死体を盾にして敵がはしごを登ってくる。
アミナス「木杭!」
ブゾゾゾ!
死体ごと敵に大穴を穿つ。
「うわ!」
はしごを登りきった敵兵に味方の弓兵が驚いて尻餅をつく。
アミナス「散弾!」
ドバッ!
剣を振りかざしていた敵をミンチにする。
「こっちには魔法使い様がおられる!」
「我らは神の軍!この程度の数!」
いや、そんなに持たないですけど……
遠くに見えるアーハンソーから騎兵が飛び出ていく。
アミナス「ヴェインか?」
その時、砦の中からコルボが顔を出して腕で大きく丸を作った。
アミナス「よし!今だ!ディーネにホイールマンを出すように伝えてくれ!」
コルボ「それも、もう伝えてあるよ!」
ドッコォ!
アーハンソーの工場に続く道から勢いよく巨大な車輪が飛び出してくる。
ゴロゴロゴロゴロ……!
それを見た味方兵士から歓声が上がる。
「見ろ!あの車輪を!」
「女神様の戦車だ!女神様が味方についてるぞ!」
「逆賊どもを蹴散らせー!」
「勝てるぞ!この戦!」
砦の下にいた敵を車輪がものすごい速さで踏み潰していく。
アミナス『これを量産するのか、カウテースも怖くなくなるなー』
左大臣の軍は東の砦取り囲んでいた味方を支援する形で全軍を東に寄せた。
西ががら空きになったのを見たヴェインの騎兵隊がそこをつき、左大臣軍の兵糧庫を火計で燃やし尽くした。
軍を維持できなくなった左大臣は撤退をせざるえなくなった。
オルガ「我らの勝利だ!勝ち時を上げろ!」
アミナス国王軍は大歓声に包まれた!




