新しい生き方
王宮の食卓
妻達と朝食の席でネブリナから一つの細長い棒を渡される。その棒の中心には“判定”と“終了”のところに一筋の赤い線が入っていた。
アミナス「なにこれ?」
ネブリナ「妊娠検査キットだよ!」
アミナス「へー?だれの?」
ネブリナは顔を真っ赤にしている。
ネブリナ「わ、私のに決まってるだろ!?」
あ。
アミナス「やった!僕の子じゃん!」
アルメア「おめでとうございます!アミナス様!ネブリナ様!」
控えていたメイドたちも手を叩いて懐妊を喜んでいる。
そんな中、ダリアも自分のであろう妊娠検査キット(陽性)を恥ずかしそうに掲げる。
オルガ「ダリアも?!アミナス!やったな!」
執事「おめでとうございます!」
正妻ネブリナと本命ダリアの二人の魔女が懐妊とあって、その日から何週間かラウト王国は喜びに包まれた。
しかし、ラウトの南領を不法占拠している左大臣は不満だったようだ。
アミナス「最近、なんだか気分が優れないんだ。」
僕の部屋で家鳴りがし始め、息苦しく、肩が重い。悪夢もよく見るし……
けど、医者は精神的なものだろうと適当な処方を出す。
僕はティータイムでサロンに集まっていた妻達に上記について相談した。
アミナス「どう?」
オルガ「どうって言われてもなぁ?医者は何ともないって言ってんだろ?」
アミナス「そうなんだけどさぁ。」
少しお腹が膨らんできた二人の魔女が僕の顔色を見る。
ネブリナ「なんか、変なのがついてるんだわさ。」
ダリア「魔女学校で習わないやつですか?」
ネブリナ「見たことないねぇ?」
その様子を黙って観察していたアルメアが口を開いた。
アルメア「多分、それ東洋式の呪いです。」
一同「へぇ〜。」
アルメアは1枚の札を取り出した。
アルメア「これを自室の部屋のベッドに貼ってください。結界です。呪い返しは後で私が貼りに行きます。」
アミナス「つか、呪ってるの誰なのかわかる?」
オルガ「あの腐れ野郎に決まってんだろ?」
ダリア「あー、左大臣。」
ネブリナ「ヤロー、うちの旦那を!呪い返ししてやるさね!」
ダリア(ママ)「ぶちのめしてやる!」
アルメア「待ってください。勘付かれるとまずいので、ここは慎重に行きましょう。」
体調が元通りになったので、かねてよりディーネから新型の魔導兵器を見学に来いという要請に応えてアーハンソーの魔導兵器プラントに出向いた。
オオスズメバチを連れて……
アミナス「ダリア、ネブリナ見えてる?」
オオスズメバチ
「(ダリア)はい、一応。
(ネブリナ)まだ接続が弱いね。
(アルメア)水晶でも見れるようにする実験……
なんに使うんですか?
(ダリア)そりゃ、うー
(ネブリナ)あ!こら!言うな!
本人に聞かれる!」
…………浮気の監視か……
身重で浮気が心配な魔女達はさておき、
アルメアだけが視認できてた屍鬼神の視覚情報を他でも見れるようにできるようにする試みはいいかもしれない。
アミナス『今後の諜報活動とかで。』
ディーネ「あ、きたきた!お~い、こっちこっち!」
アルメアの屍鬼神のオオスズメバチを肩に乗せ、
蒸気の充満する入り組んだ配管の下を抜けると、巨大な車輪の前で赤毛に黄色い瞳の魔女がこちらに手を降っている。
アミナス「ディーネ。その車輪みたいなのが新型?未完成じゃん、脚がないよ?」
ディーネ「いいや?こいつはこれで完成なんだ。名付けてホイールマン。外輪と内輪の間に駆動系が詰まってて、それで自身を回転させながら動くんだ。」
へー、わからん。
ディーネ「人が轢かれたら一発でテゥン、テゥンするね?」
て?……即死ってことかな?
オオスズメバチ
「(ダリア)真ん中の骸骨、可愛くないです。
(アルメア)威嚇効果を狙ってじゃないですか?」
ディーネ「お嬢ちゃん、鋭いね!」
オオスズメバチ
「(ダリア)我らは聖女が率いる神の軍、
それは禍々しすぎます!
もっと神々しくないと。
(ネブリナ)だってさ?ディーネ作り直しだわさ。」
ディーネ「えぇー?!」
聖女にこだわってんなぁ……
まぁ、神の軍はいささか、仰々しい気もするが、国民感情とかを考慮すれば、神々しいが正解かな?
アミナス「というわけで、骸骨は却下で。」
ディーネ「まじかよー?作り直しー?」
その日、僕はオルガ姉とアルメアを伴ってアントルイスの世界樹跡地に山登りに来ていた。
アルメア「私はここで虫取りしてますね!」
虫取り網片手に、男装したアルメアは森の奥へと分け入っていった。
アミナス「あんまり、遠くに行っちゃダメだよー!」
アルメア「はーい!」
オルガ「ここらの危険な野生動物やゴブリンは騎士達が一掃したから大丈夫さ。」
方天画戟を手にオルガ姉は言う。
アミナス「それ、ほんとにいいの?」
オルガ「気にするなよ、アミナス。もう決めたことだ。それに、まだ正気でいられるうちにガイアエピタフなんてものは手放したい。
もうだいぶ感覚麻痺が進行してるからね?」
方天画戟を世界樹跡地に封印する、強大な力、ガイアエピタフも返す。オルガ姉の意思は固かった。
オルガ「私の代で家がなくなるのは、とは思ったけど、ネブリナやダリアが女性の喜びをかみしめてるのを見て決心がついた。
私はもう、騎士をやめる。女性として生きていく。」
アミナス「オルガ姉……」
オルガ「でも、他の有能な奥さん達の中で一人だけ無能なのも癪だからさ、アルメアにシキガミを教えてもらうんだ!」
なるほど、オルガ姉らしい。
転んでもタダじゃ起き上がらないところは見習わなくっちゃいけないな。
世界樹跡地の湖の畔に着く。
ドワーフ達には悪いけど。
とオルガ姉は前置きしてから方天画戟を投げやりのように構えた。
オルガ「さらばだ!サングリエ!ガイアエピタフ!」
ブオン!
バッシャァ!
方天画戟が堆積していた泥を巻き上げて湖底に突き刺さる。すると、黒かった髪の毛は元の金髪に戻っていった。
オルガ「やった!左手の甲の入れ墨もなくなった!感覚麻痺はそのままだけど、ガイアエピタフをちゃんと返せたんだ!」
永年の憑き物が取れたかのような笑顔のオルガ姉の頬に水しぶきを受けたのか、一筋の水が光っていた。
アントルイスから帰る途中、一人のボロをまとった男に呼び止められた。元は筋肉隆々だったであろう体は痩せ細っていた。
ヴェイン「リヴィエール公。お久しゅうございます、ヴェインです。」
アミナス「ヴェイン!生きてたんだね!」
オルガ「お前、アントルイスの戦いで作戦行動中行方不明で死亡扱いされてたよ。」
ヴェイン「トロンベルト兄とボラールは見つけて埋めてやりました。拙者も後を追おうと森を彷徨いましたが、ついに死ぬことができませんでした!」
僕の前で両膝をつきヴェインは嗚咽混じりで悔しい心境を吐露した。無能と臆病者と笑ってくれと天を仰いで叫んでいる。
アミナス「その命、無駄にしちゃいけない。もう一度、立って僕に仕えてくれないか?」
ヴェイン「ぐぅぅ、かたじけない……。」
その言葉に感じ入ったのか、ヴェインは号泣している。
オルガ「そうだ!こいつの武器も作り直してもらおう!」
ヴェイン「拙者の偃月刀でござるか?」
たたら場
アミナス「フォル爺いるー?」
「誰がジジイだ!」
誰かわからんが、シワの深いヒゲの爺さんにしか見えないよ?ドワーフは。
ポフ
赤い帽子をかぶった個体がようやくフォルジュ6のリーダーのレッドだとわかった。
レッド「なんだよ珍しい。そっちのデケーやつは?」
「知らないやつを連れてくるなよ!」
「そうでおじゃる!」
ヴェイン「拙者ヴェインと申す。ここに名工がおられると聞いて参上いたした。」
名工と聞いてドワーフ達は満更でもないのか笑いあっている。
オルガ「こいつの武器を作り直してやってくれないか?」
「ほう?で、どんな武器じゃ?」
ヴェイン「拙者の得物は偃月刀にござる。」
「いいねぇ、面白そうだ!」
「ディーネに取られないように隠しといたアダマンタイトがあったな!?あれで作ろうぞ!」
ヴェイン「お願い致しまする!」
僕とオルガ姉はすんなり話が通って安堵し互いに笑い合った。
ヴェイン「何から何までありがとうございますリヴィエール公!拙者、先に散っていった兄弟たちのためにも、その期待に応えてみせまする!」
あー、もう国王だけど、堅っ苦しくなるから今度でいいや。
かくして、
魔女達のお腹はすくすくと大きくなり、
オルガ姉は家の執着を捨て、
屍鬼神の視覚情報を共有できるようになり、
ヴェインはアダマンタイトでできた新しい武器、青龍偃月刀を授かった。
骸骨を女神に取り替えた運命の輪は回り続けるのだった。最後の戦いに向けて……




